小児気管・気管支異物の診断と治療

小 児 耳V◎L26,No.2,2005
総 説
小児気管・気管支異物の診断と治療
香取幸夫,川瀬哲明,小林俊光(東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科)
Diagnosis and Treatment of Foreign Bodies in the Tracheobronchial
Tree of Children
Yukio Katori, Tetsuaki Kawase, Toshimitsu Kobayashi
From the Department of Otolaryngology & Head and Neck Surgery, Tohoku University Hospital,
This paper reviewsthe diagnosisand treatment of foreign bodies in the tracheobronchialtree of children.
From 1986 to 2005, sixty-fourcases were treated in the Tohoku University Hospital. Accordingto previous
reports,children under the age of three yearswere the most common sufferers.The most freguentlyfound foreignbodies werepeanuts, but non-organicmaterialswere alsothe cause in a fewcases. For the diagnosisand examinationof the sites of foreignbodies, the historyof aspiration and coughingattacks, weaknessof respiratory
sounds,chest roentgenogramfindings,and alsoCT scanswere found to be valuable.In all cases,it was possibleto
removethe foreignbodies by ventilationbronchoscopy.
Key words: Foreign body, aspiration,peanuts, tracheobronchialtree, ventilationbronchoscopy
年 を 経 て い る が,本
は じ め に
稿 で は 最 近20年 間 に 当 院
で 気 管 支 鏡 手 術 を 行 っ た 小 児 気 管 ・気 管 支 異 物
気 管 ・気 管 支 異 物 は 頻 度 の 少 な い 疾 患 で あ る
が,症
例 の 多 くは 幼 小 児 で,異
物 の 種 類,場
所,介
在 す る期 間 に よ り呼 吸 困 難 や 重 篤 な 感 染
64症 例 を 検 討 し,異
物 の 頻 度 ・種 類 を 比 較 す
る と と もに,そ の 診 断 と治療 に つ い て 総 説 す る。
を 惹 起 す る こ とが あ り,初 期 治 療 を 担 当 す る 小
児科 医や 耳鼻咽 喉科 医 に とって責務 の大 きい救
1患
者 年 齢 と異 物 の 種 類
気 管 ・気 管 支 異 物 の 統 計 に 関 して 本 邦,欧
米
急 疾 患 で あ る1)。成 人 症 例 の 異 物 の 大 半 が 気 管
と も に数 多 くの 報 告 が な さ れ て い る が,異
支 フ ァ イ バ ー ス コー プ の 発 達 に よ り呼 吸 器 科 医
10才 以 下 の 小 児 働 に,特
に よ り低 侵 襲 に 摘 出 可 能 に な っ た こ と に 対
とが 指 摘 さ れ て い る2-7)。1986年 か ら2005年 の
