王国編 - suwa

かつて王国があった場所
らりと魔導士が並ぶ前
を、姫はゆっくりと歩き、
末尾の小汚ない少年を指さ
した。皆が内心嘲った。王
族は十歳で自分付の魔導士
を選ぶ。妾腹の姫に、誰に
力があり誰を選ぶべきか指
示する人間はいなかった。
後ろ楯のない末姫と野良猫
のような魔導士の、密かな
企みは、ここから始まる。
そ
あ
りきたりの宴に飽きた貴
族どもの最近の流行は、蝦
蟇蛙のような声の歌姫。そ
のひどい歌声を嘲笑し愉し
む。彼女がこの声になった
のは五歳のとき目の前で親
を殺されてから。彼女がそ
れを語るのはいつか王の宴
に招かれるとき。生まれ故
郷を焼いた首謀者の喉を裂
き、高らかに歌うのだ。
れはとても小さな王国で
した。王様は毎日国民を怒
鳴り罵り殴ります。王国が
静かになるのは王様が外へ
出勤している間だけ。その
恐怖政治は国民であり奴隷
でもあった姫様がクーデー
タを起こすまで続きまし
た。家庭という王国内でし
か威張れなかった父。娘は
決して許しませんでした。
この内容は、すわぞ が 2014 年 1 月∼
2014 年 7 月にかけて twitter で呟いた
twnovel(※140 文字、ただしタグを除
けば 131 文字の小説)のうちの 11 本に、
新作を1本加えたものです。
すわぞ suwazo@twitter
2014 年 10 月
継
父や継兄らに苛められて
法使いに魔法をかけら
れ、鳥の卵は一つの王国と いた少年シンデレラは、魔
なりました。その殻は麗し 女に鎧や剣を貰い、城の武
い騎士団となり、王国を狙 闘会に乗り込みます。昼の
う敵と闘いました。けれど、 十ニ時の鐘が鳴った瞬間、
雛は生まれるために自ら卵 魔法は解け、身軽な格好に
の殻をつついて壊します。 戻ったシンデレラは大男ど
城の中心で守られていた無 もの頭を足蹴に跳び、観覧
邪気な姫は、やがて、騎士 席の退屈顔の姫の元に降り
たちの背中を次々と剣で切 立ちます。「花をどうぞ」優
雅に一礼。姫の笑顔。
り裂いていったのです。
宮に籠りきりの正妃は奴
隷少女を何百人もひっかえ
とっかえ仕えさせ贅沢三昧
に生きている。と思われて
いる。知る者は少ない。彼
女は奴隷には禁じられた、
支配層にのみ許された、文
字を、算盤を、学問を、少
女らに密かに教え、金を与
えて外つ国に放っている。
プロメテウスのように。
を亡くしてから後宮で女
色に耽るばかりの王は放置
してよい、だが王女は成人
前に殺さねば。公爵の反乱
軍を迎え撃ったのは後宮の
女たちだった。形ばかりの
玉座に座る夫を心配した妃
が、密かに集めた女戦士た
ち。王が愛したのは妃だけ。
母親似の美しい王女が御自
ら公爵の首をはねる。
千
年の寿命と若さを持つ王
の、五十年に一度の妃選び
の日が近づいていた。自分
には関係ない話だと思って
いた時計職人の少女が、突
然、城に呼ばれる。年老い
た前妃から謎に満ちた精緻
な設計図を渡される。「彼を
お願い。メンテナンスでき
る者は少ないの」少女は、
機械の王の妃となる。
魅魍魎の潜む闇の森。百
年の眠りについた姫を救い
に来た王子が見たのは、姫
の口や眼窩や耳から伸びる
黒く長い大量の蔓。闇の森
は全て姫の体を根にしてい
ると知る。(一人で帰って、
王子様)姫の声。(なぜな
ら私はこの森を愛している
から。そして貴方の足が怯
えて震えているから)
奥
魔
『 私を人喰いと思っておるな』
王国に飼われている妖獣が
言う。餌である奴隷少年は
震えて頷く。『事実、私はこ
の国の敵軍の兵を幾度も喰
らってきた。が』妖獣の口
元に米粒が付いている。少
年が持っていた握り飯。『人
よりずっと美味い。人しか
喰えぬと、私自身、騙され
ていたようだ』
魑
ここは王国のあった場所
は試し続けた。「あの小
国を捧げれば他は助けてや
ろう」地上の国々は承諾し
た。「あの村を捧げれば他
は」小国は承諾した。「あ
の一家を捧げれば他は」村
は承諾した。「子供らを捧
げれば他は」一家は承諾し
た。「弟を捧げれば他は」
漸く龍は望む答えを得る。
兄姉は首を横に振る。
妃
1
2
9
∼王国編∼
3
twnovel おりほん
龍
虫が歌う 小鳥が歌う 蛙が歌う
6
4
ここは王国のあった場所
としと。雨が降っている。
ずっと降り続いている。王
国の民が空を見上げればそ
の頬に額に冷たい水滴が降
り落ちる。「気の済むまで
降らせてやりなさい」酒場
の女主人が言う。そうだな、
と皆が頷く。雨の理由を知
らない者はいない。一昨日、
龍の連れ合いが亡くなった
のだ。しとしと。
し
ず
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