曲がり角の太陽光発電

 曲がり角の 太陽光 発電
(写真はブルームバーグ)
太陽光発電 狂ったシナリオの行方
過去10年間で需要が2桁の伸びを示し増強を進めていた太陽光パネルメーカーだが、欧州での補助金削減や
天然ガス価格の急落による競争力低下から経営危機に陥っている。中国の大手メーカーも出荷が増えている一方
で、今年の収益は落ち込むとの見通しを示している。2011年に分析されたリポートでも、先行きの懸念を示
していた。(写真はブルームバーグ)
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世界の太陽光発電設備市場は拡大が続いている。2011 年の世界での導入量は、また記録を更新した。欧州
では、太陽光発電による電力の買い取り価格の引き下げが続いているが、それ以上に設備の価格下落が続き、
導入の後押しをしている。
技術革新により設備の価格が下がっているのであればよいが、設備価格を下げているのは、世界的な供給過
剰による競争の激化だ。昨年後半から、米国、ドイツを中心に破綻する太陽電池企業が相次いだが、供給過剰
の状況は依然解消されていない。
11年の第3あるいは第4四半期の決算では、最も価格競争力がある中国メーカーを含む多くの太陽電池企業が
赤字となっている。日本企業も例外ではない。そんななか、自国の太陽電池メーカーへのテコ入れを行う国も
出てきた。フランスは欧州製設備への優遇措置を取ると発表、米国も国内メーカーへの税控除の延長を発表し
た。
その一方、太陽光発電設備価格の下落が続いていることから、電力の買い取り価格をさらに見直し、減額す
る動きも出てきた。英国は昨年10月に買い取り価格を半減させた。ドイツも近々、買い取り価格を20∼ 30%
引き下げる予定と発表している。
生き残りをかけた競争が続くなかでの、再生可能エネルギー市場拡大とメーカー支援にはどの程度、政策の
効果があるのだろうか。厳しい競争のなかで、日本メーカーは戦えるのだろうか。
供給過剰が続く太陽電池市場
2000年のドイツを皮切りに各国で本格的に導入された再生可能エネルギーによる電力の固定価格買い取り制
度(FIT)の見直し、価格引き下げが、欧州各国で行われているにもかかわらず、11年も世界の太陽光発電設備
の導入量は過去最高を更新した。
数量が順調に伸びている背景としては、太陽光モジュール価格が大きく下落し、日照時間などの条件に恵ま
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数量が順調に伸びている背景としては、太陽光モジュール価格が大きく下落し、日照時間などの条件に恵まれて
いる国では、「グリッドパリティ」と呼ばれる、補助なしで他の電源と競争可能なコストになったことが挙げられ
る。
ただし、残念なのは、モジュール価格の下落は技術革新により達成されたものではなく、供給過剰が招いた結果
ということだ。
モジュール価格の下落により、昨年の夏以来、米国では太陽光発電関連メーカーの破綻が相次いだ。9 月上旬に
は、連邦政府が5 億3500 万ドルの借り入れの保証を行っていたソリンドラ社が、日本の民事再生法に相当する連邦
破産法11条を申請し話題になったが、メーカーの破綻はその後もドイツに本拠を置く企業で続いている。
11年10月に太陽電池メーカー、アライズ・テクノロジーズ・ドイッチェランド社、12月中旬にはモジュールメー
カーのソローン社、その1週間後にはデベロッパーのソーラー・ミレニアム社と破綻が相次いだ。
昨年、生産縮小と労働者の解雇を発表した企業は世界中に及んだ。ドイツに本拠を置く、ソーラー・ワールド
社、英国のPVクリスタロックス社、カナダのデイ4 エナジー社、ノルウェーのリニューアブルエナジー社などだ。
需要量は伸びているが、生産能力がそれ以上に伸びているのが、破綻と生産縮小の理由だ。11年の太陽光発電設
備の国別導入量は表表1 の通りだ。10年の世界での設備導入量は1700 万kW であったが、11 年には2380万kWに伸
びたとみられている。
一方、生産能力は5000 万kWあるともいわれており、完全に供給過剰の状況だ。市場は順調に伸びているもの
の、生産者が期待しているほどの伸びではないということだろう。
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低迷する企業業績
