マセソンオルムスビープレンティス法律事務所事業システム分析

マセソンオルムスビープレンティス法律事務所
事業システム分析
早稲田大学大学院商学研究科
プロフェッショナルコース(社会人大学院)
2004年入学 畑山美穂
前提・背景の説明
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本課題においては、2004年3月末まで働いたアイルランド国のマセソンオルムスビープレンティス法律事務所(以
下、MOPという)http://www.mop.ieの企業価値分析・事業システム分析を行う。
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アイルランドは、人口、3.8 millionおり、弁護士の数は、 6,500 solicitors(事務・渉外弁護士)と 1,400
barristers(法廷弁護士)からなる。http://www.legal500.com/lfe/frames/ir_fr.htm
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1名の弁護士により経営されている小規模な法律事務所から350人くらいからなる大規模法律事務所があり、法
律業務において、完璧な2極化がすすみ、ローカル事務所(遺言書作成・近所の紛争、一般法務など担当)と大規
模事務所(国や国家の経済を動かす規模のビジネス法務など)全く違う仕事・クライアントに対応している。大規模
の法律事務所のうち、上位5つは、主に「BIG5」と呼ばれ、MOPもそのひとつである。ここ5年くらいの間に、各大
規模法律事務所による規模の競争が激化し、また、法律上、弁護士と会計士による共同経営が許されているので、
弁護士・会計士関係なく引き抜きが頻繁におこり、会計事務所・法律事務所内のパートナー(共同経営者)クラスの
人材の流動化がおきている。
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MOPは、英国統治下1825年から続く、伝統的な法律事務所で、高い評価を受け続けている。過去5∼10年、大
規模な事業を継続して行い、2002年に初めてアイルランドの国から欧州最優秀法律事務所に選ばれ、規模・市
場評価・売上全てにおいて、アイルランド国で最大を維持していたが、近年、他の法律事務所による目覚しいほど
の台頭ぶりに圧されている。
MOPの現状分析
誰に
(顧客層)
エクセレントなクライアント
¾ 誰もが知っているマルチナショナルな大企業または国内伝統企業もしくは将来可能性のある有望企業
¾ 「いちげんさん」「とびこみ」ではない企業(新しいクライアントであっても、政府機関や銀行や既存のクライアントからなどからの紹介であり、企業調査シス
テム、分析・調査専門家の設置し、徹底的にその企業のバックグランドも調査している)。
‡ 継続して仕事を持ってくるお客様
‡ 1つの案件から、数十個の案件に広がる可能性のある案件をもつお客様 一流のビジネスサークル
‡ 財務上、ある程度弁護士費用を確保している企業
‡ お互いにとってプラスになる企業
何を
(機能)
一級の法律アドバイス・サービス
¾ クライアントの期待を超える知的専門サービス
¾ 各分野の専門家によるきめ細かな法律サービス
¾ 効率よく、反応よく、実用的でかつComercial(商業にあった)アプローチのサポート
¾ 安心Í 正確で熟練・洗礼されたアドバイスの定着、1825年からの伝統、MOPが顧問ということで裁判などで相手方を威圧できるという裏慣習(?)、ま
た、顧問事務所ということで社会的に信用が得れるという会社にとってのメリット
¾ 情報Í 専門家としての守秘義務があるので、センシティブに対処しているが、クライアントを他のクライアントに紹介することにより相互メリット、情報が
集まる分、情報交換の核となる場として利用されているかんも多々ある。
どのように
(仕組み)
専門家チームによるComprehensive Service
事務所を15の法律部署に分け、更に細分化されたグループに分け、それぞれの分野に特化した専門家を配置・育成し、あらゆる問題にスピ−ディーに効率よく
対処できるような、偏りのない知的サービスを提供。(中小規模の法律事務所では人数的にも・経験的、専門的にも対応できないようなブレインを構築することで、
法律相談料が高くとも対価以上のサービスを得たとクライアントが納得できるような体制を構築)
テイラード方式
1つの企業につき、最低1人のパートナー弁護士をつけ、その人物を中心に、クライアントの状況にあったサービス・人材をその都度、多角的包括的にケアー。
(例えば、会社の設立という依頼であっても、設立手続きだけでなく、その企業の業種にあった法律事項を、指摘・提案し、同意のもと提供。例えば、会社設立Æ
