ジャケットの縫製

特集
6
職業訓練教材コンクール
■労働大臣賞(入選)
ジャケットの縫製
−組み合わせ教材−
テクノセンター夕陽丘
(大阪府立夕陽丘女子高等職業技術専門校)
明石 衛
その後,教材コンクール出品にあたり,下記のよ
1.は じ め に
うに一連の教材としてまとめた。このような過程を
経て,今回,平成10年度職業訓練教材コンクールに
テクノセンター夕陽丘(大阪府立夕陽丘女子高等
おいて労働大臣賞(入選)をいただくことができた。
職業技術専門校)の服飾系科目洋裁科は,現在,平
成12年の服飾科(仮称)開設に向けて,教科編成基
3.教材の概要と使用目的
準に沿って,教科名や教科の細目を検討していると
ころで,それに伴い教材を開発する必要がある。
今回,教材コンクールに出品した作品,ジャケッ
ジャケットの縫製(組み合わせ教材)の概要は,
① 縫製仕様書 トの縫製(組み合わせ教材)は,私が以前からまと
② グレーディングパターン
めたいと考えていたもので,縫製仕様書から完成見
③ マーキング図 本までの一連の教材からなる。この分野の教材は,
④ 工程分析表
ほとんどないので,機会あるごとに準備していたも
⑤ 縫製工程写真
のを,このたびまとめたもので,表1のような目的
⑥ 部分縫い見本(衿・袖)
で使用するが,すでに取り入れられる部分から訓練
⑦ 完成見本(ジャケット)
に導入している。
表1 教材の使用目的
2.教材作成の構想と過程
平成2年度の教材コンクールにおいて「タイトス
教 材 名
1.縫製仕様書
訓練の種類
教科の科目
商品企画
基本実習
時間数
教科の細目(45分)
商品企画
使用対象者
8
普通訓練
1年課程
(服飾系生徒)
8
〃
8
〃
カートの縫製」で入選したときから,今度は「ジャ
ケットの縫製」で出品したいと考え,すぐに構想を
2.グレーディング 服飾製図実習 グレーディング
パターン
練った。計画に従って専門研修に行き,資料の作成
3.マーキング図
服飾製図実習 マーキング
4.工程分析表
工程分析
ジャケット
4
〃
料の作成に努めた。また,アパレル系の指導員間で
5.縫製工程写真
工程分析
ジャケット
4
〃
行っている研究会で,専門研修成果についての結果
6.部分縫い見本
(衿・袖)
縫製基本実習 部分縫い
40
〃
78
〃
にとりかかることになる。当校に機器のないものに
ついては,機器のあるところに行き,自主研修で資
を報告した。さらに,能力開発課研究開発班主催の
教材活用についての懇談会で,事例発表をした。
2/1999
7.完成見本
縫製実習
(ジャケット)
総合縫製
29
ものを省いた様式作りを心がけた。見やすさ,使い
からなる。
専攻実技の科目にある縫製実習の細目の総合縫製
で使用する目的で作成したが,表1に示すとおり,
やすさに重点をおいた紙のサイズ,レイアウトにし
た)
。
他の教科との関連もある。
(2)
4.教材の教育効果と創意工夫
グレーディングパターン
CADを使用し,一定のグレーディングルールに
従ってマスターパターンを拡大縮小する。5号から
今回の教材は,教育効果を高めるために,図や写
真,現物見本の良いところを取り入れた組み合わせ
教材としたが,教材別に教育効果と創意工夫したと
17号までサイズ展開を行うが,早く正確に作業でき
るようになる。
(多様なサイズに対応できるように,5号から17
ころを下記の順にまとめてみた。
号までの7サイズを展開した。外袖と内袖のつなが
*(
りに注意し,脇はシェイプがきれいに出るよう心が
)内に創意工夫したところを記す。
けた)
。
(1) 縫製仕様書(図1)
ジャケットの仕様書を作成することで,企画の全
体を把握させることができる。また,企業で実務に
就いた際,すぐに活用できる。
(3)
マーキング図(図2,図3)
アパレル業界の多くは,CADを使用し表地や裏
地の用尺を検討しているが,授業で用尺の検討を行
(ジャケットの縫製仕様書のみを考えて,むだな
うことにより,生徒にコスト意識を身につけさせる
図1 縫製仕様書
30
技能と技術
ことができる。
(マーキング図は,表地は一方方向と差し込み,