供給過剰の状況はメーカー間の競争激化を作り出し、太陽電池とモジュール価格は下落を続けている。
ドイツでは、2011年初頭の太陽光発電設備の価格は、事業用で1kW当たり1800ユーロだったが、年末には1500
ユーロに下落し、家庭用の設備の価格は年初の1kW当たり2200ユーロから1800ユーロに下落したといわれてい
る。さらに、1kW当たり680ユーロというモジュール価格もあると報道されている。
米国も同様の状況であり、大規模設備では1kW 当たり850 ドルでの見積もりも報告されている。中国でも太陽光
モジュールの価格は1kW当たり1000米ドルを切ったとの報道がある。
数量が順調に伸びている背景としては、太陽光モジュール価格が大きく下落し、日照時間などの条件に恵まれて
いる国では、「グリッドパリティ」と呼ばれる、補助なしで他の電源と競争可能なコストになったことが挙げられ
る。
ただし、残念なのは、モジュール価格の下落は技術革新により達成されたものではなく、供給過剰が招いた結果
ということだ。
モジュール価格の下落により、昨年の夏以来、米国では太陽光発電関連メーカーの破綻が相次いだ。9 月上旬に
は、連邦政府が5 億3500 万ドルの借り入れの保証を行っていたソリンドラ社が、日本の民事再生法に相当する連邦
破産法11条を申請し話題になったが、メーカーの破綻はその後もドイツに本拠を置く企業で続いている。
11年10月に太陽電池メーカー、アライズ・テクノロジーズ・ドイッチェランド社、12月中旬にはモジュールメー
カーのソローン社、その1週間後にはデベロッパーのソーラー・ミレニアム社と破綻が相次いだ。
昨年、生産縮小と労働者の解雇を発表した企業は世界中に及んだ。ドイツに本拠を置く、ソーラー・ワールド
社、英国のPVクリスタロックス社、カナダのデイ4 エナジー社、ノルウェーのリニューアブルエナジー社などだ。
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需要量は伸びているが、生産能力がそれ以上に伸びているのが、破綻と生産縮小の理由だ。11年の太陽光発電設
備の国別導入量は表表1 の通りだ。10年の世界での設備導入量は1700 万kW であったが、11 年には2380万kWに伸
びたとみられている。
一方、生産能力は5000 万kWあるともいわれており、完全に供給過剰の状況だ。市場は順調に伸びているもの
の、生産者が期待しているほどの伸びではないということだろう。
太陽電池とモジュール価格は下落
供給過剰の状況はメーカー間の競争激化を作り出し、太陽電池とモジュール価格は下落を続けている。
ドイツでは、2011年初頭の太陽光発電設備の価格は、事業用で1kW当たり1800ユーロだったが、年末には1500
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ユーロに下落し、家庭用の設備の価格は年初の1kW当たり2200ユーロから1800ユーロに下落したといわれてい
る。さらに、1kW当たり680ユーロというモジュール価格もあると報道されている。
米国も同様の状況であり、大規模設備では1kW 当たり850 ドルでの見積もりも報告されている。中国でも太陽光
モジュールの価格は1kW当たり1000米ドルを切ったとの報道がある。
設備の価格が下落を続けていることから、各国の太陽電池、モジュールメーカーは出荷数量が増えるにもかかわ
らず、利益が低迷する事態に直面している。 太陽電池シェア第1位の中国サンテック社の11 年第3 四半期の売り上
げは前年同期比9 % 増の8 億1000 万米ドルだ。 太陽電池シェア第1位の中国サンテック社の11 年第3 四半期の売り上げは前年同期比9 % 増の8 億1000 万米ドル
だ。しかし、最終利益は前年同期の 6260万ドルに対し1600万ドルの損失になっている。過剰生産による販売低迷
の影響は在庫額に顕著に表れており、前年同期の4470 万ドルが6960 万ドルと 56%増になっている。
同社の第4四半期の最終業績はまだ発表されていないが、速報値が発表された。第4 四半期の売り上げは6億1000
万~ 6億3000万ドル程度、年間の売り 上げは31億3000 万~31 億5000 万ドルの間だ。前年の売り上げ29 億ドルは
