まな板の上の保険代理業(2)

保険代理店専門 有料電子メールマガジン inswatch ( http://www.inswatch.co.jp/ )から発行されてい
ます Inswatch Solution Report【第7号】2004.04.09、
【第10号】2004.07.09、
【第 16 号】2005.01.14
に連載されましたものを執筆者であります城東支部長小原太史氏および inswatch 関係者のご好意によ
り特別に全文掲載いたしました。
まな板の上の保険代理業(2)
小原 太史
はじめに
前回は ∼1.「高度情報化社会」の「落とし穴」(3)メディアについて∼ までを書かせ
ていただいた。今回は前回から引き続きで恐縮だが、重要なことなので、メディアについてもう
少し書かせていただくところからはじめさせていただきたいと思う。
これまで保険業界の内幕を元関係者が暴いた本は過去に多く出版されているが、損保業界
物では、定期的にドラマ化され、人気となっている「示談交渉人 甚内たま子 『裏』ファイル
(渡辺えり子氏主演)」シリーズがある。保険会社の損害調査員の事故処理(主に対人事故)奮
戦記を描いたものだが、その原作本となっている「示談交渉人裏ファイル」シリーズ(情報セン
ター出版社)については私も読ませてもらった。
内容は主人公で著者でもある浦野道行氏が、現役時代に損保会社や運送会社で行ってきた
人身事故処理体験を通じて、交通事故を取り巻く損保業界や社会の体質、人間の本質を赤
裸々に批判したものであり、感想については私の主観ではあるが、一部うなずけるものや実態
を知らなかった事が書かれていて参考になることもあったが、この業界でまじめに取り組んでい
る人間が読んだら、多分、フラストレーションがたまるだろうと思われるものだった(興味のある
方はぜひ)。
私は他人を名指しで批判したりするのは本意ではないのだが、メディアで注目を集め、業界の
本質を全てとらえていると思われたら困るので、浦野氏にハッキリと批判を込めて言いたい事
が二つある。
○一つは、話しの中で、例えば浦野氏が交渉相手から「保険屋」と呼ばれて普通に返事をす
るくだりがあるが、保険販売に携わっていないのに、いや、だからこそか、自分で稼いだ金で
はない保険金を、示談交渉人は被害者の遺族であろうと、うまく値切って支払いにこぎつけ
ることを「業界の掟」のように書いているが、もしそうなら、代理店がどんな思いを込めて保険
販売に携わっているか考えた事があるのかという事。
○もう一つは、自賠責制度を批判しているくだりで、代理店手数料を「無駄」とハッキリ書いて
いるが、代理店の存在自体も「無駄」と思っているのかという事。
ちなみに現在、浦野氏は某市役所で交通事故相談の仕事をしているそうだが、「現役時代に
は大勢の被害者を泣かせてきた」と言いながら、親身になって相談者へ的確なアドバイスをし
ているのだそうだ。
私に言わせれば、あとから贖罪の意識を持つような仕事をするなよと言いたいのだが・・・
また、逆に、多少の主観が入っているものでも、元々業界の人間ではないのに、よくここまで調
べたな、本質をとらえているなと感心させられる著書もある。
人気漫画「ナニワ金融道」の著者であった故・青木雄二氏が漫画家を引退されてから書いた
文庫本の金融情報シリーズがあるのだが、その中に損害保険の情報を掲載した著書がいくつ
かあり、例えば、自動車保険についての箇所には、ダイレクト保険、JA共済、自動車共済、全
労災などの保険料の割安性を紹介する一方で、「ただし、保険代理店のプロとの付き合いが
あったほうが、いざというときに安心という面も見逃せません(『一生困らないゼニ儲けのツボ』
成美文庫)」という一文があったり、銀行窓販の問題点に触れ、「まあ、自由選択の国でありま
す。決定は個々の自由に任せることにしますが、保険を貯金や証券と同じ物のように扱うの
はおかしいと思います。簡単便利に入れるかどうかよりも、『正しい情報と知識を提供する』と
いう方向を向いていない変化を手放しで喜ぼうとは思わないのであります。」とズバリ指摘した
り、保険代理店の統廃合の問題にまで触れ、保険会社側が担うべき経営責任の部分を代理
