特特集集 - 日本マテリアル・ハンドリング(MH)協会

インタビュー:国際交流委員会の取組みについて
特集:ここまで進んでいる国際物流
● インドの物流動向
● 佐川グローバルロジスティクスの中国向け通販輸送に向けたツール戦略
● 弊社におけるカザフスタン共和国での取り組みからみた昨今のカザフスタンでの物流事情について
● ロシアの物流動向
● 海外のMH納入事例のご紹介
● 国内外の流通過程の一貫品質管理を実現
● 日本および韓国の家電企業におけるグリーン物流戦略
MHジャーナル
2
6
3号(秋季号)
目次
2010.OCT
巻頭言 北京物資学院の「日本物流研究センター」
愛知学院大学大学院教授 博士
(経営学) 丹下
博文 氏 ……2
インタビュー ………………………………………………………………………………………4
国際交流委員会の取組みについて
日本MH協会 国際交流委員長:安藤 弘一(株式会社 日通総合研究所)
特集
ここまで進んでいる国際物流 …………………………………………………7
寄稿文
●インドの物流動向 ……………………………………………………………………8
インド日本通運株式会社 副社長 林
和彦 氏
●佐川グローバルロジスティクスの中国向け通販輸送に向けたツール戦略 …………………12
佐川グローバルロジスティクス株式会社
経営企画部 経営企画課・ITシステム課 課長 池田 立秋 氏
●弊社におけるカザフスタン共和国での取り組みからみた………………………16
昨今のカザフスタンでの物流事情について
センコー株式会社 カザフスタンPT担当
アルマティ駐在員事務所 堀口 篤史 氏
●ロシアの物流動向 …………………………………………………………………20
株式会社 近鉄エクスプレス販売 取締役 井上
博 氏
●海外のMH納入事例のご紹介 ………………………………………………………26
株式会社 ダイフク 広報部
●国内外の流通過程の一貫品質管理を実現
― 温湿度衝撃センサRFIDを活用したリスクマネジメント― ………………………32
日本電気株式会社 新事業推進本部 小笠原 温 氏
●日本および韓国の家電企業におけるグリーン物流戦略 ……………………………38
大阪経済法科大学アジア研究所客員研究員・商学博士 金 恵 珍 氏
特別寄稿 …………………………………………………………………………………………44
MH基礎講座‐4
●MHの要素機能とその系列 …………………………………………………………48
― システムの見方でMHを ―
日本MH協会会長 秋庭 雅夫 氏(東京工業大学名誉教授)
MH基礎講座‐5
●分岐と流動貯蔵 ……………………………………………………………………50
日本MH協会会長 秋庭 雅夫 氏(東京工業大学名誉教授)
奥付 ………………………………………………………………………………………………52
Material Handling Journal No.
263
!
巻 頭 言
北京物資学院の
「日本物流研究センター」
丹下
博士
(経営学)
博文
日本経済は慢性的な需要不足でデフレから抜け出
ているのは一部にすぎないと説く「物流コスト氷山
せない足踏み状態が続いていますが、その一方で中
説」や、物流コスト削減は宝の山のように利潤源に
国経済への関心が急速に高まってきています。世界
なると考える「物流コスト第3の利潤説」といった
経済の不透明感が強まるなかで、中国経済の成長率
日本の物流理論が受け入れられてきました。しかし
は2
0
0
8年秋のリーマン・ショックによる世界同時不
中国の物流産業は日本の初期段階に類似し、しかも
況の影響で一時的に鈍化したものの、今年になり早
日本より全体的にレベルが低いと評されていること
くも1
0%台の2ケタ成長を回復し世界経済を牽引し
から、日本の物流に関する一層の研究が必要との認
ている、とまで唱えられるようになりました。中国
識が高まっているわけです。
経済は2
0世紀末ころから低賃金の労働力を活用した
そこで非常に注目されるのが、中国の北京物資学
安価な製品の輸出によって「世界の工場」と呼ばれ
院(Beijing Wuzi University)のなかに昨年(0
9年)
るほど輸出主導型の経済が発展。ところが2
1世紀の
設立された「日本物流研究センター」です。同学院
今日、中間所得層の急増にともなう購買力の上昇を
は中国の首都・北京に1980年に創立され、経営管理
背景に内需主導型の経済を目指し「世界の市場」へ
学を主体に物流管理を特色とする公立の重点大学。
と構造的に変貌しようとしています。
学部に加え大学院も設置されており、その前身は
このような成長著しい中国経済にとって喫緊の課
1
963年に設立された北京経済学院の物資管理学部
題は、拡大し続ける所得格差の解消や人民元相場の
で、01年に中国で初めて物流管理学科を設立した大
弾力化だけではありません。このまま経済成長を続
学としても有名。今年の10月16日には「創立30周年
けるには、本質的に克服しなければならない①環境
記念大会」が開催されます。その北京物資学院に中
問題、②品質問題、そして③物流問題という3つの
国で初めて日本の物流を専門的に研究する日本物流
大きな障壁が横たわっている、と従来から指摘され
研究センター(Japan Logistics Research Center、
ている点を銘記しなければなりません。とりわけ日
略称はJLRC)が設立され、人材育成とともに中国
本と比較すると総人口が1
0倍以上あるだけでなく約
と日本の学術面や産業面での国際交流を推進するこ
2
5倍も国土面積が広大な中国では、物流活動が経済
とになったのです。
成長を支える要(かなめ)になる状況は誰しも容易
に想像できるでしょう。
!
愛知学院大学大学院教授
このように中国における日本の物流理論や物流実
務を積極的に取り入れようとする新しい動向は、モ
中国における物流は、1
9
7
8年から推し進められた
ノづくり産業や流通産業を中心に優れた物流機器、
改革・解放政策の時代に日本から物流概念を導入し
物流システム、物流関連技術、さらに物流ソリュー
て以来、3
0年あまりにわたって発展してきたと言わ
ションをグローバルに提供してきた日本のマテハン
れています。したがって、中国の物流は理論的かつ
業界に大きなビジネスチャンスを提供するのではな
実務的に日本の影響を強く受けているわけです。た
いかと期待されます。マテハン業界も中国から目が
とえば物流コストは氷山のように海の上に顔を出し
離せない時代になってきました。
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0月
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インタビュー
国際交流委員会の取組みについて
日本MH協会 国際交流委員長:安藤 弘一(株式会社 日通総合研究所)
これらの状況を鑑み、海外の情報の収集や提供、連絡
調整等を行い、普及啓発事業を実施する必要があるとの
考え方から昨年より「国際交流委員会」を発足いたしま
した。
本委員会では、海外友好団体の訪日団受け入れや、海
外視察団の派遣、海外関連団体との一層の連携強化・交
流、提携をはじめ国際的な MH・物流業界の調査・視察
等を中心に企画推進しております。
2.アジア各国との提携・交流活動
安藤国際交流委員長
アジア各国との交流は視察団の派遣・受け入れを主に
実施しております。
1.委員会発足の経緯
日本経済の不振を救うのは、中国など成長著しい需要
に支えられた輸出にあるといわれています。その背景に
2
0
0
1年3月に中華人民共和国最大の産業機械組織の
「中国機械工程学会」と物流関係の協力協議書を調印
し、同会を通して、北京、重慶の物流企業との交流も行
ってきました。
は日本国内での総需要の厳しさがあり。企業はその存続
1
9
9
0年に設立された台湾の中華民国物流協会とは設
と成長を実現するため、需要減少が続く日本市場に加
立当初から日台交流会、訪日団の受け入れを通じ、台湾
え、需要が増大する海外マーケットで生産し販売するよ
の MH・物流技術発展に貢献して参りました。また、同
うにビジネスの在り方を変革してきました。
会を通して、香港物流協会や中華人民共和国の物流企業
ユーザー(荷主)企業も、国内消費に見切りをつけ海
との交流を行っております。
外を基盤にするビジネスモデルが定着しつつあり、それ
最近では、韓国商工会議所を通じ、大韓民国の物流企
に引っ張られる形で我々 MH・物流業界も、今後伸びし
業やユーザー動向の調査を開始しており、とりわけアジ
ろが期待されるアジア圏を中心とする海外マーケットへ
ア各国とは行政レベルの提携・交流活動を展開しており
のより一層の進出は必須です。
ます。
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インタビュー:国際交流委員会の取組みについて
最近の海外交流(中国・台湾・香港)活動一覧
1
9
9
8年
7月22日∼26日
98年度日台 MH 交流団派遣
―台北国際物流自動化展及び台湾企業視察―
10月1日
中華民国物流協会訪日団と日台 MH 交流会開催
10月24日
中国機械工程学会物流技術考察団来日
11月4日
中国機械工程学会物流技術考察団と日中 MH 交流会開催
8月25日∼29日
99年度日台 MH 交流団派遣
―台北国際物流自動化展及び台湾企業視察―
10月26日
中華民国物流協会訪日団と日台 MH 交流会開催
3月10日
中華民国食品工業発展研究所訪日団来日
―MHR セミナー開催―
10月5日
中華民国物流協会訪日団と日台 MH 交流会開催
11月20日∼24日
第1次日中 MH 交流団派遣 ―上海・蘇州―
―中国国際物流展及び中国企業視察―
3月29日
中国機械工程学会と協力協議書調印
9月11日∼15日
中国機械工程学会本部及び西安、上海支部訪問
10月18日
中華民国物流協会訪日団への物流セミナー開催
11月19日∼23日
第2次日中 MH 交流団派遣 ―上海・蘇州―
―中国国際物流展及び中国企業視察―
12月10日∼11日
台北市で「物流センター設計特別講座」開催
6月10日∼15日
第3時日中 MH 交流団派遣 ―上海・蘇州―
―中国国際物流展及び中国企業視察―
6月19日∼20日
台北市で「物流 ABC 特別講座」開催
10月1日
中国機械工程学会陸名誉理事長との交流会
10月2日
中華民国物流協会訪日団と日台 MH 交流会開催
6月9日∼13日
第4次日中 MH 交流団派遣 ―上海・蘇州・南京―
※SARS の為、中止
8月16日∼20日
第8回中国国際物流展及びセミナーに参加
10月27日∼
中国機械工程学会幹部(宋秘書長他)訪日
11月2日∼5日
中華民国物流協会と共催
11月10日∼13日
中華民国物流協会訪日団受入れとセミナー開催
1
9
9
9年
2
0
0
0年
2
0
0
1年
2
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2年
2
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0
3年
台北市で「物流特別講座」開催
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インタビュー:国際交流委員会の取組みについて
2
004年
4月17日∼24日
中国機械工程学会王副秘書長訪日受入れ
6月7日∼11日
第4次日中 MH 交流団派遣 ―上海・蘇州―
10月3日∼9日
中華民国物流協会訪日団受入れとセミナー開催
11月1
8日∼19日
中華民国物流協会と共催
台北市で「物流特別講座」開催
6月15日∼16日
中華民国物流協会と共催
台北市で「物流特別講座」開催
8月12日
香港物流協会「香港物流大会」へ講師派遣
9月23日∼26日
中華民国物流協会「年度特別講座」へ講師派遣
11月1日
中国機械工程学会「国際物流技術フォーラム」に役員派遣
9月2日∼3日
中華民国物流協会「物流特別講座」への講師派遣
10月3日
創立50周年記念式典に中国機械工程学会陸元理事長臨席
同会物流工程分会訪日団受入れ(周秘書長団長)
10月9日∼13日
セマットアジア2
0
0
6視察団派遣
10月1日∼5日
中華民国物流協会訪日団受入れとセミナー開催
12月3日∼8日
セマットインド・タイ視察団派遣
9月8日∼12日
中華民国物流協会訪日団受入れとセミナー開催
12月2
6日∼29日
中華民国物流協会「物流特別講座」への講師派遣
10月2
1日∼22日
中国太倉市200
9海峡両岸港口物流興製造業合作対話退会に参加
9月12日∼18日
中華民国物流協会訪日団受入れとセミナー開催
10月2
7日∼31日
セマットアジア20
1
0 視察団派遣(予定)
2
0
0
5年
2
0
0
6年
2
0
0
7年
2
0
0
8年
2
0
0
9年
2
0
1
0年
3.今後の課題
しております。
(プログラムは前付 2 をご参照ください)
今後は、米国、欧州や BRICs を中心とする新興国へ
本年度は、アジア地区をカバーする総合物流展
も視察団等を積極的に派遣並びに団体との連携を通じ、
「CeMAT アジア」への視察団を 10 月に派遣いたしま
我が国の MH・物流技術を紹介し、当会会員企業にビジ
す。展示会見学の他、蘇州、杭州の MH、物流事情の見
ネスの側面から貢献して行きたいと考えています。よろ
学・交流を予定しておりますので皆様のご参加をお待ち
しくご協力をお願いいたします。
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MHジャーナル
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特 集
ここまで進んでいる国際物流
依然として先行き不透明な状況が続く日本経
交流による一層の進歩・発展等を目的として発足
済、国内市場の需要増大は、ここしばらくは期待
しました。協会発足の契機となったのが、同年の
できそうもありません。一方中国、インドを中心
運搬専門視察団の米国派遣だったこともあり、当
とするアジア各国の成長が世界経済を牽引する構
初から海外の物流事情・動向などの情報収集や提
図は、グローバルな規模でサプライチェーンの構
供を協会の主要活動のひとつにして取り組んでき
築、また現地も含めた生産・流通の合理化取り組
ました。
近年では、中国をはじめアジアの国・地域への
みへの起因となりました。
そこで今回、本誌の特集は「国際物流」をテー
交流団の派遣や、各地からの訪日団の受け入れな
マに、物流企業各社が各国(インド・ロシア・カ
どを中心に、MH 業界の普及啓発事業を推進して
ザフスタン・中国・韓国)での事業活動を通じて
います。
のレポート、中国・スウェーデンのマテハンシス
こうした活動を背景に 2009 年、協会内に「国
テム事例、さらに韓国と日本の家電メーカーにお
際交流委員会」を設置し、連携・交流強化に努め
けるグリーン物流に関する考察など幅広くご寄稿
ています。
さまざまな国々でご活躍される各社からの貴重
いただきました。
当協会は、1956 年に
①マテリアル・ハン
ドリング(マテハン、MH)理論適用による効果
の検証
②管理・運用技術の発展
③会員相互の
な資料が、読者皆さまの各国の状況を理解するた
めのお役に立てればうれしく思います。
(記
村矢
輝、田口清栄)
Material Handling Journal No 263
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特集
●ここまで進んでいる国際物流●
イ ンド の 物 流 動 向
インド日本通運株式会社
副社長 林 和彦
はじめに
かし、増大するニーズに対して道路・鉄道や港湾・空港
筆者がインドに赴任してきたのは20
08年1月末のこ
施設、行政システムなどの整備が追いつかず、さまざま
とです。当時すでに日系企業のインド進出熱は加熱して
な輸送場面で問題が多発するようになってきました。こ
きており、同年1月のインド日本大使館の発表によると
こではインドにおける物流動向を紹介することでその実
日系企業の数は438社(5
55拠点)となっていました。
態を少しでも理解していただければと思います。
その後、進出企業の数は増加の一途をたどり、直近の発
表(少々古いですが2
009年1
0月)では62
7社(1,
0
49拠
点)となっております。地域別の拠点数をみると、デリ
1.道路とトラック輸送
ーとグルガオン、ノイダを含む北部地域に3
69拠点、コ
2
0
0
9年度のインドにおける四輪車の生産台数は約29
0
ルカタを含む東部に6
5拠点、ムンバイとプーネを含む西
万台で5年前に比べて倍増しています。対して、道路面
部に268拠点、チェンナイとバンガロールを含む南部に
積は最近の新聞報道によると約2
0%しか増えておら
3
4
7拠点となっており、かなり限られた地域に集中して
ず、必然的にほとんどの都市部では以前にも増して渋滞
いる傾向がみられます。これは人口が多い地域に進出し
が発生するようになりました。このため指定時間内の集
がちなこともありますが、メーカー、とくに自動車メー
荷や配達が非常に困難になりつつあり、生産や販売の計
カーの周辺に関連業者が集中しつつあることが大きな理
画に悪影響を及ぼしかねない状況になっています。
由です。上に述べた都市には日系をはじめ各国の自動車
加えて、
次のような問題が以前から指摘されています。
メーカーが工場を持っており国内外の部品、素材メーカ
*道路の舗装が悪く、とくに雨季の後は穴だらけとな
ーも多く集積しています。
る道路が多い。
*交通ルールが守られていない。一方通行を逆走、交
差点で我先に突き進む、定員オーバー、過積載など
ルールを無視した運転が多い。郊外では飲酒運転や
スピードオーバー、過積載による事故が多く、郊外
で渋滞に巻き込まれると多くの場合トラックの事故
が原因である。
*信号機が設置されていても常時作動していないもの
が多く、渋滞緩和に役立つどころか助長している感
さえある。
*自動車専用道路はほとんどなく、National Highway
と呼ばれる1級国道にも歩行者、自転車、農作業用
このように大変な勢いで増加する日系企業の数に比例
トラクター、オート・リキシャと呼ばれる三輪車な
して物流に対するニーズも非常に高まってきました。し
どが乗用車やトラックなどの間を縫うように走って
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MHジャーナル
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0月
イ ン ド の 物 流 動 向
いる。さらには、ノラ犬、牛、馬、ヤギ、羊、豚、
ロバ、ラクダなどが、放し飼いなのかどうかは不明
だが、都市部でも道路上をのんびり歩いており、さ
ながら「路上」動物園の趣がある。ちなみに、筆者
はゾウを見たことがなかったが、つい最近ニューデ
リー空港の新ターミナルへの入口道路で出くわした
(人が乗っていたので放し飼いでないのは明らかで
あった)
。
*州を越境する際に商用トラックは車両登録書類、税
金納付書類、トランジットパスなどを提示せねばな
写真.