し2),幼 小 児 症 例 の 場 合,現
間 に 当 科 で 治 療 し た 気 管 ・気 管 支 異 物89症 例
在 で もなお 耳鼻 咽
に0-2才
喉 科 医 が 全 身 麻 酔 下 に直 達 気 管 支 鏡 に よ り摘 出
で は,10才
せ ね ば な らず,患
2才 以 下 の 症 例 が60例(67%)で
者 の 生 命 と も関 連 し て 迅 速 な
以 下 の 小 児 例 が64例(71%),う
診 断 と治 療 が 要 求 さ れ る1・3)。当 院 で は1960年
異 物 の種 類 は,成
代 よ り耳 鼻 咽 喉 科 と麻 酔 科 の協 力 の も と に換 気
が 多 い(68%)の
気 管 支 鏡 手 術 を 導 入 し,西
く(86%),特
年 か ら1974年
の9年
支 異 物110症 例(う
條 ら に よ り,1966
間 に 経 験 し た 気 管 ・気 管
ち 小 児97例)に
関 して 先 駆
的 な 時 期 の 報 告 が な さ れ て い る4)。 そ の 後 約30
一67一
物は
児に多い こ
ち
あ っ た(図1)。
人 におい て義歯 や歯 科 装着 物
に 対 し,小
児では豆類が 多
に ピ ー ナ ッ ツ が そ の8罰
占 め て い た 。(表1)。
近 くを
今回 の調 査 結果 を 当施 設
の26年 前 の 報 告4)と 比 較 す る と,1年
の 小 児 気 道 異 物 治 療 数 は10.8人/年
間 あた り
か ら3.2人/
小 児 耳VoL26,No.2,2005
図2宮
図11986年
か ら2005年 ま で に 当科 で 診 療 し た 気 管 ・
の 治 療 例 は3分 の1以 下 に減 少 し て い る。 異 物
の 種 類 は 両 時 期 と もに ピー ナ ッ ツや そ の他 の豆 類
の 頻 度 が 高 い。
気 管 支 異 物 症 例(計89症 例)の 年 齢 分 布 。2才 以
下 の 乳 幼 児 と51才 以 上 の 症 例 が 多 い 。 特 に1才
児 に 多 く,全 症 例の 約 半 数 を 占め て い た。
表1当
科 治 療 例 に お け る 気 管 ・気 管 支 異 物 の 種 類 。
10才 以 下 の 小 児 例 で は ビ ー ナ ッッ に 代 表 さ れ る
城 県 全 県 の 小 児 気道 異 物 治 療 を 担 って い る東 北
大 学 病 院 に お け る 小 児気 道 異 物 の 頻 度 と種 類 。 上
段 の1986∼2005の
資 料 は 本 報 告 か ら,下 段 の
1966∼1974の 資 料 は 文 献4)を 参 照 。1年 あた り
2異
物 の診 断
豆 類 の 異 物 が 多 く,義 歯 ・歯 科 充 填 物 が 多 く認
異 物 の 有 無,場
め られ た。
所 につ いて迅速 に確 実な診 断
が 行 わ れ る こ とが 肝 要 で,病
画 像 診 断(胸
部 単 純X線
歴 の 聴 取,聴
写 真,胸
な ど)が 順 に 行 わ れ る。 ま た,異
診,
部CT検
査
物摘 出の 直前
に は 換 気 下 に 軟 性 フ ァ イバ ー ス コー プ に よ り十
分 な 観 察 が 行 わ れ るべ きで あ る。
① 問診
病 歴 の 聴 取 は 気 管 ・気 管 支 異 物 の 診 断 に 最 も
重 要 で あ り,異 物 の 有 無 の み な らず,摘
出時の
注 意 点 や 合 併 症 の 危 険 性 を 推 し 量 る 情 報 とな
る。 多 くの 場 合,患
者 は 乳 幼 児 で あ り,両 親 や
家 族 か ら聴 取 す る こ とに な る。 今 回 検 討 した
64症 例 で は,異
%),喘
物 の 吸 入 時 に 咳 漱 発 作(80
鳴(58%),呼
(17%),チ
吸 困 難(28%),嘔
ア ノ ー ゼ(12%)の
吐
症 状 が認 め ら
れ た 。 こ れ ら喉 頭 か ら下 気 道 に か け て の 粘 膜 刺
