有機農業推進第2期基本方針への提言・第4次草案(PDF)

2013 年 5 月 7 日
有機農業推進に関わる政策提言第4
有機農業推進に関わる政策提言第4次草案改訂版
次草案改訂版
特定非営利活動法人
全国有機農業推進協議会
提言の経緯
2013 年度は国の有機農業推進体制づくり(有機農業の
推進に関する基本的な方針)の見直しの年度にあたりま
す。当会では理事会のもとに政策提言委員会を設置し、
これまでの成果と課題を整理するとともに、国に対して
これからどういうポイントに力点を置いて推進政策を求
めていくべきか検討してきました。そして、農水省とも
意見交換しつつ、素案をホームページで公開して幅広く
意見をいただくこととしました。12 月 8 日には全国交流
集会を開催し、参加者とともに素案検討の議論を積み重
ね、それらをふまえて国への政策提言としてまとめまし
た。以下はその内容です。
農業就業者が減少の一途をたどるなかで、新規就農
者・農外からの新規参入者の多くが有機農業を志向して
います。環境や生物多様性を守り、安全で良質な農産物
を供給する有機農業は、国民の要望に応える、公共性・
公益性をもった取り組みです。したがって、これからの
農業の柱として有機農業を位置付けるべきであると考え
ます。それは、持続性のある本来の農業であり、消費者
とつながった、TPP にも負けない「強い農業」なのです。
まだまだ議論を深める余地はあるかと思いますが、い
ったん国に提言いたします。引き続き、有機農業を発展
させるために国や自治体はどのような取り組みが必要か、
そして有機農業に関わる私たちはこれからどう取り組み
をすすめるのか、検討をすすめてまいりましょう。
当会の呼びかけに呼応してたくさんの方がたよりご意
見を頂戴しました。あらためまして御礼申し上げます。
なお、
「叩き台」として公開した素案(第 2 次草案)に対
して頂戴したご意見については、以下のポイントで整理
しました。
(政策提言のまとめ方)
力点をはっきりさせるよう努めました。提言項目を減らし、優先順
位を考慮して順番を整理するよう努めました。
2. 成果と提言をコンパクトにまとめるよう努めました。
3. 有機農業推進法についての解説・見解を省きました。
4. 提言本文は全体の合意が得られた意見に基づいています。
5. 提言本文に載せなかったご意見は、継続して検討すべき課
題として「検討メモ」として公開することとしました。
はじめに
有機農業推進法は、有機農業運動約 40 年の歴史が生み
出した。それは一人ひとりの有機農業者の実践を基礎に
置いている。その意味でこの法律は、有機農業者立法で
ある。また、有機農業者の持続を支えたのは、志を持っ
た都市市民であった。その意味でこの法律は、市民立法
である。これは、市民運動が法律を生み出したきわめて
稀な例である。そして、日本有機農業学会有志の手によ
る 法 案を 受け た 有機 農業 推 進議 員連 盟 によ る法 案 が
2006 年 12 月に衆参両院で、全会一致で可決された。こ
うして有機農業推進法は、有機農業者、市民、研究者、
政治家が協働して作り上げた法律となったのである。
このような有機農業推進法の成立過程にもとづき農水
省の基本方針づくりは行われ、政策が具体的に示され、
予算が確保された。現在、推進体制づくりと定めた第一
期(2008~2012 年度)が終了し、第二期の基本方針策定
が必要となっている。その策定に際して、これまでの成
果と課題を確認したうえで、次期基本方針の策定によっ
て有機農業が飛躍的に拡大していける政策を具体化する
ために、当提言を取りまとめることとする。
Ⅰ有機農業推進法・
有機農業推進法・第一期有機農業基本方針
第一期有機農業基本方針への評価
有機農業基本方針への評価
1. 有機農業推進法の理念は、第 3 条に定められた、農業
の自然循環機能の増進と農業生産による環境負荷の低減、
安全かつ良質な有機農産物の供給、有機農業者と消費者
の連携、農業者の自主性の尊重が 4 本柱であり、これら
が有機農業推進法の原点である。
国の有機農業の推進活動として、大きい一歩を踏み出
したと評価できる。
2. 第一期基本方針の策定と実施は、大きな前進である。