店に押し付けている(「保険の裏カラクリ」徳間書店)という指摘までしている。
青木氏は漫画家として成功される四十代後半まで、公務員、会社員、フリーター、企業経営者
などを経験され、多額の負債や倒産、そして、その対極にある「印税生活」をも経験し、様々な
人間関係や実体経済の怖さを骨身にしみて分かっているからこそ、一消費者として、社会人と
して、もっと個々人が情報収集と自己防衛の努力をするべきだと訴えているのだ。
私は業界人として、先述の浦野氏のような、元業界人の偏狭的な考え方よりも、青木氏のよう
な方に「わし素人やけどこれおかしいと思うで」という指摘をされる方が怖い(とはいえ青木氏も
「ナニハ金融道」ではかなり無理がある自動車事故処理のエピソードを書いてはいるが)。
浦野氏、青木氏に共通することは基本的には「業界批判」なのであるが、基本的スタンスが暴
露本や批判本なのであれば、それはそれで書かれる内容が事実であるならば、いちいち目く
じらを立てる必要はなく、問題としたいのはどこまで本質に迫っているか(損保業界を語る時に
「代理店制度」を無視するなど言語道断だということ)だと思う。
なお、先述の浦野氏への批判を、もしご本人が確認し、私に何かご意見がおありなら、どうぞご
遠慮なくいつでもおっしゃっていただきたいと思っている。
2.保険会社について
(1)代理店との関係について
前置きが長くなってしまい恐縮だったが、この点については先述の青木氏の著書の指摘に
ついての箇所の続きでもある。
近年、保険代理店と保険会社の関係は非常に「ビジネスライク」なものとなっていると言える
だろう。別に悪い意味で言っているわけではない、現代社会の中で、今、この業界の置かれ
た状況を如実に表しているだけにすぎないことだ。
本来、保険会社と代理店は「委託契約」を結んでいる以上、対等な関係であるはずだが、そ
れが「建前」であることは周知の事実である。
私の会社は、祖父の代からの乗り合い兼業代理店であることと、私自身は日本(東京)損害
保険代理業協会(以後「代協」と表示させていただく)に所属し、多くの保険会社と同業者、
関係者の方々との交流が曲がりなりにもあるので、情報収集には余念がないつもりだが、私
の経験上からも、年々、保険会社の体制、社員一人一人に「心の余裕」が無いのが分かる。
保険会社各社とも、経費削減の為、支社の統廃合や支社単位のいわゆる「代理店会」を減
少や廃止同様としたり、代理店との交流の機会を極端に減少させた。また、会社によっては、
代理店からの電話や訪問は基本的には認めず、何か用事や質問があるときはFAXでという
体制のところもある。ここまでくるともうほとんど代理店を「厄介者」扱いだ。
保険会社の社員が夜遅くまで帰れない最大の理由は、各代理店の様々な問い合わせに対
する対応が原因とのことだが、根本問題に立ち返れば、「猫も杓子も代理店様」にしてきたこ
とが要因だろう。
我々の同業者には、保険の仕事を一生懸命やらなくても大丈夫な方々もいる。
知り合いの兼業代理店主の中には「保険の仕事なんてどうでもいいんだよ、昔、保険会社の
奴らが日参してきて『代理店になってください』て頼むからなってやったんだよ」と本音を漏ら
す人もいる。
私の会社も兼業だが、ずいぶん温度差があるものだと感じたものだが、誰が悪いというよりも
その時代はその価値観でよかっただけのことであり、そのツケが今、この業界に回ってきた
だけのことなのだ。
保険会社と代理店がコミュニケーション不足となればなるほど、代理店側の情報不足と、現
場を知らない「浮世離れ」した保険会社側の人間の増産という悪循環に陥り、どんな基本的
なことにも対処できない状況を作り出してしまうのではないかという懸念がある。別に今に始
まったことではなく、後述の「コンプライアンス」の項でも触れるが、そもそも法律的にも保険
会社主導の代理店同士の合併や廃業、代理店手数料体系決定の経緯の説明不足は、保
険会社側の「説明義務」の認識不足を如実に現しているし、研修生卒業代理店に対する不
当な扱い(一部の会社だけかもしれないが、代理店として独立後も、保険会社への定刻出
社や、活動報告を強制される等)は「優越的地位の濫用」となるはずだ。
