研 究 所 だ よ り

建設経済の最新情報ファイル
monthly
RESEARCH INSTITUTE OF
CONSTRUCTION AND ECONOMY
研究所だより
No. 220
2007
6
CONTENTS
視点・論点
-
シンガポールの街並みに思う
-
・・・・・・
1
ⅱ.韓国の金融制度と企業改革
・・・・・・
2
ⅲ.韓国の建設業に関する金融制度
・・・・・・
5
ⅳ.証券化による金融
・・・・・・
8
・・・・・・
12
・・・・・・
20
Ⅰ. 寄稿「韓国の企業金融制度(第 2 回)」
Ⅱ. 建設企業のITの活用状況に関するアンケート調査結果
(2006 年度)
Ⅲ. 建設関連産業の動向
-地質調査-
財団
法人
建設経済研究所
〒105-0003 東京都港区西新橋 3 -25-33 NP御成門ビル 8F
RICE
TEL : (03)3433-5011
FAX : (03)3433-5239
URL : http://www.rice.or. jp
シンガポールの街並みに思う
研究理事
大島
宏志
3 か月ほど前、調査でシンガポールを訪
ように思う。自由な街づくりや投資が裏目
問する機会があった。シンガポールに行く
に出たとき、東京23区と同じ面積しか持た
のは初めてだったが、様々なハンディを克
ない島国ではもうやり直しが効かないとい
服してアジアでは日本に次ぐ一人当たりG
う緊張感が、政府による極めて強いコント
DPを実現している国であるだけに、感じ
ロールの根底にある。他の国からはそこま
入った点も多かった。
でやるのかと見られる日常生活への規制も
シンガポールが独立したのは 1965 年で
含めて、これまでのところこうした政府の
当時の市街はスラムのような地域がかなり
政策は、高い経済成長と綺麗な街並みとい
多かったようである。それをわずか 30~40
う結果を出している。
年の間に綺麗な住宅の建ち並ぶ街に変貌さ
これに対して、日本の街づくりは華々し
せていることに、まず感心した。住宅街は
い一方であまりに無駄や手戻りが多くなり
どこも緑とバランスのとれたモダンな住宅
過ぎているのではないか。東京のいくつか
が建っているが、それらは政府の建てる公
の再開発地区は、何年かの後競争に敗れれ
営住宅である。シンガポールでは国民の 8
ば萎れた花のように見捨てられる畏れがな
割以上が公営住宅に住んでいるが、国民の
いとは言えない。かつては資源のない島国
多くが政府の誘導で住宅積立を行っており、
として、物を大切にすることが共通認識だ
その積立を原資に公営住宅を購入する。そ
った日本が、今や世界で最もバブリィな国
の結果、ほとんどすべての国民に一定以上
になっているようにも見える。
の居住水準、
良質な居住環境が確保される。
ただ、実のところ、シンガポールの街も
いい加減な民間業者が跳梁跋扈するのに任
3、4日で飽きが来る面がある。どこに行っ
せて後でトラブルの尻拭いに苦労している
ても全く同じような綺麗な住宅地を見てい
日本とは、もともと出発点が違うようであ
るうちに、なにかしら均質に管理された空
る。
間に息が詰まってくるような気がしてくる。
商店街にしても、オーチャードロードの
将来に向けたポテンシャルを引き出そう
ような繁華街は、個性的な意匠を凝らした
とすれば、ある程度の無駄や手戻りを覚悟
建物であっても豊富な街路樹や舗道との調
して自由に多様な取り組みをすることも必
和はとれていて、全体としてまとまりのあ
要である。大国である日本にはその余裕が
る街並みに感じられる。東京の最先端を行
あってもシンガポールにはそれがない。
く再開発地区が、様々なスタイルを好き勝
シンガポールの街並みを見ているうちに、
手に並べて妍を競っているのと比べると、
日本より遙かに厳しい環境の中でこれだけ
シンガポールの街づくりの方が地道で好感
の結果を出している彼らにもっと学ばなけ
が持てる。
ればならないと思うとともに、無駄をする
こうした違いは、シンガポールが土地も
余裕がある(?)日本の幸運と、厳しい国家
人口も様々な資源も限られていて、それら
管理を受け入れざるを得ないシンガポール
を浪費することが絶対に許されないという
人の悲哀をも、また感じてしまうのである。
環境の下で国づくりをしてきたことにある
-1-
Ⅰ.韓国の企業金融制度(第 2 回)
前号より 3 号連続で、韓国における企業金融制度について、本州四国連絡高速道路㈱の
周藤総務部長にご執筆いただいており、本稿は第 2 回目である。
本稿では、韓国における法制度を中心に企業金融制度及び金融構造改革、建設業に関す
る金融制度、証券化制度について概説する。電子金融制度については、次号に掲載予定で
ある。
本州四国連絡高速道路㈱総務部長・博士(工学)
周藤
利一(すとう
としかず)
ⅱ.韓国の金融制度と金融改革
4.金融と不動産市場
韓国の金融を論じるに当たって、不動産市場との関係を抜きにすることはできない。韓
国では、個人、法人を問わず、歴史的に不動産投機が盛んに行われている。国民銀行によ
ると、2003 年~2005 年のマンション価格の上昇率は 15.3%で、同期間の賃金上昇率 7.4%
の 2 倍以上である。ソウルの一等地である江南(カンナム)区のマンション価格は、同期間に
28.0%上昇した。住宅金融公社の調査によれば、住宅価格の年収倍率はソウルで 8.24 倍、6
大都市で 4.39 倍、地方都市で 3.70 倍である(連合通信 2006 年 11 月 13 日)。
金融政策についてみると、金融当局は 2005 年 10 月から 2006 年 8 月まで 5 回の利上げ
を実施し、政策金利であるコールレートは過去 5 年間で最も高い 4.50%となっている1。に
もかかわらず、10 月のマネーサプライの伸び率は、前年比 10.2%となり、過去 3 年半で最
高の伸び率を記録した。このようなマネーサプライの高い伸び率や不動産価格高騰の背景
には、堅調に推移する家計向け担保付ローンの存在があるが、注目すべきは、日本の超金
融緩和政策と円安によって膨らんだ円建てを中心とする外貨建てローンの趨勢である。外
貨建てローンは、2006 年 1~3 月期 24.4 兆ウォン(前年比 7.9%増)、4~6 月期 30.6 兆ウォ
ン(同 31.2%増)、7~9 月期 35.0 兆ウォン(同 49.4%増)と、雪だるま式に拡大している。こ
れに対して、同期間のウォン建てローンの伸び率は 7.7%→11.4%にとどまっている。国際
収支統計では、韓国の金融機関による短期借入が 2006 年 1~9 月で 434 億ドルに達してお
り、2005 年 1 年間 47 億ドルの 9 倍以上に拡大している。そこで、借り入れた外貨で外貨
建てローンを組んで住宅購入者に貸し付け、これが不動産投機、価格上昇を促進している
可能性が考えられる2。
韓国銀行の金融通貨委員会は、1 月 11 日、5 ヶ月連続して 4.5%を据え置くことを決定した。
こうした連鎖は、円安の修正、日銀の利上げによる日韓金利差の縮小、不動産市況の天井感が認識され
ることによるバブルの自然崩壊、韓国金融当局のさらなる引き締め(最後の点は実現可能性が低い)などによ
り逆転するが、その場合、1997 年の IMF の再現となるのみならず、日本が被るダメージは一層酷いもの
になるものと見込まれる。
1
2
-2-
このように、韓国の不動産市場を動かす国際金融要因として、ウォン高・円安と日韓の
金利差がある一方で、次に述べる国内金融要因も大きく作用している。
韓国独自の不動産賃貸借制度として傳貰(チョンセ)がある3。これは、毎月の賃料を支払
う代わりに、契約時に傳貰金と呼ばれる保証金を一括支払い、契約期間満了時に明渡と引
き換えに利息をつけずに一括返還されるものである。傳貰金の相場は売買価格の 5~8 割と
「住宅賃貸借保護法」により 2 年
されるが、近年は 5 割近くで推移している。契約期間は、
以上とされており、実務では 2 年契約が通例であるので、家主は傳貰金を 2 年間自由に運
用できるのである。そこで、例えば今売れば 1 億ウォンの価格が付くマンションの所有者
が、これを担保として銀行から 4,000 万ウォンの融資を受ける一方で、他人に貸して傳貰
金として 5,000 万ウォンを受領したとすれば、彼は 9,000 万ウォンのキャッシュを手にす
ることになり、これで新たな不動産の追加購入ができる。さらに、同様の手法で再びキャ
ッシュを手にして、何回も反復継続して不動産投機を行うことが可能である。しかも、不
動産価格が右肩上がりである間は、素人であっても投機に失敗することなく、むしろその
規模を拡大し続けることができる仕組みなのである。韓国人が「国民総投機屋」と自虐的
に称するゆえんである。つまり、本来は不動産賃貸借の権利義務関係を規律する法制度の
一つである傳貰制度が、不動産投機の促進要因として作用するとともに、金融の有力なツ
ールとして活用されているのが韓国の特徴である。
5.金融制度改革の概要
1997 年末、過剰投資・過剰債務を背景とする財閥の相次ぐ破綻から、為替危機・通貨危
機も含む韓国史上最大の対外的・対内的金融危機が発生し、金大中(キム・デジュン)政権は、
IMF 融資や日本からの支援融資を仰いだが、このように対外的に支援を求めたことや、危
機発生直後に商業銀行 26 行のうち 14 行の自己資本比率が 8%を下回り、そのうち 2 行は
債務超過であったなど、危機の深さという点では、日本より深刻な金融危機であった。た
だ、韓国では、資産バブルが発生しなかったほか4、銀行の株式に対するエクスポージャー
も比較的小さかったこと5など、不良債権問題を長期化させる要因は少なかった。
韓国の金融リストラの特徴としては、以下の点が挙げられる。
① 政府が、約 4 年間という短期間に強制的な公的資本投入を実施するとともに、金融機
関再編を断行したこと。具体的には、公的資本投入については、資本注入、不良債権
