カザフスタン共和国北部における 小麦農家の総合生産性分析

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カザフスタン共和国北部における
小麦農家の総合生産性分析
矢 元 龍 治*ῌ泉 田 洋 一*
要約 : 本稿は ,**0 年 +* 月に実施したフィ῎ルド調査をもとに῍ 旧社会主義国家カザフスタンの北部穀
倉地帯における小麦農家の経営規模の変遷と総合生産性の分析を通じて῍ 同国農業の規模の経済の存
在及び各生産要素の生産性向上への寄与率を実証分析するものであるῌ 分析結果から῍ 同国北部の小
麦生産には規模の経済が強く働いていること῍ また῍ 補完関係にある農業機械及び労働の効率性が生
産性格差の主要な要因であることが見出されたῌ 独立当初の社会的地位῍ それに伴う土地や農業機械
の保有量が農家の経営規模拡大と密接に関係しており῍ 規模拡大が効率性の面で極めて重要であるこ
とから῍ 旧来の特権層にある一部農家を含む大規模層が今後も規模拡大を行い῍ 農業企業と共に同国
小麦生産の主要な担い手となっていくであろうῌ しかしながら῍ 独立自営農家がさらに規模を拡大す
るためには農業機械の更新が不可欠であり῍ 政府の補助も含めた農業機械市場の充実が必要であるῌ
キ῍ワ῍ド : 規模の経済῍ 独立自営農家῍ 社会主義῍ 農業改革῍ 土地改革
῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍
ῌῌ は じ め に
を通じて῍ ロシア῍ ウクライナに次ぐ小麦生産国
であったῌ また同国では小麦生産は国内需要を常
+῏ 問題設定及び研究目的
に上回っており῍ 専ら旧ソ連圏への小麦供給国と
本稿は῍ カザフスタン共和国の小麦生産農家を
しての役割を担ってきたῌ 今日においてもその体
対象として῍ 旧社会主義国家が独立して市場経済
質は変わっていないῌ このため῍ 生産性の向上及
へと移行する中での農業経営の変遷と農業生産性
びそれに伴う生産量の向上は῍ 輸出販路の拡大な
の現状を実証的に分析するケ῎ススタディであ
くしては供給過剰に陥ってしまうが῍ 中国という
るῌ 大規模農場が社会主義型農業の特徴であると
巨大な小麦消費国と隣接し῍ また近年のバイオエ
するならば῍ カザフスタン共和国は旧ソ連の中で
タノ῎ルをはじめとする穀類農産物に対する需要
ももっとも大規模な国営農場が営まれた地域であ
の拡大は῍ 同国が῍ 低下した小麦生産量を回復さ
り῍ この意味で社会主義型農業の典型と言うにふ
せ῍ また生産性の向上を図る上での十分な動機と
さわしいῌ このため῍ 同国をケ῎ススタディとす
なっているῌ このようなことから῍ 同国農業の代
る農業の分析は῍ 社会主義体制から資本主義体制
表的農作物である小麦生産の現状を分析すること
へと移行する中で῍ 民営化が今日の時点でいかな
は十分に意義があるῌ
る帰結をもたらし῍ 今後どのような展望が予想さ
本稿は῍ ,**0 年 +* 月に実施したフィ῎ルド調
れるかを考える上での重要な指標を提示してくれ
査をもとに῍ 旧社会主義国家カザフスタン北部穀
るῌ 本稿では農場民営化の過程で独立して農業を
倉地帯において経済移行期に新たに創設された
営んでいる ῐ独立自営農家ῑ の中でも小麦生産農
ῐ独立自営農家ῑ の数及びその経営規模がソ連邦
家に対する分析を行っているῌ なぜなら同国は歴
崩壊から現在に至るまで大きく変遷していること
史的に小麦が国の重要農作物であり῍ 旧ソ連時代
を明らかにし῍ 規模拡大の背景として῍ 同国北部
* 東京大学大学院農学生命科学研究科
の小麦生産には規模の経済が強く働いていること
カザフスタン共和国北部における小麦農家の総合生産性分析
を定量的に示し῍ また規模の経済に寄与する要因
を実証分析することによって῍ 主要な独立農家の
展望を考察することを目的とするῌ
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ῌῌ カザフスタン農業の特徴と既存研究
同国の国土面積は ,1* 万 km, で世界第 3 位の
,ῒ 先行研究及び本稿の学術的貢献
広大な土地を有しており῍ 地域ごとの気候や環境
カザフスタンの小麦農業生産性をクロスセク
も異なることから主要農作物も地域性を有してい
ショナルデ῏タを用い῍ 農場民営化によって創設
るῌ 農作物栽培可能日数は北部で +,/ 日῍ 南部で
された農業企業と独立自営農家間の生産性を比較
+1/ 日であるῌ 北部から南部に行くごとに降雨量
した先行研究 ῑ錦見῍ +332ῒ では῍ 農業企業と独立
も /* mm から /** mm と多くなるῌ 同国は +. 州
自営農の合計 13 のサンプルを用い῍ 土地῍ 労働῍
から構成されているが῍ これらは大別して / つの
燃料を投入財とし総合生産性 ῑTFPῒ を計測したῌ
地域に分けられるῌ 主な農業地帯は῍ 広大な草原
農業企業については次節で詳しく述べるが῍ 旧来
が広がり῍ 穀物生産が盛んな北部と降雨量が多
の集団及び国営農場の後継企業であるῌ 分析の結
く῍ 土地も肥沃な東部及び南部カザフスタンであ
果῍ 平均的には農業企業と独立自営農の TFP 格
るῌ 同地域では野菜や果物栽培が盛んであるῌ ま
差は見られなかったが῍ 小麦耕地の対数を説明変
た畜産も中部を含め盛んに行われているῌ 同国は
数として規模間の TFP 格差を調べた際῍ 独立自
広大な国土を保有しているが῍ 人口は約 +,/** 万
営農には明確な規模の経済があったのに対し῍ 農
人で῍ 北部や北西部では人口密度が , 人ῌkm, の
業企業では確認できなかったῌ この結果を錦見は῍
州がある一方῍ 南部では +2 人ῌkm, の州があり῍
農業企業という集団経営形態では経営拡大による
人口密度も地域によってばらつきがあり῍ 農家一
規模の不経済が῍ 技術的な規模の経済のメリット
人当たりの経営耕地面積も地域によって大きな隔
を打ち消してしまうからであると説明しているῌ
たりが見られるῌ
また῍ 旧ソ連時代とソ連崩壊後の 3* 年代との小
冒頭で述べたようにソ連邦構成国であったカザ
麦の生産性比較 ῑLongmire & Moldashev, +333ῒ で
フスタン共和国ではソ連時代を通して集団農場又
は῍ 現在の農業がソ連型農業より競争力が高い生
は国営農場が運営されていたῌ また῍ 農村住民 ῑ主
