北欧訪問の報告

北欧訪問の報告
海外出張報告 3
酒句教明
Norwegian Geotechnical Institute の訪問
北欧の観光名所といえば人魚姫の像
2009 年 8 月上旬からおよそ 1 ヵ月の間に北欧 4 ヵ国を
土層も確認できました。これは氷積土と呼ばれるもので,
訪 問 し て き ま し た。 訪 問 目 的 は 自 分 の 専 門 で あ る 地 盤・
こちらも地盤工学上よく問題になる土質です。日本で盛
基礎分野の捉え方が,日本とどのように異なるかを視察
ん な 地 盤 改 良 に つ い て は, そ れ ほ ど で も な い よ う で す。
することです。とくに印象に残った事柄を報告します。
日本で宅地の地盤調査によく用いられるスウェーデン式
北欧 4 ヵ国の都市の人口規模は,最大である首都でも
サウンディング試験の状況を尋ねたところ,ちょっとわ
80 万人を超えませんが,日本の同人口程度の都市に比べ
からないという反応でした。このことは少し残念でした。
ると交通網は発達しており,公共施設の規模は大きく感
ガムラスタン(Gamla stan)の視察も興味深かった
じます。フィンランドを除くと通貨はいまだにユーロで
のでここに記します。ガムラスタンはストックホルムの
はなく,言語は各国独自のものを有しています。英語は
中心から歩いていける,中世の風情を残す,現在では観
(若い人ほど)ほとんどの場合通じます。一方で,食事の
光地として有名なところです。見た目で傾い ているとわ
メニューは面白いくらいにどの国も同じです。ついでに
かる建物がいくつか確認されますが,現役として利用さ
高カロリーです。北欧人は背が高く,トイレの便器や建
れています。この傾きは地盤の沈下に起因するものです
物の扉が日本に比べ大きなサイズです。とくに便器の大
(写真の建物のひび割れもおそらく地盤の沈下によるもの
き さ は 慣 れ る ま で 大 変 で し た。 道 路 の 歩 行 者 用 信 号 は,
です)。まずは,どの程度傾いているか下げ振り(垂直度
身障者用にカタカタと大きな音が鳴り,時間帯によって
を調べる方法)により確認しようとしましたが,建物外
音の大きさは調整されているようです。公共性 の高い建
壁の仕上げが荒く,ほとんどナンセンスということに気
物は当然のように車椅子に配慮した造りになっています。
づきました。続いて床の傾き具合も確認しようと思いま
北欧といえば,皆さんもご存知のとおり,福祉が充実し
したが,日本の土間のような仕上げであるため,水平の
ています。それを支えるために税金が非常に高く,もと
精度を要求しない造りということに気づきました。窓の
もと物価も高いので,旅行者はとても大変です。マクド
開口部については,底面とサッシの間にできた隙間には
ナルドのセットメニューはおよそ 1000 円です。鉄道料金
何かしらの詰め物をし,開閉できる窓は蝶つがいをその
は東葉高速鉄道とよい勝負か,高いかもしれません。治
傾いた場所に合わせて調整して使用していました。すな
安は非常に良く,地元の人はとても親切です。バス停で
わち,近代建築のような工業製品による設備を必要とし
行き先を調べていると,必ずといっていいほど声をかけ
ていないため,多少の傾きは何ら問題にならないことが
てくれます。北欧の夏は夜が短いです。8 月上旬で朝の 3
わかりました。
時から夜の 10 時ごろまで日が昇っています。そろそろ本
最後に,日本に帰国してから洋便器に腰掛けようとし
題に入らないと紙面がなくなりそうです。
たら尻餅をついてしまいました。使いにくいと思ってい
今 回 の 出 張 の 楽 し み の 一 つ に NGI(Norwegian
たデカイ便座に慣れていたせいでした。
Geotechnical Institute) の 訪 問 が あ り ま し た。 世
(さこうのりあき・短大専任講師)
界 的 に 有 名 な 地 盤 工 学 の 研 究 所 で す。 現 地 で は Ellen
Birkeland さんという女性の方に対応してもらいました。
研究所 の建物は天井が高く明るくて小奇麗で,埃などを
処理する設備などを設けるなど,働く人の環境を配慮し
た造りでした。北欧周辺の土質の成り立ちは氷河と密接
な関係があります。よく問題になるのはクイッククレイ
(液化しやすい粘性土のこと)による地すべりだそうです。
別の場所ですが,日本では見られない礫と粘性土の混合
礫と粘性土が混在する表層地盤
(Bergen)
壁にひび割れが見られる建物
(Gamla stan)
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