成果報告 - 医療機器開発支援ネットワーク ポータルサイト

管理番号 24-047
平成 25 年度課題解決型医療機器等開発事業
「携帯可能な小型・省力型マイクロ波手術機器の開発」
事業成果報告書(概要版)
平成 26 年 2 月
委託者
委託先
経済産業省
国立大学法人滋賀医科大学
目次
1. 事業の概要 ................................................................................................................................ 1
1.1 事業の背景・目的及び目標 ................................................................................................. 1
1.2 事業実施体制....................................................................................................................... 5
1.3 成果概要 .............................................................................................................................. 6
1.3.1 開発製品「携帯型マイクロ波手術器(仮)」 ............................................................... 7
1.3.2 事業化計画 ................................................................................................................... 9
1.4 当該事業の連絡窓口 .......................................................................................................... 15
2. 本編 ......................................................................................................................................... 16
2.1 携帯型半導体マイクロ波発生装置の開発((株)オリエントマイクロウェーブ) ............ 16
2.2 鉗子型と鑷子型の操作部の改良および試作品の製作(サンエー精工(株)) ................... 17
2.3 表面加工技術の開発((株)コダマ、トーカロ(株)) ....................................................... 18
2.4 皮膜特性評価((地独法)大阪市立工業研究所) .............................................................. 19
2.5 携帯型マイクロ波手術機器(止血器)の評価(滋賀医科大学、日機装(株)) ............... 26
2.6 携帯型マイクロ波手術機器事業化・販売戦略の検討(日機装(株)).............................. 30
3. 全体総括.................................................................................................................................. 31
3.1.1
3.1.2
3.1.3
3.1.4
委託事業の振り返り ................................................................................................... 31
これまでの委託事業の成果と今後検討すべき課題 .................................................... 35
平成 26 年度以降の実施内容に関する計画(案) ..................................................... 36
委託事業終了時までに完成する最終製品の概要とスケジュール .............................. 37
1. 事業の概要
電気メスの止血能力は、超音波凝固切開装置やベッセルシーリングシステムには及ばない。しかし超音波
凝固切開装置やベッセルシーリングシステムを凌ぐ十分な止血の能力を有する携帯電源で使用可能なエネ
ルギーデバイスは存在しない。従って救急・災害現場など野外で電源確保が困難な場所や災害時などのエネ
ルギー源喪失時でも携帯電源で使用可能な強力な手術器具に対しては大きなニーズがあり、それを提供する
ことの社会的価値は大きい。
我々が開発してきたマイクロ波手術機器は、超音波凝固切開装置やベッセルシーリングシステムを凌ぐ止
血能力を有する国産手術機器として商品化が可能である。
本研究事業では、携帯型半導体マイクロ波発生装置を開発し、止血機器と一体化し出力を精密に制御する
ことにより、エネルギー損失を低下させ、携帯電源での使用が可能なエネルギーデバイスを開発することを
目的としている。
1.1 事業の背景・目的及び目標
(1)事業の背景
①医療現場でのニーズと課題
救急、戦場や甚大な災害に見舞われた現場の外傷患者は、救命のために、その場での止血処置が必要
となることがある。大災害時、一般市民の死亡原因の80%は失血死であると言われる。イラン戦争では
簡便な止血剤使用により多くの兵士が救命できたとの報告がある。受傷30分以内に止血操作をすれば救
命できる命ははなはだ多い。しかし、実際の現場では、簡便かつ確実に止血できる携帯可能なエネルギ
ー手術機器は存在しない。
②エネルギーデバイスの現状
電気メスをはじめとするエネルギーデバイスは現代のあらゆる外科手術手技において必要不可欠の
ものとなっている。現在エネルギーソースとして、高周波(電気メス、ベッセルシーリングシステム等)、
超音波(超音波凝固切開装置等)およびマイクロ波が用いられ、それぞれ手術内容により使い分けられ
ている。同時に使用されることも多く、エネルギー発生装置が大型であることから、手術室のスペース
を大きく占拠することになる。また、エネルギーデバイスの消費電力に合わせ手術室の電力使用量が増
加している。現状では、大電力を必要とするエネルギーデバイスがほとんどであり、平成25年にはコー
ドレスタイプの超音波凝固切開装置(コビディエン社製:Sonicision)が販売されたが、マイクロ波手
術機器の止血機能の優位性が代わったわけではない。
③マイクロ波機器の現状と課題
マイクロ波の生体組織に対する迅速で確実な凝固・固定の作用が着目され、欧米やアジアを含めた
国々よりマイクロ波を利用した肝癌治療の報告が増加している。近年、アメリカの巨大医療機器メーカ
ーであるコビディエン社も主に肝癌治療を目的としたマイクロ波治療機器を開発し、FDAの認可を取り
販売を開始している。その他、欧米等を中心にマイクロ波治療機器に関する特許申請も増加している。
しかし、滋賀医科大学が開発しているような外科手術手技全般に応用可能な手術デバイスに関する特許
(マイクロ波手術器(特許 第4701401号)、および医療用処置具およびこれを備えた医療用処置装置特
許(特許 第4035100号))の様な申請や発表は無く、現在のところ世界をリードしている。
我々が開発してきたマイクロ波手術デバイスでは、マイクロ波により生体組織を一瞬のうちに脱水・
凝固・固定し、止血能力が強いことを特徴としている。さらに切断機能を持ち、血管のシーリング、臓
器出血の無い切離が可能であり、あらゆる外科手術手技に応用可能である。従来の、超音波凝固切開装
置、高周波ベッセルシーリングシステムを凌ぐ機能を有している。
マイクロ波手術器(特許 第4035100号)
鑷子型マイクロ波手術器(特許 第4701401号)
1
(2)事業目的および目標