買取り、預金保護等に GDP 比 30%の資金を投入したことなどである。また、金融機
3
韓国版定期借家制度であり、詳細は、日本不動産学会編「不動産学事典」2002 年の韓国の項を参照。
韓国の不動産バブルは日本とほぼ同時期に発生し、その後の抑制策のために、1990 年代後半の不動産市
場は比較的安定的に推移していた。この間の状況については、土地総合研究所「韓国の土地政策」1998 年
参照。
5 第1章で述べたように、財閥の系列企業間の株式持ち合い構造がある一方で、政府の影響下にあった銀
行と財閥間の株式持ち合い構造はない。ちなみに、危機直前の数値である 1997 年の韓国の商業銀行の資産
のうち株式は 2.1%であるのに対し、日本の全国銀行の資産に占める株式はバブル当初の 1989 年でも 3.9%
あり、バブル崩壊時の 2001 年には 5.0%に達した。
4
-3-
関再編については、銀行数を 1997 年末の 26 行から 12 行 2 グループに再編した。
② 改革がアドホックでなく包括的であったこと。具体的には、第1章で述べた企業リス
トラ、労働市場改革等を同時並行的に実施した。
③ 外資の積極活用。具体的には、海外からの資本参加と経営陣派遣により、ガバナンス
やリスク管理能力を強化した。
上記のうち、商業銀行への公的資本注入は、過少資本の銀行(自己資本比率 8%未満)に
対して強制的に行われたが、その際、政府は経営陣の退陣や減資を求めた。そして政府は、
普通株を取得し、数値目標(不良債権比率、自己資本比率、ROA、ROE など)を課すこと
により、銀行経営に関与した。即ち、経営陣は派遣しなかったものの、数値目標が達成さ
れなかった場合には、経営陣の責任を問うことにより間接的にコントロールしたのである。
また、注入された公的資本は、株式の市中売却により資金回収を行う計画であり、既に、
一部が実行されている。なお、公的資本投入は、商業銀行のみではなく、ノンバンク(総
合金融会社、投資信託、保険会社等)に対しても広範囲にわたって実施された。
不良債権の買取りは、
「金融機関の不実資産等の効率的処理及び韓国資産公社の設立に関
する法律」に基づき時価で行われており、同法により設立された韓国資産管理公社
(KAMCO)は、GDP の 20%に上る債権(簿価ベース)を取得した。同公社は、直接回収や
競売のほか、ABS(資産担保証券)発行などを活用して、回収率の向上に努めている。なお、
同公社の積極的な ABS 発行の副産物として、不良債権以外を原資産とする ABS 市場が急
拡大している。また、危機発生直後に、商業銀行のみならず、総合金融会社などの預金を
含む全ての預金の全額保護を期限付きで行った後、2001 年初に、ペイオフを解禁した。
この間、改革のデフレ・インパクトに対応して、雇用保険の拡充、雇用情報提供等の雇
用対策、公共投資の拡大、エンジェル税制6等の中小企業設立の特別減税置を実施している。
金融改革の成果として金融システムの改善状況を見ると、商業銀行のバランスシートは、
大幅に改善しており、不良債権比率 2002 年 6 月 2.4%、自己資本比率 2002 年 3 月 10.8%
となった。こりほか、収益も、不良債権の減少や人員削減によるリストラ効果などから、
2001 年には 5 期振りに黒字に転じた。株式市場の評価もポジティブであるほか、格付けも
順調に回復している。さらに、2001 年初にペイオフを解禁した際にも目立った混乱はなか
った。この間、銀行の金融仲介機能も個人向けを中心に回復してきた。
以上のように、金融機関から大量の不良債権を迅速に切り離すとともに、集中的に処理
したことが、不良債権市場の整備・発達を通じたスムーズな不良債権処理や金融仲介機能
の早期回復に繋がったという経験は、日本にも参考となろう。韓国でも、日本と同様、自
己資本比率が 8%を上回る金融機関に対しては強制的な資本注入は行っていない。ただ、資
産査定の厳格化に伴う自己資本の減少に対応して、公的資本注入を行った部分はある。
6
ベンチャー企業の創業を支援する税制であり、起業者が上場時に出資額の数倍の企業資産価値を実現し
ていることを目標に投資家から資金を調達する際、その投資家の投資利益に対する税負担を大幅に軽減す
ることにより、出資を容易にし、もって創業時の資金調達を容易にする。
-4-
ただし、韓国で、政府の強力な介入が行われた、あるいは、政府が介入できた背景には、
1)IMF 支援を受けるなど金融危機が深刻であったこと、即ち、政府介入の正当性、2)大統
領制であること、即ち、政治的リーダーシップの発揮しやすさ、3)銀行数が少ないこと、即
ち、処理の容易さ、4)政府債務が小さかったこと、即ち、公的資金の投入負担の軽さ、5)
輸出比率が高い(当時約 35%)ため、為替レートの大幅下落が、金融リストラのデフレ・
インパクトを吸収し得たこと、即ち、不良債権処理と景気回復の両立など、わが国と異な
る事情が大きく働いたという指摘がある。
ⅲ.
韓国の建設業に関する金融制度
1.建設共済組合制度
建設共済組合は、建設業者を組合員とする共済組織であり、1963 年 7 月 31 日に制定さ
れた「建設共済組合法」に基づき同年 10 月 21 日に創立された。同法は、1997 年 7 月 1 日
に改正された「建設産業基本法」に吸収され、現在はこの法律が根拠規定となっている。
組合は、組合員に対し、必要な保証と資金の融資及び共済事業を行うことにより、組合
員の自主的な経済活動と経済的地位の向上を図り、もって建設産業の健全な発展を期すこ
とを目的としており、日本の建設業保証会社に当たる公的機関である。1988 年に専門建設
共済組合が分離されたことから、ゼネコンを対象とする建設共済組合と、サブコンを対象
とする専門建設共済組合とに分かれている。このほか、電気工事共済組合と電気通信共済
組合とが別途存在する。以下では、ゼネコンを対象とする建設共済組合について概説する7。
建設共済組合の事業は、次のとおりである。
・ 組合員が建設業を営むのに必要な各種保証
・ 組合員が建設業を営むのに必要な資金の融資
・ 組合員が建設工事代金として受領した手形の割引
・ 組合員の工事用資機材の購入の斡旋
・ 組合員に雇用される者の福利厚生と労災補償のための共済事業
・ 建設業の経営や建設技術の改善・向上のための教育・研究
・ 建設関連法人への出えん
・ 組合員の共同利用施設の設置・運営など組合員の便益増進事業
・ 組合員の情報処理・コンピュータ運用に関するサービス提供など
組合員資格は、建設産業基本法に基づき一般建設業(ゼネコン)の登録をした者であって、
組合に出資したものをいう。出資口数は、土木工事業、建築工事業、修繕工事業、産業設
備工事業がそれぞれ 100 口以上、土木建築工事業が 200 口以上である。
韓国の公共工事においては、日本の工事完成保証人のような人的保証システムとしての
7
村井(2001)参照。
-5-
連帯保証人制度とともに、各種の保証金制度が設けられている8。具体的には、入札保証金、
契約保証金、差額保証金9、瑕疵補修保証金、前払保証である。なお、連帯保証人を立てる
代わりに、100 分の 20 以上の契約保証金を納付した場合は、連帯保証人を立てる義務が免
除される。
これら保証金の納付形態の代表的なものが、共済組合が発行する保証書である。制度上
は、現金、銀行の支払証書、保証保険証券、国債、地方債なども認められているが、実際
にはほとんどのケースで共済組合の保証書が用いられている。これは、1999 年 4 月 15 日
の建設産業基本法改正まで、すべての建設業者に対して共済組合への加入が義務付けられ
ていたことからみれば、当然のことと言えよう。
また、住宅以外の建築物の分譲に対する規制を目的として「建築物の分譲に関する法律」
が 2004 年 10 月 22 日に制定されているが、同法に基づき青田売りされた建築物の分譲保証
を行う金融機関として、銀行や後述する大韓住宅保証株式会社等のほか、共済組合が指定
。
されている(建築物の分譲に関する法律施行規則第 3 条)
これらの保証の実績を見ると、共済組合の特殊保証市場でのシェアは 2006 年で 74.5%に
も達しており、圧倒的なシェアを誇っている。
(表-3)
(単位:10 億ウォン)
建設共済組合の保証実績
2003 年
2004 年
2005 年
入札保証
797
1,274
1,200
契約保証
572
4,766
4,596
工事履行保証
604
1,750
1,268
瑕疵補修
1,436
1,764
1,762
前払金保証
5,582
6,393
6,899
その他保証
1,483
2,802
4,702
(表-4)
(単位:10 億ウォン)
建設共済組合の融資実績
2003 年
2004 年
2005 年
施工資金融資
-
-
-
プロジェクト資金
2
-
-
運転資金融資
7,752
5,024
5,193
手形割引
-
-
-
(資料出所)(表-3)、(表-4)共に、建設共済組合 HP。www.cgbest.co.kr
8
9
詳細は、拙著(1993)参照。
予定価格の 85%未満の低入札の場合、両者の差額を保証金として納付するもの。
-6-
2.国民住宅基金
住宅の計画、建設、供給、管理等に関する総合的な法制度を規定する「住宅法」が制定
されている10。同法により、1年間に、20 戸以上の住宅建設事業を施行しようとする者及
び 1 万㎡以上の宅地造成事業を施行しようとする者は、建設交通部長官に登録しなければ
ならない。そして、登録事業者が、技術能力、住宅建設実績、住宅の規模等に関する基準
を満たす場合には、「建設産業基本法」の規定による建設業者とみなし、住宅建設工事を施
工することができる(施工権付与)。
登録事業者が住宅建設や宅地開発工事を行う際の資金調達先として「国民住宅基金」が
ある。国民住宅基金も住宅法に基づく制度であり、政府が住宅総合計画を効率的に実施す
