情報システム・オペレーションズ

サプライチェーン(Supply Chain)
情報システム・オペレーションズ
オペレーションズマネジメント2
在庫管理2
需要情報の流れ
顧客
小売業者
卸売業者
配送業者
Beer Game(ビールゲーム)(1)
システムダイナミックス(System Dynamics:
SD)を学習するロールプレイングゲームとして、
MITで開発
当初は、「生産流通システムゲーム(production
distribution game)」と呼ばれていた
ゲーム盤には「工場」・「一次卸」・「二次卸」・
「小売店」の4つのコンポーネントがあり、参加
者はチーム(4名)となってサプライチェーンを
構成し各ビールゲーム盤に向かい勝敗を競う
ゲームの目的は、勝つこと
Beer Game(2)
ゲーム盤は、「工場」で生産されたビールが、
「一次卸」、「二次卸」を経て「小売店」へ届くと
いうサプライチェーンの流れを表している。
各コンポーネントでは、在庫には在庫管理費
用、受注残(品切れ)には品切れ損失費用が
それぞれかかる。在庫を大量に抱えてしまっ
たり、慢性的に品切れを引き起こすと、サプラ
イチェーン全体としての総費用が高くなる。
⇒なるべく在庫を少なく、かつ品切れを起こさ
ないように上手く「もの(ビール)」を流すよう
にすることが重要。
Beer Game(4)
Beer Game(3)
ものの流れ(右から左)+情報の流れ(左から右)
ものの流れ(右から左)+情報の流れ(左から右)
情報(注文)の流れ
情報(注文)の流れ
発注
もの(ビール)の流れ
サプライヤー
製品の流れ
京都大学経営管理大学院
松井啓之
発注
メーカー
発注
Beer Gameのボード
鞭効果(whiplash effect, bullwhip effect)
サプライ・チェインの上流(メーカー側)にいくに
したがい、需要のばらつきが増幅される現象
「小売店における(最終顧客の)需要がそれほど
ばらついていないにもかかわらず、メーカー(もしく
は卸売り業者)に小売店から発注される需要量が
大きくばらつく」という経験則
参考:インダストリアルダイナミックス
 「小売」面での売上変動が「工場の生産」へ与える影響
 決算手続きの遅れを改善しても、なぜ「工場の生産面」にそ
れほど良い影響を与えないのか?
 なぜ、つねに「工場」の生産能力が実際の売上を上回ってい
るのに注文に対応できないのか?
鞭で波打ちすると、波が拡大しながら伝わる現象
に似ていることからP&Gの経営陣が名づけた
システムの行動と
して解析し、シミュ
レーションによって
示した。
しかし、インダストリアルダイナミックス(フォレスター、
1958)などにより古くから知られていた。
個々の企業特有ではなく、ほとんどの企業の共通課題
システムダイナミッ
クスへ
P&Gの使い捨てオムツ、HPの部品の注文のばらつき
なぜ鞭効果が起こるのか(1)
需要予測⇒“予測”に基づいて在庫レベルを
調整することに起因
ある小売店で、たまたまその日(期)の売り上げ
(需要)が多かった。
小売店の店主は、将来需要が今日と同じように売
れると予測して、前日までの在庫レベルを少し引
き上げるように調整する。
卸売り業者からみた需要が、見かけ上増大する。
同じようなことが卸売り業者の予測のために、メー
カーに対しても起こる。
※需要予測にもとづかない在庫レベルであれば鞭効果は発
生しない
※○は遅れを示す
なぜ鞭効果が起こるのか(2)
リードタイム
⇒品切れに対する防御のために、在庫を持
つことから、リードタイムが長いと、安全のた
めに多めの発注をすることに起因
品切れは,発注をしてから商品が到着するまでの
時間(リードタイム)が長いほど発生しやすい。
目標とする在庫レベルはリード時間に応じて大き
めに設定される。
在庫量が大きいときには発注量も大きくなる。
リード時間が長いほど鞭効果が増大される。
※リードタイムが0であれば鞭効果は発生しない
なぜ鞭効果が起こるのか(3)
なぜ鞭効果が起こるのか(4)
バッチ発注⇒必要量より多く発注する必要が
あるので、大きな発注の後に発注がまったくな