本研究開発計画の基本となるマイクロ波の手術機器への応用は日本発の技術である。我々は、マイクロ
波エネルギーの生体組織への特性に着目し、どのような臓器や血管でも出血なく切断できるこれまでにな
い新しいマイクロ波手術デバイスの特許取得および開発を行い、企業化できる段階となった。マイクロ波
手術デバイスの特徴として、一つのデバイスで組織の剥離、把持、切断、血管シーリング等の手術操作を
全て網羅可能であり、止血能力が高く、下記の表のように従来の輸入エネルギーデバイス(超音波凝固切
開装置やベッセルシーリングシステム)に対して優位性を有している。
マイクロ波手術機器
超音波凝固切開装置
(動物実験)
組織剥離
組織把持
組織切断
動脈シーリング圧
静脈シーリング圧
血管径
術野視覚障害
◯機器形状変更可能
◯機器形状変更可能
◯機器形状変更可能
<1000mmHg
<700mmHg
<1cm
無煙・無飛沫
△
△
◯
<100mmHg
<100mmHg
<5mm
ミスト発生
ベッセルシーリングシステム
△
◯
△カッティング装置
<800mmHg
<600mmHg
<7mm
煙発生
本研究開発計画の新規性は、小型半導体マイクロ波発生装置を開発し、マイクロ波手術機器を携帯化す
るというこれまでに無い新しい発想により、マイクロ波の損失を抑え、出力を精密に制御することである。
これにより、バッテリーなどの低容量電源で駆動可能となり、携帯性を向上させる必須条件が整う。
本研究開発では、小型半導体マイクロ波発生装置の開発段階から臨床治験用装置・止血器具プロトタイ
プの開発を完了することを目標としている。
(3)事業の概要
平成24年度の研究成果より、携帯型半導体マイクロ波発生装置の実現のためには小型・高耐圧な半導体
可変出力整合回路構成品であるGaNダイオードの開発が鍵となることがわかった。マイクロ波発生装置
にGaNダイオードを用いることで設計理論とほぼ同等な容量・耐圧特性を得ることができることを確認
した。平成24年度に開発した鉗子型と鑷子型(ピンセット型)の操作部試作品と据置型マイクロ波発生装
置の組み合わせで、事業化推進中の据置型マイクロ波発生装置を用いたマイクロ波手術機器(止血器)と
同様にマイクロ波照射により十分な止血が行えることも確認できた。
平成25年度は、携帯型半導体マイクロ波発生装置を開発する。加えて、鉗子型と鑷子型操作部を改良す
る。両者を組み合わせてマイクロ波の照射実験を行い、その性能を評価する。
(4)実施内容
①携帯型半導体マイクロ波発生装置の開発((株)オリエントマイクロウェーブ)
本事業における中核的な部品となる携帯型半導体マイクロ波発生装置を以下の手順で開発する。
ア.高周波部(発振~出力部)の試作/評価。
株式会社オリエントマイクロウェーブにて開発、設計を行い、製作部分を外注する。その後、試作
品を組上げ、評価、検討を行う。
イ.GaNダイオードを用いた半導体可変出力整合回路の試作/評価、目標容量・耐圧に到達する。
株式会社オリエントマイクロウェーブにて開発、設計を行い、半導体製作部分を外注する。その後、
試作品を組上げ、評価、検討を行う。
ウ.マイクロ波制御回路、筐体の試作/評価。
株式会社オリエントマイクロウェーブにて開発、設計を行い、制御部および筐体の製作部分を外注
する。その後、試作品を組上げ、評価、検討を行う。
エ.電源部(バッテリ部)設計/試作/評価。
株式会社オリエントマイクロウェーブにて開発、設計を行い、製作部分を外注する。その後、試作
品を組上げ、評価、検討を行う。
オ.携帯型半導体マイクロ波発生装置と手術機器(止血器)操作部との接続部の設計/試作/評価。
2
株式会社オリエントマイクロウェーブにて開発、設計を行い、その後、試作品を組上げ、評価、検
討を行う。
以上の内容に関して、平成25年度には開発タイプB案の構成で携帯可能なマイクロ波発生装置の試作を
完了する。併せて、開発タイプB案での鑷子型手術機器(止血器)について量産用の仕様を策定する。さ
らにマイクロ波を減衰させないために開発タイプA案のシステムを検討し、平成26年度に鉗子型手術機器
(止血器)の完成を目指す。
携帯型マイクロ波手術機器の開発タイプ
生
B案
小型マイクロ波発 装置
同軸ケーブル
生
A案
マイクロ波発 装置
制御装置
手術機器との接続部位
バッテリー
24V
制御装置
24V
バッテリー
②鉗子型と鑷子型の操作部の改良および試作品の製作(サンエー精工(株))
①で開発した携帯型半導体マイクロ波発生装置に接続して使用する鉗子型と鑷子型操作部を以下の手
順で開発する。
ア.平成24年度に開発した鉗子型と鑷子型操作部試作品の操作性、把持力、マイクロ波発生方式など
を検討し、改良する。既存のマイクロ波発生装置を用いて40W出力で5~10秒(専門医が器具を十分
に信頼できる速さ)で径7~8mmの血管の止血が可能となる③~④の開発・評価に用いる試作品各2
式(加速試験用)の設計・製作を行う。
イ.③~④の開発・評価に基づき先端の把持部に焦げ付き防止の表面形状および表面処理を施し、⑤の
試験に用いる試作品各8式(動物実験用)の製作を行う。
③表面加工技術の開発((株)コダマ、トーカロ(株))
②で改良した鉗子型と鑷子型操作部の先端部を炭化物の付着のない実用的な止血器とするため、表面加
工技術を以下の手順で開発する。
平成24年度に、平板サンプルで、加熱時の焦げ付き度合い評価(表面形状と表面加工)から得た知見
を基に、テスト用ステンレス板の耐焦げ付き表面加工を行う。ここで加工したステンレス基材を用いて④
でマイクロ波照射下に焦げ付き検討を行う。
ア.めっき皮膜による表面加工((株)コダマ)
先端部分基材に、ニッケルめっき皮膜中にPTFEなどの微粒子を分散させた、複合めっき皮膜からな
る焦げ付き防止皮膜を検討する。複合めっきの組成など、焦げ付きに影響しそうなパラメーターを替
えて製膜し、最適条件の絞り込みを行う。
イ.有機ケイ素膜等を用いた表面加工(トーカロ(株))
有機ケイ素膜は、高い撥水性を有しており、平成24年度に用いた平板サンプルでも、高い焦付き
防止性能が認められた。また、フッ素導入ダイヤモンドライクカーボン(F-DLC)膜は優れた耐磨耗
性、高硬度といった特長をもつ。有機ケイ素膜の成分による条件、F-DLC膜のF量などのパラメータ
ーを替えて製膜し、最適条件の絞り込みを行う。
ウ.上記で得た結果を基に②で試作した操作部の先端部に耐焦げ付き表面加工を行い、製膜条件の最適
化を検討する。
④皮膜特性確認評価((地独法)大阪市立工業研究所)
③で開発する表面加工技術について、マイクロ波照射下における焦げ付き性を以下の手順で評価する。
ア.③で開発した耐焦げ付き性表面処理(表面形状と表面加工)をステンレス基材に施し、マイクロ波
照射下で焦げ付き性を評価する。
イ.平板基材(ステンレス基材)に施された表面処理について、基礎的な細胞毒性による生体安全性試
3
験を行う。
ウ.操作部の先端部の表面加工評価に適したマイクロ波照射下での焦げ付き性試験法を検討するととも
に、先端部分の皮膜の厚さ、元素組成、均一製膜性などの基本特性を評価し、耐焦げ付き性との相関
を調査する。
⑤携帯型マイクロ波手術機器(止血器)の評価(滋賀医科大学、日機装(株))
①②③④で開発した技術を組み上げた携帯型マイクロ波手術機器(止血器)について、焦げ付き具合、
止血能力の検証・評価を行い、その結果を①②③④にフィードバックし、改良を検討する。
ア.通常電源で動作させたマイクロ波発生装置を用いた検証・評価。
②で製作した表面加工処理を施した鉗子型と鑷子型操作部と平成25年度に開発した小型高周波発
生装置を通常電源で動作させたマイクロ波発生装置を組み合わせて、大型動物(ミニ豚2頭およびビ
ーグル犬2匹)を用いた実験にて、in vivoでの止血能力および焦げ付きの検証を行う。鉗子型、鑷
子型で1~2回ずつ評価を行う。
イ.携帯型半導体マイクロ波発生装置を用いた止血能力の検証・評価。
②で製作した表面処理を施した鉗子型と鑷子型の操作部と①で開発した携帯型マイクロ波発生装
置を組み合わせて、大型動物(ミニ豚5頭およびビ−グル犬5匹)を用いた実験にて、in vivoでの止
血能力の検証を行う。鑷子型、鉗子型でそれぞれ3~5回ずつ評価を行う。
⑥携帯型マイクロ波手術機器事業化・販売戦略の検討(日機装(株))
開発した携帯型マイクロ波手術機器の販売に向けて、以下の手順で事業化の検討を行う。
ア.医療機器製造許可申請のための準備を行う。
平成25年度は④で評価した細胞毒性による生体安全試験と⑤アの結果を含めて、開発したコーテ