るために必要な資金を確保し、これを円滑に供給するため設置したものであり、建設交通
部長官が運用及び管理する。実際の事務は、韓国住宅金融公社法に基づき設立された韓国
住宅金融公社に委託されている。国民住宅基金は、次の財源により造成する。
・
政府の出捐金又は預託金
・
「公共資金管理基金法」による公共資金管理基金からの預受金
・
「再建築超過利益還元に関する法律」による再建築負担金のうち国の帰属分
・
「国民年金法」により造成された基金など各種年金基金からの預託金
・
国民住宅債券11の発行により造成された資金
・
「宝くじ及び宝くじ基金法」の規定により配分された宝くじ収益金
・
住宅財形貯蓄資金
・
出資機関の配当収益及び貸出資産の売却資金
・
外国からの借入金
国民住宅基金は、事業者融資と購入者融資の原資となるが、具体的には次の用途に用い
られる。
・
住宅の建設
・
住宅建設のための敷地造成事業
・
これら事業のための機資材の購入及び備蓄
・
住宅の分譲を受ける者に対する融資
・
政府の施策として推進する住宅事業
・
「都市及び住居環境整備法」による都市・住居環境整備基金、「都市再整備促進のた
めの特別法」による再整備促進特別会計、住宅法による国民住宅事業特別会計に対す
る支援
・
大韓住宅保証株式会社への出資及び融資
住宅法の内容については、拙稿「韓国の住宅政策の転換」建設物価調査会「月間住宅着工統計」No.234、
2004 年 9 月号参照。
11 住宅法の規定により、国・地方公共団体から許認可を受けたり、登記・登録を申請する者、公共工事を
受注する者、住宅法の適用を受ける分譲住宅を購入する者は、一定額の国民住宅債券を購入しなければな
らない。公共工事の場合、契約金額の 1/1,000 である。
10
-7-
・
「韓国住宅金融公社法」の規定による住宅金融信用保証基金への出捐
・
「住宅抵当債権流動化会社法」による住宅抵当債権流動化会社への出資及び「韓国
住宅金融公社法」による韓国住宅金融公社への出資
3.住宅償還社債
前述した住宅建設や宅地開発を行う登録業者は、住宅法に基づき住宅で償還する社債(住
宅償還社債)を発行することができる。この場合、登録業者は、資本金、資産評価額、技
術者等の基準に適合するとともに、金融機関又は大韓住宅保証株式会社の保証を受けなけ
ればならない。
この制度は、住宅購入者から見れば、前払いにより自己の希望する住宅をあらかじめ確
保するという機能があり、分譲住宅や分譲マンションの青田売りをする業者にとっては、
自己資金比率を軽減したり、借入コストを低減できる確実な資金調達の手段であると言え
る。
4.大韓住宅保証株式会社
大韓住宅保証株式会社も住宅法に基づき設立された機関であり、国が出資し、建設交通
部長官が監督している。この会社は、住宅建設に係る各種保証を行うことを業務とするが、
具体的業務は、次のとおりである。
・
事業者が建設及び供給する住宅に係る分譲保証、瑕疵補修保証
・
前記の保証履行のための住宅の建設及び瑕疵補修等の業務
・
国、地方公共団体、公共団体等が委託する業務
・
住宅建設敷地の信託の引受業務
ⅳ.
証券化による金融
1.不動産証券化
韓国の不動産証券化の根拠法は、2001 年 4 月 7 日に制定された「不動産投資会社法」
である。同法は、建設交通部が立法化を図っていた通常の不動産証券化法制と、財政経済
部が企業の構造調整の一環として、企業が保有している不動産の売却を円滑に処理するた
め目的で立法化を図っていた、構造調整用不動産専門の証券化法制を、不動産市場の混乱
を避けるという理由で議員立法により一本化された経緯がある12。
12
宋(2002)P72。
-8-
(表-5)
K-REITs の概要
不動産投資会社・一般リート
企業構造調整不動産投資会社・CR リート
根拠法
不動産投資会社法
タイプ
会社型
所
管
形
態
業
務
建設交通部
永続会社
存続期間明記
不動産の投資・開発・管理・処分
資本金
250 億ウォン以上
資金募集
株式の発行
投資対象
すべての不動産
企業構造調整用不動産
総資産の 70%以上を不動産に投
総資産の 70%以上を企業構造調整用不動
資
産に投資
現物出資
設立時及び設立後に資本金の
設立時、資本金の 30%以内で金融監督委
(不動産)
50%以下で可能
員会の認可を受けて可能
構
成
借入
原則禁止
原則禁止
管理
自己管理又は委託管理
外部委託管理
資産運用
不動産投資諮問会社
資産運用会社
株の形態
上
場
配
当
株所有
情報開示
監
督
IPO
税
制
募集価格
株
式
上
場
90%以上を配当する義務
1 名当たり株式所有限度 30%
株式保有制限なし
四半期ごとの投資報告書、株主・債権者の資料閲覧
建設交通部
建設交通部・金融監督委員会
公募
公募又は私募
取得税・登録税・特別付加税は
取得税・登録税は免除、特別付加税は 50%
50%減免、法人税は繰延可能、
減免、法人税は非課税、総合不動産税は
総合不動産税は分離課税
分離課税
1 株 5,000 ウォン
注 1) IPO とは、株式の新規募集・新規上場のこと。
注 2) 特別付加税とは、農漁村特別税など取得税・登録税を課税標準とする付加税である。
総合不動産税は土地・住宅を対象とする保有課税である。
このため、証券化商品の類型として、不動産投資会社が一般の不動産を証券化する一般
リート(REITs)と、特例として経営の悪化した企業の資産を企業構造調整不動産投資会社に
売却して証券化する企業構造調整リート(Corporate Restructuring REITs)の 2 つが法定さ
-9-
れている。いずれも、株式発行を通じて多数の投資家から投資された資金を不動産に投資・
運用し、賃貸取得、売買差益、開発利益といった不動産から生じる収益を投資家に分配す
る点では、K-REITs と通称されるように、日本の J-REITs と類似している。
2.資産流動化
韓国の資産流動化に関する最初の根拠法は、1998 年 9 月 16 日に制定された「資産流動
化に関する法律」通称 ABS(Asset Backed Securities)法」である。同法の制定後、1 年
間で発行された流動化証券は総計 14 件、2 兆 4,092 億ウォンで、1999 年の韓国内の債券発
行総額 116 兆 5,000 億ウォン規模の 2.1%に該当し、その後の発行速度はより一層早くなっ
ていることから、韓国内の資産流動化は急速に進展していると言える。
同法が対象としている流動化資産とは、資産流動化の対象となる債権、不動産その他の
財産権をいい、広範囲である。
ただし、資産の保有者は限定されており、銀行法による認可を受けて設立された金融機
関、韓国産業銀行、韓国輸出入銀行、中小企業銀行、長期信用銀行、総合金融会社、保険
事業者、証券会社、証券投資信託業法による委託会社、相互貯蓄銀行、与信専門金融会社、
韓国資産管理公社、韓国土地公社、大韓住宅公社、信用度が優良な法人であって資産流動
化の必要性があると金融監督委員会が認める法人、企業構造調整投資会社である。
広く一般の資産に対する投資のシステムとしては、2003 年 10 月 4 日に制定された「間
接投資資産運用業法」がある。間接投資とは、投資家から資金等を集めて、これを投資証
券、デリバティブ、不動産、実物資産、「信託業法」により発行された受益証券、私募投資
専門会社の持分、保険金支払請求権(第 3 者に譲渡することができる場合に限る)、清算手続
又は破産手続が進行中の金融機関が債権者である金銭債権、手形、信託受益権などの資産
に運用し、その結果を投資家に帰属させることをいう。
間接投資を遂行する主体としては、投資信託、投資会社、投資専門会社という 3 つのタ
イプがある。投資信託とは、投資家から資産に運用する目的で資金等を集めて、委託者が
その財産を、受託者をして、当該委託者の指示により投資・運用させて、それに伴う受益
権を分割して、投資家に取得させることを目的とするものである。投資会社とは、会社の
財産を資産に運用して、その収益を株主に配分することを目的として設立された、商法上
の株式会社である。投資専門会社とは、会社の財産を、株式又は持分等に投資して、経営
権参加、事業構造又は支配構造の改善等の方法により投資した企業の価値を高め、その収
益を社員に配分することを目的として設立された、商法上の合資会社をいう。
さらに、特定の目的のための間接投資主体として、企業の構造調整支援を目的とする投
資会社である企業構造調整証券投資会社、他の会社を系列会社に編入することを目的とす
る投資会社である企業引受証券投資会社がある。
また、間接投資の形態は、財産の運用対象に従い、次の 6 種類に区分される。
・
証券間接投資:間接投資財産の 100 分の 30 超を投資証券に投資するもの
- 10 -
・ 派生商品間接投資:間接投資財産の 100 分の 10 超を、リスクヘッジ以外の目的でデ
リバティブ商品に投資するもの
・
不動産間接投資:間接投資財産を不動産に投資するもの
・
実物間接投資:間接投資財産を実物資産に投資するもの
・
短期金融間接投資:間接投資財産を短期金融商品に投資するもの
・ 再間接投資:他の間接投資主体が発行した間接投資証券に対し、間接投資財産の 100
分の 40 超を投資する間接投資(いわゆるファンズ・オブ・ファンズ)
投資信託の受益権は、均等に分割して受益証券として表示される。投資家は、信託元本
の償還及び利益の配分等に関し、受益証券の口数に応じて、均等な権利を有する。また、
投資会社の株式は、無額面で発行し、記名式とする。投資専門会社は、合資会社である。
従って、いずれも上場されるものではなく、投資家の出口戦略としては、買戻請求権を行
使するか、他人に譲渡することになる。
3.韓国住宅金融公社
韓国住宅金融公社は、「韓国住宅金融公社法」に基づき政府と韓国銀行が出資して 2004
年に設立された特殊法人である。
