女性の就業継続と労働市場政策 Parental Leave Reforms and the

女性の就業継続と労働市場政策
Parental Leave Reforms and the Employment of New Mothers:
Quasi-experimental Evidence from Japan
東京大学社会科学研究所
朝井友紀子(Asai, Yukiko)1
報告要旨
安倍内閣では、男女共に仕事と子育てを容易に両立できる社会の実現が日本の強
い経済を取り戻すために不可欠として、女性の活躍推進を成長戦略の一つとして掲げた2。
具体的には、2017 年度末までに約 40 万人分の保育の受け皿確保の「待機児童解消加速化
プラン」を推進し、育児休業給付を休業開始前賃金の 50%から 67%に引き上げた。また、
役員の女性比率や女性の登用方針等を積極的に情報開示することを促すことも決定された。
女性がその能力を最大限発揮できる環境を作り出すことは、日本の成長の持続に欠かせな
い。
これまで、女性の活躍が進まなかった大きな理由として、出産前後の就業継続率が
低いことが指摘できる。国立社会保障・人口問題研究所(2005)によると、出産前に就業して
いた女性のうち、第一子出産後に仕事を継続しているものは 38.0%に過ぎない3。OECD
Family Database (2011) によると、日本の 25 歳から 49 歳の女性の就業率は 65.7%で、他
の OECD 諸国と比較すると約 10 ポイント低い。3 歳以下の子どもを持つ女性に限ると
29.8%であり、他の OECD 諸国と比較して約 30 ポイント低い(OECD, 2011)。多くの女
性が出産を機に仕事を辞め、能力を発揮する機会を失っている現状がある。
政府は、育児をする労働者の仕事と家庭との両立を推進し、出産後の就業率を上昇
させるため、休業中の所得保障を目的とした育児休業給付の給付率引き上げをする法改正
を度々実施してきた。本研究は、これらの改正が女性の就業継続に及ぼした効果の検証を行
った。雇用保険から給付される育休給付金は、休業中に毎月支給される基本給付金と、職場
復帰後に一括で給付される職場復帰給付金に分かれている。1992 年の制定時点では雇用保
険からの給付金支給はなかった。給付金の支給は 1995 年から開始され、基本給付金と職場
復帰給付金をあわせて、出産前平均賃金の 25%が支給されていた。2001 年には基本給付金
連絡先 [email protected]
本報告要旨は、Asai, Yukiko (2014) Parental Leave Reforms and the Employment of New Mothers:
Quasi-experimental Evidence from Japan, Institute of Social Science, University of Tokyo.に基づく。
尚、一部加筆している。
2
詳細は首相官邸ホームページを参照されたい。
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.html
3
2000 年から 2004 年の間に出産した 50 歳未満かつ出産前に就業していた有配偶女性。
1
2014 年度・経済成長と生産性を考えるコンファレンス報告
要旨
の給付率が 10%、職場復帰給付金が 5%増額され、さらに 2005 年には受給資格が条件に該
当する期間労働者にまで拡大し、最大取得可能期間が 6 ヶ月延長された。2007 年以降は、
合計 50%の給付金が給付されている。本研究で注目するのは、1995 年と 2001 年の制度改
正である。具体的には、2001 年改正の場合、改正後に育休を取得し職場復帰をした女性は
基本給付金と職場復帰給付金を合わせると賃金の 40%の給付金を受給できるのに対し、改
正前に職場復帰をした女性は 25%の給付金を受給することとなる。この改正は、出産した
女性が政策変更に該当するために、出産タイミングをコントロールすることが困難であっ
たことから、改正前に出産した女性をコントロールグループ、改正後に出産した女性をトリ
ートメントグループとし、給付率の引き上げが出産後の正規就業継続に与えた影響の政策
評価を行った。
分析に用いるデータは、就業構造基本調査である。検証の結果、1995 年と 2001 年
の改正による母親の就業継続を押し上げる効果は確認されないことがわかった。給付率の
引き上げにも関わらず、就業継続を押し上げる効果がなかった一つの要因としては、保育サ
ービスの供給不足が挙げられる。Asai, Kambayashi, Tanaka, and Yamaguchi (2014)は、
保育サービス供給の増加に伴い核家族世帯における母親の就業率は上昇することを指摘す
る。一方、子どもの祖父母からのインフォーマル保育を利用することのできる三世代同居世
帯の母親の就業率は、保育サービス供給からの影響を受けない。これらの結果は、母親の就
業継続を押し上げるためには、育児休業給付の充実だけでなく、保育サービスの充実にも同
時に取り組む必要性を示唆している。
参考文献
Asai, Yukiko., Kambayashi, Ryo., Tanaka, Atsuko., and Shintaro Yamaguchi (2014)
Childcare Availability, Household Structure, and Maternal Employment, Institute of
Economic Research Hitotsubashi University Discussion Paper Series A, No.611.
国立社会保障・人口問題研究所(2005) 出生動向基本調査
OECD Family database(2011)
OECD (2011) Education at a Glance
2014 年度・経済成長と生産性を考えるコンファレンス報告
要旨
英文要旨
This study assesses the impact of changes in the income replacement rate of
parental leave on new mothers' job continuity after childbearing. The Japanese
government increased the parental leave income replacement rate from 0% to 25% in
1995 and from 25% to 40% in 2001, creating 2 natural experiments. I identify the causal
effect of these reforms by comparing the changes in the regular employment status of
mothers who gave birth after the reform to the change for mothers who gave birth before
the reform. The results from the Employment Status Survey suggest that the 2 reforms
had no significant effects on the job continuity of mothers who qualified for the reforms.
2014 年度・経済成長と生産性を考えるコンファレンス報告
要旨