4. 現象学、構造主義、記号論

MODERN ARCHITECTURAL THEORY- 14. CHALLENGES TO MODERNISM IN EUROPE 1959-1967
4. Phenomenology, Strucuturalism, and Semiotics
レジュメ
20130510
4. 現象学、構造主義、記号論
【現象学】
エドムント・フッサール :『論理学研究』(1900/01)『イデーン』(1913)
・現象学=日常経験において物事がいかにして我々に現れてくるのかを探求
英国実証主義とも、大陸系理論(19 世紀形而上学)とも異なる
・現象学のモットー:「事象そのものへ」=現象や本質という領域への眼差し
・フッサール現象学の代表的な概念
〈志向性〉:人間と世界の心理的な関係=つねに「何かについての」意識
〈還元〉:現実に関する信念(ドグマ)の中断→先入見なしに現象を検討
〈地平〉: 内的地平(物事を経験する際の経験者の経験・記憶・欲求・関心)
外的地平(経験される事物がその意味を獲得・変容する文脈)
・現象学の目標:人間についてのより優れた現象学的理解への到達
→現象学は人間の経験の〈生活世界〉に具体的に関わる
モーリス・メルロ=ポンティ :『知覚の現象学』(1945)
・〈反省〉に先立つような日常経験世界を強調
・〈身体〉:中立的かつ抽象的な存在ではなく、〈運動感覚〉の[kinesthesis]知覚領野
:身体を通じて空間関係や時間関係が生み出される
:我々の世界における我々の生きられる存在を規定する
・ゲシュタルト心理学との区別
ゲシュタルト心理学:視覚領野全体[visual whole]という観点からの分析
→照明・奥行き・音響の要素によって効果付けられる空間の知覚
マルティン・ハイデガー
『存在と時間』(1927)
・〈現存在[Dasein]〉:世界のうちへ被投されつつ、自らを未来へと企投する人間存在
・〈解釈学〉:分析上の道具→日常生活で現存在が行なっている〈解釈的理解〉を探求する
1930 年代以降:テーマが存在から芸術や技術へ映る
・「建てる・住まう・考える」(1951)
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担当:松井
健太
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担当:松井
健太
「建てる」「住まう」「考える」という概念同士の関係を考察
space と区別される Raum(空間)=生活や住まいのための場所
世界を建てること=自身のアイデンティティーを構築すること
⇒合理的原理に従うのではない建築の考え方:我々の生に意味を与えることに関係
【構造主義】
フェルディナン・ド・ソシュールの言語学 :『一般言語学講義』(1916)
・普遍的かつ自己充足的な法則としての〈ラング〉
←→個別的かつ偶然的な要素としての〈パロール〉
・言語=慣習的な記号や意味の完結した体系
独自の内部的な法則(統語論)や作用[operation]を持つ
→言語をより一般的な仕方で考察
クロード・レヴィ=ストロースの構造人類学
:『親族の基本構造』(1949)『悲しき熱帯』(1955)『構造人類学』(1958)
・普遍的かつ無意識的な精神構造
人間の思考の内部で働き、その思考を導く
理性的知性から原始的な物語に至るあらゆるコミュニケーションのレベルに現れる
建築への構造主義の転用 チーム X、日本やオランダ
日本:丹下健三
ex1)東京湾計画 1960:構造主義を概念モデルとして引用
二つの極の統合:①巨大スケールの構造物(輸送ライン)②日常行為の「短いライフ・サイクル」
構造主義=耽美主義(aestheticism)へのオルタナティブ
空間の組織化=コミュニケーション・ネットワーク=成長と変化を伴う生きた身体
ex2)「機能、構造、象徴」(1966)
⇒構造主義=機能主義へのオルタナティブ:サイバネスティクスや情報理論
アルニュルフ・リュッヒンガー『建築や都市デザインにおける構造主義』(1981)
・建築における構造主義=CIAM の機能主義的な思考にとって代わる動き
=諸関係の完結した集合:要素は変化するが、全体に依存するその意味は保存される
・構造主義的なデザイン:リズムとサブリズム
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同じ意匠の反復、成長・一貫性・変化の許容、ユニット(単位)へのボリューム分節
ex)アムステルダムの孤児院(ファン・アイク、1957-60)
「成長する住居」(ファン・デン・ブロク+バケマ、1962)
「子供の村」コンペ・プロジェクト
(ヨープ・ファン・スティッシュ+ピエト・ブロム、1970 - 2)
セントラル・ベヒーア保険会社アペルドールン支部(ヘルツベルハー、1967 - 2)
キンベル美術館(ルイス・カーン、1967 - 2)
ハビタ 67(モシェ・サフディ、1967)
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担当:松井
健太
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健太
アルニュルフ・リュッヒンガー『建築や都市デザインにおける構造主義』(1981)
①東京湾計画 1960(丹下健三)
②アムステルダムの孤児院(ファン・アイク、1957-60)
