レジュメ

発達と教育
Ⅰ 災害と子ども
災害と子ども
担当 堀田
災
害
1
心的外傷
2
喪失体験
3
避難生活
のストレス
養護教諭が見た子ども(小学生)の行動
1 体育館およびグランドが避難所として使用されている
ので、十分な遊び場が確保できない
学校教師が見た子ども(小学校低学年)の行動の特徴
高見(1997)
2 倒壊不安のために不眠を訴える子どもがいる
1 忘れ物が大変多い
3 ほとんどの子どもが、地震の際の音が耳に焼き付いて
おり、物音に大変敏感である
2 授業中にトイレに行きたがる
4 理由もないのに涙が出る子どもがいる
3 何かさせようとすると、一人一人が聞きに来る
4 朝の健康観察時に身体の不調を訴える子どもが多い
5 何人かの子どもは、また地震が来ないかといつも不安
である。
5 校庭の使い方など学校のきまりがまもれない
6 日常ハンディを背負っていた子が立ち直れないでいる
6 保護者へのアンケートから、災害に伴う心的外傷後ス
トレス障害の症状と思われる行動が多くみられる
7 もともと不登校気味の子が完全な不登校になった
8 被災ですべてを失った親の無気力が子どもの不登校を
促進している
被災後の子どもの症状
9 被災によって、家庭の人間関係が変化し、親の焦燥感
が子どもに影響を与えている
10 震度3程度の地震が起こり、子どもたちは地震を忘れ
ることができない
11 避難所の生活によって、子どもの生活習慣が変化した
(夜更かしや間食など)
12 疎開および一時的避難のため、子どもが転向した(こ
の小学校では地震前の全校生徒約750名が、震災後
3か月を経た時点でも608名に減り、2割が疎開から帰
っていない)
• なかなか寝つかない。夜目を覚ます。い
やな夢をみる。
• 親から離れない。一人で眠らない。
• 頭痛・腹痛などの身体の症状がでる。
• 駄々をこねる。
• わがままになり癇癪をおこしやすくなる。
• 反対に…我慢強くなる。
• 他者の世話を一生懸命行う。
1
乳幼児
小学生
中学生・
高校生
• 赤ちゃん返り(おもらし・指しゃぶり・赤
ちゃん言葉・親から離れないなど)
• 親が見えないと泣きわめく。
• ぐずぐず機嫌が悪くなる。
• 赤ちゃん返り(おもらし・指しゃぶり・赤
ちゃん言葉など)
• 落ち着きがなくなる。集中力がなくなる。
• 反抗的・乱暴になる。
• 表情が乏しく、ぼーっとする。
•
•
•
•
•
勉強に集中できない。
何事もやる気が起きない。
落ち込む。
・反抗的になる。
孤立する。
過活動(他人の世話に没頭するなど)
子どもの思考
• 現実と空想のフュージョン
「宿題ができていなかったから、地震になっ
ちゃえと思ったら、地震が来ちゃった」
「親が死んでしまったのは自分のせいだ。」
「私が悪い子だったから、お母さんが死んで
しまった」
「おばあちゃんはどこかで生きているに違い
ない。(震災後数か月たっても)」
• アニミズム
「車が死んじゃった。」
「ブーブが痛い痛いしてる」
子どもの遊び
•
•
•
•
津波ごっこ
地震ごっこ
お葬式ごっこ
震災についての描画
1 心的外傷
時間がたってから反応や症状がでることがある。
被災時の恐怖やショック
阪神淡路のとき
2年~4年後
2 喪失体験
大切な人や物、環境の喪失
3 被災後の不自由な
日常生活のストレス
将来への不安
2
1 心的外傷
再体験症状
• 思い出したくないのに災害の時の恐怖を思い出し
てしまう(フラッシュバック)
• 怖い夢を見て、目が覚める。
過覚醒症状
• 眠れなかったり、眠ってもすぐに目が覚めてしまう。
• いらいらして、怒りっぽくなる。
• ちょっとした物音にも敏感になり、警戒する。
回避・麻痺症
状
• 災害の時のことを思い出せない。
• ボーとして何も手につかない。感じられない。
• 災害のことを話したり、思い出させる場所を避け
たり、災害のことに関わることを避ける。
心的外傷後の症状は自分でコントロールできない。
