講演スライド - どんぐり工房

2012/3/22
高齢者が使わない方が良いくすりの3提案
高齢者に投与を避けるくすりの
3基準について考える
1.Beers Criteria
1991年米国でBeers らによって「65歳以上の高齢者にとって望まし
くない薬剤」としてリストアップされた。最新は2003年版。
2.高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2005
日本老年医学会が発表した「高齢者に対して特に慎重な投与が要す
る薬剤のリストと解説」。Beers Criteriaを出発点としたので70%が
重複している。当時杏林大学医学部の鳥羽研二客員教授が委員長。
3.Beers Criteria Japan
1
2008年4月、国立医療科学院今井博久疫学部長が発表したBeers
Criteria の日本版。Beers List を引き継ぎつつ、日本で使われてい
どんぐり工房 菅野 彊
るくすりを調査し加えた。List作成には、Mr Beersも加わった。
2
1)Beers Criteria
Mark H.Beers MD
『Beers Criteria』 作成の中心を
http://www.tahsa.org/files/DDF/medbeer1.pdf
務めた。Beersは最初1991年に
薬剤の適切な使用を決めるための
Criteria(基準)を定めた。これは1
997年に「65歳以上の高齢者に
使用しないくすり」のリストに発展し
た。2003年には、表1.高齢者に
は一般的に使用を避けるくすりと、
表2.特定の疾患、病態において
使用を避けるくすりの2つにわけら
れた。 2007年逝去。
4
3
Arch Intern Med. 2003;163:2716-2724.
症例:Sさん、79歳女性、狭心症、心房細動
Beers Criteria Table 2の1例
Table2.2002 Criteria:Considering Diagnoses or Conditions.

Disease or
Conditions
: Blood clotting disorders or
receiving anticoaglant therapy

Drug

Concern
: Aspirin,NSAIDs,dipyridamole,
ticlopidine,and clopidogrel
: May prolong clotting time and
elevate INR values or inhibit
platelet aggregation resulting in an
increased potentials for bleeding.

Severity Rating
: High
Rp)
1. ワーファリン錠1mg
2.5錠
ラニラピッド錠0.1mg
1錠
バッファリン配合錠A81(81mg) 1錠
カルスロット錠20mg
1錠
1日1回 朝食後内服 28日分
2.サンリズムカプセル25mg
2cap
1日2回 朝夕食後内服 28日分
5
6
1
2012/3/22
2)高齢者の安全
な薬物療法ガ
イドライン2005
鳥羽研二先生、
現在、国立長寿医療研
究センター病院長『2005
ガイドライン』作成の中
心となった。
薬剤の代替品と相互
作用に注意が必要な
薬剤を記載した。
http://www.jsom.or.jp/m
edical/ebm/cpg/pdf/b19
.pdf
3)Beers
7
8
高齢患者における不適切な薬剤処方の基準
Criteria Japan
ーBeers Criteria 日本版の開発
今井博久、MARK H.BEERS他
国立医療科学院今井博久疫学部長
この基準に従った薬剤処方をしていれば高齢患