公社の主たる業務は、住宅を購入・建設した個人に対して、当該住宅・土地に抵当権を
設定して融資した金融機関から、この住宅抵当債権を買い取り、これを担保として「住宅
抵当債権担保付債券」いわゆるモーゲージ債券を発行することにより、住宅抵当債権の流
動化を図ることである(韓国住宅金融公社法第 2 条第一号)。日本の独立行政法人住宅金融
支援機構と同様の機能を果たす公的金融機関である。
公社の業務の一つとして、住宅事業者が分譲・賃貸を目的として住宅を建設・購入する
ために金融機関から貸付を受ける場合に、住宅事業者に対して行う信用保証がある(同法
第 2 条第八号)。この信用保証を通じた住宅金融の活性化のため、公社の中に、住宅金融信
用保証基金」が設置されている(同法第 55 条)。基金は、政府や金融機関等からの出えん
金、保証料収入等により造成され(同法第 56 条)、信用保証債務の履行に使用される(同
法第 57 条)。
なお、韓国住宅金融公社法の改正により本年 1 月 11 日から「住宅担保老後年金保証」制
度が導入されている。これは、住宅所有者が住宅に抵当権を設定して、金融機関から年金
の方式により、老後生活資金の貸付を受けることにより負担する金銭債務を、公社が勘定
の負担により保証する制度である。日本で言うリバース・モーゲージであり、後述する電
子金融法制と同様、日本で法制化が実現していない分野で韓国が先行したことについては、
興味深いものがある。
(以下次号)
- 11 -
Ⅱ.建設企業のITの活用状況に関するアンケート調査結果(2006 年度)
当研究所では、建設企業のITの活用状況の把握を目的に、大手から中小企業を対象にし
たアンケート調査を 2001 年から毎年実施している。ここでは、10 月~11 月に実施した 2006
年度の調査結果の中から一部の内容を紹介する。
1.調査目的と方法
(1)調査時期
2006 年 10 月~11 月
(2)調査対象
資本金 100 億円以上から資本金 200 万円未満の企業までの建設企業を対象として
行った。
図表 1
送付先の選定は、資本金 20 億円以上の企
業は全社、資本金 20 億円未満の企業は資本
資本金
(4)回収状況
図表 1 に回答のあった企業の資本金階
層別の企業数とアンケート回収率を示す。
資本金の小さい階層(特に 1000 万円未
満)の回収率が低く、サンプル数も少ない
ので、以下の集計結果を見るときには注意
が必要と思われる。
なお、本稿においては特にことわりがな
い限り、資本金1億円以上を大企業、資本
回収件数 回収率(%)
408
2000
487
24.4
27
14
51.9
27
15
55.6
20億円以上
100億円未満
59
15
25.4
59
16
27.1
1億円以上
20億円未満
462
130
28.1
462
152
32.9
5000万円以上
1億円未満
490
146
29.8
490
157
32.0
1000万円以上
5000万円未満
492
79
16.1
492
104
21.1
200万円以上
1000万円未満
430
22
5.1
430
38
8.8
40
2
5.0
40
5
12.5
全体
100億円以上
郵送による、留置き法による。
発送数
2000
金階層別に無作為抽出法により行っている。
(3) 調査方法
資本金階層別の回収件数及び回
収率
200万円未満
20.4
凡例
2006年度調査
金1億円未満を中小企業とした。
2005年度調査
2.回答企業の概要
図表 2~5 に、回答企業の業種別、資本金階層別、売上高別及び社員数別の回収件数とそ
の構成比率を示す。
- 12 -
図表 3 資本金階層別
図表 2 業種別
建築工事業,
63件, 15.5%
200万円未満,
2件, 0.5%
専門工事業,
4件, 1.0%
200万円以上
1000万円未満,
22件, 5.4%
土木建築
工事業,
270件, 66.3%
5000万円以上
1億円未満,
146件, 35.8%
図表 4 売上高別
5000万円以上
1億円未満,
15件, 3.7%
1億円以上
10億円未満,
109件, 26.8%
20億円以上
100億円未満,
15件, 3.7%
1000万円以上
5000万円未満,
79件, 19.4%
土木工事業,
70件, 17.2%
1000万円以上
5000万円未満,
8件, 2.0%
100億円以上,
14件, 3.4%
500万円以上
1000万円未満,
1件, 0.2%
1億円以上20億
円未満,
130件, 31.9%
図表 5 社員数別
500万円未満,
1件, 0.2%
1000人以上,
20件, 4.9%
1000億円以上,
19件, 4.7%
500人以上
1000人未満,
13件, 3.2%
10人未満,
46件, 11.3%
500億円以上
1000億円未満,
9件, 2.2%
100人以上
500人未満,
71件, 17.4%
100億円以上
500億円未満,
42件, 10.3%
10人以上
50人未満,
175件, 20.1%
10億円以上
100億円未満,
202件, 49.8%
50人以上
100人未満,
82件, 20.1%
3.企業のIT化への取組み状況
IT化への取組み状況については、
「導入を進めている」と回答した企業の割合は全体の
86.0%であり、2005 年度より若干増加した。大企業においては 91.8%の企業が導入を進め
ていると回答しており、中小企業にお
図表 6 IT化への取組み状況
いても、資本金 1000 万円以上 5000
万円未満の企業で「導入を進めてい
資本金
86.0
83.4
全体
る」割合が大きく増加するなど、IT
化への取組みは着実に進展している。
パソコン普及状況について、「普及
率 90%以上 100%未満」と回答した
企業と「100%以上」と回答した企業
を合わせた割合(社員 10 人に対して
パソコンが 9 台以上)は、大企業に
100億円以上
100.0
100.0
20億円以上
100億円未満
93.3
100.0
12.0
14.8
2.0
1.8
導入を進めている
導入を検討中である
6.7
90.8
90.1
1億円以上
20億円未満
5000万円以上
1億円未満
1000万円以上
5000万円未満
9.2
8.6 1.3
83.6
86.0
15.8
14.0
91.1
79.8
7.6
20.2
45.5
50.0
200万円以上
1000万円未満
31.8
おける内勤部門では 84.9%、現場部
20.0
0%
- 13 -
50.0
40.0
40.0
20%
22.7
13.2
36.8
50.0
200万円未満
40%
取り組むつもりはない
60%
80%
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
100%
門で 77.8%であり、1 人 1 台の環境の整備が進展している。中小企業における内勤部門で
は 69.2%、現場部門では 56.1%であり、大企業と比較すると遅れているものの、整備が急
速に進展している。また、インターネット接続状況について、
「ほぼ全社員に接続している」
と回答した企業の割合は、大企業では 87.4%であり、全社員がインターネットに接続でき
る環境整備が定着し始めている。中小企業におけるその割合は 68.5%であった。大企業と
比べると「まったく接続していない」、
「1 回線のみ接続している」と回答した企業の割合が
高い。
図表 7 パソコン普及状況
[内勤部門]
[現場部門]
資本金
47.1
39.3
全体
1.8
10.3 6.8 5.0 0.8
12.4 8.1 3.6 1.3
3.6
14.3
6.7
28.3
31.6
85.7
93.3
100億円以上
資本金
73.3
81.3
26.7
18.8
49.2
38.3
1億円以上
20億円未満
32.3
12.6
29.4
21.4
23.5
10.7
33.3
0%
20%
40%
10%以上30%未満
10%未満
43.8
38.8
28.0
1億円以上
20億円未満
29.4
32.7
5000万円以上
1億円未満
27.3
21.8
1000万円以上
5000万円未満
37.5
[内勤部門]
40%
18.5
22.6
5.3 0.3
9.1 1.7
7.1
100.0
100.0
20億円以上
100億円未満
85.4
76.7
1億円以上
20億円未満
13.8 0.8
22.7
0.7
75.9
72.9
5000万円以上
1億円未満
21.4
23.9
66.7
1000万円以上
5000万円未満
20.5
51.0
17.6
12.9
200万円以上
1000万円未満
28.8
41.2
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
60%
33.3
0%
20%
20億円以上
100億円未満
まったく接続
していない
80%
60%
100%
80%
2.5
9.5
5.5 11.7
ほぼ社員全員に
接続している
一部の社員に
接続している
100.0
75.0
76.0
21.7
36.0
60.4
48.7
32.6
37.7
35.9
36.3
1000万円以上
5000万円未満
11.8
200万円以上
1000万円未満 3.4
23.5
27.6
1回線のみ
接続している
25.0
59.3
5000万円以上
1億円未満
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
26.6
33.9
100.0
100.0
1億円以上
20億円未満
12.8
16.3
3.8
66.7
40%
100億円以上
1回線のみ
接続している
2.1
3.2
100.0
200万円未満
一部の社員に
接続している
12.9
58.1
61.3
48.8
全体
ほぼ社員全員に
接続している
41.2
16.1
10%以上30%未満
10%未満
[現場部門]
