第12号(2009/07/吉日)

初めての家庭訪問調査にお邪魔させていただいた日。
『がんばろうね』と声をかけあった後、ガチガ
チに緊張しながらマンションのインターホンを押してドアを開けた日から、数年。これまでに本当に
たくさんのご家庭のご協力をいただき、家庭訪問調査をさせていただいてきました。
一番小さい時は1歳になった頃、それから1歳半の頃、2歳、3歳、4歳と、ふたごちゃんの成長の節目節
目にご家庭を訪問。一番訪問回数が多かったお宅へは5回もうかがわせていただきました。
毎回の訪問では、
ご負担が少しでも少なくなるように、お邪魔する時間をできるだけ短くするようと
努めておりましたので、
なかなか私たちの感謝の気持ちをお伝えできておりません。
そこで今回はこの場を
借りて、
ご協力いただきましたご家族の皆さまに、訪問員から感謝のことばをお伝えさせていただきます。
ToTCoP
ToTCoP会員のみなさま、今回のニューズレターはいかがでしたか?
ィーンエイジの女の子たちが集団で来ていたり、
「親父とは一緒に出かけた
高橋さんの「海外ふたご研究動向」で学会後のミネソタ・ツインズの試
くないぜ」と言いそうな高校生くらいの子が親父さんとお揃いのミネソ
合観戦のことが触れられていましたが、私も一緒に観戦に行ってきました。
タ・ツインズTシャツを着て応援していたりする姿もとても印象的でした。
大リーグ観戦は初めてでしたので、それ自体とてもおもしろかったのです
また暑い(熱い?)夏がやって来ました。どこかお出かけのご予定はあ
が、興味深かったのは、応援に来ている子どもの多さでした。ToTCoPのふ
りますか? 小さい頃にお父さん、お母さんが一緒に遊んでくれたという
たごちゃんたちと同世代の小さなお子さんを、大きな体のお父さんが腰を
思い出は、お子さんたちの心にいつまでも残ると思います。遠出をしても
かがめながら連れて歩いている姿はとてもほほえましかったです。また、
しなくても、ご家族に楽しい夏の思い出が残りますように!
日本でしたら、野球観戦よりも渋谷や原宿でショッピングを選びそうなテ
(藤澤啓子)
〒108‐8345 東京都港区三田2‐15‐45 慶應義塾大学文学部 安藤寿康研究室内
Tel:03(5484)4863
Fax:03(5418)6449
E-mail:[email protected]
http://www.totcop.jp/
2009年7月発行
「ToTCoPだより」も12号を迎えました。
春から初夏にかけて、ToTCoPでは国内外のいくつかの学会で成果を発表しました。
研究室では、ちょっぴりおとなになったふたごちゃんたちのデータが、
その姿を見せ始めてくれています。
科学技術振興機構「脳科学と教育」のプログラムによって
さて、ここでビッグニュースです。今年で終了のはずだっ
行ってまいりました「首都圏ふたごプロジェクト」は、本年
た「ToTCoP」が延長できることになりました。文部科学省
11月をもって終了になります。
の科学研究費補助金の中でも一番大きいものの一つである
これまで数々のアンケートや家庭訪問による発育調査、来
「基盤研究S」の採択が決まったのです。本年度から3年間、
校していただいての脳機能調査や発育・言語調査などをさせ
つまり平成24(2012)年3月まで、青年期・成人期のふたご研
ていただき、大勢のふたごのデータを分析することによって、
究とあわせた「慶應義塾ふたご行動発達研究センター」の中
いろいろなことがわかってきました。
の活動として、ToTCoPを継続していきます。
生まれてからの成長期の心身や脳の発達に及ぼす遺伝と環
秋になりましたら、そのご案内と、改めて調査への協力の
境の影響がダイナミックに変化していること、子どもの遺伝
お願いを差し上げますので、どうかよろしくお願い申し上げ
的資質が違うと家庭環境の影響も違ってくること、育児スト
ます。
(安藤寿康)
レスの高さと子どもの発達の度合いとに関係があること、お
母さんとお父さんのふたごの子どもの性格のとらえ方がずい
ぶん違うことなど、プロジェクトを通じて世界的にも初めて
発見されたことがいくつもあります。
これらは学会で発表し、論文という形になって、初めて世
に出すことができるもので、ToTCoPの研究者たちは日々そ
の仕事に精を出しており、今年になってからもすでに4月に
デンバーでの児童発達研究学会(SRCD)、6月にはミネソタ
での行動遺伝学会で発表してきたほか、秋からは日本心理学
会、日本社会心理学会、日本パーソナリティ心理学会などで
の発表が予定されています。12月には科学技術振興機構のシ
ンポジウムでプロジェクトの成果をまとめます。
このような成果が皆さまのお手元にわかりやすい形できち
↑デンバー開催された児童
発達研究学会(SRCD)にて
んとお届けできるのは、もう少し先のことになりますが、こ
のプロジェクトは、わが国の心理学研究の歴史の中でも特筆
できる大きな仕事といえますので、これをいち早く世の中に
紹介するため、最近刊行された『縦断研究の挑戦‐発達を理
