またまた見つかった歴史的クラリネット (Part II)

またまた見つかった歴史的クラリネット (Part II)
バセットホルンの町 - Kandern
ドイツクラリネット協会
David Glenni
皆様ご存知のように、2009年5月にドイツ南部の町 Kandern で「第1回国際バセットホルン・フェスティバル」ii
が開催されました。筆者と Peter Geisler 博士iiiがこのフェスティバルを主催することになったきっかけは、
町の郷土史・陶磁器博物館 ivから歴史的クラリネット類が発見されたことでした。あの記念すべき2008年
2月4日の宵に私が博物館の屋根裏で見たものは、驚くべきことにほぼ完全な2本の歴史的バセットホルン
でした。
それらのバセットホルンは、後日 Bamberg の Schwenk & Seggelke 工房の Jochen Seggelke 氏および
Nürnberg ゲルマン国立博物館の Markus Raquet 氏の尽力で演奏可能な状態に修復され、フェスティバル
期間中の4回のコンサートでその音が披露されましたことは既報のとおりです。
その時は、普通のクラリネット吹きである私達がこんな奇跡に巡り合うのは一生に一度のことだろう、と考え
ていました。しかしある日、雷は同じ場所に二度落ちることもある、ということわざを身をもって体験することと
なってしまいました。一体何が起こったのでしょうか?
バセットホルン・フェスティバルから半年ほど経った2009年の11月、Kandern の Winterhalter 町長から電話で
「博物館から何かまた楽器らしいものが見つかった。町役場に持って来てあるので、すぐに見に来て貰え
ないだろうか?」 という依頼を受けました。町長さんいわく、「どうもクラリネットとバスクラリネットらしい。」
翌日、早速町役場にとんで行き、そこで私が見たものは、テーブルの上に並べられた4本の保存状態の
非常に良好なクラリネットでした。それは、2本
の5鍵 Bb クラリネットと、2本のやや時代の
下がったバスクラリネットでした。そして、ベル
からマウスピースまで全ての部分が完璧に
揃っているのです。
バスクラリネットのうちのひとつにはリードと
リガチャーまでついていました。町長は
「博物館を改修していたらこれが出てきたん
だよ。」と説明してくれました。私は持ち合わ
せていたカメラで急いで写真を撮り、帰宅
するなり、隣町の Peter Geisler 博士vに連絡を
【再び楽器が発見された Kandern 郷土史・陶磁器博物館】
とりました。
私達は、Bb クラリネットは1本で 3,000ユーロ、バスクラリネットは少なくとも1台で25,000ユーロの価値がある
だろう、と推定しました。前回バセットホルンの修復を担当した Jochen Seggelke 氏に写真を見せたところ、
その通りですとの判定で、もう一度 Kandern でフェスティバルを開催するだけの値打ちがあります、と太鼓判
を押してくれました。
それから暫くの間は、多忙のため私、Peter、Winterhalter 町長の3人が集まって、正式な写真を取る機会が
ありませんでしたが、それもようやく2月18日に完了し、あとは楽器の修復を待つばかりとなっています。
わが町の博物館には、いったいあと何本のクラリネットが眠っているのでしょうか。□
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【楽器はこのような状態で博物館の屋根裏から見つかった】
【今回発見された楽器】
下の表は Peter Geisler 博士の作成した Kandern 所蔵の歴史的クラリネットのリストの一部です。
種類
Basset Horn in F
Basset Horn in F
Clarinet in Bb
Clarinet in Bb
Bass Clarinet in Bb
Bass Clarinet in Bb?
鍵数 製作者
15
15
5
5
22
18
製作地
Johann TobiasUlmann
no mark
Andreas Greve
Wolfgang Küss
Josef Ignaz Widmann
no mark
(1776-1838)
(1770-1840)
(1773-1834)
(1838-1863)
-
Wien
Manheim
Wien
Freiburg
-
材質
発見
備考
Boxwood
Boxwood
Boxwood
Boxwood
Boxwood
Boxwood
2008.2
2008.2
2009.11
2009.11
2009.11
2009.11
low E
low E
low E
low E flat
【第一回国際バセットホルン・フェスティバルより】
【前回(2008年)に発見されたバセットホルンについて説明する Seggelke 氏】
【修復されたバセットホルンで演奏する Geisler 氏と Glenn 氏】
【訳出・構成:金子理志】
i
1954年米国 Chicago 生れ。米国、英国、ドイツでクラリネット教育を受け、1985年以降 Städtische Musikschule Lörrach でサキソホ
ンとクラリネットを教える。Virginia Wright、Mitchell Lurie、James Kantor、Keith Puddy、Thea King、Kato Havas、Michele Zukovsky、
Alan Hacker、Dieter Klöcker、Karl Schlechta に師事。米国、英国、ドイツ、オランダ、ベルギー、フィンランド、チェコ、ハンガリー、
スイス、フランス各地で幅広い演奏活動を展開。
ii
JCS 会報第107号の記事「第一回国際バセットホルン・フェスティバルに参加して」を参照。
iii
1955年生れ。Rudolf Kilchling に師事。1977年以降、在住の Schopfheim でクラリネットとサキソホンを教える。2008年、フライブル
ク教育大学より最優秀の論文で博士号取得。在住地近辺の Weil am Rhein、Basel(スイス)を中心に室内楽、オーケストラ、吹奏楽
などで演奏活動を展開。
iv
Kandern は陶磁器の町として知られ、この博物館は学芸員も含め、陶磁器を専門としている。
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