者にとって望ましくない転帰になっても医療者側は
医療訴訟を起こされない、あるいは起こされても負
けない、ということはないであろう。
「薬の投与量は平均寿命が60歳
だったときには、小児と大人で
差し障りがなかったでしょうが、
しかし、これだけ高齢化が進めば
高齢者向けに薬の量が提示され
ても良いのではないでしょうか」
その逆にこの基準に従わないで薬剤処方を行い、
高齢患者にとって難しい転記になった場合には、
医療者側は訴訟の場面でより一層不利な立場にな
ると予想される。
○疾患・病態にかかわらず使用を避ける薬剤46種類
○特定の疾患・病態において使用を避けることが望ま
しい薬剤25種類
(日医雑誌 第137巻第1号2008年4月)
9
10
http://www.niph.go.jp/soshiki/ekigaku/BeersCriteriaJapan.pdf
BEERS CRITERIA JAPANで、高齢者が抗不安剤
催眠鎮静剤の投与を避けることとされる理由
11
○ベンゾジアゼピン系薬剤
高齢者における半減期が極めて長く、長期間にわたり、
鎮静作用を示すため、転倒および骨折の頻度が高く
なる。ベンゾジアゼピンが必要とされる場合には、中
~短期作用型ベンゾジアゼピンが望ましい。
○すべてのバルビツール酸系薬剤
習慣性が高く、高齢者においてほとんど鎮静薬また
は催眠薬よりも多くの副作用を引き起こす。
○ミルナシプラン(トレドミン)
特に男性高齢者において、高頻度で尿閉を生じるお
それがある。
○オランザピン(ジプレキサ)
血糖上昇、プロラクチン増加などの危険がある。
2
2012/3/22
Beers Criteria Japan 抗不安剤 t1/2
一般名
商品名
編集者への手紙
消失半減期(添付文書)
クロルジアゼポキ
サイド
バランス
コントール
18~200hr(活性代謝物)
ジアゼパム
セルシン
ホリゾン
20~90時間*
ロフラゼブ酸
メイラックス
122hr(活性代謝物)
フルトプラゼパム
レスタス
190hr(活性代謝物)
メキサゾラム
メレックス
極めて緩序に消失(代謝物)
クロキサゾラム
セパゾン
11~21hr*
日医雑誌 2008年10月
「高齢患者における不適切な薬剤処方の基準-Beers Criteria
の日本版の開発」への質問:長期作用型ベンゾジアゼピンより短期作
用型ベンゾジアゼピン系薬の方が安全なのでしょうか。
戸田克弘(廿日市記念病院リハビリテーション科)
13
本誌第137巻第1号84-91には、長期作用型ベンゾジアゼピン系薬
より短期作用型ベンゾジアゼピン系薬の方が転倒および骨折の危険
性が少ない由が記載されています。しかし、長期型と短期型における
骨折や転倒の危険性に差はみられないというmeta-analysisや総説
があります。Leipzigらのmeta-analysisでは、有意差はないものの
短期型の方が転倒の危険性が高い傾向にあります。(以下略)
14
*臨床薬物ハンドブック
BEERS CRITERIA JAPANで高齢者に投与可能と
する抗不安薬、催眠鎮静薬の1日用量
一般名
商品名
半減
期
投与
量可
添付文書によ
る制限
ロラゼパム
ワイパックス錠
14hr
3mg
慎重に投与
アルプラゾ
ラム
ソラナックス錠
12hr
2mg
1.2mg/日まで
エチゾラム
デパス錠・細粒
6hr
3mg
1.5mg/日まで
トリアゾラム ハルシオン錠
2.9hr
0.25mg 0.25mgまで
どんぐり薬局3店舗高齢者注意薬調査
平成23年1月後期高齢者3基準該当処方箋枚数調査
項目
調剤報酬請求
明細書枚数
後期高齢者枚数
たかまつ
北中山
材木町
1004
1098
558
394
152
179
3基準該当枚数
65
46
81
該当割合
16.5%
30.2%
45.3%
ジゴキシン錠の基準適合かの判断?
