『北九州障害者居住サポートセンターの 四年間を振り返って』

『北九州障害者居住サポートセンターの
四年間を振り返って』
社会福祉法人北九州市手をつなぐ育成会
北九州障害者居住サポートセンター
1
1.はじめに
平成 18 年 10 月に、障害者自立支援法内に規定される市町村地域生活支援事業(図 1)のひとつとし
て、北九州市が全国に先駆けて単独センター型での運営を開始して、早いもので四年あまりが経過しま
した。桃栗三年、柿八年・・その真ん中だと思うと「実り」を少しは意識せざるをえません。でも、ま
だまだ土壌づくりや幹の拡がりにアップアップしているのが実態です。それでも、この間に、支援の内
容に濃淡はありますが、平成 22 年 9 月末現在では 147 名の方々が、施設や病院からの地域移行もしくは
地域での住み替え等を通じて新しい生活を始められました。
地域生活支援事業一覧(市町村)
1 相談支援事業 (基礎的事業に加えて実施)
(1) 市町村相談支援機能強化事業
(2) 住宅入居等支援事業(居住サポー
ト事業)
(3) 成年後見制度利用支援事業
2 コミュニケーション支援事業(手話通訳、
要約筆記、点訳、音声訳等)
3 日常生活用具給付等事業(給付・貸与)
4 移動支援事業
5 地域活動支援センター機能強化事業
盲人ホーム事業
訪問入浴サービス事業
身体障害者自立支援事業
重度障害者在宅就労促進特別事
業(バーチャル工房支援事業)
(6) 更生訓練費・施設入所者就職支度
金給付事業
(7) 知的障害者職親委託制度
(8) 生活支援事業 (※)
(9) 日中一時支援事業
(10) 生活サポート事業
(11) 社会参加促進事業 (※)
(12) 経過的デイサービス事業(18年
度限り)
(13) 経過的精神障害者地域生活支
援センター事業(18年度限り)
(2)
(3)
(4)
(5)
(基礎的事業に加えて実施)
6 その他の事業
(1) 福祉ホーム事業
(※) → 市町村の判断で各種の事業を盛り込むことが可能な事業
(図
1)
初の転居者は市外からの転入を希望してこられた、精神科クリニックへ通院している知的障害をもつ
23 歳の青年でした。彼は平成 20 年 8 月に、新天地での新しい生活を始めるために県外へ引っ越してい
きました。そして、147 番目の方は、障害者同士のカップル。知的障害と精神障害をもち、救護施設入
所中に出会ったお二人。施設を飛び出したときから相談だけは受けていたのですが、一旦は知人の紹介
を受けて独力で調整し新居へ。しかし、間にたってくれた知人との関係もこじれ、入居継続が難しくな
ったこととあわせ経済的にも行き詰まり、改めての転居を希望し連帯保証人になってくれる人もおられ
ないため物件調整と併せて公的家賃債務保証制度(※家を借りる際の連帯保証人がおられない方につい
て、家賃債務については北九州市が協定を締結している 2 社の家賃保証事業者を利用する)を当センタ
ーを緊急連絡先として利用し、新しい生活を始めたお二人です。常に金銭管理の課題は見え隠れしてお
り、地域福祉権利擁護事業の利用を前提とする中で、転居後も生活保護受給日にはセンター職員が家賃
の支払いに同行しています。
お一人お一人を支援していく中でいろんなことを学ばせていただき、そして考えさせられたこの四年
2
間あまりでした。数年を経過したことで改めて顕在化してきた課題もたくさんあり、眼前の課題は山積
みです。この四年間あまりをさまざまな角度で検証する中で五年目へ、と繋げていきたいと考えていま
す。
(※お断り/本誌の統計の基準月は、平成 22 年 9 月末ですが、発刊が平成 23 年 3 月末となってしまっ
たため、内容によっては 10 月以降のものも含まれております。読みにくい点もあるかと思いますがご容
赦ください。)
2.事業の現状と概要
事業運営主体は、北九州市。事業を受託したのは、(社福)北九州市手をつなぐ育成会。
法人がエリア性をとっているため、中部エリアの事務局に他の2事業と一緒に拠点をおく形でのスタ
ートでした。年度途中の開始でもあったため、職員は、当初専従は所長(精神保健福祉士)ひとり、学
生も含め、パート職員 3 人で脇を固めてもらう形でのスタートでしたが、平成 22 年 9 月現在では、所長
も含め正規職員 2 名、常勤嘱託職員 2 名、計 4 名の体制で運営しています(平成 23 年 1 月に嘱託職員の
1 名が退職し、パート職員で補てん)。当初に比べれば格段に、人員的な体制は強化できたといえるでし
ょう。昨年の 6 月からは、デイケアや外来看護も含め、精神科病院へ勤務経験のあるベテラン看護師が
加わったことで、特に精神障害をもつ方々の転居後支援の質が少しはアップしたのではないかと思って
いるところです。
この事業は、平成 16 年 9 月に厚生労働省が打ち出した、精神保健福祉施策の改革ビジョン(図 2)の中
で、「入院医療中心から地域生活中心へ」をスローガンに、①国民の理解の深化、②精神科医療の改革、
③地域生活支援の強化、が相互にリンクしあう中で、今後 10 年間で 70,000 床の精神科病床数の減少を
目指すという方針を受け、精神科病院へのいわゆる社会的入院者といわれる方々の地域での受け皿をつ
くるひとつの柱として起こってきた事業です。
(図 2)
3
当初は、一般住宅への入居が困難な状況にある精神障害と知的障害をもつ方が対象とされていました
が、北九州市では対象者を、
「この事業での支援があれば地域での単身生活が可能な、障害をおもちの方
で、家賃等の支払い能力はあるにもかかわらず、保証人がいない等の理由で一般賃貸住宅(市営住宅を
含む)を借りることが困難な方で、北九州市内に住民票がある方。障害の種別、程度は問わない。」、と
して開始しました。
中心事業は、①入居支援(物件のあっせん依頼、入居契約手続き支援、公的家賃債務保証制度の利用支
援等)、②緊急時もふくむ相談支援(24 時間 365 日支援)
、③地域の支援体制にかかる調整(関係機関等と
の連絡・調整やネットワークづくり)、です(図 3)。
利用者
一般住宅への入居が困難
な状況にある障害者等
地域の支援体制
入居契約
福祉サービス事業者
緊急時等の対応
家
家主
主
入居契約
就労先企業
必要な調整
親族等
手続き支援
※市が協定を締結して
いる家賃保証事業者の
利用支援
あっせん
医療機関等
北九州市
北九州障害者居住サポート
センター(指定相談支援事業者等)
委託
事業内容
○入居支援
物件あっせん依頼、入居契約手続き支援
不動産業者
○24時間支援
物件のあっせん依頼
緊急時等の対応
○地域の支援体制に係る調整
関係機関等との連絡・調整
(図
3)
しかし、上記①、②、③だけでは賄えない現実があり、センターではその隙間を埋めるために、宿
泊体験プログラムの提供、地域生活支援サポーターの方々との協働による引っ越し支援や生活力スキ
ルアッププランの提供、リサイクル生活用品の調達や調整などの活動を付加しています。
①、②、③以外の活動については、
「7.この一年間の他の活動について」(P16∼21)の項に書かせ
ていただきます。
4
3.この四年間の相談者について
平成 22 年 9 月までの 4 年間の新規実相談者数は 630 名でした。
平成 18 年度(半年)では 80 名、19 年度は 158 名、そして 20 年度は 145 名、21 年度では 163 名、22
年度の前期半年間では、84 名。ひと月平均の新規実相談者数は 13.1 名です。
1).性別
比較すると、男性 62%、女性 38%と男女比では男性が高く、男性が女性の約 1.6 倍となっています。
242名 38%
男
女
388名 62%
(図
4)
2).年齢
下は 6 歳(父子世帯の長女)から最高齢は 82 歳と年齢層も幅広く、60 歳以上の方も 21%おられ、
住まいの課題はどの年齢層にも共通した課題であること、特に高齢域にも共通の課題であることは改
めての課題提起のひとつだと考えています。50 歳代が 23%と最多ですが、30~50 歳代で 65%を占めて
います。ご本人たちの年齢から類推すると、親御さんは 60~80 歳代と考えられ、親亡き後の課題も内
包した問題の一端がここに垣間見えていると思います。平行に、親元など同居世帯から離れての生活
を希望される単身移行の希望も 82 名(13%)あり(※ 図 9)、親あるうちからの「自立」への支援の取
り組みは様々に考えられるべき大きな課題のひとつだと思っています。北九州市でも、グループホー
ムを利用した「宿泊体験」の取り組みは事業としてありますが、あくまでも「複数での生活」を想定
したものであり、現実的な一人暮らしを想定したプランとは開きがあるのが実態です。本人の生活力
がアセスメントできることも併せて多様な体験プログラムの提供が必要だと思われます。
5
19名 3%
12名 2%
57名 9%
33名 5%
100名 16%
123名 20%
10代
20代
30代
40代
50代
60代
70代以上
不明
149名 23%
137名 22%
(図
5)
3).ご本人の障害の種別
精神障害を持つ方が、50%以上を占め、30%近くが身体障害をもつ方。知的障害をもつ方と二つ以上
の障害を併せもつ方々が 10%くらいずつとなっています。身体障害といっても、肢体不自由、内部障