③セントラル・ベヒーア保険会社アペルドールン支部(ヘルツベルハー、1967 - 2)
④キンベル美術館(ルイス・カーン、1967 - 2)
⑤ハビタ 67(モシェ・サフディ、1967)
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担当:松井
【記号論】
・記号=定着した慣習に基づいて、他の何かを「代理しているもの」として見なすもの
・記号論の建築的適用の二つの路線
①ロラン・バルト『記号学の要素』(1964):構造主義的な二重性
②チャールズ・W・モリス『記号理論の基礎』(1938):建築家による幅広い受容
チャールズ・モリス :シカゴ大学@イギリス
『記号理論の基礎』(1938)
・モリスによる記号論の分類
記号論̶①語用論:〈記号−記号を読み取る解釈者〉の関係:心理学的・社会学的変数
②構文論:〈記号同士〉の形式的関係:記号の使用の構文・文法上の規則
③意 味 論 :〈 記 号 − 記 号 が 用 い ら れ る 対 象 〉 の 関 係
→ 建築で広く適用:特定の形態やモチーフの意味
記号̶a)インデックス:対象と物理的な連関を持つ記号 ex)足跡、矢印
b)アイコン:対象に類似した記号 ex)売り物の形をした売店
c)シンボル:対象と恣意的・慣習的関係をもつ記号 ex)ドリス式柱
・1950 年代後半建築理論の「意味」の強調→機能的関心の偏重によるデザインの枯渇への応答
・モリスの記号論=概念的で厳密・「科学的な」基礎に基づいたデザインを教える道具
=芸術家の見方と科学者の見方を仲介するための道具
⇒教 育 への記号論の応用 cf)モホリ=ナジやケペスによるゲシュタルト心理学の利用
トマス・マルドナード :ウルム造形大学@ドイツ
・1950 年代後半に記号論を大学のカリキュラムに組み込む→記号論の教育上の有効性
コミュニケーション理論や情報理論
クリスチャン・ノルベルク=シュルツ : ETH@スイス、アメリカ
・マルドナートの記号論に大きな影響を受ける、1950 年代には CIAM にも参加
『建築における意図』(1963)
・建築理論の基礎の準備=建築的経験全体の規定
・多方面的(ゲシュタルト心理学、教育理論、コミュニケーション・モデル、構造主義)
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健太
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健太
→限界点:記号論は「構造分析」の一次元に過ぎず、解釈の批判的道具ではなく、デザインや教育の媒体
自身の理論の基礎づけから現象学的アプローチへの移行
→場所や意味についてのハイデガー的な概念に依拠 ex)『実存・空間・建築』
ジョゼフ・リクワート :イギリス、イタリア
「建築における意味」(1960)
・機能主義的な見方に限定されず、建築を豊かに捉えるというテーマを切り開く
1950 年代のイタリアの活発な議論に参加:雑誌『ドムス』『ゾディアック』
・合理主義建築への攻撃
建築の感情面での力:建築において指示される<内容>についての方法論的探求
ex)人間が住宅に求めるもの=自身が宇宙の中心にいるという確信
イタリアの記号論的研究
セルジオ・ベッティーニ「記号論的批評:ヨーロッパ建築の歴史的連続性」(1958)
・非表象的な近代芸術作品でさえも読み取り可能な言語構造を有している
・建築の内容を「記号」という観点から論じた最初の理論家の一人
1960 年代半ばの視野の広い研究
ex)ジョバンニーニ・クラウス・ケーニッヒ「建築言語の分析」(1964)
レナート・デ・フスコ「マス・メディアとしての建築:建築記号学について」(1967)
マリア・ルイーザ・スカルヴィーニ「建築空間における象徴と意義」(1968)
ウンベルト・エーコ「不在の構造:記号論的探求への序論」(1968)
・建築=諸コード(技術的/構文論的/意味論的)の複雑な体系の中での操作
この体系は外部のさらに大きなマトリックスの中において展開
→建築家は設計物がどのように解釈(意味づけ)されるかを制御できない
イギリスにおける記号論的研究
・イタリア研究、リクワート、シュルツ、レヴィ=ストロース、カッシーラー、ゴンブリッチの研究の普及
カナディアン・ジョージ・ベアード
ex1)「リージェント・パークにおけるパラドックス:解釈の問題」(1966)
ex2)『アーキテクチュラル・アソシエーション・ジャーナル』特集「建築における意味」
(チャールズ・ジェンクスとの共同編集)
意味の構造は理性的議論・分析が可能であるというベアードの基本思想に基づく
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健太
ノリス・K・スミス、A・コルクハーン、リクワート、ルイージ・モレッティ、ベアードの論文収録
ex3)ジェンクスとベアーズの著作『建築における意味』(1969)
ex2 に、シュルツ、ジェフリー・ブロードベント、バンハム、フランプトン、マルタン・パウリー、
アイク、フランソワーズ・ショエ、ナーザン・シルヴァー、ギロ・ドルフレスによる論文を加える
⇒エーコとベアード+ジェンクスの仕事が 1970 年代初頭の記号論的活動の基礎となる
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