◎Beers Criteria Japan
一日当たり、0.125mgを超える場合。ただし
心房性不整脈を除く。
◎日本老人医学会2005年
ジゴキシン≧ 0.15mg/日。高齢者ではジギ
タリス中毒が起きやすいので、用量はなるべ
く0.125mg/日以下とし、ジゴキシン0.15m
g以上は特に慎重な投与を要する。
どんぐり薬局たかまつ
高齢者には一般に使用を避けるべき薬剤
薬剤名と商品名
件数
H2受容体拮抗剤
メルビン錠
カルデナリン錠
ハルシオン錠
ロヒプノール錠
ペルサンチン錠
パナルジン錠
ポラキス錠
セルシン錠
メイラックス錠
アタラックス錠
ドグマチール錠
セレスターナ錠
ドキサゾシンM錠「EMEC」
ヒデルギン錠
シンメトレル錠
ナウゼリン錠
トレドミン錠
ヒダントールF錠
アレビアチン錠
トリプタノール錠10
20
8
6
4
3
3
3
3
3
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
Beers Criteria
table 1
Beers Criteria
Japan 表 1
老人
医学会
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
18
○
○
3
2012/3/22
どんぐり薬局たかまつ
特定の疾患・病態では使用を避けることが望ましい薬剤
件
数
疾患・病態と
薬剤名および商品名
19
1
5
3
1
2
3
2
2
1
1
慢性便秘時 Ca拮抗剤
抗コリン剤アキネトン錠
抗凝固療法時 ニチステート錠
アスピリン錠
プラビックス錠
認知症時
ソラナックス錠
十二指腸潰瘍 バッファリン錠81
&胃潰瘍時
ロキソニン錠
緑内障時 セレスターナ錠
ネオマレルミンTR錠
排尿障害 ブラダロン錠
Beers Criteria
table 2
Beers Criteria
Japan 表 2
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
19
慢性便秘に対するカルシウム拮抗剤の投与
○Beers Criteriaに該当する。理由はCa拮抗剤は便秘を
増悪させるからとある。
○Ca拮抗剤による便秘は消化管平滑筋細胞へのCaの流入が
妨げられることにより、腸管運動が低下することによる。副作
用機序別分類でいうところの“薬理作用による副作用”に該
当する。従ってその頻度は高く、誰にでも発現する可能性が
ある。
○Beers Criteria Japanおよび老人医学会ガイドライン2005
では、Ca拮抗剤は要注意リストに入っていない。
○実際には便秘に緩下剤で対応しながら、Ca拮抗剤の有用性
を活かすことが行われている。
20
どんぐり薬局材木町
高齢者には一般に使用を避けることが望ましい薬剤
件数
薬剤名および商品名
サンリズムカプセル
ロヒプノール錠
ハルシオン錠
パナルジン錠
ガスター錠
ドグマチール錠・カプセル
ワソラン錠
カルデナリン錠
メイラックス錠
ジゴキシン錠(>0.125mg/日)
ペルサンチン錠(人工心臓弁除く)
ポラキス錠
ナウゼリン錠
ミニプレス錠
メルビン錠
17
7
7
6
6
4
4
2
2
2
1
1
1
1
1
Beers
Criteria
table 1
Beers Criteria
Japan 表 1
老人
医学会
○Beers Criteria Japanに該当する。
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
服薬時間
起床時間
Iさん(99歳)女
午後10時
午前5時
Oさん(90歳)女 午後10時
午前4時半
Sさん(83歳)男 午後10時
午前4時半
Nさん(82歳)女 午後10時
午前6時半
Rさん(81歳)女 午後11時
午前5時半
Tさん(77歳)男
午後9時半 午前4時半
Gさん(76歳)男 午後9時半 午前4時
○より安全性が高い代替薬があるとされている。
○サンリズムカプセルの代替薬がなんであるかは、
Beers Criteria Japanには示されていない。
○
○
○
○
○21
どんぐり薬局材木町
ロヒプノール錠服用高齢患者の睡眠効果・副作用聞き取り調査
患者(年齢)
ピルジカイニド(サンリズムカプセル)の危険性?