3 定員オーバーのオート・リキシャ
(座りきれ
ない乗客が外に足をかけて乗っている)
らず手間がかかる。
しかし、後述するように鉄道輸送の輸送品質が悪いこ
とから、今後も国内輸送の主役はトラックであるのは間
違いないと思われます。最近では大都市を中心にインフ
ラ整備が進んできており、デリーやチェンナイ、バンガ
ロールでは地下鉄や高架道路の建設が行われています。
数年後にはタイのバンコック並みの交通体制に達するの
でないかと思われます。
写真.
4 同じく乗り合いタクシー
写真.
1 デリー市内の雑踏
写真.
5 逆走してくる乗用車(上記3枚の写真は
いずれもデリー郊外のNH8)
2.海上貨物
(港湾と鉄道輸送)
インドにおける主要港は政府直轄の1
2の港ですが、こ
のうちムンバイに隣接するナバシバ港と南部にあるチェ
ンナイ港が取扱量では抜きん出ています。2
0
07年の統
計によると、ナバシバ港のコンテナ取扱量は4,
0
60,
00
0
TEUでインド全体の約6
0%、チェンナイ港のそれは
1,
1
2
8,
0
0
0TEUで全体の約1
7%を占め、両港合計では
写真.
2 デリー郊外の国道8号線(NH8)
を走る
過積載のトラック
5,
1
8
8,
0
0
0TEU、7
7%となっています。ナバシバ港はイ
ンド最大の都市であるムンバイと首都であるデリーへ
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イ ン ド の 物 流 動 向
の、チェンナイ港はインド南部の工業都市チェンナイと
バンガロールへの夫々ゲートウェイであり、それなりに
港湾設備も整備されています。しかし、次のような問題
点があげられます。
3.航空貨物
インド発着の航空貨物は2
0
0
2年の約8
4万トンから
2
0
0
6年は1
5
6万トンと約2倍の伸長を見せていますが、
*キャパオーバーのコンテナ取扱数による搬出遅延。
海上貨物と同じようにさまざまな問題が顕在化していま
*取扱機材の不足と老朽化による遅延。
す。
*港湾作業員のストライキ、モンスーンなどの気象条
件による遅延。
*混雑してくるとコンテナの「先入れ、先出し」が行
われないことによる遅延。
*ナバシバ港においては今年に入ってからのコンテナ
取扱数の激増により、通常3,4日で搬出されると
*主要な空港に貨物が集中し貨物ターミナルが常に満
杯状態にあるため搬出が遅れぎみである。
(貨物はデリーに3
0%、ムンバイ3
0%、チェンナ
イ2
0%、バンガロール1
0%と主要4空港に集中)
*貨物取扱の機材、設備が老朽化しておりダメージと
作業遅延が多発。
ころが最悪時には2週間から3週間かかるようにな
*貨物の取り扱いが極めて荒く、ダメージが多発。
った。
*空港貨物ターミナル内では貨物チェックの立会いや
現在は船社による受託制限などにより取扱数を減
らしたため、ほぼ通常のレベルまで戻ってきたが、
写真撮影が原則できないためブラックボックス化し
ており作業品質の改善が期待できない。
今後インド向けコンテナはますます増加すると思わ
れるので抜本的な解決策が望まれる。
最近になってデリー空港やバンガロール空港のように
*内陸部にはICD(Inland Container Depot)と呼ばれ
主要空港のターミナル新築や新空港の建設が行われてき
る鉄道とトラック輸送の接点とも言うべき保税ター
ており、それに伴い貨物ターミナルも新築が進んでいる
ミナルが点在しており、ここへの港からの輸送は鉄
ので狭隘化の改善や新型の設備、機材の導入がある程度
道による保税輸送が一般的である。しかし、単線が
図られつつあります。
多いため海上コンテナの輸送は旅客列車や農作物な
どを運ぶ貨物列車より後回しにされることが多く、
スケジュールは安定していない。また、貨物鉄道は
4.通関事情
鉄道省の子会社であるCONCORの実質的な独占に
インドにおける輸入通関は次のようなルールとなって
より運営されており、輸送効率が悪い。このため輸
おり、先進国と比べてかなり面倒で時間を要す手続きと
入者によっては港で輸入通関を行って、コスト高に
なっています。
なるがトラックによる輸送を行うところもある。
*輸出入者登録が必要(IEC=Importer Exporter Code
が必要)
上記のような問題を解決しようと現在進行中のプロジ
ェクトが、円借款を活用し、デリーとムンバイの間約
1,
50
0kmの間に貨物専用鉄道を敷設するDFC(Dedicated
*通関書類はオリジナルであること。
*親子間取引の場合は取引価格を証明する書類が必
要。
Freight Corridor)という計画で、昨年日本とインド両政
*非居住者による通関は不可。
府 が 合 意 し た デ リ ー・ム ン バ イ 間 産 業 大 動 脈 構 想
*税関システムへの事前貨物情報登録が必要。
(航空貨
(DMIC)の核となるものです。ただし完成予定期日や
物は到着2時間∼1
2時間前=空港により若干違う、
具体的な鉄道仕様などの詳細はまだ明らかにされていな
海運貨物は7日前までに登録完了せねばならない)
いようです。
*原則、分割申告は不可。
(数フライトに分割して到着
しても全量到着するまで待たねばならない=保管料
発生の可能性)
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
イ ン ド の 物 流 動 向
通関上の問題としては次のことがあげられます。
*関税が高率であるため、税関による課税価格の決定
に時間を要す場合がある。
*海上貨物は全量貨物検査であるため許可までに時間
を要す。
*中古設備の輸入にはとくに書類審査に時間がか
かる。
できます。
*自社通関を行うために約1
2
0名の習熟した通関士を
擁し、的確かつ迅速な通関作業を行うことで一貫輸
送を強力にサポートしています。さらに、複雑でわ
かりにくいインドへの輸入に際してのアドバイスな
どコンサルティング・サービスも随時行っています。
*アセアン諸国からインドへの輸出が増えつつあるに
*税制が複雑で非常にわかりづらい。
もかかわらず、リードタイムやトレースが正確に把
*「袖の下」を要求する税関吏もいる。
(書類不備など
握できない情況にあった海上貨物の輸送品質を改善
は絶好のターゲット)
するため、タイからチェンナイへのTruck & Sea新
サービス「メコン・インド・エキスプレス」を開始
上記1−4に述べた各種の問題点については、在イン
しました。シンガポールでのトランジットを回避す
ド日本商工会から日本大使館を通じてインド政府へ毎年
ることで従来のサービスに比べて6−7日のリード
建議書を提出し、改善と解決を強く訴えています。日本
タイムを短縮することができます。
以上に官僚主義的なインド政府のことなので一朝一夕に
改善できるとは期待できませんが、毎年多少なりとも改
善が図られているのは事実です。インドでは長い目で何
事も見ないといけないようです。
最後に
「安かろう、悪かろう、それでよかろう」とよく言わ
れるように、低レベルのサービスやオペレーションであ
っても安ければそれでよいという考え方がインドの物流
5.インド日通について
においては主流であったようです。しかし、進出する日
系企業がここまで増えてきて現地生産がますます盛んに
上に述べたような状況は新興国では多かれ少なかれど
なってくると、必然的に今までのインド的サービスでは
こでも似たようなものですが、実際に物流の最前線で業
満足されず日本やアセアン諸国と同等のサービスを期待
務を行っている立場からすると笑ってすませられる問題
されることになります。ここに我々日系物流業者が今後
ではありません。インド日通は次のようなサービスを提
インドで事業を伸ばす道があると考えます。
供して顧客の要望に最大限応えられるように日々努力し
ています。
インドは日本人にとってはアジアというよりもヨーロ
*インド国内1
0都市に2
0拠点を展開し、自社運行のト
ッパの辺境あるいは中東の一部と言った方がわかりやす
ラックでタイムリーな集配サービスを提供すること
いほどに文化的な隔たりがあると思いますが、日系企業
でリードタイムの削減を図っています。
に受け入れられるサービスとオペレーションを提供して
*デリー、ムンバイ、チェンナイ、バンガロールには
倉庫管理システムを駆使した日本水準の物流倉庫を
いくことができればインド物流市場には大きなチャンス
があるだろうと期待しています。
展開して保管配送サービスを行っています。チェン
ナイ・バンガロール・ポンドチェリでは日系自動車
お問合せ先
メーカーに生産部材のミルクラン配送業務を提供し
〒1
0
5−8
3
2
2
ています。
東京都港区東新橋1−9−3
*業界最大規模の海外ネットワークを生かし、インド
日本通運株式会社 広報部
に発着する海運・航空貨物のスペースコントロール
TEL:0
3−6
2
5
1−1
4
5
4
を納期に合わせて行うことができます。
FAX:0
3−6
2
5
1−6
6
8
5
また、ITネットワークにより到着貨物の情報をい
URL:http://www.nittsu.co.jp/
ち早く入手し、税関事前登録を滞りなく行うことが
Material Handling Journal No.
263
!
特集
●ここまで進んでいる国際物流●
佐川グローバルロジスティクスの
中国向け通販輸送に向けたツール戦略
佐川グローバルロジスティクス株式会社
経営企画部 経営企画課・ITシステム課 課長
池田
佐川グローバルロジスティクス!(略称 SGL)は、
2
0
07年3月に当時の佐川グローバルエクスプレス(存
続会社)と旧佐川グローバルロジスティクスが統合して
発足したSGホールディングスグループの中核ロジステ
立秋
ます。
その中国市場は1
3億人とも言われる人口にも代表され
るように、魅力的な販売市場です。
日本の商品は安心・安全だけでなくデザイン性等にも
優れ非常に人気のある商品群であり、中国人も欲しい外
ィクス企業です。
佐川急便グループ時代の佐川物流サービス、
佐川通関、
国商品としての上位に位置しておりますが、残念ながら
佐川急便国際営業部、海外現地法人がSGホールディン
中国への販売は貿易に係わる各種規制だけでなく、言語
グス体制により統合された会社であり、国内・海外の倉
の問題、海外送金規制を含む決済の問題等日本国内で商
庫事業、国際航空輸送、国際海上輸送、そして日本国内
品を販売するような簡単な市場ではございません。
は全国集配網を確立している佐川急便との連携により、
陸上輸送・航空輸送等の配送網とも連携した国際一貫輸
送網の強化・確立を進めております。
佐川グローバルロジスティクスは上海市内の宅配専門
会社でもある上海大衆佐川急便物流を2
0
0
2年に設立
し、同社が中国国内のテレビ通販・インターネット通販
また、2010年2月より中国国内での検品・検針事業
の宅配を行っている中で、培われたノウハウと、日本国
を行っているシロックス上海・青島シロックスをグルー
内では佐川急便が保有する日本の通販事業者向け国内集
プ傘下に加えることで、更に日本向け商品調達物流への
配・システムノウハウをひとつにした新しい中国向け海
サービス強化も進めております。
外通販のサービスを現在展開しております。
国内外で3PL、一貫輸送の拡大を進めている中で、
その中でも特徴的なサービスとして多言語対応の輸出
日本のお客様にとって今や中国市場は世界の工場から世
出荷支援機能・海外在庫管理機能を搭載した海外送り状
界の消費地へと変貌しており、日本企業にとって魅力的
発行システムを2
0
1
0年2月より本格的にサービスを開
な販売市場へと変わりつつある中国への販売戦略を考え
始し、多数引き合いを頂いております。
るお客様がこの数年で非常に増加している状況です。
中国向け輸出業務では日本国内の集配・中国向け輸出・
その理由のひとつとして少子高齢化の日本経済の中
中国国内配送と日本語・英語・中国語と多言語対応が可
で、現在も勢いのある業態として通信販売事業による購
能なシステムサービスが必要でありますが、この分野に
買が市場をリードしておりますが、中国でもここ数年の
ついては残念ながら現在はまだ大きな市場ではないの
経済成長により所得増加とインターネット含む通信販売
で、大手物流会社のほとんどは大きな投資をしてまで、
事業がアリババ様を筆頭に目覚ましい躍進を遂げており
このサービス領域については提供しておりません。
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
佐川グローバルロジスティクスの中国向け通販輸送に向けたツール戦略
【海外送り状発行サービスの全体概要】
<日本向け輸入出荷>
<中国(海外)輸出出荷>
∼海外通販対応
Material Handling Journal No.
263
!
佐川グローバルロジスティクスの中国向け通販輸送に向けたツール戦略
佐川グローバルロジスティクスは日本の佐川急便と中
WEBシステムですので、お客様にご準備頂く機器は
国の上海大衆佐川急便物流を中心とした宅配インフラ網
インターネットが接続出来るパソコンとプリンターがあ
を繋げるサービスとして、通信販売事業向けのサービス
れば、基本的にはどこでも出荷作業が開始出来ます。
を開始しました。これは、日本国内に出荷するのと同じ
利用条件としましては海外倉庫もしくは国際輸送、フ
感覚で中国へ商品を出荷出来ることを目指したサービス
ォワーディングを当社にて受託させて頂くこととなりま
であり、既に数社にご利用頂き中国向け海外通販を行っ
すが、当社において、商品の保管・輸送と提供するシス
ております。
テムサービスを合わせてご利用頂くメリットは単体で導
入されるサービスと比較しますと、ワンストップで全て
海外送り状発行サービスの特徴としましては、日本
の対応が実現出来るメリットが大きいと考えます。
語・英語・中国語・韓国語による出荷指示情報をお客
様より提供頂き、そこから当社ノウハウにて貿易代行、
今後につきまして、サービスメニューの更なる強化を
現地国内配送をWEBシステムにて提供させて頂いて
進めておりますので、お客様は普段通りの事業を行うだ
おります。
けで、中国という大きな販路への販売に向けた物流トー
将来を見据えて中国現地法人を設立して本格的に中国
国内通販を進められるお客様にとっては日本からの商品
タルサポートサービスの提供を受けることが可能となり
ます。
直送の延長線で、当社中国国内物流倉庫にて商品保管・
出荷を同じシステムの中で実現させられることも、サー
ビスの特長でもあり大きな魅力でもあります。
いつもの佐川急便のセールスドライバーが集荷した商
品のひとつが上海へそのまま国際輸送される時代はもう
そこまで来ております。
日本の企業様が最初にぶつかる問題としては、日本で
利用していたシステムが中国国内では使用出来ないケー
スが多かったり、市場規模を大きく見てオーバースペッ
クでのシステム導入による過剰投資・運用不備が発生
し、その対処方法にご苦労されている企業様が多い中、
当社は必要最低限の機能を標準パッケージとしてご提供
させて頂いております。
そしてお客様のご要望によって機能追加も行ってお
り、必要最低限の機能を最短の納期で安価なシステム使
用料により早期にお客様の事業をサポートする事が可能
となりました。
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
お問合せ先
〒1
4
0−0
0
1
2
東京都品川区勝島1丁目1番1号 東京SRC2階
佐川グローバルロジスティクス株式会社
経営企画部 ITシステム課
主任
芹澤 貴史
TEL:0
3−3
76
8−8
5
1
1
FAX:0
3−3
7
6
8−9
8
1
7
E-mail:t_serizawa@sagawa-global.com
http://www.sagawa-sgl.com
Material Handling Journal No.
263
!
特集
●ここまで進んでいる国際物流●
弊社におけるカザフスタン共和国での取り組みからみた
昨今のカザフスタンでの物流事情について
センコー株式会社
カザフスタンPT担当 アルマティ駐在員事務所
堀口
センコー株式会社(以下センコー)は、200
9年3月
にカザフスタン共和国アルマティ市に駐在員事務所を開
篤史
目指すべきポイント ⇒「中央アジアでの物流会社の
リーディングカンパニー」
設し、物流業にとどまらず商流分野にも進出する事を目
指して各種市場調査を実施し、その成果の一つとして
20
1
0年4月のプレスリリースの通り現地企業(ランカ
スターインフラストラクチャー社(以下ランカスター)
)
2.実際にカザフスタンにやってきて目の当たり
にする現実
と合弁会社設立に合意し、現在アルマティ州ホルゴス地
私は2
0
0
9年4月、前月に設立したばかりのアルマテ
区にロジスティクスセンターを建設すべく作業を進めて
ィ駐在員事務所に赴任した。当時センコーのカザフ向け
いる。
事業は2
0
0
5年以来の主力取扱い貨物であった中古自動
センコーは、売上2,
04
3億円(平成2
0年3月期)でプ
車がカザフスタン政府の「右ハンドル車輸入禁止規制」
レハブ物流における物流のシェアは日本でトップであ
により大幅に現象した事を受け、新たなるカザフスタン
り、石油化学、量販チェーンの物流などを得意としてい
での事業の柱を早急に構築する必要があった。
る。センコーでは国内売上に比べて遅れている海外展開
TCR(TransChinaRailways)を活用した中央アジア向
拡大を目指し、ターゲットを中央アジアの大国であるカ
け輸送を日系企業を中心に売り込みつつ、同時にランカ
ザフスタン共和国に絞り、各種調査を進めてきた。
スターとの合弁事業のF/Sを開始したが、カザフスタン
ここでは本取り組みを通じて垣間見えたカザフスタン
での物流事情について述べたい。
国内の物流事情は日本国内の物流に長年携わっていた私
の想像をはるかに超えるこのであった。
① 貨物情報がタイムリーに取れないもどかしさ
1.何故カザフスタンなのか?
