飼い主が“あざむき”だと感じたイヌとネコの行動

飼い主が“あざむき”だと感じたイヌとネコの行動
―ネコババするネコ・演技するイヌ―
仁平 義明(白鷗大学)
キーワード:あざむき行動,イヌ,ネコ
The behavior of dogs and cats their owners perceived as deception
Yoshiaki NIHEI
(Faculty of Education, Hakuoh University)
Key Words: deception, dogs, cats
目 的
動物の“あざむき”行動について,Whiten & Byrne (1988) は,
また,イヌとネコには,あざむき行動のカテゴリー分布に有
霊長類のあざむきを 5 つの機能のクラスに分類,さらにそれ
意な違いがみられた(Fisher の正確確率検定, p <0.001).
らを下位の 13 の方法のクラスに分類した(表 1 参照)
.
ネコの優位なあざむき行動は「隠蔽」
(48%)で,そのうち
本調査では,飼い主に対するイヌとネコのあざむき行動が
最も典型的なのが「注意の抑制(対象を見ない)」
(36.0%)だ
どのようなかたちで存在するか,さらに種(イヌ,ネコ)に
った.イヌの優位なあざむき行動は「はぐらかし(注意の誘
よる“あざむき”戦術の違いを明らかにしようとした.
導)
」
(48.6%)
「イメージをつくる」こと(40.5%)で,その
方 法
うち最も典型的なのが「偽りの状態イメージ提示(演技・状
著者の 2010・2011・2012 年度の「比較心理学」を受講して
態偽装)
」(37.8%)だった.
いる大学生計 120 人に,伴侶動物のあざむき行動について詳
考 察
細に記述するように依頼した.講義では,
(1)Whiten & Byrne
ネコは隠蔽・イヌは演技 ネコのあざむき行動では「隠蔽」
(1988)
「霊長類の戦術的欺きに見られる注意の操作」につい
が目立つ戦術であった.
“ネコババ” (糞の隠蔽)という表
て解説し,
(2)平田聡(2006)
「嘘とだましの進化―霊長類の
現が存在するのも頷ける.イヌでは,望む行動の実現のため
嘘・だまし」
(箱田・仁平編『嘘とだましの心理学』有斐閣)の内
に「演技・偽装」することが,最も基本的な方法だった.
容と平田から提供を受けた映像を紹介した後,
「自分が直接に
あざむき行動の違いは,
「ネコババするネコ・演技するイヌ」
見たり・自分の家族や友人などから聞いたりしたことがある
と特徴づけることができるだろう.
ペットの“あざむき”行動だと考えられるものの例があれば、
あざむき標的のちがい Whiten らによる“あざむき”のカテ
状況や具体的行動をできるだけ詳しく記述する」よう求めた. ゴリーは,基本的に,標的となる個体が同種の「競争者」の
結 果
場合のものである.イヌやネコで標的となる飼い主は,伴侶
結果の分析は,このうち①イヌあるいはネコの,②伝聞では
動物が目標を達成するための「協力者」だったり,直接に報
ない自分が直接に経験した,③まぎれのない“あざむき”行
酬や罰を与える「強化者」だったりする.Whiten らと今回の
動に限定した.一人で複数のケースを報告しているものも含
結果のちがいは,種によるちがいだけでなく,標的個体の役
め,最終的な分析対象は,イヌ 37 ケース,ネコ 25 ケース,
割のちがいについても考慮する必要がある.
合計 62 ケースになった.
“あざむき”行動は,Whiten & Byrne (1988)の 13 のカテゴ
表 1. イヌとネコの“あざむき”のカテゴリーの比率(%):
リーにそって分類されたが,それらでカヴァーできないもの
Whiten & Byrne(1988)によるカテゴリーと付加カテゴリー*
には,新たに付加的なカテゴリー*を設けた(表1参照)
:
“あざむき”行動のクラス
イヌ
ネコ
【例】(記述を要約)
〇イヌ:
「ふだん庭で飼っていて,たまにしか家の中に入れない犬.
数日かまわない日が続いていたら,足を引きずっていた.家族で心配
して声をかけても足を引きずるのをやめなかった.怪我をしたかと家
の中で様子を見ることにして,抱き上げて足を拭いて家に入れた.床
におろした瞬間,部屋をはしゃいで走り回った.足を見ても怪我はな
く,その後も足を引きずることはなかった」
(「偽りの自己状態イメージを提示(演技・状態偽装)」
)
〇イヌ:
「いつも散歩のときにウンチをさせる犬.散歩の後,またお
腹を痛そうにしてウンチをするような様子をしたので二度目の散歩
に連れて行ったが,嘘のようなおおはしゃぎで散歩コースを歩き,ウ
ンチをすることはなかった」
(
「演技・状態偽装」
)
〇ネコ:
「出かけている間に猫が仏壇のお供え物を食べていた.帰っ
てきたとき,扉の向こうで何かが落ちるような音がしたので不思議に
思い部屋に行くと,猫が仏壇の下の何かを隠すように座った.猫の後
ろには鈴が落ちていたので,さっきの音は鈴が仏壇から落ちた音だと
わかった」 (
「隠蔽―視界から隠す」
)
〇ネコ:
「テーブルにある食べ物を盗るために手をテーブルに伸ばす.
母がテーブルの方に目を向けると手をひっこめ何もなかったように
座り母の方を見る.また・・・」
(「隠蔽―注意の抑制」)
隠蔽
イヌとネコのあざむき行動の差
標的個体(の注意)を身代わりの方へそらす
イヌとネコには,他の第三者
個体を介在させた「社会的道具を用いた標的個体の操作」や「標的個
体の注意を身代わりの方へそらす」などの,いわば高等戦術は出現し
なかった(表 1)
.
視界から隠す
音響的隠蔽
8.1%
12.0%
―
―
注意の抑制(対象見ない)
2.7%
36.0%
よその方を見ることではぐら
かす
注意と発声によってはぐらか
す
18.9%
16.0%
13.5%
4.0%
関係のない場所へ誘導するこ
とによってはぐらかす
親和的行動ではぐらかす
16.2%
4.0%
―
8.0%
中立的なイメージを提示する
2.7%
―
―
12.0%
偽りの状態イメージ提示(演
技・状態偽装)*
37.8%
8.0%
社会的道具を
行為者の標的個体との関わりにつ
―
―
用いた標的個
いて道具となる個体を欺く
体の操作
行為者の道具的個体との関わりに
―
―
―
―
―
―
はぐらかし
(注意の誘
導)
イメージを
つくる
親和的なイメージを提示
ついて第 1 道具的個体を欺く
行為者の道具的個体との関わりに
ついて標的個体を欺く
引用文献
Whiten&Byrne(1988)「霊長類の戦術的欺きに見られる注意の操作」
(大芝宣昭訳),バーン&ホワイトゥン編『マキャベリ的知性と心
の理論の進化論』藤田他監訳,ナカニシヤ,241~256,2004.