居住に関わる新たなセーフティネット政策の考え方 1.住宅政策と

居住に関する新たなセーフティネット政策の考え方」小林秀樹講演
議事録
2012 年 8 月 6 日
2012 年 7 月 27 日
第1回議員と市民の勉強会
もうひとつの住まい方推進協議会
居住に関わる新たなセーフティネット政策の考え方
2012 年 7 月 27 日(金)13~14:30
参議院議員会館会議室
■講演;小林秀樹
住宅政策の変遷と今日の課題―居住に関する新たなセーフティネット政策の考え方―
1.住宅政策とセーフティネットの関わりの変遷―今日に至る経緯を概観―
■住宅政策の 3 本柱は、1950 年代に成立
最初に、現在のセーフティネットの問題を考えるには、これまでの経緯を理解することが有効である。
戦後の住宅政策について説明する。
住宅政策はもともと次の 3 本柱を中心にすすめられてきた。
①公営住宅→Ⅰ種、Ⅱ種があり、Ⅱ種が一番低所得者
②住宅公団→主に、大都市の中流階級向け
③住宅金融公庫→中高所得者向けの持ち家支援
それぞれ対象とする所得階層で大体の位置づけがなされてきた。これが旧住宅政策だった。このなか
で、セーフティネット政策に一番近いのが公営住宅なので、その経緯をたどる。
■公営住宅政策―先導役と福祉の混在
公営住宅は 1951 年に法律ができる。このとき建設省系が出した法案と厚生省系が出した法案の2つが
あった。建設省案は
主に住宅の近代化の先導役となるアパートの推進を目的としたものだった。厚生
省案は低所得者向けの福祉住宅という位置づけをもった。目的の違う2つがの法案が出てきたために、
これを合体して、建設省所管となったのが1951年の公営住宅法だ。仲介の労をとったのが田中角栄
といわれている。しかし、これはよくみると矛盾している。公営住宅は、先導役と福祉という本来目標
が違うものが混在することになった。
近代化への先導役であればいいものをつくるのでコストが高くつく。参考までに、住宅の近代化の先
導役の例は、同潤会アパートという関東大震災後につくられた高級アパートや都営高輪アパートがある。
都営住宅として、都市の不燃化を進める、あるいは住宅の近代化をすすめるために、国が主導で公営住
宅をつくった。
一方で、厚生省は生活保護の中に住宅扶助を提供する制度を 1950 年に定めたことで、公営住宅と住宅
扶助の2本立てのセーフティネットをすすめることとなった。厚生省が目指す福祉住宅は低所得者向け
で、主にスラム改良の住宅で木造長屋をつくった。江東区など一部で、3階建てのアパートも建てられ
た。公営住宅のⅡ種は、困窮者対策、生活保護ボーダー層といって、生活保護の住宅扶助より少し上の
階層を対象としたものである。
■公共主導の住宅供給から民間主導へ
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2012 年 8 月 6 日
1955 年から 1975 年の高度成長期には、住宅公団、公営住宅の団地が大量に建てられ、住宅供給は公
共が主導してきたが、1975 年以降になると、主に民間主導に変化してきた。参考までに、それを理論的
に証明したものとして、鉄筋コンクリート住宅と木造住宅の建築費の推移を示す。住宅の不燃化、近代
化とは主に鉄筋コンクリート建築の推進で、これが指標になる。
同潤会アパートの時代は、鉄筋コンクリートの建築費は木造住宅の 3.6 倍もした。第二次世界大戦後、
2 倍に縮まるが、鉄筋コンクリートアパートが下がったのではなく、戦争中に木をたくさん伐ったので木
造建築費が上がったためだ。鉄筋コンクリートのアパートをつくると木造一戸建てよりも 2 倍高い時代
が続く。その後、1960 年を過ぎたころから鉄筋コンクリートアパートが普及し、技術革新が進んだおか
げで建築費の比率が下がってきて、1.5 倍になるのが 1970 年ごろ。土地の値段が上がっていった時代で、
鉄筋コンクリートアパートをつくったほうが一戸建てより安くなる時代になった。これ以降、住宅供給
は民間主導に転換していった。1975 年前後に、鉄筋コンクリートアパートを公共が主導してつくるとい
う役割はおおむね終わった。
■先導役と福祉の矛盾の顕在化―公営住宅法の大改正
1975 年以降、先導役としての意義が薄れ、公営住宅は収入分位 33%以下と低所得者に限定されるよう
になった。1980 年の改正では、高齢者、障害者、生活保護者に限り単身者入居ができるようにした。