害、視覚、聴覚、音声・言語・・と幅広く、中には視覚障害と聴覚障害をもつ方や、内部障害(人工
透析)で聴覚障害をもつ方、などもおられるため、二つ以上の身体障害をもつ方々も重複として計上
しています。
数は少ないですが、障害のない方や手帳等級に該当しない(精神障害以外)方もおられます。今の時代、
障害の有る無しに関わらず、住まいに関する問題は大きな課題であるといえるでしょう。
6名 10%
7名 1%
精神
身体
知的
重複
不明・障害なし
57名 9%
330名 53%
171名 27%
(図
6
6)
4).初回のアクセス者
ご本人からが 275 名(43.7%)と最も高く、続いて、区役所 65 名(10.3%)、家族 61 名(9.7%)、精神
科病院
43 名(6.8%)、委託相談支援機関(主として北九州市障害者地域生活支援センター)
29 名
(4.6%)、・・・となっており、昨年の順位と比較すると、区役所と精神科病院からの問い合わせが多く
なっています。特に区役所では、新規生活保護受給ケースも含め基準家賃よりも高い方について転居
指導がかかるものの連帯保証人がいないとか、なかなか一人では転居の相談や物件の調整、契約等が
難しいと考えられるため手伝ってもらいたいとして生活保護課のケースワーカーからの問い合わせが
増えています。
区役所内にはありますが、市営住宅相談コーナー(北九州市住宅供給公社)は住宅関連機関、市外から
の相談は一括してその他、で区分しています。
275
系列1
29
43
63
26
22
13
10
23
役
支 所
援
入
所 精神 機関
施
設 科病
(G
院
H
含
他 通 む)
科 所
の 施
精 医 設
神 療
科 機
ク
関
住 リニ
宅
ッ
関
ク
連
機
関
そ
の
他
65
委
託
相
談
区
族
61
家
本
人
300
250
200
150
100
50
0
(図
7)
5).住所地
住所地では、市内7区の内、八幡西区、小倉北区、小倉南区、と続き 20∼25 万人規模の大規模区に
大きな山があります。昨年一年間のグラフとほぼ同様の傾向を示しています。
この事業での対象者は、基本的に、
「障害者で、北九州市住民基本台帳に記録されている者であるこ
と」、としていますが、市内に転居したい、市内の市営住宅に転入したい(※申し込み要件では、市内
に住民票がなくても勤務先があれば可)、市内の県営住宅に引っ越したい(※福岡県内では、居住サポ
ート事業を実施している市町村が限定されているため市外からの転入希望者がいる)
、など市内に住民
票のない方々の相談も結果としてお受けしています。
7
138
129
94
67
51
系列1
51
49
19
不
明
若
松
市
外
・県
外
八
幡
東
八
幡
西
戸
畑
32
小
倉
北
小
倉
南
門
司
160
140
120
100
80
60
40
20
0
(図 8)
6).初回相談の内容
住まいの相談に関わらない、一般相談(例えば、対人関係の問題、就労や日中活動の場に関するもの、
家族調整、障害年金のことなど・・)も 103 名(16%)含まれていますが、開設当初(※事業開始当初の 1
年間では、22.2%)に比べれば、この率も低くなっており、対外的には「住まい」の問題に関する相談
支援機関としての対外的な認知度はあがってきているといえるでしょう。
25名 4%
103名 16%
一般相談
病院からの地域移行
86名 14%
52名 8%
282名 45%
施設からの地域移行
親元など同居世帯から
の単身移行
住み替え
その他
82名 13%
(図
9)
親元など同居世帯からの単身移行の希望も 82 名(13%)あり、そのニーズも高いため、住み替えと
は区分して分類しています。それは、年齢とも相関する、親亡き後のニーズの顕在化の証ともいえ
るでしょう。でも、まだまだ病院や施設からの地域移行のニーズは 138 名(22%)、とそれほど高くは
ありません。
8
平成 20 年 4 月から始まった、精神障害者地域移行支援事業(図 10)や平成 19 年 10 月から始
まっている生活保護受給中の方に対しての自立支援プログラム(図
11)との協働のあり様もこれ
からの課題のひとつと言えるでしょう。加えて、区役所、委託相談支援事業も併せて、役割や機能
の明確化が図られておらず、自立支援協議会の「精神障害者地域移行ワーキング」の取り組みの中
で共通認識のもとでの「流れ」を創りたいと検討してきたところです。まだまだ、周囲からはわか
りづらい関係であり、同時に立ちはだかる生活課題には目が行かず「家がないから退院できない(困
っている)」と思っている方々にとって、当センターはわかりやすい相談窓口であることは想像に難
くありません。最初の相談の入口はどこなのか、どんな形で整理してされていくのか、
・・そのシス
テム化は大きな鍵を握るものです。
(図 10)
(図
9
11)
4.この4年間でのトラブル
(図 12)は、巣立ち会(東京都三鷹市)での 12 年間の実績の中で起こったトラブルの一覧です。平成
20 年に北九州市内で行われた研修会の際の資料から抜粋させていただいたものです。
15年間で起こったトラブル
• 火事 1回 小火 2回
1回目は煙草の火の不始末
2回目は幻覚妄想状態での自殺未遂
3回目も煙草の火の不始末
• 自殺
2例
• 痴漢・万引き行為で逮捕
• 飛び降り 1例
• 突然死 3例
• 水道の蛇口の閉め忘れによる浸水
• 幻覚妄想状態などで一週間ほどの行方不明
(図
12)
(平成 20 年 1 月 19 日 「精神障害による入院患者の社会復帰促進支援事業に関する講演会」
資料より)
上記の「巣立ち会」を参考にすると、この 4 年間で
○小火などの火にまつわることは
0件
○自殺や死亡
2件
一件は入院中に病死。
一件は自宅での突然死。
(脳外科手術のための入院予定の日、自宅玄関先で亡くなっていたところ
を家族が発見)
○管理会社よりのクレーム 2 件(いずれも精神障害)
・A さんは、精神障害を開示はしていたが、実態の理解までにはいかず、妄想的な訴えを窓口で
もされるため管理会社としても戸惑われ、一人暮らしには無理があるのではないか、善意の理
解として、病院や施設に入ったほうがご本人にとっては安心なのではないか、このまま地域で
暮らすのは難しいのではないか、との意見をいただいた。家賃滞納等はないため平行線で入居
10
継続中。最近、ご本人から再転居の希望をいただいている。
・B さんは、入居当初からささいなことでクレームを繰り返していたが、
「一般の方でも時々おら
れるので頻繁な電話等はあるものの特段に捉えてはいなかった」方が、隣人への差別的な発言
や張り紙などを始めたために入居者からの相談が管理会社にはいり対応について相談があった。
本人からは、入居時のセンターの調整(※ご家族はおられるが絶縁状態で、公的家賃債務保証
制度利用調整の際も緊急連絡先すら拒否されたため、結果としてセンターと当時の通院先の精
神科クリニックを緊急連絡先として契約調整)に納得が行かない、と激昂し、今センターとは
ほとんど絶縁状態。時折、障害福祉課や法人本部へ電話での問い合わせやクレーム等がありは
するが、顕在化した問題はなく入居は継続している。
○突然の退去 2 件(いずれも精神障害)
・C さんは、家を突然引き払い、その日に以前入院していた病院へ再入院。2 ヵ月後の退院に際し
ても、センターで新居を再調整した。
・D さんも自分で転居先を見つけての突然の転居。治療中断に近いものであり、転居前からかか
りつけの精神科クリニックから転院し、睡眠薬だけの投薬に変えていた。
○精神科領域での再入院
・服薬中断によるもの
1名
・夏の暑さで体調を壊し、体調調整のために短期間任意入院
1 名(D さん)
・親元から離れての生活の中に疲労感と不安感を強め、短期間任意入院
1名
・他科の治療への不安と併せて金銭的な課題整理も併せて、短期間任意入院
1名
・他の入居者との行き違いからアパートの処分と同時に再入院(※直接的なトラブルがあったもの
ではない、妄想的な反応ともいえなくはないが詳細不明、前出の C さん)
・母との葛藤も強いため同一区内で世帯分離して一人暮らしをしていたEさん。アパートの環境
がよくなかったため、転居の際に母と離れた別の区で新しい生活を始めた。しかし、その後も
病状は不安定なままで数回、再入院(一回は、市外のデパートでのトラブルから措置入院)し
ている。
・福祉ホームから単身生活へ移行した F さん。夜中の友人からの電話も断われず、結果として不
眠等で体調を壊して再入院。生活保護受給中のため、6 ヶ月たっても退院の目途がたたず、アパ
ートは退去となった。
・やっと「猫が飼える物件」に転居はしたものの、転居後に猫が亡くなった事が一因なのか、隣
人が動物虐待をしている、との思い込みから再燃し再入院した G さん。入院後に、制約された
生活から携帯電話からのネットショッピングで浪費。元々買い物依存傾向のある方で、金銭問
題も含め入院が長期化している。
・H さんは、アルコールのスリップのために、短期間の再入院 数回。
・I さんは、入院中に離婚となり、退院に際して、それでも別れた奥さんを緊急連絡先として公的
