デイビッド・クリーガー - 第5回核兵器廃絶地球市民集会

NGO 代表スピーチ
核時代平和財団会長(アメリカ)
デイビッド・クリーガー
中村知事、田上市長、朝長先生、土山先生、そして長崎の人々、この会議の参加者の皆様、
核時代平和財団のメンバー6万人に代わりましてご挨拶申し上げます。皆さま方、そして長崎
市に対して、この「核兵器廃絶−地球市民集会ナガサキ」という伝統を守っていただいている
ことに対して、深い感謝の意を表したいと思います。本当にこの美しい都市を再度訪れること
ができて、非常にうれしいことです。また、特に知己と旧交を温めることができ、うれしく思っ
ています。
広島、長崎の人々による約70年にわたる、この定着した献身のご努力は称賛に値し、尊敬
すべき行動です。世界中のその他数百万人の思慮深く思いやりのある人々とともに、長崎が戦
争で核兵器が使用された最後の地になることを希望し、目標とするということを、皆様ととも
に共有したいと考えています。
この目標が達成されることを保証する道は1つしかない、それは核兵器の全廃です。そのた
めには、リーダーシップ並びに世界中の人々からの大きな要求が必要となります。40年以上、
この目標に向けて働き掛けてきた人間の1人として、私はこの目標が非常に難しい挑戦である
ことを知っています。しかし、この目標に向けて前進があることも知っています。
1986年には、世界に7万以上の核兵器が存在しました。今日の数は1万7千強です。こ
の四半世紀程で、約5万3千の核兵器が放棄されたことは前進です。それでもまだまだ多過ぎ
ます。
広島や長崎のようなことが二度と起こらないことを保証するためには、核兵器ゼロの世界をつ
くらねばなりません。
核時代では、人類は核兵器に対して、その脅威の前で無抵抗であってはなりません。人類及
び全ての生命の未来は、現在進行中の傲慢 (Hubris) と英知 (Wisdom) とのせめぎ合いの結果に
委ねられているのです。
Hubris という言葉は、古代ギリシャ語で「傲慢・不遜」という意味です。Wisdom は「英知・
慎重なる良識」という意味を持っています。
Hubris は、ギリシャ悲劇の核心部にあり、人の力は疑う余地のないものだという尊大な考え
です。Wisdom は、揺ぎない人の力など無いと忠告します。
Hubris は、核兵器を保有し、抑止力としてその力に頼る国があっても良いと言います。
Wisdom は、これらの兵器が我々を消し去る前に排除してしまわなければならないと反論する
のです。
Hubris は、これらの恐ろしい兵器は人間のコントロール下にあると言います。Wisdom は、
人間は過ちを犯しがちな生きものであり、誤りから免れられないと言います。
Hubris は、我々のこの最も危険な技術は制御可能だと繰り返し言います。Wisdom は、チェ
ルノブイリと福島で何が起こったか見なさい、と言います。
Hubris は、核兵器の拡散は阻止できると言います。Wisdom は、核兵器の拡散または使用を
阻止できる唯一確実な方法は、現存するものを全て廃棄することであると言います。
Hubris は、政治的指導者は常に合理的であり、核兵器の使用を避けるであろうと言います。
Wisdom は、政治的指導者を含む全ての人間というのは、時折、状況によっては不合理な行動
を取ると言います。
Hubris は、人類の未来でロシアンルーレットをしようと言います。Wisdom は、我々には人
類の未来を保証する責任があると言います。
Hubris は、我々は核の炎をコントロールできると言います。Wisdom は、核兵器は人類の苦
しみの鬼火の火種となり、この星から永遠に根絶しなければならないのだと言います。
核時代において、Hubris に対する最良の解毒薬は Wisdom です。核の時代の恐ろしい幕開
けまでさかのぼり、爆弾の製造と使用が世界を変えたことをはっきりと理解していた3人の男
たちの Wisdom を検証してみましょう。
男たちとは、アルベール・カミュ、モハンダス・ガンジー、そして、アルベルト・アインシュ
タインのことです。彼らの原爆使用に対する反応は、当時の米国大統領、ハリー・トルーマン
のそれとは大きく異なっていました。トルーマンは、
広島での原爆投下について聞いたとき、
「こ
れは歴史上、最も素晴らしい出来事だ」と述べたと報告されています。さらに、彼は原爆が敵
国ではなく、米国に生まれたことについて、神に感謝しています。
アルベール・カミュは、偉大なフランス人小説家及び実存主義者です。第2次世界大戦中に
フランスの地下レジスタンス新聞「コンバ」の編集を行なっていました。戦後12年経った
1957年、彼はノーベル文学賞を受賞しました。広島での原爆投下について知り、長崎に2
つ目の原爆が投下される前に、彼は以下のような文章を書いています。引用いたします。
「我々の技術的文明は、残忍さの最高地点に達した。多かれ少なかれ近い将来、集団自殺か、
科学的獲得物の知的使用かのどちらかを選ばなければならないであろう。現在、人類の目前に
迫った恐ろしい未来を前に、平和こそが唯一戦って手に入れるに値するものであると、以前よ
りさらにはっきりと理解できる。もはや、全ての人々が自身の政府に対して取るべき行動は、
祈りを捧げる事ではなく、要求することである。すなわち、地獄を取るのか、良識を取るのか
を明確に選択せよという要求である」
原爆が製造され使用された後、カミュは平和を我々の価値観と目標のヒエラルキーの頂点に
まで上昇させる必要があると、瞬間的に認識したのです。このことは、積極的に戦争を行なう
のと同様に、戦略的思考、規律、責務及び勇気にて遂行する必要があるということを示してい
