テーマⅡ『主役は市民、ワインと映画祭を楽しみ・学ぶ

Vol.147【平成 22 年 10 月 29 日発行】
テーマⅡ『主役は市民、ワインと映画祭を楽しみ・学ぶ映画祭の開催』
【山梨総合研究所
主任研究員
井尻 俊之】
1.WAMOプロジェクトふえふき映画祭が 11 月 5/6 日に開催
山梨総合研究所の「地域資源を活かした観光まち
づくり」をテーマとする自主研究から派生した観光
振興イベントである「WAMO プロジェクト・ふえ
ふき映画祭ワークショップ」が 11 月5~6 日の 2
日間、笛吹市石和町八田の映画館テアトル石和/シ
ネマの殿堂、富士野屋夕亭特設会場で開催される。
この映画祭では、ハリウッドの映画スターである
ジュリー・ドレフュスさんや山梨出身の女優筒井真
理子さんらのトークや映画を上映するほか、甲州ワ
インを賞品にした、シネマ功労賞の表彰、短編映画
グランプリで映画制作の新しい才能を応援するな
ど、盛りだくさんのメニューを用意している。
イベントの開催準備に当たっているのは、甲府盆
地の東部にあたる峡東地域のワイナリー、旅館経営
者、青年会議所メンバー、農業者、会社員、市役所
職員などのボランティアで、甲府や東京から参加す
る人も多い。地域や業種の枠を越えた様々な人たち
図 1 ふえふき映画祭の公式ポスター
が「自分たちの力で、楽しいことをやって、山梨を元気にしたい」という夢と熱意によっ
て、「市民が主体の映画祭」の実現にこぎ着けた。このイベントは、誰でも参加できるオー
プンな運営体制により、地域活性化の新たな可能性を開くモデルとなっており、マスコミ
の取材も相次ぐなど、関心が高まっている。
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2.山梨総合研究所の自主研究から生まれた観光イベント
当研究所が、地域活性化の自主研究を実施する背景には、まず公益法人として社会貢献
分野での取り組みの強化を求められていることもあるが、地域で唯一の総合研究機関とし
て、従来の「THINK TANK」のあり方から、行動を重視する「DO TANK」へと活動のあ
り方を見直していることがあげられる。具体的には、地域社会に優れた研究の成果を積極
的に発信し、地域の住民、企業、自治体などが交流と協働を求めて参加する研究ネットワ
ークの結節点となることを目指している。
本稿の観光まちづくりに関する研究会以外にも①アジア研究会(アジア大交流時代に向
けて)②日韓国際交流シンポジウム(韓国シンクタンクとの定期交流)③環境健康ビジネス
研究会(ウェルネス・グリーン社会の構築に向けて)-などさまざまな試みが研究員によって、実践
されている。
そのなかで、観光まちづくりに関する研究は、県内の各自治体で「少子高齢化、長引く
経済不況のなかで、どのような地域活性化策を行えばいいのか」という問題提起が強まっ
ているおりから、当研究所も地域振興の一助として、自主研究テーマに取り上げることと
なった。
自主研究の時代背景も重要である。平成 18 年の「観光立国推進基本法」の成立、平成
19 年の「観光立国推進基本計画」の閣議決定等、政府は「観光は 21 世紀のリーディング
産業」と国家戦略を明確にしている。それをローカルでどのように適用したらよいのか、
各自治体でも頭の痛い問題になっている。
観光立国推進基本計画では、文化観光、産業観光、エコ・ツーリズム、グリーン・ツー
リズムなど「ニュー・ツーリズム」と呼ばれる、個人・家族連れを対象としたさまざまな
集客手法が提唱され、地域観光の手法を、従来の物見遊山の団体旅行依存から大きく転換す
ることを求めている。
この国家戦略に呼応して、山梨県においても「観光立県富士の国やまなし」の推進が県
政のグランドデザインとなり、観光行政を統括する組織として観光部が従来の商工労働部
から独立。平成 21 年 3 月に本県の観光・物産振興を推進する行動組織として、社団法人や
まなし観光推進機構が設立されるに至った。また、甲州市が第 1 次甲州市総合計画(平成
20 年)のなかで「観光立市」を宣言するなど、市町村レベルでも動きが広がっている。
こうした新たな観光行政が目指すものは、ニュー・ツーリズムの推進により、観光産業
を観光関連産業のみならず、農林業、運輸、飲食、製造など幅広い産業に関連させること
で、裾野が広く、経済的波及効果の大きい、地域の基幹産業に発展させることにある。な
かでも農業ならびに農産物が観光振興のカギと見なされるようになったのは、重大な観光
行政の転換である。
また少子高齢化の時代動向のなかで、観光が地域の定住人口減少を食い止めるための有
