正弦定理の帰納的アプローチ ~比の活用~ Ⅰ 設定の理由 Ⅱ 学習指導案

正弦定理の帰納的アプローチ
~比の活用~
新潟県立分水高等学校
数学科
柿﨑 宏行
Ⅰ
設定の理由
図形問題の苦手な生徒が年々増加し、また理解度においても下降傾向にあると感じている。実際、数
学A:図形の性質を始める際に、中学校で既習のはずの三平方の定理が、公式を提示しても使えない状
況である。
通常、正弦定理は三角形と円の性質を用いて計算し導くが、今回は、実際の三角形の辺の長さ、角の
大きさ、そしてその割合を計算させることで、正弦定理が確かに成立していることを実感させる。つま
り、帰納的に導くことで生徒の理解度や定着にどれだけ変化が生じるかを見てみたい。これが良好であ
れば、他の分野においても活用していく価値は十分にあると考える。
さらに、もう一つのテーマとして比の有用性を伝えたい。今までも授業で強調してきたが、比を分数
で書き直すことすらままならない。比は社会のみならず、日常会話でもよく利用する考えであるので是
非とも活用できるレベルにしたい。
以上の観点から、帰納的アプローチをテーマとして設定した。
Ⅱ
学習指導案
1 日
時 : 平成24年10月30日(火)2限(55分授業 9:45~10:40)
2 実 施 ク ラ ス : 1年1組(Bクラス) 26人
3 使 用 教 材 : 教科書名 詳説 数学Ⅰ (啓林館)
単元 第3章 図形と計量(正弦定理と余弦定理)
4 単元の目標
(1) 角の大きさなどを用いた計量に関心をもつとともに,それらの有用性を認識し,事象の考察に活
用しようとしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
(関心・意欲)
(2) 事象を三角比を用いて考察し表現したり,思考の過程を振り返ったりすることなどを通して,角の
大きさなどを用いて計量を行うための数学的な見方や考え方を身に付けている。
・・・・・・・・・・・・(数学的な見方や考え方)
(3) 事象を三角比を用いて表現・処理する仕方や推論の方法などの技能を身に付けている。
・・・・・・・・・・・・・・・・(数学的な技能)
(4) 直角三角形における三角比の意味,三角比を鈍角まで拡張する意義及び図形の計量の基本的な性質
を理解し,知識を身に付けている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・(知識・理解)
5 単元の評価規準
関心・意欲・態度
数学的な見方や考え方
数学的な技能
知識・理解
・正弦定理、余弦定理が有 ・正弦定理、余弦定理・三角形の決定条件が与 ・正弦定理、余弦定理
用であることを認識し、そ を導く過程を考察する えられたとき,三角形の を三角形の決定条件と
れらを図形の計量に活用 ことができる。
残りの要素を求めるこ 関連づけて理解してい
しようとしている。
とができる。
る。
6 本時を含む指導と評価の計画
時限
各時間の目標
1時間目
正弦定理、余弦定
理の導入
学習活動(授業内容)
正弦定理を証明し、 ・正弦定理を導く過程を考察する。
簡単な求値問題に取り ・三角形の残りの要素を求めるとともに、
組む。
2時間目
(本時)
正弦定理に親し
む
評価と方法
その有用性を認識できる。
正弦定理を実際に検 ・検証することで正弦定理の理解を深め
証するとともに、定理
る。
を比で表すなど問題に ・分数式を比で表現できる。
即して定理を使う。
3~4時
間目
求値問題に取り
組む
正弦定理、余弦定理 ・問題に即して正弦定理、余弦定理を活
を問題に即して使い、 用できる。
辺の長さ角の大きさを
求める。
その過程のなかで、
辺と角の関係など、三
角形の性質に触れる。
7 本時の目標
(1) 円上に実際に点を打ち、実測、計算することで正弦定理が正しいことを確認する。
(関心・意欲・態度)
(2) 正弦定理を比で表すことができる。
(数学的な見方や考え方。)
(3) 問題に即して正弦定理、余弦定理を活用することができる。
(数学的な技能)
8 本時の評価規準
関心・意欲・態度
数学的な見方や考え方
数学的な技能
円に内接する三角形を直接 3本の連立方程式か ら正 問題に即して、正弦定理、
測量、計算することから、既知 弦定理、さらには比で表現で 余弦定理を適切に活用する
の正弦定理であることに気づ きる。
ことができる。
く。
9 本時の展開
活動の目的
指導過程・学習活動
指導上の留意点
指導者の動き
生徒の動き
指導のねらい
評価の観点
ワ ー ク シ ー ト ・円に内接する三 ・ワークシートに意欲的に取り組んでいる
・円上に任意に3
導入
の説明。
角形を実測し、 か。
(関心意欲態度)
点取って三角形
25分
机間巡視。
を 3 組 計 ・作業で計算結果が3つとも直径とほ
を作り実測、計算
算する。 ぼ等しくなり、前回の正弦定理と結
し、正弦定理が成
・周囲の生徒の三 びつけることができるか。
角形の形状とそ
(見方考え方)
立していること
の結果を確認す
三角比の表が使えない生徒への
を確認する。
る。
指導。
分数の計算ができない生徒への
指導
・正弦定理を比で 3 本 の 式 を 連 ・板書
表現する。
立させ、分数式、
10分
さらには比で表
現する。
・分数式を比で表現できることを理
まとめ
解できるか。
(見方考え方)