92.9
100.0
100億円以上
30%以上50%未満
43.8
42.3
資本金
76.0
66.7
50%以上70%未満
100.0
100.0
200万円未満
資本金
全体
90%以上100%未満
70%以上90%未満
1.6 3.9
34.9
11.6 7.8
1.6
40.7
14.0 6.7 5.3
3.3
2.0
7.0
36.4
11.2 10.5
3.5 2.1
33.3
13.1 9.2 5.2
2.6
3.9
19.5
11.7 11.7 10.4 9.1 10.4
16.8
9.9
14.9
11.9 11.9
12.9
80%
100%
0%
20%
図表
8 インターネット接続状況
60%
100%以上
33.3
6.3 6.3 6.3
6.3 12.5 6.3 12.5 12.5 6.3
200万円以上
23.1
15.4
11.5
1000万円未満 3.8 3.8
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
66.7
66.7
20億円以上
100億円未満
30%以上50%未満
5.9 11.8
25.0
7.1
100.0
200万円未満
78.6
73.3
50%以上70%未満
11.5 6.4 7.7 2.6 1.3
10.7 6.8 5.8 1.9
25.6
30.1
11.8 11.8 5.9
14.3
10.7 10.7
200万円以上
1000万円未満
5.6
13.2 5.6
13.6 6.5 3.2
29.9
36.4
44.9
32.0
1000万円以上
5000万円未満
0.8
9.2 6.9 1.5
13.4 7.41.3 2.7
36.9
44.4
40.3
5000万円以上
1億円未満
90%以上100%未満
70%以上90%未満
4.6
10.6 9.1 5.6
5.3
11.6 9.9 6.9
7.3
5.8
14.3 7.1
20.0
6.7
30.6
29.7
100億円以上
100%以上
20億円以上
100億円未満
34.2
28.7
全体
3.8
33.3
33.3
1.6
0.7
0.7
6.3
7.1 6.5
0.8
4.0
26.9
5.9
24.5
41.2
41.4
23.5
27.6
100.0
200万円未満
100%
20%
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
66.7
33.3
0%
40%
まったく接続
していない
60%
80%
100%
パソコン普及率 70%以上と回答した企業の割合は、全体で、6 年前の調査結果に比べて、
内勤部門、現場部門とも約 2 倍に上昇した。インターネット接続状況についても、全体で、
内勤部門で約 3.0 倍、現場部門で約 4.5 倍に上昇するなど、パソコンの普及、インターネッ
トへの接続、社内情報システムなどのハード面の整備は、この 6 年で飛躍的な進歩を遂げ
た。内勤部門と同時に現場部門における環境整備が急速に進むとともに、中小企業におい
ても急速に進展し、大企業との較差は小さくなりつつある。
- 14 -
図表 9 過去 6 年間の推移
[パソコン普及状況]
[インターネット接続状況]
100
ほぼ全員が接続している企業の割合(%)
パソコン普及率70%以上の企業の割合(%)
100
80
60
40
全体 内勤
全体 現場
大企業(資本金1億円以上) 内勤
大企業(資本金1億円以上) 現場
中小企業(資本金1億円未満) 内勤
中小企業(資本金1億円未満) 現場
20
全体 内勤
全体 現場
大企業(資本金1億円以上) 内勤
大企業(資本金1億円以上) 現場
中小企業(資本金1億円未満) 内勤
中小企業(資本金1億円未満) 現場
80
60
40
20
0
0
2001
2002
2003
2004
調査年
2005
2001
2006
2002
2003
2004
調査年
2005
2006
現場から社内情報システムに接続可能な環境は、「ほとんど全ての現場から接続できる」
と回答した企業の割合は、大企業
では 56.3%であった。特に資本
金 20 億円以上ではほぼ全ての企
図表 10 現場と社内情報システムの接続状況
資本金
業で整備がされてきている。一方、
100億円以上
中小企業におけるその割合は
20億円以上
100億円未満
17.8%であり、接続が可能な企業
1億円以上
20億円未満
は大企業と比較すると少ない。特
に資本金が 5000 万円未満の企業
では、そのほとんどが現場から社
内情報システムに接続できない
35.4
38.5
48.1
35.8
14.3
6.7
20.7
6.2
17.9
15.9 4.5 17.2
できない
13.3
200万円以上
3.0
1000万円未満 3.0 6.1
26.4
28.4
8.3
15.3
1.6
2.0
5.5
4.5
11.8
12.9 9.9
20.0
54.5
6.1
40.0
27.3
100.0
66.7
0%
20%
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
33.3
40%
考えていない
3.9
53.9
51.5
26.7
検討中
8.5
11.5
41.4
42.7
15.8 2.6 11.8
11.9 3.0 10.9
一部できる
0.06.3 6.3
3.1 12.4
16.2
6.1
ほとんど全ての現場
から接続できる
半分程度できる
7.3 6.3
12.1 6.1
100.0
87.5
200万円未満
状況にある。
13.9
14.0
4.2
85.7
93.3
5000万円以上
1億円未満
1000万円以上
5000万円未満
3.8
33.2
25.2
全体
60%
80%
100%
4.企業のITの活用状況
日常業務におけるITの活用については、電子メールで見ると、資本金 20 億円以上の全
ての企業でほぼ全員が利用してい
るなど、大企業においては進んでい
図表 11 電子メールの活用状況
資本金
る。情報リテラシー教育を全社的に
全体
実施し、電子メールを始めとしたI
100億円以上
Tの活用に積極的である。一方、中
20億円以上
100億円未満
小企業においても電子メール利用
1億円以上
20億円未満
は進みつつあるが、ハード面の進展
5000万円以上
1億円未満
に比較して遅れており、ITの活用
1000万円以上
5000万円未満
が課題となっている。
54.0
41.7
34.7
37.5
16.0
1.5
9.3 0.5
1.1
3.8
92.9
100.0
7.1
半数程度は利用している
あまり利用していない
100.0
100.0
利用していない
わからない
70.5
26.4
53.3
36.7
46.5
43.9
43.1
42.6
35.9
200万円以上
1000万円未満
27.2
35.3
35.3
27.3
3.8
16.7
46.6
11.8
3.1
2.0
7.3 0.7
9.0 1.4
12.3 1.3
43.6
18.4
48.5
7.8
17.6
18.2
6.1
100.0
200万円未満
66.7
0%
- 15 -
20%
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
33.3
40%
ほぼ全員利用している
60%
80%
100%
自社のホームページは、大企業を中心に約 67%の企業で作成がされている。資本金階層
が小さくなるにつれてホームページを作成している企業の割合が減少しており、大企業と
の大きな差があるものの、建設企業全体における自社のホームページ作成については少し
ずつ進展している。また、ホームページでの実施事項としては、
「企業のイメージアップ」、
「企業情報の公開」、
「保有技術の PR」等、主に自社の情報発信の手段として活用している
企業が多い。
図表 12 自社ホームページ作成状況
資本金
3.5
67.2
61.3
全体
9.3
13.9
2.6
制作済み
3.8
4.1
66.2
64.1
5000万円以上
1億円未満
32.5
31.7
1000万円以上
5000万円未満
11.8
15.2
200万円以上
1000万円未満
3.9
4.0
2.7
2.0
9.0
13.1
13.0
20.8
20.7
20.9
200万円未満
33.3
0%
20%
60%
80%
19.5
その他
100%
28.9
13.3
12.5
18.9
8.3
9.0
5.8
13.8
4.0
6.9
2.1
労務や資材の調達
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
61.6
13.7
協力会社等への
情報提供
66.7
40%
32.8
発注者、顧客との
連携強化
100.0
64.2
27.8
発注者やエンドユーザー
からの意見の収集
52.9
42.4
39.4
42.3
新規人材の募集
1.5
50.6
43.6
35.3
3.0
5.4
7.4 8.1
83.6
41.9
保有技術のPR
考えていない
86.2
58.5
検討中
89.2
81.8
1億円以上
20億円未満
59.3
41.5
企業情報の公開
制作作業中
100.0
100.0
20億円以上
100億円未満
自社のホームページでの実施事項
企業のイメージアップ
20.1
22.2
100.0
100.0
100億円以上
図表 13
全体
大企業(資本金1億円以上)
2.3
5.0
0.4
中小企業(資本金1億円未満)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
注)3 項目までの複数回答による。また、ここで示
す率は、図表 6 で「IT 化に取組むつもりはな
い」と回答した企業を除いた企業数に対するも
のである。
現場部門では、「CAD」、「写真管
図表 14 現場で活用しているソフトウェア