家賃債務保証制度を利用して退院には至ったが、肢体不自由の状況の悪化もあり、再入院とな
り結果として退去した。
11
○独立はしたが、諸事情により元の世帯へ戻った方
・親元から単身移行していた J さん。両親(特に母親)との葛藤が大きかったが、家族内の人間関係
が安定したこともあり、自宅へもどり両親との三人生活を再開。現在、A型事業所へ通所中。
・視覚障害と聴覚障害をもつ K さんは、母から離れて一旦一人暮らしへ移行したが、母の認知症
の問題もあり、自宅へもどった。
・親元から市営住宅での一人暮しに移行した L さん。お母さんの身体的な問題がおこり、介護の
ために自宅へもどった。
○施設入所 1 件
(認知症の悪化に伴い、老人施設へ移行、83 才の女性)
○家賃滞納によるもの
・N さんは、知的障害があり、前家賃が理解できず入居翌月に滞納。以前、入居していた県営住
宅では当月払いでしかも口座からの引き落としであったため、今でも前家賃、しかも振込み(手
数料がかかる)にしないといけないことがなかなか理解できない。
・O さんは、本人の勘違いによるもので、本人は引き落とされているものと思い込んで確認して
いなかったが、預金不足から滞納という事態になっており、連絡後すぐに不足分を入金。現在
も入居継続中。
・P さんは、公的家賃債務保証制度を利用して市営住宅へ入居したが、就労収入が安定せず、結
果として家賃滞納となった。就労できないと障害基礎年金 2 級のみでの生活は厳しくなり、生
活保護申請も考えはするが、仕事をするためには車を処分することに躊躇があり、車が手放せ
ず自転車操業を続けてきた。(※12 月に生活保護を申請、申請へも同行した)
・転居したばかりの Q さん(知的障害)は、転居翌月の家賃を滞納。振り込みの手続きが一
人ではできなかったらしく、家賃保証会社からの連絡を受けても言われる内容が理解できず、
関わっている北九州市障害者地域生活支援センターへ SOS。以降の問題はない。
○その他
・盗難にあったが、警察への被害届を一人では出しに行けなかったため同行 1 件。(これまでも
警察に関わったことがあったが、知的障害をもつことをなかなか理解してもらえず、傷つき体
験しかなかった方、現場検証まで付き合った。)
・他にも盗難にあった、として警察介入を依頼した方がこの一年で一人、延べ二回。結果として
盗難の実態ははっきりしなかったが、スタッフも警察の事情聴取に同席し、指紋採取も受けた。
・前出の A さんも、
「冷蔵庫の中の食材が減っている」、
「薬の一回分がない」
、
「朝起きたら爪を傷
つけられていた」、・・、誰かが家の中に入っているに違いないと派出所への相談と並行して、
在宅の際には玄関にガムテープが数本貼られている。同様に、N さんも「誰かが家に入った」
、
「○○がなくなった、買ってもいない品物が家に置かれている」、「物の置き場所が変わってい
る」など同様に「誰かが入った」
「前の住人が鍵をもっている」と再三、派出所に相談に行って
いる。A さん、N さんとも「環境が悪い」として、転居を希望している。センターがかかわる
前も、二人とも数年おきの転居を繰り返してきたようである。
12
・年末に外出しようとして車椅子のパンクに気づき、一人では対応できなかった(肢体不自由 2、
知的障害 B2)ための緊急訪問 1 件。近隣の自転車屋さんで車いす修理を初調整、結果的に地
域資源の開拓にもつながった。
・てんかんと肢体不自由がある R さんは体の拘宿があり、夜中の排尿の際に失禁してしまい、衣
服の着脱が一人ではできなくなり、更衣のために夜間緊急訪問
1 件。
・日曜日に下肢の炎症による緊急入院に際しての入院に伴う調整や訪問
1件
・一時間おきの電話が深夜 3:00 までかかり続けた(結局、早朝に外出したところを挙動不審とし
て警察に保護され、再入院となった)り、深夜 3:00 に電話がかかり「今ベランダに腰掛けていま
す。このまま飛び降りようかと思っています・・」なんていう自殺をほのめかす電話、失恋を
きっかけに週末で20回あまりの連続した電話、深夜 2:00 のワン切りでしかも非通知設定から
の来電・・、などはたまにあります。
☆転居後支援ではないが、物件調整で関わっている段階で、向精神病薬の大量内服による夜間救
急搬送の付き添いや調整、救急搬送前後での調整に関わった方も 2 名(3 回)ある。うち一回は
救急病院へ一泊入院している。
・・・くらいでしょうか。
但し、センターが転居後支援として全員に均一に関われているわけではありませんので把握できて
いないことも多々あるものとしてご理解ください。
5.この間の不動産業者との関わりと相談状況
北九州市内には約 3000 件あまりの不動産業者がありますが、センター開設以来、具体的に物件調整
の相談をしたのは電話相談も含めても 200 件前後くらいでしょうか。
着実に取り引きのある不動産屋数は増えていますが、一度物件の契約に至ったところにまた相談を
し、契約の調整、また次の相談・・・となっているのが現実です。一件での調整ですぐに見つかる場
合もありますが、物件の見つかりにくい地域では平行で 2 件、3 件と別の業者さんに相談せざるをえな
い場合もあります。「バリアフリー」というイメージがそれぞれでかなり異なるように、ワンルーム、
ユニットタイプのバス・トイレ、ロフトがついている、
・・などいわれても実際を見ないことには、自
身の障害状況とマッチングできない、生活イメージがわかない、これまで住んだことのある空間とし
か比較できない、
・・という方もおられ、簡単に見つかることのほうが少なく「実態を理解する」
、
「新
しい生活イメージをつくる」ことに時間がかかる例も多々あります。センターとしては「選択できる」
ことをひとつの力点においています。市内はそれなりに広く、お一人お一人の住みたい場所も様々に
異なるため、限定的な事業者での調整には地理的にも限界があるため、その希望に応じて新たな事業
者の開拓を行っているのが実態です。この事業に関して、業者との事業協力協定なりを結ぶこともあ
りではないか、という提案もいただいたりしますが、まだ実施しておりません。
数は少ないですが、
「相談を受けている方の転居後のサポート体制が気になるんですが・・」、
「転居
13
後の生活について相談にのってもらえませんか」と不動産屋さんからの相談をいただくこともありま
す。そういう意味では、不動産屋さんへの認知も少しはあがってきたということでしょう。
6.この一年間の相談実態について
この一年間(平成 21 年 10 月∼22 年 9 月)の新規相談者数は 154 名、一月平均では、12.8 名でした。
1).月ごとの実談者数
この一年間のひと月の実相談者数は、平均 76.5 名です(図 13)。ひと月の新規相談者数平均は 12.8
名ですから、63.7 名が転居後支援者も含めた、継続的な支援対象者となります。
82 85
75
59
65
63
87 84
87
81
71
79
系列1
21
.1
21 0 月
.1
21 1 月
.1
2
22 月
.1
22 月
.2
22 月
.3
22 月
.4
22 月
.5
22 月
.6
22 月
.7
22 月
.8
22 月
.9
月
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
(図
13)
2).延べ相談件数とその方法
この間での、延べ相談件数は、4,713 件でした。一人あたりではひと月に 5.3 回のやりとりがあった
ことになります。
ご本人からの相談手段としては、電話が最多で、訪問、来所面談、メールの順です。数は少ないで
すが、FAXや手紙等という方法もあります。同じように、不動産業者や家賃保証事業者等とのやり
とりも FAX で行うことは多いですが相談件数には含んでおりません。全数の中では、ご本人との調整
件数に比して家族との調整件数は相変わらず 4%と低く、家族支援の質の充実はひとつの課題だと思っ
ています。
14
(図
(図
14)
15∼17)は、最近の 3 年間の延べ相談件数の推移を比較したものです。事業開始の一年間(平成
18 年 10 月から 19 年 9 月)での延相談件数は、2,326 件でしたから、計上の方法に若干の差はあります
ので単純比較はできませんが、ほぼ 2 倍の伸びとなっています。年ごとの伸びでみると、1.2 倍(2,326
→2,776)、1.4 倍(2,776→3,929)、1.2 倍(3,929→4,713)です。明らかに件数が伸びていることはわかり
ます。
この一年間の月ごとの相談件数(図 17)をみてみると、一月平均では 392.8 件、一日平均では、12.9
件となります。土・日・祭日で一件もアクセスがないという日もありますから、平日では平均的に延
べ 15 件前後というところでしょうか。新規相談件数は常に 12∼3 件で推移しておりますので、転居後
支援に関わる伸びと考えるのが妥当だと思われます。
350
300
250
200
320
286
269
244
231
162
184
211
239
245
304
243
系列1
150
100
50
19
.1
0月
19
.1
1月
19
.1
2月
20
. 1月
20
. 2月
20
. 3月
20
.
