1 ルート法で行ったアデノシン負荷心筋シンチグラフィの

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《技術報告》
1 ルート法で行ったアデノシン負荷心筋シンチグラフィの安全性
河合 裕子* 木住野 皓**
要旨 片側上肢に 1 ヶ所のみの血管確保 (以後 1 ルート法) を用いてアデノシンによる負荷心筋シン
チグラフィを施行した.アデノシン投与期間中および心筋血流製剤投与直後の自覚症状,収縮期血圧,
拡張期血圧および心拍数への影響を検討する.
狭心症が疑われる患者 66 名 (男性 43 例,68±11 歳) に対して,1 ルート法により,アデノシン 120
µg/kg/min を 6 分間持続静脈内投与することによる負荷心筋シンチグラフィを施行した.
アデノシン持続投与中に同一ルートから心筋血流製剤を注入したが,これによる収縮期血圧,拡張期
血圧および心拍数には有意な変化はなかった.アデノシン投与開始直後に全症例の 64%,心筋血流製
剤投与直後に 8% で新たな所見が出現したが,いずれも軽度であり,投与終了後速やかに消失した.
以上より,1 ルート法を用いたアデノシン負荷心筋シンチグラフィは安全であり,両側上肢に血管確
保することが困難な症例に対して有用と考えられた.
(核医学 43: 15–21, 2006)
I. は じ め に
診断補助剤として保険収載され,一般病院でも日
常の負荷検査に使用可能となった.
核医学検査を用いた虚血性心疾患の診断には運
しかし,アデノシン使用に定められた用法・用
動負荷検査が多く用いられてきた.しかし,患者
量では,「原則として本剤および放射線診断薬は
の高齢化による下肢筋力の低下や血圧上昇の回避
別々の投与経路を確保すること」(以後 2 ルート
などのため十分心筋虚血が誘発されるほどの負荷
法) と記されている.2 ルート法では両側上腕に
をかけられない症例も多く,こうした場合には薬
血管確保が必要となることから特に高齢患者に
剤負荷検査が勧められる1∼4).負荷検査を行う薬
とっては苦痛が大きい.今回われわれはこの点を
剤としては,諸外国ではアデノシン1∼3),ジピリ
考慮し,片側上肢に 1 ヶ所のみの血管確保 (以後
ダモール4) が用いられ,十分な検査成績をあげて
1 ルート法) を用いて負荷検査法を試み,この方
きた.日本では本適応で承認された薬剤がなかっ
法の安全性を検討した.
たが,2005 年 6 月から,アデノシンが心臓疾患
* カレスサッポロ北光記念病院循環器内科
** 同 北光記念クリニック
受付:17 年 9 月 22 日
最終稿受付:18 年 1 月 18 日
別刷請求先:札幌市東区北 27 条東 8 丁目 1–6
特定医療法人社団カレスサッポロ
北光記念病院循環器内科
(0 065–0027)
河 合 裕 子
II. 目 的
当院で行っている 1 ルート法について報告す
る.併せてこの方法を用いてアデノシン負荷検査
を行う場合,心筋血流製剤を注入した際に自覚症
状,収縮期血圧 (SBP),拡張期血圧 (DBP) およ
び心拍数 (HR) には影響が及ばないことを確認す
る.
核 医 学
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43 巻 1 号 (2006 年)
III. 対 象
用いて行った.マトリックスは 64×64 とした.
50 秒,32 方向のデータ採取を施行した.再構成
2005 年 7 月より当院に狭心症の精査目的で入
については,前処理フィルタは Butterworth を用
院した症例のうち,アデノシンによる負荷心筋血
い,垂直長軸・水平長軸・短軸の 3 断層像を作成
流シンチグラフィを施行した連続 66 例 (男性 43
した.Cut off 値は 10% とし,吸収補正は行わな
例.年齢:68±11 歳,29∼90 歳) を対象とした.
かった.
IV. 方 法
1.
アデノシン負荷検査
4.
自覚症状,血圧,心拍数,心電図
1) 自覚症状は投与開始前から検査終了後まで
観察した.
原則として絶食下,非内服下にて施行した.臥
位にて安静状態にある患者の片側の前腕皮静脈よ
2)
SBP,DBP および HR は,アデノシン投
与前,投与 2 分後,心筋血流製剤注入直後 (投与
り本剤 120 µg/kg/min を 6 分間持続静脈内投与し
3 分後),心筋血流製剤注入 1 分後 (投与 4 分後),
た.
アデノシン投与終了時 (投与 6 分後),アデノシ
2.