必要ならば、比を積で計算した
形を使って理解を助ける。
展開
15分
Ⅲ
P160例題9を ・分数式で表され ・条件式を見て、比で表した正弦定
た条件式をどう 理が有効であると認識できるか。
形で利用する。 解説。
使うかを考え
(技能)
・条件式から最大
る。
最大辺の対角が最大角である
辺を見つける
ことを復習する。
・正弦定理を比の
授業の実際
生徒を引きつける題材として「占い」を用いて数値計算をさせたが、生徒たちは予想以上に集中して
計算し取り組んでいた。結果を隣席同士で確認させると、描かれた三角形の違いに驚嘆していた。
一方で、説明する言葉を理解できない場面が多々あった。「円上の点」が円の内部にあったり、割り
算(分数)を/で表現したところで困惑している生徒が複数いた。言葉や記号は、生徒が慣れたものを用
いるよう気を遣わなければならないが、机間巡視を行って生徒の様子を一人一人把握することがさらに
重要だと痛感した。
結局、予定していた例題9は、条件式から辺の長さを比で表現するところで時間が無くなってしまっ
た。原因はワークシートの手順把握に時間がかかったこと、それと数値計算であった。電卓の使用を「占
い」にこだわってしまい許可しなかったためである。せめて辺の長さを整数を用いて表すところまでは
進められる時間配分が必要であった。
さらに、板書のチョークの色を多く使うのではなく、目的を絞って使うよう御指導をいただいた。
Ⅳ
実践の考察とまとめ
右の4項目を4段階で評価し、質問1
については具体的な理由も書かせるア
ンケートを実施した。
ゲーム形式を取り入れた授業は、いつ
でも生徒に歓迎される。私自身、この手
法は本当に遊びで1時間終わってしま
いそうで、本題と切り離されてしまうこ
とを危惧していた。しかし、楽しかった
理由の回答をみると、「実際の数値で取
り組めた」
「図形のイメージがしやすい」
など、数学の理解を助けていることがわ
かった。なにより、数学に親しめること
が大きい成果であった。日々の授業は
「まずは解ける喜びを与えたい」と思う
あまり、問題の解き方や、公式の使い方
を重視する時間が多くなってしまいが
ちである。例題どおりは完答しても少し
の変化で全く手がつけられない生徒、例
題すらままならない生徒に日々頭を悩
ませる。しかし、生徒が数学の原理原則
を真に理解することが理想であり、それ
こそが変化に対応できる力になるのか
1 今回の授業は楽しかったですか
つまらなかった
0%
あまり楽しく
なかった
8%
とても楽しかった
29%
楽しかった
63%
2 1の質問で具体的な回答
図形のイメージが
しやすかった
14%
プリントで進めた
14%
進度がゆっくり
だった
19%
遊びを取り入れた
29%
実際の数値で
取り組めた
24%
3 「比と分数」の解説は詳しくて良かったですか
あまりよくなかった
8%
くどかった
0%
よかった
71%
とてもよかった
21%
もしれない。数学を「見せる」「具体
4 「比と分数」は今後使えるか
化させる」ことは、できる生徒、苦手
使える
全く使えない
4%
な生徒問わず大事な要素となり得るだ
0%
あまり使えない
ろう。
38%
今回のサブタイトルにもなった「比」
少しは使える
については、今回の授業でかなり丁寧
58%
に時間をかけて解説をすることができ
た。質問3の結果から、それが良く受
け取られたことに安堵している。質問4の結果も、半数以上は前向きな回答が得られた。しかし、その
後の授業や考査において、辺の長さの比から実際の長さを求める問題などが飛躍的にできるかと言われ
ると、それはまた別の課題のようである。それはあくまで「理解」であり「できる」や「自立」へのス
テップでしかない。
今回の研究は、数学に親しむところからスタートしたが、それはすなわち「数学を具体化」させるこ
とであった。それが、数学の学力を問わず有用であることも認識できた。今後、単元の導入として、教
材研究を重ねより多くのところで実践できるようにしたい。また、別の課題である「できる」や「自立」
についても趣向を変え挑んでいきたい。
10.30授業ワークシート
~これであなたのすてきな未来が予測できます~
1年
組
番 氏名
手順にしたがって占いを完成させよう。定規、分度器は準備できていますか?
[1]次のような点を描きなさい。
(1) 円周上の好きな位置に点を描きなさい。
(自分の星)
(2) 円周上の好きな位置に点を描きなさい。
(相手の星)
(3) 円周上の好きな位置に点を描きなさい。
(周りの星)
[2]自分の星の位置を A,相手の星の位置を B,周りの星の位置を C として、
3 点 A,B,C を線で結ぼう。
[3]自分と相手の距離や相手や周りまでの角度などを測ろう。
(1) A と B の距離=
・・・・・①
(2) B と C の距離=
・・・・・②
(3) C と A の距離=
・・・・・③
(4) ∠BCA=
°
(5) ∠CAB=
°
(6) ∠ABC=
°
[4]教科書の巻末の表を使って、(4)~(6)の正弦を求めよう。
(4) sin∠BCA=
・・・・・④
(5) sin∠CAB=
・・・・・⑤
(6) sin∠ABC=
・・・・・⑥
[5]最後に次の値を計算しよう。
①/④=
・・・・・(a)
②/⑤=
・・・・・(b)
③/⑥=
・・・・・(c)
[6]判定