激 症 状 や 気 道 狭 窄 症 状 の 有 無 を詳 細 に 聞 く こ と
類が
と,そ の 時 何 を 口 に 入 れ て い た か を 明 ら か に す
大 部 分 を 占 め る とい う異 物 の 種 類 の 傾 向 に 変 化
る こ とが 問 診 上 重 要 で あ る 。 工 藤 は 誤 嚥 の 契 機
は 認 め られ な か った(図2)。「ピ
に つ い て 検 討 し,口 の な か に 物 を 入 れ て い る と
年 と3分
の1以
下 に 減 少 し て い た が,豆
幼 小 児 に 与 え な い」と
ー ナ ッッ 等 を
い う啓 発 が 普 及 す る こ と
き に遊 ぶ,泣
く,転 倒 す る 行 為 を 伴 う こ とに よ
に よ り疾 患 が 減 少 して い る と評 価 さ れ る が,依
り,急 激 に 吸 い 込 む よ う な 動 作 が お こ り異 物 が
然 豆 類 の 誤 嚥 が後 を絶 た な い 状 況 が 示 さ れ た 。
吸 入 さ れ る と指 摘 し て い る3)。
異 物 が 気 管 支 の 特 定 の 部 分 に 固 定 さ れ る と上
述 の 誤 嚥 時 の 症 状 は 消 失 し,軽 い 咳 が 継 続 す る
一68-一
小 児 耳Vol.26,No.2,2005
め ら れ,異 物 の 存 在 を 示 唆 す る所 見 と し て 聴 診
の 重 要 性 が 再 認 識 さ れ た 。 しか し,異 物 の 大 き
さ や 位 置 に よ り必 ず し も こ れ らの 所 見 が 出 現 し
な い 場 合 が あ る こ とに 留 意 す る必 要 が あ る 。 受
診 時 に 発 熱 を 伴 っ て い る こ とは 比 較 的 少 な く
(9例,14%),検
CRP値
査 所 見 で は 白血 球 数 の 増 加 や
の 上 昇 が 認 め られ る 場 合 が あ る が,必
須 の所 見で はな か った。
図3小
児 の 気 管 ・気 管 支 異 物 症 例(計64症
例)の
異
物 誤 嚥 か ら当 科 受 診 ま で の 期 間 。 急 性 期 症 状 を
主 訴 に 当 日か ら翌 日 に受 診 す る例 が 半 数 以 上 で
あ った が 。 無 症 状 期 間 の 後,1ヶ 月 を超 え て受 診
した 症 例 も4例 み られ た。
診 察 時 の 重 要 な 注 意 点 と し て,気
異 物 を疑 わ れ る症 例 で は,異
管 ・気 管 支
物 の 移 動,声
門下
や 気 管 内 で の 陥 頓 に よ り突 然 呼 吸 困 難 を 生 じ る
危 険 性 が あ る こ と が 挙 げ られ る。 古 賀8),森 満
ら9)の 小 児 気 道 異 物 の 死 亡 例 に 関 す る 報 告 で
程 度 で,い
っ た ん 無 症 状 に な る こ とが 多 い 。 そ
は,病
の た め,吸
入 後 早 期 に 異 物 が 固 定 さ れ た 場 合,
れ て い る。 今 回 の 検 討 症 例 で は64例 中1例,1
院 到 着 後,摘
出操作 中 の死亡 例 が報告 さ
異 物 吸 入 時 の 刺 激 症 状 に 家 族 が 気 づ か ず,異 物
才 男 児 の ピ ー ナ ッ ツ異 物 で,外
が 残 留 した ま ま 放 置 され る。 この 無 症 状 の 時 期
内 陥 頓 に よ る と推 察 さ れ る チ ア ノ ー ゼ,呼
は 異 物 の 種 類 に よ っ て 異 な り,プ ラ スチ ッ ク や
難 か ら呼 吸 停 止 を 生 じた 事 例 が あ っ た 。 気 管 内
金 属 の よ うな 無 機 質 で は 長 く,ピ ー ナ ッツ な ど
挿 管 で 異 物 を 動 か し換 気,救
の 食 物 性 異 物 で は 短 い 傾 向 が あ る。 無 症 状 期 に
室 に 移 動 して 異 物 を 摘 出 した 。 この 経 験 か ら,