一方、地方の公営住宅では、1975 年以降も、各地域の地域らしさを表現した住宅をつくるという目的
で公営住宅Ⅰ種を対象に地域に相応しいコンクリートアパートを定着させ、公営住宅の先導役の役割を
維持した。
しかし 1990 年代になって、先導役と福祉が混在する矛盾が限界に達した。バブル期で土地が高騰し、
中所得者の住宅取得が困難になり、公営住宅に批判が集まる。低所得者向けなのに質のいい住宅をつく
るのかという指摘である。とくに収入超過者の存在と子ども世帯に事実上相続されることが批判のまと
になった。これに対して最初に取り組まれたことが、公営住宅改革ではなく、中所得者向けの特定優良
賃貸住宅制度(1993 年創設)であった。民間賃貸住宅を借り上げて家賃補助を行うというもので、東京
都は都民住宅として展開した。
いずれにせよ、低所得者が安価で良質な住宅に住むという、先導役と福祉の矛盾が限界に達して、こ
れ以上もたないとなった結果として、公営住宅法の抜本改正が求められ、1996 年に大改正された。それ
以降、世田谷区営の環境共生住宅(1997 年竣工)を最後として、先導役としての公営住宅建設はほぼ終
了した。
■公営住宅法大改正と影響
主な改正のポイントは 3 つだ。
①Ⅰ種とⅡ種を廃止し、
「応能応益」家賃制度を導入
応能は収入に応じて家賃を決めること、応益は立地に応じて家賃を変えることだ。同時に、本来階層
は所得 33%以下を 25%以下に下げた一方で、裁量階層をつくって高齢者や障害者などは収入 40%まで
認められた。
②福祉政策との連携の強化
建て替え時に高齢者在宅サービス施設などを積極的にいれる、グループホームなどへの転用に柔軟に
対応する。
③民間賃貸住宅を借り上げた公営住宅の導入
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この大改正には、実は副作用があった。
1つは、応能応益家賃制度の転換により、自治体の家賃収入が大きく減少した。本来収入が高い人は
それだけ家賃を払うべきだという発想から始まったが、実態上は、収入の低い人が多いので、払う家賃
が激減した。この問題は指摘されたが、一度下げたものを上げられず、今に至る。
2つ目は、公営住宅は低所得者向けに限定した結果、福祉政策とくに生活保護政策と重複が目立つ。
整理が現時点でも整理できていない。
3つ目は、デフレ下での借り上げ制度のいきづまりだ。民間賃貸は家賃が下がっていくが、一度決め
た借り上げ家賃を公共は下げられない。その結果、家主の利益が過大になる。
これら副作用の問題は隠されており、表面的には 3 つの改正はよかったとされている。
公営住宅の入居者の収入分位では、戦後の住宅不足の中で 80%をカバーしたときから順次、引き下げ
られ、1980 年以降は 33%になり、この改正で本来階層は 25%以下に下げられた。その結果、公営住宅
はさらに低所得者向けに対象を限定された、住宅公団も、実態上は中所得者向けではなく低所得者向け
にシフトし、入居者の 60%が収入分位 25%以下となった。理由は、住宅公団は古い住宅は家賃を上げら
れないので、低い家賃のまま残る。かつ、入居のときは一定量収入がないと入居できないが、高齢化し
て年金生活になると収入が減るためだ。民間持家についても、度重なる景気対策でローンに対する優遇
措置がとられ、低所得者も持家を持つ政策に転換している。
2006 年現在で、公共住宅は約 344 万戸で、住宅総数の約 7%、全賃貸住宅(約 1717 万戸)の約 2 割
を占める。そのうち公営住宅が 219 万戸、URが 75 万戸となっている。
2.住宅政策と福祉政策の関係の再構築
■住宅政策の転換
90 年代からの住宅政策の転換は、理念的にはセーフティネット論に集約される。市場からおちこぼれ
る人に対して安全網を提供することが公共の役割という考え方である。これが公営住宅法大改正(1996
年)、住宅審議会答申(2000 年)、住生活基本法の制定(2006 年)とつながって、セーフティネット論が
定着した。これ自体は悪くないのだが、住宅政策は市場重視に転換したため、住宅の質向上はそれまで
公共が主導していたのに対し、民間住宅、つまり市場を通して質を向上することになり、2000 年に住宅
性能表示制度が導入された。
一方、公営住宅はセーフティネットを担うことになったが、高い応募率を下げるためにより所得の低