理」、
「実行予算書」、
「原価管理」、
「工
程表」等で業務のIT化が進んでいる。
83.8
81.0
84.3
78.8
写真管理
64.0
実行予算書
特に「CAD」、
「写真管理」は約 80%
55.2
60.5
原価管理
以上の企業で活用している。また、大
49.8
日報
品質管理
中小企業と比較して進んでおり、部門
測量
外、企業外に及ぶ業務プロセスの全体
技術計算
21.2
21.8
20.1
22.8
14.3
18.9
資機材管理
プロジェクトマネジメント
その他
リットが見出しにくいために、活用が
11.2
5.0
6.3
4.1
2.0
0.6
2.9
0%
遅れている。
47.8
13.7
歩掛り管理
る。他方、中小企業においてはそのメ
77.4
76.7
34.8
34.6
34.9
32.5
33.3
32.0
28.3
29.6
27.4
27.5
37.1
27.3
グループウェア
より高度なITの活用を目指してい
93.1
59.0
61.6
57.3
工程表
企業では「グループウェア」の活用が
統合化や情報共有・交換を行うなど、
87.5
CAD
全体
大企業(資本金1億円以上)
中小企業(資本金1億円未満)
20%
40%
60%
80%
100%
注)全数回答による。集計方法は図表 13 と同様
5.企業の電子商取引の状況
電子入札は約 90%の企業が対応しており、2005 年度と比較して進展した。一方、電子納
品に対応可能な企業は全体の 64.5%であり、電子入札と比較して遅れているが、計画中も
- 16 -
含めると約 80%の企業で対応が進められている。中小企業においても、資本金 1000 万円
以上 5000 万円未満の企業で著しい進展があるなど、対応が急速に進んでいる。
資機材関連の電子調達を実施している企業の割合は全体の 7.9%であった。専門工事業者
の募集において電子調達を実施している企業の割合は 3.6%であり、資機材関連の電子調達
よりもさらに小さい。電子調達は、資機材関連、専門工事業者の募集ともに、資本金 20 億
円以上の企業で行われているのみであり、それ以外ではほとんど行われていない。しかし、
資機材関連の電子調達では、資本金 20 億円以上 100 億円未満の企業の約半数が実施を「検
討している」と回答しており、今後、この資本金階層での進展が期待される。
電子契約の実施状況については、部分的な実施、試験的な実施を含む何らかの形で取組
んでいる企業の割合が 17.9%であった。現状ではごく一部の大企業が電子契約を実施して
いるに過ぎず、いまだ試行段階にある。
図表 16 電子納品の実施状況
図表 15 電子入札の実施状況
資本金
資本金
5.1 3.0
89.9
77.9
全体
16.8
2.0
0.8
4.4
対応していないが計画中
3.1
0.7
4.7 1.3
2.8 1.4
94.6
93.3
1億円以上
20億円未満
95.9
5000万円以上
1億円未満
77.3
5.3
14.7
59.6
32.7
43.8
32.3
200万円以上
1000万円未満
25.0
58.1
33.3
0%
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
66.7
20%
40%
60%
80%
60.8
0.8
0.6
100億円以上
20億円以上
100億円未満
40.0
6.7
12.5
6.2
1億円以上
20億円未満
3.4
7.6
5000万円以上
1億円未満 5.1
2.7
1000万円以上
5000万円未満
200万円以上
1000万円未満
21.4
6.9
6.3
33.3
46.7
13.3
56.3
31.8
35.1
0.8
33.3
30.6
26.7
30.4
14.3
20.0
全体
7.1
6.7
13.3
12.5
20.0
18.8
46.5
43.2
14.7
18.2
43.1
47.8
16.0
16.6
考えていない
わからない
0%
20%
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
33.3
40%
60%
80%
2.8
5.8
6.8
20.2
5.4
3.8
12.5
25.8
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
60%
80%
100%
20億円以上
100億円未満
17.2
19.0
54.5
53.6
1.7
6.7
実施している
28.6
20.0
33.3
18.8
21.4
20.0
20.0
25.4
27.7
0.8
2.0
100%
0%
20%
わからない
26.7
35.5
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
66.7
40%
考えていない
24.0
16.3
53.3
48.4
33.3
実施していた
15.4
16.6
59.4
58.0
100.0
200万円未満
検討している
17.5
22.3
51.6
47.3
60.0
63.5
4.8
6.7
6.3
50.0
23.8
21.7
16.0
14.4
21.4
13.3
13.3
33.3
25.0
6.7
13.3
200万円以上
12.9
1000万円未満 3.2
100.0
10.9
6.8
6.1
31.3
1.8
22.9
21.5
100億円以上
1000万円以上
5000万円未満
38.7
66.7
対応の予定はない
わからない
対応していないが計画中
13.1
12.8
19.4
40%
28.6
33.3
0.7
1.4
5000万円以上
1億円未満 3.2
3.2
200万円未満
3.6
4.2
1億円以上
20億円未満
25.0
43.8
29.0
37.5
41.9
20%
4.8
9.8
52.9
25.0
29.0
検討している
実施していた
25.3
45.3
6.7
100.0
100.0
実施している
57.1
対応している
図表 18 専門工事業者の募集における
電子調達の実施状況
17.3
16.5
42.9
44.1
27.0
34.6
18.8
12.9
資本金
31.2
32.6
17.2
41.3
0%
資本金
7.9
全体 6.1
13.2
19.7
27.6
200万円未満
100%
図表 17 資機材関連の電子調達
の実施状況
11.6
66.9
53.8
200万円以上
1000万円未満
3.2
6.5
7.1
6.7
18.8
64.3
67.3
1000万円以上
5000万円未満
12.5
18.8
6.6
6.7
86.7
81.3
20億円以上
100億円未満
5000万円以上
1億円未満
2.7
1.0
6.7
100.0
200万円未満
100億円以上
1億円以上
20億円未満
12.7 4.5 0.6
82.2
1000万円以上
5000万円未満
わからない
6.3
2.3
6.3
12.2
13.3
92.9
93.3
対応の予定はない
100.0
93.8
20億円以上
100億円未満
17.0
25.6
対応している
100.0
100.0
100億円以上
64.5
54.4
全体
60%
80%
100%
電子商取引の実施に際しては、大企業、中小企業ともに「セキュリティ」を問題として
いる。また、大企業では「取引き先のIT化の遅れ」を 2 番目に大きな問題として挙げて
- 17 -
いる。これまで、大企業が主体となって進められてきた電子商取引であるが、今後は、取
引先との連携をさらに強化し、双方がメリットを感じられるような Win-Win の関係を構築
していくことが望まれる。一方、中小企業においては「導入・維持管理のコスト負担」を 2
番目に挙げており、中小企業にとって資金負担が大きな課題であることを示している。中
小企業の技術的、コスト的な負担を軽減し、比較的容易に電子商取引に参入するためには、
建設業界の EDI 標準である CI-NET に対応した電子商取引 ASP サービス13を活用すること
が有効な手段の一つであると考えられる。
図表 19 電子契約の実施状況
0.8
2.6
14.5
25.0
10.0
29.8
2.0
0.9
14.3
35.7
100億円以上 6.7
26.7
6.7
図表 20 電子商取引の実施に際しての問題点
資本金
47.9
45.3
全体
14.3
12.5
20億円以上
100億円未満
7.1
14.3
46.7
57.1
56.3
2.4
15.9
27.8
9.2
33.3
2.1
1.4
13.6 4.3
23.6
5000万円以上
6.5
28.1
1億円未満
2.0
0.7
1.4 11.1
18.1
1000万円以上
21.8
13.9
5000万円未満
2.0
7.7
30.8
200万円以上
10.0
30.0
1000万円未満
ほぼ全ての業務で
実施している
部分的に実施している
13.3
試験的に一部で
実施している
検討している
28.6
28.6
31.3
45.2
44.7
8.7
9.2
52.1
53.6
6.4
9.2
1億円以上
20億円未満
導入・維持管理に係る
コスト負担が大きい
取引き先のIT化の遅れ
考えていない
システムやデータ形式
の標準仕様がない
市場規模が小さい
46.2
15.4
成約過程の不透明性
36.7
社内システムとの
連携の遅れ
20%
上段:2006年度調査
下段:2005年度調査
33.3
40%
60%
80%
100%
40.3
15.8
14.5
16.6
15.5
20.1
12.4
16.0
11.3
19.1
14.3
11.9
15.8
11.8
17.0
8.3
与信におけるリスク
18.1
15.8
66.7
0%
24.5
28.3
33.3
24.9
27.3
28.9
26.1
スキル不足
わからない
100.0
200万円未満
31.3
31.4
31.1