ィングの採用可否の判断材料とする。一般的なテフロンコーティングの試験を同時に行いリファレン
スとする。
イ.携帯型止血デバイスに関するマーケットリサーチを行う。
マーケットリサーチを行い、その後、試作品の状況に応じてデモンストレーション用資料として動
物実験のビデオ撮影を行う。
ウ.開発タイプB案で市場開拓の方法を検討する。
マーケットリサーチの結果を基に、市場開拓の方法を検討する。
エ.パッケージに関して、滅菌バリデーションをクリアできる仕様の検討。
量産モデルと同程度の大きさのブリスターケースや滅菌袋を用いて加速試験を行い、耐久性を確認
した結果を基に、仕様の検討を行う。
オ.量産試作機仕様の検討。
各要素部品の開発進捗状況とマーケットリサーチ結果等を考慮し、携帯型マイクロ波手術機器(止
血器)の量産試作機の仕様を検討する。
⑦事業全体の経理、運営等に係る管理(滋賀医科大学)
毎月月末に委員会を開催して、進捗状況の報告と各サブテーマの整合性を調節する。また、報告書の作
成を行う。株式会社マイクロン滋賀をアドバイザーとして、特許の実施許諾契約と管理・事業化支援を行
う。
4
1.2 事業実施体制
乙
国立大学法人滋賀医科大学
再委託
日機装株式会社
再委託
株式会社オリエントマイクロウェーブ
再委託
サンエー精工株式会社
再委託
トーカロ株式会社
再委託
株式会社コダマ
再委託
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
副総括研究代表者(SL)
日機装株式会社 メディカル事業部
市場開発部
主査・村上 元章
総括研究代表者(PL)
滋賀医科大学外科学講座
教授・谷 徹
5
1.3 成果概要
次頁以降に本年度開発した製品の概要および本年度検討・精査した同製品の事業化計画を記載する。
6
1.3.1 開発製品「携帯型マイクロ波手術器(仮)」
【訴求ポイント】
救急、戦場や甚大な災害に見舞われた現場で、簡便かつ確実に止血できる携帯可能なエネルギー手術機器
は存在しない。電源確保が困難な場所や電源喪失時でも使用可能で、強力な手術器具の必要性は大きく、災
害医療面などで大きな社会的価値を有する。本開発品の「携帯型半導体マイクロ波発生装置」は大きさがA4
サイズの約80%、重量が3kg程度で、これは(株)オリエントマイクロウェーブで開発するGaNダイオードを用いた
半導体可変出力整合回路等の技術により、ここまでの小型・軽量化が可能となる。2018年の上市を目指し、
量産体制の検討等を行っていく。
平成25年度
鉗子型手術機器 二次試作器
平成25年度
鑷子型(ピンセット型)手術機器 二次試作器
携帯型半導体マイクロ波発生装置
7
全体構成
製品名
携帯型マイクロ波手術器(仮)
一般的名称
焼灼術用プローブ、焼灼術用電気手術ユニッ
ト、治療用電気手術器
クラス分類
クラスⅢ
承認
申請区分
製造販売業者
日機装株式会社
販売業者
-
上市計画
薬事申請時期
上市時期
国内市場
許認可区分
改良医療機器
製造業者
サンエー精工株式会社
株式会社オリエントマイクロウェーブ
トーカロ株式会社
その他(部材供給)
株式会社コダマ
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
2016
2018
年度
年
4
8
月
海外市場(具体的に:
2022 年度
2023 年度
米・英・独・仏・伊
)
1.3.2 事業化計画
(1) 事業化に向けた現状ステータス
(a) 機器の開発(実証)目標達成状況
B案での携帯型半導体マイクロ波発生装置(バッテリー駆動)を完成させることができ、40Wのマイクロ
波出力が確認され、大型動物での実験で良好な止血性能を確認できた。鑷子型では非常に良好な止血能力を
確認でき、動作が安定していることが確認できた。平成 26 年度に半導体可変出力整合回路による調整など
を行うことにより、止血性能の向上が期待できる。
(b) 薬事対応状況
今年度に実施した調査結果により、薬事申請上の一般的名称は「マイクロ波メス」とすることが妥当であ
る可能性が高いことが判明した。
(c) 知財確保状況
特記すべき事項なし。
(d) その他(事業化体制等)の整備状況
特記すべき事項なし。
9
(2) 市場性(想定購入顧客)の検討結果
(a) 医療現場でのニーズ
国内においては、消防隊、救急隊、救急病院および自衛隊などでの救急医療機器・救急装備品としての需
要が見込まれる。また、外科手術に用いられる手術用電気機器および関連装置の市場は年々拡大している。
国外においては、軍隊や大型船舶など救急、災害、紛争などでの外傷患者に対する市場が見込める。また、
外科用エネルギーデバイス市場は世界規模でみても年々増加している。
(b) 現状における問題点
事故現場などでの本機器による止血について、医師が同乗しているドクターカー・ドクターヘリでない場
合は、救急隊員や救命救急士が対応できることが望ましいが、それを実現するためには法律等の整備が必要
となることが考えられる。
(c) 本機器の想定顧客および市場規模
① 国内
救急活動を行う装備対象施設として、救急自動車(6,054台)、消防防災ヘリコプター(73台)、救助隊
(1,526隊)(平成24年度救急・救助の概要:消防庁)、ドクターカー(152台)(財務省総括調査票平成25
年10月公表分)、ドクターヘリ(40機)(救急ヘリ病院ネットワーク、2013年12月現在)、救急告示病院お
よび診療所は全国で4,365箇所(平成24年版消防白書)がある。
平成24年度中の救急自動車による救急出動件数は5,802,455件で、このうち急病3,648,074件、一般負傷
829,071件、交通事故543,218件、傷病程度の割合としては死亡が1.5%の81,134人、重症が9.1%の477,454
人となっている。前述の交通事故543,218件のうち重症と見られる9%すべてに本機器を適用対応とした
場合、年間48,800件の事故現場での使用が想定可能である。
災害医療の装備対象施設として、DMAT:災害派遣医療チーム703チーム(平成22年日本DMATチーム報告)、
日本赤十字病院の救護班が全国で約500班存在する。機動救助隊(警視庁)、特殊救難隊(海上保安庁)、
救難隊(航空自衛隊)、救難飛行隊(海上自衛隊)などでも装備が見込まれる。自衛隊では自衛官224,526
人(平成24年度末現在)に対して、少なくとも陸上自衛隊衛生科部隊30、海上自衛隊衛生部隊21、航空自
衛隊衛生部隊32が装備を行う可能性がある。100トン以上の大型の船舶4,108隻(国土交通省海事局白書)
や海上保安庁(221隻)、海上自衛隊(148隻)などでも緊急止血機器の装備が予想される。上記合計約13,000
施設の20%に装備がされたとして、発振器・バッテリを内蔵する装置本体(単価:100万円)で26億円の市
場規模が見込まれる。
さらに、外科手術に用いられる手術用電気機器および関連装置の市場は年々拡大している(世界の外科
手術用エネルギーデバイス市場では、年あたり14%程度純増が見込まれている。
)
。一般手術機器としては、
組織シーリング機能付きバイポーラ装置市場が年間71億円、超音波凝固切開装置市場が年間72億円であり、
これらを合わせると年間約140億円の市場となる。その15%程度獲得できたとして、年間20億円の市場が
見込まれる。外科関連診療科での手術件数は約2,500万件である。
② 海外
国内上市6年目より海外販売を行う。救急、災害、紛争などでの外傷患者に対する市場は世界規模であ
る。G7国軍隊で300万人、G20では1,200万人の兵隊数であるので、世界規模で軍隊での装備品としての市
場は、国内での自衛隊に対する市場の約50倍の規模が想定される。大型の船舶は、クルーズ船260隻、タ
ンカー4,023隻、バラ積み貨物船6,225隻、コンテナ船4,905隻あり、クルーズ船以外の10%に装備されたと
して、約1,800隻が見込まれる。米国の人口約3億1,500万人、ヨーロッパ全体で人口約7億3,300万である
ので、救急市場の大きさは日本の10倍程度あると考えられる。
さらに、海 外 に お け る 医 療 機 器 の 市 場 は 約 5,000億 円 規 模 で あ る 。 そ の 内 、 電 気 メ ス 等 の 外 科
手 術用エ ネル ギーデ バイ ス市場 は1,400億円である。エネルギーデバイス市場は世界規模でみても年々
増加しており(成長率:14%)、上市予定の2023年には3,160億円規模の市場となると想定されている。