産要素節約型であることが明らかになったῌ この
に農村企業従業員ῒ の宅地付属菜園や都市部住民で
ほかにもカザフスタン農業全体の生産性を旧ソ連
も郊外に菜園を持っているものは農業に従事したῌ
時代の生産性と比較した先行研究 ῑLerman, Kislev
独立後῍ 同国政府は農業改革の一環として集団ῌ
& Biton, ,**-ῒ があるῌ しかし῍ 独立自営農家の農
国営農場を農業企業へと民営化したῌ しかしなが
業経営規模の変遷を実証的に示し῍ そして規模間
ら῍ 農業企業への民営化は名ばかりのものも多く῍
の生産性格差を示すことはこれまでの先行研究で
依然旧体制のままのところも多い ῑGray, ,*** : +/ ;
はなかったῌ 本稿では῍ 分析対象を独立自営農家
野部῍ ,**- : ,..ῐ,.2ῒῌ また῍ 民営化によって農場か
に絞ることによって῍ これまでの研究では明らか
ら独立した独立自営農家という農業経営体も誕生
にされていなかった農業規模の変遷や規模の経済
したῌ
の程度῍ またその決定要因を掘り下げて分析する
以上のような背景のもと῍ 同国農業の経営形態
ことで῍ カザフスタン農業の研究に新たな貢献を
は῍ 農業企業῍ 独立自営農家῍ 及び住民の経営と
するものであるῌ
いう - つのカテゴリ῏に分けられる ῑカザフスタン
次節では῍ 同国の農業及び調査対象となった北
部の農業について概説し῍ ῍ῐ῎節でフィ῏ルド
統計局῍ ,**. : +3ῒῌ
+῎
農業企業 ῑAgricultural Enterprisesῒ : 旧国
調査のデ῏タを用いた分析を行い῍ ῏節で結論及
営ῌ集団農場又はその他の政府系農場がベ῏スと
び政策提言を述べるῌ
なって設立された企業ῌ
,῎ 独立自営農家 ῑPrivate or peasant farmsῒ :
農村研究 第 +*0 号 ῑ,**2ῒ
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家族労働が中心となって活動する農業形態で῍ 農
なるῌ 他方で῍ 南部は῍ 野菜や果物῍ 綿花栽培な
作物生産を目的に農地を利用し῍ また加工や販売
ど῍ 比較的労働集約的な農作物を栽培しており῍
も行う個人経営ῌ
また人口密度も高いことから῍ 集団農場崩壊後
-῎
住民の経営 ῑHousehold farmsῒ : 個人副業
経営῍ 集団農園及び菜園῍ ダ῏チャ区画を含むῌ
は῍ 大多数の農家が独立し῍ 労働集約的な灌漑農
業を今日に至るまで続けているῌ
本稿の対象である独立自営農家の創設過程につ
フィ῏ルド調査の対象は同国北部穀倉地帯のコ
いては同国の土地政策も含めて簡略に述べておく
スタナイ州の独立自営農家であるῌ コスタナイ州
必要があろうῌ カザフスタンは土地分配政策とし
は同国最大の小麦生産州で῍ 国内の - 割強の小麦
て農村住民に土地使用権を認める手段をとったῌ
が同州で生産されているῌ 北部カザフスタン総小
これによって῍ 集団 ῌ 国営農場が民営化された
麦生産のうち約 0*῍ を農業企業が῍ 残りを独立
際῍ 労働者を中心とする農村住人は一定の土地面
自営農家が占めているῌ 農業企業の経営主は旧集
積の使用権が認められ῍ 証書が手渡されたῌ 使用
団ῌ国営農場経営主がそのまま継続している場合
権が譲渡される土地の大きさには地域差があり῍
が多いῌ 旧集団ῌ国営農場が民営化される際の土
フィ῏ルド調査を行った地区内部でも一人当たり
地や農業機械などの資産分配はかなり不透明でか
配分土地面積は 1 ha ῐ ,, ha とばらつきがあっ
つ不公平に行われ῍ 資産の多くが旧農場経営主の
たῌ この土地政策がもたらした農業経営のあり方
手中におさまることとなったῌ また῍ 一部のホ῏
は地域によって相違が見られるῌ 3* 年代を通して
ルディングカンパニ῏が農業企業を子会社化し῍
農場民営化による資産売却ῌ分配はきわめて不透
石油や流通業など他の経営部門から得た収入やこ
明で῍ 農場企業経営陣に有利であったῌ このため῍
れらの部門が得た融資の一部を穀物生産にまわ
旧農場の管理職にいるものは῍ 農業機械の多くを
し῍ 農業経営の規模拡大や農業機械の刷新を行っ
引き継ぎ῍ 独立自営農家を創設する上で絶対的に
ているῌ 政府も政策として農業企業に偏重した政
優位にあったῌ 特に北部の穀倉地帯における小麦
策を採っており῍ 北部穀倉地帯では農業企業に有
生産は機械集約的農業であるため῍ トラクタ῏な
利であるとの見解が多いが῍ 農業再建は市場原理
どの農業機械は不可欠であったが῍ 機材の多くが
の創出を促すべきものであり῍ 農業形態や経営主
一部の地域有力者に集中したῌ もちろん一部労働
を行政が選定するべきではなく῍ 政府が原則とし
者も独立を果たしたが῍ 多くの農村住民は土地使
て農業形態の多様化を奉ずるのであれば῍ 独立自
用権証書を受け取ったものの῍ 農業を行うための
営農という市場経済に即した農業経営形態が形成
資材ῌ知識等が圧倒的に不足している中で῍ 自営
されることを許容するべきである ῑGray, ,*** : ,/῍
農家として独立するのではなく῍ 土地利用権を農
,0ῒῌ
業企業または独立自営農家に賃貸ῌ譲渡ῌ売却す
る道を選んだῌ また῍ カザフスタン北部は旧ソ連
ῌῌ フィ῍ルド調査について
時代を通してロシア人やウクライナ人などのスラ
本節以降の分析は῍ ,**0 年 +* 月に行ったフィ῏
ブ系民族及び戦争時に抑留されてその後定住した
ルド調査から集めたデ῏タに基づくῌ 調査地はコ
ドイツ人が人口の多数を占めていたが῍ ソ連邦崩
スタナイ州の中でも州都コスタナイ市からの距離
壊に伴いこれらの民族の多くは土地使用権を無償
が比較的近いメンディカラ地区を調査地に選び῍
に近い値段で独立自営農家や農業企業に譲渡し母
,**0 年 +* 月半ばから約 + ヶ月῍ +, 管区あるうちの
国へと帰還したῌ このように῍ 農村の大多数は῍
1 つの管区を回ったῌ サンプル独立自営農家数は
独立自営農家となるのではなく῍ 農業企業に雇用
23 であるῌ サンプルは現地役所の農業経営者名簿
されるか離農を選んだῌ その結果῍ 農業企業およ
からランダムに抽出したῌ 聞き取り調査は筆者自
び一部独立自営農家に土地が集中していくことと
身が行い῍ インタビュ῏には実際の経営主に答え