30.8
電子的処理と紙ベース処理
による二重作業
51.4
46.5
23.3
38.8
39.6
38.2
セキュリティ
9.2
12.0
全体
大企業(資本金1億円以上)
中小企業(資本金1億円未満)
3.3
3.8
2.9
その他
0%
20%
40%
60%
80%
100%
注)3 項目までの複数回答による。
集計方法は図表 13 と同様。
6.今後のIT化と問題点
今後のIT化の重点項目として、「現場施工の効率化」を挙げる企業の割合が最も高い。
次いで、「電子入札、電子納品への対応」、「本支店業務の効率化」、「現場と本支店の連携強
化」が挙げられ、生産と経営の効率化に向けた取組みが加速している。
「顧客対応の強化」、「技術情報の蓄積と活用」に重点を置く企業は大企業に多く、これ
までの業務効率化のための IT 活用に加え、付加価値向上のための IT 活用を目指している
ことが考えられる。一方、中小企業においては、「電子入札、電子納品への対応」に重点を
置く企業の割合が高く、CALS/EC への対応に注力しているのが現状である。
建設産業のIT化の進展を阻む理由として、大企業、中小企業とも「多工種・多材料に
よる標準化の困難さ」を最上位に挙げている。また、大企業においては「企業規模の多様
性」、
「業務フローの特殊性」が挙げられており、建設産業の特殊性をその要因としている。
また、建設市場が縮小する中、「費用対効果が見えない」ことが問題とされ、中小企業に
おいてそれが著しい。さらに、「経営者の意識が低い」、「人材不足」なども中小企業におけ
13
ASP(Application Service Provider)とはビジネス用アプリケーションソフトを、インターネットを
通じて顧客にレンタルする企業のこと。ここでは、ASP の提供するサービスを「ASP サービス」と呼ぶ。
- 18 -
る問題となっている。IT とそれがもたらす経営上の効果との関係は非常に複雑であり、そ
の投資効果を把握しにくいことも IT 化への取組みを阻害する要因であると考えられる。
図表 21 今後のIT化の重点項目
図表 22 建設産業のIT化が遅い理由
電子入札、
電子納品への対応
40.5
25.2
25.3
企業規模の多様性
41.5
19.0
17.0
20.3
経営者の意識が低い
27.5
33.3
顧客対応の強化
32.8
34.0
32.0
人手作業中心の生産現場
20.7
23.7
28.3
業務フローの特殊性
23.2
25.3
技術情報の蓄積と活用
19.9
33.3
16.8
情報セキュリティの強化
12.4
労務、資材の電子調達
0%
20%
23.8
22.0
24.9
人材不足
23.3
40%
60%
80%
9.5
7.5
10.8
危機意識の欠落
全体
大企業(資本金1億円以上)
中小企業(資本金1億円未満)
9.8
10.1
9.5
100%
全体
大企業(資本金1億円以上)
中小企業(資本金1億円未満)
2.5
1.9
2.9
その他
注)3 項目までの複数回答による。
集計方法は図表 13 と同様。
35.8
12.3
11.3
12.9
発注者の消極性
20.0
15.1
23.2
発注者、専門工事業者、
資材業者との連携強化
64.8
37.8
33.3
40.7
35.0
38.4
32.8
費用対効果が見えない
39.0
29.0
現場と本支店の連携強化
53.9
50.6
30.8
本支店業務の効率化
58.3
多工種・多材料による
標準化の困難さ
54.3
50.9
56.4
現場施工の効率化
0%
20%
40%
60%
80%
100%
注)3 項目までの複数回答による。
集計方法は図表 13 と同様。
(担当:研究員 山本 和範)
- 19 -
Ⅲ.建設関連産業の動向
-
地質調査
-
今回は、地質調査業について近年の市場規模、業者数、経営状況について概観するとと
もに、防災や環境といった国民の関心が高い分野への対応や情報技術の活用など今後の地
質調査業の動向についてまとめてみた。
1.地質調査業とは
地質調査業は、1977 年建設省(現国土交通省)告示の「地質調査業者登録規程」で、
「建
設事業に関し、地質、基礎地盤、土又は岩の工学的性質等について、機械器具を用いた調
査、測量を行い、その結果を解析、判定し、設計、施工、管理のための資料提供を行い、
あわせて必要な所見を述べることの請負業又は受託業」と定義されている。また、総務省
の日本標準産業分類では「土木建設サービス業」に位置付けられ、測量業、建設コンサル
タント業とともに、建設関連 3 業種として分類されている。
地質調査は、
「地質、土質、基礎地盤、地下水などの不可視部分について、地質学、地球
物理学、土質工学などの知識や理論をベースに、地表地質調査、物理探査、ボーリング、
各種計測、試験などの手法を用いて、その形、質、量を明らかにする」ものであり、これ
を目的別に分類すると以下のように区分される。
① 学術的分野
地球科学の一分野として、その生成過程の地質学的解明や地震予知及び地球環境を含
む主に純粋な学術的探求のための地質調査。国や大学などの研究機関から発注され、1995
年度以降は、阪神・淡路大震災を契機に活断層の調査が急増している。
② 資源開発分野
石炭、石油、鉱物資源、地熱などの地下資源開発のため地質調査で、現在日本では、
地熱発電のための調査を除いて実績は少ない。
③ 建設事業分野
国土の開発や保全を目的とする建設事業のための調査で、現在日本では、地質調査業
の 9 割以上が、この分野で占められている。この建設に係わる地質調査は、戦前もトン
ネルやダムを中心に実施されていたが、1955 年度以降、大規模な社会資本整備事業の進
展と重化学工業を中心とした民間企業設備投資の増大を背景に急激に需要を伸ばすこと
となった。
2.市場の動向
地質調査業の事業の中で、公共事業が約 7 割を占め、大きなウェートを占めている。地
質調査は、建設工事と一体的に実施されるものであることから、昨今の公共事業削減の影
響を受け、年々市場は縮小傾向にある。図表 1 は、国土交通省が実施している「建設関連
業の動態調査」に基づき、地質調査業 50 社の年間契約総額の推移を示したものであるが、
1995 年度をピークに減少傾向にあり、2006 年度の契約金額は約 878 億円で、ピーク時の
- 20 -
約 5 割となっている。公共事業が減少傾向にある中で、民間発注者からの受注を増やすと
ともに環境や防災といった成長分野で、新たな事業領域を広げていくことが今後の大きな
課題と言える。
図表 1 地質調査業 50 社の年間契約金額(単位:百万円)
年度
国内
総計
計
海外
公共
民間
1994
152,519
150,979
103,367
47,612
1,540
1995
177,846
176,225
124,182
52,043
1,621
1996
161,046
160,045
109,912
50,133
1,001
1997
139,206
138,364
96,247
42,117
842
1998
144,809
144,385
103,367
41,018
424
1999
139,191
139,006
97,179
41,827
185
2000
124,525
124,134
86,894
37,240
391
2001
105,955
105,613
74,976
30,637
342
2002
99,803
98,976
67,340
31,636
827
2003
88,320
87,957
57,832
30,125
363
2004
91,115
90,720
57,587
33,133
395
2005
78,697
78,068
49,263
28,805
629
2006
87,866
87,526
50,583
36,943
340
出典)国土交通省「建設関連業等実態調査」より
受注額(百万円)
200,000
180,000
海外
160,000
民間
140,000
公共
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
3.地質調査業者の動向
図表 2 は地質調査業の登録業者数の推移(各年 3 月末時点)である。市場の縮小傾向に
もかかわらず、登録業者数は年々増加する傾向にあり、兼業状況を考慮しない単純比較で
は、調査開始時の 1978 年には 471 業者であった業者数が、2006 年では 1,390 業者と約 3
- 21 -
倍にも増加している。
図表 2 地質調査業登録業者数の推移
(業者数)
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06
出典)国土交通省「建設関連業の登録状況について(平成 18 年 3 月末現在)」より作成
図表 3 は地質調査業登録を行っている業者の他の建設関連業(測量業・建設コンサルタ
ント)との兼業状況の推移である。近年建設関連業間での兼業化が進んでいることが分か
る。
図表 3 地質調査業の兼業状況
(3月末の業者数)
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
1998年 1990年
地質調査業のみ
2000年 2001年
地質調査業と測量業
2002年
2003年 2004年
2005年 2006年
地質調査業と建設コンサルタント
3業種とも
出典)国土交通省「建設関連業の登録状況について(平成 18 年 3 月末現在)」より作成
図表 4 は 2006 年 3 月時点での資本金階層別の登録業者数をまとめたものである。資本金
1 億円以上の登録者数は 131(全体の 9.4%)で、一方、個人で経営を行うものは非常に少
ない。他の建設関連業と比較しても、資本金額の大きい業者の占める割合が高く、中~大
- 22 -
規模経営の業者が多い傾向が見られる。
図表 4 資本金階層別登録業者の割合