10
(3) ターゲット市場における業界分析結果
止血を行う手術用については、電気手術器、超音波手術機器、マイクロ波手術機器、レーザー手術機器が
ある。開発している機器の止血能力は電気手術機器、超音波手術機器を凌駕するものである。海外において
はコビディエン社が国内のものと同等の焼灼術用電気手術ユニットを販売しているが、針上の電極のみであ
る。また、手術用止血器具の競合製品のほとんどのものがエネルギー発生源が大型で、100V電源を必要とし
ている。
(a) 競合製品/競合企業の動向
携帯型機器としては、平成25年にコビディエン社から「Sonicision」という装置が1機種発売された。
超音波凝固切開装置については、市場の一巡性もあり、2009年度635台、2010年度577台、2011年度542台、
ディスポプローブは加算により症例数増で2011年度60億円強。しかし、その80%が輸入品である。
(b) 競合製品/競合企業とのベンチマーキング
会社名
日機装
(本開発品)
一般的名称
マイクロ波メ
ス(仮)
超音波手術
機器
電気手術機
電気手術機
機種名
-
ハーモニッ
クスカルペ
ルⅡ
サージレッ
クス エン
シールシス
テム
LigaSure
(Force
triad)
クラス
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
本体
24*17*10
(cm)
本体重量
電源
3kg
バッテリ
ジョンソン・エンド・ジョン
ソン
13.4*36.8*3
8.6
7*30.5*26.7
7.48kg
2kg
100V, AC, 3A
コビディエン
25*46*51
超音波手術機器
電気手術機
オートソニ
ック
ForceTM
Argon II
Thunderbeat
SonoSurg
マイクロタ
ーゼ
AZM-550
加熱メス
P8400
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
19*28*48
15*41*45
37.5*15.6*4
8
29.5*13.2*2
6.6
44*39*17.2
20.2*16.5*2
7.7
コードレス
デバイス
14kg
不詳
7.8kg
11lg
9㎏
9kg
19kg
3.3kg
100-120V,
AC, 5A
14.8VDC,
740m
Ah(10.9Wh)
100V, AC,
250VA
100V, AC,
0.5A
100V,AC,360
VA
100V, AC, 6A
100V, AC,
360VA
100V, AC
120W
¥2,700,000
¥2,900,000
\5,000,000
¥2,800,000
¥2,800,000
¥3,500,000
\150,000/10
本
¥400,000
¥48,000
\93,000
\18,000〜
60,000/本
再利用可
再利用可
¥280,000
\70,000/本
/再利用可
再利用可
本体定価
\1,000,000
¥3,200,000
¥1,400,000
¥5,800,000
ディスポ部
分定価
\100,000/本
\85,000/本
\75,000/本
\88,000/本
¥87,000/本
充電器
再利用
コード定価
なし
発熱
70℃程度
約 100℃前後
約 100℃前後
再利用
部分滅菌
なし
オートクレ
ーブ
止血の原理
マイクロ波
超音波発振
切断可能
血管径
<7mm
<5mm
<7mm
<7mm
組織切断
不可
摩擦により
可能
専用ナイフ
使用
専用ナイフ
使用
術野障害
なし
ミスト
煙
煙
ミスト
なし
超音波手術器
センチュリ
ー
メディカル
Sonicision
ジェネレー
タ¥150,000
バッテリー
パック
\150,000
(100 回使
用)
390000/95 回
レーザー
手術機器
39*14.5
100V, AC,
アルフレッ
サ
ファーマ
焼灼術用電
気
手術ユニッ
ト
オリンパス
¥320,000
なし
なし
10 回再利用
\220,000
なし
¥120,000
/100 回
不詳
不詳
約 100℃前後
不詳
不詳
約 100℃前後
約 100℃以下
なし
なし
プラズマ
オートクレ
ーブ
なし
オートクレ
ーブ
オートクレ
ーブ
EOG 滅菌
高周波電流
高周波電流
超音波発振
超音波発振
レーザ波
高周波電流/
超音波発振
超音波発振
マイクロ波
加熱箔銅板
<5 ㎜
<5mm
不可
<7 ㎜
<5mm
不可
不可
摩擦により
可能
摩擦により
可能
不可
摩擦により
可能
不可
ナイフ機能
ミスト
煙
摩擦により
可能
ミスト(少
量)
ミスト
なし
不詳
(4) ビジネススキームの検討結果
主用途である救急、災害現場でのデバイス活用のため、災害派遣医療チーム、救護隊などへ展開すると同
時に、常時使用が見込まれる外科手術用デバイスとしての展開も並行して行っていく。
11
70°C〜
300°C
オートクレ
ーブ
薬事
(5) 事業リスクの洗い出しと対応策の検討結果
洗い出された課題(隘路)
診療報酬算定をどの区分で申請していくか、保
険適応を見据えた薬事申請の方向性を定める必
要がある。
知財
表面加工技術の特許出願の可能性
左記への対応策
薬事申請調査を行い、方向性を定めていく。
手術機器刃部への焦げ付き付着防止膜について、
効果的に焦げ付き付着を減少できる膜を見出した。
まだ、過酷な条件下での安定性確認等が必要である
が、特許出願を検討中である。
技術・評価
その他事業化全般
手術機器(鑷子型、鉗子型)で止血を行う際、
血管等の対象部位を加熱すると、その一部が焦げ
付いて刃部に付着する。
付着を減少させるために、刃部への各種付着防止
膜の形成を検討してきた結果、効果的に焦げ付き付
着を減少できる膜を見出した。
市場での適正価格および許容可能な大きさ・重
量の設定。
量産試作品レベルで実現可能な価格、大きさ、重
量と、現在市場を席巻している製品との比較を行
い、許容可能な価格、大きさ、重量を量産品仕様と
して設定する。
12
(6) 上市(投資回収)計画の検討結果
(a) 投資計画
日機装株式会社
販売に至るまでに想定される主な投資項目は次のとおりであり、総額は「6億7,300万円」となる。
・開 発 費:3億5,300万円
・臨 床 研 究 費:
6,000万円
・製 品 導 入 費:1億1,000万円
・市販後調査費:1億5,000万円
(b) 回収計画
上市後5年間は日本国内市場を対象とする。特に、救急救命、自衛隊等の新規市場を検討する。上市後
3年間で、市場の要求を分析したうえで、さらに市場競争力に優れた小型化を実現する新規開発品の開発
を並行してスタートし、価格の低減を行いつつ3年で上市する。その際、欧米主要国に対して薬事承認申
請を行い、並行して、競合品の導入されている病院施設手術室をターゲットとすることも可能である。上
市後6年目からは海外への販売進出を行う。
投資回収目標としては、5年目までの回収を計画しており、上市5年目までに計113億円程度の合計売
上を目指す。販売価格設定は、競合品程度を目標価格とする。前述のとおり6年目を目途に、機能(出力
値、部品点検等)を精査し、さらに競争力のある小型デバイス後継機種の上市を目指す。
経過年数
2年目
3年目
4年目
5年目
6年目
市場規模(百万円)
23,800
25,760
27,720
29,680
31,640
販売数量(本)
9,520
19,578
31,601
44,520
60,116
単価(千円)
100
100
100
100
100
13
(c) 委託期間後を含めた事業計画
14
1.4 当該事業の連絡窓口
問い合わせの担当者:滋賀医科大学外科学講座 教授 谷 徹
電 話:077-548-2238
FAX:077-548-2240
E-mail:[email protected]
15
2. 本編
2.1 携帯型半導体マイクロ波発生装置の開発((株)オリエントマイクロウェーブ)
ア.高周波部(発振~出力部)の試作/評価。
周波数2.45GHzで高効率動作する窒化ガリウムHEMTを開発し、これを最終的に使用した小型出力発振
器を製作し、出力電力50W、効率58%(最終段)を得た。
出力電力 目標50W 達成
効率(最終段) 目標70%に対し58%
イ.GaNダイオードを用いた半導体可変出力整合回路の試作/評価、目標容量・耐圧に到達する。
GaNダイオードの試作を行い要求耐圧400Vに対し、耐圧400Vを超える試料を:15個を確保できた。
