『組織変革への第一歩-まずはスモールサクセスの体験から-』(2008

『組織変革への第一歩
-まずはスモールサクセスの体験から-』
人材マネジメント部会幹事 白井 誠
(佐賀県 経営支援本部 職員課長)
今年度も人材マネジメント部会は熱い情熱と充実感をもって終了しました。メンバーの
皆さんはそれぞれ地元に戻られて、さっそく自分の自治体をいかに変革していくかを考え
ながら、人材育成やその活用、リクルーティング、適材適所の配置などなど人材経営全般
について、全力を挙げて取り組んでいこうと意欲に燃えていらっしゃることと思います。
人材マネジメント部会でよく耳にすることのひとつに次のような会話があります。
毎回日本橋の早稲田キャンパスで「目指すべき人材経営とは・・・」というようなこと
について講義を受け、ダイアログをして、様々な意見を聞き、自分の考えを述べ、またそ
れに対する新しい考えを聞くことで、自分が思ってもみなかった世界を知った結果、その
理想とするところと現実とのギャップに気づき、いま何をしなければならないかがひしひ
しと分かり、よしっ自分も現場に戻ったら頑張るぞと意欲に燃えて地元に帰ってはみるが、
いざ現場に戻ってみると、やらなくてはならない仕事が山ほどあり、それをひとつひとつ
こなすうちに、何をしなければならなかったのか段々分からなくなり、分かっていても取
り組むべきことが大きすぎてとても自分の力では太刀打ちできない無力感を感じ、やりた
かったことがいつの間にか後回しになり、ついには意欲は薄れ、最後は組織変革の道のり
の遠さを実感する、という話です。
・・・そしてまた部会に参加して、勇気をもらって帰る。
帰ったらまた同じことの繰り返し・・・。
これは誰もが感じることのようで、会う人会う人みなさん異口同音にそのようにおっし
ゃいます。
私はよく幹事キャラバンなどで各地の自治体を訪問し、新しい自治体経営、人材経営に
ついてお話をさせていただいていますが、そこで、担当者の方や、有志が語り合うワーキ
ンググループのようなグループのメンバーの方々とお話をする機会があります。彼らの等
しく共通する思いは、やはり自分ひとりでは何もできないという無力感、孤独感です。
組織変革は確かにたった一人ではどうしようもないくらい大きな事業であり、一担当者
がいきなりひとりで始めようとしてもいったい何から取り組んでいけばいいのか分からず、
ただただ無力感だけが残ります。しかし、そうだとしても、皆さん方の組織にあって変革
の必要性に気づいているのはおそらくあなた一人だけでしょうから、それに最初に取り組
むのはあなたをおいて他に誰もいないことになります。
それではどのようにしたら最初の一歩が踏み出せるのか。
■まずは「スモールサクセス」の積み重ねから
大きな変革を遂行するためには大多数の人々の理解を得る必要がありますが、最初から
全員が賛成してくれるほど世の中甘くはありません。今までの仕事のあり方、進め方に満
足している人たちにとって、改革後の姿がいかに理想的であっても、しょせん新しいこと
は厄介以外の何者でもなく、最初から諸手を挙げて賛成する人などありえません。
そこで、最初の第一歩は、まずは自分の考えに同調してくれる人物を探すところから始
める・・・ということになるのでしょうか。
そのためにはとにかく自分の考えをまずはまとめてみる。そしてそれを図にしたり、絵
にしたり、文章にしたりして、他に訴えるためのツールを作ります。そして、同僚、上司、
あるいは同調してくれそうな仲間にまずは話してみることです。小さくても仲間ができれ
ば自信もつきますし、勇気も与えてもらえます。
意見や考えというものは、自分一人で抱え込んでいるよりも、自分とは異なるモノの見
方・考え方によって揉まれた方が、その完成度は高くなります。議論が活発に行われてい
る組織からは、良い意見や考えが多く生み出されていくことになります。
また、頭で考えていても、口に出さなければそれは存在しないのと同じです。より多く
の人間が自分の意見や考えを口に出せば、その結果、組織内にある意見や考えの絶対数が
増えていくことになります。そんな組織が、トップに意見を言わない組織よりたくましい
のは言うまでもありません。
このようなたくましさは仲間とダイアログを重ねれば重ねるほど実感してくるもので、
自然と勇気が湧いてきます。
このような小さな自信がつくこと、これこそがあなたにとっての最初の「スモールサク
セス」だと思います。小さくてもよいので成功体験を得ることです。一人でもいいから仲
間ができた、共感できる人がいた、小さくても上手くいったと思える経験をすることで、
次なる意欲が芽生え、また新しい挑戦に力がみなぎります。取り掛かるのに早すぎるとい
うことはありません。まずは自分ができることから一歩ずつです。
■「トライ&エラー」を認めよう
この時期の取り組みは、まだまだ小さな失敗は許されるものだと割り切りましょう。ト
ライ&エラーを繰り返すことです。そしてそのたびに数多くの人々の意見、考えを真摯に
聞くことだと思います。