その他 0.3%(4)
個人 0.2%(3)
500万円以上
1000万円未満
1.2%(17)
1億円以上
9.4%(131)
5000万円以上1
億円未満
11.9%(166)
1000万円以上
2000万円未満
37.7%(524)
2000万円以上
5000万円未満
39.2%(545)
出典)国土交通省「建設関連業の登録状況について(平成 18 年 3 月末現在)」より作成
4.地質調査業の経営状況
国土交通省は、地質調査業登録業者のうち、専業率(地質調査業による収入が当該企業
の他の業種を含んだ総売上高に占める割合)が 60%以上で、社団法人等を除く法人企業か
ら抽出した 271 社を対象に経営分析を実施している。ここでは平成 15 年分の調査(平成
17 年 2 月 25 日発表)のいくつかの指標をもとに、経営現況について見ていくこととする。
(1)
収益性
収益性を表す指標の一つとして総売上高経常利益率(経常利益/総売上高、数値が大き
い方が良い)がある。図表 5 は近年のその推移を表したものだが、年々下降傾向にあり、
昭和 56 年度に建設関連業経営指針策定委員会が定めた目標値 5~6%を、近年は大きく下回
る結果となっており、非常に厳しい収益環境が浮かび上がってくる。
- 23 -
図表 5 総売上高経常利益率の推移
(%)
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003 (年)
出典)国土交通省「建設関連業の経営分析について(平成 15 年分)」より作成
(2)
生産性
2003 年の職員 1 人当たりの総売上高は約 2,092 万円(対前年比 3.2%減)、技術職員 1 人
あたりの総売上高は約 2,895 万円(対前年比 1.4%減)となっている。年々緩やかな減少基
調にあり(図表 6)、この数値においても地質調査業界の厳しい現状を垣間見ることができ
る。
なお、職員 1 人当たりの売上高は、企業規模による差が大きいのが一般的で、大規模に
なるほど職員 1 人当たりの売上高は多くなる。しかしながら、大企業の場合、同時に外注
の割合が高くなる傾向があるので、総売上高の中には外注分が含まれていることに注意す
る必要がある。
図表 6 職員 1 人あたりの売上高の推移
(千円)
40,000
30,000
20,000
10,000
0
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
職員1人あたりの売上高
(年)
技術職員1人あたりの売上高
出典)国土交通省「建設関連業の経営分析について(平成 15 年分)」より作成
- 24 -
(3)
財務状況
総資本自己資本比率は、総資本に対して自己資本の占める割合を示すものであり、いわ
ば企業が外部から借り入れている資本と自己の所有している資本の割合を示した指標であ
り、流動比率は、短期(1 年以内)の負債と、これを返済するのに必要な財源となる流動資
産(現預金、売上債権など 1 年以内に現金化できる資産)との比率であり、双方の数値と
も高い方が経営の安定性が高いとされている。
2003 年の総資本自己資本比率と流動比率は、それぞれ 67.6%、232.2%となっており、
建設関連業経営指針策定委員会が定めた目標値 40%以上、140~150%の数値をそれぞれ大
きくクリアしている。ここ数年それぞれの数値の上昇が顕著である(図表7)。各企業とも
リストラ等の内的努力により、自己資本の充実に努め、財務状況の健全化が図られている。
図表 7 財務状況の推移
(%)
240.0
(%)
70.0
65.0
220.0
60.0
55.0
200.0
50.0
180.0
45.0
40.0
160.0
35.0
140.0
30.0
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
総資本自己資本比率(左目盛)
流動比率(右目盛)
出典)国土交通省「建設関連業の経営分析について」より作成
5.地質調査業の今後の動向
地質調査は、建設工事と密接不可分に実施されるものであることから、建設投資が減少
する中で、地質調査業に関する市場の今後の動向も厳しいことが予想される。しかしなが
ら、防災といった国民生活に大きな影響を与える分野において地質調査業が非常に基本的
な役割を果たすことは言うまでもない。また、土壌汚染による被害を防止するといった環
境面での貢献も見逃すことはできない。こうした地質の状況に関する情報を適切に提供す
ることは、PFIや不動産証券化といった民間セクターがリスクをとりながら国土基盤の
整備や不動産市場に参画していくという社会の新たな枠組みを下支えする役割も有してい
る。さらに、GISを活用して地質に関する情報の流通を図る等、最先端の情報技術を活
用して社会貢献していくことも重要である。
- 25 -
(1)
防災
土層の厚さや硬さ、地下水の状況の調査による崖の崩落事故の事前防止、地盤調査によ
る建築物の地震への対応等国民生活の安全や安心を確保する上で地質調査業は基本的な役
割を果たしている。特に、我が国の国土は、大陸プレートと海洋プレートの境界面に位置
し、地質構造が複雑かつ脆弱で、地震、火山噴火等の地盤災害が多発している。1995 年 1
月に発生した阪神・淡路大震災は甚大な人的・物的被害をもたらし、2004 年 10 月の新潟
県中越地震での被災は記憶に新しいところである。産業や人口の集中する都市の多くは、
将来の地震に対して大きなリスクを持つにもかかわらず、その深部の地質構造はほとんど
調査されていないというのが現状である。日本応用地質学会と(社)全国地質調査業協会
連合会では、都市における地震防災計画の基礎資料となる「都市地震防災地盤図」の整備
を提言しており、各地域のハザードマップの整備、充実などと併せ、今後も地質調査業界
において防災に関する積極的な取組みが必要である。
(2)
環境
わが国の産業構造の変化に伴い大規模な土地利用転換が進む中、2003 年 2 月に「土壌汚
染対策法」が施行され、
「汚染されている土地の区域を指定するための土壌汚染状況調査は、
環境大臣が指定する指定調査機関に環境省令で定める方法により調査させなければならな
い」とされた。そして、不動産の取引においても、2003 年 1 月から施行された新しい「不
動産鑑定基準」において、不動産の価格を形成する要因のひとつに「地下埋設物、遺跡・
遺構、土壌汚染の有無とその状態」という項目が明記され、特に土壌汚染は不動産価値を
大きく左右する要因として位置付けられている。また、宅地建物取引業法施行令も改正さ
れ、重要事項の説明範囲に当該土地が土壌汚染対策法の指定区域であるかどうかも加えら
れた。地質調査を適切に実施し関係者に情報提供することは、急速に拡大する不動産証券
化市場を下支えするとともに、民間が一定のリスクをとって国土基盤の整備を行うPFI
といった新たな社会制度を支える基盤をなすものである。
(3)
情報技術の活用
例えば、(社)全国地質調査業協会連合会(全地連)では、大阪市立大学の基礎的研究を
踏まえ、全地連と特定非営利活動法人地質情報整備・活用機構(地質機構)が開発した
「Web-GIS 版電子納品統合管理システム」の機能強化を図るとともに、Web-GIS による情報
流通に必要な原本認証技術やセキュリティ技術の確立、地質・地盤情報の公開や高度利用
のための社会基盤・技術基盤の研究に取り組んでいる。現在、大阪市大、地質機構及び 23
の参加企業がコンソーシアムを構成し、活動を行っており、こうした最先端の情報関係技
術を活用して地質調査業の新たな展開を図っていくという視点も重要になってくるであろ
う。
(担当:主任研究員
- 26 -
河田浩樹)
編集後記
最近、マニアやオタクと呼ばれる人達が俄かに脚光を浴びているようである。鉄道マニ
アが主人公のテレビドラマが放映されるなど、メディアへの露出も増えて来ており、これ
まで暗いイメージが付きまとっていたマニアやオタクの世界に対する世間の目も変わりつ
つあるようである。
マニアやオタクには様々なジャンルがあるようで、廃墟マニア、工場マニア、団地マニ
アなど「どうしてそんな物を?」と思うようなものまで愛好家がいるようである。先日、
あるテレビ番組を視ていて、「ダム(放流)マニア」なる人達の存在を知った。気になった
のでインターネットで検索してみると、結構な数のサイトがヒットした。あるサイトを覗
いてみると、結構奥が深く、ダムの用途、構造、ダム用語から、果ては貯水量がどうとか、
水門の数がどうだとか、そんな事を知ってどうするのだろうと思うような情報までギッシ
リ詰まっている。ダム写真集、DVD なども発売されているようで、ダムマニアは密かに増
殖しているらしい。
確かに、私も黒四ダムや建設中のダム工事現場を訪問した際、その大きさや、放流の豪
快さに感動を覚えた記憶がある。もともと人間には巨大な建造物に対し無条件に感動する
といった本能があるらしく、美学用語ではテクノロジカル・サブライム(技術的崇高)と
言うそうだが、何となく理解出来なくもない。かといって、わざわざダムだけを見に行こ
うとは思わないし、まして写真集や、DVDを購入しようとまでは思わないが。
ダムと言えば、2000 年の田中康夫前長野県知事の「脱ダム宣言」以降、ダムは無駄の象
徴のような存在として扱われており、その本来の役割や、重要性が語られることは非常に
少なかったように思われる。今後、ダムマニアが増え、その役割や重要性が再認識され、
また建設業界の技術力の高さを広く一般に知らしめて欲しい。
余談ではあるが、都内某飲食店には「アーチ式ダムカレー」なる物もあるらしい。ダム
マニアならずとも一度は食してみたい気にさせる一品ではある。
「アーチ式ダムカレー下さ
い」と店員に注文するのはチョット恥ずかしい気もするが、いつかチャレンジしてみよう
と思う。
(担当:研究員
- 27 -
大竹
知広)