センコーがカザフスタンへの進出を目指したのは以下
ロジスティクスカンパニーであるセンコーにとっ
て、顧客からお預かりした貨物(コンテナ)の位置
情報をタイムリーに提供する事は必須である。しか
し現実はそう簡単には物事は進んでいかない。業務
の理由による。
①資源超大国である
提携先のエージェントであっても「情報がありませ
②ポストBRICS国家(経済成長国)である
ん」の一言で返答してくる状態。「日本のお客はそ
③中継大国(いにしえのシルクロードの中心)である
んな返答で許してくれないよ」との思いを押し殺し
④ロシア・東欧向け第3ルート国(TSR・海上輸送に
てなんとか情報を取るべく再度の要請。
加えて)である
結局、僅かな数のコンテナの位置情報を取得する
⑤現状は物流低開発国である
のに何度も何度もエージェントにコンタクトをし
⑥大手物流会社にとって未進出国である
て、やっとの思いであまりタイムリーではない情報
を取得する現状。
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
弊社におけるカザフスタン共和国での取り組みからみた昨今のカザフスタンでの物流事情について
② 荷役作業スタッフの安全意識の落差
現地にて作業委託する作業員は日本では当たり前
である保護具(ヘルメット・安全靴・保護手袋)の
<国境都市ホルゴスとは>
・カザフスタンと中国にまたがる国境都市の地名であ
り、いにしえのシルク・ロードの通り道。
着用に対する意識が非常に低く、準備もされていな
・カザフスタンと中国の車輌輸送唯一の交通路。
(関所)
い事が多い。日系の顧客からは当然のように指摘を
・将来は鉄道ルートも開通し、カザフ・中国の中心的な
受ける事は火を見るより明らかなので弊社にて準備
し、着用を促す状態が当初しばらく続いた。
③ タイムリーなデリバリーを阻害する都市部の渋滞
地下鉄が整備されていないカザフスタンでは朝夕
ゲートウェイとなる。
・既存道路の改修に加え、ホルゴスを起点としてモスク
ワ経由ベルリンまでの高速道路建設計画あり。(世界
銀行が2
5億US$の融資を決定済み)
の通勤の足はマイカーとバスに絞られるが、共に陸
<ICBCホルゴスとは>
上交通機関であり、また幹線道路等の設備があまり
・2
0
0
5年にカザフスタン政府と中国政府で合意された
進んでいないので日中の道路渋滞は想像を絶するも
「戦略的共同国家プロジェクト」として上記ホルゴス
のがある。また駐車場整備という概念があまりな
地区に設置された経済特別開発区の名称
く、路上駐車が半ば公然と行われるので道路の路肩
・両国の産業・貿易振興を目的として両国にまたがるホ
を占拠する駐車車輌が渋滞悪化の一因となっている。
ルゴスエリアに一大複合都市と物流基地を建設中。
④ 進まない荷役機器の改善(最新化)
カザフスタンは旧ソヴィエト連邦の崩壊により独
ICBC域内は経済特別開発区(フリートレードゾー
ン)ゆえビザ不要。
立した国家であり、未だ建国して20年弱という背景
がある。カザフスタンの物流業界を支えているのは
カザフスタンの東の玄関口であるホルゴス、カスピ海
旧ソ連時代から使用されている機器であり老朽化が
に面し古くより交易で発達した西の港湾都市アクタウ、
進んでいる。今後荷役効率を上げていくには荷役設
そしてカザフスタン最大の商業都市アルマティ。センコ
備の近代化が急務となっている。
ーはこの合計3ケ所に物流拠点を設立し、経済発展が続
く中国・ロシアと日本を結ぶ物流のハブ拠点に位置付け
3.
「2
1世紀のシルクロード」
を求めて
現在センコーでは前述のとおり現在アルマティ州ホル
ゴス地区にてロジスティクスセンターの設立準備を進め
る。
4.現状の中国→カザフスタンのトラック輸送の現状
ており、来年早々にも開業の予定である。これまでセン
中国からカザフスタンへのトラックでの輸入の窓口で
コーはTCRを使った鉄道コンテナ輸送事業を中心にカ
あるホルゴス。しかしながら現状ホルゴスには保税倉庫
ザフでの事業を進めてきたが、ここホルゴス地区には将
も無ければ税関の事務所もなく、カザフスタンのトラッ
来的な計画はあるものの現状は鉄道は敷設されていな
クは予め中国のビザ(カザフスタン人が中国に入国する
い。
にはビザが必要)を取得し、時間を掛けてカザフスタン
ではなぜセンコーはこの地にロジスティクスセンター
を設立するのか。
出国→中国入国の手続きを行い、その時点で初めて中国
側の積替倉庫に入庫し、カザフスタン向けの商品を積載
それはこのカザフ南部が「いにしえのシルクロードの
し、また時間を掛けて中国出国→カザフスタン入国並び
地」
であり、このホルゴス地区が中国との国境に位置し、
に積載商品の保税輸送申請を受けて、晴れて税関施設の
トラックによる中国からの輸入におけるカザフ側の玄関
あるアルマティに向かう事ができるというとても非効率
口だからにほかならない。
な状態である。
中国とカザフスタンの国境では国境を先頭にカザフス
ここで少しホルゴス地区について述べる。
タン国籍の大型トレーラーが延々と長い列を作っている
Material Handling Journal No.
263
!
弊社におけるカザフスタン共和国での取り組みからみた昨今のカザフスタンでの物流事情について
という光景を目にする事ができる。その数少ない時でも
調印が遅れていた関係で実質的には7月6日よりスター
4
0∼50台、多い時期だと1
00台を越える。この大量のト
トとなった。
レーラーは中国からカザフスタンに商品を輸送する車両
これにより国境都市ホルゴスは単にカザフスタンと中
であり、中国に入国する為にこうした長い列を作るので
国との国境というだけではなく、「世界の工場」と表現
ある。
される工業生産力を持つ中国に対しての関税三国同盟と
しての国境ハブ拠点と位置付ける事ができ、今後国境都
5.国境都市ホルゴスの存在意義
市ホルゴスの物流サービスに対する重要性が一層増すも
のと考えられる。
このような現状の改善、そして中国とカザフスタンの
交易の発展を目指して経済特別開発区としてICBCホル
ゴスは現在整備が急ピッチで進められている。
7.最後に
現在鉄道輸送における国境となっているドスティック
中央アジアは人口約6千万人のマーケットであり、決
はその厳しい立地条件からこれ以上の設備の増強が図れ
して巨大な市場とは言えないかもしれない。しかしなが
ず、以前より積替作業の許容能力の限界に達している事
ら特にカザフスタンを筆頭に近年の経済発展には目覚し
は周知の事実である。今後はトラック輸送のみならず鉄
いものがあり、成熟した欧米諸国や日本から見るととて
道輸送についてもホルゴスにて対応できるよう中国・カ
も魅力的な新興市場といえる。
ザフスタン双方において鉄道線路の敷設工事を計画・施
工・一部はすでに完成しているという状況である。
この新興市場への進出のカギとなるのは間違いなくロ
ジスティクスである。沿岸地域を有していない中央アジ
カザフスタン政府にとってホルゴス地区を整備する最
アに対するアクセスの中心となるのは鉄道であり、トラ
大の目的は「密輸の撲滅」にあると推測されている。一
ックである。今後、鉄道線路の新規敷設ならびに高規格
説によると中国からカザフスタンに入国しているとされ
道路網の整備拡張により「2
1世紀のシルクロード」の中
るトラックの台数は中国側の把握台数とカザフスタン側
心に位置するカザフスタンの重要度がますます高まって
の把握台数では実に10倍程度の開きがあるとされ、その
くるのは紛れも無い事実である。
差については密輸と推測されている。カザフスタン政府
が徴収出来ていない税収は推定で約2千億円と推測され
ており、ホルゴス地区に税関事務所を設置し、密輸を防
ぐ事はカザフスタン政府にとって必要不可欠な命題とな
っているのである。
お問合せ先
センコー株式会社
6.ロシア・カザフスタン・ベラルーシによる
関税三国同盟発効の影響
カザフスタンPT担当 アルマティ駐在員事務所
堀口 篤史
1
7
2 Dostyk Avenue,7th floor
今年1月に正式発効したロシア・カザフスタン・ベラ
0
5
0
0
5
1,Almaty, Republic of Kazakhstan
ルーシによる関税三国同盟により、三国域内については
tel:+7
(7
2
7)
2
6
1−9
0
4
5/fax:+7
(7
2
7)
2
6
1−9
0
4
6
流通・物流量ともに飛躍的増加が見込まれている。当初
url : http : //www.senko.co.jp
7月1日より始動する事になっていたが、ベラルーシの
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
ま め 知 識
(シリーズ!)
文/佐藤
■食物アレルギーが増えている
誠
■暮らしの中で使われるGPS
………………………………………………
…………………………………………………………………
……………………………………………………
…………………………………………………………………
体をつくるはずの食べ物が、体に不利益な免疫反応を起
こしてしまう。今、食物アレルギーに悩む子どもが増加傾
向にあります。本来なら健やかな成長や、体のために摂取
する食べ物がなぜ「栄養という利益を生むための食べ物」
が「体に不利益なアレルギー原因物質」となってしまうの
でしょう。
携帯電話やカーナビに使われているGPS。日本語では「全
地球測位システム」と訳されているように、今地球上のど
こにいる(ある)のかがわかるシステムです。
そもそも免疫反応とは、細菌やウィルスなど危険な異物
が体内に入ってきたときに、それらを撃退する仕組みのこ
と。つまり食物アレルギーは、アレルゲンとなる対象の食
べ物が入ってきたとき、それらを危険な侵入者と誤って判
断してしまうのです。患者が子どもに多くみられるのは、
消化能力が未熟なことが原因ともいわれています。
アレルギー反応を避けるためには原因となる食物を摂取
しないことが基本です。しかし最近は自己判断もしくは母
親が独断で制限をしてしまい、その結果栄養面・成長面で
問題が発生するなどの弊害が起きていることがあります。
きちんとした診断・治療を受けて制限していくことが大切
です。
また、じんましんなど皮膚症状だけでなく、消化器や呼
吸器など臓器にも反応が及ぶことをアナフィラキシーと呼
びます。アナフィラキシーは、重篤な症状になることが多
いため、医療機関の処方により平成1
7年から自己注射が認
可され、アレルギーを取り巻く環境は変わりつつありま
す。
アレルギー患者が増えてしまったのは、環境や生活様式
の変化などさまざまな理由が折り重なっての結果といわれ
ています。うまく付き合って「共存」していく時代が来て
いるのかもしれません。
※参考:「アレルギーはなぜ起こるか/斎藤博久著」
(講談社)
GPSはもともと、軍事利用目的で航空機や船の位置を正
しく把握するために開発された技術。アメリカ国防総省に
よって1
9
7
0年代から人工衛星の打ち上げが始まっていま
す。一部制約はあったものの、衛星からの信号を受信でき
る機器があれば世界中のどこでも位置を測定でき、その技
術は開発当初から全世界に開かれていました。その後2
0
0
0
年にはその制約も廃止され、わたしたちが使っているGPS
の精度も大幅に向上しています。
さてこのGPS、わたしたちの暮らしのどんなところに使
われているのでしょう。カーナビは自分の車のいる場所を
特定し、目的地へのルート案内をする機器ですが、自車の
位置特定にGPS衛星が使われています。携帯電話の機能と
しては、位置情報のほかに近くの店などを紹介するサービ
スもありますね。また電話の通信機能を利用したことで、
知りたい時に子どもや高齢者の現在位置がわかるようにも
なりました。これを応用したのが荷物の位置情報管理、警
備会社の現場駆けつけシステム、バス停にバスが近づくと
知らせてくれる運行情報システムなどです。
さらに地図の作成や地殻変動の観測、津波の観測といっ
た、人による観測がむずかしい場所でも活躍。変わったと
ころではアホウドリのような大型の渡り鳥の経路を知るた
めにも使われています。
軍事利用目的で生まれながら、今ではより便利で快適な
暮らしのために使われる技術、GPS。これからも暮らし、
防犯、科学と幅広い分野でわたしたちの知らないところで
活用されることでしょう。
※参考:
宇宙航空研究開発機構
http : //www.jaxa.jp/
教育情報ナショナルセンター http : //www.nicer.go.jp/
株式会社 エヌ・ティ・ティ・ドコモ http : //www.nttdocomo.co.jp/
佐藤
誠
有限会社 アッ
ト・イーズ 代表
財団法人 生涯学習開発財団 認定プロフェッショナルコーチ
株式会社 コーチ・
トゥエンティワンクラスコーチ
NLPマスタープラクティショナー
日本FP協会認定AFP会員
e-mail : mac-sato@df7.so-net.ne.jp
Material Handling Journal No.
263
!
特集
●ここまで進んでいる国際物流●
ロシアの物流動向
株式会社 近鉄エクスプレス販売
取締役
井上
(一)ロシア事情
弊社が多くのお客様にロシア物流事情についての説明
を求められたのは、2
00
5年ごろからだったと記憶して
博
製品が大好き、なのになぜ売り込みに来ないのか?原油
価格がじりじりと回復していくなかで、確実に国民所得
は上がっていくとすれば、ロシア向け日本製品でコンテ
ナが足りなくなる日がまた来るのではないかと考える。
いる。ロシア政府が外資導入を積極的に進めており、ヨ
ロシアは広大な国土に、都市が点在している。南は中
ーロッパ系、米系、韓国系の自動車工場の稼動や、すで
国、北は北極海に囲まれており、海上輸送の玄関は極東
に稼動しているメーカーに対しても新しいスキームで輸
の港(ウラジオストック、ナホトカ、ボストーチヌイ港
入通関(関税率の優遇)や経済特区構想が明らかになり
など)と西ロシアのサンクトペテルブルグ港だけであ
つつあった。その後、次々と日系自動車メーカーの工場
る。北米大陸ならば、高速道路での陸上輸送となるが、
建設計画や、家電販売会社設立が新聞紙上を賑わし始め
シベリアなど気象条件が厳しい地域を輸送するには、鉄
たのである。
道が最も重要な輸送機関となる。サンクトペテルブルグ
弊社はロシア現地法人を1
99
5年に1
00%独資で設立し
とウラジオストック(極東)間の鉄道輸送距離は約1万
た。日系輸送業者では最も早く進出した企業のひとつで
キロで、全線電化複線路線で、旅客と貨物の両方を扱っ
あり、全ロシアで輸入通関ができるライセンスを保持し
ているが、
ロシア鉄道のドル箱は歴史的に貨物輸送である。
ている。しかしながら、19
95年当時は日本からの物流
は皆無であり、日本製電化製品などの販売はされていた
が、輸出統計的には欧州の販売拠点向け(オランダ、ド
イツ、フィンランド向けなど)に分類されていた。すな
わち、ロシアの販売代理店などとの契約は「ロシア国境
渡し」の商流がほとんどであった。他方、米国からの物
流はモスクワやサンクトペテルブルグ税関で通関するも
のも増加傾向にあり、弊社のロシア法人の最大のお客様
は米系企業であった。2
00
5年に小職がモスクワとサン
クトペテルブルグを訪問し、市場調査をしたときに愕然
としたことは、欧米、東南アジアでは当たり前の「日本
ブランド」をほとんど見なかったことである。高級車は
ベンツ、アウディ、BMWがほとんどで、電化製品はSUMSUNG、LGなど韓国ブランドばかりが目に付いた。
リーマンショック以降、ロシア経済は停滞し、期待し
たほど日本からの物流は伸びていない。弊社ロシア法人
の従業員と酒を飲みながらの会話では、ロシア人は日本
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
(二)ロシア通関事情
外資開放政策にもかかわらずロシアの輸入通関制度は
旧態然としており、中央政府の方針が地方税関まで周知
徹底されているとは考えにくい。そのことによるトラブ
ルが、多くの日系進出企業を悩ませている。
数百本のコンテナが工場操業開始直前に税関で止めら
ロシアの物流動向
れ、日本から担当者がロシアに飛び、税関と交渉したと
港、空港、駅などの各税関支所に輸入者登録を行い、
の話は頻繁に耳にした。販売会社の立ち上げ、店舗開店
通関業者を指定する必要がある。空港と港の両方を扱う
予定が数ヶ月遅れたとの報道もある。その多くは、経済
業者はほとんど存在しない。また、納税デポジットを行
貿易発展省と地方税間の見解の相違であると聞いてい
なう必要がある。
る。工場の設立は経済貿易発展省が部品の関税率や、ロ
ーカルコンテンツの条件、生産計画などの交渉相手とな
(い)税関ポスト
る。合意後、工場の設備や生産部品などが輸入されるわ
税関ポストとは、日本における保税蔵置エリアのよう
けであるが、例外なく地方税間と輸入者の間でトラブル
なもので、いわゆる通関を行なうために貨物を保管する
が発生し、設備や部品が間に合わないという事態にな
場所である。
る。
個々のケースにより原因は異なるが、日本側の問題と
思われるポイントだけを抽出すると;
港、空港、鉄道駅、国境近辺に存在するのが公共ポス
ト、通常はこのポストで通関する。しかしながら、大手
輸入者などは荷主専用ポストを設置することが認められ
①設立などの交渉は経営企画部門が行い、具体的な輸
ている。急激な経済発展による輸入品の増加に、インフ
送は物流部門が行なった為に、出荷時点でのコミュ
ラ(公共ポスト)の整備が追いつかずに、コンテナなど
ニケーションが取れておらず、書類に不備があっ
が蔵置できなくなった経緯があり、港に到着したコンテ
た。
ナや空港に到着した航空貨物を、自社のポストに移動
②現地の輸入通関は現地通関業者「丸投げ」した。
し、通関をすることが認められた。
などである。
BRICSに共通する物流の問題点は、商流と物流が一致
している必要があるという事である。輸入者が輸出者と
綿密な情報交換を行い、輸入者が求める情報(=税関が
求める情報)に基づいた書類を作成する必要がある。売
り先が第三国であったり、商社が間に入ったりすること
で、輸入に必要な情報が消えてしまったり、運送状とイ
ンボイスの相違などでトラブルになることが多い。
(あ)ロシア税関の組織
ロシア税関は連邦税関局をトップに各地方に管轄税関
があり、その下に港、空港、国境に配置された支所があ
荷主専用ポストは、自社の工場内または隣接した場所
る。日本などと異なるのは、物品税貨物を担当する税関
で設置できるが、税関そのもの、すなわち、税関の支所
組織があり、貨物の一部でも物品税対象の品目が含まれ
をまるごと抱えることになる。事務所、机、PC,食堂
ていると、到着した港や空港にある税関だけでは通関許
なども荷主の費用で提供する必要がある。メリットとし
可されない。
ては、自社専用の税関であるので、部品などの製品紹介
や情報提供が容易で、かつ税関職員を
教育できる。全港的な輸入件数の増加
に影響されず、スムーズな通関が期待
できる。
しかしながら、費用対効果を考えると
採用する企業は限定されるといえる。
Material Handling Journal No.