ます。カミュにとって、核兵器が存在する世界という新たな状況では、人々が平和を維持し、
自分たちのリーダーを導く必要があったのです。
一方、
ガンジーは、
サチャグラハ(真理把握)及び非暴力主義の偉大なる支持者でありました。
原爆が広島と長崎に投下された時、彼はインドを英国からの独立に向け先導していました。ガ
ンジーは、原爆に対する自身の反応は次のようなものだったと思い返しています。引用します。
「原爆によって広島が完全に破壊されたと初めて聞いた時、私は微動だにしなかった。それ
どころか、私は『今世界が非暴力主義を受け入れない限り、人類は確実に自ら滅ぶであろう』
と思った。非暴力主義は唯一原爆が破壊できないものである。
」ガンジーにとって、原爆とい
う暴力は、人類の非暴力主義によってのみ克服し得るということなのでしょう。
偉大なる科学者であり、人道主義者であるアルベルト・アインシュタインは、
「解き放たれ
た原子の力は全てを変えてしまったのに、我々の考え方はそのままである。それゆえ、我々は
未曾有の破滅的状況へと流されていく」と記述しました。アインシュタインは、古い考え方は
罠であり、人々は全く新しい考え方を身につける必要があるということを理解していました。
必要とされる最も重要で新しい考え方は、同一種属及び結束であると私は考えます。すなわ
ち私たちは1つの種であり、人類の一員として考えなければならない。そうすることにより、
我々の間にある相違を暴力ではなく平和的に解決することを学び、さらに、そのような考え方
を支持する機関を設立するであろう。アインシュタインにとって、原子力による兵器によって
もたらされた重要な要因は、新たな考え方の必要性でありました。もし人類が「未曾有の破滅
的状況」を回避しようとするならば、その新たな考え方が必要となるのです。
3人の偉大なる男たち、3人の強力な Wisdom(英知)の言葉。
唯一納得できる核兵器の数はゼロのみです。すなわち核兵器ゼロの世界が目標でなければな
らないということです。この世界までの距離は、我々の想像力、決断力及び根気次第です。核
兵器ゼロを達成するために、我々は平和を維持し、非暴力的な行動をとり、人類の一員として
考え方を変えなければなりません。核時代では、Wisdom により Hubris を克服する必要があ
るのです。
核兵器のない世界という目標に向け、尽力することを諦めてはなりません。Wisdom に従い、
ともに人間として暮らし、共通の問題の解決策をともに探るか、もしくは Hubris に従い、無
関心、無知及び国家への忠誠心にとらわれたまま、ともに滅びるかという選択肢です。
平和と不殺生の世界を目指す旅において、最も重要な次の一歩は、核兵器時代を終焉させる
ことです。これは核兵器の段階的、検証可能な、不可逆的及び明白な排除のための核兵器禁止
条約の交渉により達成することができます。目標に向け前進は認められますが、その前進は耐
えられないほど遅く感じられます。
核兵器国の核兵器撤廃の交渉を実施するために、市民社会及び非核兵器国は、現存する核兵
器国にさらなる圧力を加えなければなりません。私はさらに、来るべきメキシコ会議に参加す
る予定の国々に、核兵器の製造、所有、使用、または使用の脅威を法的に禁止するための交渉
を、核兵器国の参加の有無は関係なく、開始することを推奨します。その行程は開始されなけ
ればならず、切迫感をもって取り組まれなければなりません。
核兵器が人類及び多くの複合体生命を危険にさらすという問題は確認されましたので、その
脅威を取り除くため私たちは迅速にその解決に向け進まなければなりません。そうすることに
よって、科学的及び財政的資源を自由に使用できるようになり、気候変動、再生可能なエネル
ギー資源の開発、海洋・大気の汚染、飲料水・食糧の不足、並びに森林・生物多様性及び耕作
適地の消失など、その他の差し迫った世界的脅威に対処できるのです。人類の未来のため、我々
はさらに、人間社会として戦争の根絶に向けて進まなければなりません。
最後に、私が今年の初めに書いた短いポエムをご披露して、締めくくろうと思います。タイ
トルは「数少ない単純なる真実」です。
A FEW SIMPLE TRUTHS
Life is the universes most precious creation.
There is only one place we know of where life exists.
Children, all children, deserve a full and fair chance.
The bomb threatens all life.
War is legitimized murder with collateral damage.
Construction requires more than a hammer.
The rising of the oceans cannot be contained by money.
Love is the only currency that truly matters.
One true human brings beauty to the earth.
数少ない単純なる真実
生命は銀河の最も大切な創造物である。
生命が存在する場所は1つしか知られていない。
子供たちは、全て、完全で公平な機会を受けるに値する。
かの爆弾は全ての生命を脅かす。
戦争は付随被害を伴う、合法化された殺人である。
建造物は、ハンマーだけでは建てられない。
お金によって海面の上昇は止められない。
愛こそが本当に意味のある、唯一の通貨である。
1人の真の人間こそが地球に美をもたらす。
ご清聴ありがとうございました。