4月
20
. 5月
20
. 6月
20
. 7月
20
. 8月
20
. 9月
0
(図 15 年間延べ 2,776 件)
15
384
310
424
344
282
377 387
358 341
259 260
203
系列1
20
.1
0月
20
.1
1月
20
.1
2月
21
.1
月
21
.2
月
21
.3
月
21
.4
月
21
.5
月
21
.6
月
21
.7
月
21
.8
月
21
.9
月
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
(図
16 年間延べ 3,929 件)
461
458
500
433
433
431
425
450
381 363 363
400
325 328
312
350
300
250
200
150
100
50
0
系列1
(図 17 年間延べ 4,713 件)
3).時間外での相談について(平日の開所時間以外)
24 時間 365 日支援、ということへの問い合わせをたくさんいただきますが、全数に占める時間外の
比率は、平成 22 年 7 月∼9 月を平均すると 18.2%(242 件/1,327 件)でした。(※ここでは、センター
の基本的な開所時間(月∼金曜日の 8:30∼17:15)以外を時間、曜日を問わず時間外という設定で集計し
ています。)
この数字についてはいろんな見方ができると思います。それほどでもない、と言い切ることもでき
るかもしれませんし、朝の 8:30 という開所時間を待ったかのようにかかってくる電話もそれなりには
あり、ご本人たちに配慮してもらっているともいえるでしょうし、それは社会人としての良識的な配
慮ともいえるでしょう。また、それほどに日常的な支援を必要とするほどの「重度ではない」方々の
支援がまだまだ中心である、ともいえるかもしれません。また、いつでもなんでも相談してもいい、
それは夜中でも構わない、という安心感のある関係性が築けていないのかもしれません。しかし、た
16
だ「この一年、忙しかったなぁ・・」という主観だけは強くあります。夜間帯での訪問がこれまでに
比べ多かったために翌日に疲労が蓄積していた、ということかもしれません。
7.この一年間の他の活動について
この一年間も、他都市からの視察や講師派遣依頼を受けたり、市内で行われる様々な研修等への協
力・共働等も行いました。
併せて、北九州市自立支援協議会の中では、委託相談支援機関のひとつとして、市内を 3 つの障害福
祉圏域に分割して圏域ごとに毎月開催される定例支援会議、個別支援部会(1 回/2 月)、ネットワーク会
議(1 回/2 月) 等への参画。平成 20 年 7 月より開始してきた月一回の精神障害者地域移行ワーキングの
共働(平成 23 年 3 月で終了、事務局より報告書を配布)。加えて、平成 21 年度からは、障害者(児)ホー
ムヘルパースキルアップ研修(「精神障害」を担当)の実行委員でもあります。
精神保健福祉センターのバックアップのもとに平成 20 年 12 月から毎月開催している関連三事業での
連絡会議(精神障害者地域移行支援事業・自立支援プログラム・当センター事業)、地域移行支援事業の
中に規定されている北九州市精神保健医療福祉連絡会議 委員などの活動も行っています。
中心事業とされている、①入居支援(物件のあっせん依頼、入居契約手続き支援、家賃保証事業者利用
支援等)、②緊急時もふくむ相談支援(24 時間 365 日支援)、③地域の支援体制にかかる調整(関係機関
等との連絡・調整やネットワークづくり)、以外に付加している事業についてもここで述べます。
1) 視察受け入れ等
関連事業での講演・事業紹介等
他都市からの視察受け入れ・出張等
21.10 月 久留米市障害福祉課
サポートネットスマイル(大分県宇佐
市)
21.11 月
鳥取県西部圏域地域自立支援協議会
大牟田市自立支援協議会
市民後見人フォローアップ研修∼事例演習
岩手県花巻市を訪問
鳥取県西部圏域自立支援協議会
21.12 月
精神障害者の家族・支援者のための勉強会
(小倉南区役所)
22. 1 月
障害者(児)ホームヘルパースキルアップ研
修(精神障害 ①)
第一回福岡県相談支援事業・広域事業連絡会
22. 2 月
埼玉大学より宗澤教授が北九州市立
F コープ職員研修∼障害のある方々へのホー
大学の小賀教授と来訪∼ケアさぽの
ムヘルプサービスについてⅡ/当事者を囲ん
ブログ“福祉の世界に夢うつつ”にも で
掲載されています。
障害者(児)ホームヘルパースキルアップ研
17
修(精神障害 ②③)
市民後見人研修∼「障害の理解と対象者理解
(精神障害)」
福岡県立大学社会福祉学会 第1回大会
日本ボランティアコーディネーター協会研
松江市障害福祉課
22. 3 月 徳島県より居住サポート立ち上げ支
援事業
究集会 2010(於 福岡市)
遠賀・中間地域精神障害者地域支援関係機関
会議
22. 4 月
PNC
精神保健福祉初任者研修∼「精神障害の理解
と対応∼当事者のメッセージ」
大分県障害者相談支援事業推進協議会∼第
22. 5 月
一回ブロック研修会(別杵速見国東圏域)
サンアクア TOTO 職員研修∼「精神障害の理
解と対象者理解」
福岡県精神障害者家族会連合会∼平成 22 年
度第一回家族・職員研修会
北九州 MSW 研究会∼事業紹介と事例
22. 6 月
小倉リハビリテーション学院(OT)にて講義
∼精神障害のある方々への地域生活支援に
ついて①
福岡女学院看護大学にて講義①②∼精神保
健活動の実践∼障がい者・児保健活動(①は、
当事者と共に講義)
22. 7 月
小倉リハビリテーション学院(OT)にて講義
∼精神障害のある方々への地域生活支援に
ついて②
愛知県蒲郡市
22. 8 月 ※23.2 月には不動産業界の方も一緒
に 4 名で来訪
広島県立精神保健福祉センター(平成 22 年
香川県大川圏域自立支援協議会(15
22. 9 月 名) ※11 月には、大川圏域不動産業
度精神保健福祉応用研修)∼「居住サポート
事業の実践と地域づくりについて」
若松工芸舎(法人内施設)職員研修∼「障害の
者講習会を訪問
理解と対象者理解(精神障害)」
(図 18)
18
北九州市自立支援協議会の仕組みは以下のとおりです。
北九州市自立支援協議会の概念図
北九州市自立支援協議会
総会
事務局会議
○毎月開催
○障害福祉部、支援センター
個別支援部会
○2ヶ月に1度開催
○個別ケースを通じて、障害者
の地域生活について協議
○相談支援関係機関で構成
サービス利用計画
審査部会
ネットワーク部会
○障害者支援のネットワークを構築
するため3つの研究会を設立
・障害者地域生活支援研究会
・障害者福祉事業研究会
・地域生活支援制度研究会
○毎月定期開催
○指定相談支援事業者の
中立 ・公平性の審査
東部圏域定例支援会議
門司・小倉北
中部圏域定例支援会議
小倉南・八幡東・戸畑
個別支援会議
西部圏域定例支援会議
若松・八幡西
個別支援会議
個別支援会議
各区役所相談窓口・相談支援事業者・教育機関
(図 21)
相談支援のながれ
各区役所
発達障害者支援センター
障害福祉センター
精神保健福祉センター
総合療育センター
地域支援室
しごとサポートセンター
圏域定例支援会議
障害者居住サポートセンター
相
談
者
①
月1回の開催
精神障害による入院患者の
社会復帰事業
浅野社会復帰センター
精神障害地域移行支援事業
③
②
障害者地域生活支援センター
地
域
自
立
支
援
協
議
会
④
個別支援会議
︵
個別支援部会︶
特別支援教育コーディネーター
特別支援教育相談センター
チームアプローチ
こども総合センター
(図
19
22)
2) 地域生活支援サポーターとの協働も含む、引越し支援
この一年間では、引越し支援の協働は、ありませんでした。
「転居」はどんな方にとっても大変なイ
ベントだと認識しています。特に、誰しもが日常的に経験するものでもないため、
「引越しのベテラン」
は少なく、特に転居当日や転居後数日間の心細さ、頼りなさは共通のものだと思います。センターで
も、支援内容に濃淡はありますが、当日はなるべく新居へ訪問するように心がけています。
3) 地域生活支援サポーターとの協働による生活力スキルアッププランの提供
月一回ずつですが、ウェルとばた 7 階にある調理室を利用して、地域生活支援サポーターの方々と
協働しての調理グループを運営しています。基本姿勢は、自宅で一人でもできるもの、季節感が感じ
られるもの、野菜を意識すること。今年は、参加メンバーの生活の変化もあり、「常連さん」が減り、
参加者の少ない開催ではありました。しかし、
「作る」ことだけではなく、少ない「外出の場」や「お
しゃべりの場」だったり、数少ない「他人と一緒に会
食できる場」だったり・・、参加者によってその目的
は様々です。今年は、簡単な中華やデザートにもちょ
っと挑戦してみました。