263
!
ロシアの物流動向
(う)輸入通関の流れ
が西側の感覚で商品を輸入しようとして、初めにぶつか
輸入に必要な書類は以下のとおり
る壁が通関を含めた物流である。
!売買契約書
!B/L(船荷証券)
!荷主作成のInvoice
!荷主作成のPacking List
(三)物流インフラについて
日本から最大のマーケットであるモスクワへの物流ル
! Invoice情報をロシア語訳した文書
ートは、大きく分けて以下の3つである。
!輸入Passport(外国為替管理)
① 海上ルート
!国家統計局の確認書
現状では直行船が無いために、ほとんどがヨーロッ
!取引口座確認書
パのゲートウェイ港での積み替えである。例として、
!納税登録番号証明書
8
0
0
0TEUクラスの大型船からハンブルグで積み替え
!関税/VAT納付書
る場合でも、ハンブルグ港以遠は1
0
0
0−1
5
0
0TEUク
!海上運賃、保険料請求書
ラスの船が主流のために、港で積み残されるケースが
!会社設立契約書 ・輸入通関委任契約書
ある。リーマンショック以降は、貨物が激減したため
・輸入申告書
品目によって必要な書類
!安全証明書(GOST−R)
!自動車・バイク等は車体番号・エンジン番号
!オゾン証明書・衛生サート証明
通関を早めるためのサポート書類
!個々の商品の写真、カタログ ・理由書・念書等
に問題は少ないようであるが、それ以前は慢性的な滞
貨と値上げに悩まされた荷主も多い。
② フィンランド経由トラック輸送
コトカ港などフィンランドの港で陸揚げし、保税の
ままトラックでモスクワまで輸送するルート。弊社も
フィンランドからモスクワまで自社トラックを走らせ
ている。多くの場合、通関は国境で行い内国貨物とし
てモスクワのトラックターミナルに配送する。
**
「混載貨物」に対する税関や保税倉庫業者の認識が
ないため、船社・航空会社B/L(Airway Bill)での
運送が前提となる。
日本側で用意する書類は、英語のインボイス、B/L、
パッキング・リスト、写真程度である。複雑な書類はす
べてロシア側輸入者が用意するものであり、通関業者に
「丸投げ」できない理由である。進出企業のロシア法人
③ 極東港経由ロシア鉄道輸送
日本からボストチヌイ港に海上輸送し、鉄道に積み
替える。鉄道輸送にはダ
イヤは無い。
貨物が集まり次第、発
車するのが原則である。
韓国メーカーなどは、自
社の大型物量を武器に、
専用列車(Block Train)
を仕立て、コンテナ1
0
0
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
ロシアの物流動向
TEU前後で1列車をチャーター輸送していた。
どちらにしても港湾インフラはまだまだ未整備と
①の海上ルートとの比較において、運賃は2倍から3
言わざるを得ない。サンクトペテルブルグからモス
倍であるが、輸送機関が三分の一程度に短縮される。市
クワまでは、鉄道かトラック輸送となるが、8
00−
場を押さえ込む戦略の韓国家電製品が大量に輸送され
1
0
0
0kmのトラック輸送でも時間が読めない。最近
た。完成車輸送専用のワゴンもあり、日本車も輸送され
では、道路建設もすすみ、また全体物量の減少で輸
た実績がある。西から東にはヨーロッパ車両も定期的に
送の遅れは減少しているが、経済回復による輸入増
輸送されている。
大で同様のトラブルが心配される。
② フィンランド経由
(あ)港湾施設と道路事情
フィンランドの港はロシア向け貨物のゲートウェ
各ルートを物流インフラの面から考察する。
イとして昔から整備に力を注いできた。保管する倉
① 海上ルート サンクトペテルブルグ港
庫やコンテナからトラックに積み替える倉庫も林立
前述のように、ロシアの玄関は極東の港とサンク
している。
しかしながら、
ロシア国境税関の混雑と、
トペテルブルグ港を中心とした二つしかない。中国
ロシア領内の道路事情の悪さでトラック輸送にかか
華南地区、アセアン、インドなどからのロシア向け
る時間が不安定である。道路の拡張は計画より遅れ
貨物はこの①ルートになる。しかしながら、サンク
ているとの見方もある。
トペテルブルグ港は地形的にも、拡張することは難
英国および西ヨーロッパ諸国からモスクワ市場へ
しくインフラ整備も遅れている。リーマンショック
の輸送も、混乱する東欧諸国を避け、トラック−海
以前は、港周辺道路に並ぶコンテナトラックが交通
上(フェリーなど)−フィンランド経由陸上輸送が
の妨げや、観光都市でもある街の景観を損ねるとの
主流であった。
理由で、順番待ちを禁止する条例を出したほどであ
③ 鉄道インフラ
る。ソ連崩壊後、政府は民営化を推し進める政策に
結論から言うと、道路よりは鉄道インフラの方が
舵を切り、港の開発、運営を民営化した。そのため
整備されている。極東から西ロシアまで一万キロを
に一部資本家が儲かる貨物の運営しかしなくなり、
トラック輸送しようとは誰も思わない。一定程度の
コンテナターミナルの建設が遅れたとの見解を示す
物量があれば期日性は最も高い輸送方法である。問
評論家もいる。
題はコストと安定的な物量を持っているかという点
である。モスクワ向けにはロシア鉄道公認代理店が
ボストチヌイ−モスクワ間をコンテナ単位で相乗り
輸送サービスをしている。中国からは大量の雑貨、
電気製品などが輸出されており、鉄道輸送(中国鉄
道とロシア鉄道の組み合わせ)で輸送が活発化して
いる。鉄道インフラの整備には、日本政府の力を入
れており官民あげての取り組みが進むと考えられて
いる。
Material Handling Journal No.
263
!
ロシアの物流動向
最近ではCO2排出削減のエコブームもあり、西
弊社がロシア法人を立ち上げてからのロシア経済は大
ヨーロッパからロシアへの鉄道輸送も検討されてい
きく変化した。しかしながら、変わらないのは西側とは
る。ただし、軌道幅の違い(広軌、狭軌)でコンテ
異なる体制である事と、グローバル・サプライ・チェー
ナの積み替えをする必要があり、積み替えに要する
ン全体に横たわる「官僚制度」
「既得権=利権」
「インフラ
時間やコスト、ダメージの危険性を懸念する声も
の未整備」という物流上の問題点である。
BRICsに共通する課題として、「物流」を真剣に取り
ある。
組み、時間と金をかけて検証・実証していく事が成功の
(四)ロシアにおけるSCMの構築
秘訣である。
リーマンショック以前、ロシア経済の超バブル期に石
油関連で大もうけした資本家・企業の誰もが本業以外の
●プロフィ−ル
事業に投資をした。そのひとつに家電量販店、大型スー
氏 名:井上 博
パーマーケットの展開である。小売業は手っ取り早く資
所 属:株式会社 近鉄エクスプレス販売 取締役
金が回収されると判断したらしい。そのような企業から
生まれ:1
9
5
2年2月2
8日(昭和2
7年)
ロシア国内の100万都市(人口)への効果的なSCM構築
学 歴:1
9
7
4年 南山大学 外国語学部
の物流コンサルティングを受注した。当時のプーチン政
権が抱えていた問題は、地域の所得格差である。特に極
東地域、シベリア地域への資金の導入が課題となってい
た。依頼主は政府が地方にバラ撒く資金を目当てに、地
方への店舗展開に投資しようとする資本家である。各都
市に在庫を持ち、家電製品をJITで配達する企画を作成
することになった。とりあえず、8都市を選定しシュミ
レーションを行なった。中国産品がほとんどであったた
めに、全量を鉄道で輸送し、西と東のほぼ真ん中あたり
の鉄道交差駅をCDC(中央倉庫)とする。ターミナル
倉庫はロシア鉄道に建設させ通関済貨物を保管させる。
イスパニア学科
社 歴:1
9
7
4年 4月 入社
主に日本発輸出関連輸送を担当
1
9
8
6年から1
9
9
2年まで近鉄米国法人勤務
1
9
9
2年に関東複合輸送支店
支店長として帰国
2
0
0
2年 輸出営業部 部次長
2
0
0
3年 米国現地法人の社長として渡米
2
0
0
5年 帰国、開発部所属(部次長)
2
0
0
9年1
0月1日 開発部の改称により
SCMソリューション部
2
0
1
0年3月2
6日 取締役就任
各都市の駅にLDC(地方倉庫)を設定するとの素案で
具体的な交渉に入った。CDCは弊社の資本参加も含め、
実現のめどがついた。しかしながら、問題は地方の駅で
の新たな倉庫建設である。地方の有力者との関係を持た
ずには、所詮無理な話であることを学んだ。そこで、依
頼者に倉庫型量販店店舗への設計変更を提案した。
残念ながら、リーマンショック後、依頼主との連絡が
取れない状況になっており現在に至っている。
モノをちゃんと作り、消費者のために便利な店舗で商品
揃えをするとの理念を持った経営者ではなかったのであ
ろう。
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
お問合せ先
株式会社 近鉄エクスプレス販売
取締役 井上 博
〒1
0
8
‐
0
0
7
3 東京都港区三田2−7−1
3
TDS三田ビル5階
TEL:0
3−5
4
4
3−9
4
5
1
FAX:0
3−5
4
4
3−9
4
5
8
E-mail : [email protected]
URL:http://www.kwesales.co.jp
連★載
米国マテハン専門誌抄訳
vol.52
(2010.5∼2010.7)
米国の Modern Materials Handling 誌の内容を会員に海外情報として紹介すべく、近着の記事中か
ら選択抄訳と解説を掲載しています。全文記事については、インターネット上でmmh.comをクリック
して原文を読むことができます。
2
0
1
0年5月号
○雑多なコミック商品を扱うDC
コミック本、小説、ゲーム・フィギュア等のおもち
ゃ、Tシャツ等を扱うダイヤモンド・コミック・ディ
ストリビューターズ社オリーブブランチDC(ミシシ
ーピッツ州)では、2
5,
0
0
0アイテムから日々1,
5
0
0オ
ーダーの出荷を行っている。
従業員は2
0
0人であるが、
ピッキングの核となるのはペーパーレスで、無線端
末、音声システムを利用した4層メザニン構造のピッ
キングモジュールである。ここでは1アイテム1
5ケー
ス以下のものを保管し、ピッキングしている。
るが、鍵となるのはWMSで、これにより在庫、オー
ダーの見える化が向上し、
eコマースに貢献している。
同社では合併により配送先のデパート店舗がこの8
年の間に、倍、倍と当初の4倍に増加し、さらにeコ
マースを始めたため、新WMSをベースとしたMHシ
ステムを必要としていた。
オーダーは1時間に1回、WMSに取り込まれ、W
MSは毎日の朝にピッキングオーダーを作成する。こ
の時点から携帯端末によりオーダーが見え、選択する
と、1オーダーのピッキングの指示が順に与えられる
ようになる。
2
0
1
0年7月号
○アパレルDCでのケースバイケースのピッキング
ここでピッキングしたものは箱に入れ、ピッキングゾ
ーンを廻り、スパイラルコンベヤを経て1階のコンベ
ヤまで搬送される。
1アイテム1
6ケース以上のものはパレットごとに1
階の保管エリアで保管・ピッキングする。
また、もう一つの特徴は、製品の寸法、重量を計測
し、WMSへ登録し、パレット化へ応用していること
である。
アパレル衣料商品を扱うアパレル・グループ社の新
DC(ルイスビル、テキサス州)では、ローラコンベ
ヤ、スパイラルコンベヤ、チルトトレイ式仕分システ
ム、電光表示棚・携帯端末によるピッキングの自動M
H機器の他に、特徴的な衣服用ハンガーのトロリーレ
ールコンベヤを採用している。
これら自動MHにより、1
6,
0
0
0アイテムから年間6
百万数の商品の発送を、5
0人で稼動している。
携帯端末ピッキングは回転のやや遅いアイテムでの
ゾーンピッキング及びハンガートロリーレールコンベ
ヤでの直接ピッキングに採用されている。一方、電光
表示棚は廻りの速いゾーンに使われている。チルトト
レイ式ソーターは頻度が大きく、かつ1ケースに満た
ないピッキングゾーンで使われる。
また、ピッキングゾーンを流動的に変更し、従業員
の相互補充をしながら場合に応じた効率化・スピード
アップを図っている。
2
0
1
0年6月号
○直送とeコマース混在のDCでのMH
アパレル衣料、アクセサリー、化粧品、日用雑貨を
扱うボン・トン・ストア社DC(フエアボーン、オハ
イオ州)では、2
8
4デパート店舗への直送と、eコマ
ースによる消費者への直接配送を同時に行っている。
コンベヤ、自動仕分システムにより自動化を行ってい
Material Handling Journal No.
263
!