約9%伸びた。一方、前年の販売数量157万kWは209万kWと33%伸びており、 単価はかなり下落している。
東北地方での設備製造計画を発表したカナディアン・ソーラー社は中国でも太陽電池を製造している。同社の11
年第3 四半期の売り上げは5 億米ドルと前年 同期比で33%加しているが、最終利益は前年同期の2000 万ドルの利
益が4400 万ドルの損失になっている。同社の11年のモジュール出荷予想量は132万kW で10年の80万kWから65%
増と売り上げ増を大きく上回って伸びており、単価は約20%下落している。
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日本メーカーも供給過剰による影響を受けている。シャープの12 年度第3四半期の決算短信によると、第3四半
期までの累計(12年4 ~12月)で太陽電池の 売り上げは1594億円となっており、前年同期の2035億円から22%減少し
ている。純利益は148億円の損失となっており、前年同期の44 億円の利益から大きく 減少した。
かつてシェア世界一であったドイツQセルズ社の株価は80ユーロを超えていた時期もあったが、今や30ユーロセ
ントまで低迷している。最高値の200分の1以下だ。 市場がメーカーを見る目は厳しくなっている。(4月2日に破産
法申請)
世界の全てのメーカーが消耗戦に突入している状況だが、この状況を受け、欧州と米国は再生可能エネルギーに
よる発電に関して新しい政策を打ち出し始め た。
さまざまな再生可能エネルギー政策
イタリアは、FIT を昨年6 月に見直し、事業用の太陽光発電事業からの買い取り量に上限値を設定したが、見直
し前に予想されていた買い取り価格の引き下げ が行われなかったことから、太陽光発電設備は順調に伸び、昨年は
ドイツを抜き世界最大の太陽光導入国となった。
累計では2500 万kW の設備量を持つドイツには及ばず1200万kWを超えた程度とみられているが、米国の500 万
kW 強、日本の500 万kW弱を上回ってい る。
イタリアではベルルスコーニ前首相の退陣により、制度の見直し、あるいは大幅な引き下げが行われるのではな
いかと観測が出ており、制度の将来像が不透明な ことから太陽光発電設備導入に対する投資は当分の間低迷する
とみられている。市場のためには制度を度々変更しないことが重要だ。
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太陽光設備の供給過剰による価格の低迷は、欧州で再度のFIT の買い取り価格の引き下げを招く結果になってい
る。2月23日付の英紙ガーディアンは次のよう に伝えている。
「2010年4月に労働党政権により導入されたFIT により、英国の太陽光パネル導入量は過去22カ月間に急増し、2
月22 日に100 万kW を超えた。しかし、急 激に設備の導入が進んだことから、昨年10月、政府は買い取り価格を
50%引き下げることを決めた。この政府の決定については、違法との判例が出されており、 政府は21 日に最高裁
に控訴した。もし政府が敗訴すると、12月以降1kWh当たり21ペンスしか受け取れなかった太陽光発電設備導入者
は43.3ペンスを受け取 れることになる。買い取り価格は減額されたが、導入費用は値下がりしており、労働党時代
に予想されていた2.5倍の設備が15年までに導入されると政府は主張 している」
設備の価格が大きく下落しているために、買い取り価格を下げても高い設備導入のペースは続くというのが英国
政府の見方だが、ドイツ政府は少し異なる見方を しているようだ。
ドイツ政府は昨年、買い取り価格の引き下げを決めたが、太陽光発電設備の導入は依然高い水準で推移してい
る。ドイツ政府は、太陽光発電設備の導入増 が電力料金の大きな値上げを招くことを警戒しているといわれてお
り、年間の設備導入量を250 万kWから350 万kWに抑えたい意向だ。
レトゲン環境相は、30年までに6600万kW の太陽光発電設備を導入したいと表明しているが、大臣は太陽光発電
設備のコストは将来でなく現状で受け入れ 可能なレベルでなければならないとして、表2 のように買い取り価格を
3 月あるいは4 月から20 ~ 30%引き下げると発表した。ドイツは、設備価格の下落による導 入量の急増に警戒感を