1 ルート法 (Fig. 1)
ン投与終了 3 分後 (投与 9 分後) に測定した.心
① 生理食塩水 500 ml:血糖コントロール中の
場合を考慮してブドウ糖液は避けた.
② 延長チューブ:次の患者の検査では ③ 以
下を交換する.
電図は,投与前から終了時までモニター心電図に
て連続的に観察するとともに,上記と同時期に
12 誘導心電図を記録した.
5.
説明と同意
③ 三方活栓 2 個:患者に対して遠位の三方活
すべての対象患者に,1 ルート法で行うアデノ
栓 (A 活栓) から ⑤ に連結してアデノシンを,近
シン負荷心筋シンチグラフィの意義および起こり
位の三方活栓 (B 活栓) より心筋血流製剤を投与し
うる副作用について説明し,施行の同意を得た.
た.
6.
④ 23G 注射用針:B 活栓から患者の静脈ま
で.チューブ容量は 0.45 ml.
安全性の評価方法
アデノシン投与後および心筋血流製剤投与後,
経過観察中に新たに発現した症状をすべて有害事
⑤ アデノシン持続静注のためのシリンジポン
象とした.負荷試験の結果として起こりうる可能
プ:ポンプの最高速度表示を確認する.アデノシ
性のある胸痛,胸部圧迫感についても有害事象と
ンを用いる場合にはジピリダモール,ATP 負荷検
して取り上げた.SBP は検査前の測定結果より
査と比較して投与速度が速い.たとえば体重 70
30 mmHg 以上の低下,HR は 20/分以上の増加を
kg の患者では,ATP の速度は 67.2 ml/hr であっ
有意とした.
たのに対し,アデノシンでは 168 ml/hr である.
シリンジポンプの設定に注意する.
3.
心筋血流シンチグラフィ
心筋血流製剤として 99mTc-tetrofosmin (48 例),
99mTc-sestamibi
(12 例),201Tl (6 例) を用い,それ
ぞれ通常量を投与した.検査終了後,99mTc 製剤
は約 30 分後から,また
201 Tl
では 15 分後から
SPECT 像を撮像した.
7.
統計解析
本論文の目的より,心筋血流製剤注入時を含め
たアデノシン持続投与期間を主たる統計学的解析
の関心対象と考え,アデノシン投与前および投与
終了後については解析の対象にしなかった.
評価指標は,SBP,DBP および HRを用いた.
アデノシン投与期間における SBP,DBP および
HR の経時的反応の関係を検討するために単調反
撮像は,高感度コリメータを装着した GE 社製
応の傾向性評価を回帰分析で行った.次に経時的
デジタルガンマカメラ;Millennium MG と画像再
な推移パターンを明らかにするために,投与 2 分
構成用コンピュータ;GENIE Xeleris Ver.1.063 を
後の時点を対照として,投与後 3 分,投与後 4
1 ルート法で行ったアデノシン負荷心筋シンチグラフィの安全性
17
Table 2 Symptoms in adenosine stress imaging
after adenosine after MPI tracer
injection
injection
Fig. 1 Outline of the 1-route protocol.
Table 1 Relationship of adenosine injection rate and
time to take from A to C stopcock
body weight adenosine injection Time: from A to C (sec)
(kg)
rate (ml/hrs)
practice
theory
50
60
70
120
144
168
13
10
8
13.5
11.3
9.6
total
42/66 (64%)
5/66 (8%)
17 (26)
2 (3)
15 (23)
7 (11)
6 (9)
1 (2)
1 (2)
0 (0)
chest oppression
or dyscomfort
dyspnea
or throat dyscomfort
feeling of warmth
headache
epigastric oppression
or dyscomfort
bad feeling
chest pain
back pain
thirsty
decreased BP
increased HR
PVC, PAC
AV or SA block
ST depression
4
2
1
1
1
7
3
3
2
1
(6)
(3)
(2)
(2)
(2)
(11)
(5)
(5)
(3)
(2)
0 (0)
0 (0)
0 (0)
1 (2)
0 (0)
0 (0)
0 (0)
0 (0)
0 (0)
1 (2)
Number of patients (%)
分,投与後 6 分の各時点における SBP,DBP お
の患者で 9.6 秒であった (Table 1).この結果に基
よび HR の比較を Dunnett 検定 (有意水準両側 5%)
づき,A 活栓から静脈までの部分をカバーするべ
にて実施した.
く,アデノシンの静注時間を 15 秒間加算した.
解析は,JMP ver.5.01 SAS (SAS Institute Japan
株式会社) により実施した.
V. 結 果
1.
