要請書 - 再審えん罪事件全国連絡会

名張毒ぶどう酒事件・奥西勝さんの処遇改善等を求める要請書
八王子医療刑務所
所 長
大橋 秀夫 殿
2015 年
3 月 5 日
アムネスティ・インターナショナル日本
監 獄 人 権 セ ン タ ー
再 審 ・ え ん 罪 事 件 全 国 連 絡 会
国 民 救 援 会 中 央 本 部
〈要請事項〉
名張毒ぶどう酒事件で再審請求中の奥西勝さんにつき、個人の尊厳を尊重し基本
的人権を保障する日本国憲法をはじめ、国際人権法・国際的な準則にもとづいた処
遇を実現するため下記の項目について、直ちに是正・改善を強く求めます。
1 奥西さんが再審請求人であることを尊重し、外部交通権を最大限に保障する
こと。とりわけ、面会の実質的な保障をはじめ外部からの激励を含むハガキや
手紙を手元に届けるように直ちに是正すること。
2 現在、奥西さんは八王子医療刑務所で担当医をはじめ関係者の方々の献身的
な努力によって、適切な医療処置と看護が行われているものと信じます。
八王子医療刑務所内での矯正医療の透明性を担保し、奥西さんの病状を正確
につかみ、今後の対応を適正におこなうために刑事収容施設及び被収容者の処
遇に関する法律62条2項、3項に基づく「外部の医師等による診療」
、63
条によって「被収容者からの指名医による診療」を受ける権利を保障すること
を要請します。
3 奥西さんの病状の急変、急迫な事態に対応できるように東京都在住者の支援
者の特別面会人を拡大すること。
〈理由〉
1、無実の死刑囚・奥西勝さんは、今年1月14日に八王子医療刑務所で89歳の
誕生日を迎えました。奥西さんは、二度の危篤状態を乗り越え、気管切開などの手
術を受け、重篤な状況にありながら、病床から無実を訴えつづけています。奥西勝
さんは、現在ベッドに寝たきりで経口点滴を受けています。
そのため、特別面会人である稲生昌三さんとは会話を交わすことができず、奥西
さんが指で文字を書いて、わずかにそれを稲生さんが読みとろうとしていますが、
それでも十分なコミュニケーションはとれていません。自分の意志が十分に伝わら
1
ないもどかしさのため、血圧が急上昇するという健康上からも心配な状態が起こっ
ています。そこで、やむをえず稲生さんが文字を書いたり、消したりすることがで
きるボードを持ち込んで、コミュニケーションをとろうとしたところ、八王子医療
刑務所の担当者から「ボードの持込はできない」と拒否されました。その理由とし
て、
「面会は、口を使っての言語の発生と体を使って意思伝達するもので、他の方
法は認められない」というものでした。
しかし、発声に障害のある人とのコミュニケーション保障の手段を拒否すること
は、極めて不当であり、日本国憲法、また刑事収容施設法に違反します。同法は
「適正な外部交通が受刑者の改善更正及び円滑な社会復帰に資するもの」とし、そ
の制限は「規律及び秩序の維持」に必要なものに制限されています。
さらに、八王子医療刑務所の面会方法に関する制限は、日本政府も批准した国連
の障害をもつ人の権利条約(以後は障害者権利条約という)と障害者基本法等にも
違反するものです。
障害者権利条約は、
「障害者の多様性を認め、人権保護の必要性」を明らかにし、
締約国が「この条約において認められる権利の実現のため、すべての適切な立法、
行政措置をとる」
(日本政府公定訳)ことを求めており、現在日本の国内法の検討
が行われています。
そして障害者権利条約第21条は、締約国が「あらゆる形態の意思疎通で自ら選
択するものにより、表現及び意志の自由についての権利を行使することができるた
めの全ての必要な措置をとる」と定めています。この条約が定める意思疎通とは
「言語、文字の表示、点字、触覚を使った意志疎通、拡大文字、利用しやすいマル
チメデイア並びに筆記、音声、平易な言葉、朗読その他の代替的な意思疎通の形態、
手段及び様式(利用しやすい情報通信機器を含む)
」と規定されています。