なるべく安く、美味しく、手軽な「300 円メニュー」
を目指しています。
(第 36 回メニュー メインはスパゲティナポリタン、スイカは差し入れです)
累計
回数
地域生活
とき
メニュー
メンバー
ーター
平成 21 年
きのこの炊込みご飯・けんちん汁・秋刀魚の
10 月 10 日
塩焼き・大根と人参の胡麻和え
28
11 月 7 日
中華丼・韮玉のお吸い物・杏仁豆腐
29
12 月 12 日
27
30
支 援 サ ポ 食材費
平成 22 年
1月9日
お好み焼き 2 種と一銭洋食
わかめスープ・りんごケーキ
雑煮・豚の生姜焼き・紅白なます
4名
3名
300 円
3名
2名
300 円
4名
7名
500 円
4名
4名
300 円
4名
4名
300 円
7名
3名
300 円
のり巻き(具はきゅうり、しいたけ、カニカ
31
2月6日
マ、炒り卵)・梅干しとマグロの細巻き 2 種
類、豆腐とわかめ・溶き卵のお吸い物
32
3 月 13 日
焼そば・キノコの炊き込みご飯・わかめとき
ゅうりのマヨネーズヨーグルトサラダ
20
33
4 月 10 日
34
5月8日
35
6 月 12 日
36
7 月 10 日
37
8月7日
38
9 月 11 日
平均
鮭のホイル焼き・なめこと里芋のみそ汁
竹の子ご飯・竹の子入りがめ煮
竹の子のお吸い物
月見うどん・ポテトサラダ
簡単浅漬け
スパゲティナポリタン・野菜サラダ
玉ねぎのコンソメスープ
冷やし中華風そうめん・ナスの煮びたし
麺つゆでつくる親子丼・簡単漬け物
お吸い物(インスタント)
一回/月
5名
3名
300 円
7名
3名
300 円
1名
2名
300 円
4名
2名
300 円
1名
1名
300 円
4名
2名
300 円
4名
3名
317 円
(図
23)
(今年の「常連さん」の共同作業風景)
4) リサイクル生活用品の調整
時々、センターの活動を思い出していただいた関係者の方から、転居等に伴って、不用品提供のご連
絡をいただきます。但し、プロではないので、3 ドア冷蔵庫、大きな洋服ダンや食器棚などは、移動にも
保管の場所にも困り、何件か断らせていただきました。全自動洗濯機、電気の傘、掃除機、こたつなど
は大歓迎です。まだまだ使える、「もったいない」リサイクル品の提供をお待ちしております。
日時
住所
1
12 月 7 日
若松
2
1月8日
小倉北
3
3月6日
戸畑
4
3 月 24 日
八幡西
調整物品
ホームレス状態から
の居宅設定
電気の傘
精神科病院からの
食器類・片手鍋・こた
地域移行
つ・衣装ケース・小棚
住み替え
ミニテーブル
施設からの地域移行
21
冷蔵庫・扇風機・スタン
ド式掃除機・電気の傘 3
相談者
男性(知的)
女性(精神)
女性(知的)
女性(精神)
個
5
3 月 30 日
八幡西
施設からの地域移行
洗濯器
女性(精神)
6
4 月 30 日
八幡西
住み替え
扇風機
男性(精神)
7
8 月 31 日
若松
掃除機・扇風機
男性(知的)
8
9 月 22 日
小倉北
電気の傘 3 個
障害者世帯
ホームレス状態から
の居宅設定
住み替え
累計
20 点
(図
24)
(図
25)
いただきものリスト
関係性
いただきもの
1
不動産会社
電気の傘
2
区役所職員
電気の傘・ガスコンロ
3
センター職員
スタンド式掃除機・テーブル
4
利用者
電気の傘 5 個・電子レンジ・掃除機
5
6
センター職員の知
人
不動産会社
洗濯機・物干しハンガー・物干しパラソル・調理道具
洗濯機・掃除機・簡易ベッド・電気ストーブ・扇風機
6件
17 点
22
8.この 4 年間で新しい生活を始めた方々について
この 4 年間(平成 22 年9月末まで)で 147 名の方々が新しい生活を始められました。以下は、その 147
名についての分析です。
1).性別
初回の相談者数と平行して、男性が女性の 1.4 倍と高くなっています。
60名 41%
男 女 87名 59%
(図 26)
2).年齢
新しい生活を始められた方々のピークは 30 代から 60 代にあります、それは相談者全体とも比例す
るものです。介護保険利用者でケアマネージャーさんが既に関わっている事例もありますが、サービ
ス調整のところでも、障害福祉サービスと介護保険の移行期にかかる方もおられ、そのつなぎもひと
つの課題といえます。
30
20
17
15
15
12
10
5
24
23
25
3 2
5 6
15
12
男性
女性
7
2
4
0
未成年 20代 30代 40代 50代 60代 70代 (図
23
27)
3).障害状況
比率としては、精神障害、続いて身体障害、重複障害、知的障害の順であり、全体の相談者数とほ
ぼ相関した比率です。
23名 16%
75名 51%
16名 11%
精神
身体
知的
重複
33名 22%
(図
28)
4).住宅の種別と家賃
平成 19 年 2 月に拡充した、市営住宅の単身者枠の拡大も受けて、障害をもつ方々の市営住宅への入
居は増加傾向にある、といえるでしょう。
※但し、住宅困窮者募集の対象は、身体障害者手帳1∼4級、療育手帳A∼B1、精神保健福祉
手帳1∼2級(または医師がそれに相当する程度と証明する方)です。
(図
24
29)
市営住宅、県営住宅を公営住宅としてまとめています。57 名のうちわけは、市営住宅 53 名、県営
住宅 4 名です。県営住宅では、住民票上の制限がないため、市外、県外からの転入も可能なシステム
ですので、2 名は市外からの転入者です。あっせんされた後に土地勘のない場所への不安から入居を辞
退した方もおられます。居住サポート事業が、住所地の市町村で開始されることを願ってやみません。
7名 5%
57名 39%
公営
民間(UR含む)
その他(GH・障害者住
宅など)
83名 56%
(図 30)
市営住宅でも、あっせんはされてもエレベーターのない 5 階建ての 5 階だったり・・、と決して望
みどおりにはいかない場合もあり、何人か断ったという実例もあります。
転居した方々の平均家賃は、民間 33,813 円、公営 16,416 円であり、ほぼ二倍の格差があります。
生活保護受給中の方や、障害年金を中心として生活費を組み立てている方が多く、民間住宅に比べて
の家賃の安さは大きな魅力であり、今後も公営住宅への希望の高さは継続するものと思われます。住
替えの制度利用も含め、障害のある方々にとってより良い方向で拡充されることを望みます。
民間での 33,813 円という数字のベースをなしているのは、生活保護を受給している方の単身での基
準額 31,500 円(特別枠ではその 1,3 倍)です。地域差はありますが、市内にこの金額での物件が潤沢
にあるかと問われるとかなり厳しい、と言わざるをえない現実があります。
併せて、初期費用の問題で、たとえ生活保護受給者で、基準額(40,900 円)の 3 ヶ月分が生活扶助費
での支出可能範囲である場合でも、権利金、敷金、不動産屋さんへの仲介手数料(基本的には家賃の一
ヶ月+消費税)、公的家賃債務保証制度を利用する際の民間家賃保証事業者との契約料(現行では最低
でも初回契約時 20,000 円)や鍵の交換料、保険の契約料、場合によっては消毒料や生活用品の購入予
算・・など付随する費用はそれなりにあり、それだけでは賄いきれない現実がそこにはあります。前
段階でそれなりの金額の用意は必須であり、特に精神科病院に長期にわたり年金だけで入院生活を担
ってきたような方々にとっては大きな壁になっていることも事実です。転居に必要な費用を用意する
ことから自立生活への意識をスタートさせる、という考え方もあるとは思いますが、センターでは費
用負担を少しでも軽減する方策として希望する方に対してはリサイクル生活用品の提供(P25)という
手段もとっています。
25
5). 連帯保証人の課題について
(図 34)は、転居者 147 名についての、連帯保証人の調整状況です。中には初回相談の段階では「連
帯保証人になってくれる人がいない、センター事業でどうにかなりますか?」との相談だったが結果と
して親族等で可能となったという方もおられるため、初回相談の段階での比率とは異なりますが、結
果として、89 名(60.5%)について連帯帯保証人の課題の整理が必要だったということです。
このことからも、障害をもつ方々について連帯保証人の問題は大きな課題だとわかりますし、連帯保
証人に関する支援の組み立ては何らかの形で積極的に考えられるべきだと思います。
このうち、公的家賃債務保証制度(※市が協定を締結している家賃保証事業者。日本セーフティー株
式会社とレントゴー保証株式会社(現 Casa))を利用した方は 54 名(60%)でしたが、市が協定を締結し
ている2社の市内でのシェアは決して高いものではないために、2 社との取引のない業者では結果とし
て他の家賃保証事業者との契約でしか動かせなかったという事例も 22 名(25%)ありました。
13名 15%