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効な戦略的産業であることが認識されるようになったことも重要である。地域外の人々と
の多様な交流活動を促進して、交流人口を増加させ、次段階で2地域居住、さらには定住
促進へと導いていくことが、観光行政の目指す究極の目標となったのである。
3.新たな地域振興戦略・観光まちづくりの主役は市民
現在、全国の各地の自治体では、ニュー・ツーリズムによる地域活性化戦略のもと、こ
れまで見過ごされてきた自然、文化、歴史や産業などの地域資源を「地域の宝」として発
掘・活用したツアー企画の開発に努め、来訪者が「訪れてよし、住んでよし」のまちづく
りを進めている。
これにより「観光振興とまちづくり」を一体的に行う「観光まちづくり」という行政施
策のパラダイムシフトが起こっていることは、注目すべきである。つまり、地域資源の魅
力を創造し、観光産業の真の担い手となるのは、観光業者ではなく、日常生活の現場で、
まちづくりを行い、多様な人的交流活動を行っている市民である、という新思考への転換
である。
当研究所では、上記の観光まちづくりビジョンを「いかに地域振興につなげるか」の観
点から、自主研究対象地域の選定を行った。その結果、生産量日本一のブドウ・モモとワイ
ンの産地でありながら、観光面では低迷している峡東地域の産業資源に着目し、これら資
源に磨きをかけた観光まちづくりが可能か検証することとした。検証にあたっての課題抽
出は以下の諸点である。
・峡東地域においては、フルーツ・ワイン観光、温泉、登山、自然散策を柱とした観光客
誘致が進められてきたが、現状は「日帰り型ツーリズム」が主体。(首都圏からの近さが
弱みに)
・石和温泉旅館の宿泊容量は約 9,000 名と県下最大規模の温泉郷であるが、1990 年代初頭
のバブル経済崩壊に始まる景気低迷で、現在の宿泊客は 1989 年のピーク時に比べ、およ
そ 5 割の 100 万人台に落ち込んでいる。
・今後の地域振興の課題は、「滞在型」「癒し型」ツーリズムをテーマとした「広域観光文
化圏」の確立が求められている。
峡東の広域観光文化圏創造を目指す「ワイン
文化研究会」は平成 21 年 12 月発足し、地域の
ワイン産業、観光産業等まちづくり関係者や、
一般市民に参加を呼びかけ、クチコミ宣伝で約
50 人の会に発展した。
一方、この研究活動には、市民の手作り映画
祭で成功した事例として世界的に有名な「ゆう
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図 2 研究会のようす
ばり国際ファンタスティック映画祭」(北海道夕張市)の総合プロデューサーを務めた小松
沢陽一氏(東北芸術工科大学客員教授)が賛同し、当研究所では特別研究員に委嘱した。
研究会は月例会として開催し、主に小松沢氏を講師として、ゆうばり国際ファンタステ
ィック映画祭(ゆうばりファンタ)の運営手法などを学んだ。
同映画祭は、1990 年に当時の夕張市長であった中田鉄治氏が、国の「ふるさと創生一億
円事業」による地域振興事業として開催した。特別招待作品、国際コンペティション、オ
マージュ上映、特別企画など、ハリウッド大作から邦画、インディーズ作品まで幅広く上
映作品が集められ、秋の東京国際映画祭と並ぶ、映画界の春のお祭りとして、日本国内で
も有数の歴史ある映画祭のひとつに発展した。
ゆうばりファンタの成功の原動力は、「映画祭は夕張の財産」と受け止めた地元市民の熱
烈な歓迎と温かいおもてなしボランティア活動であり、
「市民の手作りでアットホームな感
覚が魅力」とゲストや観客の高い評価を獲得したことにある。小松沢氏のプロデュースに
より、映画祭は、市民と観客やゲスト、俳優や監督など映画人同士が国境を越えて出会い、
言語の壁を越えて交流する場、文化を育む大切な場となり、「ゆうばりは映画人の故郷」と
言われるまでになった。
4.ゆうばりファンタは市民が主役で地域を支える心の事業に発展
ゆうばりファンタでは、2006 年に夕張市が財政再建団体入りを表明したことに伴い、市
運営による開催中止と運営補助金打ち切りが発表された。しかし、地元の市民や映画ファ
ンなどの有志が映画祭の灯を消さないでと訴え、その熱意に国内外の映画人も映画祭存続
に協力・支援する展開となった。2007 年から NPO 法人「ゆうばりファンタ」が中心となっ
て、映画祭が復活した。
映画祭を支援する著名な映画俳優ジョン・ボイト氏の「傷つき、苦しんだ人間ほど、強
く、優しくなれる。それが夕張だ!」という応援メッセージにみられるように、市民が主
役であることにより、映画祭が単なる観光集客事業を超えて、地域を支える心の事業にな
ったことが証明されたのである。