引 き続 い て,異
気 管 内 挿 管 な い し気 管 切 開,換
て 咳,喘
物 に よ る二 次 的 な 刺 激 症 状 と し
鳴 が 出 現 す る 。 この 時 期 に 至 り医 療 機
来 受 診 中 に気 管
吸困
命 し え た 後,手
気,吸
術
引 が速 や
か に 出 来 る 準 備 を常 日頃 か ら外 来 に 備 え,担
当
関 を受 診 す る が,初 期 の 異 物 吸 入 の 病 歴 が 把 握
医 師 が 迅 速 に使 用 で き る 環 境 を整 え る よ う に し
され ず に 気 管 支 炎 や 喘 息 と し て 治 療 を 受 け る場
て い る。
合 が あ る。
③ 画像診 断
当 科 の 治 療 例 に お い て,異
物 を 誤 嚥 し た と考
気 管 ・気 管 支 異 物 を疑 っ た 際,異
物 と肺 野 の
え ら れ る時 点 か ら初 診 時 ま で の 期 間 を み る と,
状 態(無
急 性 期 の 症 状 に よ り当 日な い し翌 日 に 受 診 した
る た め に,胸
症 例 が34例,2-4日
像 診 断 は 不 可 欠 な 検 査 で あ る 。 胸 部X線
例,無
以 内 に 受 診 し た 症 例 が14
症 状 期 を 経 て5日
以 上 経 過 し て か ら受 診
した もの が7例,1ヶ
月 以 上 経 過 し た もの が4
例 で あ っ た(図3)。
最 長 の 症 例 は46日 後 に 受
診 した 歯 科 治 療 材(イ
気 肺 ・肺 炎 の 有 無)に
部 単 純X線
は 正 面 ・側 面 の2方
関 す る情 報 を 得
検 査 に代 表 され る画
で は 深 吸 気 時 と深 呼 気 時 を 撮 影 す る。X線
ン レ イ)の 金 属 異 物 症 例
で あ っ た。
過 性 の 異 物 で あ れ ば,異
非透
物 の 大 き さ と位 置 を 明
ら か に 確 認 す る こ と が 出 来 る 。 多 くの 異 物 は
ピ ー ナ ッ ツ の よ う にX線
② 理 学 的 所 見,検 査 所 見
で,単
聴 診,打
難 で あ る が,異
診 に よ り異 物 の 存 在 す る 気 管 支 な い
写真
向 で 撮 影 し,正 面 像 の 撮 影
純X線
非 透過 性 で あ るの
写 真 上 で 直 接 確 認 す る こ とは 困
物 に よる主気 管支 狭窄 に よって
し末 梢 の 肺 野 に 一 致 し て,気 道 狭 窄 な い し無 気
起 こ る 深 呼 吸 時 の 心 縦 隔 の 移 動 を み る こ とで 患
肺 の 所 見 が 認 め ら れ る。 す な わ ち 打 診 に よ る患
側 を 推 定 す る こ と が 出 来 る。 す な わ ち,深
側 の 鼓 音 の 聴 取,聴
時 に 心 縦 隔 が 異 物 の 存 在 す る 患 側 に移 動 す る 現
診 に よ る喘 鳴 な い し呼 吸 音
の 減 弱 の 聴 取 が認 め られ る 。 当 科 の 治 療 例 で は
64例 中60例(94%)に
聴 診上 の異 常 所 見 が認
一一・69-一
象 で,Holzknecht'ssignと
Holzknecht'ssignは
吸気
称 され て い る(図4)。
異 物 の 存 在 す る3種
類
小 児 耳VoL26,No.2,2005
図4左
主 気 管 支 に ピー ナ ッ ッ異 物 の 存 在 した2才 男 児症 例 の胸 部X線 像 。 吸 気 時 に 心縦 隔 陰
影 が 異 物 の あ る 左 側 に 移 動 す るHoltzknecht徴 候(矢 印)が 認 め られ る左 下 葉 は肺 気 腫
様 にな って お りX線 透 過 性 が尤 進 して い る(*)。
の 状 態 に そ れ ぞ れ 対 応 して 見 られ る と考 え られ
こ と,乳 幼 児 の 呼 吸 時 期 に 合 わ せ た 撮 影 が 難 し