野暮なことはしたくないし、日常業務に追われているからこそ、代理店が保険会社に対し、
そういったことで「訴訟を起こす」なんて割の合わない面倒なことをしないだけなのだ。だが、
これからの時代はどうなるか分からない、少なくとも保険会社側が現在の体制で代理店を扱
い続ければ、「これはおかしい」と考える代理店(の一団)が出てきても不思議ではない。
(2)コンプライアンスについて
昨今、代理店が保険会社側に一番言われているのがこれである。
が、一番コンプライアンスに気をつけなければいけないのは、むしろ保険会社側の方である
と思う。
近年、代理店が、たまに保険会社側に「コンプライアンス研修会」と称するものに呼ばれて
何をされるかというと、昨日今日代理店になった人に見せるような、違反募集や無資格募集、
業務遂行上、違反とされる事柄を紹介したビデオの上映である。
その内容はハッキリ言って程度が低く、私はビデオを見せられながら、「これはまさか俺に見
せているんじゃないだろうな」と言いたくなるほどであった。
今時、保険料の割戻しや使い込み、書類の偽造や圧力募集などで処分される同業者など、
所詮、そのレベルだというだけのことであり、「法令順守」などという「当たり前」のことを「何を
今更騒いでいるのだ」と言いたい。
だが逆に言えば、野暮な話だが「法令違反」の方が「当たり前」という「風潮」があったのは否
めないことを自ら認めているのと、知らず知らずも含め、本当の意味で何一つ「法令違反」を
していない業界人などいるのだろうか?ということになるし、現在でも、そういった面において
全ての代理店が本当に公平に扱われるのか?とも言いたい。
例えば、「法令違反」はしまくっているが、保険会社にとって莫大な利益を上げてくれる代理
店がいたとして、本当に保険会社は「鈴を付ける」事ができるのか?おそらく無理だろう。
ましてこれは保険業界に限った問題ではないはずだ。
私が代協に所属していることは既に述べたが、現在、代協内で行われているコンプライアン
スに関する研修やセミナーを保険会社の社員にぜひ見てもらいたいものだ。
代協では、金融監督庁のコンプライアンス対策室長をされている中央大学法学部教授でも
ある野村修也氏と交流を持ち、野村氏の講演会も数回行われたが、「本当のコンプライアン
スとは、『法令順守』は大前提であるにすぎず、業務内容のチェック機能は大切だが、単な
る粗探しをすることではなく、人間というものが業務を遂行する以上、ミスがあり得るのであり、
要はそのミスによって第三者(顧客・消費者)に損害を与えた場合、どのように適切な対処
をするかという体制を確立させておくことである。」という話の部分はまさに至言とも言えるも
のだった。
以上の点をふまえると、代協には会員用に、外資系保険会社の協力の下、自前の専門職
賠償責任保険を備えており、会員のほとんどが加入している。商品内容によっては、これま
た自前の事故調査委員会の発動もあり、有識者(顧問弁護士や大学の法学部教授など)の
協力も得られるようになっている。
人間である以上、どんなに気を付けていても、ましてや、顧客・消費者の「言いがかり」とも言
える内容でも、職業遂行上の賠償責任を免れず、多額の賠償金を支払わなければならない
事があり得る時代趨勢ともなっているため、本当の意味での「コンプライアンス」の遂行に余
念がないようにしておくのは、職業人として当然の事と言えるだろう。
ではここで、私の体験か、他の代理店の方々からの情報かは伏せておくが、我々代理店に
いつもうるさく「コンプライアンス」を言っている保険会社も、どれだけ気を付けなければいけ
ないかという事を、実例を挙げて述べさせていただこう。
①計上遅延
現在、自動車保険や火災保険などの、一般代理店が日常的に取り扱う商品については、
代理店がPCで直接、契約を計上しているのが普通だが、保険会社が計上業務を代理店
にやらせる事は、本来、法律的には「別業務扱い」としての手数料支払いが必要となり、
委託契約書にポイントとして盛り込むなどおかしなことなのだが、ここではそれがメインテ
ーマではないのでやめておくとして、その計上業務において、代理店が直接計上できな
い種目や項目がある場合、当然、保険会社に直接計上を任せることになるのだが、その