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カザフスタン共和国北部における小麦農家の総合生産性分析
てもらったῌ 対象となった独立自営農家は調査時
表 +
経営耕作地 ῑhaῒ 規模別農家数
点で運営されているものに限られており῍ 以前に
農地を手放した農家῍ 行政に登録されていても事
実上運営していない農家はサンプルには含まれて
独立時規模別農家数
調査時規模別農家数
ῐ+**
+*+ῐ-**
-*+ῐ/**
/*+ῐ1**
1*+ῐ
.1
-*
-/
-/
0
++
*
0
+
1
ῑ出所ῒ 矢元ῌ泉田῍ ,**1 : /0,
いないῌ 調査項目は ,**/ 年及び ,**0 年における
+ῒ 世帯構成῍ ,ῒ 農地利用῍ -ῒ 農業機械῍ .ῒ 労
での農家の経営規模変動が明確に見受けられるῌ
働力῍ /ῒ その他の生産要素῍ 0ῒ 家畜῍ 1ῒ 金融利
独立当初は半数以上の農家が +** ha 以下の規模
用の 1 つであるῌ また῍ 独立自営農家以外に῍ 現
層に含まれていたが῍ 調査時点では +** ha 以下
地の農業企業幹部῍ 農業信用組合スタッフ῍ 銀行
が - 分の + ほどになり῍ 逆に -** ha 以上の農家
スタッフ及び国家統計局員などにもインタビュ῏
が - 分の + を占めるようになり῍ 農家の大規模化
を行ったῌ
が進んできていることが見て取れるῌ
ῌῌ 小麦農家の経営規模変動
以上のことから独立自営農家の創設年は +33+
年から ,**0 年まで様῎であるが῍ この +/ 年の間
本節では῍ 対象となった独立自営農家が創設さ
に土地使用権の譲渡῍ 貸借῍ 売却などの土地取引
れてから調査が行われた時点までに῍ 如何に規模
が活発に行われて規模拡大が行われてきたことが
変動を行ってきたかを示す ῑ矢元ῌ泉田῍ ,**1ῒῌ 先
わかるῌ しかし῍ このような事実上の土地の取引
ず῍ サンプルとなった独立自営農家の ,**/ 年度
を国家統計から確認することはできないῌ なぜな
及び ,**0 年度における経営耕作地面積῍ 小麦作
ら῍ 現地統計局員はこのような非公式な土地の取
付面積はそれぞれ約 -*3 ha と約 ,+- ha であったῌ
引があることを把握していても῍ 集計過程で考慮
小麦農家は毎年土地の一部を休閑するが῍ この期
に入れないからであるῌ 農家選択を行う際῍ 現地
間は大体 -ῐ. 年に一度であるので῍ 作付面積が
統計局から独立自営農家名簿を借りてランダムに
経営耕作地の約 - 分の , というのは整合的であ
選出したが῍ 約 1** 農家のうち半数近くが事実上
るῌ 単収は , 年の平均が +.,- t ῌ ha であったが῍
経営していないことがわかったῌ 彼らの多くはす
,**/ 年が例年並みであったのに対し῍ ,**0 年は
でに土地を手放しているか῍ 賃貸をしているῌ こ
天候に恵まれ豊作であったῌ
れは῍ 現地統計局の公式デ῏タで同地域の一農家
これまでに耕作地規模の拡大を行った経験の有
当たり経営耕作地面積が 2* ha と調査サンプル農
無についての聞き取り調査によれば῍ 23 農家のう
家の平均に比べて著しく小規模であることからも
ち .. 戸の農家が独立自営農家設立から現在まで
確認されるῌ
に土地取引を通じて経営規模拡大を行ってきたと
答えているῌ 規模拡大を行った農家の独立当初の
῍ῌ 総合生産性分析
平均耕地面積は +3* ha ほどであったが῍ 土地取
前節では῍ サンプル農家の多くが規模拡大志向
引による規模拡大の結果῍ 農家の平均経営耕作地
にあることを示したῌ 先行研究 ῑ矢元ῌ泉田῍ ,**1ῒ
面積は約 /** ha に達しており῍ 拡張しなかった
では῍ 規模拡大を行っている農家の多くが῍ 独立
./ 戸の農家の経営耕作地は +-/., ha であること
時点で旧集団農場長や῍ 農業部門主任など῍ 社会
から῍ 差は - 倍に及んでいるῌ
的に高い地位におり῍ 彼らの多くが῍ その社会的
+33+ 年から現在にかけて独立自営農家の規模
地位を利用して農業機械など農業にとって不可欠
変動が如何に進んだかを示したのが表 + であるῌ
な機材を他の一般的な農家よりも有利な条件で入
農家が独立した時期は様῎であるが῍ デ῏タの制
手したことが確認されているῌ また῍ 自営農家を
約上῍ 独立時期は無視して独立時規模別農家数の
創設した際の社会的地位と主要農業機械保有数そ
分布を取ったῌ 同表から農家独立時点と調査時点
して経営規模の間に強い正の相関関係があること
農村研究 第 +*0 号 ῑ,**2ῒ
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も示されたῌ つまり農家の規模拡大の意思は独立
῎ 燃料費については῍ 地域格差及び補助金の
時に資材を豊富に保有することが出来た一部有力
有無で同質のものでも価格差が明らかに見受けら
者層に特に強く῍ また実際にそのような農家に土
れるῌ 分析には῍ 実際価格及び実際投入量を用い
地が集中していったῌ 一方で῍ 規模拡大をするに
ているῌ
は῍ 経済的動機が背景になくてはならないῌ 以下
῏ 労働費は῍ 家族労働費及び雇用労働費に分
では῍ 分析に用いた費目の分類について解説し῍
けて計算しているῌ カザフスタンの国家統計局資
規模別に単収及び労働生産性を示した後῍ 総合生
料にコスタナイ州における農業部門雇用賃金デ῏
産性分析を行うῌ
タが存在するが῍ このデ῏タは農繁期῍ 農閑期を
ῌ デῌタ及び費目の分類
問わず通年での賃金デ῏タであり῍ 農繁期の賃金
生産費デ῏タは ,**0 年 +* 月に同国コスタナイ
に見立てるには過小評価となるῌ このことから῍
州で行った - 週間の聞き取り調査がもととなって
実際の聞き取り調査で得られた雇用労働者の平均
いるῌ 費用については῍ US$ 及び同国通貨のテン
日当給与を家族労働者の日当給与と見立てたῌ 労
ゲのいずれかで聞き取りを実施したが῍ 分析では
働日数は῍ 農繁期に当たる作付期間及び収穫期間
+ US$ΐ+,0 テンゲの為替レ῏トで US$ 換算して
の労働日数を用いたῌ 雇用労働費については作付
いるῌ
期及び収穫期の労働日数と支払われた賃金デ῏タ
分析に用いる生産要素は῍ 表 , に示したよう
が得られているῌ 以上のことから῍ 家族労賃は一
に῍ 種子῍ 除草剤῍ 燃料῍ 労働力 ῑ日数ベ῏スῒ῍ 農