であるかわかるようにし,写真の下には,工程を記
し,工程分析表と突き合わせられるようにした)。
裏地については差し込みを,それぞれインクの色を
変え7サイズ用意した。これを授業で使用すれば,
(6)
部分縫い見本(衿・袖)
すぐに裁断にかかれ,裁断ミスも少なくなる)
。
ジャケットの縫製で,衿や袖の部分縫い見本を見
せることにより,工程分析表や工程写真で表現でき
(4)
工程分析表(図4)
ないところを理解させることができる。
工程分析表を作成させることにより,全体の流れ
(衿は,衿の縫い方や縫いしろのカットの仕方な
を理解させることができる。また,量産を意識して
どが,広げて見ることができるようにしてあり,袖
工程を考えさせることにより,実践的な物作りを身
のほうは,明きの始末の仕方や,袖のぐしの入れ方
につけさせることができる。
などが,一見してわかるようにした)
。
(JIS記号を使用した工程分析表で,見る人が見
やすいように,また,縫う人が縫いやすいように工
(7)
程を考えた。工程に注釈をつけてその工程の持つ意
ジャケットのシルエットや全体のバランスを見せ
味をよりわかりやすくした)
。
完成見本
ることができる。また,手で触れさせることにより
仕上がり具合を感じさせることもできる。
(5)
縫製工程写真(写真1∼8)
(婦人ジャケットなのでソフトに仕上がるような
工程分析表,工程写真を突き合わせて見せること
芯地使いにした。また,生徒がジャケットを縫う際
により,各作業のポイントを的確に理解させること
の見本になるので,縫製仕様書に沿って忠実かつ正
ができる。
確に縫製した)
。
(工程写真は,ジャケットの縫製の流れをわかり
やすく追ってみた。写真の上には,そのパーツが何
5.その他の自作教材の活用例
(1)
タイトスカートの縫製
工程分析表,工程写真,ビデオ,完成見本からな
る組み合わせ教材。縫製実習のところで,総合縫製
として活用している。ビデオは,全体の流れを理解
図2 表地のマーキング
2/1999
図3 裏地のマーキング
31
32
技能と技術
:完 成
:下手間
:アイロン
:特殊ミシン
:本縫いミシン
:部 品
1 芯貼り
46 衿と裏地はぎ1.0cm
45 見返し肩はぎ1.2cm
44 左右前見返しと裏地はぎ1.0cm
35 ゆき綿付け(袖付け線より0.2cm外側を縫う)
34 袖付け1.0cm
25 衿中とじ
24 衿仮接着
23 衿割りアイロン
22 袖付け1.0cm
16 前身頃、後身頃縫い合わせ1.2cm
(左脇・左肩・右肩・右脇)
17 後脇・肩割りアイロン
14 左右前身頃端段差カット
(表になる方は0.8cm裏は0.4cm)
15 前端アイロン0.1cm控える
図4 行程分析表
33 ぐしころしアイロン
(袖馬を使用する)
12 左右前身頃両玉ポケット作り
13 左右前身頃見返し付け1.0cm
32 袖山ぐし縫い(0.8と0.4cmの2本)
31 内袖割りアイロン
10 背中心割りアイロン
39 背中心縫い1.0cm
後身頃
43 袖付け1.0cm
42 袖ぐし縫い
41 キセアイロン
完成
60 仕上げアイロン
59 前身頃ボタン付け・袖口明き見せボタン付け
58 袖口明き見せ部分マトメ・裏地裾千鳥
57 鳩目穴かがり
56 裏見返し明き部分はぎ(20cm)
55 袖中とじ(前3cm・後5cm)脇身頃中とじ(脇下∼ウエスト)
54 肩先中とじ(表と裏)
53 パット付け
52 裾ポイント中とじ
51 表身頃裾と裏身頃裾はぎ1.0cm
50 外袖中とじ(明き見せ止まり上3cm)
49 内袖中とじ(袖口∼肘位)
48 袖下縫い合わせ1.2cm
47 表袖口と裏袖口はぎ1.0cm
40 前身頃、後身頃縫い合わせ1.0・1.2・1.2・1.0cm
(左脇・左肩・右肩・右脇)
41 キセアイロン
(背中心2cm・背裾0.5cm・他0.2cm)
左右脇身頃
38 脇縫い1.0cm
左右前身頃
37 内袖側はぎ1.0cm
外袖
【裏地】
36 外袖側はぎ1.0cm
内袖
11 左前身頃箱ポケット付け
30 内袖縫い1.2cm
9 前側脇身頃割りアイロン
19 衿控えアイロン