市が協定を締結して
いる家賃保証会社
上記以外の家賃保証
会社
保証人なし
22名 25%
54名 60%
(図
31)
北九州市では、高齢や障害をもつために生活保護受給が長期に続くであろうと思われる方のうち、
市が認めた方については連帯保証人を免除できる(※入居時には調整できていなくてもかまわないとの
意図であり、引き続き連帯保証人の調整に努める必要がある)でも入れるように平成 21 年 4 月に市営
住宅への入居要件を緩和しました。市営住宅に限っては委任納付であり、これが民間へも拡大するこ
とを願ってやみません。
当センターでの支援者の中にも保証人なしの形で 4 名の方が市営住宅へ入居されました。UR も連帯
保証人なしで入れるため、収入要件等によっては UR という選択肢を薦める場合もあります。上記の 4
名の内、二人は家賃保証事業者の審査で不承認とされた方です。他にも、平成 21 年以降、日本セーフ
ティー株式会社から、
「不承認」とされた事例が 5 件あります。ある意味、発想の中にない事態でした
のでとても驚きましたし、審査基準については開示されませんので、推測でしかありませんが、断わ
られた方々の障害は知的障害(2 名)・精神障害(精神保健福祉手帳 2 級が 1 名、精神科に通院している
高齢者・手帳なし 1 名)であり、障害種別による「壁」を意識せざるをえません。うち二人は 67 歳、
26
75 歳と高齢でもあります。
6).新しい生活を始めた方々の背景
三障害を通じて地域移行に至った方々の比率は 52 名(35%)です、昨年は 29%でしたから少しその比
率は上がったことになります。親元など世帯からの単身移行 23 名(16%)を加えると 51%にはなります
が、まだまだ「住み替え」の課題(47%)への対応を余儀なくされているといわざるをえません。地域移
行の本格化はまだ始まっているといえるものではありません。
精神科病院からの地
域移行
3名 2%
22名 15%
16名 11%
70名 47%
14名 9%
23名 16%
精神障害者関連施設
からの地域移行
他科の病院・他障害
の施設からの地域移
行
親元など世帯からの
単身移行
住み替え
(図
32)
居住サポート等事業の対象者は、
「障害者等であって、賃貸契約による一般住宅への入居を希望して
いるが、保証人がいない等の理由により入居に困難な者。但し、現にグループホームケアホームに入
居している人は除く。」とされていますが、当センター事業では市営住宅への移行支援への対応も行っ
ていることもあり、グループホームから市営住宅への移行に伴い、
「単身入居の居住継続支援体制につ
いて」の意見書を作成した方や公的家賃債務保証制度を利用した方もおられます。民間住宅への移行
も合わせると、7 名の方のグループホームからの移行支援に関わりました。逆に、当初の相談は、施設
や病院から出て地域で一人で暮らしたい、親元から離れて一人で暮らしたい、であった方が、相談を
お受けする中で「一人暮らしをすぐ始めるには自信がない」として通過施設としてグループホームや
通勤寮等へ移行した方も 7 名おられます。個々の実情に応じた段階的な移行プランが検討されるべき
でしょうし、また彼らにとって、グループホームは終の棲家ではなく、ひとつの通過施設である、と
いう選択肢の設定も視野にいれておくべきでしょう。
7).転居後におけるセンターとのかかわりの状況
この事業では、継続的な転居後支援は必須の事業として位置づけられており、センターでもその内
容やかかわりの頻度などその質や量に違いはありますが、79%の方々に対して、何らかの形で関わり
を持っています。しかし、当初はセンター中心でマネジメントしていたが、経過の中で役割分担をし
27
た、例えば介護保険の導入に伴い、ケアマネージャーさんにシフトした、もしくは平行での役割分担
へ移行した、という方も数名おられます。中には、指定相談支援事業への移行が妥当か、と思われる
事例もありますが、指定相談支援事業対象者数も拡大していない現状ではなかなか難しいのが実際で
す。
28名 19%
31名 21%
27名 18%
61名 42%
マネジメント機関とし
て
平行で転居後継続支
援
他機関が主
入居前の相談・情報
提供が主
(図
33)
8).マネジメント機関として、もしくは平行支援機関として関わっている方々の障害状況
7)の 89 名について分析してみると、半数以上が精神障害をもつ方々であり、課題は精神障害をも
つ方々への継続的な支援の担い手に大きな課題があるということでしょう。委託相談支援事業者との
役割分担や共働体制のあり様、また、指定相談支援事業者の利用拡充も視野に入れての整理が必要だ
と思われます。
12名 18%
精神
知
身体
重複
11名 16%
38名 56%
7名 10%
(図
28
34)
9.センター事業を通じての課題と考察
事業開始からやっと四年あまりを経過したところです。
課題は山積の状態で明確な答えを持つものではありませんし、現状では対症療法的にしか対応できて
いないというのもある側面です。
しかし、地域には「住まい」に関する様々な課題が横たわっており、この事業で担えることもそのご
く一部分でしかありません。運営、実施主体を異にする類似した目的性の中で動いている事業も散見さ
れます。縦割りの中でその実態すらよく見えないものもありますし、まだまだサービスとしてない社会
資源もたくさんありますが、片方で、
「サービス」としてあるがために、また「制度化」されたために広
がった隙間もたくさんあるのではないか、と最近は、飽食の時代のマイナスを内包している現実を痛感
しているようなところがあります。
現状の課題について少し書かせていただきます。
1) 地域移行の流れをどう作るか。
四年前の社会保障審議会障害者部会でも、
「公営住宅の入居促進」が述べられていますが、市外の
施設や病院に住民票のある人は、市営住宅の入居申し込みすらできませんし、グループホームの体
験利用についても利用できません。現行制度では一泊二日での体験等にかかるホテルコストやホー
ムヘルプサービスなど障害福祉サービスの利用料、通所施設の利用にかかる費用等も全額自己負担
でしか対応できません。いろんな施策は連動していない、というのが実態です。
また、委託相談支援機関同士の役割分担も明確ではありません。
また、各施設や病院の職員の方々と話していても、地域にある社会資源を知らないし、どう利用、
リンクしていいかわからない、退所後の当事者の生活のイメージがつかない、地域移行できるのは
本人のニーズによるものではなく障害の軽い人たちで重たい人は難しい、という固定概念のような
言葉をよく耳にします。施設や病院にしろ、行政にしろ、相談支援機関にしろ、ある意味均一的な
思想の元に地域移行は考えられ、進められるべきだし、窓口担当者の力量で本人のニーズが潰され
てはたまりません。
市内の取り組みはまだモデルづくりの時といえるでしょう。でも、その蓄積はシステムに昇華さ
れていかなければ意味がありません。
今年度の精神障害者地域移行ワーキングの取り組みの中では、ある病院の療養病棟で学習会を開
催させていただきました。その中で改めて、いわゆる社会的入院と言われる方々の中には、
「入院継
続を自ら望んでいる」と明言される方々がいることは課題の深刻さを痛感させられるものでもあり
ました。
現行では、地域移行する場合も親元から単身移行する場合にも、簡単に誰にでも、利用できるよ
うな、一人暮らしを体験でき、生活力をアセスメントできる場が少ないし、個に応じたバリエーシ
ョンが必要だと考えています。市内にも実際には、社会資源がないわけではありません、事業とし
ての実践もあります。でも、社会資源として関係者が知らず、使えなければ、広がりません。先進
地に学ぶことや情報収集力も必要でしょう、その中でまず眼前の一例を通じてのノウハウの蓄積と
検証を続けていくべきところからでしょう。
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2) 本当に必要な人に情報は届いているのだろうか。
まだまだ需要が高いのは、地域の住み替えニーズです。初回相談者は本人からが 40%を越えている
実態と照らし合わせるとき、例え入院中であろうとも、また施設入所中であろうとも、情報がこの事
業を必要としている人の手元に届いていれば地域移行のニーズも顕在化するはずだと考えられます。
そういう意味では、本当に必要な方々への情報提供がきちんとなされていないのではないか、と考え
ざるをえません。数ある病院や施設の中で実際に問い合わせや具体的な相談をいただくところは限定
されているのが実態です。そういう意味では、まだ立体的な動きにはなっていませんが、精神科領域
においては、院内への啓発活動も併せ持つ、精神障害者地域移行支援事業への期待は大きいものがあ
ります。
精神科以外の他科の病院や他障害施設からの地域移行も 9%(図 32)はありますが、まだまだ関係