て い る。 第 一 は 異 物 に よ り主 気 管 支 が 狭 窄 し て
い こ と な ど か ら,Holzknecht'ssignが
い る 場 合 で,患
れ な くて も 異 物 の 存 在 が 否 定 さ れ る わ け で は な
側 の 吸 気 量 が 健 側 よ り少 な い こ
とに よ り吸 気 時 の 心 縦 隔 が 患 側 に 移 動 す る。 異
物 が 存 在 して も主 気 管 支 の 狭 窄 の 程 度 が 少 な い
場 合 に は 明 瞭 なHolz㎞echt'ssignが
現れない
認め ら
い。
こ れ ら単 純X線
の検 査 に 加 え,1970-80年
代
には患 側の肺 血流 量 の減少 を肺 シン チグ ラムで
こ とが あ る。 第 二 は 異 物 に よ り吸 気 時 の み 主 気
同 定 す る 報 告10)が,1990年
管 支 の 換 気 が 少 し可 能 に な る場 合 で(気 管 支 は
直 接 ピ ー ナ ッ ツ 異 物 を 確 認 す る報 告 が な さ れ て
吸 気 時 に 呼 気 時 よ り管 径 が 広 くな る 特 徴 を も つ
い る11)。い ず れ も有 用 な 検 査 で あ る が,撮
た め 吸 気 時 に少 し開 通 す るが 呼 気 時 に は 閉 鎖 し
件 や 装 置 の 問 題 もあ り,緊 急 に 行 う こ とが 難 し
な い と い うcheckvalve様
い 施 設 が 多 い と考 え られ る 。 当 科 で は 最 近 のX
る),吸
の 状 態 が 起 こ りえ
気 時 に は 心 縦 隔 が 患 側 に 移 動 し,呼
気
線CT検
代 に はMRIに
より
影条
査 の 高 速 化 と3次 元 像 再 構 築 の 特 徴 を
時 には患側 が肺 気腫様 にな るため心縦 隔 が健 側
生 か して,気
に 移 動 す る 。 第 三 は 異 物 に よ り主 気 管 支 が 完 全
に は,出
に 閉 塞 し て い る 場 合 で,吸
1.5-2秒 程 で ス キ ャ ソ を 終 了 出 来 る の で,前
気 時 に無 気 肺 と な る
時 の 異 物 の 部 位 は,気
お よ び そ の 遠 位 が28例,左
遠 位 が29例
に お け る摘 出
管 内 が7例,右
主 気管 支
気 管 支 お よび そ の
指摘 され た症 例 は気管 支 異 物
57例 の う ち34例(60%)あ
り,聴 診 所 見 とあ
わ せ て 異 物 の 存 在 部 位 を 推 察 す る の に有 用 な 現
処
異物 に よって狭 窄す る気管 支部 位 を同定す るこ
と が 可 能 で あ る(図5)。
ま た 最 近 で は,CT画
像 か ら 再 構 築 さ れ るvirtualendoscopy像
が,
が 指 摘 さ れ て い る12)。
3異
物の摘出
塞の
小 児 の 気 管 ・気 管 支 異 物 は 全 身 麻 酔 下 に 異 物
現れない
の 摘 出 が 行 わ れ る。 全 身 麻 酔 一 般 の 危 険 性 に加
象 で あ っ た 。 しか し,両 側 異 物 症 例 や,閉
程 度 の 軽 い 異 物 で は 明 ら か なsignが
査 を 行 っ て い る。
気道 異物 を含む 下気道 の診 断 に有用 であ る こ と
で あ っ た 。 術 前 に 明 ら か なHol-
zknecht'ssignが
来 る だ け 胸 部CT検
置 な く患 児 を 短 時 間 固 定 す るだ け で 撮 影 出 来,
患 側 に 心 縦 隔 が移 動 す る場 合 で あ る。
今 回 検 討 し た 小 児 治 療 例64例
管 ・気 管 支 異 物 の 疑 い の あ る症 例
一70一
小 児 耳VoL26,No.2,2005
図5図3と
同 じ症 例 のCT像(a縦
隔 条件,b肺 野 条 件)。 左 主 気 管 支 末 梢 に存 在 す る 異物 が