律で計算し῍ 雇用費は実際の支出金額を用いるῌ
業機械῍ 土地であるῌ 以下῍ 個῎の生産要素につ
小麦の農繁期は規模によって異なるが῍ 雇用労働
いて詳しく説明をするῌ
者は +ῐ- ヶ月の間に多額の賃金を得ているῌ 実
ῌ 種子の投入については物的な実際の投入量
際に聞き取りから得られた雇用労働者の平均日当
を用い῍ 金額で評価する時には一律の価格を用い
給与は約 ,, US$ であったῌ 十分な農業機械のな
るῌ 聞き取り調査の結果῍ 3 割以上の農家が前年
い一部農家は῍ 機械ごと労働者を雇い῍ 機械及び
の収穫の一部を種子として使っており῍ 残りの農
労働に対する賃金を支払っていたῌ この場合῍ 機
家が購入した + t あたり平均価格である約 2* US$
械費用と労働賃金が分離できないため῍ 委託業務
をかけて投入額としたῌ
費として計算したῌ
῍ 除草剤は種類が多岐にわたり῍ 単純に投入
ῐ 農業機械費であるが῍ これは維持ῌ修理費
量が多ければ効能が高いわけではないῌ このた
及び減価償却費から構成されているῌ 維持ῌ修理
め῍ 価格が同じでも量や質が違ってくるが῍ 価格
費に関しては῍ 聞き取りによって具体的な金額が
にはばらつきがないと想定し῍ 投入金額の比率が
分かっているῌ また῍ 農家によってはコンバイン
要素投入量の比率を示すものとするῌ
など主要な農業機械を保有していない場合があ
り῍ その場合の賃料もこの中に含まれるῌ しかし῍
表 ,
生産性分析のための費用項目
種子費
分離することはできないため῍ 一括して業務委託
燃料費
家族労働費
料とみなすこととしたῌ よって῍ この場合には農
雇用労働費
業機械費用が過小評価されていることになるῌ 次
業務委託費
農業機械費
土地利用費
も雇い小麦収量の一部を報酬として渡すケ῏スが
多かったῌ この場合は῍ 農業機械賃借料と賃金を
除草剤費
労働費
農業機械を賃借する場合῍ 機械だけでなく運転手
維持ῌ修理費
に減価償却費であるが῍ 減価償却費の計算は定率
減価償却費 ῑ. 種類ῒ
法を用いるῌ 農機具は῍ 年῎それほど性能が落ち
るわけではないため῍ 定額法が望ましいと考えら
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カザフスタン共和国北部における小麦農家の総合生産性分析
れるが῍ 旧ソ連時代に製造されたこれらの農機具
定しているῌ 農業機械は農家間で自由に売買され
の新製品評価額を推計することは非常に困難であ
ているため῍ この仮定は妥当と思われるῌ
るῌ 定率法の場合῍ 年間の減価償却費は期首帳簿
ῌ
最後に耕作地であるが῍ 小麦 + t あたりに
価格に償却率を乗じたものであが῍ 農家自体が農
使用された実際の耕作地面積を用いたῌ 地代は῍
業機械の期首帳簿価格を把握していないῌ そのた
土地税が + ha 当たり約 , US$ でありこれを用い
め調査時点での農家評価額をたずね῍ これを期首
たῌ
評価額としたῌ また῍ 償却率は耐用年数によって
ῌ 単収と労働生産性
決まり῍ 同国ではトラクタ῎の耐用年数は 1 年῏
表 - は播種地規模階層別に農家数῍ 単収及び労
+* 年とされているῌ しかしながら῍ + 件の農家を
働生産性を示したものであるῌ 聞き取り調査は 23
除いた農家の農業機械製造年はすべて +33, 年以
戸の農家に対して実施されたが῍ うち 0 農家は作
前であり῍ 多くのものは 2* 年代半ばに製造され
付規模が +,*** ha を超える大規模農家で῍ 酪農も
たものであるῌ 実際の使用年数は一般的に言われ
平行して行っているなど῍ 形態的には家族農家の
る耐用年数を大幅に超過している ῐ+/ 年から ,* 年
形をとっているが実質的には企業的経営の面が非
は使われているῑῌ 以上のように正確な減価償却費
常に強かったῌ また /* ha に満たない農家と +,***
を求めることは極めて難しいため῍ ここでは耐用
ha を超える農家の比較を行うにはサンプル数に
年数を ,* 年に設定し῍ 聞き取り調査時点の農家
制約があるため῍ +,*** ha 以上の農家は分析から
評価額を期末帳簿価格と見なし῍ 償却率を *.+/ と
除いたῌ 残りの 2 農家についてはデ῎タの不備の
して減価償却費を計算するῌ 具体的な計算は῍ 以
ため定量分析から除外したῌ この表が示すよう
下のとおりであるῌ
に῍ 作付面積 /* ha 未満の独立自営農家の単収が
期首帳簿価格ΐ農家主体評価額ῌῐ+ῒsῑ で῍ 耐
両年において最も低く῍ /* ha よりも大きな農家
用年数 +/ 年に設定した際の s ῐ減価償却率ῑ は῍ 約
では単収格差が見られないῌ 第῎階層とそれより
*.+/ となることから῍ ,**0 年次の減価償却費は῍
大きな階層間の平均単収に統計的に差がないとい
減価償却費ΐ
農家主体評価額
* *.+/
ῐ+ῒ*.+/ῑ
῍
として῍ 求めることができるῌ
計算に用いた農業機械は῍ 小麦生産に不可欠な
う帰無仮説は有意水準 /῍ で棄却されたが῍ その
他の階層に関しては統計的に差が見られなかっ
たῌ 耕作地規模が小さいほど単収を高める集約的
な農業を営み῍ 大規模なほど粗放的な農業になる
キャタピラ῎トラクタ῎῍ ホイ῎ルトラクタ῎῍
と一般的に考えられるならば῍ 相反する結果を示
コンバイン῍ 作付機であるῌ これらの機械は῍ お
しているῌ
なじキャタピラ῎トラクタ῎でも機種や修理の度
同国の小麦生産において小規模農家の単収が低
合いによって性能が違うとみるのが妥当であるῌ
い理由として三つのことが考えられるῌ まず῍ 規
上述のように῍ 機械の価格は農家の主観的評価額
模が小さい農家ほど - 年に + 度の休閑が守られな
によるῌ このことから機械の評価額には農家の判
断が影響しているとはいえ῍ 性能の違いに起因す
る価格差を無視することは出来ないῌ そこで῍ 価
表 -
作付規模別農家数῍ 平均単収及び労働生産性
格が実質要素投入量を示すと見なしたῌ たとえ
階層
農家数
作付規模 ῐhaῑ
平均単収
ῐtῑ
労働生産性
ῐtῑ
ば῍ キャタピラ῎トラクタ῎の平均価格は ,,-.,
῎
῏
ῐ
ῑ
ῒ
+3
+3
+2
1
+,
῏/*
/*῏+**
+**῏,**
,**῏-**
-**῏+***
+4*2
+4,/
+4-2
+4,0
+4.0
-41,
/4*/43,
.40+
040.