研究会の活動は、クチコミで参加してきた東京大学都
市工学・真鍋陸太郎助教のアドバイスも大きな原動力と
なっている。真鍋助教は、まちづくりにおける市民参加
の巻き込み方について、地域住民の方々がイベントへ自
らも参加しているという意識を持ってもらうため、
「自分
たちの持っている情報を提供する」手法の導入が重要で
あることを指摘し、会員がネット上におけるブログ、ツ
イッター、ユーチューブなど文字情報、動画情報の共有
システムが具体化された。
図 3 新しい情報ツール・ツイッターの画面
<ツイッター http://twitter.com/WAMOPROJECT>
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こうした研究活動の深まりから、研究会のメンバーは、地域それぞれで文化・魅力を創造・
再発見して自分の地域に誇りを持ち、さらに甲州・山梨・笛吹各市民が3地域相互の(広
義の)魅力を尊重し合い、3地域の文化・観光・産業的な発展を目指し、実践活動に取り
組むこととなった。
具体的な検討では、峡東の甲州市、山梨市、笛吹市が他に自慢の出来る地域資源として、
①日本一のモモ、ブドウ、ワイン、②石和温泉、塩山温泉、③シネコン全盛の時代に、今
や全国でも珍しい個人経営の映画館として、昭和の映画館の伝統を愚直に守る「テアトル
石和、塩山シネマ」-の3つの資源に着目した。これらを関連づけた祝祭イベントにより、
ブランド・コラボレーションを構築することがテーマとなった。
メンバーの討議では「新しい観光イベント文化を創造しよう。イベントをやって、われ
われの地域の自慢の産物や文化を見に来て楽しみ・学ぶ、新しい形の学びの場にできたら
よい。イベントを全国のまちづくりの人のスキルアップの場にする『イベントツーリズム』
という概念を立ち上げたい。」という意見に集約された。
その研究成果発表の実践プランとして誕生したのが〈ふえふき映画祭ワークショップ〉
である。研究会から派生した映画祭であるため、日本初の試みとして「映画祭を学ぶ映画
祭」としてワークショップ形式の映画祭という珍しい手法をとるが、これも営利集団が入
らない市民組織ならではの特色である。
5.地域の若者が主役の映画祭実行委員会が発足
実行組織を確立するため、当研究所では自
主研究会から、独立した市民主体の地域活性
化組織へと移行をお願いし、平成 22 年 6 月
22 日、
「ワイン&フルーツ観光文化研究会」
(会
長・大村春夫・丸藤葡萄酒社長)が設立され
た。但し当研究所は事務局を担当することで、
支援を継続する形となった。
会場では、引き続き甲州市、山梨市、笛吹
市の広域イベントである「ワイン映画祭実行
委員会」が発足。幹部役員がこぞって自主研
究会に参加していた笛吹青年会議所が事務局
図 4 映画祭実行委員会事務局の若者たち
を担当することになった。「まずプレイベントとして、少ない予算、少ない準備時間のなか
で、先ずわれわれが動いて、三地域で一緒にやるという共同のイメージを作りたい」とい
う提案が承認され、岩野博司・青年会議所理事長が実行委員長に就任した。
実行委員会では、3市の市民が協同してWAMOプロジェクトに取り組むことになった。
小松沢氏によると、成功している地域映画祭の共通点は「映画俳優や映画人のゲスト、外
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からの観客をもてなす市民のネットワークがあること。また映画館のほかに、住民と参加
者がともに集まり交流できる空間があること」であることから、WAMO(ワ・モ)精神
「市民がゲストを日本一のワイン(そ
として「WINE AND MOVIE」の略であると同時に、
して桃・葡萄)でもてなす」という意気込みの略である。
映画祭は限られた予算ながら、日本を代表する映画祭プロデューサーである小松沢氏の
アイデアにより、驚くほど多彩なプログラムが盛り込まれている。
<映画祭初日・11 月 5 日の概要>
映画人にワインで感謝の心を捧げる「シネマ功労賞」
の表彰式典、日本の無声映画・活動写真の伝統を守って本年で100周年を迎える大阪府
の田中映画社を祝福する「馬場の忠太郎・瞼の母」の活動弁士生上映と田中社長の記念セ
ミナー、甲州ヌーボーワインで祝福するショートムービーグランプリなど。
シネマ功労賞には映画俳優の村野武範さん、山梨出身の女優筒井真里子さん、ハリウッ
ド映画スターのジュリー・ドレフュスさん、地元で昭和映画館の伝統を守る塩山シネマ、
テアトル甲府などの映画人を表彰する。
<映画祭2日目・11 月 6 日の概要> 山梨総合研究所地域活性化セミナーで、ゆうばりフ