0.1cm
20 表衿ノッチ入れ
21 地衿くせ取りアイロン
29 外袖割りアイロン
8 前身頃ダーツ倒しアイロン
18 衿縫い1.0cm
見返し
28 明き見せ切り込み
5 背中心はぎ1.5cm
1 へム・明き見せ芯貼り
1 ヘム折りアイロン4cm
4 端打ちテープ貼り
外袖
26 左右外袖明き見せ縫いはぎ
1.2・1.0・0.55cm
27 明き見せ折りアイロン
1 ヘム芯貼り
1 ヘム折りアイロン
4 端打ちテープ貼り
内袖
ジャケットの工程分析表
6 前側脇身頃はぎ1.2cm
(脇身頃を上に)
7 脇切り込み・ダーツ切り込み
4 衿外周りテープ貼り
1.0cm
5 衿腰ステッチ
3 地衿マーキング
左右前身頃
1 芯貼り
2 前端マーキング
1 ヘム芯貼り 4 端打ちテープ 4 テープ貼り
1.5・1.2cm
貼り
5 ダーツ縫い
4 端打ちテープ貼り
1 芯貼り 1 増し芯貼り 1 芯貼り
2 衿腰増し芯貼り
左右脇身頃
1 芯貼り
後身頃
表衿
地衿
【表地】
写真1 テープ貼り
写真3 衿地縫い
写真2 テープ貼り後
写真4 表衿ノッチ入れ
させる補完的な教材として活用している(ビデオ教
ころで,総合縫製として活用している。
材は,技術専門校等14ヵ所に提供している)
。
(5)
(2)
ニット服の縫製
裏なしジャケットの縫製
グレーディングパターン,工程分析表,部分縫い
ニット素材・縫製ブックに「ニット服の縫製」に
見本,完成見本からなる組み合わせ教材。向上訓練
ついて執筆したもので,B5判6枚のプリント教材。
で実施したものを授業に取り入れて,縫製実習のと
縫製の基礎知識として学科で活用している。
ころで,総合縫製として活用している。
(3)
繊維の知識
プリント,サンプル,写真,パンフレット等から
上記の(4),(5)の自作教材については,向上訓練で
実施したものを,
講師の協力のもとで作成した教材。
なる組み合わせ教材。縫製の基礎知識として学科で
なお,向上訓練は,業界の第一人者に依頼している
活用している。例えば,綿のところでは,綿の木に
ので,新しい技術も入るし,その時々の業界の流れ
なっている綿花を見せて興味を持たせている。
がわかるのでよい。
(4)
パンツの縫製
6.お わ り に
グレーディングパターン,工程分析表,部分縫い
見本,完成見本からなる組み合わせ教材。向上訓練
現在,私が教えている洋裁科は,新規中卒生と一
で実施したものを授業に取り入れて,縫製実習のと
般離転職者を対象にしている。それだけに若い人も
2/1999
33
写真5 袖山ぐし縫い
写真7 ゆき綿付け後
写真6 袖ぐしころしアイロン
写真8 ジャケット完成
多いので,生活指導面でも気をつかっている。
後者については,よく休んでいた子が,クラスの
先日,新聞を読んでいたら,編集手帳欄に次のよ
友だちの励ましで,夏休み明けを機に,出て来るよ
うな言葉が紹介されていた。「人が生まれて両親の
うになることがある。これも「一人でも自分を認め
次につきあうことになる大人といえば,学校の先生
てくれる人がいる」ということだと思う。それが,
だ。先生のひと言はだから時に人の一生を決めるほ
時には先生であったり,生徒であったりの違いだけ
ど重い」とか「たった一人でも自分を認めてくれる
だと思う。
人がいる」という言葉があった。
前者については,先生と生徒との間に信頼関係が
最後に,私の仕事は,毎日毎日の積み重ねの上に
成り立っているが,決して私一人で養った技術では
築けるかということだと思う。信頼関係ができてい
なく,多くの人の温かい指導があればこそであり,
れば,先生の話を生徒が真剣に聞き,また,言うこ
これからも感謝の気持ちを忘れずに,日々この仕事
とも聞き,相談もしてくるであろう。それには,先
に励みたいと思っている。
生の仕事に対する取り組みや,
姿勢が大切だと思う。
指導する先生がいいかげんであれば,生徒もいいか
げんになると思う。当たり前だが,先生が生徒の模
範となる指導や,行いをしようという気持ちが大事
だと思う。
34
〈引用文献〉
読売新聞,編集手帳欄,平成10年12月13日付け.
技能と技術