場合、契約継続の計上と比べ、契約内容の変更に関する計上は遅延となる事が少なくな
く、しかも、どうやら業界全体として言える実態のようだ。
保険会社に直接計上を任せる場合は、代理店はただひたすら計上終了を待つしかなく、
例えば、顧客から直接「自分が頼んだ契約内容の変更について、何の証明書類もまだ来
てないのだが、どうなっているのか?」というクレームの対応程度ならまだいい方で、契約
内容の変更がまだ計上されていないうちに、同一顧客から新たな契約内容の変更を申し
出られる場合があるので、話がややこしくなる。もし、その間に保険事故があったら本当に
大丈夫なのか?と言いたいところなのだが、その点に関しては、社員は明言を避ける。
というか、始めから想定していないか分からないとうのが本音のようだ。
契約内容変更の計上業務遅延の原因には、代理店の書類への記入ミスや、契約者の捺
印箇所の不足など、代理店側の責任も多々あるが、それならそれで、書類を保険会社に
提出してから、そのミスを指摘され、訂正を依頼されるまでに何週間も経っていたというこ
とが少なくない上、最初から書類に不備が無い場合でも、保険会社の計上業務が遅延と
なり、もしもそれが原因で、契約者の保険事故が支払い不可となった場合、契約者は間
違いなく、直接、保険会社に賠償請求をしてくると思うのだが、いかがだろうか?
まさかそれまで代理店のせいにして逃げる事はできないだろうと思うのだが。
②顧客と保険会社との直接の契約書類取り交わしにおいて
これについては具体例での説明が必要だろう。
ある団体扱いの法人顧客A社とB保険会社との間で、C保険代理店を通じて、団体扱い
自動車保険契約の異動追徴保険料の給与天引きについての特約書が取り交わされた。
例えば、A社の社員が、A社の団体扱い(保険料の月払い給与天引き)で加入している
個人の自動車保険契約において、保険期間中の車両入替や年齢条件の変更などで保
険料が高くなる場合、今までは、満期日までの差額保険料を現金で支払わなければいけ
なかったのを、毎月の給与天引き保険料を変更することもできるようにしたということであ
る。
A社は業務連絡として、全社員にその旨を通達した。
数ヵ月後、A社の社員D氏から、窓口であるC保険代理店に自動車保険契約車両の入替
の申し出があったため、早速、C保険代理店は変更月払い保険料をPCで計算しようとし
たが、できなかったため保険会社に問い合わせたところ、何と、A社とB保険会社との異
動追徴保険料の給与天引きの特約が履行されていないという事実を知ることとなった。
理由は非常に単純明快で、B保険会社の「履行遅延(単に『忘れていた』だけということら
しい)」である。
結局、追徴保険料を現金で支払わなければいけなくなったD氏と、追徴保険料給与天引
きの社内通達を出していたA社は、B保険会社の「債務不履行」を厳しく主張し、あわや
他の保険会社への団体扱いの委託切り替えもあり得るところだったが、A社と付き合いの
古かったC保険代理店のとりなしにより、事なきを得たとのことである。
いかがだろうか?このような場合で、もし大口顧客を失ったら、代理店はたまったもので
はないのである。
ましてこの手のことで、もし損害賠償責任が生じたら、保険会社は間違いなく責任を取らさ
れると思うのだが。
③クレームにおいて
保険会社が一番「コンプライアンス」において気をつけなければいけない点である。
「クレーム」と漠然と書いているが、我々代理店が特に関わる事が多いのは、保険事故対
応に対するものだろう。
私の経験で申し上げれば、特に自動車事故の際、保険会社側に気を付けてもらいたい
のは、事故当事者本人との会話についてである。
具体例を述べさせていただくが、例えば、顧客でもある事故当事者から、「保険会社の
社員の口のきき方がなっていないので、腹が立った」というクレームを代理店として受
ける事がある。会話の内容が録音されているわけではないので、不明な点が多いが、
顧客からのクレームなので、事実関係の確認はとることにしているが、大概の保険会社
の自動車損害調査部(以後「損調」と表示)の人は、そういった類のクレームに対しては、