まさに、奥西さんとの意思疎通を図るためにボードの使用などは、発声に障害を
もつ奥西さんとの面会を実効的なものにするためには欠かすことのできないコミュ
ニケーション保障です。これを拒否することは、障害者権利条約が禁止している重
大な差別です。八王子医療刑務所が、障害者権利条約等を遵守して、奥西さんとの
面会を実効的なものにするために直ちに必要な是正措置をとるべきです。
また、奥西勝さんの無実の叫びは、いまや日本国内にとどまらず世界に広がって
います。無実の死刑囚・奥西さんを激励しようと、国内外から多数の激励の手紙・
はがき等が八王子医療刑務所に届いています。
しかし、八王子医療刑務所は、これらの通信を奥西さんの手元に届けていません。
これは明らかに、監獄法改正の国会論議や行刑改革会議提言で、
「受刑者の人間性
を尊重し、真の改善更生及び社会復帰を図るための、いわば受刑者のための諸改
革」をおこなうとした理念にも反し、受刑者の権利を保障した国際的な準則にも違
反するものです。
我が国の死刑囚は、独居拘禁にされ、
「心情の安定」を理由に外部交通も厳しく
制限されています。この非人間的な処遇について、国連の拷問禁止委員会や自由権
規約委員会からも再三にわたって是正勧告が出されています。
2
昨年3月27日、袴田事件の袴田巌さんが静岡地方裁判所の再審開始と拘置の停
止決定によって、48年ぶりに東京拘置所から釈放されました。しかし、釈放され
た袴田さんは、半世紀近く死刑の恐怖におびえながら社会から隔離されたなかで、
拘禁症を発症し、釈放後も社会復帰にむけて大きな障害となっています。
私たちは、直ちに八王子医療刑務所が受刑者の人権を尊重し、外部交通権を保障
することを強く求めます。
2、監獄法改正の審議のなかで、矯正医療の透明性の確保と被収容者が最新の医療
を受ける権利を確保のため、刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法律62条
2項、3項では「外部の医師等による診療」
、63条によって「被収容者からの指
名医による診療」を受ける権利が新たに保障されました。
したがって、奥西さんが適切な医療と治療がなされているかどうか透明化を示す
ためにも、また再審請求が認められ、袴田巌さんのように釈放さることも十分考え
られます。その時に親族、支援者にとって、必要な受け入れ体制を準備する上で外
部の専門医の診察にもとづく助言は必要不可欠です。したがって、刑事収容施設法
62条2項、3項及び同法63条にもとづき外部の専門医による診察が緊急に求め
られております。
現在、奥西さんとの面会は、親族・再審弁護人以外には稲生昌三さんしか面会は
許可されていません。しかし、稲生さんは、愛知県に在住し、奥西さんの病気の急
変など緊急事態が発生した場合、時間的・物理的な制約があります。今後、緊急に
対応が迫られることも十分に予想され、その際に迅速に外部との必要な連絡を取る
ためにも、稲生昌三さん以外にも東京在住の支援者から面会人を認めることが必要
です。
3、最後に、奥西勝さんは、54年以上も自由を奪われ、高齢による病気と死刑執
行による二重の恐怖によって生命の危険に直面しております。奥西さんは、八王子
医療刑務所に収監後、2度も危篤状態に陥ったことがありました。現在の状況が続
ければ、帝銀事件の平沢貞通元死刑囚の不幸を繰り返すことになります。今の状況
を放置して、奥西さんに万が一のことがあれば、八王子医療刑務所もちろん、検察
当局に対しても、日本全国はもちろんのこと、国際社会からも必ずや強い非難が寄
せられるでしょう。
上記の要請項目は、矯正施設当局にとっても適正かつ迅速な矯正処遇を執行する
上でも必要なことだと考えます。
〈連絡先〉
〒113-8463 東京都文京区湯島2-4-4 平和と労働センター5階
日本国民救援会中央本部
電話 03-5842-5842
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