トライすることは簡単ですが、本当に難しいのはトライした結果を素直に振り返り反省
することです。トライするときは「これが最良の策だ」と言って取り組んだはずですから、
それが上手くいっていなさそうに感じてもそのことを認めたくないのが人間です。ここが
成功するかしないかの分かれ道なのですが、上手くいかなかったらそのことを素直に受け
入れ、勇気を出して失敗であったと言うことです。
私たちは(公務員は?)正直まずいなと思うような事があっても、いろいろな理由を考
えて上手に理屈を作り、あたかも失敗ではなかったかのごとく見せてしまいがちですが、
そのようなことをしていると次の飛躍ができなくなります。方針や方向性を柔軟に変える
ことができなくなるからです。失敗こそ最良の教師です。失敗を通じて得られたものは必
ず身につくものなのです。
メンバーの方々の中には、置かれた立場の違いはありますが、それぞれの環境に応じて
このあたりのプロセスに今一生懸命取り組んでいらっしゃるところがいくつかあります。
いわゆる「仲間づくり」、
「同じ思いを共有する者のネットワークづくり」などなどです。
土壌に肥料を与えるように、のちのち効いてくる重要な取組ではないかと思います。
率直にモノを言い合う。言われた人はそれを受け止める寛容さを持ち合わせている。そ
のような姿勢が議論を活発にすることにつながると思います。トライ&エラーを繰り返し、
前進することが、強靭な組織とそこにおいて導かれるしなやかな結論を形成していくこと
になるはずだと私は信じています。
■本格的に導入するときは十分に慎重を期して ~ エラーや後戻りはできない
さて、ここで満足して前進を止めてしまっては、せっかく周囲に与え始めていた小さな
揺らぎも自分の周りをちょっと変えるだけで大きな変革には結びつきません。
この力を継続していき、最終的にはトップの理解を得、変革を現実のものにしていく必
要がありますが、公務員の特性として皆さん方は人事異動しますし、異動先では継続が難
しくなることもしばしばですので、実際に残された時間はさほど多くはありません。皆さ
ん方の取り組みには「ゆっくり」という言葉はあてはまらないということです。公務員特
有の「問題先送り」をしてはならないと自覚し取り組んでいく必要があります。
自分達の組織が本来目指すべき姿が鮮明に見えてきたら、それを実現するための工程を
考えなければなりません。様々な人々の考えや意見を聞き、先進的な取組を民間や自治体
から学び、十分に学習し、自分の所属する組織に一番ふさわしいと思うものに仕上げてい
くプロセスです。
他の見栄えの良いシステムをただ真似るのではなく、ゼロから作り上げるつもりで考え
て、それを上司に説明し、理解を求めて実際の運営に結びつけていく必要があります。
本格的に導入するときは、限りなく慎重に考え、想定されるあらゆる抵抗に備え、大衆
の理解を得るためのシナリオを描いてから取り組む必要があります。中途半端に始めて途
中でやめてしまうことが一番よくなく、一度失った信頼はもう元には戻りません。次に何
かをやろうとしてもマイナスからのスタートになってしまいます。決して後戻りはできな
いということです。
■人材マネジメント部会幹事ができるお手伝い
以上のような各場面で、私達人材マネジメント部会の幹事がお手伝いできることは、私
なりに考えますと、日頃から相談に乗ることはもとより、幹事キャラバンという形で皆さ
ん方の自治体にお邪魔して、ワークに参加したり、研修会、講演会に出席して、皆さん方
が取り組もうとされていることを外部の目から評価し、解説してあげることではないかと
思っています。
身内がいくら頑張って新しい変革の事業に取り組んでも、人はなかなかそれを重大なも
のとしてとらえることができません。これまで組織内で当たり前のように日常的に行われ
てきた慣行や、組織を支配するドミナントロジックを壊すことになりますから、それがい
かに重要なことかを必死に説いてまわるあなたの取組を外部の人間が最大限に評価し、内
部の人たちのあなたを見る目を変えてあげることが、私達のできるお手伝いではないかと
思っています。どうか幹事キャラバンを大いに活用していただきたいと思います。
■最後に
最後に、人は考える生き物です。どんなに楽しい踊りでもただ「踊れ」と言われただけ
では人は踊ってはくれません。まずは音楽を聴かせ、軽快にリズムをとって、いかにその
踊りが楽しいか、踊ったことでどんな風に幸せな気分になれるかということが感覚で分か
るようにしてあげなければ「踊ろう」という気分にもならないものです。無理やり踊らせ
たとしてもただ苦痛だけが残り、そんな組織はいずれ衰退してしまいます。
組織変革の仕事は、それを「仕事」としてとらえて悲壮な覚悟で臨むよりも、むしろ「楽
しみ」としてとらえ、自分も踊りの輪の中に入って一緒に踊りながら(目線を人々の目線
に合わせながら)様々な人々の意見を取り入れて柔軟に対応していくものではないかと思
います。
まずは小さな一歩から。皆さん方の今後のご活躍をお祈りします。