持っている。
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供給過剰により設備価格が下落し、太陽光発電設備のメーカーは収益を出せない状況だが、価格が下落した設備
を購入する太陽光発電の事業者は、FITにより政府が想定しているより大きな利益を出すことができる。 英国ある
いはドイツ政府のように買い取り価格を引き下げないと、消費者の負担で発電事業者が大きな利益を上げる構造が
残ってしまうことになる。
一方、買い取り価格の引き下げは、設備導入量を減少させることになり、供給過剰の状況の解消は遠のくことに
なる。市場の供給過剰の状況は解消されず、さ らに、太陽光発電設備関連企業の破綻、生産縮小が続くことになる
可能性がある。この状況を改善するために、フランスのコシウスコモリゼ・エコロジー相は政府による欧州メー
カー支援策を発表した。
フランス唯一の太陽電池メーカーであったフォトワット社は昨年11月に破綻し、現在更生手続き中だが、サルコ
ジ大統領と共に2 月17日に同社の本社を訪問し たコシウスコモリゼ大臣は、欧州製の設備を利用し太陽光発電を
行った事業者は10%高い電力料金を受け取ることができると発表した。詳細については、今後詰 められ4月に発表
される予定だ。
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また、サルコジ大統領も訪問時に、同社をフランス電力公社が買収する予定であると発表している。政府による
露骨なメーカー支援策だが、この政策には大統領 選が近いことも影響しているのだろう。
フランスと同様に大統領選が近い米国でも、オバマ大統領が再生可能エネルギー分野に関する税制度の政策を2
月22日に発表している。日本では、法人税の 引き下げが報道されたオバマ大統領の税制改革案だが、昨年末に期
限が切れた再生可能エネルギー分野での税額控除を恒久的に行う案も含まれている。
太陽電池設備の将来の導入量は
米国の太陽光発電設備メーカーが中国メーカーを不当廉売として提訴しているが、米国の国際貿易委員会は6 対0
で本件を取り上げることを決め、商務省が 調査を行うことになった。この提訴の行方次第では、中国での製造量が
減少する可能性がある。
例えば、カナディアン・ソーラー社は不当廉売の決定が出れば、中国工場からの太陽電池の米国への輸出を止
め、他の工場から米国に供給すると明言してい る。既に昨年の後半から、破綻、生産縮小の動きが出ているよう
に、徐々に市場は正常になり、価格も上昇する可能性があるとみてよいだろう。
ただし、送電線網の増強が各地で進むことが条件だ。太陽光発電設備をはじめとする再生可能エネルギーからの
発電は不安定であり、送電線網に負担をかけ る。欧州でも再生可能エネルギーによる発電量をこれ以上増やすと系
統が不安定になり、停電を招く可能性があると指摘されている。
また、再生可能エネルギーを導入するためには、蓄電池機能を持つ揚水発電設備を利用する必要がある。図に主
要国の原発と揚水発電設備の比率が示され ている。余談だが、原発のために揚水発電設備が設置されたと主張す
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る研究者がいるが、原発と揚水設備は無関係なのが分かる。イタリアなどが保有する大きな 揚水設備を、再生可能
エネルギーのバックアップとして利用するためにも、送電線網の増強が必要とされている。
日本でも、7 月から再生可能エネルギーによる電力の買い取りが開始されるが、買い取り価格が高くなり、大量
の導入が行われば、送電線整備などの系統安定 化費用が必要になる。政府のエネルギー・環境会議のコスト等検証
委員会による再生可能エネルギーの発電コストには系統安定化費用が含まれていなかったが、 この費用が国民生活
と産業に大きな影響をももたらすことも考える必要がある。
また、供給過剰による設備価格の下落をどの程度まで考慮し、価格を決定すればよいのか。英国、ドイツのよう
に考えるのか、フランス、米国のようにメーカー支援 を考えるのか、難しい選択だ。
ビジネスアイebooks 選書 002 曲がり角の太陽光発電
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