また、低周波、低電圧での測定で目標0.5~5pFに対し、3~11pFの容量変化比が得られることを確認し
た。
本ダイオードを可変出力整合回路に組込み、負荷変動試験を試みたが、評価中に半導体結晶欠陥によ
るリーク電流が多発し、評価するまでに至らなかった。
今年度は設備の制約により低周波での測定を実施いたが、高周波での測定が今後の課題となる。また、
ダイオード結晶欠陥の原因である結晶層間の格子不整合に起因する結晶欠陥を改善するため、今年度は
Si基盤を使用したが、次年度はGaNに対し格子整合率の良いサファイア基盤を用い改善を試みる。
ウ.マイクロ波制御回路、筐体の試作/評価。
・高周波電力/照射時間制御、および各種アラーム機能、バッテリー残量監視機能等を有するCPUを搭
載した制御回路の試作を行い、高周波電力、照射時間制御、各種アラーム機能およびバッテリー残量監
視機能が正常動作することを確認した。
・樹脂を用いたA4サイズ(297mm×210mm×110mm)の筐体、およびキャリーバックを試作した。
エ.電源部(バッテリ部)設計/試作/評価。
リチウムイオン2次電池を用いた小型で高周波電力50W、約30分連続稼働が可能なバッテリーの設計
/試作を行い、高周波電力50Wで延べ30分間連続動作することを確認した。
(サイズ:140mm×70mm×55mm)
オ.携帯型半導体マイクロ波発生装置と手術機器(止血器)操作部との接続部の設計/試作/評価。
高周波部、および方向性結合器、半導体可変出力整合回路を内蔵する接続部の設計/試作を行った。
整合回路は半導体の信頼性問題により今年度は接続部に組込まなかったが、高周波部、方向性結合器を
組込み、出力電力の評価を行い、出力電力40W以上(設計値)出力されることを確認した。
16
2.2 鉗子型と鑷子型の操作部の改良および試作品の製作(サンエー精工(株))
ア.平成24年度に開発した鉗子型と鑷子型操作部試作品の操作性、把持力、マイクロ波発生方式などを
検討し、改良する。既存のマイクロ波発生装置を用いて40W出力で5~10秒(専門医が器具を十分に信
頼できる速さ)で径7~8mmの血管の止血が可能となる③~④の開発・評価に用いる試作品各2式(加
速試験用)の設計・試作を行う。
平成24年度に開発した鉗子型と鑷子型操作部試作品の改良設計および改良型試作品の製作を、以下の
とおり一次試作と二次試作の2回行った。
1)一次試作
鉗子型操作部においては、マイクロ波エネルギー密度を高くするために、先端部の幅と長さについ
て改良設計を行った。また、把持力を改良するために、強度改善にかかる設計を行った。
鑷子型操作部においては、マイクロ波エネルギー伝送ケーブルの長さを2mから0.5m(ショルダ
ー型ジェネレーターに適した長さと考えられる)とする改良設計を行った。また、止血の際に血管が
滑りやすいという課題については、把持部にギザを設けることで改善できた。
一次試作では、平成24年度に製作した試作品の改良型の鉗子型と鑷子型操作部試作品(各6式)の
製作を行い、動物実験で得られた新たな課題を検討した。
一次試作において、鉗子型と鑷子型操作部ともに把持力は改善され、40W出力5秒~10秒で径2mm
~7mmの血管の止血が可能となり、平成24年度終了時の課題は達成したが、ジェネレーターの消費電
力を少なくするために、鉗子型と鑷子型操作部のマイクロ波エネルギーの凝固効率を更に向上させる
ことを新たな課題とし、二次試作を行った。
2)二次試作
鉗子型操作部においては、先端部の長さについて改良設計を行うことにより、更にマイクロ波エネ
ルギー密度を高くした。
鑷子型操作部においては、マイクロ波エネルギー伝送ケーブルを操作部本体後端部で分岐させるこ
とにより、エネルギー伝送効率を向上させる改良を行った。
二次試作においては、一次試作で製作した試作品の改良設計を行い、改良型の鉗子型と鑷子型操作
部試作品(各4式)の製作を行った。二次試作での試作品で動物実験を行った結果、止血性能につい
て鉗子型は一次試作での試作品と同等であったが、鑷子型は40W出力5秒で径2mm~7mmの血管の止
血が可能となった。
平成26年度では、鉗子型の止血性能の更なる向上、鑷子型操作部に凝固用スイッチを設けることに
よる操作性の向上についての改良を行う。
イ.③~④の開発・評価に基づき先端の把持部に焦げ付き防止の表面形状および表面処理を施し、⑤の試
験に用いる試作品各8式(動物実験用)の製作を行う。
③~④で開発・評価された表面加工について、一次試作および二次試作で製作した鉗子型と鑷子型操
作部試作品の先端部の把持部に、焦げ付き防止の表面形状および表面処理を施した。
17
2.3 表面加工技術の開発((株)コダマ、トーカロ(株))
ア.めっき皮膜による表面加工((株)コダマ)
2.4の評価用に、先端部分基材や平板基材に、ニッケルめっき皮膜中にPTFEなどの微粒子を分散させ
た、複合めっき皮膜を製膜した。基材への前処理として、粗面化処理もおこなった。評価結果は、2.4
に記載。
(表2-3-1 作製しためっき皮膜)
粗面化前処理
K-1
処理1
K-2
処理2
K-3
処理なし
イ.有機ケイ素膜等を用いた表面加工(トーカロ(株))
2.4の評価用に、先端部分基材や平板基材に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜や有機ケイ素膜
を製膜した。基材への前処理として、粗面化処理もおこなった。評価結果は、2.4に記載。
(表2-3-2 作製した皮膜)
粗面化処理
製膜原料へのF化合物添加
(○:あり、×:なし) (○:あり、×:なし)
T-1
DLC
×
×
T-2
DLC
○
×
T-3
DLC
×
○
T-4
DLC
○
○
T-5
有機ケイ素膜
×
○
T-6
有機ケイ素膜
○
○
T-7
有機ケイ素膜
×
×
T-8
有機ケイ素膜
○
×
ウ.上記で得た結果を基に②で試作した操作部の先端部に耐焦げ付き表面加工を行い、製膜条件の最適化
を検討する。
下記に記載するように、2.4ア:耐焦付き性、およびイ:生体安全性で優れた結果を示したT-5ならび
にT-7の条件で、実機先端部に製膜した。これら2種の実機先端部について、動物生体試料でマイクロ
波を照射して、焦付き度合いを評価した。
18
2.4 皮膜特性評価((地独法)大阪市立工業研究所)
ア.③で開発した耐焦げ付き性表面処理(表面形状と表面加工)をステンレス基材に施し、マイクロ波照
射下で焦げ付き性を評価する。
下記ウ(1)に述べるような方法で、各皮膜のマイクロ波照射時の焦付き性を、ステンレスSUS304の
みの場合と比較して評価した。結果写真を図2-4-1に示した。また、まとめを表2-4-1に示した。
(図2-4-1(1) マイクロ波照射時の焦付き性評価:皮膜なしSUS304のみの場合)
(図2-4-1(2) マイクロ波照射時の焦付き性評価: K-1、2、3)
(図2-4-1(3) マイクロ波照射時の焦付き性評価: T-1~8)
19
(表2-4-1
マイクロ波照射時の焦付き評価結果)
焦付き評価(マイクロ波)
SUSと比べて
拭き取り効果
K-1
○(焦付き少ない)
△(一部除去)
K-2
○(焦付き少ない)
△(一部除去)
K-3
○(焦付き少ない)
△(一部除去)
T-1
×(焦付き多い)
×(取れない)
T-2
○(焦付き少ない)
×(取れない)
T-3
○(焦付き少ない)
△(一部除去)
T-4
○(焦付き少ない)
△(一部除去)
T-5
◎(焦付きなし)
---(必要なし)
T-6
◎(焦付きなし)
---(必要なし)
T-7
○(焦付き少ない)
○(効果あり)
T-8
◎(焦付きなし)
---(必要なし)
K-3は、K-1とK-2に比べて若干耐焦げ付き性能が向上している。またTについては、T-1以外は、SUSに
比べて焦げ付きが少なく、耐焦付き性を示した。T-2は基材を予め粗面化してから、T-1と同じDLC膜を
製膜したサンプルで、粗面化により耐焦付き性が向上した。
イ.平板基材(ステンレス基材)に施された表面処理について、基礎的な細胞毒性による生体安全性試験
を行う。
試料は、SUS304平板基材(30mm×30mm×厚さ1mm)両面に各種皮膜を製膜した。細胞毒性試験は、厚
生労働省から示された薬食機発0301第20号別添のガイダンス【薬食機発(医薬食品局 審査管理課 医
療機器審査管理室)0301第20号別添のガイダンス「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安