1 ルート法 (Fig. 1)
すなわち,アデノシンを 6 分 15 秒間,持続静注
した.これにより,体内への投与時間は指定され
ている 6 分間である.
4) アデノシンを開栓してから 3 分 15 秒後に
心筋血流製剤を B 活栓から投与する.このとき,
1) 臥位にて安静状態にある患者の片側の前腕
三方が開栓しているまま注入すると A 活栓を通じ
皮静脈に,上記 ①∼⑤ を接続して血管確保する.
て心筋血流製剤はアデノシンのシリンジおよび生
2) 生理食塩水は,アデノシン投与開始後全開
理食塩水方向に逆流する.このため,心筋血流製
で持続静注する.今回の検討では,66 名の患者
剤を入れるときには B 活栓は心筋血流製剤と静脈
に対して,平均 48±12 ml (20∼100 ml) の生理食
穿刺部の方向しか開栓しないように 90 度回す.
塩水を投与していた.
静脈からの逆流すなわち血管確保を確認した後,
3) アデノシンのシリンジポンプを A 活栓に接
心筋血流製剤を注入し,直後のフラッシュは行わ
続する.この時にはアデノシンは A 活栓までしか
ない.再び活栓を 90 度戻すと,再び生理食塩水
到達しておらず,ここから静脈穿刺部までの間に
とアデノシンが静脈に注入される.
はアデノシンが満たされていない.そこでわれわ
2. 自覚症状 (Table 2)
れは,A から静脈穿刺部までのチューブ (0.45 ml)
アデノシン投与開始後の症状発現率は,全体で
にアデノシンが満たされるまでの時間を実験的に
64% (42/66) であった.内訳は,胸部不快感,胸
求めたところ,体重 50 kg の患者で 13 秒,70 kg
部圧迫感などの胸部症状 26% (17/66),呼吸困難
核 医 学
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43 巻 1 号 (2006 年)
Fig. 2 Hemodynamic parameter.
感,咽頭不快感などの呼吸器症状 23% (15/66),
見られなかったが,6 分では 9 mmHg の有意な減
熱感 11% (7/66),頭痛 9% (6/66) などであった.
少を示した (p<0.05).また,DBP は投与後 3
これらの程度は軽度であり,負荷を中止したもの
分,4 分および 6 分すべての時点で有意差は認め
はなく,またアデノシン投与中止後には速やかに
られなかった.
消失した.
したがって,SBP および DBP の平均値はそれ
心筋血流製剤注入直後の症状発現率は,全体で
ぞれアデノシン投与後の時間経過とともに単調に
8% (5/66) であった.内訳は,胸部症状 3% (2/
減少することが明らかになった.また,アデノシ
66),呼吸器症状,熱感,背部痛がそれぞれ 2%
ン投与後 2 分に比べ,SBP の投与後 6 分以外で
(1/66) であった.これらの症状も軽度かつ一時的
は平均値に有意な減少は認められなかった.
であり,速やかに消失したため,そのまま検査を
続行した.
3.
血圧,心拍数 (Fig. 2)
一方,HR は回帰分析の結果,単調な経時的反
応が認められなかった.アデノシン投与後 2 分を
対照とした Dunnett 検定では,HR は投与後 3
いずれの指標も等分散性が認められた.
分,4 分および 6 分すべての時点で有意差を認め
SBP は正規性が認められなかったが,DBP お
なかった.
よび HR は正規性が確認されたので,いずれの指
標も生データに基づき,解析を行った.
回帰分析の結果,SBP,DBP はすべて単調な
したがって,HR は時間経過に伴う単調な変化
が見られず,さらにその平均値はアデノシン投与
2 分後と比較して著しい変化がないことが示され
経時的反応が認められた (p=0.0158,0.0166).
た.
アデノシン投与後 2 分を対照とした Dunnett 検定
5.
では,SBP は投与後 3 分および 4 分で有意差が
心電図では,アデノシン投与開始後,上室性期
心電図 (Table 2)
1 ルート法で行ったアデノシン負荷心筋シンチグラフィの安全性
19
外収縮または心室性期外収縮の出現 5% (3/66),
が,140 µg/kg/minであっても虚血検出率に差を認
洞房または 1 度房室ブロック 3% (2/66),ST 低
めなかった5) ことから,このわずかな増量によっ
下 2% (1/66) を認めた.また心筋血流製剤注入直
ては検査結果に影響は少ないと考え,体重 50 kg
後に ST 低下 2% (1/66) を認めた.
以上の患者をカバーできる時間として 15 秒を加
5.