者(施設職員や医療ソーシャルワーカー等)への周知も図れていないのも実態だと思います。病院だけ
で支援している事例が多いのではないかと思われ、それは精神科病院との関係とも類似したものだ
と思います。精神障害領域でいけば、ワーキングの取り組みも含め、他の障害領域機関との関わり
に比べれば、
「共に次を模索できる」体制がまだ少しはあるといえるのかも知れません。退院に伴う
居宅調整や施設からの地域移行に伴う住まいの問題は、精神科領域に限らず他障害領域にも共通す
る課題であると思います。しかし、精神科領域に比べれば、まだその関係機関やご本人からの相談
数は少なく、まだまだ「どう相談し、連携していけばいいかわからない」、そんな戸惑いや、わかり
にくさ感も多々あるものと思っています。特に施設職員や医療ソーシャルワーカーへのアプローチ
はポイントのひとつだと思っています。
センターのパンフレット自体のわかりづらさもあり、刷新途上です。そのパンフレットにしても、
すでに障害領域のスタンダードは、ルビ、点字、録音テープの三点セット。ルビも一部だけ、では大
いなる減点だと反省しています。
3) 公営住宅入居制度の拡充と整備を図るべきである。
市営住宅では相変わらず日本セーフティー株式会社しか利用できませんし、ちなみに県営住宅で
は公的家賃債務保証制度そのものを使えません。また、現に入居中の方の保証人変更には対応でき
ません。
住宅管理課とも定例的な現行体制を確認する会議が必要だと思います。
併せて、支援機関からの「居住サポート体制の意見書」とか「医師の意見書」の提出など、精神・
知的障害をもつ方についてはまだハードルの高いものだと思っています。実践や工夫の中で、制度
内容の変更等を要望していくことも必要でしょうし、
「意見書」作成までのプロセスや一連の流れづ
くりは早急に整理すべき課題だと理解しています。
困窮者枠の拡大は図られましたが、環境要件との関連は加味されませんし、障害状況との関連の
中で下見をしたくても、現行ではあっせんされてからしか下見はできません。特に、身体障害をも
つ方々にとって、アプローチから室内条件に至る障害状況とのマッチングは大きな課題です。申し
込みの段階で、下見ができると望ましいと思っています。申し込み段階での物件情報の細かな開示
もあってしかるべきかと考えます。
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4) 公的家賃債務保証制度の充実の施策を検討すべきである。
平成 20 年 9 月での株式会社 リプラスの倒産の余波もそれなりに大きいものがあり、「家賃保証
事業者の契約と平行してやはり『人』としての連帯保証人をたててほしい」
、との不動産屋さんの希
望を以前より耳にするようになった気がします。また、市内での大きなシェアを握るある保証会社
では、九州管内に限り、生活保護を受給している方については連帯保証人を必須としており、これ
までの家賃滞納の悪質さの実態を垣間見る気がします。逆行している印象すら受けることもありま
す。
継承の手続きをすればいい、ということに留まらず、相変わらず市が協定を締結している 2 社の
市内でのシェアが高くない現実に変わりはありません。以降の公的家賃債務保証制度を担う民間事
業者に関しては拡充など考えることも必要ではないでしょうか。レントゴー保証株式会社(現
Casa)がリプラスを継承したとしても、市内の不動産業者が継続的に使うかどうかは未知数であり、
3社目、4社目・・の提携の可能性があるとすれば、市内での利用実績等を加味して検討されるべ
きですし、不動産業界との組織的な連携の方策を検討すべきであり、不動産業界との継続的な意見
交換の場の設置は必須と考えています。あんしん賃貸支援事業(図
35)の充実は大きな起爆剤に
なりうるか、とは思われますが、まだその活動は端緒についたばかりです。
(※ あんしん賃貸支援
事業は 23 年度末で終了)
また、市が締結している協定の締結期間は一年更新であり、双方に異論のない場合はそのまま協
定は継続されますが、昨年度、変更を行いました。しかし、せめて確認のために一年に一回以上は、
現在状況の確認のための「定例的な会議」の設定だけでもあるべきだと思っています。
(図 35)
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5) ネットワークづくりも念頭にいれた地域への啓発活動と居住継続支援の充実を図る
べきである。
センターでは、
「生活力」にコミットしていくための方策として、地域生活支援サポーターの方々
の協力をいただいています。特に、一緒に運営している「生活力スキルアッププラン」は転居後の
継続的な支援を展開していくについても、また、地域移行に際しての生活力アセスメントの機会と
しても有用な方法のひとつだと思っています。また、地域に溶け込んでいくための、日常的な細々
した支援は相談支援機関やホームヘルプサービスなどの公的サービスだけに期待されるものではな
く、地域生活支援サポーター活動の中で担える部分も多々あるのではないか、と思うところですし、
実際にサポーターさんからのご意見もいただいているところです。このような事業を拡大していく
ことが、より「地域の中での支えあい」を充実させ、地域への溶け込み、定着を支援していく、ひ
とつの核になりうるのではないかとも思うのです。
「地域力」を高めるために、地域生活支援サポー
ター活動をどう広めていけるか、前向きに検討していきたいと思います。
また、公営住宅では共益費としての支出がないため、入居者全体での自己努力によるところも大
きく、緊密感・連帯感が強いために、その関係性が煩わしい、また自信がない、として民間住宅を
選択する事例も少なくはありません。その関係性のとり方への戸惑いを、親元から離れて市営住宅
での一人暮らしを始めたばかりのある青年は、
「社会的な経験が少ないことは自身が一番自覚してお
り、知らないことを知らないのが不安だ」と表現します。
センターでは、市営住宅に限るものではありませんが、希望される方については、地域で相談で
きる人としてまずは民生委員さんとの関係づくりのための架け橋的な役割を担っています。そこか
ら、ゆるやかに地域へ溶け込んでいく方策も共働できるといいなぁ・・と考えています。市内には、
1,500 名あまりの民生児童委員の方がおられ、そこから拡がる地域力はとても大きいと考えます。日
常的に相談に行く、ということはなくても、一人でも、自宅の近くにもわかってくれている人がい
る、何かあったら相談にも行ける、そんな安心感は暮らしを創って行くときのひとつの心のより所
ともなりうるのではないでしょうか。民生児童委員活動とどう共働していけるか、も継続課題のひ
とつです。
6) あんしん賃貸支援事業との有機的な連携がはかれていない。
センターは、平成 20 年度からあんしん賃貸支援事業の支援団体として、県内では 2 ヶ所目の登録
機関です。市内には、協力店(仲介業者)としての登録もまだ 2 ヶ所です。
あんしん賃貸支援事業(国土交通省・図
38)の充実は大きな起爆剤と考えます。何件か相談し
たことはありますが、まだ直接に物件契約まで至った事例はありません。より有機的な共働を図っ
ていきたいと考えております。
(※あんしん賃貸支援事業は平成 23 年度末で終了)
7) 不動産業界との組織的な連携の方策を検討すべきである。
市内はそれなりに広く、お一人お一人の住みたい場所も様々に異なるため、限定的な事業者での
調整には地理的にも限界があるため、その希望に応じて新たな事業者の開拓を行っているのが実態
です。まだまだ、個別に不動産業者さんとやりとりをさせていただくことが大半であり、物件探し
や調整はなかなかに大変です。この事業に関して、業者との事業協力協定なりを結ぶこともありで
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はないか、という提案もいただいたりしますが、実施しておりません。
電話や FAX 等での簡便なやりとりも増えはしましたし、取引きのある不動産屋さんからの相談や
問い合わせ等をいただくこともあります。そういう意味では、少しずつ不動産業界での認知も高ま
りつつあるものと思います。現状を確認することも含め、平成 23 年 2 月の(不動産)業者講習会にお
いてアンケートを実施させていただきました。
8) 他事業・他機関・他業種等との協働と連携の方向性の確認とシステムづくりや全体と
しての相談支援体制の検証、そして地域自立支援協議会の充実が必要である。
特に、地域移行については関連する事業として、先行した当センター事業に続いて、平成 19 年
10 月からは社会的入院患者等(精神障害者等)自立支援プログラム(※生活保護受給者)、平成 20 年 4
月からは精神障害者地域移行支援事業が開始されましたが、それぞれの体制はいずれも脆弱で単独