US$ であったが῍ もしこの倍の額のキャタピラ῎
トラクタ῎を保有している場合は῍ , 台保有して
いると見なしたῌ よって῍ この場合も同質の機械
に対する価格はいずれの農家に対しても同じと仮
ῐ出所ῑ 矢元ῌ泉田῍ ,**1 : /0,
ῐ注ῑ 労働生産性は収穫量ῌ労働投入量 ῐ人日ῑ で῍ 業務委託をしている
農家は省くῌ
農村研究 第 +*0 号 ῐ,**2ῑ
90
いため῍ 地力が失われていることであるῌ 第 , に῍
体的な計算方法は次のとおりである ῐ生源寺 ῌ
小規模農家ほど農業機械が不足しており他の農家
Price῍ +331 : ,+0ῑῌ
から借りるなどの手段を取っているが῍ 必要な時
ある投入要素グル῏プに属する費目 i の価格を
期に借りられないこともあり不適切な農作業過程
pi, 実質要素投入を qi として῍ すべてのサンプル
が単収に影響を与えていると考えられるῌ 第 -
農家の要素価格及び投入量の基準値と比較して生
に῍ 小規模農家ほど兼業的であり土地を手放した
産性を測るとすると῍
くないために農業を営んでおり῍ 農業に対する知
識も乏しい傾向があると推測されるῌ
῍
῍ S pi qiA ῑ* ῍ S pi qi ῑ
S pi qi ῑ
ΐ῔+ῌ῏
ΐ
ΐ
ῐ
῔
+ῌ῏
ῐ
῔
A A῔
῎ S pi qi ῒ ῎ S piAqiA ῒ ῎ S pi qiA ῒ
+ῌ῏
ῐ
労働生産性は῍ 農家の小麦総生産量を家族労働
者及び雇用労働者の総労働日数で割ったもので῍
と表すことができるῌ ここで῍ piA 及び qiA は生産
一人当たりの生産量を示すῌ 表にあるように基本
要素 i の価格及び投入量の基準値を示すῌ 本分析
的に小規模層から大規模層に移るにつれ῍ 労働生
では῍ それぞれの要素の第階層平均値を基準値
産性が高まる傾向にあることが分かるῌ 回帰結果
とし῍ 各農家の名目費用比率῍ 価格比率῍ 要素投
からも有意水準 /῕ で作付規模と労働生産性には
入量比率を求めるῌ よって῍ 左辺の名目費用比率
正の相関関係が存在することが確認されたῌ
の逆数が῍ 右辺でグル῏プに関する集計的な価格
ῌ 総合生産性分析
比率の逆数と集計的な要素投入比率の逆数に分解
Yamada は生産性を ῒインプット ῐ要素投入ῑ と
されるῌ 総合生産性格差の測度となるのは要素投
アウトプット ῐ生産量ῑ の関係であり῍ いかに要素
入量比率の逆数であり῍ この値が大きいほど生産
投入を効率的に利用しているかを示すものであ
性が高いことを示すῌ
るΐ と定義している ῐYamada, +33. : 2-ῑῌ
P῔
O
I
集計的な総合生産性を導出する前に個῎の生産
要素投入について経営規模によって分類した階層
間の比較を行うῌ まず表 . は῍ 階層別の小麦を + t
如何なる生産性も上式のように῍ 生産量 ῐOῑ と
要素投入 ῐIῑ の比率で表すことができるῌ 当然な
表 .
規模別小麦生産費 ῐUS$ῑ
がら分母の投入としては土地や労働など個別の要
階層別費用 ῐUS$ῑ
素投入を用いることができ῍ それによって῍ 要素
費用項目
生産性を求めることができるῌ ただし῍ 土地生産
種子費
性や労働生産性のような部分的生産性には῍ 別の
除草剤費
+42
,41
,4*
+42
+4*
燃料費
+,40
34*
24+
14/
040
家族労働
34/
.43
-40
.4*
+40
雇用労働
+4,
+43
,43
+40
,4,
委託業務
142
*43
+4/
*4*
*4*
+24/
141
2
/40
-42
減価償却 A
14+
,41
,40
-4*
,43
減価償却 B
,4.
-4-
,42
+4+
+4+
減価償却 C
+40
+40
+4+
*4.
+4,
階層及びその他の階層のみで有意に確認され῍ そ
減価償却 D
,40
,43
+40
+4-
+4,
の他の階層では確認されなかったことから῍ 単収
維持ῌ修理
+-4*
++4/
04*
24,
/4+
++4/
生産要素の代替効果が影響しており῍ 指標として
バイアスを含んでいる ῐYamada, +32. : -+0ῑῌ こう
労働費
いった問題を回避し῍ 小麦生産における生産性を
分析するために総合生産性を求めるῌ 総合生産性
労働費合計
は῍ ῒ総要素投入と総生産量の比率ΐ として表すこ
とができるῌ 先に示したように῍ 単収格差は第
農業機械費
+,40
340
34-
34*
143
農業機械費合計
,041
,,4*
+.4+
+.4*
格差が総合生産性に与える影響は全体的にみて少
土地費
+43
+40
+4/
+4/
+4-
ないと判断されるῌ そこで本稿では῍ + t 当たりの
費用合計
1.40
/,4.