睡眠の状況と覚醒感の聞き取り
午前2時にトイレに起き、その後も睡眠。
日中、転倒や昼寝はありません。転ん
だこともありません。
ときには午前2時時半頃トイレに起きる
が、その後は再びすぐに睡眠します。転
倒はありません。
朝までぐっすり眠り、目覚めも良く、日中
お昼寝することはありません。転んだこ
とはありません。
午前2時半頃にトイレ。後睡眠します。
ぐっすり眠れますよ。
朝までぐっすり眠り、目覚めもよく、日中
も眠気、倦怠感などはないです。
午前1時と朝方にトイレに行きますが、
それ以外は睡眠をとれます。
トイレ後再睡眠、8時間は眠ります。日 23
中眠気は無いです。
○サンリズムカプセルは一次速度過程が成立する腎
排泄型の薬剤で比較的安全な抗不整脈薬であると
22
思われる。
どんぐり薬局材木町
特定の疾患・病態では使用を避けることが望ましい薬剤
疾患・病態と
薬剤名および商品名
慢性便秘時 Ca拮抗剤
抗血液凝固療法時
アスピリン錠
胃潰瘍時
アスピリン錠
腎機能低下時 ガスター錠
認知症時
デパス錠
枚数
Beers
Criteria
Table 2
11
○
4
2
1
1
○
Beers
Criteria
Japan 表 2
○
○
○
○
24
4
2012/3/22
どんぐり薬局北中山
高齢者には一般に使用を避けるべき薬剤
ワーファリンと抗血小板剤が併用される理由
薬剤名および商品名
○Beers Criteria、Beers Criteria Japanに該当
○ワーファリンとアスピリンが併用されることはよく
ある。
○ワーファリンは静脈由来のいわゆる赤い血栓を
溶解するが、動脈由来の白い血栓はアスピリンが
勝る。
○従って、ステント挿入例や心房細動に狭心症が合
併する例では併用せざるをえない。
○もっとも出血には注意が必要である。
H2受容体拮抗剤
ハルシオン錠
タガメット細粒
プリンペラン錠
ドグマチール錠
ロヒプノール錠
リスモダンカプセル
セルシン錠
カルデナリン錠
ブスコパン錠
パナルジン錠
サンリズムカプセル
ワソラン錠
25
どんぐり薬局北中山
特定の疾患・病態では使用を避けることが望ましい薬剤
疾患・病態と
薬剤名および商品名
慢性便秘時 Ca拮抗剤アムロジン錠
抗コリン剤ベシケア錠
抗凝固療法時 バイアスピリン錠
プラビックス錠
不眠時
テオドール錠
認知症時
ヒベルナ散
件数
3
1
3
1
1
1
Beers Criteria Beers
table 2
Criteria
Japan表 2
○
○
○
○
○
○
○
○
27
セレスタミン錠
コロモナール錠
件数
Beers Criteria t Beers Criteria
able 1
Japan 表 1
14
6
4
3
3
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
老人
医学会
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
26
H2受容体拮抗剤の投与について
○Beers Criteria Japanに該当する。
○Beers Criteriaで挙げられていたヒスタミンH2受容体拮抗剤
はCimetidineのみである。
○Beers Criteria Japanでは、Cimetidineというブランド名では
なくてH2受容体拮抗剤全般として要注意薬にリストアップさ
れた 。
○H2受容体拮抗剤はプロテカジンを除き、すべて腎排泄型の
水溶性物質であり、中枢神経系への移行は脂溶性物質と比
較して少ないと思われる。
○H2受容体拮抗剤の体内動態は一次速度過程を示し、血中
濃度も安定していて、効果・副作用は推測が可能である。 28
まとめ
高齢者処方箋のチェックと対策
1.加齢により脳重量が低下する高齢者の場合、脳脊
髄関門を容易に通過する脂溶性薬物は過剰投与に
なり易いので、投与量の検討を行うこと。
2.高齢者に注意が必要なくすりを把握し、投与量を検
討し、必要であれば減量や代替薬への変更を提案
すること。
3.高齢者の薬理作用の過剰発現を避けるために、患
者さんに予想できる副作用の初発症状を知らせ、慎
重な観察を行うこと。
29
1.高齢者に注意する薬についてBeers Criteria、日本老年医学
会、Beers Criteria Japanの3基準を参考にして述べた。
2.それらは、高齢者の処方を判断する上で、重要な示唆を私達
に与えてくれる。
3.特に病態時での要注意薬を示したBeers Criteria および
Beers Criteria JapanのTable 2は有用である。また。老人
医学会ガイドライン2005は、私達に代替薬を示してくれる。
4.しかし、どんぐり薬局3店舗の後期高齢者要注意薬調査が示
しているように、これらの3基準が厳密に守られているわけで
はないし、比較的に安全であると思われる場合もある。
30
5.さらに加齢の状況は個人差が大きいことから、3基準に
該当する症例は個別にかつ慎重に検討すべきである。
5