ァンタの元事務局長で夕張再生市民会議リーダーの三島京子さんが「夕張市民からのメッ
セージ」、東京大・真鍋助教の「まちの情報交流の場をつくる」、乃村工藝社デザイナーの
原田豊氏が「街をデザインする」を講演、山梨県立大の前澤哲爾教授がモデレーターとし
て地域活性化策の要点をまとめる。
また、山梨市出身で前角川映画社長の黒井和男氏による「ニューシネマパラダイス物語」
講演、アニメ映画「コブラ」生誕 30 周年記念・製作者寺沢武一氏祝福劇場、山梨の映画人
を応援する会(山梨出身の女優筒井真理子さんと彼女が出演する山梨オールロケ映画を企
画する小池和洋プロデューサーの激励会、東京国際ファンタスティック映画祭の同窓会記
念お座敷オールナイト映画会など、7日未明まで旬の甲州ワイン・ヌーボーと映画を堪能
するプログラムが続く。
これらのプログラムはすべて入場無料であり、会場ではワインや地元のグルメが提供さ
れる(飲食は有料)。本稿の読者におかれては、ジュリー・ドレフュスさんら映画人と共に、
映画とまちづくりを語り合い、学ぶことができるので、参加していただければ幸いである。
全国で映画祭といわれるイベントは 100 箇所にものぼり、観光まちづくりを目指す自治
体も多いが、成功事例は数少ない現実にある。そのなかで、新たな映画祭を成功させよう
というのは、市民の無茶な挑戦とも言えるが、11 月 5/6 日、ふえふき映画祭を第一歩とし
て、スタートを切った地元の若いボランティアの生き生きとした姿を見ていただきたい。
<WAMOふえふき映画祭ワークショップ 2010 公式ホームページ>
http://www.wamo-project.org/
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<ふえふき映画祭ワークショップ 2010 全体スケジュール>
第一会場
(テアトル石和)
第二会場
16:00 《開会式》
・実行委員長 挨拶
・参加ゲスト紹介
・セミナー「テアトル石和物語」
・オープニング・ショートムービー上映
17:00 《日本活動大写真館》
祝!田中映画社100 周年
・上映作品:「番場の忠太郎・瞼の母」
・ゲスト:井上陽一、田中一子、松岡優
19:00 《甲州ワイン・ウェルカムパーティー》
・テアトル石和「シネマの殿堂」
オープニングセレモニー
・シネマ功労賞授賞式
21:00 《甲州ヌーヴォーワイン・ショートムービ
ー・グランプリ》
(富士野屋
夕亭)
15:00 県外客 チェックイン
10:00 《山梨総合研究所地域活性化セミナー》
・テーマ①「まちの情報交流の場をつくる」
講師:真鍋陸太郎(東京大学大学院都市工学)
・テーマ②「夕張市民からのメッセージ」
講師:三島京子(夕張再生市民会議リーダー)
・テーマ③「街をデザインする」
講師:原田豊(乃村工藝社デザイナー)
・モデレーター:前澤哲爾(山梨県立大地域交流セ
ンター所長)
13:00 《寺沢武一「コブラ」劇場》
~「コブラ」生誕30周年後夜祭~
・上映作品:「コブラ ザ・サイコガン」
・ゲスト:寺沢武一( 予定)
15:30 《山梨映画人を応援する会》
山梨出身の女優筒井真理子さんと、彼女出演の
最新作ロケを企画している小池和洋プロデュー
サーの激励会
・上映作品:「MASK DE 41」
・ゲスト: 筒井真理子、小池和洋プロデューサー
20:30 《ファンタ同窓会、オープニングムービー》
・上映作品: 伝説のホラームービー
・ゲスト: 生駒隆始プロデューサー
10:30 《親子アニメ教室》
・上映作品:おでんくん、あずきちゃん
ソニック&チップ 恐怖の館
・ゲスト:岡尾貴洋監督
13:00 東京ファンタスティック国際映画祭同窓
会 チェックイン
13:30 《黒井和男の聖地巡礼ツアー・》
※オプション参加
17:00 特別セミナー
《黒井和男のニューシネマパラダイス物語》
18:30 《東京ファンタ同窓会、ほうとう大鍋パー
ティー》
※「キルビル」の女優ジュリー・ドレフュスさん
他、多数のファンタチルドレン映画人が参加!
23:00 《熱狂ファンタスティック!お座敷オール
ナイト》
※ファンタチルドレン映画人による持ち込み
「闇鍋」プログラム
・上映作品:高橋克彦ミステリーコレクション
「オボエテイル」プレミアム上映
「秋葉男 Z ゼータ」鎌倉泰川監督、他
発行:平成 22 年 10 月 29 日 編集:財団法人山梨総合研究所
TEL:055-221-1020(代表)FAX:055-221-1050
URL:http://www.yafo.or.jp
発行人:福田加男/編集責任者:井尻俊之
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甲府市丸の内 1-8-11