「そのような言動はしていない」と回答する。実は私は、多分その通りかもしれないと思
っている。ここで、やみくもに、「お客様が怒っているじゃないか!どうしてくれる!」とい
う言い方ではだめだと思っている。
私が言いたいのは、話し相手にとって失礼な言動があったのかどうかではなく、話し相
手にそうとられる事が問題なのだということである。
損調には、営業経験がない人もいるため、会話をしていて「こりゃあぶない、口の聞き
方がなっていないと誤解を受ける事もありそうだな」と思える人物もいる。
人と会話をするということは、今更言うのも何だが、とてもむずかしいもので、「十人十
色」という言葉があるように、世の中には様々な人間がいて、物事の考え方、とらえ方も
人それぞれである。
私は、まずこういった場合、相手の人間性を見極める会話を心がけている。こちらの考
え方、決まり事、法律論を言ったところで、それが相手に通用するかしないかは別問題
だからだ。そして、同じ事を話すにせよ、相手の人間性によって言い方を変えるようにし
ている。
具体例を挙げるとすれば、例えば車両保険の価格協定がなかった時代は、顧客の自
損事故により、車両が全損となり、古い車だった場合、もし車両保険金額が50万円で
付保されていたとしても、損害調査の結果、アジャスターが40万円と判定してしまえば、
支払い保険金額は40万円となってしまう。顧客は当然のごとく「保険金額は50万円で
付いているからおかしいじゃないか!」と怒る。その際、次の3択の中からどれを言うか
で、顧客に与える印象は変わるのではないだろうか?
①「40万円しか払えません」
②「40万円までならお支払いできます」
③「35万円と判定したのですが、何とか40万円までお支払いできるよう努力します」
保険会社の人には①の様な物言いをしてしまう人は多いように見受けられる。これでは
あまりに「芸」がない。規定であるとはいえ、相手に悪印象を与えてしまうのは否めない
だろう。
②はどうだろうか?同じ事を言っているのに①とは相手に与える印象が違ってくるので
はないだろうか?
③は「応用編」である。ここまでくると「詐欺」に近いものがあるが、テクニック論として紹
介させていただいた。
いかがだろうか?以上の一例からも、顧客や消費者と日夜直接接し、現場の事が分か
っている代理店をなめてもらっては困るのである。
物事には「言い方」「やり方」があるのだ。
保険会社の人達には、その辺のところをもう少し理解してもらいたいと思う事が多い。
④個人情報の漏洩について
現在、一番社会問題として取り上げられているのはこれである。
我々保険代理店は多くの顧客(個人・法人)の情報を持っているので、その取り扱いに
は細心の注意を払っているし、そうするよう保険会社からも指導されている。PCは常に
ウィルス対策をして、古い顧客情報書類や特定個人や法人の情報が表示してある書
類は、保管対象のものを除いては、全てシュレッダーで処分するようにしている。
だからむしろ、怖いのは書類の取り扱い上のミスやPCのハッキングよりも、「口頭」によ
る顧客情報の漏洩だろう。
またしても、損調を引き合いに出してしまい恐縮だが、実は自動車事故の示談交渉に
おいては、こちら側の顧客情報を、ある程度相手側に伝えなければならない場合があ
り、それが相手側にとって、示談交渉をすすめる上で有利に使われてしまう事がある。
残念ながら具体例は書けないが、これは考えものである。
こちら側の損調の担当者が、結果的に言わない方が良かった顧客情報を相手側保険
会社に伝えた為、いわゆる「足元を見られる」交渉をされたことがあり、どちらも倫理上、
問題があると感じたものだ。もちろん、示談交渉に限らず、日常どこでうっかり個人情報
の朗詠をしてしまい、損害賠償にまで発展するか分からない。
代協の保険代理店専門職賠償責任保険では、それも支払い対象にしているものもあ
るので、幸いと言えば幸いだが・・・
(3)超保険の理念について
なぜここで超保険について書かせていただくのかというと、保険会社が始めて提示した
保険業界の求める究極の理想追求をしているひとつの形だと思うからだ。
ただし
今現在の、日本の保険業界と一般消費者の現状を考えれば、その道のりは険しく長
い。