い人(収入分位 25%以下、かつ、より困窮者)に限定して提供することになった。これにより、ますま
すセーフティネットとして、公営住宅は生活保護制度と重複することになり、現在は再編が必要な段階
になっている。
■公営住宅と生活保護制度の再編
再編の考え方として2つの立場がある。
1つは、生活保護と公営住宅の違いを明確にして、別制度として維持する。
もう1つは、生活保護と公営住宅の相互連携を新しく組み立てる。
実は、1990 年代以前は、公営住宅制度と生活保護制度は全く関係しなくてかまわなかった。公営住宅
制度は必ずしも住宅困窮者向けだけが目的ではなかった。一方で、生活保護者は減り続けていたので、
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無関係に政策が組み立てられて問題なくきたが、90 年代から 2000 年代にかけてそうはいかなくなった
ということである。
生活保護制度と公営住宅制度の違いをもっともよく説明できるのは、資産があるかないかである。公
営住宅は、入居時に収入は審査するが資産は審査しない。しかし、個人の資産ついては公式の統計がな
い。ここでは、平成 20 年の住宅・土地統計調査から推計したのが図である。収入が分かる 4620 万世帯
について、横軸で無資産から高資産の分布で借家階層と持家階層に分けている。縦軸は所得で見ている。
借家に住んでいる人も、貯金がある人、ない人に分かれる。生活保護層は、借家階層かつ資産がない層
と位置づけられている。
図の借家階層で所得が 400 万円以下の部分が公営住宅階層。生活保護層と公営住宅層は収入は似てい
るが、資産の有無で事実上はずれているのが現状である。資産はある程度持っているが、所得の低い階
層、持家があるが国民年金しかもらっていない人たちは、これまで政策対象とされてこなかったが、本
来政策の対象にしなくてはいけないということで「要対策層」としている。この層を政策対象にすべき
だというのが提案である。
現在、公営住宅に入居している生活保護世帯は少なく、2009 年時点では 9.5%だ。その理由は、公営
住宅は資産を問うていないので、かなりの人が入居できるため、応募倍率が高くなる。公営住宅の新規
入居については、これまで同居家族がいることを優先してきたため、単身世帯が過半数(55%)を占め
る生活保護世帯は、公営住宅には入居しにくかったのである。その結果、公営住宅入居者は、生活保護
者よりワンランク上の家族を持つ世帯が中心になっている。この現状を受け入れ別制度として維持する
か、それとも見直すかは政策判断である。
■公営住宅と民間賃貸入居者の格差
現状の問題点としては、1つは借家階層における問題である。収入分位Ⅰ~Ⅱ(年収 400 万円以下)
の借家層は 2008 年時点で約 1060 万世帯。単身世帯が 540 万とやや多く、非単身世帯が 520 万である。
この人たちがどんなところに住んでいるのかを見ると、単身者のうち生活保護が 90 万世帯。公的住宅に
住んでいるのは 100 万世帯、残り 350 万世帯は一般住宅に住んでいる。非単身世帯では、生活保護が 30
万世帯。公的住宅は 240 万世帯。一般民間住宅は 250 万世帯が住んでいる。
ここで問題として注目したいのは、1つが単身世帯はどうするのか。もう1つが非単身の家族世帯で
民間賃貸住宅に住んで高い家賃を払っている 250 世帯をどうするか、である。250 万世帯のうち 3 人以
上で民間借家に住んでいるのは 52 万世帯だ。公的住宅に応募するが倍率が高くて入れないので、入居で
きた層とできなかった層の格差ができる。つまり、最低居住水準以上の公営住宅に安い家賃で入居し公
的支援受ける低所得層と、狭くて高い家賃の民間賃貸に自力で住む中・低所得層とで居住水準が逆転す
る。
これは、社会的公平性から見ると望ましくない。その是正方法としては2つあって、①公営住宅を今
のほぼ 2 倍つくり、希望者はすべて入居させる。②それは財政的に無理なので、民間賃貸住宅への公的
支援に切り替え、充実させていく。現在の政策の流れとしては、民間賃貸住宅の支援に舵を切ろうとし
ている。それを表明しているのが 2007 年制定の住宅セーフティネット法で、国交省と厚労省の共管によ
り民間賃貸住宅への支援を行う。民間の良質な賃貸住宅に整備費を助成し、高齢者・子育て世帯など向
けに供給する。また、収入分位 40%以下の居住者には家賃補助を行う。