0,4+
-14,
-+42
小麦を生産するための要素投入量及び要素費用に
規模間格差が存在することを῍ 定量的に示すῌ 具
ῐ出所ῑ 筆者作成ῌ
ῐ注ῑ 減価償却 A, B, C, D はそれぞれホイ ῏ ルトラクタ ῏῍ キャタピ
ラ῏トラクタ῏῍ 播種機῍ コンバインῌ
91
カザフスタン共和国北部における小麦農家の総合生産性分析
生産する際にかかる費用を生産要素別に示したも
格比率を示しているῌ 燃料費は階層間で若干の価
のであるῌ 一目して大規模層ほど費用がいずれの
格比率の格差が見られるῌ これは῍ 先に述べたよ
項目でも減少傾向にあり῍ 明らかな階層間格差が
うに῍ 大規模農家ほど行政の煩雑な書類手続きを
確認されるῌ 第ῐ階層の総労働費は῍ 第ῌ階層の
厭わず補助金を得ようとするインセンティブが強
, 割強῍ 総農業機械費は . 割強でしかないῌ
いためであるῌ 次に雇用労働費についてである
それぞれの生産要素の名目費用比率῍ 価格比
が῍ 小規模農家ほど農業機械を十分に保有してお
率῍ 投入量比率を階層別に表 /῍ 表 0῍ 表 1 に示
らず機械を賃借する場合があるῌ この際῍ 運転手
すῌ 表 / は῍ 第ῌ階層の名目費用を基準とした各
に対して労賃と機械賃借料を合わせた委託業務比
階層における名目生産要素費用の比率を示してい
を支払っており῍ 労働と機械の費用が分離不可能
るῌ + t 当たりコストに規模間格差があることか
なため該当農家は計算からはずしたῌ 表から分か
ら῍ 当然同様の格差が規模間に見られるῌ
るように῍ 第῎階層で雇用労働費おける価格比率
そこで次の表 1῍ 2 でこれらの生産要素コスト
が突出しているῌ これは +** haῑ,** ha に該当す
が価格差によるものか῍ また実質投入量の差によ
る階層であるが῍ 第ῌ階層῍ 第῍階層が業務委託
るものかを検証するῌ デ῏タ及び費用の分類で説
を行っている農家が多かったのに対し῍ 第῎階層
明したように῍ 計算をする際には῍ 多くの費用項
から雇用労働が一般的になるためであるῌ この階
目の価格は一定という条件をつけたῌ それぞれの
層は上位階層に比べて + t 当たりの雇用数が多
農家が直面する価格が異なる生産要素は燃料及び
く῍ 単位あたり金額も大きくなっているῌ
雇用労働であるῌ 表 0 はこの二つの生産要素の価
表 1 はそれぞれの生産要素の投入比率を示した
ものであるῌ 価格比率に差があるとしたのは燃料
表 /
費及び雇用労働費のみであるため῍ 表 1 の値は概
階層別名目費用比率 ῒ第ῌ階層῔+**ΐ
ね表 / の名目費用比率と同様であるῌ ほとんどの
階層別名目費用比率
費用項目
ῌ
῍
῎
῏
ῐ
生産要素において規模が大きくなるほど῍ 投入比
種子費
+**4*
104.
1.4*
1+41
0,4,
除草剤費
率は低下しており῍ 効率性が増していることが分
+**4*
+./4*
+*24-
3/4.
/,4-
燃料費
+**4*
1+4.
0.4-
/,4+
/,4+
かるῌ 聞き取り調査やデ῏タから得られた情報よ
り῍ 個῎の生産要素に関する格差の原因について
労働費
家族労働
+**4*
/+40
-24*
..42
+041
雇用労働
+**4*
+//4,
,.*4-
+-/42
+1140
委託業務
+**4*
.,43
/,43
ῐ
ῐ
減価償却 A
+**4*
.,4-
--4/
-*4,
,/4+
減価償却 B
+**4*
++14+
+/-4*
.+43
.,41
減価償却 C
+**4*
実質要素投入比率 ῒ第ῌ階層῔+**ΐ
表 1
階層別実質要素投入比率
農業機械費
0143
/343
--4-
+**4*
3+4.
0,4/
.043
.,4,
維持ῌ修理
+**4*
224*
.04/
0,41
-34.
+**4*
2-43
124*
2*4/
階層別価格比率 ῒ第ῌ階層῔+**ΐ
燃料費
雇用労働費
῎
῏
ῐ
+**4*
104.
1.4*
1+41
0,4,
除草剤
+**4*
+./4*
+*24-
3/4.
/,4-
燃料
+**4*
1-4-
034/
0/40
/242
家族労働
+**4*
/+40
-24*
..42
+041
雇用労働
委託業務
+**4*
+-/43
+234+
+0,4/
,+,4/
減価償却 A
+**4*
.,4-
--4/
-*4,
,/4+
減価償却 B
+**4*
++14+
+/-4*
.+43
.,41
減価償却 C
+**4*
0143
/343
--4-
./41
減価償却 D
+**4*
3+4.
0,4/
.043
.,4,
維持ῌ修理
+**4*
224*
.04/
0,41
-34.
+**4*
2-43
124*
2*4/
1+4,
労働
農業機械
階層別価格比率
費用項目
῍
種子
1+4,
ῒ出所ΐ 筆者作成ῌ
ῒ注ΐ 比率の基準はそれぞれの生産要素の第ῌ階層の値῍ ῐは該当農家
なし
表 0
ῌ
./41
減価償却 D
土地費
要素項目
ῌ
῍
῎
῏
ῐ
+**4*
+**4*
3*43
+0*4*
3*43
,0*4*
1,41
+2*4*
2+42
+.*4*
ῒ出所ΐ 筆者作成ῌ
ῒ注ΐ 比率の基準はそれぞれの生産要素の第ῌ階層の値を基準としたῌ
土地
ῒ出所ΐ 筆者作成ῌ
ῒ注ΐ 比率の基準はそれぞれの生産要素の第ῌ階層の値雇用労働と委託
業務は分離していないῌ
農村研究 第 +*0 号 ῎,**2῏
92
検討を行ってみようῌ まず種子であるが῍ 通常種
子の投入量に規模格差は働かないはずであるが῍
῔ῌ
階層別生産要素投入量格差における各生
産要素の寄与度
表を見ると小規模層の + t 当たり種子投入量が明