い期が続くという、きわめてばらつきの大きい
発注に変換されることに起因
価格の変動
⇒反動による売れ行き落ち込むことに伴い需
要量が変動することに起因
ある程度の量をまとめて(バッチ処理で)発注
一般に、発注量が多くなると、数量割引が発生
複数の小売店が同時に発注する(=同期発注)場合も
同様の影響がある
大きな発注の後に,発注がまったくない期が続く、
きわめてばらつきの大きい発注になる。
鞭効果が増大。
輸送効率の面では、良い面もある。
値引きをする。
商品の売れ行きも良い。
その分大量の発注する。
しかし、値引きセールが終わって、通常の価格に
戻す。
商品の売れ行きは通常の場合以下に落ち込む鞭
効果が増大。
なぜ鞭効果が起こるのか(5)
供給不足と供給配分
⇒実際の必要量より多く発注することに起因
ある商品の売れ行きが大変良くて、将来の品切れ
が予測される。
(必要以上に)大量の発注を出して、在庫を増や
す。
メーカーは品薄な商品を卸すときには、発注量に
基づいて配分を行う(=供給配分)。
より大量の発注をする。
鞭効果増大。
鞭効果の解析モデル(2)
現実に近い需要過程(モデル)を想定し、需
要の変動に対する発注量や在庫の変動を
考える
需要量:Dt=d+Dt-1+t
定数項:d(≧0)
前の期との相関を表すパラメータ:(-1<<1)
>0であれば正の相関、 <0であれば負の相関
=0であればランダムウォーク
t期における誤差を表すパラメータ:t (|t|≪d)
平均 0、標準偏差の同一かつ独立な分布
鞭効果の解析モデル(1)
1段階モデル
各期=1, 2,…, t,…
小売店
^
需要予測:dt
需要量Dt
発注タイミング
リード時間 L :t期の期末に発注された商品は t+L+1期
の期首に到着
2)需要Dt
発生
t期
1)t-L-1期に
発注した商品到着
t+1期
3)需要予測 Ft+1
4)発注 Qt
t+2期
t+3期
t+4期
T+L+1期(L=3の場合)
に商品到着
鞭効果の解析モデル(3)
d=100、=0、
:[-10,10]の一様分布
ランダムウォーク
d=100、=0.5、
:[-10,10]の一様分布
D(t)=d+ρD(t-1)+ε(t)
120
100
80
60
40
20
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
15
17
19
21
15
17
19
21
D(t)=d+ρD(t-1)+ε(t)
250
200
150
100
50
0
1
d=100、=-0.5、
:[-10,10]の一様分布
3
5
7
9
11
13
D(t)=d+ρD(t-1)+ε(t)
120
100
80
60
40
20
0
1
例えば、一様分布、正規分布
鞭効果の解析モデル(3)
顧客
在庫量It
発注量Qt
3
5
7
9
11
13
鞭効果の解析モデル(4)
リードタイム:L
リードタイムがあることから、正しい需要を予測
することが重要となる。
移動平均法
t期よりp期間過去の実測値の平均を求め、需要予測
とする
p
dˆt   Dt  j
p
j 1
指数平滑法
t-1期の実測値と予測値からt期の需要を予測する
dˆt  Dt 1  (1   )dˆt 1 t  2,3,
α:平滑化定数(1に近づくと平滑化していく)
t期に発注された商品はt+L+1期の期首に届く
リードタイム中における需要量の予測:Ld^ t
t期の需要量の予測値をL倍したもの
リードタイム中における需要誤差の予測: L
t期の需要予測誤差を L倍したもの
安全係数:z
10%、5%、1%の安全係数→1.28、1.65、2.33
目標在庫レベル:yt=Ld^ t +z L
定期発注方式を採用するものとする
鞭効果の解析モデル(5)
発注量:Qt=Dt+L(dt+1-dt ) t=1,2,…
t期の期末に、t期の需要量 Dtと次の期との予測値
の差 d^t+1-d^tをリード時間(L)倍したもの和を発注
安全在庫レベルの差:yt+1-yt=L(d^t+1-d^t )
移動平均法を用いた需要予測を用いると
dt


