体にいい寄生虫 - 長岡技術科学大学

体にいい寄生虫
丸山 一典
『体にいい寄生虫』
藤田紘一郎著
講談社文庫
科学者のイメージとしては、堅物や変人を連想されるのが一般的だと思います
が、どうしてどうして愉快な学者は結構多いです。堂々「日本を代表する10名の
奇人」の1人に名を連ねておられる藤田紘一郎先生は「サナダ虫ダイエット法」
を提唱されている先生です。世紀の歌姫、マリアカラスもこの方法により105キロ
の体重を55キロまで減らすことに成功しました。小生は NHK 教育 TV の人間講座
(2001年4∼5月)で拝聴し、その後に出版物を読みました。愉快な本が沢山出版
されています。その中で、科学出版賞を受賞(1996年)したロングセラーの処女
作『笑うカイチュウ』よりも、小生が楽しんだのは表題の本です。小生は虫が苦
手なのですが、つづられている研究の過程はまさしく抱腹絶倒の連続です。そこ
には、ユーモアと遊び心が溢れ、一種の羨望の念さえ湧き上がりました。
先生はサナダ虫の効用を体を張って試されました。先生が“妊娠”されたサナ
ダ虫の名はキヨミちゃんと申します。キヨミちゃんとの共生実験により、コレス
テロールが3分の2に減り、中性脂肪は実に半分になったとのことです。キヨミ
ちゃんを欲しいと思う人も居るでしょうが、残念ながらキヨミちゃんを“妊娠”
するのは少し難しいのだそうで、単にサナダ虫の卵を飲みこんでもだめなのだそ
うです。なぜでしょう?正規のル−ト(詳細は省略)で、しかも丁重なおもてな
し無しでは、共生は不可能なのだそうです。実はキヨミちゃんは3代目で、2代
目を“妊娠”した時、先生は腹巻をしてお腹を冷さないようにし、キムチも食さ
ないようにするなど気を使われました。サナダ虫って実に繊細、デリケ−ト。ま
た、時々、30cmほど“外出”することがあるのだそうで、その時は「痛くて、か
ゆくて、クサイ」のだそうであります。小生には到底真似できません。興味深い
絵や写真も多く、江戸時代の『新選病草紙』では、肛門からサナダ虫を取り出し
ている場面が描かれています。
この“痩せ薬”ですが、欧米では効果があるのに日本ではあまりダイエット効
果がない。サナダ虫の外皮は、人間の腸管壁と同じ構造をしているのでどんなサ
ナダ虫でもダイエット効果が期待できるハズです。藤田先生以外にもサナダ虫に
取り付かれた先生の話も出て来ます。北欧を中心に向こうのサナダ虫は悪性貧血
をひきおこすとの報告もあるのに日本ではほぼ問題ないとのことで、その先生は、
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日本産と欧米産の虫は別種なのではないかと疑い、自身で人体実験におよびまし
た。まず、日本産の虫を“妊娠”し、臨床観察を行い、1年後、フィンランドに
渡欧してあちらの虫を“妊娠”し、見事に貧血症状にみまわれました。しかし、
日本人にダイエット効果のない決定的な理由としては今一つと説得力に欠けると
お考えのようです。
“良い寄生虫”は“痩せ薬”の効果を人間にもたらすばかりではありません。
サナダ虫と共生することで、人はアレルギーになりにくい体質に変化する、とい
うユニ−クなお考えも展開されます。どうしてでしょう。 IgE 抗体の生成と関連
がありますが、興味を持ち、理由を知りたい方々は、表題の本をお読みください。
執筆者紹介
丸山 一典
本学非常勤講師。長岡工業高等専門学校教授。平成18年3月まで本学に在職。専門領
域は、物理化学。 NHK の技術者から、本学教員に転身。本学在職時は、10kmの道の
り(坂道あり)を自転車通勤していたパワフルで学生思いの先生。
『書名』 著者名(翻訳者名) 出版社または文庫・シリーズ名 出版年 税込み価格
『体にいい寄生虫』藤田紘一郎著 講談社文庫 2000年 品切
『笑うカイチュウ:寄生虫博士奮闘記』
』藤田紘一郎著 講談社文庫 1999年 490円
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