解するために』(三宅和夫・高橋恵子編、金子書房)に一章を
執筆しました。ToTCoPがどのような考えのもとに行われて
いるか、どのようなことが明らかになってきたのかを書いて
います。専門家向けの本で気楽に読めるものとはちょっと言
いにくいですので、いつかわかりやすい私たちのプロジェク
トだけの本を出版したいと考えています。
↑SRCDに参加後は、コロラド大学行動遺伝学研究
所を訪問。ToTCoPで実施しているふたごの言語発
達についての国際共同研究のミーティングを行いま
した。共同研究者のOlson博士と
*1
*2
*5
ToTCoP
*3
(藤澤啓子)
<参考・引用文献>
*1 加藤則子編 『すぐに役立つ双子・三つ子の保健指導BOOK』
(診断と治療社)
*2 小椋たみ子・綿巻徹 『マッカーサー乳幼児言語発達質問紙』(京都国際社会福祉センタ
ー)
この調査は、幼児語(例:ワンワン、ブーブー)
、体の部分の名前(例:あし、お
なか)
、あいさつ(例:ありがとう、おはよう)など、さまざまなことばのうち、お子さ
んが話すことばに印をつけていただくというものです。
*4
*3 単胎児の数値は、
「マッカーサー乳幼児言語発達質問紙」の付録の50パーセンタイル値
(その月齢集団の、平均的な値とお考えください)としています。
*4 Rutter et al. (2003, Journal of Child Psychology and Psychiatry), Thorpe et al., (2003, Journal of
Child Psychology and Psychiatry) この調査では、ふたごを対象とするとともに、ふたごの
発育環境にできるだけ近い環境で育つ単胎児として、年子で生まれた下の子どもを対象
にしています。
*5 Kobayashi et al. (2006, Twin Research and Human Genetics)
350
300
300
250
250
話 200
す
こ
と 150
ば
の
数 100
話
す 200
こ
と 150
ば
の
数 100
50
50
0
0
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月齢
図1
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21
月齢
図2
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24
25
(尾崎幸謙)
現在、私は日本を離れ、アメリカ合衆国イリノイ州に滞在し
ています。イリノイ州は、全米第3の都市であるシカゴを有し、
人口も5番目に多い州です(州都はスプリングフィールド市)。私
→ミネアポリスの街並み。東京ドームの設
計のお手本となったドームも見えます。
↓ミシシッピ川の夕暮れ。この落差は長い
ミシシッピ川の流れの中で唯一の自然の滝。
はイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の心理学部に所属し、
子どもの時期から成人期にかけての人間のパーソナリティ発達
に関する研究を行っています。
大学の名前がずいぶん長いのですが、これは大学の敷地がア
ーバナとシャンペーンの両市にまたがっているためで、地元で
はツイン・シティ(ふたご都市)と呼ばれています。ふたご都市と
いっても両市の持っている雰囲気は決して同じではなく、アー
バナは緑が多く、シャンペーンはダウンタウンが充実している
など、それぞれに特徴があります。それぞれが個性を出しつつ、
互いに協力しているというのは、人間のふたごちゃんにも当て
はまることだと思います。
国際学会に参加すると、
「ミネソタ大学で大きなプロジェクト
が始まった」
「新しい統計的方法論が提案された」
「双生児研究
アメリカで「ツイン・シティ」と言えば、ミネソタ州のミネ
は、経済学分野でも注目を浴びている」といった具合に、学問
アポリスとセントポールが最も有名です。両市はアメリカ最大
の時流をさまざまに感じ取ることができます。私たち首都圏ふ
の河川ミシシッピ川をはさんで対岸に位置しています。今年の
たごプロジェクトが今いる位置、そして今後歩んで行くべき道
国際行動遺伝学会は、そのミネアポリスで開催されました。
も明確に確認できるので本当に勉強になります。
今回の私の発表は「子どもの時期の性格は親の養育態度によ
学会が終わった後、ミネソタ・ツインズの試合を観戦しまし
ってどのように変容するのか?」という遺伝と環境の交互作用
た。対戦相手のヒューストン・アストロズの先発メンバーに、
に関するものでした。分析の結果、親が子どもに温かく接する
松井稼頭央選手の名前がありました。松井選手はヒットを打ち、
ことによって、子どもの勤勉性(=人間の基本的な性格次元の一
同点のホームを踏み、好守備を見せる活躍でした。その姿を見
つ)の成長の伸びしろが増えることがわかりました。
て、私もがんばろうと決意を新たにした次第です。 (高橋雄介)