p
j 1
Dt  j
p
Qt  Dt  L

を代入することで、
p
j 1
Dt 1 j
p
L

p
j 1
Dt  j
p
 L
L
 1   Dt  Dt  p
p
p

鞭効果の解析モデル(7)
E ( Dt )  E ( d  Dt 1   t )  E (d )  E ( Dt 1 )  E ( t )
 d  E ( Dt 1 )  0、E ( Dt )  E ( Dt 1 )なので d
E ( Dt ) 
:需要量の(漸近的な)期待値
1 
鞭効果の解析モデル(6)
在庫量の保存式→在庫
期末在庫量:It=It-1-Qt-L-1
I 0  安全在庫量
I t  I t 1  Dt  Qt  L 1 , t  1,2, 
L:リード時間
鞭効果の解析モデル(8)
発注量の分散
L 2
L
) Var ( Dt )  ( ) 2 Var ( Dt  p )
p
p
L L
 2(1  )( )Cov ( Dt , Dt  p )
p p

  2 L 2 L2 
 1  
 2 (1   ) 2 Var ( Dt )
p
p


 
Var (Qt )  (1 
Var ( Dt )  Var (d  Dt 1   t )  Var (d )  Var ( Dt 1 )  Var ( t )
  2   2Var ( Dt 1 )  0、Var ( Dt )  Var ( Dt 1 )なので Var ( Dt ) 
d2
:需要量の(漸近的な)分散
1  2
 p 2
:需要量の(漸近的な)共分散
Cov( Dt , Dt  p ) 
1  2
鞭効果の解析モデル(9)
1段階モデル(分散の比)から分かること
 2L 2L
Var (Qt )
 1  
 2
Var ( Dt )
p
 p
2

(1   ) 2

移動平均のパラメータpを増やすと鞭効果は減少
長期間のデータを用いた平均を利用したほうが良い
リード時間 Lを増やすと鞭効果は増大
L=0のときは鞭効果が発生しない
相関が正のときには鞭効果は減少
前期の発注量と強い関係があるので変動が少ない
が負の場合の方が分散が大きくなる
t=1,2,…
期末在庫量
=前期の期末在庫量-需要量+到着した商品の量
需要量の分散と発注量の分散の関係
 2 L 2 L2 
Var (Qt )
 1  
 2 (1   ) 2
Var ( Dt )
p 
 p
鞭効果の解析モデル(10)
多段階モデルへの拡張
n
→……→
i
→……→
→
2
1
i段階におけるリードタイムLi、t期の発注量Qti
需要の相関、サービスパラメータz=0と仮定すると
情報中央集権型:全ての段階で最終需要が既知

2 k 1 Lk 2  k 1 Lk
Var (Qti )
 1

Var ( Dt )
p
p2
i
i

2
段階が進むにつれ、
リードタイムの影響が
和の形で蓄積
情報分散型:下流からの発注を元に需要予測を行
い、在庫の調整を行う
i
 2 L 2 L2
Var (Qti )
  1  k  2k
Var ( Dt ) k 1 
p
p