同 定 され て い る(矢 印)。 左 下 葉 の 肺 気 腫 所 見 が 認 め られ(つ,異
物 が チ ェ ッ クパ ル ブ
様 に 存 在 す る こ とが示 唆 され た 。
え て 術 中 ・術 後 の 無 気 肺 ・気 管 支 炎 ・肺 炎 等 の
管 支 ま で 観 察 が 可 能 で あ り,こ の 時 点 で 異 物 の
呼 吸 器 合 併 症 に 関 して,ま
位 置,大
た気管 支鏡 手技 で摘
き さ,陥 頓 の 状 態,気
管 支 の炎症 所見
出 不 能 な 場 合 な ど,家 族 に 対 して 十 分 な説 明 と
が 把 握 さ れ る。 内視 鏡 の 操 作 は 愛 護 的 に 行 い,
同 意 が 必 要 が あ る。1950年
代 に麻 酔 下 の 気管
必 要 以 上 に 気 管 ・気 管 支 壁 を 刺 激 し て 攣 縮 や 浮
支 鏡 手 技 が 開 発 さ れ て 以 来13・14),気管 支 鏡 手 術
腫 を 引 き起 こ す こ と を避 け な け れ ば な らな い。
の 適 応 や 要 点 に 関 して は 数 々 の 総 説,論
当 科 で は この 段 階 で は 観 察 の み 行 っ て い る が,
文 に述
べ られ て い る15・16)。
こ こで は 私 ど もの 行 って い
ラ リソ ジ ア ル マ ス ク と鉗 子 チ ャ ソ ネ ル 付 内 視 鏡
る異 物 摘 出 の 手 順 と留 意 点 を 紹 介 す る 。
を 用 い た 異 物 摘 出 も報 告 さ れ て い る17)。今 後,
細 径 内 視 鏡 と微 細 鉗 子 が 発 達 す る に つ れ,内
①準 備
手 術 開 始 前 に 使 い慣 れ た 換 気 気 管 支 鏡,麻
器 との 接 続 器 具,カ
メ ラ,モ
ニ タ ー,摘
酔
出用 鉗
子 等 の 器 械 を,順 序 良 くす ぐ使 用 で き る よ う に
③ 気 管 支 鏡 と鉗 子 に よ る 摘 出操 作
当 科 で は 町 田製 作 所 製 の 小 児 ・換 気 気 管 支 フ
確 認 ・配 置 す る 。 特 に 鉗 子 の 種 類 や 動 作 状 況
ァ イ バ ー ス コ ー プFS-VB250を
は,使
(図6a)。
用 間 隔 が 空 い て 把 持 す る握 りが 固 くな っ
視
鏡 下 摘 出 の 適 応 症 例 も増 え る もの と考 え られ る。
用 いて い る
こ の 気 管 支 鏡 は 外 径5x7mm,有
効
て い る こ とが あ り,十 分 に 注 意 し て す ぐ使 用 で
長250mmで
き る よ うに し て お く。 深 夜 の 臨 時 手 術 とな る 場
野 が 広 く鉗 子 先 端 と異 物 の 両 者 が 可 視 で き る特
合 も多 い が,術
中 ・術 後 に 様 々な 合 併 症 が 起 こ
徴 が 指 摘 さ れ て い る 。 異 物 の 位 置,摘
出の手 順
る 可 能 性 が あ り,摘 出 経 験 の 豊 か な 耳 鼻 咽 喉 科
を 念 頭 に 置 き,鉗 子 を 選 択 した 後,喉
頭鏡 を用
医,麻
い て 喉 頭 展 開 した 状 態 で 挿 管 チ ュー ブ を抜 き,
酔 科 医 を 含 め て,出
来 るだ け 複 数 の 摘 出
乳 幼 児 専 用 の 単 一 サ イ ズ だ が,視
経 験 の あ る ス タ ッフ が 助 手 と して 手 術 に 参 加 す
声 門 を確実 に視 野 に置 いて換 気 気管 支鏡 を挿 入
る こ とが 望 ま し い。
す る。 疾 な ど の 分 泌 液 を 吸 引 し つ つ 慎 重 に か つ
② 内視 鏡 に よ る 異 物 の 確 認
手 早 く気 管 支 鏡 を進 め,そ
麻 酔 科 医 に よ る経 口 挿 管,全
後,細
身 麻酔 の導 入 の
1.5cm程
度 手 前 で 止 め,異
の先 端 を異物 の 手前
物 が 中 央 に位 置 す