特集
●ここまで進んでいる国際物流●
海外のMH納入事例のご紹介
株式会社 ダイフク
広報部
当社は196
9年(昭和44年)、ソ連・ウファ工場(当時)エンジン組立ライン向けのチェンコンベヤシステム、ニ
ュージーランド・NZASアルミ精錬工場のロッディング設備の受注を皮切りに、本格的に輸出を手掛けるように
なりました。以来、日系企業の海外進出はもとより各国企業の生産や物流現場に数多くのマテハンシステムを納入
してきました。これにより当社の海外事業は現在、世界2
0の国と地域に拠点を展開し、海外売上高比率はここ数年
5
0%前後で推移、グローバル企業としての基盤を強固なものにしています。
今回、当社の海外納入事例として、今後一層有力なマーケットとして位置づけている中国、ヨーロッパの著名企
業2社で構築した物流センターのシステムをご紹介いたします。
事例 1
重慶医薬股仆
分有限公司 和平物流センター
医薬品流通で中国屈指の物流センターを稼働。
庫内作業を大幅に自動化、在庫管理・出荷精度も向上
中国最大のドラッグストアチェーン「重慶医薬和平薬
幅に機械化して省力・省人化や保管・処理能力を増強す
局(以下 和平薬局)
」
。医薬品にとどまらず、家庭用の
るとともに、在庫管理・出荷精度も大きく向上するな
医療器具、健康食品やスポーツ飲料、洗剤などの日用品
ど、業界に先駆けた、最先端の物流システムを構築しま
まで幅広い品目を取り扱っています。
した。
その和平薬局を傘下にもつ医薬品卸大手の重慶医薬股
仆
0
0
7
分有限公司殿(本社:重慶市、以下重慶医薬)は2
年4月、物流機能の増強を図るため中枢の物流センター
「和平物流センター」
(同市)を増改築して、パレット自
動倉庫「コンパクトシステム(CS)
」
や高速搬送台車「ソ
ーティングトランスビークル(STV)
」
、物流管理シス
テム(WMS)などの各種マテハンシステムを導入しま
した。入荷からピッキング・補充、出荷までの作業を大
●敷地面積:2万6,
0
00m2
1.物量・アイテム増により新棟建設
●述べ床面積:2万6,
9
30m2
重慶医薬の創業は1
9
5
0年、2
0
0
7年度の売上は6
7億元
(約1,
1
1
9億円)
。現在、1
8の省・直轄市で事業を展開
重慶市は西南地区最大の工業都市で揚子江上流、四川
しており、
2
0
0
1年のWTO加盟に伴う販社向けの薬事法、
盆地の東南部に位置します。人口は3,
23
5万人
(200
7年)
、
GSP(薬品経営質量管理規範)の認証も国内で先駆けて
2
面積は8万2,
400km を有し、国内に4つある直轄市の
取得しています。一方、1
9
9
4年に重慶医薬の子会社と
1つです。
なった和平薬局は1
9
4
5年に重慶市内に1号店を出店。
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
海外のMH納入事例のご紹介
3.商品特性、
機能に応じてフロアを分離
建物は4層構造で、1階は出荷量の多いA品をパレッ
ト単位で保管・出荷。2階から4階まではそれぞれケー
ス、ボウル、ピース出荷に対応するB・C・D品のピッ
キングエリアに割り当てています。
ベンダーから入荷された商品は荷降時にRFTで検品。
A品はパレットに積み付け、フォークリフトで重量棚も
しくはCSに入庫。B・C・D品フロアの補充品もCSに一
時保管します。B・C・D品のうち、入荷後すぐピッキ
スタッカークレーン「ラックマスター」5台、
格納数4,
1
3
1パレットのCS。梁下高さは2
4m。
ングエリアに補充するものはコンベヤで各階まで搬送。
再び台車に積み替えて所定の流動棚、中量棚まで横持ち
したのち、RFTで商品とロケーションを確認してから格
納します。
以降、同市や四川省の各市を中心に店舗拡大を推し進
め、現在の店舗数は2,
20
0を数えます。
出荷は、A品はパレット単位で直接出荷エリアに、ケ
ースはCS2階の専用エリアでピッキングして、コンベ
和平物流センターは、物流合理化を目的に2
0
02年4
ヤで1階の高速自動仕分け装置「ジェットサーフィンソ
月に稼働しましたが、当時のマテハン設備は固定棚のみ
ーター(JSUS)
」
へ搬送し、方面・納品先別に仕分けま
で庫内作業はすべて人手に頼っていました。ただ近年、
す。この専用エリアでは、B・C・D品フロアへの補充
店舗ネットワークの拡充とともに物量、アイテム数が増
のためのピッキングも行います。
大。従来の保管・処理能力では対応することが難しくな
ボウル、ピースはRFTで集品してから、コンベヤで2
ったうえ、伝票や入出庫リストは目視確認のため集品ミ
階の再検品エリアに搬送しチェック・梱包。出荷ラベル
スや誤出荷なども頻繁に発生していました。
を発行・貼付し、ケース出荷分と同様にJSUSで仕分け
そこで重慶医薬は、これらの問題を改善するため旧棟
カゴ車に積み込みます。その後、出荷エリアに移動しト
の隣に新棟を建設して最新の自動化システムを導入する
ラックに再び積み替えて、和平薬局の各店舗や取引先の
ことを決定。国内外のマテハンメーカーなどに入札を公
病院などに届けています。
開した結果、提案内容・設備能力に最も優れていたダイ
フクに発注しました。
(インタビュー)
2.年4
0億元分の物量を迅速・正確に処理
地震にも強いことが証明された
新棟完成により、和平物流センターの総延べ床面積は
3倍以上に拡張。加えて、各種保管・搬送システムや
今年5月の四川大地震では、発生からわずか3
0分後に
WMSにより、平均1
3万ケース、1万5,
5
00SKU(在庫
は物流システムが正常に稼働。ハード・ソフトから弊社
管理単位)を超えるアイテムがストック可能になったう
の管理体制、スタッフまで、すべてが一流レベルである
え、1日当たり2,
000件、1万5,
00
0行と従来の2倍の
ことを証明する結果となりました。本件は国家および重
ピッキングが行えるようになりました。さらに各作業に
慶市から認可された技術改革プロジェクトの1つでもあ
無線ハンディターミナル(RFT)を活用して、検品・集
ることから、今後も全社挙げて運用改善に取り組み、一
品精度も大きく向上。年間4
0億元(約66
8億円)にも及
層の効率化に努めて参ります。
ぶ出荷量を迅速・正確に処理し、素早く発送できる体制
を構築しました。
Material Handling Journal No.
263
!
海外のMH納入事例のご紹介
パレット自動倉庫
中量棚
D品フロア
中量棚
C品フロア
4F
!入荷検品。検品終了後、入荷ラベルを発
行しケースに貼り付ける。
3F
中量棚
#B品フロア
流動棚
2F
"ケースピッキングエリア
$再検品フロア
高速搬送台車
"ケースピッキングエリア。STV3台、ル
ープ方式を採用している。
重量棚
1F
A品フロア
%仕分けエリア
!入出荷エリア
旧棟
#2階のB品ピッキングエリア。RFTで検
品したのち黄色の集品専用コンテナに投
入。
$再検品エリア。数量と商品を1個ずつ確
認しながら梱包していく。
&
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
%シュート数9、
仕 分け能 力
3,
0
0
0ケース/時 のJSUS。
ケース・コンテナはRFTでカ
ゴ車とひも付けされる。
(左)
新棟
高速自動仕分け装置
海外のMH納入事例のご紹介
事例 2
Dagab AB
Stockholm Distribution Center
自動倉庫システムを強化し導入した中核拠点が始動。
物流体制の再構築により大幅な効率化を実現。
スウェーデンに52
0店舗を展開し、4大食品スーパー
タイムの短縮、物流コスト削減などを実現したことに加
の1つに数えられるDagab AB殿(本社:ストックホ
え、将来的な物量増加にも対応できるものになりまし
ルム)は2008年6月、本社近郊に「ストックホルム物
た。物流システムの構築は「ダイフク・ヨーロッパ」が
流センター」を新設しました。
手掛け、Dagab社の物流効率化に大きな役割を果たし
同社は、以前から物流改革に取り組んでおり、2
0
06
ました。
年には同国南部の都市イェーテボリの物流センターにパ
レット自動倉庫「コンパクトシステム(CS)
」と高速
搬送台車「ソーティングトランスビークル(STV)
」を
導入し、商品の入出庫能力を従来に比べ倍増するなど、
大きな成果を挙げています。これに次ぐ新センターでは
CSの設備規模、システム能力を拡大し構築、北部エリ
アの商品供給を効率よく行えるようにしました。
最新のマテハン設備を有する2つの拠点を南北に配置
した同社の新しい物流体制は、店舗に対する納品リード
CSエリア。手前が入庫ライン。
1.格納数1万パレット級の自動倉庫、
さらに、
高能力の搬送システムでフローを最適化
ストックホルムセンターは常温、冷蔵、冷凍の3温度
倍に増強しています。STVは、1つの通路に2台のビー
クルを備えて処理能力を高めているほか、1台が停止し
てもシステム全体は稼働し続けるようにダウン対策とし
ても考えられています。
帯の倉庫で構成されています。CSとSTVは、常温品の
システム導入により、センターでの物流フローは最適
保管に採用しました。CSの規模は6基で、約1万2,
0
0
0
化されました。入荷した商品は入庫ステーションからコ
パレットを格納できます。ラックはユーロパレットのフ
ン ベ ヤ∼STV∼CSへ と
ルサイズ(900mm×1,
400mm)
、ハーフサイズ(9
0
0mm
自動で処理できます。ま
×700mm)どちらにも対応します。中でも2基はハー
た、CSを挟むように配
フパレットを奥行き2列に配置するダブルディープ式
置した2つのピッキング
で、1間口にフルパレットの場合2つ、ハーフパレット
エリアへの補充品も自動
では最大4つが格納可能です。他の4基もハーフパレッ
で出庫され、作業者は出
ト保管への変更が簡単に行えるため、今後、ハーフパレ
庫コンベヤからフォーク
ットの流通量が増加しても、柔軟に移行することができ
リフトで所定の位置まで
ます。また、CS内の在庫ロケーションをフリーロケー
搬送するだけになり、大
ションで運用することにより保管効率を高めています。
幅な省力化を実現しまし
入出庫処理能力は時間当たり最大180パレットで、旧シ
た。
ステムの2.
4倍。イェーテボリセンターと比べても1.
2
入庫ライン
(右)
からSTVへ。
Material Handling Journal No.
263
!
海外のMH納入事例のご紹介
ストックホルム物流センター。
幅28m、
長さ1
02m、高さ1
5mのスペースに1万2,
2
8
8パレットを格納。
再編のスタートとして機能強化したイェーテボリ物流センター。
6基の内2基は、ハーフパレットを奥行き2列で保管可
能。スキッドパレットを扱うため「ラックマスター(RM)」
はダブルフォークタイプを採用。
(ストックホルム)
Göteborg Distribution Center
を余すことなく活用でき、センター内の限られたスペー
既存設備の老朽化対策として、
メイドインジャパンのマテハン技術を採用
スでありながら今後の物量増加にも対応できるようにな
りました。
イェーテボリ物流センターは、スウェーデン南部に展
開するすべての店舗をカバーしています。20
06年8月、
常温品の保管用にCSとSTVで構成した自動倉庫システ
ムを導入しました。従来、常温品はセンターから1
0km
離れた貸倉庫に保管していました。自動倉庫は使用して
いたものの、老朽化が進み入出庫処理能力が不足してき
たことに加えて、将来的に見て保管能力も十分ではなく
なっていました。そこで、物流体制の再編に着手。マテ
ハンメーカー数社の提案の中から、経済性やシステム能
力に優れたダイフク案を採用しました。
貸倉庫で行っていた保管を自社センターに取り込んだ
ことにより、トラックによる横持ちは解消し、時間と経
費を削減できました。また、新システムの稼働により、
従来、時間当たり最大7
5パレットだった入出庫処理能力
は、150パレットと倍増しました。保管能力も天井空間
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
2,
4
00m2の面積に9,
6
9
0パレットを格納できる。
RMは5台、高さは2
0m。
(イェーテボリ)
海外のMH納入事例のご紹介
お問合せ先
(インタビュー)
1つの課題から、統合的なシステムを提案。
それがダイフクに決めた大きな理由です
株式会社 ダイフク
広報部
〒1
0
5−0
0
1
4 東京都港区芝2−1
4−5 芝千歳ビル
Operation Manager Mr.Christian Jensen
TEL:0
3−3
4
5
6−22
43
ダイフクは、新しい物流プロセス案を提示してくれま
FAX:0
3−3
4
5
6−2
26
2
した。モノの流れやロケーションデータを検討し、新し
URL : http://www.daifuku.co.jp/
い倉庫の条件に当てはめるという、詳細の分析法による
ものです。提案には、貸倉庫で使用していたラックは状
態が良いのでイェーテボリに移設し、4アイルに流用す
る、といった再編策も含まれていました。もちろんラッ
出典:重慶医薬/ダイフクニュース1
8
9号
(2
0
0
8年1
2月発行)
Dagab/ダイフクニュース1
9
2号
(2
0
0
9年1
0月発行)
ク建設にはアイルの追加もあり、長期的な視点から保管
能力を満たすなど、設備のアップグレードにおいて、最
も近代化した戦略を提案してきました。
Material Handling Journal No.
263
!
特集
●ここまで進んでいる国際物流●
国内外の流通過程の一貫品質管理を実現
― 温湿度衝撃センサRFIDを活用したリスクマネジメント ―
日本電気株式会社
新事業推進本部
小笠原
温
1.はじめに
「商品」に対する消費者の関心が一段と高度化して
いる。価格・機能・デザインだけでなく、製造過程、流
通過程、そしてリサイクル過程まで。情報通信網が発達
し、良い情報も悪い情報も一瞬で広まる時代である。そ
して近年、私たちの一番身近である「食品」に対しては
様々な事件が発生し、消費者の問題意識は一気に高まっ
ている。
一方、企業において過去の製品リコールは、膨大なコ
ストがかかるため必ずしも積極的な対応ではなかった。
図表.
1 品質管理を強く意識する事業環境
ところが近年、不良品発覚後の対応のまずさが原因で事
業継続が困難となる事件が多々発生し、企業の社会的責
任(CSR=Corporate Social Responsibility)がこれまで以
上に重要視されることとなった。
2.物流品質の管理方式
輸送中の商品の品質管理において、例えば「温度」は
製造物責任を全うするためには生産だけでなく流通・
重要かつ身近な管理パラメータである。食品や化学製品
販売全ての過程での無事故が基本であり、不祥事が発生
など、出荷段階における予冷技術をはじめ、定温輸送、
してしまう企業
(すなわちCSRを全うできない企業)
は、
包装改善などの技術は確立され、国内の物流環境レベル
マーケットからの退場を命じられることになるのは、ど
は非常に高い。しかし国際物流や国内でも長距離輸送で
の業界でも共通の認識となっている。しかし全工程、全
は、様々な事業者(担当者)をリレーすることと、管理
ロットを人的リソースでヒューマンエラーも考慮せずに
設備のレベルの違いから、依然として不安がつきまと
カバーするには限界が生じる。
う。これらを担保する手段として「トレーサビリティシ
そこで、商品トレーサビリティを担保する手段とし
ステム」の構築が必要とされている。食品事故がきっか
て、自動認識技術(RFID)と計測自動制御技術(セン
けで多用されるようになった「トレーサビリティ」とい
サ)を活用し課題解決するICTシステムに注目が集まっ
う用語だが、ここでは2つの機能が求められる。1つ目
ている。本稿では、流通過程の適正な品質管理を担保す
は、生産から消費まで製品の流れを確実に追跡・遡及出
る方式の概念説明と、当社で提供開始した管理サービス
来る、すなわち「ロットトレース機能」
。2つ目は、生
の内容及び、実際の導入事例を紹介し、流通過程のリス
産から消費まで製品の温度履歴などを確実に追跡・遡及
クマネジメントのあるべき姿を提案する。
出来る、「品質トレース機能」
。
前者は、まずは事業者単
位(各事業者の責任範囲内)での実現が直近のリスクマ
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
国内外の流通過程の一貫品質管理を実現
ネジメントとして必要と言われている。しかし後者はど
は物流単位での管理に切り替えていく必要がある。この
うか。
とき必要とされるのが小型の
「センサタグ」
技術である。
チェーン全体でのトレーサビリティが事業者それぞれ
のシステム連携により実現すれば、製品ロットに異常が
発生した際に迅速な回収「範囲」を決定することが出来
3.センサタグ
(センサ付RFID)
紹介
る。しかし、異常と分かっても、その原因を迅速に把握
高度化するICT領域においては、情報システムと実際
出来なければ、誰が回収責任を負うのか、誰が改善義務
の「モノ」との連携(情物一致)が欠かせない。そのた
を負うのか、不明のままである。品質劣化の原因を突き
め、そのつなぎ役となる、自動認識技術(RFID技術)
止めるのに、予想はついても決定打となる客観情報はこ
は当社でも長年取り組んできたところである。一方で輸
れまで無かった。客観情報が無ければ謝罪は出来ても改
送環境計・データロガーを活用して包装改善あるいは食
善が出来ない。今後、事業者単位でのトレーサビリティ
品衛生担保などを目的とした物流品質の抜き打ち検査は
システムが進むのなら、「そのシステム上で温度管理等
従来からも行われてきた。しかし、今後日常的に大量の
もしてしまえばよいだろう」との意見もある。確かに現
「モノ」を管理することになると、システム・ハードウ
在でも国内では冷蔵倉庫内や保冷車内など、保管・輸送
ェアともに実運用に耐える仕様に進化していく必要があ
「設備」に該当する部分の温度管理は十分に行われてい
る。
る。しかし、実際に川下のお客様から頂く相談は、事業
センサタグ技術について解説しておく。これまで物流
者間の引継ぎ部分、いわゆるグレーゾーンの管理につい
環境データの測定はスポットでの試験的利用が主であっ
ての課題だ。事業者間の引継ぎ部分(グレーゾーン)が
た。このレベルであればパソコンと有線接続して、後か
管理システムの引継ぎ部分であっては、最終販売者は、
らゆっくりとデータ解析することが許された。しかし大
「この商品は本当に産地から一貫した温度帯で輸送・保
量貨物の受入現場で異常の有無を判定するには、無線通
管されてきた商品なのか?」と不安になってしまう。品
信の活用が必須になる。ただし、無線通信には電力を必
質トレース機能は川上としても川下としても欲しい機能
要とするため、限られたセンサタグのバッテリーを如何
ではあるが、システム設計においては、それをどう実現
に活用するかがポイントになる。
し高度化していくかが課題となっていた。
図表.
2は、倉庫やトラックなどの設備単位で管理した
場合と、荷姿毎あるいは送り状毎など物流単位で管理し
た場合を比較したものである。従来の設備単位での管理
では、測定出来ない部分(グレーゾーン)が存在するこ
と、そして各設備に取り付けられた測定器ごとに仕様・
性能が異なることが課題である。したがって、将来的に
図表.
3 センサタグの分類
なお、RFIDには「アクティブ型」
、
「パッシブ型」と
いう呼び方があるが、これは電池の搭載・非搭載で区別
されていることが多く、技術仕様的には、図表.
3のよう
に分類される。また、言うまでも無いが無線を取り扱う
際は、電波法(国際物流の場合は現地法律)
、
航空法など
図表.
2 物流品質の管理方式
への留意が必要である。
Material Handling Journal No.
263
!
国内外の流通過程の一貫品質管理を実現
図表.
4 センサタグ仕様
これらの検討を経て共同開発されたセンサタグの仕様
を図表.
4に示す。温度・湿度・衝撃(X,Y,Zの3軸)
が手軽に計測可能な、小型センサタグである。
図表.