らかに多いῌ これは小規模農家ほど農業機械に不
本節では῍ 各生産要素投入が総合生産性の格差
具合が多く῍ 種の蒔き直しを余儀なくされている
にどれほど寄与しているのかということを階層別
ところもあり῍ また῍ 適切な時期に播種ができな
に分析するῌ 式 ῌ のうち῍ 要素投入量比率 ῎総合
かったために一単位あたりの種子から取れる収量
生産性比率の逆数῏ を表す項は以下のように分解で
が少ないことが原因であるῌ 燃料は῍ 価格にも格
きるῌ
差があったが投入量にも明確な格差が見られるῌ
ῌ pi qiA
S pi qi
qi ῏
qi
* AῑῑS mi* A ῍
ῑS῎
A
A
i
῍ S pj qi
S pi qi
qi ῐ i
qi
これは῍ 農業機械でも規模間格差が顕著に見られ
るように῍ 大規模層ほど農業機械を効率的に利用
し῍ よって燃料も効率的に利用しているためであ
るῌ
j
pi qiA
ῑmi であり῍ これはある生産要素 qi が
S pj qjA
j
価格全体に占めるシェア ῎mi῏ の平均を示すῌ 更
労働は῍ 家族労働と雇用労働に分かれるが῍ 小
規模層ほど家族労働を多用している一方で῍ 大規
模層は雇用労働に相対的に強く依存していること
が分かるῌ 土地についても大規模層ほど + t 当た
りの土地投入は小さく῍ より効率的な利用をして
いるといえるῌ
に῍
qi
ῑ+ῐsi とおくと῍ S miῑ+ であることか
i
qiA
ら῍ ῍ 式は῍
S m i*
i
qi
ῑS mi῎+ῐsi῏ῑ+ῐS mi si
i
qiA i
῎
とおけるῌ
次に῍ これまでに見てきた各生産要素の名目費
用比率῍ 実質投入量比率῍ 価格比率を ῌ 式を用い
て῍ 集計的に導出し῍ 規模間の総合生産性格差を
それぞれの要素投入量の平均シェア及び階層別
平均シェア῍
pi qiA
ῑmi 及びそれから求めた要
S pj qjA
j
素投入量の寄与を表したものが表 3 になるῌ 括弧
求めたものが῍ 表 2 であるῌ
+ῌ価格比率は上昇傾向にあるものの῍ 階層間の
内の数値がシェアを表しており῍ 各階層の左の数
幅は小さいῌ 一方῍ +ῌ投入比率に関しては῍ 第῏
値が実際に + t 当たりの小麦を生産する上で῍ ど
階層と第ΐ階層の間で二倍近い違いが見られるῌ
れほど要素投入量を抑える῍ 言い換えれば総合生
よって῍ 同国小麦農家における階層間の名目費用
産性を高める働きをしているかを示す寄与度であ
比率格差は῍ 多分に総合生産性格差に依存してい
るῌ いずれの階層も各要素投入量シェアはおおむ
ると判断されるῌ
ね同じであるῌ 維持費や各機械の減価償却費を合
以上のことから῍ 調査家計の半数以上が独立当
わせた農業機械のシェアが - 割強で῍ 家族労働及
初から経営地拡大を図ってきたが῍ これが経営規
び雇用労働をあわせたシェアが , 割 / 分῍ ついで
模拡大によって総合生産性が高まるという経済的
種子及び燃料のシェアが大きいῌ 階層間で顕著な
動機に立脚するものであることが示されたῌ
違いが見られるのは雇用労働であるῌ しかし῍ 先
にも述べたように農業機械が不足している小規模
表 2
層で雇用労働のシェアが高いのは῍ この中には純
階層別総合生産性 ῎第῏階層ῑ+**῏
+ῌ名目費用比率
+ῌ価格比率
+ῌ実質投入比率
῎出所῏ 筆者作成ῌ
῏
ῐ
ῑ
ῒ
ΐ
+**4*
+**4*
+**4*
+.*4/
+*24.
+,040
+1/41
+*04+0*42
,**4*
++,40
+1.41
,+140
++*4/
+3-41
粋な雇用労働に加え῍ 農業機械の賃借も合わせた
業務委託も含まれていることによるῌ
次にこれらの項目が῍ どれほど全要素投入量格
差に寄与しているのかについてであるが῍ 第῏階
層は基準階層であるため῍ 数値は記入されていな
93
カザフスタン共和国北部における小麦農家の総合生産性分析
表 3
階層別各要素の全要素投入量格差への寄与度及び階層別要素投入シェア
階層別各要素の全要素投入量への寄与度
要素項目
労働
ῌ
῍
῎
῏
ῐ
種子
῏
ῑ+24+ῒ
+14-
ῑ+34/ῒ
+24-
ῑ+34-ῒ
+/40
ῑ,*4*ῒ
+/42
除草剤
῏
ῑ-4/ῒ
ΐ14-
ῑ-42ῒ
ΐ+4-
ῑ-41ῒ
*4*
ῑ-43ῒ
.4*
ῑ+343ῒ
ῑ-43ῒ
燃料
῏
ῑ+14.ῒ
,.4/
ῑ+24-ῒ
+04.
ῑ+14.ῒ
++41
ῑ+/4-ῒ
+-4.
ῑ+14*ῒ
家族労働
῏
ῑ+24+ῒ
.-4,
ῑ+34/ῒ
-041
ῑ+34-ῒ
-+4-
ῑ,*4+ῒ
-+40
ῑ+343ῒ
雇用労働
委託業務
῏
ῑ34+ῒ
ΐ/4/
ῑ,41ῒ
ΐ+.4/
ῑ.40ῒ
ΐ.41
ῑ-4.ῒ
ΐ04/
ῑ,4/ῒ
῏
ῑ,14,ῒ
-141
ῑ,,4,ῒ
,,4,
ῑ,-42ῒ
,040
ῑ,-4/ῒ
,/4+
ῑ,,4.ῒ
減価償却 A
῏
ῑ+041ῒ
+04.
ῑ+24*ῒ
+-4/
ῑ+142ῒ
+*43
ῑ+24/ῒ
24-
ῑ+24-ῒ
減価償却 B
῏
ῑ/42ῒ
ΐ-40
ῑ04,ῒ
ΐ04.
ῑ04+ῒ
04-
ῑ04.ῒ
.41
ῑ04-ῒ
減価償却 C
῏
ῑ-43ῒ
,41
ῑ.4,ῒ
,40
ῑ.4,ῒ
-40
ῑ.4-ῒ
,4*
ῑ.4-ῒ
減価償却 D
῏
ῑ+4/ῒ
+4.
ῑ+40ῒ
-43
ῑ+40ῒ
-43
ῑ+40ῒ
-40
ῑ+40ῒ
維持ῌ修理
῏
ῑ,40ῒ
24,
ῑ,42ῒ
,243
ῑ,41ῒ
+342
ῑ,42ῒ
,+4-
ῑ,42ῒ
農業機械合計
῏
ῑ-*4/ῒ
,/4*
ῑ-,42ῒ
.,4.