径の軟 性 フ ァイバー ス コー プを用 いて挿
る よ うに気管支 鏡 の位置 を固定 す る。 あ らか じ
管 チ ュー ブ を 介 して 気 管 ・気 管 支 の 観 察 を 行 っ
め 選 択 し て い る 鉗 子 を挿 入 し,異 物 の 中 央 を し
て い る。 左 右 と も に 第2か
っ か り把 持 し,気 管 支 鏡 の 先 端 部 ま で 引 き 寄 せ
ら 第3分
岐部の気
一71一
小 児 耳VoL26,No.2,2005
判 りや す く,か つ 強 く掴 み す ぎ て 豆 を割 っ て し
ま う危 険 を 減 らす こ とが 出 来 る。
鉗 子 が 届 き に くい 深 部 や 上 葉 枝 方 向 の 異 物 の
摘 出 に は,吸
引 管 を 用 い て 引 き寄 せ る こ とが 有
用 で あ る(図8)。
主 気 管 支 の部 位 ま で引 き寄
せ て 鉗 子 で摘 出 す る か,ま
た 小 片 の 場 合,そ
の
ま ま気 管 支 鏡 内 ま で 入 れ て と も に摘 出 す る こ と
が可能 であ る。
今 回 検 討 し た64例 の 異 物 は,幸
い な こ とに
全 例 が 気 管 支 鏡 で 摘 出 可 能 で あ っ た が,異
物の
種 類 や 部 位 に よ っ て は外 切 開 に よ る摘 出 が 適 応
とな る 場 合 もあ り18・19),気管 支 鏡 以 外 の摘 出 法
を 念 頭 に お い て 治 療 を 進 め る必 要 が あ る。
4摘
出後 の管 理
異 物 の 長 期 陥 頓 に よ る炎 症,お
よび 摘 出 時 の
操 作 に よ り気 管 支 の 攣 縮 や 浮 腫 ・炎 症 が 起 こ る
可 能 性 が あ り,術 後 の 呼 吸 状 態 に は 細 心 の 注 意
を 払 う 必 要 が あ る1・3・15)。
当科 で は 異 物 摘 出後
図6(a)当
科 で 使 用 して い る 小 児 ・換 気 気 管 支 フ ァ イ
バ ー ス コ ー プFS-VB250(町
田 製 作 所 製)と 先
端 の拡大 像。 レンズ先 端は 内視鏡の 上側 にある
の で,得 られ る の は 下 向 きの 視 野 で,鉗 子 が 下
に 挿 管 状 態 で 胸 部X線
撮 影 を 行 い,内
視 鏡所
見 と と も に参 考 と し,麻 酔 科 医 の指 示 を 得 て術
後 の 呼 吸 管 理 の 方 針 を決 定 して い る 。 異 物 摘 出
方 か ら出 る こ とを 意 識 し て操 作 す る。(b)ピ ー ナ
ッッ 鉗 子(永 島 医 科 器 械 製)と そ の 先 端 。 外 側
の 気 管 壁 に 当 た る 部 分 は 滑 ら か で,豆 を 把 持 す
後 も換 気 不 全 を 生 じ,挿 管 状 態 で持 続 陽 圧 換 気
る 側 は 滑 り に くい 凹 凸 が つ い て い る。 豆 を包 み
込 む よ う な軽 い 湾 曲 が つ い て い る。
や 副 腎 皮 質 ス テ ロ イ ド剤 の 投 与,酸
が 必 要 とな る 場 合 や,抜
管 が 可 能 で も抗 生 物 質
素投 与 が必
要 とな る こ と が 多 く,摘 出 後 少 な く と も24時
間 の 呼 吸 状 態 を 厳 重 に観 察 す る べ きで あ る 。
る(図7を
参 照)。 異 物 を 把 持 し た ま ま 気 管 支
鏡 と鉗 子 を 共 に ゆ っ く り引 き抜 く。 摘 出後 に再
度 経 口 挿 管 し,前 述 の 内 視 鏡 観 察 で 異 物 の 残 存
5結
語
小 児 の 気 管 ・気 管 支 異 物 の 治 療 に 関 して 当科
の 治 療 症 例 を 検 討 して 総 説 した 。 異 物 を 内 在 す
の 有 無 と摘 出 後 の 気 管 支 の 状 況 を 観 察 す る。
小 児 の 異 物 の 大 部 分 を 占 め る ピー ナ ヅッ 異 物