5 「物流品質トレーサビリティ for SaaS」
5.運用事例
紹介してきたセンサタグ(FeliCa通信方式)と、クラ
ウドサービスは、
今年度から提供を開始しており、
現在、
4.管理サービス紹介
日常的に収集された物流環境データのとりまとめに専
製造業、プロセス業、医療分野などで使用開始頂いてい
る。実際のサービス活用事例を紹介したい。
(1)商社での運用事例
任要員を確保することは難しい。また、複数拠点で統一
冷凍貨物の輸出入を取り扱う商社、兵食様(兵庫県
した基準で運用し、かつ物流環境データを必要時に各部
神戸市)では、昨年末ISO2
2
0
0
0(食品の安全マネジ
門で共有するとなると、インターネット上にデータベー
メントシステム)を業界に先駆けて取得した。大手冷
スが必要となる。しかし、「必要だと考えてはいるが、
凍食品事業者の商品を取り扱うことも多く、「流通過
体制を整えていく必要もあり、いきなり大掛かりなシス
程を担保する仕組みづくりの必要性を感じていた」
(執
テム開発は出来ない」といった声も聞く。
行役員)という。実際に中国などから輸入されたコン
そこで、これらのニーズに応える形で、複数拠点から
テナを開封すると、明らかに相手国での貨物運用に問
の物流環境データの管理・共有を実現するクラウドサー
題があるだろうトラブルが時々発生していたとのこ
ビスをこのたび開始した。この月額料金制WEB型サー
と。しかしこれまでそれを決定付ける証拠が無かっ
ビスを活用すれば、物流環境データの蓄積検索、輸送品
た。現在、国内を中心にテスト運用を繰り返し、デー
質報告書の出力だけでなく、万一商品に問題が発生した
タベース化を進め、物流品質の基準値作りを進めてい
際に、送り主、納品先、運送事業者のそれぞれが、何処
るところである。冷凍食品の場合、温度と衝撃が管理
に問題があったかを共通の客観データを参照しながら、
項目になるため、防水仕様を満たす温度・衝撃センサ
迅速に原因分析と改善を図ることも可能となる。また、
タグをご活用いただいている。今後ISO2
2
0
00を担保
クレーム対応工数、不良品対応工数の削減だけでなく、
するためのツールとして展開を図っていく予定であ
偽り無い客観データを示すことでブランド化への貢献も
る。
(2)水産卸での運用事例
期待出来る。
仙台市中央卸売市場を中心に事業展開する、仙台水
産様(宮城県仙台市)では、水産品の輸送品質管理へ
の活用を進めている。食の安心・安全はいまや世界中
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
国内外の流通過程の一貫品質管理を実現
の関心事項であり、仙台水産様としても、地域の食品
(3)ロジスティクス業界での運用事例
業界リーダとしていち早く
「現場の見える化」
に応えた
NECグループ物流業務を中心に事業展開する、NEC
形だ。実証実験を次の3ステップで行う予定である。
ロジスティクス(神奈川県川崎市)では、全国を網羅
ステップ1:流通過程の温度・湿度・衝撃の管理を
する幹線便トラックから順次、温度・湿度・衝撃セン
実施。
サタグを設置して輸送データをクラウド上に蓄積し活
ステップ2:受発注や納品・配送などとの業務連携
用する取り組みを開始した。これまでも、北海道、関
の検証及び構築を実施。
東、関西、九州の複数の長距離ルートに対しては、大
ステップ3:次世代流通メッセージ標準
「流通BMS」
型の輸送環境計をスポットで取り付けデータを取得、
(流通Business Message Standards=流
また、過去に結露も発生し問題となったことから、定
通ビジネスメッセージ標準)連携の検
期的に全国主要拠点で温湿度計を利用し、履歴データ
証を実施。
を取得している。しかし、いつ事故が起きるか分から
現在ステップ1まで完了しステップ2の設計中であ
ない状態で従来どおり保険に頼っていては改善に繋が
る。これらの実証実験成果を次期業務システムに反映
らないため、日常的な輸送データの蓄積管理を開始し
させていく予定である。
た。
図表.
6 集配センターと幹線輸送の位置づけ
現在は、集配センター間を結ぶ定期トラック便の貨物
室手前上部へセンサタグを取り付け、出発地点で携帯電
写真.
1 ステップ1検証時の様子(1)
話を操作して測定開始、到着地点で携帯電話をかざして
結果判定、データ収集後、即座にパケット通信網経由で
クラウド上にデータを蓄積する運用である。集配センタ
ーのトラックバースでは携帯電話があれば運用可能で出
荷と着荷の時刻も登録可能である。トラック1台1台に
対し固定設備を必要としないため、将来委託先に一式貸
し出し、連携した運用を行うことも可能である。
写真.
2 ステップ1検証時の様子(2)
(現在、外付け専用リーダは、おサイフケータイ対応端末の
内蔵リーダを活用するため不要)
写真.
3 作業に支障が出ない場所へ設置
Material Handling Journal No.
263
!
国内外の流通過程の一貫品質管理を実現
6.おわりに
今年は猛暑で、特に温度にデリケートな商品を取り扱
う事業者は大変だったと想像する。今年の夏は過去の経
験とカンが通用しなかったとも聞く。例えば日本の生鮮
品や加工品。海外で日本の食品はおいしくて安全なブラ
ンド品である。しかしその信頼をICTで守り抜く仕組み
はいまだに発展途上だと言える。そういう意味で当社も
一番物流品質担保の難易度が高い水産品で取り組むなど
挑戦を続けている。
温度・湿度・衝撃センサタグを活用した物流品質トレ
写真.
4 取り付けたセンサタグの読み取り
ーサビリティサービスは、あらゆる業種において本格シ
ステムを検討するうえでの基礎データの蓄積にも役立
本部の管理画面では過去の蓄積データを確認し、必要
つ。スモールスタートからすぐに始められる日常リスク
に応じて輸送品質報告書を作成する。なお、異常条件な
マネジメントの仕組みをぜひ活用頂ければと考えてい
どの設定は本部で一括変更が可能である。これにより各
る。
拠点共通の基準で運用することが可能である。
お問合せ先
日本電気株式会社
新事業推進本部
サービスビジネス推進グループ
〒1
0
8−8
0
0
1 東京都港区芝5−7−1 NEC本社ビル
TEL :(0
3)3
7
9
8−8
4
5
6
FAX :(0
3)3
7
9
8−9
9
4
1
写真.
5 ネットワーク本部での管理画面
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
E-mail : [email protected]
2010東京国際包装展/当協会ブースのご案内
パッケージに関わる様々な商品・情報・システムを
ケージ」
、
「ユニバーサルデザイン」など今包装に求め
一堂に集めるアジア最大級の総合包装展「201
0東京国
られる4つの機能をテーマとした特設パビリオンを会
際包装展(TOKYO PACK)」
を、10月5日(火)
∼1
0月
場内に開設し、最新の技術や情報、商品、企業事例を
8日(金)の4日間、東京ビッグサイト(東1∼6ホー
ご紹介いたします。
ル)にて開催します。
また、環境、技術、デザイン、アイデア等、厳正な
1966年の開催から今年で23回・46年目を迎える今回
審査をクリアした我が国のパッケージにおける最高水
は、『成長のヒントは、包装にある。』をテーマに、包
準が一堂に展示される『日本グッドパッケージング
装ができることのすべてを余すところなく披露し、改
展』も開催します。
めて包装の果たす役割、重要性や「成長のためのヒン
ト」について広く理解を深めていただくステージとし
当協会では、「物流合理化・コストダウン・安全・
て、また、アジアの包装業界を代表する一大イベント
安心や省エネ」等、「ためになるMH」をテーマに東
として開催いたします。
6ホールへブース出展いたします。
東ホールの<展示会>は、「包装資材」や「包装機
本ブースでは、東京国際包装展の出展者および消費
械」を中心に、「包装加工機械」、「食品・医薬品加工
財メーカーを中心とした来場者に対し、各種最新鋭M
機械」、「包装・環境関連機材」、「包装デザイン・サー
Hシステム・機器のご提案、並びに当協会の諸事業や
ビス」、「流通・物流システム機器」、「その他」の8つ
各委員会の情報や会員企業によるカタログ情報等をご
の分野からの出展で構成。さらに今回は、「安全・安
案内いたします。
心パッケージ」や「パッケージデザイン」、
「エコパッ
日本MH協会ブース
(東5−6ホール)
『ためになるMH』コーナー
ラウンジ
日本自動認識
システム協会
島津エス・ディー!
!ダイフク
日本MH協会
西部電機!
オークラ輸送機!
日本MH協会コーナー出展協賛会社
オークラ輸送機株式会社
島津エス・ディー株式会社
西部電機株式会社
株式会社 ダイフク
社団法人 日本自動認識システム協会
Material Handling Journal No.
263
!
特集
●ここまで進んでいる国際物流●
日本および韓国の家電企業における
グリーン物流戦略
大阪経済法科大学アジア研究所客員研究員・商学博士
金
恵
珍
必要で、サプライチェーンを形成する企業との連携がな
1.はじめに
くてはならないと述べている。湯浅は顧客が要求する物
地球環境問題は地球規模で取り組まなければならない
流サービスが短納期化で多頻度小口化するほど環境対策
課題群で、その課題の1つがグリーン物流である。グリ
への制約が生じ、必要最小限の物流を行うためにはサプ
ーン物流とは環境に与える負荷が少ない物流である、と
ライチェーン全体を通じてロジスティクスを展開しなけ
定義している。グリーン物流の一環として、鉄道や船舶
ればならず、そのため企業は環境にやさしい物流を目指
へのモーダルシフト、
共同輸配送、
代替燃料へのシフト、
してSCMを導入するのが1つの方法であると述べてい
物流に伴う資材関連のリサイクルなどの取り組みが行わ
る。鈴木は企業プロセスの最適化と環境負荷の低減の両
れている。2008年後半からの景気後退で物流部門に変
方は難しく、それを解決することが課題になっており、
化が見えてきた。例えば物流での過剰サービスはコスト
そこで物流効率化を基軸に据えたグリーンサプライチェ
アップにつながり、車両増加によるCO2(二酸化炭素)
ーンマネジメントの設計と構築が求められてくると述べ
排出、配送用資材の大量使用による廃棄物の増大などが
ている。
環境問題に直結している。そこで環境負荷を低減させな
これらの先行研究からも多くの企業がグリーン物流に
がら物流コストの削減、顧客サーピスの向上を実現する
対する取り組みは行っているものの、まだ軌道に乗って
ための物流システムを作り上げなければならない。
いないことが分かる。その結果、地球環境問題のために
グリーン物流戦略と関わった先行研究ではそれぞれ次
は企業のグリーン物流における取り組み方式が重要にな
のように主張されている。下村は一部の大企業や先進的
ってくる。そこで本稿では、日本および韓国の家電企業
企業がグリーン物流に取り組み、それによって物流コス
におけるグリーン物流戦略がどのようであるべきか、と
トの削減が得られ新たなビジネスチャンスを得ていると
いう観点から分析を行う。
述べている。青木はリサイクル、リユース、代替化技術
の進化と、国の補助、助成事業から企業によるグリーン
物流の積極導入が可能になってきたと述べている。ジェ
2.日本家電企業
イアール貨物リサーチセンターは省エネルギー対策とし
日本は1
9
9
7年1
2月の京都議定書によって1
9
90年比で
てモーダルシフト、共同物流導入、車両大型化、低公害
6%のCO2排出削減目標が義務づけられている。同国
車導入、エコドライブ導入、包装容器対策などはすでに
では2
0
0
5年2月に京都議定書の発効を受けて、2
00
6年
取り組まれているが、ITの活用による効率的な物流、リ
4月に改正された「省エネ法(エネルギーの使用の合理
サイクル物流、省エネルギーな物流なども真剣に取り組
化に関する法律)
」が施行されたことで、物流部門にお
まなければならない課題であると述べている。長谷川・
ける一層の省エネ対策が求められている。
斉藤は物流に関する環境対策はコスト削減策になり、環
環境省の2
0
0
9年4月の発表によると、日本のCO2排出
境調和型ロジスティクスを実現するためには物流革新が
量は20
0
7年には1
3億4
0
0万トンで、2
0
0
6年の1
2億7,
40
0
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
日本および韓国家電企業のグリーン物流戦略
万トンに比べ2.
6%増であった。
しかしながら、
運輸部門
1
2%で、これらの製品を運ぶ際にCO2を排出している。
のCO2排出量は20
07年には2億4,
90
0万トンで1
9.
1%を
パナソニックの環境経営は1
9
9
1年6月に「環境宣言」
占めていたが
(図表.
1参照)
、2006年の2億5,
4
0
0万トン
と「行動指針」を制定して、これらをもとに全世界の事
に比べると1.
6%減であった。運輸部門のCO2排出量に
業場で環境への取り組みを推進している。2
00
1年1
0月
着目すると、これは全体の約20%で、202
0年に1
9
9
0年
には持続可能な社会の実現に貢献することを目指して
比で25%のCO2排出削減目標を達成するためには物流部
「環境ビジョン」を発表し、その行動計画として「グリ
門におけるCO2排出量の抑制は重要な課題である。図
ーンプラン2
0
1
0」を定め、これらを随時に見直しなが
表.
2はパナソニック
(株)
とシャープ
(株)
のグリーン物流
ら、さらなる環境経営を進めている。また、2
00
7年1
0
戦略における取り組みの比較で、以下はその2社の具体例
月にはすべての活動において一歩先のエコを目指すべく
である。
「エコアイディア宣言」を発信しており、2
0
10年から
は2
0
1
8年の創業1
0
0周年ビジョンとして「エレクトロニ
クスNo.
1の環境革新企業」を掲げて、全事業活動の基
軸に環境を置き、一層の取り組み強化を図る中で、グリ
ーン物流を活発に推進している。
パナソニックはグローバルなグリーン物流の目標とし
て国際間および国内の物流を対象に2
0
0
6年度を基準に
2
0
1
0年まで毎年対前年比でCO2排出量原単位1%以上の
削減を定めている。実際、同社の2
0
0
8年度のCO2排出量
はグローバル展開で8
8万トンで、2
0
0
7年度に対してグ
出所:環境省の発表をもとに筆者作成。
図表.
1 日本の運輸部門におけるCO2排出量
パナソニック
シャープ
国際間・国内の物流対 国内シャープグループ全
象、2
0
0
6年 度 基 準2
0
1
0 体、CO2排出量原 単 位
基本方針 年まで毎年対前年 比で 前年度比1%削減
CO2排出量原 単 位1%
以上の削減
鉄道・船舶へのモーダル
シフトの推進
共同輸送
対 策 例 圧縮天然ガス・バイオデ
ィーゼルの使用
振動・衝撃抑制専用コン
テナの使用
鉄道・船舶へのモーダル
シフトの推進
統一パッケージの採用
積載効率の向上
緩衝材の再利用
注:パナソニックのCO2排出量原単位は
「輸送によるCO2排出量/輸送重量」
「CO2排出量(t−CO2)
÷売上高
である。
シャープのCO2排出量原単位は
(億円)
」
である。
出所:筆者作成。
図表.
2 パナソニックとシャープのグリーン
物流戦略の比較
1)パナソニックの事例
ローバルで9.
6%を削減した。そのうち国際間の輸送
5
3%、日本以外の地域内輸送2
8%、国内輸送19%であ
った。国内におけるCO2排出量のうち9
6.
6%がトラック
輸送によるもので、国際間物流のうち7
1%が航空便に
よるものであった。他方、国内で5
0
0kmを越える輸送の
1
5%以上を鉄道化する目標を立てて取り組んでおり、
海外でもシベリア鉄道の利用や中国からカザフスタンへ
の長距離輸送などは鉄道輸送に切り替えている。基本的
にリードタイムに影響がなければ、船舶の活用により航
空便のCO2排出量の削減に取り組んでいる。特に従来は
航空便であった中国出しの製品・部品輸入で高速RORO
(Roll On Roll Off)船「上海スーパーエクスプレス」
の
活用を推進しており、博多港揚げ後はJR貨物で大阪や
名古屋方面に移送している。このように同社はトラック
と航空貨物に多くを頼りながら高速船とJR貨物輸送へ
の切り替えを進めている。
パナソニックは2
0
0
8年1
2月より異業種である住友電
気工業
(株)
とパナソニックロジスティクス
(株)
宇都宮事
パナソニックは総合エレクトロニクス企業である。同
業所から大阪センター、住友電気工業大阪製作所から住
社の2
009年3月期の連結部門別売上高構成比を見る
友電工産業電線
(株)
宇都宮工場間において同社所有の積
と、デジタルAVCネットワーク42%、電工・パナホー
載重量1
3.
2トンの3
1フィートコンテナ2基を活用した
ム20%、アプライアンス14%、デバイス12%、その他
共同輸送に取り組んでいる。また、同社は2
0
09年4月
Material Handling Journal No.
263
!
日本および韓国家電企業のグリーン物流戦略
から玩具メーカーの
(株)
タカラトミーと圧縮天然ガス
2)シャープの事例
(CNG ; Compressed Natural Gas)
で走る大型トラック
シャープは総合エレクトロニクス企業である。同社の
を利用して大阪府茨木市のパナソニックの薄型テレビ工
2
0
0
9年3月期の連結部門別売上高構成比を見ると、エ
場から千葉県浦安市の物流センターにテレビを届け、空
レクトロニクス機器6
6.
7%(AV・通信機器4
6.
4%、情
になったトラックは同市内にあるタカラトミーの物流セ
報機器1
2.
4%、健康・環境機器7.
9%)
、電子部品など
ンターで玩具を積んで神戸市灘区にある同社取引先の物
3
3.
3%(液晶2
0.
2%、太陽電池5.
5%、その他電子デバ
流センターに配送する仕組みをとっている。さらに、同
イス7.