での展開にはかなり難があります。センター事業が先行したがための弊害も多々あると認識してい
ます。その中で、受託法人も、また担当部局も異なるため、今後に向けての互いの機能強化も含め、
具体的な連携をどうするか、その協議を始めたばかりです。平成 20 年 12 月からは、市立精神保健
福祉センターのバックアップも得て、月一回ではありますが、関連三事業での連絡会議を行ってい
ます。その中で、共働のための足元固めとスタッフのスキルアップを図っているところです。
行政や他の委託相談支援機関や指定相談支援事業者等も含め、それぞれの役割分担や機能につい
ての未整理の部分もたくさんあり、ひとつには地域自立支援協議会のシステム(図 21)の中で、課題
整理を行うことも含め、地域移行についての「流れ」を創っていきたいと考えています。
個別支援会議の充実とも併せ、いろいろな活動の中で、点と点の支援が面に昇華できることを模
索したいと思っています。施設仕様、病院仕様ではない、本人仕様の 24 時間のやりくりを、(図 39)
にある 5 つの力の共働の中で、応援していきたいと思っています。地域には多様なニーズがあり、
応えるには多様な力の結集が必要です。今は、まだそれぞれの力がうまく共働できていない、とい
うのが実態でしょう。
今後の大きなキーとなるのは、地域自立支援協議会や行政力も含めた統合調整する力であり、も
うひとつのポイントはご本人たちの力(活動)との共働をどう作れるか、でしょう。当事者が求めてい
るのは、いわゆる日中活動の場とか働くというカテゴリーにとらわれず、
「社会貢献」という視点だ
という意見もあります。ある当事者は、
「私たちだからできること、私たちだからこそ分かち合える
こと・・、そんな活動を一緒にさせてもらいたい」
、と語ってくれます。新潟県における実践の中で
も、病棟スタッフへの研修会に、地域移行支援事業を利用して退院して新しい生活を始めた方が同
行し、本人の言葉として「利用してよかった」という言葉が伝えられたインパクトは大きかった、
と聞きました。
地域移行ワーキングの中でも、
「地域に暮らす先輩」として、ピアサポーターの方々との共働の在
りようについて模索の途上です。初回の養成研修を開催したばかりですが、地域移行した A さんが、
先輩として B さん、C さんに対して支援チームの一員として加わる、ゆっくりかもしれませんが、
その拡がりは確実に担保されるでしょう。
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地域生活を支えるために必要な五つの力
病院(施設)外から
ひっぱりだす力
病院(施設)内
から押し出す力
四つの力を統合
調整する力
当事者力
地域で安定させる力
(図 36)
9) この事業では、現住物件での保証人の変更には対応できない。
この事業では、あくまでも新規契約のところでの支援事業であり、現住物件での連帯保証人の変
更には対応できません。民間ではレントゴー(現 Casa)のプランで対応できた方もおられますが、
市営住宅では対応できません。
今は親と同居しているので不安はないが、将来一人になったときに連帯保証人の部分について相
談したい、同居親族との関係で連帯保証人になってもらっていたが自分ひとりになって連帯保証人
を断わられたのでどうにかならないだろうか、会社の上司が在職中は連帯保証人になってくれてい
たが退職するとその関係が変わってしまう、連帯保証人をこの事業で賄えないか・・など、将来へ
の不安も含め内容は多彩です。
10)一般相談も含め、市内には 24 時間対応している相談支援機関が少ない。
転居後支援としてではなく、新規相談が土・日や時間外にはいることもありますし、相談途中で
の自殺企図や医療調整に関わらざるをえないケース、また、他機関利用中の相談者からの夜間の相
談電話等もあります。今、北九州市は夜間の相談に対応できる精神科病院の調整を行っているよう
ですが、まだまだ市内では 24 時間対応している機関が少ないのが実態です。ブロックごとの精神科
救急システムはありますが、夜間の相談が必ずしも入院を必要とするものではなく、
「話を聞く」、
「不
安を受け止める」、
「寂しさを受け止める」、
「誰かに繋がっている安心感を担保する」
・・ことで解消
されることも多々あります。昼間のケアの充実と並行して、病院に限らず、対応できる機関が増え
ることで、ご本人側の地域移行への不安のハードルを少しでも低くすることができるのではないで
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しょうか。
10.終わりに
この一年間あまりも、
「居住サポート事業立ち上げ支援事業」の影響もあり、全国からの視察や講演
依頼、問い合わせ等、様々にいただきました。
「先進地」と言う言葉を耳にするたびに、身のすくむ思
いは相変わらずですが、他都市の実践等も含め、学ばせていただいたことも多く、慌ただしい中にも
有意義な一年でもありました。
今後も、次々と新しい課題も生まれてくることでしょう。その課題のひとつひとつに前向きに真摯
に、取り組んでいきたいと思っています。
連携すべき事業も散見されますし、実態的な連携を目指して、次の一年を歩みたいと思っておりま
す。A さんの暮らし、B さんの暮らしが当事者の方に見えてリアルにつながるのが地域移行だと思い
ますし、その一例をどう支援していくかにまだまだ大きな課題があるのが実際です。それは、精神科
領域に限らず、他の障害領域にも同様にいえることでしょう。
「住まいの場の確保」は、あくまでも入り口であり、ひとりひとりの「住みたい暮らしのあり様」は
様々です。充実すべきはそこに続く、
「その町に住み続けていくための支援体制」でしょう。当事者力
も含め、他機関との共働の中に、『息長く途切れない面での、「この町に暮らしてよかった」と思って
いただける支援を実践していきたいと思っています。
厚生労働省は、平成 21 年 9 月の「今後の精神保健医療福祉改革に関する基本的な考え方」の中で、
「現在の長期入院患者の問題は、入院医療中心であったわが国の精神障害者福祉施策の結果であり、
行政、精神保健医療福祉の専門職等の関係者はその反省にたつべきである。
」と明示しています。長く
精神科領域に携わってきた一人としてその言葉の重みを真摯に受け止めると同時に、率直に評価した
いと思っています。この間、何が変わったのか、そして何が変わらなかったのか・・。私の精神科医
療の原点は市内のある精神科病院の閉鎖病棟でした。毎年、春休みと夏休みにアルバイトをさせてい
ただく中で、鍵で管理することの怖さ、鍵や鉄格子で一体何を、何から守るのだろうというずっと拭
えなかった疑問。閉じ込められることと並行して、閉じ込めてしまうことの怖さや辛さ、日々いろん
なことを伝えてくださる患者さんとの関係が 17:00 を過ぎると同時に逆転してしまうもどかしさ・・、
でもそこにあるどうしようもない優しさや豊かさが大好きでした。破れたズボンのお尻を繕ってあげ
ながらゆったりと患者さんに向き合う、そんな看護師さんに憧れたものでした。17:00 を過ぎて鉄格子
の向うで「さよなら、また明日ね・・」と手を振る彼らを地域に戻したい、その「引っ張り出す力」
のところにいたい、というのが原点でした。それから 30 年・・。
センターは、開設から昨年の 9 月で 4 年を経過したところです。
精神科病院に限っていえば、市内には 18 病院ありますが、その中で、日常的にやりとりのある病院
は半数ぐらいです。しかし、本当に、支援を必要としているのは、問い合わせもない病院の閉鎖病棟
で長期入院を余儀なくされている入院者の方々でしょう。必要な人に情報が届かなければ、退院を検
討する余地すらありませんし、事業がないも同然です。そういう意味では、100 年前と同じともいえ
る実態がそこにはあります。いわゆる専門職といわれる中でもこの言葉を知っている人も少なくなり
ましたし、
「私宅監置」などという言葉はとっくの死語かもしれません。
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しかし、30 年前は、
「精神科の病気です。」と開示して、家を探すことは到底考えられないような時
代でした。そういう意味では、
「地域」は少しずつ変わってきている、というのもある意味の実感では
あります。
いつの日か、呉 秀三先生の言葉(図 40)が実質的な過去になる日がくることを祈ってやみません。
また、遠くない将来、センター事業が不要になる日が来ることを願ってやみません。
『精神病者私宅監置ノ状況及ビ其統計的観察』
(1918 大正7)
“我邦十何万ノ精神病者ハ実ニ此病ヲ受ケ
タルノ不幸ノ他ニ、此邦ニ生マレタルノ不
幸ヲ重ヌルモノト云フベシ。
精神病者ノ救済ト保護ハ実ニ人道問題ニ
シテ、我邦目下ノ急務ト云ハザルベカラズ”
(図
36
37)