段階が進むにつれ、リード
タイムの影響が積の形で
蓄積→鞭効果が顕著
鞭効果への対処策・処方箋(1)
需要の不確実性への対処
期ごとに予測値が大きく変動しないような需要予測
鞭効果への対処策・処方箋(2)
リードタイムへの対処
リードタイム短縮
EDI(Electric Data Interchange)やCAO(Computer
Assisted Ordering)を用いた発注業務の簡略化
移動平均の場合pを大きく、指数平滑の場合aを小さく
pを大きくすると、需要の傾向変動(季節変動など)に対する予
測の追従性を悪化→トレードオフの関係
サプライ・チェインの上流(メーカー側)に下流(顧
客側)の情報を直接伝える
バッチ発注への対処
発注固定費の削減→発注作業の簡略化
EDIやCAOを用いた発注業務の簡略化、インター
ネット経由の受発注(リードタイムも短縮化)
同期発注→スケジュール発注(店側の在庫増へ)
情報分散型モデルから情報中央集権型モデルへ
POS(Point-Of-Sales)データを卸売り業者やメーカ
へ提供/共有⇒ベンダー管理在庫
3PL(Third Party Logistics)業者による混載輸送
P&GとウォールマートのPOS情報共有
鞭効果への対処策・処方箋(3)
価格の変動への対処
毎日低価格(EDLP: Every Day Low Price)戦略
P&Gが小売店での安売りを禁止→鞭効果の低減
一部の小売り業者から反発
値引きは小売店における重要な競争戦略
日本では失敗(ダイエー)
供給不足・供給配分への対処
近々の発注量ではなく、過去の販売実績(マー
ケットシェア)に応じて、供給配分する。
供給不足に対する懸念→メーカー側の生産およ
び在庫の情報を下流(小売店)へ提供することで、
無駄な発注を減少。
参考:鞭効果のシミュレーション(2)
1段階モデルのExcel(bull.xls)によるシミュレーショ
ンの構造
 需要量:D(t)=d+ρD(t-1)+ε(t)
B11 ←「=$C$2+$C$3*B10+(RAND()-0.5)*20」
 移動平均法による需要予測(p=4):d(t)
C11 ←「 =(B7+B8+B9+B10)/4」
 リードタイム中の需要予測(L=2):L*d(t)
D11 ←「 =2*C11」
 目標在庫レベル:y(t)=L*d(t)+z*σ
E11 ←「 =D11+1.65*$G$4」
 発注量:Q(t)=D(t)+L*(d(t+1)-d(t))
F11 ←「 =B11+C12-C11」
 在庫量:I(t)=I(t-1)-Q(t-L-1)
G11 ←「 =G10-B11+F8」
特定の製品輸送に特化せず、宅急便のように複数
の荷物を混在して輸送
参考:鞭効果のシミュレーション(1)
1段階モデルのExcelによるシミュレーション結果
(需要d、発注Q、在庫Iの変化)
Q(t)=D(t)+L*(d(t+1)-d(t))
350
I(t)=I(t-1)-Q(t-L-1)
300
d(t)
250
200
150
100
50
0
1
3
5
7
9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41
-50
参考:コンピュータ上のBeer Game
Beer Gameのソフトウェア(シミュレーター)
Simple Beer Distribution Game Simulator(Inventory
Distribution Simulator) by Matthew Forrester and AT Kearney
http://web.mit.edu/jsterman/www/SDG/MFS/simplebeer.html
※システムダイナミックス(SD)ソフトVensimによる実装
iPad/iPhone版(The Beer Distribution Game) by AT Kearney
http://www.atkearney.com/web/beer-distribution-game
オンライン版(Web上で実行可能)
The MIT Beer Game(http://supplychain.mit.edu/games/beer-game)
 MIT forum for Supply Chain Innovation
The Beer Distribution Game(http://www.beergame.lim.ethz.ch/)
 BWI, ETH Zurich
The Beer Game(http://www.masystem.com/beergame)
 MA-system
参考:Inventory Distribution Simulator
のSDモデル
Distributor
Factory
Wholesaler
参考:Inventory Distribution Simulator
Complex Case(標準)
Retail
Facing Fill Rate
Distributor Inventory CoverageWholesaler Inventory Coverage
Factory Shipments
Retail Inventory Coverage
Retail
Distributor
Wholesaler
Inventory
Inventory Wholesaler ShipmentsInventory Retail Sales
Distributor Shipments
Distributor Orders
Wholesaler Orders
Distributor Sales Forecast
Desired Distributor Inventory
Retail Orders
Wholesaler Sales Forecast
Desired Wholesaler Inventory
Retail Sales Forecast
Desired Retail Inventory
About the A.T. Kearney Inventory Distribution Simulatorより引用
参考:Run Simulation: Complex Case
VMI(Vender Managed Inventory)に設定
参考:IDS Complex Case
需要(=注文:order)をランダムに設定
参考:Run Simulation: Complex Case
需要ランダム VMI に設定
リーディングアサインメント
例題の出所
高井徹雄他,『基礎から学ぶ経営科学』,税務経理協会,2005
中村雅章,『経営科学と意思決定』,税務経理協会,2006
栗原謙三・明石吉三,『経営情報処理のためのオペレーション
ズリサーチ』,コロナ社,2001
久保幹雄他,『サプライ・チェインの設計と管理』,朝倉書店,
2002
久保幹雄他,『ロジステック工学』,朝倉書店,2001
村社栄治, 『ビールゲーム』の理論マサチューセッツ工科大学
スローンマネジメントスクール
参考文献
平川保博,『オペレーションズ・マネジメント』,森北出版,2000
大野勝久他,『生産管理システム』,朝倉書店,2002