従業員Æ 従業員契約書Æ 労使問題対応Æ 秘密保持契約Æ 知的所有権Æ 不動産Æ不動産に関わる税務Æ VATÆ 国際税務とビックバーンのように様々な
分野の法律が芋づる式に関わってくるので、それぞれ、案件と企業の要望を見越して&あわせて専門家を配置する。案件が広がれば広がるほど、関与する人
が増え、法律費用がかさむので、FEEが高くなっていく。でも、今後、継続して良関係を自分の責任で持ちたいパートナーが、臨機応変に請求費を内部で交渉し
たり、その会社の状況ごとにサービスを提供する)
華やかに(マーケット重視)
メディア王が事務所のChairmanであるため、マスメディアと比較的、良好な関係を持ち、何かトランスアクションがあれば、新聞やTVでとりあげられる機会が多
いので、それを利用し、事務所においてもクライアントにとっても、よい宣伝効果が利用できる。また、<才色兼備><文武両道>な健康的な人格者的な人物を
伝統的に採用しており、マスメディアに彼らの仕事以外でも取り上げられることが多く、間接的なマーケティング効果になっている。また、他の同業者人とはちが
い、早い段階でマーケティング会社と契約していたこともあり、方向性がしっかりしていたところが、他事務所と異なるところである。
同業者の中でのMOPの一般のポジショニング
付加価値
M c C an n
新しいタイ新し
いタイプの中
堅法律事務所
特化型事務所
MOP
A rt h u r
&Co x
W i l l i am A&L G
oodbody
F ry
D&T監査法
人
英国・米国系法
律事務所
KPMG監査法人
PWC監査法
E&Y監査法
人
FEE
高
あたり屋みた
いな法律事
務所
普通の町の
法律事務所
交通事故専
門の事務所
メモ: 新しいタイプの中堅法律事務所(Web法律相談を受ける所等)や特化事務所(IT法やメディアに特化)なども健闘しているが、
現在、ローカルの法律事務所などとBIG5との間に完璧な二極化がすすみ、その中で、独特な事務所としてみなされているだけで、
BIG5を脅かすほどのものにまでなっていない。
世界規模の監査法人・会計事務所の法務部などもある分野においては、競合相手となり得るが、エンロン事件後の近年、
監査業務と監査以外のFeeを区別することが法律上義務付けられ、監査法人自身、本業(監査業) 以外の仕事を引き受けづらくなっ
ているという背景から、今後監査事務所が競合相手として脅威を及ぼすことは少なくなるであろう。
また、英国系・米国系の法律事務所の展開においても、国家間の歴史から見ても、なかなかアイルランド国で単独で成功するのは
難しく、傾向としては、アイルランドの法律事務所とアライアンスなどを結ぶことのほうが多く、以上からも、当面、MOPにとっては、
他のBIG5との競争のなかで、どのような政策をとるかが、今後の課題になるであろう。
マーケット度と市場評価度のポジショニング(過去現在比)感∼発表された売上とメディアでの評価から)
昨年から今年の一般評価
2−3年前の一般評価
マーケット度
高
マーケット度
高
Arthur &
Cox
MOP
MOP
William
Arthur &
Cox
A&L
市場評価度
高
市場評価度
高
William A&L
McCann
McCann
MOP自身は、数十年来、メディアと深い関係を持ち、特に、5年以上前から
マーケティングの重要性に気がつき、それを実行していたが、他の事務所
には、その重要性は、それほど感じていなかったようで、ノウハウもなく
手探り中であったようである。
A&Lは、政治家や政府機関などの関係者が多く、評価が比較的安定
過剰なマーケティング戦争の結果がみえる。特に、5年前、Big5で一番地
位の低かったArthur&Coxの規模の著しい拡大とメディアなどの評価増
が目立つ。MOP自身は、メディア法部のエース弁護士数人の独立により、
メディアとの関係が少し弱くなったことが影響しているのかもしれない。
活動システムズのマッピング~核(法律業務)から生まれたビックバーンのようなもの
リクルーターのアテンション
企業のアテンション
案件の慎重
かつ
スピーディな選択
タイムリーで厳選
された
プレスリリース
第一級の専門家
集団の細分化
ボランティア・
社外活動の推進
バックグランドの
しっかりした
者の採用&
人格教育
すばやく事案
にあった
プロジェクト
チームの形成
テイラード方式
による
アドバイス体制
第一級の法律業務
頻繁&徹底
した事務所
内外の
教育講座
推進
華やかなイメージ
作り
核
新聞王をTOP
にした、メディア
とのゆるぎない
優良関係の保持
税務といえば、
会計事務所
ではなく、
MOPという
特化業務の
保持
信頼・信用
ノウハウ&
プレシデント&
分析調査
の共有
システムの完備
大企業しか寄り付け
なそうなハイクラス
感の提供
徹底した
コンフリクト