6%)で、これらの製品を運ぶ際にCO2を排出し
社は2
010年1月から
(株)
朝日新聞社の圧縮天然ガストラ
ている。
ックとバイオディーゼルトラックを使って、朝日新聞社
シャープの環境経営は1
9
9
8年から全社経営レベルで
の神奈川県座間市座間工場で印刷した朝刊を静岡県内の
の環境戦略の推進を本格的に開始しており、2
0
04年度
新聞販売店に輸送した後の帰りのトラックで、パナソニ
に中期目標として「環境先進企業」を掲げ、環境ビジョ
ックモバイルコミュニケーションズ
(株)
静岡県掛川市静
ン「20
1
0年地球温暖化負荷ゼロ企業」を設定して、そ
岡工場から神奈川県や東京都の得意先向けの携帯電話修
の実現に向けて環境保全への取り組みを強化してきた
理用サービス部材、修理完成品や同社事業所への宅配荷
が、このビジョンを2年前倒しで達成し、地球温暖化ゼ
物を輸送している。こうして同社は異業種との連携によ
ロ企業を実現した。そこで、2
0
0
9年からは新たな環境
る共同輸送を通じてCO2削減、輸送コスト削減による輸
ビジョンとして
「エコ・ポジティブカンパニー」
を掲げ、
送効率の向上によって環境負荷の低減に取り組んで
新環境戦略として
「エコ・ポジティブ戦略」
を推進して、
いる。
環境負荷を大きく上回る環境貢献を果たす企業を目指し
パナソニックは20
07年9月から社員食堂から出た使
用済みてんぷら油をバイオディーゼル燃料に転換してそ
ており、この一環としてグリーン物流における対策を推
進している。
れをトラックの燃料に利用しており
(図表.
3参照)
、2
0
0
8
シャープは20
0
5年度に省エネ法荷主対応委員会を設
年度は京阪神地区で1
00%バイオディーゼル燃料による
置して、資材物流・生産物流・販売物流・パーツ物流・
物流用トラックの台数を拡大している。バイオディーゼ
廃棄物物流における環境負荷を把握している。CO2排出
ル燃料は燃料供給に課題があってなかなか拡大できない
量原単位で国内シャープグループ全体で前年度比1%
中で、グループ会社のイベントなどで使用する車両やバ
削減を定めている。貨物輸送による2
0
0
8年度の国内同
スなどにも使用して少しずつ拡大を図っている。また、
グループ全体のCO2排出量原単位は売上高の大幅な減少
同社は2008年に携帯電話の基地局に使われる装置の輸
が影響したため前年度比8%増であったが、CO2排出量
送を無振動トラックによる輸送からコンテナ内での装置
そのものは前年度比1
0%減であった。同社は製品の輸
の固定方法の改善および振動試験などを重ねて行ってか
送をトラック輸送から鉄道や船舶などに切り替えて、
ら鉄道輸送に切り替えた。このように同社はエネルギー
2
0
0
8年度は2
5,
8
32本の鉄道と船舶による貨物輸送量を
転換によるコスト削減、より環境負荷の少ない輸送手段
前年度比1
2%増やしたが、特に船舶による輸送量が増
に切り替えてCO2排出量の削減を試みている。
えている。同社は現在、JR仕様3
1フィートコンテナお
よび内航船の積極的な利用を推進しており、モー
ダルシフトが可能な輸送ルートの新規開拓につい
ても検討中である。また、コスト削減と車両の安
定確保の面から他の企業との共同輸送を一部のル
ートで実施している。このように同社はより環境
出所:パナソニック
「グリーンロジスティクス:主な取り組み」
。
http : //panasonic.co.jp/
eco/factory/ green_logistics/case_study.html(20
0
9年7月1
3日)より。
図表.
3 200
8年度パナソニックの廃油回収量と
バイオディーゼル燃料使用量の推移
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
負荷の少ない輸送手段に切り替えるモーダルシフ
トを推進して輸送効率を向上させており、共同輸
送も試みている。
シャープは国内では2
0
0
6年からほぼすべての
日本および韓国家電企業のグリーン物流戦略
製品で統一パッケージを採用して印版とインクの使用量
を大幅に削減しており、200
9年1月からは海外でも展
開している。また、同社は搭載する製品の大きさに合わ
せて昇降式の2段積用架台を乗降させスペースを調整で
きるようにして、積み重ねて運搬することが難しい精密
機器などを安全で効率的に運搬している。さらに、同社
は2006年度に輸送時の製品保護、荷崩れ防止を目的と
して使用している緩衝材を産業廃棄物として廃棄処理せ
ず、再利用している。このように同社は包装材の環境負
三星電子
LG電子
輸配送管理システムによる グリーン物流システム
基本方針 納期尊守
によるCO2排出 量の
総合管理
デジタルマップと輸送経路最
適化ソフトウェアの導入
対 策 例 電子認証システムの導入
専門輸配送パッケージの導
入
プラスチックパレッ
トの再利用
返品・回収・廃棄物物
流の立ち上げ
貨物管理システムの
構築
積載効率の向上
出所:筆者作成。
図表.
5 三星電子とLG電子のグリーン物流戦略の比較
荷低減を進めてコストを削減し、環境負荷低減のための
効率運搬によってCO2排出量の削減と輸送費を減らして
おり、緩衝材の再利用によって廃棄物発生量の削減によ
るコストを削減して環境負荷低減を行っている。
1)三星電子
三星電子は総合家電・電子部品・電子製品企業であ
る。同社の20
0
8年度の連結部門別売上高構成比を見る
と、デジタルメディア32%、情報通信2
7%、半導体1
7%、
LCD1
7%、
その他7%で、
これらの製品を運ぶ際にCO2
3.韓国家電企業
を排出している。
韓国は1997年12月の京都議定書によって開発途上国
三星電子の環境経営は1
9
9
2年に環境経営体制の構築
として分類されたことでCO2排出削減目標が義務付けら
のための「環境方針」を発表しており、19
9
6年5月に
れなかった。知識経済部の20
09年2月の発表によると、
は地球環境を保全するための「緑色経営」を宣言してか
同国のCO2排出 量 は2
00
6年 に は5億9,
95
0万 ト ン で、
ら、環境・安全・保健・防災を重要視した持続可能な環
2005年の5億9,
4
40万トンに比べ0.
9%増であった。そ
境経営活動を展開しているが、CO2排出削減のためのグ
のうち、運輸部門のCO2排出量は200
6年には9,
9
8
0万ト
リーン物流対策は遅れている。
ン で19.
8%を 占 め て い た が
(図 表.
4参 照)
、2
0
0
5年 の
三星電子は最終廃棄される製品の効率的な処理のため
9,
810万トンに比べると1.
8%増であった。物流部門に
に1
9
9
5年にグリーン物流チームを発足して、廃棄され
おけるCO2排出量は全体の約2
0%で、20
20年に20
0
5年
る家電製品と包装材を回収しており、全国1,
5
60の販売
比で4%のCO2排出削減目標を設定していることで、物
代理店と2
4の地域物流センターで構成された回収システ
流部門におけるCO2排出量の抑制が求められている。図
ムを構築して運営している。また、同社はデジタルマッ
表.
5は三星電子
(株)
とLG電子
(株)
のグリーン物流戦略
プと輸送経路最適化ソフトウェアを導入して納期を守
における取り組みの比較で、以下はその2社の具体例で
り、電子認証システムを導入して納期を守る上に紙の使
ある。
用を減らし、専門輸配送パッケージを導入してコストを
削減して、出荷時点で納期の最適化を図っている。この
ように同社では廃家電製品と包装材を回収して処理し、
輸配送管理システムを導入して輸送距離を最大限短縮さ
せて納期を遵守している。
三星電子は国内の天安(チョンアン)事業場で製作し
たLCDパネルを中国のLCD事業部に運ぶ際に紙のパレ
ットを使用していた。しかし、雨水による損傷と外部露
出によるパレットの損傷からその一部を再利用し、残り
は廃棄していたが、パレットの材質をプラスチックに変
出所:知識経済部の発表をもとに筆者作成。
図表.
4 韓国の運輸部門におけるCO2排出量
更して再利用するようにした。このように同社は廃棄物
を減らし廃棄費用の削減効果によってコストを削減して
Material Handling Journal No.
263
!
日本および韓国家電企業のグリーン物流戦略
みは立ち上がって日が浅い。
いる。
三星電子は20
08年に代表理事副会長に李潤雨(イ・
LG電子は携帯電話を輸送時の衝撃のためにトラック
ユンウ)が就任して以来、生産過程で有害物質の使用を
の高さの半分程度まで積んでいたが、トラック上部に専
抑制するなど環境経営に拍車をかけているが、輸送にお
用固定幕を開発し設置したことで、今までより一度にた
けるCO2排出削減のための対策には力を入れていない。
くさん運ぶことができるようになった。このように同社
同社は売上高に影響がないことで抜本的なCO2排出削減
はトラックに専用設備を設けたことでCO2排出量と輸送
を試みていない。したがって、同社の環境負荷低減を高
費を減らして環境負荷を低減している。
めるためには鉄道、船舶へのモーダルシフトを推進して
輸送効率をあげるなど、グリーン物流における取り組み
の強化が求められている。
4.おわりに
本稿では日本および韓国の家電企業のグリーン物流戦
2)LG電子
略について考察してきた。両国は地球環境問題の対策の
LG電子は総合家電・情報通信企業である。同社の2
0
0
8
ためにグリーン物流に取り組むことで環境負荷の低減に
年度の連結部門別売上高構成比を見ると、ホームエンタ
努めているが、日本に比べて韓国はグリーン物流への取
テイメント32.
7%、モバイルコミュニケーションズ
り組みが遅れている。韓国は国をあげてグリーン物流に
31.
9%、ホームアプライアンス17.
2%、ビジネスソリ
取り組むべきである。
ューション9.
2%、エアコンディショニング9.
0%で、
これらの製品を運ぶ際にCO2を排出している。
パナソニックは圧縮天然ガス、バイオディーゼルの使
用、他の企業との連携を通じた共同輸送、振動・衝撃な
LG電子の環境経営は199
4年に「環境宣言」を発表し
どを抑制する専用コンテナの開発を行ってCO2排出削減
て、事業活動で発生するすべての環境負荷を最小化する
やコスト削減による輸送効率をあげている。同社はシベ
ために努力しており、2
005年には環境経営活動の体系
リア鉄道の利用や高速RORO船「上海スーパーエクスプ
的管理および企業の環境経営水準を引き上げるために環
レス」の活用などトラックと航空便による輸送を減らす
境成果評価体系を導入している。また、同社は2
0
0
8年
ための努力を重ねている。同社は鉄道と船舶へのモーダ
2月に最高技術責任者の下に環境戦略チームを新設し
ルシフトの推進をさらに検討し、今までより環境負荷を
て、同年3月には温室効果ガス・インベントリー
(Green
低減すべきである。他方、シャープは鉄道と船舶による
House Gases Inventory)
の構築のためのタスクフォースを
輸送量を増やしており、統一パッケージの採用、積載効
設置しており、グリーン物流システムを築こうとしてい
率の向上、緩衝材を廃棄せず再利用することでCO2排出
る。
削減やコスト削減による輸送効率を向上させている。同
LG電子は2006年に国内外の物流システムを強化して
社は内航船を積極的に利用するなどモーダルシフトが可
おり、2009年には国内事業場にグリーン物流システム
能な輸送ルートの開拓のための努力を重ねている。この
を導入している。同社は顧客が製品購入後に返品する返
上はバイオディーゼルなどの使用、自社内だけでなく他
品物流、問題が発生した製品を消費者から回収する回収
の企業との連携による輸送をさらに試みて今までより環
物流、顧客が廃棄しようとする製品および包装容器など
境負荷の低減を推進すべきである。一方、三星電子はデ
を回収する廃棄物物流などの部分でグリーン物流システ
ジタルマップと輸送経路最適化ソフトウェアの導入、電
ムを立ち上げてから、貨物管理システムを事業場別に構
子認証システムの導入、専門輸配送パッケージの導入、
築して統合システムに連動させCO2排出量を総合管理す
プラスチックパレットの再利用を行って、輸送距離を最
る予定である。実際のところ同社は国内全事業場でグリ
大限短縮させて納期を遵守するのに焦点を合わせてい
ーン物流システムが軌道に乗ると、海外事業場にも適用
る。同社はこれから鉄道、船舶へのモーダルシフトの推
する計画を持っている。同社はグリーン物流を導入した
進などグリーン物流に力を入れるべきである。さらにLG
ことで2009年第1四半期に物流部門で9
00億ウォンを削
電子は返品・回収・廃棄物物流の立ち上げ、貨物管理シ
減しているものの、同社のグリーン物流における取り組
ステムを事業場別に構築、トラックを工夫することによ
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
日本および韓国家電企業のグリーン物流戦略
って積載向上による輸送効率をあげているが、国内の全
社会的効果を生み出すべきである。そのためのグリーン
事業場のグリーン物流体制を早急に築くべきである。
物流体制を築くには、企業トップが物流の重要性を認識
多くの企業は現在、在庫を良いと思わなくて在庫をな
るべく減らそうとするし、リードタイムを短くしようと
することであり、それによって企業の競争力を備えるこ
とができる。
することでトラック輸送に多くを頼っている。このよう
グローバル企業としてさらなる成長をとげるために
な企業の求める物流サービスは抜本的なCO2削減には至
は、必要最小限の物流を目指してサプライチェーン関係
っていない。高度なIT技術の利用と効率的な運輸サー
の企業との連携によるグリーン物流システムを構築し環
ビスの利用によって在庫を削減し、しかもリードタイム
境負荷を低減すべきである。そのためには企業の自主努
を短縮することでコストを削減し、その上でCO2排出量
力とともに中央政府や自治体の支援・補助、あるいは規
を減らす対策がなければならない。省エネルギー、大量
制によって環境にやさしい物流を目指す必要があろう。
輸送、低公害といった外部経済効果の創出から経済的、
参考文献
鈴木邦成[2
0
0
9]
『絵解きすぐわかる産業廃棄物処理
青木正一[20
09]
『ビジュアル図解
物流のしくみ』
と静脈物流』日刊工業新聞社。
同文舘出版。
鈴木邦成[2
0
1
0]
『グリーンサプライチェーンの設計
忍田和良[20
09]
「物流システムの高度化と地球温暖
と構築:グリーン物流の推進』白桃書房。
化防止策の両立」
(荻久保喜章編『朝日大学産業情報
ジェイアール貨物リサーチセンター[200
9]
『激動す
研究叢書9
る日本経済と物流』成山堂書店。
産業情報社会:その変遷と展望』成文
堂、181−203頁)
。
長谷川勇・斉藤伸二編著[200
5]
『物流効率化を促進
北澤英人監修、
(株)クニエ編著[2010]
『SCMを本当
する環境調和型ロジスティクス』中央経済社。
に定着させれば物流コストは削減できる』日刊工業
藤田精一[2
0
0
9]
「ロジスティクス活動における在庫
新聞社。
コストの本質」
『早稲田国際経営研究(早稲田大学
苦瀬博仁[200
6]
「歴史に学ぶモーダルシフトの課題
WBS研究センター)』4
0巻、3月、1
3−2
1頁。
と将来の夢」
『物流情報(日本物流団体連合会)
』
8巻
湯浅和夫[2
0
0
8]
『物流とロジスティクスの基本』日
4号、秋号、4−7頁。
本実業出版社。
下村博史[2
00
8]
『CO2とコストを削減:図解成功す
汪正仁[20
0
9]
『ビジュアルでわかる国際物流2訂
るグリーン物流』日刊工業新聞社。
版』成文堂書店。
Material Handling Journal No.
263
!
特別寄稿
人財育成の計画化と見える化のすすめ!
∼生涯職業能力開発体系・職業能力評価基準の開発と活用∼
2008/09/15のリーマンショックは、現代の経済・産業のパラダイムチェンジを促し、
企業経営も
そのまっただなかにある。
これを推進するのは
“人”
であり、
今こそ人財育成の計画化と見える化
が求められている。
そこで、
その有効な支援ツールとして、政府が推進している
「生涯職業能力
開発体系」
および「職業能力評価基準」等の開発状況と活用方法をご紹介する。
キーワード:人財育成 生涯職業能力開発体系 職業能力評価基準
マテリアル・ハンドリング業
ジョブ・カード制度 モデル評価シート 人材要件確認表
ビジネス・キャリア検定試験
山根
幹大
1.はじめに
政府では、雇用の流動化、働き方の多様化等、雇用シ
ステムの構造的な変化に対応するため、厚生労働省が中
心となって人財の育成・評価のためのデータベースを構
築してきている。
このデータベースは、広範な業種をカバーしており、
人財育成の計画化と見える化に大変有効と考え、広く活
用をおすすめしたい。
本稿は、このデータベースの1業種として日本 MH
協会が数年来開発に係った「マテリアル・ハンドリング
業の生涯職業能力開発体系および職業能力評価基準」等
の開発成果と活用事例をご紹介するもので、MHジャー
出典:厚生労働省
ジョブ・カード制度のご案内
図表.
1 ジョブ・カード制度の基本型
ナル7/2009の記事
「マテリアル・ハンドリング
(MH)
人
財育成のすすめ」に平成2
1年度の開発成果を反映した。
(2)企業実習先行型訓練システム
正社員経験が少ない、おおむね2
5歳以上4
0歳未満の
2.職業能力形成政策の現状
平成16年1月、政府は文科省・厚労省・経産省および
方を対象に、先行して企業実習を行い、それによる訓
練受講者の評価に基づき必要な教育訓練を実施し、安
定的な雇用に就くために必要な技能、技術及び知識の
内閣府による「若者自立・挑戦プラン(キャリア教育総
習得を目指す委託型の訓練システムで、平成1
9年度か
合計画)
」
の推進を決定し、職業能力形成システム(通称
ら実施されている。
「ジョブ・カード制度」
)
を創設した。現在、この中核を
(3)実践型人材養成システム
なす4つの職業能力形成プログラム(企業現場における
新規学校卒業者を主たる対象に、現場の中核となる
実習と教育訓練機関等における座学を組み合わせた実践
実践的な技能を備えた職業人を育成する6ヶ月以上∼
的な職業訓練)が稼動している(図表.