=自分で頑張れば、消せるものではない。
同じ体験をしても、同じ症状が出るとは限らない。
PTSD:心的外傷後ストレス
障害
=被災体験の深刻さに限らず、症状が出る可
能性がある。
自ら被害を受けなくとも、目撃しただけでも心的外傷を受
ける場合がある。
PTSD
第一次世界大戦 戦争神経症
第二次大戦
ベトナム戦争
急性
ストレス
障害
PTSD
A
トラウマ
記憶
トラウマ
リアクショ
ン
トラウマ
ティック
PTSD
PTSD
ストレス
概略
心的外傷的な出来事にさらされたことがある。
*危うく死ぬ、または重傷を負うような出来事があった。
*自分もしくは他人に迫る危機を体験し、目撃し、または直
面した。
*そして、強い恐怖、無力感、戦慄を感じた。
子どもの場合は、まとまりのない行動や興奮でそれを表す
B 心的外傷的な出来事が再体験され続けている。
(1つ以上あてはまる)
*反復的、侵入的な苦痛を伴う想起
小さい子どもの場合は、外傷の主題やある側面を表す
遊びを繰り返す
*反復的で苦痛な夢
なお、子どもは夢におびえても、その内容を思い出させ
なかったりする。
*フラッシュバックあるいは、再体験の感覚、錯覚、幻覚
なお小さい子どもは、外傷体験に関わる行動を繰り返し
演じたりする。
*部分的に類似した状況での強い心理的苦痛・生理学的
反応
3
C 心的外傷を関連した刺激の持続的回避と全般的反応性の麻痺
(3つ以上あてはまる)
*関連した思考、感情、会話を回避しようとする。
*心的外傷を想起させる活動、場所、人物を避けようとする。
D
*心的外傷の重要な側面の想起不能
*入眠、睡眠維持の困難
*重要な活動への関心または参加の著しい減退
*ほかの人から、孤立、疎遠になっている感覚
*感情の範囲の縮小(例
愛情をもてない)
*未来が短縮した感覚(仕事、結婚、子ども、寿命などが期待で
きない)
持続的な覚醒亢進症状(2つ以上あてはまる)
*いらだたしさまたは怒りの爆発
*集中困難
*過度の警戒心
*過度の驚愕反応
急性ストレス障害ASD
E この混乱(B、C、D)が1か月以上持続
F この混乱が、社会的、職業上の生活、あるいはほかの
重要な領域において、臨床的に重要な苦痛や障害をも
たらす
なお、急性:症状の持続が3か月以内
A
心的外傷的な出来事にさらされたことがある。
*危うく死ぬ、または重傷を負うような出来事があった。
*自分もしくは他人に迫る危機を体験し、目撃し、または
直面した。
*そして、強い恐怖、無力感、戦慄を感じた。
慢性:症状の持続が3か月以上
遅発性:ストレッサから6か月以上たって症状を呈し
た場合。
E 強い不安症状、覚醒の亢進
*睡眠障害、いらだたしさ、集中困難、過度の警戒心、過
剰な驚愕反応など
B 苦痛な出来事を体験している間、またはそののちに、
解離症状がある。(3つ以上)
F
その障害は、臨床上著しい苦痛、または社会的、職業
的、またはほかの重要な領域における機能の障害を引き
起こしている。または心的外傷的な体験を家族員話すこ
とで必要な助けを得たり、人的資源を動員するなど、必
要な課題を遂行する能力を障害している。
G
その障害は最低2日間、最大4週間持続し、心的外傷
的出来事の4週間以内に起こっている。
*麻痺した、孤立した、または感情反応がないという主観
的感覚
*自分の周囲に対する注意の脆弱(ぼーっとしている)
*現実感消失
*離人症
*解離性健忘(心的外傷の重要な場面を思い出せない)
4
2 災害による喪失
C
心的外傷的なできごとの再体験の継続(1つ以上)
家族の
*反復する思考、夢、錯覚、フラッシュバック、再体
犠牲
験の感覚
D
心的外傷を想起させる刺激の著しい回避
仕事・生活
の喪失
家財の喪失
*心的外傷を想起させるような、思考、感情、会話、
活動、場所、人物避ける。
コミュニ
ティーの喪失
喪失反応のプロセス
喪失体験からの回復プロセス
否認
• 何かの間違いだ
• そんなはずはない
怒り
• なぜこんなことになるんだ!