ῑ-,4.ῒ
..4/
ῑ--41ῒ
-343
ῑ--4.ῒ
土地
῏
合計
῏
労働合計
農業機械
ῑ,43ῒ
ῑ+**ῒ
,41
+**
ῑ-4+ῒ
ῑ+**ῒ
+43
+**
ῑ出所ῒ 筆者作成ῌ
ῑ注ῒ 各階層の左の数値は全要素投入量格差全体に占める寄与度を表し῍ 右 ῑ
ῑ-4+ῒ
ῑ+**ῒ
+40
+**
ῑ-4,ῒ
ῑ+**ῒ
+42
+**
ῑ-4,ῒ
ῑ+**ῒ
ῒ の数値はそれぞれの生産要素投入量シェアを示すῌ
いῌ 正の数値は῍ 第ῌ階層に比べて要素投入量を
依存するῌ 以上のことから῍ 全要素投入量格差に
抑えていることを示しており῍ 総合生産性向上に
最も寄与しているのは農業機械であり῍ 次に労働῍
つながっているῌ 負の値は逆に第ῌ階層に比べて
その他の変動費が寄与していると説明できるῌ
生産要素を多く投入しており῍ 小麦 + t あたりに
対する要素投入量を押し上げていることを示すῌ
ῑῌ 結
び
種子はいずれの階層でも投入量抑制の +/ ῐ ,*῍
本稿は῍ カザフスタン共和国北部の小麦農家が
の寄与があるῌ 除草剤は第῍階層及び第῎階層で
独立以降῍ 規模拡大を行っている実態を明らかに
要素投入量を押し上げており῍ 総合生産性を押し
し῍ また規模拡大が経済的動機に基づくことを総
下げているが῍ 第ῐ階層で .῍ の寄与を示してい
合生産性分析から示したῌ 価格比率の分析では῍
るῌ 燃料は第῍階層で最も重要な全要素投入量の
燃料費は規模間に大きな格差がない一方で῍ 雇用
押し下げ要因となっているῌ 労働については家族
費に関しては῍ 規模拡大に伴い῍ 単位あたりの価
労働投入が全要素投入量の効率性に寄与している
格が減少することが確認されたῌ また要素投入量
一方で῍ 雇用労働では逆の傾向がみられるῌ 労働
では῍ おおむねすべての生産要素で規模の経済が
全体としては全要素投入量抑制の ,/῍ ῐ -/῍ の
確認できたῌ それぞれの生産要素がどれほど全要
寄与度があるῌ 農業機械は減価償却および修理ῌ
素投入量格差に寄与しているかを調べた分析で
維持を合わせると῍ ,/῍ῐ./῍ の寄与度があるῌ
は῍ 農業機械および労働が主な格差要因であるこ
同国の小麦生産は旧ソ連時代から現在に至るまで
とが示されたῌ つまり小規模層では家族労働を過
極めて機械集約的であるῌ この意味で労働力はト
剰に投入しておりまた土地の制約から農業機械を
ラクタ῎やコンバインを稼動させるために必要な
最大限に利用できていないのであるῌ
投入財であり῍ 機械と労働は補完関係にあるῌ こ
本稿では῍ 小麦の生産のみの分析を行い῍ 農閑
のため῍ 機械投入量が効率化されれば῍ 補完的に
期の労働状況や小麦を販売する際の輸送などを分
労働投入量も効率化させるῌ つまり῍ 労働の総合
析に加えていないため農業経営の効率性全体を把
生産性への寄与度の大部分は機械の効率的利用に
握しうるものではないとはいえ῍ 小麦生産におけ
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農村研究 第 +*0 号 ῐ,**2ῑ
る最も重要な作業において規模の経済が明確に存
量が規模拡大と密接に関係しており῍ 本稿で示し
在することを示し῍ その内訳を具体的に検証し
たように規模の拡大が効率性の面で極めて重要で
たῌ
あることから῍ これらの一部有力農家を含む大規
先行研究でも明らかなように῍ ソ連邦崩壊後の
模層が今後も規模拡大を行い῍ 農業企業と共に同
農業資本や土地の不平等な分配から農家設立時点
国小麦生産の主要な担い手となっていく一方で῍
で資産を豊富に得た農家はその後も農地拡大を行
小規模農家層は減少していくと考えられるῌ しか
い῍ 規模の経済の恩恵を受けてきたのに対し῍ 農
しながら῍ 調査で明らかなように῍ 大規模層でも
業機械を主とする資産を豊富に持たない農家の多
農業機械の老朽化及び不足は深刻であり῍ 早期の
くは規模拡大ができずにいるῌ 今回の調査では῍
問題解決が必要であるῌ 政策的インプリケ῎ショ
金融利用の項目で農家が銀行やリ῎ス会社を利用
ンとしては政府の補助も含めた定額融資῍ リ῎ス
して῍ 農業機械の更新や追加購入を行っているか
などを基調とした農業機械市場の拡大が必要であ
も聞き取りを行ったῌ 多くの農家はインフォ῎マ
ろうῌ また῍ 独立自営農家は農業企業より不利な
ルな金融を利用しているが῍ 既存の機械を修理す
状況にありながらも規模を拡大し῍ 効率的な経営
るための資金として使っているのみであり῍ 経営
を目指しており῍ こういった現状を鑑みると῍ 政
拡大を図る状況にはないῌ このように῍ 独立当初
府は農業企業偏重の政策を改め῍ 平等に発展の機
の社会的地位῍ それに伴う土地や農業機械の保有
会を与えるべきであるῌ
引用ῌ参照文献
生源寺真一ῌPrice, D.C. ῐ+331ῑ ῒ酪農のコスト及び生産性に関する日英比較分析ΐ ῔農業経済研究῕ 第 0, 巻῍ 第 .
号῍ ,*3ῌ,+3ῌ
錦見浩司 ῐ,**.ῑ ῒ農業改革 : 市場システム形成の実際ΐ ῔現代中央アジア論῏変貌する政治経済の深層῕ 日本評論
社ῌ
野部公一 ῐ,**-ῑ ῒカザフスタンにおける農業改革ΐ ῔CIS 農業改革研究所説῏旧ソ連における体制移行下の農業῕
農林水産省農林水産政策研究所῍ ,,1ῌ-*3ῌ
矢元龍治ῌ泉田洋一 ῐ,**1ῑ ῒカザフスタン共和国北部における個人小麦農家の規模変動ΐ ῔日本農業経済学会論文
集῕ 農山漁村文化協会῍ //3ῌ//0ῌ
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῍受付 ,**1 年 ++ 月 +. 日῏
῎受理 ,**2 年 + 月 2 日ῐ
カザフスタン共和国北部における小麦農家の総合生産性分析
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The Total Factor Productivity Analysis of Wheat Peasant Farms in
the North Region of the Republic of Kazakhstan
Ryuji YAMOTO (The University of Tokyo)
Yoichi IZUMIDA (The University of Tokyo)
This paper aims to show the dynamic change in private farm sizes after independence, and the economic reason to enlarge farm sizes in the north region of Republic of Kazakhstan. Private farms were
newly established after the collapse of the former Soviet Union. Many farm sizes were enlarged after
independence. Using data gathered from a field survey conducted in ,**0, I showed the economic incentives to enlarge their farm sizes. I found obvious existence of economics of scale in their wheat production,
using the total factor productivity analysis. TFP analysis also showed that agricultural machinery and
labor input mostly contributes to the increase of farm e$ciency. From this result, it can be concluded that
large sized farms will continuously be the main wheat producers in the country. For their further development, however, it is necessary to renew their agricultural machineries produced in Soviet Era.
Key words : economies of scale, peasant farms, socialism, agricultural reform, land reform