対策検索
システムの構築
バリスターや海外の
法律事務所との
相互紹介
限定された一定層
のクライアントとの
リレーション維持
法律業務
マーケティング
業界との太いパイプ
作り&芋ずる式の
口コミ提案式
のマーケティング
伝統の維持と
改革魂の保持
メディアのアテンション
他同業者のアテンション
わかったこと
MOPが一番に事業システムで核と思っているのは、やはり、「第一級の法律業務」の提供である。それを、最大に活かせるよう、最高な人材の採用・育成
や法律アドバイス体制、ノウハウなどのシステム化を進めることで、対応していることがわかる。これは、中小規模の法律事務所や世界規模の会計事務
所などいわゆるコンペティターが踏む込むことのできない領域となり、我々のような大規模事務所の独占市場になっているといえる。
今まで、MOPは、その「第一級の法律業務」それをどう活かすかという点において、マーケティングに他事務所より力をいれていたことにより、数年来トッ
プの座を維持できていたように思う。その背景は、法律業務には、「第一級以上」がないことに、はやく気がつき、また、個人主義の多い弁護士の世界で、
グループとして成功する価値に早いうちから気がついていたこと、また、日本で言えば読売新聞にあたるようなメディア王が事務所のChairmanがいるこ
と及びハリウッド映画の契約(マイレフトフッド、アンジェらの灰など)などを一気に受けていたことなどから、メディアと深いかかわりを持ち、マスメディアか
らも比較的好意的に思われていること、また、他の法律事務所が、いわゆる典型的な陰気くさい弁護士集団であるのに対し、MOPでは、上流階級出身
(プロテスタント・アングロサクソン系)の文武両立のラガーマンや才色兼備の子女などを採用し、育てることで、セレブ雑誌などに取り上げられ、間接的な
マーケティング効果を得てきたことは、小さい国ながらのメリットだったと思う。
しかしながら、近年、アイルランド国の法律事務所BIG5が規模(人数)でNO1になるために競争するようになり、MOP自身も、他の事務所から多くの専
門家を引抜き続けてきたことにより、MOP独特のカラーが薄まり、従来の「MOPカラー」を保っていたような人物が他の競合事務所に引き抜かれ、現在、
一番評価の高く勢いのよい事務所を構築しているという皮肉的事実も指摘せざるを得ない。これがよくわかるのは、MOPが2002年にアイルランドで始
めて欧州最優秀弁護士事務所に選ばれたのに対し、それ以降、他事務所もこぞって同じような賞にアプローチし、獲得し、それをプレスリリースしたり、メ
ディアに取り上げてもらったりしているのをみてもわかる。
また、ITバブルが起こる前に、Palo Altoに支社をおいたり、他の事務所が日本やアジアに全く興味を持っていない中、先見の目をもって先駆者としてビ
ジネスを開拓していったことも、弁護士事務所の中でもComercial approachを実現してその筋で特化したポジションを得ていた所以であると思うが、
現在は、Big5のどの事務所でも、アメリカまたは英国シティに支社を置いたりしているし、「A事務所がB国のOOとアライアンスをむすんだらしい」とうわ
さを聞いてから、MOPも「B国のOXとアライアンスを」みたいな動きがあり、横並びを気にしすぎて、MOPらしい開拓精神がなくなりつつあることは、否め
ないかもしれない。
また、税務部の重鎮であった人物が、マネージングパートナー(CEOみたいなもの)となったことで、法律業務の一線からはずれたことになり、今後「税務
といえば、MOP」という事業核に近いキー要素がどのように評価されるかは、気になる点である。
最後に、帰国のため退社したものの、やっぱり、よい職場だったとしみじみ思い、早くまたNO1になってほしいと感じずにはいられない。
参考
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アイルランドの法律事務所などの紹介
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http://www.legal500.com/lfe/frames/ir_fr.htm
http://www.lawyer.ie/
http://www.lawsociety.ie/
BIG5のWebサイト
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http://www.mccann-fitzgerald.ie/about_us_1.asp
http://www.mop.ie/home/default.asp
http://www.arthurcox.ie/about/firm.asp
http://www.algoodbody.ie/home/default.asp
http://www.williamfry.ie/