• 私のせいでこんなことになってしまった!
• なぜ自分が生き残ったのか!
絶望
• 何もかもお終いだ。
• もう駄目だ
受け入れ
悲哀の
段階
抑うつの
段階
希望の
段階
• 否認
• 怒り
• 絶望
• 喪失感
• 受け入れ
• あの人のためにも・・・
• もしあの人が生きていたら、きっと・・・
喪の仕事 MOURNING WORK
3 被災生活のストレス
大切な人や物を失った後、それを悼み、心の穴を埋めようとす
る作業
大切な人の死を嘆き悲しむことの重要性。
誰でもが、いったんは抑うつ的になる。
避難所での集団
生活のストレス
お葬式
初七日
49日
1周忌
3回忌
遺品の整理、個人の部屋の整理
アルバムの作成、遺品を身に着ける
必要な消耗品・
備品の不足
ストレス
情報の不足の
ストレス
それぞれのペースでのモーニングワーク。
モーニングワークの儀式化
ex
街の喪失
病気治療中断
のストレス
学校・仕事
に行けない
ストレス
温かい食事
が食べられ
ない
ストレス
被災者として
注目される
ストレス
5
被災してしまったときに大切なこと
被災者の心理的回復プロセス
語りあう
語る(デブリーフィング)
• 被災体験について話したい相手と、話したいときに、十分
に話すこと。(ex 家族、被災者同士、専門家など)
感情の表出
• 泣きたいだけ泣く。
• 自分を抑えない。「もっと深刻な被災をしたひとがいるので、
自分なんかが泣いてはいけない」「前に向かってみんなが
頑張ろうとしているのだから、今泣いてなどいられない」
被災者を支援するときに大切なこと
安心・安全の確保
• こころのケア・身体のケア・生活のケアを一体で
傾聴 (共感と受容)
• ただただ聴く (無理やりしゃべらせようとしない)
• 話の腰を折らない。「・・うん・・・うん・・・でもね・・」
• 否定しない。「こんなことに負けていちゃだめよ」「頑張らなくちゃ」「みんなこ
んなに応援してくれているんだから」
• 安易に助言しない。自分に何かできると思わない。「前向きに考えようよ」
• 何が必要か尋ねる。「何か必要なことがありますか?」
• いつも同じように傍にいる。決まった人が、決まった場所に。
• 調子を崩しているときに、「こんな大変なことがあったのだから、調子を崩す
のはあたりまえだ」
被災者を支援するときに大切なこと
特別な援助を必要とする人の早期発見
•
•
•
•
•
急性ストレス障害ASD
症状が固定するPTSD
自殺の危険
鬱
アルコール依存症
専門家につなぐ
被災した子どもへの対応
受容的な関わり
•
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•
•
•
安眠、食事の確保
静かな環境の提供
夜も真っ暗闇にしない配慮
震災のテレビ映像などを繰り返し見せない。
できるだけ一緒にいる時間を増やす。
• 怖がっている時は抱きしめる。
• 十分なスキンシップ。
• わがままになりやすい、癇癪を起こしやすい時でも、多めに
見て、包容力を発揮。
• 叱るべき時は、頭ごなしに大声にならず、静かな声で穏や
かに言い聞かせる。
• 子どもが話し始めたら最後まで耳を傾ける。しかし、無理や
り話させない。
• 津波ごっこをしていても、一方的に止めさせない。大人が見
守る。不安になる子どもがいたら、介入して安心できる環境
を確保する。
6
伝えないこと
「怖かったね」「よく頑張ったね」
「もう怖がらなくても大丈夫」
「一緒にいるからね」
(余震時)「余震があるかもしれないけれども、あの時のよう