3. 次の5年にむけて、第一期基本方針を踏まえたもう一
段高いレベルの第二期基本方針を策定することを提案す
る。
Ⅱ第一期基本方針の成果と課題
1. 推進計画(第 7 条)
成果 全都道府県で目標どおり策定された。
課題
①市町村の推進体制整備が 50%以上の目標に対して
16%といちじるしく低い結果に終わった。
②都道府県の推進計画が環境保全型農業の推進計画の一
部となっているケースが少なくない。
2. 有機農業者等の支援(第8条)
成果
①有機農業による新規就農希望者への支援
1各地に有機農業就農希望者が相談できる窓口が設置さ
れた。
①-2窓口同士の交流が進んだ。
1
①-3新規就農者に対する講習が始められた。
4都道府県の担当窓口・県普及指導員との連携が各地で
可能となった。
②青年就農給付金の創設
③環境保全型農業直接支払い交付金の創設
課題
①市町村における相談窓口の設置をより積極的に進める。
②転換参入希望者への有効な支援策が行われていない。
③環境保全型農業直接支払い交付金の支払対象取組にお
いて、環境保全にふさわしくない取組への支援があるう
えに、
「有機農業の取組」が環境保全型農業の取組と同列
に位置付けられている。
3. 技術開発等の支援(第 9 条)
成果
都道府県や独立法人の技術者が農家の圃場で調査し、デ
ータ化を進めた結果、様々な民間技術を公的機関が把握
し、有機農業の優位性が明らかになった。
②国・県・大学等の試験研究機関に、有機農業を研究す
る新たな世代が生み出された。
③農業改良普及センターにおいて、有機農業を担当する
普及員の養成が始められた。
課題
①試験研究機関のデータの還元・活用が現場で進んでい
ない。
②現場密着型の技術開発が遅れている。
①都道府県・市町村の推進体制作りが遅れている地域で
も、有機農業を推進できた。
②有機農業モデルタウン事業・産地収益力向上支援事業
に取り組んだ多くの地域で、有機農業グループと市町
村・JA との連携が進められた。
③有機農業グループと地域住民との連携を図る試みが広
がった。
④有機農業グループの横の連携が容易になり、経験交流
が進んだ。
課題
①都道府県が市町村の推進体制確立を支援する具体的な
政策が必要である。
②2013 年度から始まる有機農業供給力拡大地区推進事
業において、有機モデルタウン事業の良さである地域へ
の広がり・新規就農者の参入促進・研修機会の増大・技
術開発の深化、普及啓発の推進を明確に位置付ける。
7. 有機農業者等の意見の反映(第 15 条)
成果
①全国有機農業推進委員会が 2007 年から 2009 年に開催
された。
②国と有機農業団体の意見交換会が毎年開催された。
課題
全国有機農業推進委員会を再開する。
Ⅲ 第二期基本方針への提言
1. 基本的視点
①有機農業推進法の理念に立ち返る
②有機農業が消費者のニーズを満たし、環境を守る公共
的・公益的な取り組みであり、本来の農業であることを
再確認する。
③国は、地方自治体とりわけ市町村レベルに有機農業推
進政策を周知する。
④教育・医療・福祉・エネルギーなどの分野との連携を
すすめる。
4. 消費者の理解と関心の増進(第 10 条)、有機農業者
と消費者の相互理解の増進(第 11 条)
成果
①ブロック別の新たなネットワークが形成された。
②各地で都道府県・市町村との連携が進んだ。
③生産者と製造・流通業者などや消費者を結びつけるマ
ッチングフェアやオーガニックフェスタが開催された。
課題
より多くの人びとの参加を進めるための普及啓発活動が
必要である。
2. 第二期基本方針の柱
第一期基本方針の枠組みを維持しつつ、以下の3点を
柱とする。
①新規就農支援、有機農産物の販路開拓、有機農業の技
術開発を本格的に推進する。
②有機農業直接支払い交付金を新設する。
③市町村の推進体制を整備し、推進内容を強化する。
5. 調査の実施(第 12 条)
成果
有機農業基礎データ作成事業によって、有機 JAS 取得
者だけでなく、有機農業全体の現状がある程度とらえら
れるようになった。
課題
より精緻な調査を行う。
A.国
[Ⅰ]制度・目標
1. 政策目標
①有機農家の戸数、有機農産物の栽培面積・生産量を全