全性評価の基本的考え方について」
(厚生労働省)】に示されている、コロニー形成法を用いた(図2-4-2)。
①シャーレに細胞が100から200個程度含まれる培地を5mL注ぎ、一晩37℃、5%CO2の雰囲気下で培養す
ることでシャーレの底面に細胞を付着させた。
②続いて培地を捨て、上記平板試料を1晩浸漬した培地を添加して、6昼夜37℃、5%CO2で培養した。
③培地を捨て、緩衝液でコロニーを洗浄後、メタノール等で固定する。その後、ギムザ液等でコロニ
ーを染色し、コロニー数を計測した。コロニー数を陰性対照に対して比較し、細胞生存率を求めた。
(図2-4-2 抽出によるコロニー形成法の概要)
20
図2-4-3に結果を示した。基材のSUS304は、陰性対照に対して、約1/2の生存率となった。T-1、T-5、
T-7の生存率はSUSを上回り、いずれも生体安全性が認められた。いっぽう、めっきK-1、K-2は、まった
く細胞が生育せず、基材SUS304に比べて生体安全性が低かった。今後、めっきの生体安全性向上が課題
である。
120
100
生存率(%)
80
60
40
20
0
K-1
K-2
T-1
T-5
T-7
(図2-4-3 各試料の生存率)
ウ.操作部の先端部の表面加工評価に適したマイクロ波照射下での焦げ付き性試験法を検討するとともに、
先端部の皮膜の厚さ、元素組成、均一製膜性などの基本特性を評価し、耐焦げ付き性との相関を調査す
る。
(1)マイクロ波照射時焦げ付き試験法について
図2-4-4に示すような、焦げ付き簡易評価用プローブに円筒状先端部分(材質SUS304)
(いずれもサ
ンエー精工(株)から提供)を装着したものを、評価器具として用いた。摘出豚肝臓切片(大阪食肉臓
器(株))に先端部分を刺入し、プローブを通してマイクロ波を照射し、焦げの付着度合いを、目視お
よびデジタルカメラ写真で評価した。照射条件は、50W30sとし、刺入して照射→引き出して焦付き
評価を、適当回繰り返した。円筒状先端部分に各種皮膜を製膜し、同条件でマイクロ波を照射し、皮
膜なしの場合と比較した。適宜、不織布による焦げの拭き取りも試みた。
(図2-4-4 マイクロ波照射時焦げ付き簡易評価用プローブ)
マイクロ波照射の影響を、実験後豚肝臓を切開し、断面を見ることで調べた。いずれの場合も、先
端部表面から等方的に2mm~3mmの範囲で肉の凝固が観察され、本方法で、血管シーリングに十分な
範囲で、マイクロ波が照射されていることを確認した。(図2-4-5)
21
(図2-4-5 マイクロ波照射後の豚肝臓断面)
(2)皮膜の厚さ、元素組成、均一製膜性等の基本特性
●元素分析
円筒状先端部分に製膜された試料について、SEM写真ならびにSEM付属の蛍光X線分析(SEM-EDX)に
よる元素分析、組成比(原子数%)を測定した(装置:日本電子(株)JSM6610LA)。その結果を図2-4-6
に示す。K-3はK-1とK-2に比べて、F/Ni(Niに対するF原子数比)が大きく、これが、耐焦付き性能向
上に影響していると考えられた。Tについては、粗面化していないもの(T-1、3、5、7)について測
定した。T-3は、製膜時F化合物を導入したが、結果的には、皮膜にはほとんどFが検出されず、その
かわりSiが検出された。このSiの原因、化学状態は不明であるが、T-3は、ほぼCのみから構成されて
いたT-1に比べて、Siが混入したことで、表面の生体組織との親和性が低下して、耐焦げ付き性がや
や向上したと考えられる。T-7では、T-5よりも少ないながら、Fが検出された。これらのF化合物が、
両皮膜の耐焦げ付き性に影響を及ぼしていると推察される。
22
(図2-4-6(1)
SEM-EDXによる元素分析: K-1、2、3)
23
(図2-4-6(2) SEM-EDXによる元素分析: T-1、T-3、T-5、T-7)
24
●皮膜の厚さ、均一製膜性について
鉗子型と鑷子型操作部の先端部分に適用した、T-5ならびにT-7について、皮膜厚さ、均一製膜性を
調査した。円筒状先端部分に製膜された試料について、Focused Ion Beam(FIB;日本電子(株)JIB4500)
によって断面出しをおこない、走査電子顕微鏡(SEM;(株)日立ハイテクノロジーズ SU1610)によっ
て断面観察して、膜厚を測定した。クラックなど見られず、均一なコーティングが観察できた。
つぎに、2.3ウ.で鉗子型操作部の先端部の把持部、ギザギザの部分の膜を対象として、図2-4-7に
示すように、A.ギザギザ凸部、B.ギザギザ谷部分、C.側面部について、皮膜由来成分の合計【C+O+Si+F
の組成比合計(単位原子数%)】を調査した。膜厚の大小を評価した。結果、すべての個所で膜が付
いていることが確認でき、実機についても、均一にコーティングできることが示された。しかしなが
ら、部分的にはバラツキが見られ、A部分で皮膜が比較的薄かった。くりかえし使用した場合など、
こうした薄い部分を起点として、焦げの付着が増大する可能性があり、今後の課題といえる。
(図2-4-7
相対膜厚比較した先端部パーツ各部分)
●各特性と焦付きとの相関性について
NiめっきやDLCは、表面原子層がNiやCなど単体で構成されている。この場合、生体有機物の炭化に
よって発生するC(カーボン)との親和性に富み、強い結合が形成されることで、焦げの付着となる。
ここに、C(カーボン)との親和性が比較的低い、F化合物(たとえばテフロン)、Si化合物(たとえ
ばシリカ)などが混入することで、表面にCと結合しにくいサイトが形成され、全体的に焦げの付着
は緩和される。また、T-2のように、粗面化することで、生体と接触しない空間が生まれ、この空気
部分も、上記の結合しにくいサイトの一種と言えるため、同様にして焦げ付き性は弱まる。
一方、有機ケイ素化合物は、分子レベルでC(カーボン)との親和性が低いため、表面形状によら
ず、高い耐焦げ付き性を示した。したがって、この場合は均一に製膜されていることが、耐焦げ付き
性に重要な要素と考えられる。以上のことから、元素組成、膜厚、均一性の影響は、Niめっき・DLC
と、有機ケイ素皮膜の場合で、異なっているといえる。
25
2.5 携帯型マイクロ波手術機器(止血器)の評価(滋賀医科大学、日機装(株))
平成25年度に開発した技術を組み上げた携帯型マイクロ波手術機器(止血器)について、焦げ付き具合、
止血能力の検証・評価を行い、その結果をフィードバックし、改良を検討する。
ア.通常電源で動作させたマイクロ波発生装置と改良型手術機器(止血器)の検証・評価
大型動物を用いた実験にて、in vivoでの止血能力および焦げ付きの検討を行う。鉗子型、鑷子型で
評価を行う。
《通常電源で動作させたマイクロ波発生装置》
平成25年度に開発した小型高周波発生装置(周波数2.45GHz、出力電力50W、効率58%で動作)を
通常電源で動作させたマイクロ波発生装置を用いて、新規開発の小型高周波発生装置の止血力を確認
した。50Wのマイクロ波出力が確認でき、5~10秒での止血が確認できた。
《一次改良型止血機器での止血性能と焦げ付き評価》
平成24年度に開発した基本モデル器のデータを元に平成25年度に開発を行った一次改良型止血機
器を用いて、前述のマイクロ波発生装置にて40~50Wのマイクロ波出力を行い、止血能力の検討を行
った。
鑷子型モデルは組織把持性能の向上が認められた。止血能力については、同軸ケーブルの長さを0.5
mにしたことにより、エネルギーロスが抑えられ、腸間膜血管(2~3mm程度)は5秒程度での止血
が可能であった。
鉗子型モデルでは、組織把持部分の改良でエネルギー出力効率と組織把持性能の向上組織を図った。
これにより、平成24年度モデル器より良好な止血性能(腸間膜血管(2~3mm)は5秒程度)が確認
できた。
26
抗焦げ付き性能に関しては、有機ケイ素皮膜加工と有機ケイ素皮膜(F化合物添加)加工の2種類
を検討した。表面加工により炭化物の付着が抑制され、拭き取りにて容易に除去できることが確認さ
れた。コーティングなしの鑷子型と比較して、有機ケイ素皮膜加工と有機ケイ素皮膜(F化合物添加)
加工の両者で良好な抗焦げ付き効果を認め、有機ケイ素皮膜(F化合物添加)が最も良いと判断され
た。
鑷子型止血器では、先端部のギャップ部分の組織の焦げ付き以外は良好な抗焦げ付き性能を認めた。
鉗子型止血器では、コーティングされている金属部分は抗焦げ付き性能が良好であったが、絶縁樹
脂側の組織付着が認められた。
《二次改良型止血機器での止血性能と焦げ付き評価》