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■セーフティネット論への地方からの批判
現状について 2 つ目の問題点は、一連の制度改正による福祉住宅化政策への疑問である。これは主に
地方からの意見で、公営住宅を福祉住宅化することについて、地方の実情を無視しているという批判で
ある。住宅セーフティネット論は、大都市を対象にしたものだいう意見だ。セーフティネットといって
も、地方では空き家もあるし、親族、地縁、血縁がカバーするので大きな問題ではない。地方自治体で
は公営住宅を多様な目的で活用している実態がある。たとえば、過疎対策で若者をよびこみたい、中心
市街地対策、産業振興(地元の木材をつかってモデルにしたいなど)
、高齢者の集合住宅などがある。収
入分位に関わらず、公営住宅を地域活性化にいかしたいので、収入分位 25%以下にしばられると困るこ
とになる。
これは、今年 4 月からの地方分権一括法の施行で、公営住宅について自治体の裁量拡大の
方向で改正され、収入分位は 50%まで拡大し、単身者も入居できるとしたことで、解決する道が開かれ
■住宅セーフティネット政策の考え方
これまでの住宅政策を理念から見ていくと、図のように政策で4つにわかれる。縦軸に競争の重視と
助け合いの重視という政策をおく。競争の重視とは、市場重視といわれる政策である。横軸は大きな政
府と小さな政府で、大きな政府は、さまざまな事柄に政府が介入するというものだ。
戦後の住宅政策が目標としてきたのは、大きな政府+助け合いの重視の分野で、官助重視ということ
で、公団や公庫などの政府系企業が住宅全体の引き上げを行っていた。一方で、高度成長期以前は、も
ともと共助主義、地縁血縁のなかで安心できる居住を確保してきた。高度成長期は、官業主義が全面化
し、政府系企業が中心となり住宅の近代化が進められた。
それに対して 1990 年代の改革は、大きな政府+競争重視の公共主義を目指した。市場競争を重視する
一方で落ちこぼれる人にセーフティネットを充実するという考え方で、公営住宅を重視するようになっ
た。しかし実際は、財政難で公営住宅が増やせず自助重視に行かざるを得なかった。その結果、小さな
政府+競争重視の官から民へという民業主義へと大きな政策転換の流れが出てくる。これが現在では格
差拡大、社会不安を拡大したことで疑問をもたれている。
■中程度の政府と共助の活用
住宅セーフティネット法は、公営住宅は住宅セーフティネットの中核として維持する一方で、民間賃
貸住宅を活用した準公的住宅を拡大するという内容で、中程度の政府を目指す理念に基づいていると考
えられる。ここで重要な点は、本来なら多くの低所得者に家賃補助をするという政策があるのだが、こ
れを一般化するには財政的に無理があることだ。そこで、ある特定の住宅に住んだ人だけに家賃補助を
する。つまり、地域優良賃貸住宅制度に指定された民間賃貸住宅に住む人だけに対して家賃補助を実施
する。幅広くセーフティネットに答えるのではなく、財政が許す限り一部に対して支援の手をさしのべ
るという考え方だから、中程度のセーフティネットとなる。
中程度の政府を目指すという方針は、完全な公共主義では財政がもたないので、民間賃貸住宅の一部
に支援の手をさしのべて、今の民業主義から少しでも公共主義に近づけようという理念である。しかし、
これだけでは量的不足は解決できない。量的不足の解決には、共助主義、新しい公共といわれる領域の
拡大が不可欠となる。方針としては、ここからは提案だが、公営住宅は質が高いので中所得者にも開放
して子育て世帯中心という政策目的を明確化にしていく方針へ転換する。一方で、民間 NPO の投入によ
るセーフティネット住宅を拡大する。これにより量的不足を補っていく。住宅の質そのものはやや劣る
が、安価でかつ共助による心の豊かさを実現できる。同時に空き家が増えているので活用すれば比較的
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安い予算でセーフティネットを拡大する余地がある。昔の地縁血縁による共助ではなく、NPOなどが
関与する新しい公共の考え方による住宅の供給が住宅政策でも主要なテーマになってくる。ここを再構
築しないと量的充足は無理と考える。
■空き家の活用
量的充足について、空き家の活用が有効である。空き家は 2008 年で 750 万戸あり、5 年間で 100 万戸