1参照)
。
2年以下の雇用型訓練システムで、平成1
9年度から実
(1)日本版デュアルシステム
原則、正社員経験が少ない方を対象に、安定的な雇
施されている。
(4)有期実習型訓練
用に就くために必要な技能、技術及び知識の習得を目
正社員経験が少ない方を対象に、安定的な雇用に就
指す委託型の訓練システムで、平成16年度から実施さ
くために必要な技能の習得を目指す3ヶ月超∼6ヶ月
れている。
以内の雇用型訓練システムで、平成2
0年度から実施さ
れており、狭義のジョブ・カード制度と言われる。
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
人財育成の計画化と見える化のすすめ!
3.「生涯職業能力開発体系」
活用のすすめ
生涯職業能力開発体系は、
(独)
雇用・能力開発機構が
職業能力開発促進法の基本理念に基づき、労働者の職業
生涯にわたる職業能力の開発および向上を段階化および
体系化したもので、この体系を活用することにより、目
標に応じた人財育成を計画的かつ効果的に実施すること
ができる。
生涯職業能力開発体系は、平成22年3月現在、6
4業種
の1,
043職務にわたって整備されており、「日本版デュ
アルシステム訓練修了後の評価項目作成支援ツール〔ジ
ョブ・カード様式6評価シート対応版〕
」
の中に公開され
出典:マテリアル・ハンドリング業の生涯職業能力開発体系
図表.
3 様式4:職務別能力要素の細目の内容
ているので、下記からダウンロードして是非活用いただ
きたい。
「http://www.ehdo.go.jp/career_navi/intend/ndtool2.html」
3.
2 生涯職業能力開発体系の活用
生涯職業能力開発体系を活用した人財育成の基本ステ
3.
1 マテリアル・ハンドリング業の生涯職業能力
開発体系
ップは、「①仕事の明確化」
「②目標の明確化」
「③人財育
成活動」である。
マテリアル・ハンドリング業の生涯職業能力開発体系
各ステップは、各企業、各職場および各従業員に対し
は、「様式1:生涯職業能力開発体系」
「様式2:職務別
て最適化されなければならないが、基準が必要であり、
職業能力体系(図表.
2参照)
「
」様式3:職務別能力要素
生涯職業能力開発体系はそのよりどころとして活用する
の細目」
「様式4:職務別能力要素の細目の内容」として
(図表.
4参照)
。
体系化している。
出典:マテリアル・ハンドリング業の生涯職業能力開発体系
図表.
4 生涯職業能力開発体系を活用した
人財育成の基本型
図表.
2 様式2:職務別職業能力体系(部分拡大)
4.「職業能力評価基準」
活用のすすめ
「様式3」と「様式4」は、先にご紹介した「日本版
厚生労働省・中央職業能力開発協会は、雇用システム
デュアルシステム訓練修了後の評価項目作成支援ツー
の構造的な変化に対応するため、個人は自らの職業能力
ル」において、「一般機械器具製造業 ②マテリアル・
を、企業は従業員に求める職業能力を“互いに分かりや
ハンドリング関連」として掲載されている。なお、「様
すい形”で示せるような、共通言語としての「職業能力
式4」における能力要素の定義は、「・・・を知ってい
評価基準」の整備を進めている。
る」および「・・・ができる」で表現している(図表.
3
参照)
。
職業能力評価基準は、平成2
2年3月現在、「マテリア
ル・ハンドリング業」を含む4
4の業種について整備され
ており、下記に公開されているので、是非活用いただき
Material Handling Journal No.
263
!
人財育成の計画化と見える化のすすめ!
たい。
なお、マテリアル・ハンドリング業の平成2
1年度開発
「http : //www.hyouka.javada.or.jp/」
成果については、その詳細が下記に公開されているが、
以下概要を紹介する。
4.
1 マテリアル・ハンドリング業の職業能力評価基準
職業能力評価基準は、仕事の内容を
「職種」
→
「職務」
→
「http://www.hyouka.javada.or.jp/search_gyoushu/data/
04201/」
「能力ユニット」→「能力細目」といった単位で細分化
させることで、企業規模や職務分担などにかかわらず、
必要な能力の組合せが可能となるよう構成されている。
マテリアル・ハンドリング業の職業能力評価基準は、
「マテリアル・ハンドリング業における職業能力評価基
準の全体構成(様式1)
(図表.
5参照)
「
」職種別能力ユニ
ット一覧(様式2)
」
および「能力ユニット別職業能力評
価基準(様式3)
」
で構成されており、詳細は下記に公開
されている。
「http://www.hyouka.javada.or.jp/search_gyoushu/data/
04201/」
図表.
6 「システム計画 レベル2」
の職業能力
評価基準
(様式3)
(1)
「モデル評価シート」への適用
ジョブ・カードは、①総括表、②職務経歴、③学習
歴・訓練歴、④免許・取得資格、⑤キャリアシート、
⑥評価シート、で構成される。このうち⑥評価シート
は、職業能力形成プログラムへの参加者に対して、プ
ログラム修了時に、その実施企業から交付される。
「モ
デル評価シート」は、「2−
(4)有期実習型訓練」を
実施する企業の方が、⑥評価シートの作成及び評価を
図表.
5 マテリアル・ハンドリング業における
職業能力評価基準の全体構成(様式1)
円滑に行っていただけるよう、主な訓練の職務につい
てのガイドラインとして作成しているもので、下記に
公開されている。
この職業能力評価基準は、典型的な
「職務行動例」
を、
「http : //www.hyouka.javada.or.jp/model/」
担当者から組織・部門の責任者までの4つのレベルに区
分して、業種別、職種・職務別に、整理・体系化されて
おり、「様式3」における能力評価の定義(職務遂行の
ための基準)
は、成果につながる行動
(コンピテンシー)
に着目し、「・・・している」で表現している(図表.
6
参照)
。
4.
2 職業能力評価基準の活用
職業能力評価基準は、職業能力を評価する基準である
と同時に、従業員に対する能力開発やキャリア形成支援
の指針として、また、求人
(求職)
時の能力の明確化等、
様々なニーズに応じた活用ができる。活用事例集は下記
に公開されている。
「http : //www.hyouka.javada.or.jp/jirei/pdf/jirei.pdf」
"
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
図表.
7 マテリアル・ハンドリング業の
「モデル
評価シート」
(部分拡大)
実施計画
(製図)
―!技能・技術に関する能力
人財育成の計画化と見える化のすすめ!
マテリアル・ハンドリング業のモデル評価シート
は、「職業能力評価基準」を援用して策定した。モデ
ル評価シートの記載項目は、「訓練の職務」
、
「!企業
実習・OJT 期間内における職務内容」
、
「"職務遂行の
ための基本的能力」
、
「#技能・技術に関する能力−基
本的事項(図表.
7参照)
」
及び「#技能・技術に関する
能力−専門的事項」で構成している。
(2)
「人材要件確認表」への適用
経験者を対象とする中途採用では、一定の職務経験
を積んでいることから、経験により身につけた知識、
能力等を適正に評価することが望ましいが、中途採用
の実態を見ると、採用の条件として運転免許などの基
図表.
9 ロジスティクス管理・オペレーション
基礎講座/日本MH協会
礎的な資格・要件しか記載していないものが多いな
ど、経験者の能力を適正に評価した採用が行われてい
るとは言い難い。
5.むすび
このような問題を踏まえ、能力本位での採用を推進
本稿は、日本 MH 協会が開発にかかわった「人財育
するため、中途採用における企業の求職者評価、求職
成の計画化と見える化」に有効な公的資産を紹介した。
者の自己評価に利用できる採用時のチェックシートと
この膨大なデータベースを、皆様の人財育成活動に広く
して、マテリアル・ハンドリング業の人材要件確認表
活用いただければ幸いです。
を、「職業能力評価基準」を援用して策定した(図表.
8
参照)
。
なお、活用に当たっての疑問点などは、ご遠慮なく下
記までご連絡ください。
<参考文献>
1)厚生労働省:ジョブ・カード制度のご案内
2)
(独)
雇用・能力開発機構:生涯職業能力開発体系の
ご案内
3)中央職業能力開発協会:職業能力評価基準のご案内
4)中央職業能力開発協会:包括的職業能力評価制度整
備委員会
〔マテリアル・ハンドリング業〕
活動報告書
平成2
1年6月
5)中央職業能力開発協会:基準策定普及委員会〔マテ
リアル・ハンドリング業〕
活動報告書 平成22年3月
図表.
8 マテリアル・ハンドリング業の「人材要件確認表」
(部分拡大)
6)山根幹大:MH ジャーナル7/20
0
9「マテリアル・
ハンドリング
(MH)
人財育成のすすめ」
「営業技術」
シニア技術スタッフの
「職務能力」
に関する事項
お問合せ先
(3)ビジネス・キャリア検定試験への適用
「職業能力評価基準」には、業種横断的な事務系職
山根幹大
技術士(経営工学部門)
種が設定されており、この基準に対応する8分野につ
日本MH協会 理事
いて
「ビジネス・キャリア検定試験」
が行われている。
山根技術士事務所 代表
日本 MH 協会では業界の人財育成支援の一環とし
URL : http://www.logi-con.com/
て、この中の「ロジスティクス分野」に対応した通学
E-mail:[email protected]
の認定講座「ロジスティクス管理・オペレーション基
TEL:0
9
0−7
0
1
1−0
2
0
4
礎講座(図表.
9参照)
」
を平成19年度に開講した。
Material Handling Journal No.
263
!
MH 基礎講座4
MHの要素機能とその系列
― システムの見方でMHを ―
日本MH協会会長 秋庭 雅夫(東京工業大学名誉教授)
1.システムの見方
b.車両のように単位ごとに移動する「間欠移動」
② 移動方向区分
MH は品物を運ぶ仕組みを作る技術であるが、その仕
a.「水平移動」
組みを“システムの見方”を通して考えるともっとはっ
b.「上下移動」
きりしてくる。
c.「勾配移動」
世の中には“システム”と称することにより、そこに
③ 機動性区分
何か仕組みがあることを暗示する雰囲気のシステムと呼
a.車両のように移動径路が「自由」
ばれる使い方がある。
しかし、
MH は技術であるのでこれ
b.各種コンベヤや図表.
2のトウイング・コンベヤ
では通用しない。システムを明確に理解する必要がある。
(アンダーフロア・タイプ)
、図表.
3のトウイング・
コンベヤ(オーバーフロア・タイプ)
、図表.
4の無
人牽引車とのように移動が一定の径路に限定される
「軌条」
c.移動はしないがクレーンのように同一位置で左
図表.
1 さそり座
右・上下に移動する「固定」
システムとは、「要素が一定の関連を持って集まって
いる状態」をいう。この要素・集合・関連を明確にすれ
ばよい。
夏の南の空には、図表.
1のような、赤い色をした星ア
ンタレスを中心とした
“さそり座”
を見ることができる。
この場合、
a.要素:星
b.集合:あの星とこの星の集まり
c.関連:星の位置関係が一定
であるので、システムとして見ることができる。
その際、位置的関係が一定のシステムを“座”
、
系列的
図表.
2 トウイング・コンベヤ
(アンダーフロア・タイプ)
関係が一定のシステムを“系”と呼ぶ。
2.MHの要素機能
MH の要素は、MH 基礎講座1に示した
「移動、始動、
停止、整流、・・・・」という26の機能である。
例えば「移動」について考えよう。移動とは「一つの
機能から他の機能へと位置を変換させること」をいう
が、次のように区分される。
① 時間間隔区分
a.パイプやコンベヤのような「連続移動」
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
図表.
3 トウイング・コンベヤ
(オーバーフロア・タイプ)
MHの要素機能とその系列 ―システムの見方でMHを―
a.資材の移動に対して温度環境が影響を与えるの
で、温度条件を「検出」している。
b.その情報を「始動」
「停止」機能に「伝達」する。
c.温度条件が許容範囲内であれば、資材を「始動」
する。
d.温度条件が許容範囲を超えた場合には、資材を
「停
止」する。
③ 一系列検知・他系列処理
図表.
4 無人牽引車とガイドバス
3.要素機能の系列
MH の要素機能が集まって順序づけられ“系”を作る。
その作られた系を“系列”と呼ぶこともできる。
いくつかの要素機能の系列を作ってみよう。
① 系列内検知・後方処理
図表.
7 一系列検知・他系列処理
a.A系列での資材の到着状況を「検知」する。
b.B系列の資材とCで「合流」させる場合には、B
系列の資材を「始動」させる。
c.B系列の資材とCで「分離」させる場合には、B
図表.
5 系列内検知・後方処理
系列の資材を「停止」させる。
④ 系列内検知・前方処理
a.保管されている資材を生産機械に一定間隔で「供
給」する。
b.そのために供給の前に「整流」を置く。
c.その際、整流への資材の到着が不規則であると供
給に欠品を起こす心配がある。そのために、整流の
前に「流動貯蔵」を置く。
d.「検知1」を資材が遮らなくなると、その情報を
「始動」に「伝達」して資材を送り込む。
e.「検知2」を資材が遮ると、その情報を「停止」
に「伝達」して資材の「移動」を止める。
図表.
8 系列内検知・前方処理
② 系列外検知・系列内処理
a.資材の指定された行先により、系列内でA径路ま
たはB経路を「付印」する。
b.資材の行先を「検知」する。
c.検知した行先を「分岐」に「伝達」する。
d.資材が分岐箇所に到着したときに、その付印の内
容に従ってA径路またはB径路にその資材を「分
岐」する。
図表.
6 系列外検知・系列内処理
Material Handling Journal No.
263
!
MH 基礎講座5
分岐と流動貯蔵
― MHシステムの設計に備えて ―
日本MH協会会長 秋庭 雅夫(東京工業大学名誉教授)
1.分
③ 計画伝達・分岐
岐
1.
1 資材を指定径路に分岐させる要素機能系列
① 個別検知・分岐
図表.
3 計画・分岐
それぞれの資材の流れ、行先が「計画」されており、
図表.
1 個別検知・分岐
a.資材の指定された行先により、系列内でA径路、
B径路のように、行先の径路を「付印」する。
b.資材がA径路への分岐箇所に来たとき、付印を
その計画の伝達によって資材が所定の分岐箇所に到着し
たときに「分岐」する。
1.
2 分岐機器
比較的よく用いられる分岐機器を示す。
① 径路限定方式
「検知」し、A径路の資材のみ「分岐」する。
c.次に資材がB径路への分岐箇所に来たとき、付印
を「検知」し、B径路の資材のみ「分岐」する。
d.このように分岐箇所で個別に検知し分岐する。
② 集中検知・分岐
図表.
4 径路限定方式
資材が所定の行先の箇所にくると、図表.
4のように、
アームが作動して径路を遮り、資材を分岐させる。
② 押出し方式
図表.
2 集中検知・分岐
a.
資材の指定された行先について、
系列内でA径路、
B径路のように、各資材の行先の径路を
「付印」
する。
b.各資材に付印された行先を「検知」する。
c.各資材の行先情報はそれぞれの分岐箇所に「伝
達」される。
d.それぞれの分岐箇所に該当する資材が到着したと
きに、指定された径路に「分岐」する。
!
MHジャーナル
平成2
2年1
0月
図表.
5 押出し方式
分岐と流動貯蔵 ―MHシステムの設計に備えて―
資材が所定の行先の箇所にくると、図表.
5のように、
アームが作動して資材を押出すように分岐させる。
資材の到着が供給間隔を超えた場合に、円形平板など
の待ちスペースを作りそこに入れ貯蔵する。その円形平
板を回転させておき、到着流れが不足したときそこから
③傾斜滑落方式
出す。
③ サブライン
(引込線)
貯蔵方式
図表.
6 傾斜滑落方式
資材が所定の行先の箇所にくると、図表.
6のように、
移動装置が傾斜して資材を滑り落とすように分岐させる。
図表.
9 サブライン
(引込線)
貯蔵方式
資材の到着が供給間隔を超えた場合に、資材を引込線
2.流動貯蔵
に一時入れておき、到着流れが不足したときそこから出
流動貯蔵は「コンベヤ上などで資材を移動させながら
一時的に貯蔵すること」をいうが、2つの狙いがある。
a.格納保管されている資材を供給するためには、保
す。ここでは「後入れ・先出し」となることに注意する
必要がある。
④ サブライン
(副線)
貯蔵方式
管されている棚などから資材を取り出す必要があ
る。その手間を省くために移動させながらライン上
に貯蔵する。
b.資材を一定間隔で供給する際、供給箇所への資材
の到着に時間的または数量的なばらつきがある場合
には、供給に欠品を起こす恐れがある。それに備え
て供給箇所の直前でライン上に待機させてばらつき
を吸収する。
図表.
1
0 サブライン
(副線)
貯蔵方式
① ライン上貯蔵方式
資材の到着が供給間隔を超えた場合に、資材を副線に
一時入れておき、到着流れが不足し本流に欠品が生じた
とき、それを補う。
⑤ ホッパ貯蔵方式
図表.
7 ライン上貯蔵方式
動力駆動のローラーコンベヤなどを用い、移動ライン
上に資材を詰まった状況で貯蔵する。
② エンドレス貯蔵方式
図表.
1
1 ホッパ貯蔵方式
到着流れのばらつきが大きい場合には、容量の大きい
ホッパに入れ貯蔵する。
図表.8
エンドレス貯蔵方式
Material Handling Journal No.
263
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