平成25年度に開発した一次改良型止血機器データを元に二次改良型止血機器の開発を行った。前述
のマイクロ波発生装置にて、40~50Wのマイクロ波出力を行い、止血能力の検討を行った。
鑷子型モデルは、同軸ケーブルの分岐部を鑷子の根元に移動し、エネルギーロスを解消した。また、
27
組織把持部性能を更に向上させ、良好な使用感になった。止血能力は、より強力になり、腸間膜血管
(2~3mm程度)は5秒以内で止血が可能であった。
鉗子型モデルでは、更なる組織把持部分の改良でエネルギー出力効率と組織把持性能の向上組織が
図られた。鉗子の刃先の開き具合でマイクロ波の出力状況の変動が認められた。組織の挟み具合の調
整により良好に止血を行なえた。止血能力としては、腸間膜血管(2~3mm程度)は5秒程度での止
血が確認できた。
抗焦げ付き性能に関しては、有機ケイ素皮膜(F化合物添加)加工の1種類を検討した。コーティ
ングなしの鑷子と比較して、良好な抗焦げ付き効果を認めた。
二次改良型鑷子型止血器では、先端部のギャップ部分の減少により、組織の焦げ付きが減少した。
二次改良型鉗子型止血器では、絶縁樹脂にもフッ化シリコン加工を行ったことにより、焦げ付き組
織の付着は認めるが、容易に除去することが可能であることが確認された。
イ.携帯型半導体マイクロ波発生装置を用いた止血能力の検証・評価
表面処理を施した鉗子型と鑷子型の操作部と携帯型半導体マイクロ波発生装置を組み合わせて、大型
動物を用いた実験にて、in vivoでの止血能力の検証を行う。
28
《携帯型半導体マイクロ波発生装置》
平成25年度に完成した携帯型半導体マイクロ波発生装置は、下図のように肩掛け状態で持ち運びお
よび止血操作が可能である。
サイズ
A4サイズ(297mm×210mm×110mm)
重量
3.65kg
《携帯型半導体マイクロ波発生装置の止血能力》
大型動物にて、二次改良型止血機器(鑷子型、鉗子型)を用いて、止血能力の検討を行った。電源
投入からの立ち上げ時間は約4秒であった。ジェネレーターの作動状況は良好で、延べ2時間程度の
実験を行い、実際のマイクロ波照射時間は25分32秒であったが、バッテリー残量は1/3程度あり、
実用に耐え得ると考えられた。携帯型半導体マイクロ波発生装置により最大40Wの出力が可能であり、
連続使用時の出力変化は認められなかった。高周波部の温度センサーによるマイクロ波発生の停止は
50℃に設定されている。出力値が30W以上だと80秒連続マイクロ波照射で温度センサーが作動し、自
動的に出力停止となる。
二次改良型止血機器(鉗子型)では、止血能力は充分であり、腸間膜血管(2~3mm程度)は40W
5秒で止血が可能であった。二次改良型止血機器(鑷子型)では、さらに止血能力が安定しており、
腸管画(2~3mm程度)は40W3~5秒で止血が可能であり、30Wの出力でも5秒で止血が確認され
た。焦げ付きも認めず、表面加工は良好に機能していた。半導体可変出力整合回路が今回の試作品で
は省かれているが、その状態でも十分な止血能力を認めているため、平成26年度の改良ではさらに、
止血能力が向上すると考えられる。連続使用では、高周波部の発熱のため停止機能が動作するが、現
在の連続使用時間でも臨床的には止血操作には問題を認めていない。放熱・冷却機能を付加すること
により、さらに連続使用時間は延長される可能性がある。
29
2.6 携帯型マイクロ波手術機器事業化・販売戦略の検討(日機装(株))
ア.医療機器製造許可申請のための準備を行う。
本機器の薬事申請の一般的名称について調査を行い、その結果「マイクロ波メス」として申請するこ
とが妥当である可能性が高いことが判明した。
なお、平成25年度に実施を計画していた「生物学的安全性試験」については、契約期間内での実施が
工程的に困難であったことから、実施できなかった。
イ.携帯型止血器デバイスに関するマーケットリサーチを行う。
本機器の主要ターゲットである救急活動を行う装備対象施設について、消防防災ヘリコプター・ドク
ターヘリ・ドクターカー・救急告示病院および診療所の施設数や救急自動車の出動件数、搬送患者の重
症度を調査し、救急現場での使用回数の想定を行った。
さらに、外科手術に用いられる一般手術機器として、組織シーリング機能付きバイポーラ装置市場・
超音波凝固切開装置市場を詳細に調査し、市場規模を明確にした。
ウ.開発タイプB案で市場開拓の方法を検討する。
救急・災害現場で使用する機器として、競合の可能性が考えられる超音波凝固装置:コビディエン社
製Sonicisionを含めた比較一覧表を作成し、本機器の特徴を明らかにした。
その結果からもマイクロ波の止血能力の高さのアドバンテージは変わらないことから、Sonicisionと
同程度までのサイズダウンをする必要はないが、平成26年度は、平成25年度に試作されたA4サイズか
らB5サイズ程度までのサイズダウンおよび重量3kgを目指すことにより、操作者の負担軽減という観
点から救急・災害現場での市場開拓、展開を目指す。
エ.パッケージに関して、滅菌バリデーションをクリアできる仕様の検討。
平成25年度に「滅菌バリデーション」の実施を計画していたが、契約期間内での実施が工程的に困難
であったことから、平成26年度に「滅菌バリデーション」を実施し、検討を行うこととした。
オ.量産試作機仕様の検討。
仕様検討の結果、次のとおりとした。
・止血能力
40W5秒(3mm血管)
止血可能最大径:7mm
・サイズ
縦170mm×横240mm(A4サイズの80%程度)×厚み100mm
・重量
3kg
30
3. 全体総括
3.1.1 委託事業の振り返り
(1) 本年度の目標達成度に関する自己評価
(a) 自己評価点
A:当初目標を上回る成果を得た。
(b) 自己評価理由
携帯型半導体マイクロ波発生装置の試作では、B案の条件をほぼ満たしている試作器が完成し、その機能
の確認もできた。表面加工の「抗焦げ付き対策」の新規コーティング技術の成果が確認できた。最終年度を
前にハード面の完成が視野に入り、製品販売責任企業との連携が具体化した。
① 携帯型半導体マイクロ波発生装置の開発
平成 25 年度の目標である出力電力 40W、連続使用時間 30 分使用可能なA4サイズ程度の携帯型半導体
マイクロ波発生装置の試作は、概ね完了した。既存の据置型と比較して半分以下のサイズダウンが実現し
ており、緊急災害現場等での運用を予感させる仕上りである。高周波部の効率、およびダイオード信頼性
問題等の未達事項は残っているが、具体的改善策も見えており、事業化には影響のない程度である。
② 鉗子型と鑷子型の操作部の改良および試作品の製作
平成24年度に開発した試作品を改良した一次試作においては、把持力の改善と40W出力5秒~10秒で径
7mm~8mmの血管の止血が可能となった。更に、二次試作をにおいては、40W出力5秒で径7mm~8mmの
血管の止血が可能となった。
③ 表面加工技術の開発
当初目的とした耐焦げ付き性皮膜:めっき皮膜、DLC膜(改良版)
、有機ケイ素系皮膜を作製できた。④
の各種評価に対応して、平板基材、円筒状基材、実機先端用複雑形状基材、など形状の異なる基材にも製
膜でき、製膜技術の高さを確認した。さらに、有機ケイ素系皮膜は、拭き取りの必要がないくらい高い耐
焦げ付き性が認められ、特許化の可能性が見出された。
④ 皮膜特性評価
各参画機関と共同で、マイクロ波照射時の焦付き度合の評価方法を開発した。抽出によるコロニー形成
法を適用して、細胞毒性試験を目的どおり実施し、基礎的な生体安全性評価ができた。SEM-EDXによる、
局所的な元素分析を駆使し、膜厚と製膜均一性の評価をおこなうとともに、焦付きに影響を及ぼす因子の
探索ができた。さらに、新たな分析評価技術として、一般に困難な金属上皮膜の膜厚測定と膜形態の観察
について、Focused Ion Beamを導入して断面出しと断面観察をおこない、課題の洗い出し、今後の皮膜開
発につながる知見を得ることができた。
⑤ 携帯型マイクロ波手術機器(止血器)の評価
携帯型半導体マイクロ波発生装置を肩掛けタイプで使用可能となり、B案での止血機器として完成可能
であることが平成25年度で確認できた。
●携帯型半導体マイクロ波発生装置を肩掛けタイプで携帯機器としての使用可能。
●目標としていた40Wの出力が可能であった。
●鉗子型と鑷子型の止血機器と接続して、止血性能が確認できた。
⑥ 携帯型マイクロ波手術機器事業化・販売戦略の検討
平成25年度に計画していた「生物学的安全性試験」及び「滅菌バリデーション」については、契約期間