安全性の評価
算した.心筋血流製剤を注入した直後には,これ
以上の結果を総括してみると,1 ルート法を用
により 23G チューブが満たされ,一時的にアデノ
いてのアデノシン持続投与期間中の心筋血流製剤
シンが体内に入らなくなる.このときに心筋血流
注入は,自覚症状,SBP,DBP および HR,な
製剤を長時間かけて入れていると,アデノシンの
らびに心電図変化に著しい影響を及ぼさないもの
半減期は 2∼10 秒ときわめて短時間6) なので効果
と考えられた.
がなくなり,持続投与とは言えなくなる.さらに
VI. 考 察
アデノシンを B 活栓で停止させているためシリン
ジの注意ブザーが鳴る.これを防ぐため,心筋血
アデノシンを用いた薬剤負荷検査を,片側上肢
流製剤は one-shot で注入する.一気に押し入れる
に 1 ヶ所のみ血管を確保し,ここからアデノシン
とアデノシンが体内に急速に注入されて房室ブ
と心筋血流製剤を投与する 1 ルート法で行い,こ
ロックの出現が懸念されるところであるが,この
の方法により,安全性に問題なく負荷検査を行う
とき B 活栓から静脈穿刺部までは,アデノシンは
ことができた.
原液ではなく生理食塩水で希釈されている.これ
当院で施行している 1 ルート法の特徴は,まず
により,原液を急激に大量注入することにはなら
生理食塩水で血管確保して 1 ルートにしているこ
ず,したがってブロックの出現の可能性は低い.
とである.全開の生理食塩水ルートの途中からア
さらに,心筋血流製剤を注入した後には後押し
デノシンが体内に入るので濃度は低下し,急激な
のフラッシュは行わない.煩瑣な手順を経てアデ
冠拡張作用が軽減される.このときアデノシンは
ノシンの入らない生理食塩水のみを引く時間より
シリンジポンプで持続注入しているので決められ
も,単に活栓を開けるだけで十分速い速度で再度
た量が確実に注入される.このシリンジポンプ中
生理食塩水とアデノシンが注入される.
のアデノシンは原液であり,生理食塩水と同一
以上の 1 ルート法でアデノシン負荷検査を施行
ルートであるのは A 活栓から静脈穿刺部までのお
したが,新たな症状の出現率は 64% であり,治
よそ 0.45 ml (A 活栓と B 活栓間の流量は無視し
験において 2ルート法で行われた際の 66.7∼
うる) だけなので,アデノシンを希釈した配合変
77.3%5∼8) と同程度であった.また,途中アデノ
化の影響はきわめて少ないと考えられる.
シンと同一ルートから心筋血流製剤を注入した
次の工夫は投与時間に 15 秒間を加算したこと
である.シリンジポンプを接続した時点ではアデ
が,このときの新たな所見出現率は 8% と許容で
きる範囲であった.
ノシンは A 活栓までしか到達しておらず,着色も
心筋血流製剤に押されてアデノシンが注入され
ないため穿刺部まで満たすのも確実ではない.
ることによる SBP,DBP,HR には著しい変化
23G 注射針 0.45 ml を満たす量を調節するより
はなかった.SBP のアデノシン投与 2 分から 3 分
も,A から静脈穿刺部までにアデノシンが満たさ
にかけて極端な減少,また 3 分から 4 分への立ち
れるまでの時間を加算し,アデノシンの静注時間
上がりがないことは単調減少により証明されてい
を 6 分 15 秒間とした.実験では,50 kg の患者
るので,投与 6 分後の SBP は有意であっても,
に対して加算するべきは 13.5 秒間であるが,体重
123.2 mmHg から 114.2 mmHg までの臨床的には
1 kg あたりの細かい設定は煩雑になること,また
意味のある減少ではないと判断された.
アデノシンの用量は 120 µg/kg/min とされている
Cave ら9) は 1 ルート法と 2 ルート法を用いて
核 医 学
20
43 巻 1 号 (2006 年)
の ATP 負荷検査時に,1 ルート法で行った群で
師,森田顕太郎技師の技術支援に深謝する.第一製
有意に ST 低下,嘔気,胸痛が多かったと報告し
薬株式会社札幌営業所・森脇敏克氏の資料収集,第
ている.しかし,彼らの 1
ルートは,
「201Tl
と生
理食塩水によってアデノシン原液を押す」方法で
あり,出現した症状はアデノシン原液が突然急速
に体内に注入されることによる副作用と考えられ
る.一方,われわれの 1 ルート法は「心筋血流製
剤によってアデノシンと生理食塩水を押す」ので
あり,しかも心筋血流製剤を注入した後は,後押
しのフラッシュは行わずに活栓を開けるだけで再
び決められた量のアデノシンが体内に注入される
手順であることから,彼らの 1 ルート法とは異
なっていると判断した.