る 患 児 は,絶
え ず 呼 吸 障 害 ・生 命 の 危 険 と背 中
に 対 して は 先 端 が 有 窓 状 で 豆 の 形 に 沿 う ゆ るや
合 わ せ に あ る と考 え る べ き で,初 診 時 に 異 物 の
か な 湾 曲 を 持 つ ビー ナ ッ ッ 鉗 子(永
島医科 器械
存 在 が 少 し で も疑 わ れ る場 合 に は速 や か に 摘 出
気管 支鏡 の先 端 を
を担 う施 設 に紹 介 す る こ とが必 要 で あ る。 ま
製)を
用 い て い る(図6b)。
出 た と こ ろ で 鉗 子 の 先 を 拡 げ,気
管 壁 を愛 護 的
た,幼
少 児 で 治 療 に 対 す る反 応 性 が 乏 し く,遷
に 広 げ る よ う に して 滑 ら し,異 物 と気 管 壁 の 間
延 す る 咳 蹴 や 気 道 狭 窄 所 見 が 認 め られ る 場 合 に
に広 げ た 鉗 子 の 先 を 入 れ る よ うな イ メー ジ で 鉗
は,常
子 を 進 め る(図7b)。
くべ き で あ る。 一 方,本
ピーナ ッツの 中央 を掴む
よ う に 心 が け る が(図7d),握
に 潜 在 す る 気 道 異 物 の 可 能 性 を念 頭 に 置
疾 患 に 関 す る啓 発 が進
りの や わ らか い
み,私
ど も の 担 当 地 域 に お け る幼 少 児 の 症 例 が
鉗 子 を用 い る こ と に よ り,把 持 した 時 の 感 触 が
約3分
の1に
一72一
減 少 し て い る 事 実 か ら,今
後も
小 児 耳VoL26,No.2,2005
図7ピ
ー ナ ッツ鉗 子 に よ る異 物 摘 出 。(a)異 物 を 中心 近 くに観 察 で き る視 野 を 気 管 支 鏡 で 確 保
す る。 写 真 の 症 例 で は 左 気 管 支 上 葉 枝 の 入 口 に 陥 頓 した ピー ナ ッッ が存 在 して お り(矢
印),隣 接 す る下 葉 枝 は 開 通 して い る。(b)ピ ー ナ ッ ツ鉗 子 の 先 端 を広 げ,気 管 支 壁 を 軽
く広 げ る よ う に しつ つ鉗 子 を 進 め,異 物 と気 管 支 壁 の 間 に鉗 子 先 端 を 差 し込 ん で い く
(矢 印)。(c)柔 か い タ ッチ で 異 物 を 掴 み 始 め る 。(d)異 物 の 感 触 を 確 か め て し っ か り掴
む 。 必 要 以上 の 力 を加 えて 異 物 を 割 らな い よう に 注意 す る。(e)陥 頓 して い る場 所 か ら静
か に 異 物 を 引 き抜 く。(f)把 持 した 異 物 を慎 重 に 気管 支 鏡 先 端 に近 づ け,摘 出す る。
図8鉗
子 が届 か な い部 位 で も吸 引 を 併 用 す る こ とで異 物 を摘 出 し え た症 例 。(a)左 気 管 支 上 葉
枝 奥 に侵 入 し て い る ピー ナ ッ ツ小 片(矢 印)。 異物 の位 置,気 管 支 の 角 度 か ら鉗 子 で の 把
持 が 不 可 能 で あ っ た。(b)吸 引 管 を近 づ けて 異 物 を 引 き寄 せ,吸 引 管 先 端(S)に
異物 を
捕 え た。(c)吸 引 管 を静 か に引 き寄 せ る こ とに よ り,左 主 気 管 支 ま で異 物 を移 動 で き,こ
の 後摘 出 し た。
保 護 者 に対 して「幼
少 児 は 豆 類 を 摂 食,な
いし
文
接 触 す る こ と を禁 止 す る。 可 能 で あ れ ば 家 に 置
か な い 。」よ う,重
ね て 啓 発 を 続 け る こ とが 重
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別 刷 請 求 先:
〒980-8574仙
台 市 青 葉 区 星 稜 町1-1
東 北 大 学 病 院 耳 鼻 咽 喉 ・頭 頸 部 外 科
香取 幸夫