内での実施が工程的に困難であったことから実施できなかったが、その他については、薬事戦略方針や市
場調査を行い、競合品との比較検討や市場規模の明確化ができた。
また、各参画機関と検討を行い、量産試作機の仕様を決定した。
31
(2) 当初計画からの変更(深堀)点とその理由
(a) 対象とする課題・ニーズ
特記すべき事項なし。
(b) 機器スペック・ビジネスモデル
① 携帯型半導体マイクロ波発生装置
鑷子型止血機器にはB案での携帯型半導体マイクロ波発生装置で充分であり、鉗子型止血機器でもB案の
形態で止血操作が可能であることが確認された。更なる高周波装置の小型化が可能となれば、A案を開発し
ていくことは視野に入れておくが、当初の製品化はB案で目指すこととし、予定通りの薬事申請や上市スケ
ジュールを実施していく予定が立った。
(c) 事業化体制
① コンソーシアムの適正化
平成25年度よりコンソーシアムの適正化を図り、製造販売の責任企業の交代を行った。高度医療機器の薬
事申請の経験が豊富で、広い医療機器販売網を持つ日機装株式会社の参入により、より安心できる製造販売
体制が整ったと言える。
(d) 事業化計画(開発・薬事・上市スケジュール)
① コンソーシアムの適正化(製造販売の責任企業の交代)に伴う回収計画の精査
平成25年度より製造販売の責任企業の交代を行ったことにより、裏付けされた数字に見直しを行い、回収
計画がより具体的なものになったと言える。
(下図1)
経過年数
2年目
3年目
4年目
5年目
6年目
市場規模(百万円)
75,000
85,000
90,000
97,000
105,000
販売数量(台)
200
400
1,000
2,000
4,000
単価(千円)
3,200
2,500
1,200
1,000
800
経過年数
2年目
3年目
4年目
5年目
6年目
市場規模(百万円)
23,800
25,760
27,720
29,680
31,640
販売数量(本)
9,520
19,578
31,601
44,520
60,116
単価(千円)
100
100
100
100
100
(下図2)
32
(3) 有識者委員会・伴走コンサル指摘事項とその対応
(a) 薬事面
指摘事項
特記すべき事項なし。
(b) 技術・評価面
指摘事項
特記すべき事項なし。
(c) 知財面
指摘事項
特記すべき事項なし。
(d) 事業化面
指摘事項
特記すべき事項なし。
(e) その他全般
指摘事項
特記すべき事項なし。
33
(4) 委託事業を振り返って改善すべきであった点
(a) 事業体制
特記すべき事項なし。
(b) 事業の進め方
特記すべき事項なし。
(c) その他
特記すべき事項なし。
34
3.1.2 これまでの委託事業の成果と今後検討すべき課題
採択から 3 年後の到達目標
現時点での達成状況
(計画変更理由を含む)
▶
1.携帯型半導体マイクロ波発生装置の量産型
試作機の開発完了:携帯型半導体マイクロ波
発生装置を手術機器(止血器)操作部との接続
部に内蔵し、バッテリーと制御部はショルダ
ーの筐体に内蔵するマイクロ波発生装置の開
発を行う。
2.携帯型半導体マイクロ波発生装置と接続可
能な手術機器(止血器)の量産型試作機の開発
完了。
3.止血器具に最適な先端部分の抗炭化表
面処理
4.薬事申請方策検討
▶
1.高周波部
周波数2.45GHzで高効率動作する窒化ガリウム
HEMTを開発し、これを最終段に使用した小型高出
力発振器を製作し、出力電力50W、効率58%(最終
段)を得た。
・出力電力 目標 50W 達成。
・効率(最終段) 目標70%に対し58%未満。
2.GaNダイオード
・要求耐圧400Vに対し、耐圧400Vを超える試料を
15個確保できた。
・低周波、低電圧の測定で目標0.5~5pFに対し、
3~11pFの要領変化比が確認できた。
3.可変出力整合回路
・基盤/治具 設計完了。
・部品 実装完了。
・ダイオードの信頼性問題で評価未達。
4.バッテリ部
高周波電力50Wで約30分連続稼働可能なバッテ
リの開発を完了。
5.制御部/ソフト部
・試作を完了し、仕様通りの機能を確認した。
6.筐体設計
・A4サイズ程度の試作完了。
1.鑷子型手術機器および鉗子型手術機器の改良モ
デルの設計・組立完了。
2.小型半導体マイクロ波発生装置(通常電源)で、
鑷子型手術機器では動物実験にて40W、5秒程度
での止血力確認。
1.ステンレス素材への焦げ付き性検討用表面加工
サンプルの作製。めっき、ウェットコーティング
等数種の皮膜で、マイクロ波出力・摘出臓器によ
る焦げ付き防止性の確認。
2.手術機器先端部への皮膜作製の検討。
3.数種の皮膜で、基礎的な生体安全性の確認。
1.競合製品の申請区分等の調査
35
目標達成を阻害する要素の洗い出しと
対応策
来年度検討・実施すべき事項
▶ (来年度実施計画)
1.GaNダイオード
・可変出力整合回路への実装時に電極剥離が多
発した。対策として、電極表面金メッキの下地
であるNi層をより接合強度が得られるTiに変
更することで、改善効果を確認した。
2.可変出力整合回路
・耐電圧特性、インピーダンス変化量、損失が
重要なパラメータが未評価である。平成25年12
月に前述の測定および評価を実施予定。
1.携帯型半導体マイクロ波発生装置
・平成26年度に量産器の仕様の決定。
・安全認証試験/EMC試験に耐え得る安
全設計。
・手術機器(止血器)へ高周波部を装荷
するための熱設計思想の確立。
2.高周波部
・現状サイズ85×40×20.2mmの半減化
の検討。
・効率の改善。
3.GaNダイオード
・量産工場の選定。
4.可変出力整合回路
・小型化の検討。
現状58%を70%に近づけるための改
善。
5.バッテリ部
・小型軽量化の検討。
現状800gを500g程度に。
・脱着構造の検討。
6.筐体設計
・量産デザインの構想。
1.鑷子型手術機器改良モデル
手術機器としての機能性とマイクロ波伝導
効率。
2.鉗子型手術機器改良モデル
凝固力不足、把持部絶縁体への凝固血液の付
着。
1.マイクロ波出力下焦げ付き防止に及ぼす皮膜
に関する要因が未検討。
【対応策】
膜厚、均一性、元素組成等を評価し、焦げ付き
防止性との相関を調査する。
1.鑷子型手術機器改良モデル
機能性・伝導効率の向上、ボディー
スイッチを設ける。
2.鉗子型手術機器改良モデル
把持部改良による凝固性能の向上、
把持部絶縁体部にも表面処理を施す。
1.焦げ付き防止性があっても、生体安
全性が低かった皮膜について、改善策
を検討する。
2.先端部皮膜コーディングを施した手
術機器について、マイクロ波出力下で
の焦げ付き防止性を検討する。
1.一般名称の選定の検討。
2.保険申請戦略方針の策定および薬事
申請戦略の策定。
1.診療報酬算定をベースに薬事申請戦略の検
討。
3.1.3 平成 26 年度以降の実施内容に関する計画(案)
2014(平成 26)年度 実施内容(案)
項目名
具体的な内容
①量産試作品の開発
1)携帯型半導体マイクロ波発生装置(B案を基本とした量産仕様の決定)
安全性認証試験/EMC試験に耐え得る安全設計・筐体設計
小型軽量化
2)手術機器(止血器)
B案に適合する手術機器の量産試作品
マイクロ波伝導効率の向上
手術機器としての機能性向上
3)表面加工技術の取組み
量産試作品の手術機器(止血器)先端部への加工
②量産試作品の検証
1)携帯型半導体マイクロ波発生装置と手術機器(止血器)の融合
量産試作品での動物実験による止血能力の確認
携帯型超音波凝固切開装置(Sonicision)との性能比較
2)表面加工技術の評価
量産試作品での性能評価(一般的に用いられているフッ化加工との比較、量
産製品へ適応を判断)
③薬事戦略の評価
1)市場調査、薬事申請調査結果に基づいた薬事戦略の策定
36
2015(平成 27)年度
実施内容(案)
1)量産体制の検討・準備
パッケージングの検討・決定
2)量産体制の検討・準備
パッケージングの検討・決定
1)電気安全性試験、性能評価、非臨床評価など
2)性能試験、非臨床評価など
1)薬事申請の準備
電気等安全性評価、性能評価
3.1.4 委託事業終了時までに完成する最終製品の概要とスケジュール
最終製品名
概要
携帯型マイクロ波手術器 1.止血能力
(仮)
40W5秒(3mm血管)
止血可能最大径:7mm
2.サイズ
縦170mm×横240mm(A4サイズの80%程度)×厚み100mm
3.重量
3kg
37
スケジュール
2015年度末までに薬事申請準備と行う。