日本鋳物産業における生産システムの分化に基づく供給構造 日本鋳物

日本鋳物産業における生産システムの分化に基づく供給構造
中央大学経済学部助教 永島 昂
日本鋳物産業は中小企業性と共に多様性という特質を持つ。1990 年代前半に鋳物産業の
実態調査を行った柴山清彦は、当該産業の多様性について、次のように述べている。
「『鋳物工業』を一律に論じるのはきわめてあやうい…。それぞれの鋳物工場は、受
注品目や生産ロットの特性に応じて専門化されている。鋳物工業は同一の工場の単な
る集合体ではなく、それぞれ専門的な経営資源を体化した工場の多様な集合体なので
ある」 。
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個々の鋳物メーカーは受注・生産条件に応じて専門化しているので、鋳物産業を総体とし
て把握すると多様なものとして現れる。本報告の課題は、日本鋳物産業の多様性や専門化
の内容を具体的に把握するための分析視角を提示し、その上で当該産業を構造的に把握す
ることである。
この課題の究明を通じて渡辺(1997)が提起した日本機械工業の「山脈構造型」社会的
分業の基礎構造をより深く理解することが可能となると思われる。渡辺は機械工業におけ
る社会的分業の裾野に注目しつつ分業構造の全体像を「山脈構造型」と捉え、「山脈」の裾
野には特定加工に専門化した分厚い中小企業層が形成されていることを明らかにした 。そ
の分厚い中小企業層は切削加工、放電加工、鋳造、鍛造、プレス、粉末冶金、製缶、熱処
理、表面処理などの基盤的技術と呼ばれる加工分野に存立しており、「特定加工に専門化し
た企業が、特定製品に限定されない受注先を持つことにより、機械工業生産に柔軟性を与
え、同時に変化の激しい需要にも対応可能となり、幅広い競争相手を持」つといった役割
と特徴を持っている 。
このように特定加工に専門化した中小企業層が「特定製品に限定されない受注先を持つ
こと」や「変化の激しい需要」への対応が実現できる根拠はどこにあるのだろうか。本報
告の課題である日本鋳物産業の構造的把握は同時にその根拠を明らかにすることでもある。
結論を先に述べれば、日本鋳物産業が「特定製品に限定されない受注先」を持ち、「変化
の激しい需要」に対応することが可能なのは、雑多な鋳物需要に対応するために生産シス
テムが分化し、多様な受注先や変動の激しい需要への対応が可能な生産システムが形成さ
れているからである。逆に、特定製品に限定的な生産システムも存在している。このよう
に分化し、特殊化されている生産システムを各々の鋳物メーカーが採用しているため、鋳
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柴山(1994)、50 ページ。
渡辺(1997)、158-161 ページ。
渡辺(1997)、162 ページ。
物メーカーは専門化している。それは鋳造加工というレベルの専門化ではなく、鋳造加工
内部における専門化であり、それによって日本鋳物産業の多様性という特質が生じている。
報告者は 1890 年から 1940 年までのアメリカ鋳物産業を研究した Harris(2000)の分析
視角を参考にしている。Harris は、アメリカ鋳物産業の多様性には一定のパターンが存在
し、それを把握するためには産業の下位区分を分析する必要があるとした。その下位区分
とは、第一に鋳物メーカーが取り扱う金属材質による分類、第二に鋳物工場の経営形態に
よる分類、第三に市場と製品の特質に対応する生産システムによる分類である 。本報告で
は、以上の分析視角に報告者の独自な視点を加え、多様な日本鋳物産業を構造的に把握し
ていく。
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<参考文献>
柴山清彦(1994)「鋳物工業」『中小公庫レポート』No.90-6。
渡辺幸男(1997)『日本機械工業の社会的分業構造―階層構造・産業集積からの下請制把握
―』有斐閣。
Harris, Howell (2000), The Rocky Road to Mass Production: Change and Continuity in
the U.S. Foundry Industry, 1890-1940, Enterprise & Society, Jun2000.
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Harris (2000), pp.406-407.