体の1%とする(有機 JAS 認証を 2 倍とする。なお、有
6. 国及び地方公共団体以外の者が行う有機農業の推進
のための活動の支援(第 13 条)
成果
2
機 JAS 取得の有無は問わない)。
②有機農業を基盤とした地産地消モデルを全国に普及す
る。
③-5 有機種苗の供給を促進するために、主要農作物種子
法を改正する。
④独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・農研
センターに有機農業実証圃場を設置し、官民連携の長期
的な研究をする。
⑤国立大学法人に有機農業講座を設置する。
2.市町村の推進体制整備(表-1 参照)
①-1 農地のあるすべての市町村が推進体制を確立する。
①-2 有機農業推進計画を策定する市町村の支援策を講ず
る。
①-3 有機農業推進を条例化する市町村を支援する策を
講ずる。
②有機農業推進体制に関する先進事例の整理・発信をす
るために、有機農業推進先進事例の調査を積極的に実施
する。
[Ⅴ]有機農業直接支払い(表3参照)
① 自然循環機能の増進、環境保全、生物多様性の保持、
安全かつ良質な農産物の生産、健康の増進、地域活
性化など、多面的な機能をもっともよく発揮する有
機農業を推進するために「有機農業直接支払い交付
金」が必要である。あわせて、環境保全型農業直接
支払交付金を「環境を守る農業直接支払交付金」
(仮
称)に改め、実施することが必要である。
② ①の対象は、すべての有機農家とする。
③ 環境・基盤整備への支援を行う。
③-1 生物多様性のための農地・里山(私有地を含む)の
環境・基盤整備、魚道・鳥虫害防止緩衝地帯の基盤整備
事業、畦管理、荒廃農地・水路管理等の地域整備事業等
③-2 長期残効農薬の使用や畦畔除草剤の散布をした場
合は、上記の直接支払いの対象としない。
③-3 地球温暖化防止の取り組み
④交付金の支払対象期間に制限を設けない。
3. 有機農業者等の意見の反映
①全国有機農業推進委員会を再開するか、それに該当す
る組織を設ける。
②意見交換会を継続する。
[Ⅱ]新規就農支援
①これからの農業の担い手の確保と農村の活性化の有力
な手段として有機農業を推進する。
②青年就農給付金制度を継続する。
③就農支援資金制度(無利子資金の貸し付け)を継続す
る。
④転換参入希望者への支援策を講じる。
[Ⅵ]認証制度
有機農業推進法の精神に則り、誰もが容易に有機農業
に取り組めるとともに、誰もが容易に有機農産物を入手で
きるような、わかりやすい認証制度に改善するための話し
合いの場を設ける。
[Ⅲ]販路開拓
①有機農業者と有機農産物を利用しようとする製造・流
通業者やレストランなどを結びつける仕組みを検討し、
あわせてマッチングフェアを開催する。
②一般店舗に有機農産物コーナーの設置を進める。
③有機農産物に関するエコポイント制の普及を支援する
ために検討会を開催する。
[Ⅶ]原発被災地の有機農業再建支援
①有機農業を発展させる政策の実施
土づくりを丹念に行ってきた有機農家の農地で生産さ
れた農産物への放射性セシウムの移行は低く、有機農業
が農業再建の先頭に立つことができる。
②移行係数の少ない農作物の作付支援
②-1 被災地で生産された有機農産物・環境保全型農産物
への消費税減免
②-2 販売先から要請された場合及び自主的な放射能検
査経費の助成
②-3 油糧作物の普及と関連機器の助成
③損害賠償請求の適用範囲の拡大とみなし損害補償
③-1 風評被害申請権のない地域での放射能検査経費の
助成
③-2 みなし損害補償制度の対策委員会の設置
[Ⅳ]技術開発
①既存の有機農業技術支援センターを有効活用するとと
もに、ブロックごとに新設して、分野別専門普及員と研
究者を養成する。
②先進的な有機農業事例を収集し、その技術を現場へ還
元して活用する。
③有機種苗の技術開発、普及啓発、供給の支援を行う。
③-1 既存の有機種苗供給センターを有効活用するとと
もに、ブロックごとに新設する。
③-2 農家の自家採種・自家増殖の権利を守る。
③-3 在来種の保全を促進する植物遺伝資源の保全施策
を整備する。
③-4 有機農家における優良な種苗の保全・育成を促進す