な大きな地震にはならない」
• (自分せいだと自分を責める子どもに)「あなたのせいでこう
なったのではないよ。悲しいことだけれども誰にもどうしよう
もなかったの。」
• (がんばりすぎて無理している様子の子どもに)「無理しなく
ていいんだよ」
•
•
•
•
がんばりなさい
誰も泣いていないでしょ
もう小さい子ではないんだから
自分の状態を知る
回復を促す活動
・ 自分を知ろうチェックリスト
• ストレスマネジメント
• リラクセーション
• 運動 外遊び
• 好きなことに没頭 塗り絵 描画
・「異常な状態での正常な反応であること」を教える。
とても大変なことがあったのだから、こんな風になって
当然。
• リテリング
・「家族についても、ストレス反応が起きること、それはずっ
とは続かないこと」を教える。
お母さんやお父さんが泣いたり、いらいらしているかも
しれないけれど、とても大変なことがあったのだから、大
人だってそうなるね。
でもきっと少しずつ元通りになるからね。
リテリング 話すこと
地震の学習
地震が起きたとき、どこにいたの?
家族はどこにいた?
そのとき何をしていた?
そのとき、どう思った?
地震についての学習
揺れている間、何を考えてた?
今回の地震について、震源、規模についての学習
何が倒れたの? 落ちてきたの?
地震の後の復興についての学習
何が聞こえた?
何が見えた?
それでどうなったの?
あなたは声を出した?叫んだ?
どんな匂いがした?
なくなったものは何?
なくなってどんな気持ちがした?
まわりの人は何をしていた?
ペットは大丈夫?
今はどんな気持ち?
まわりにけが人がいた?
よく思い出すことは?
どうしたら気分が良くなると思う?
亡くなった人はいる? 前にもこんなひどい目にあったことがある?
今度地震がきたらどうする?
「災害とこころのケア」
デビッド・ロモ
7
リテリング 話すこと
教室全体で
好きな運動(遊び) 没頭できる活動
小グループで、話し合い、その後教室全体で発表
校庭でサッカー、ドッジボール
「どこでどんなふうに地震にあった?」
室内で塗り絵、色彩分割法 スクイグル
「どんな気持ちになった?」
「今はどんな気持ち?」
みんなが同じような体験をしていることの共有
自分の気持ちの気づきと表現。
※無理して話さなくてもいい。話したくないことは話さない。
※泣き出すなどの反応を示す子どもには個別に対応でき
る体制をとる。
絵画を通した自己表現
もしもクラスで亡くなった子ど
もがいたら
好きな絵を描く
家族と一緒にいる絵を描く
亡くなった生徒との別れの儀式を行う。
絵日記をつける
花をたむける。
グループで共同で絵を描く
亡くなった生徒との良い思い出を語り合う。
様々な場面で記憶にあることを絵にかく
亡くなった生徒への手紙を書いたり、絵を描いたりする。
贈りたい場合は、それらを文集にして、亡くなった生徒の家族に贈る。
災害の記事や写真などを持ち寄ってコラージュを作る
一部「災害と心のケア」
※うまく描くように指導しない。
※クレヨン・パステル・マーカーなどを使用。
※必ず教師がつきそい、書き終わった後に、その絵について語る。
※お別れの儀式で泣くことは恥ずかしいことではないと知らせる。
※お別れの儀式をしたことを家族に伝える。儀式の日、家に帰って、泣
いてしまうような反応が起きても異常なことではないので、一緒にい
てあげてほしいと伝えておく。
※不安定になる子どもがいたら、個別に対応できる体制をとる。
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