も増えている。これを活用しない手はない。ただし空き家のタイプ別で活用の可能性が異なる。たとえ
ば良質な民間賃貸住宅で空いているものが 300 万戸ある。住宅の供給過剰で空き家になっているもので、
公的住宅や若者のルームシェアなどに活用できる。老朽木賃などの低質な賃貸住宅は 100 万戸ぐらいあ
り、現在は貧困ビジネスの対象になっている。その他に持家の空き家があるが、所有者の事情により活
用が難しい。これは、社会貢献で提供してもらい居場所づくりなどに利用することもある。
空き家活用についての東京での事例では、木賃アパートを改装した自由と生存の家、戸建て住宅を改
装してホームレス支援をしているふるさとの会がある。また、公的支援とは無関係に、若者のシェアハ
ウスにするというケースはかなり広がっている。高齢者のグループホームやデイサービスなどの居場所
に活用する例も少なくない。
3.政策提案
■提案1;空き家活用によるセーフティネットの充実
以上をふまえると、空き家活用によるセーフティネットの充実ということで、①現在の公営住宅は半
数程度を中所得者に開放する。これにより家賃収入が増え、増えた分を住宅扶助に回す。②空き家を活
用して NPO によるセーフティネット住宅運営を支援し、住宅供給を増やす。そこでの課題は、貧困ビジ
ネスの区別で、いい貧困ビジネスと悪い貧困ビジネスがある。
公営住宅改革については、階層ミックスに向けた取り組みで、低所所得中心から、中所得層から生活
保護層まで多様な階層が住む階層ミックスの住宅へ転換することを提案したい。ただし、子育て世帯中
心という政策目的を表現することが望ましい。生活保護層および収入分位 25%以下の世帯に市場家賃の
80%を適用し、子育て世帯には家賃補助を行う。階層ミックスは、入れ替えがすぐには不可能なので、
まずは新規のモデル事業から実施していく。空き家活用による NPO 等によるセーフティネット住宅を拡
大の財源としては、公営住宅における市場家賃8割住宅の家賃収入をあてる。
じつは、この制度を適用したら自治体の財政はどうなるのか研究している。結論は、政令指定都市以
上であれば、市場家賃 8 割にすれば家賃収入がけっこう入ってくる。それによってNPO 支援してもつ
りあう。地方都市であると市場家賃そのものが安いので、あまり増えない。逆にいうと、セーフティネ
ット問題は大都市問題と割り切れば、家賃収入はかなりあてにできる.。
実態は居住水準の逆転現象を、低所得準支援層を増やす、NPO が経営するような住宅の領域を増やす。
なるべく収入に応じた居住水準が実現するような社会構成をめざす。
いたみをともないます。公営住宅に入っていた低所得者の一部が、公営住宅から追い出されることにな
る。その人たちの居住水準がおちる。全体的な社会構成のためにはこれが一番望ましいのではというの
が私個人の意見です。
■提案2;持家世帯のホームシェアの拡大
持家世帯では、国民年金で暮らしている低所得の高齢者が一人暮らしで広い一戸建てに住み、将来不
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居住に関する新たなセーフティネット政策の考え方」小林秀樹講演
議事録
2012 年 8 月 6 日
安が大きな問題となっている。空いた部屋を若者に月2万ぐらいで貸す。若い人がいるといざというと
きの安心がある。若者にとっては、いざというときの安心を提供するかわりに安く住めるメリットがあ
る。こうしたホームシェアが新しい住まい方として注目されている。
最後に住宅セーフティネットに関わる政策課題をまとめると、以下の3つになる。
①NPO 等によるセーフティネット住宅の拡大
②公的住宅の階層ミックス
③空き家活用の推進のための法整備
空き家活用の法整備は明らかに遅れている。一番大きいのが建築基準法で、用途が住宅と施設しかな
いので、その間の中間的な用途がない。本来であればグループホームとかシェアハウスは施設にあたる
部分があるのだが、あまりにも建築基準が厳しくなりすぎて、住宅を用途変更する必要があるのだが、
事実上届けない。これはあまり望ましいことではないので、施設と住宅の間に特定住居という中間的用
途をつくり、それに相応しい中間的な規制をつくることを提案している。
以上
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