運動負荷による心筋シンチグラフィでは,十分
に負荷がかけられない場合には診断精度が低下す
る.今後,高齢患者の増加に伴い,薬剤負荷を選
択することが増加すると思われるが,この際に患
者に負担の少ない 1 ルート法を用いたアデノシン
負荷心筋シンチグラフィの安全性は高いと考えら
れた.
VII. ま と め
狭心症が疑われる患者 66 名に対して,1 ルー
ト法により,アデノシン 120 µg/kg/min を 6 分間
持続静脈内投与することによる負荷心筋シンチグ
ラフィを施行した.
アデノシン持続投与中に同一ルートから心筋血
流製剤を注入したが,これによる SBP,DBP お
よび HR には有意な変化はなかった.
アデノシン投与開始直後に 64%,心筋血流製
剤を注入した際に 8% の症例で新たな所見が出現
した.いずれも症状は軽度であり,投与終了後速
やかに消失した.
以上より,1 ルート法を用いたアデノシン負荷
心筋シンチグラフィは安全であり有用と考えられ
た.
謝辞:当院放射線部・近藤優一技師,秋林和幸技
一ラジオアイソトープ研究所・渡辺将人氏の統計解
析協力に感謝する.
文 献
1) Verani MS, Mahmarian JJ, Hixson JB, Boyce TM,
Staudacher RA: Diagnosis of coronary artery disease
by controlled coronary vasodilation with adenosine
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exercise. Circulation 1990; 82: 80–87.
2) Gupta NC, Esterbrooks DJ, Hilleman DE, Mohiuddin
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(SPECT) myocardial perfusion imaging. J Am Coll
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3) Nishimura S, Mahmarian JJ, Boyce TM, Verani MS:
Equivalence between adenosine and exercise
thallium-201 myocardial tomography: a multicenter,
prospective, crossover trial. J Am Coll Cardial 1992;
20: 265–275.
4) Gould KL: Noninvasive assessment of coronary
stenosis by myocardial perfusion imaging during
pharmacologic coronary vasodilation. I. Physiological
basis and experimental validation. Am J Cardiol 1978;
41: 267–278.
5) 坂田泰史,西村恒彦,山崎純一,西村重敬,梶谷
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験――.核医学 2004; 41 (2): 123–132.
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7) 梶谷定志,銕 寛之,木島幹博,相澤忠範,田中
健,山崎純一,他: アデノシン持続静注が労作性
狭心症患者の冠血流に及ぼす影響.同一患者にお
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52 (5): 529–535.
8) 山崎純一,西村恒彦,西村重敬,梶谷定志,児玉
和久,加藤和三: SUNY4001 (アデノシン) 負荷
201Tl 心筋シンチグラフィの虚血診断能および安
全性――臨床第 III 相試験――.核医学 2004; 34:
133–142.
9) Cave V, Heo J, Cassel D, Iskandrian B, Iskandrian
AS: Side effect during adenosine thallium imaging
with single-port or double-port infusion protocols. Am
Heart J 1992; 124: 610–613.
21
Summary
Safety of Adenosine Stress Myocardial Perfusion Imaging
by a One-Route Infusion Protocol
Yuko KAWAI and Koh KISHINO
Department of Cardiology, Hokko Memorial Hospital
When adenosine stress testing is performed, a vein
is generally accessed in each arm. To determine
whether the one-route infusion protocol, that is, infusion via one upper arm vein, is safe, myocardial perfusion imaging was performed during adenosine stress
testing in patients with angina pectoris.
Sixty-six consecutive patients (43 men, 68±11
years of age) with suspected coronary artery disease
were enrolled in this study. For the stress test, adenosine was injected at 120 µg/kg/min for 6 minutes.
Systolic blood pressure, diastolic blood pressure,
and heart rate did not show any significant changes
after injection of the adenosine and radioisotope (RI)
tracer.
Adverse events during infusion of the adenosine
were seen in 42 (64%) patients and included chest discomfort/oppression in 17 (26%) and dyspnea/throat
discomfort in 15 (23%). On the other hand, adverse
events just after infusion of the RI tracer occurred in 5
(8%) patients and included chest oppression in 2 (3%)
and dyspnea in 1 (2%). Almost all adverse events disappeared quickly without treatment.
Therefore, we concluded that adenosine stress myocardial perfusion imaging using a one-route infusion
protocol is safe and useful to do for patients unable to
secure veins in both arms.
Key words: Adenosine, One-route infusion protocol, Myocardial perfusion imaging, Coronary artery
disease.