る植物遺伝資源保全施策を整備する。
3
③-3 有機コーディネーターの育成と研修を進める。
③-4 有機農業相談を実施する(有機農業者が利用できる
法律・条例・助成事業の紹介)
B.都道府県
B.都道府県
[Ⅰ]制度・目標
①有機農業の相談窓口を設置し、継続性のある専任担当
者を配置する。
②新規就農者・転換参入者を対象に、先進的な有機農業
者を講師とした有機農業講座を設置する。
③農業大学校に有機農業コースを設置する。
[Ⅱ]新規就農支援
①農家住宅の紹介
空き家を把握する(個人情報保護に留意)。
有機農業研修者・新規就農者に対して、作業場所のある
農家住宅を紹介するとともに、その仕組みを構築する。
②農地の紹介
耕作放棄地と貸地希望者を把握する(個人情報保護に留
意)。
農地貸借の斡旋を行う(新規参入者と土地所有者とのマ
ッチング)。
農地紹介制度・仕組みを構築する。
③青年就農給付金や就農支援資金を利用しやすいような
指導・アドバイス
[Ⅱ]新規就農支援
青年就農給付金や就農支援資金を利用しやすいように、
指導・アドバイスを行う。
[Ⅲ]農業経営・販路開拓
①生産者と消費者の提携や交流を促進するための対面販
売・ファーマーズマーケット・オーガニック朝市の開催
の支援や直売所の設置など、誰もが有機農産物に接する
ことができる機会を増やす。
②製造・流通業者・レストラン関係者などの実需者と消
費者への普及啓発活動(セミナー・試食会・見学会の開
催など)を行う。
[Ⅲ]農業経営・販路開拓
①地産地消の推進
①-1 地元の農案物を利用したい製造業者、販売したい流
通業者、消費したい企業を把握する。
①-2 上記の製造業者、流通業者、企業との地産地消製品
の共同開発・委託生産を支援する。
①-3 上記に関する先進事例の研修を行う。
②対面販売の実施
ファーマーズマーケット、オーガニックフェスタ、朝市
などの開催を支援する。
③教育・医療・福祉などとの連携
③-1 小・中学校、保育園・幼稚園の給食で、地場産有機
食材の使用を促進する。
③-2 高齢者施設・病院・福祉施設などの給食で、地場産
有機食材の使用を促進する。
③-3 地域の実情に合わせた地場産有機食材の使用目標
を設定する。
④小・中学校、保育園・幼稚園で、有機農業教育・生物
多様性教育を強化する。
④-1 副読本・独自パンフレットなどを作成する。
④-2 地元有機農家が指導する幼稚園・保育園や小・中学
校の学校有機農園活動を支援する。
⑤有機農家における優良種苗・在来品種の保全・育成を
支援する。
[Ⅳ]技術開発
①先進的な事例の入手・調査
②実証圃の設置
②-1 有機農家の圃場を実証圃として指定し、助成
②-2 実証圃における普及指導員の教育・訓練
③先進的な有機農業者を講師とした、農業試験場での有
機栽培試験の実施
④先進的な事例を収集した冊子の作成と現場への還元・
活用
⑤技術研修
普及指導員・農業生産者・新規就農者・転換参入希望
者の有機農業技術研修の実施・助成
⑥農場内・地域内の資源を活用して循環させる自前の良
質な堆肥づくり、購入資材を使わない低投入型技術の普
及
⑦有機農家における優良種苗の保全・育成の促進、在来
種の保全を促進する植物遺伝資源の保全施策の推進
[Ⅴ]有機農業直接支払い
①独自の直接支払いの検討・実施
② 国の直接支払い交付金の上乗せの検討・実施
[Ⅳ]技術開発
堆肥供給体制の整備
戸別堆肥舎の支援、公営堆肥舎の設置・運営、良質堆
肥の研究・普及
C 市町村(推進体制表-1、推進内容
表-2 参照)
市町村
[Ⅰ]制度・目標
①農地のあるすべての市町村が推進体制を確立する。
①-1 有機農業の普及状況に応じて、推進担当者・担当グ
ループ・担当係・担当課を設置する。
①-2 有機農業の普及状況に応じて、有機農業推進計画の
策定・有機農業推進条例の制定を推奨する。
②有機農家の戸数、有機農産物の栽培面積・生産量など
の具体的な目標数字を設定する。
③現場の先進的な有機農業者・関係者の経験と知恵を生
かした体制を整備し、計画を立案する。
③-1 有機農業推進協議会を運営し、研修を支援する。
③-2 地域有機農業事業評価委員会を運営する。
4
表1
表2
5
表3
6