私が前編で書かせていただいた論文の内容とも関連するが、先日(6月12日)、横浜
で開催された「RINGの会」に参加させていただいた際に、ある代理店主の方がおっし
ゃっていた事だが、日本では、保険業界以外の人というのは、教師であろうが、弁護士
であろうが、医者であろうが、保険についての知識は「皆無」といってもよいほどで、欧
米のように「保険は自分から加入しに行くもの(持参債務)」という概念などないのであ
る。
なぜそうなのかといえば、実は日本の保険業界の法律上の建前も「持参債務」となって
いるにもかかわらず、生損保ともに「利益最優先」の概念から、保険業者の方から勧誘
も継続手続きにも来てくれるからで、そのせいで、事故の処理にいたっても、顧客の思
い通りになるかは別として、「わがまま言いたい放題」と悪い意味での「ここまでやっても
らって当たり前」の概念が土壌としてできてしまっているからだと思う。
私は「自己責任」という言葉には抵抗感があるが、現在の日本には、先述の青木氏のよ
うな「自分で努力して正しい知識と情報を得よう」とい風潮は感じられないと思う。
今の日本のシステムが、そこまでしなくても、誰もがそれなりに支障なく生活できるように
なっているからだろう。
つまり、超保険の理念をこの国に根付かせる為には、日本人の意識そのものを改革し
なければならないと思うのだ。
これは、現在の日本ではほとんど徒労に終わりそうな作業でもあるが、同時にやりがい
のある事でもあると思う。
以上、保険会社について思うことを述べさせていただいた。保険会社主導による代理
店の格付け、線引き、代理店同士の統廃合ははたして本当に正しいやり方で行われて
いるのだろうか?それを言う、やる資格が保険会社のどこに、誰にあるというのだろう
か?時代には趨勢というものがあるから、私は「やるな」と言っているのではなく、「やり
方を考えろ」と言いたいのである。同業者の中には、それをされても仕方がないという人
がいるのも事実かもしれないが・・・
3.他業界について
(1)銀行窓販について
銀行窓販については、どうやら全保険商品の全面解禁は、当面は見送られる方向のようだ
が、時代の趨勢で今後どのような展開をみせるかは、前項の2の(3)で述べさせていただい
たとおり、これからの日本人の情報に対する意識と密接に関係するだろう。
少なくとも、現在のシステムに疑問を感じていない人の方が多いように見受けられるので、ど
のような形態をとるにせよ、銀行窓販が行われるのは避けられないように思われる。
私は現状も含めて、銀行による保険販売には反対だが、それは「商売敵」に対する思いなど
という「チンケ」なものではなく、先述の2の(2)で述べさせていただいたとおり、コンプライア
ンス違反の増大に対する懸念である。それでなくても、銀行の「圧力販売」「説明義務違反」
「いい加減な事故対応」が「当たり前」のものだったのは、今までの私の論文の中で述べさせ
ていただいたとおりであるし、もしも、現在の体制のまま、銀行で自動車保険が販売されたと
したら、それはそれで「滑稽」としか言いようがないということも、今までの私の論文をお読み
いただいた方ならお察しいただけるだろう。
まして、銀行の場合、もしも、重大なコンプライアンス違反が判明し、監督官庁から処罰され
る場合、保険会社と代理店の関係のように、ある程度責任を分担することができないのでは
ないだろうか?
「それは支店のやったこと」という論理は基本的に、代理店制度と比べ、通らないような気が
する。
とは言え、問題はどこまでいっても、利用する消費者側の意識にかかってはいるのだが。
(2)生命保険のCMについて
最近の、メディア(特にテレビ)による生命保険商品のCMは、過去のものと比較し、大きな
変化を遂げている。
それは有名どころの俳優やタレントを惜しげもなく起用していることと、商品内容のある程度
の説明に時間を割いているところ、そしてもう一つは、朝から晩まで、のべつ幕なしに放映し
ているところである。
私は、ダイレクト販売の自動車保険CMとセットのように、どう思うかという質問と、商品内容
についての確認を、友人、知人、顧客などにされるのだが、私に質問をしてくる人達の表情
を見ると、一連の保険業界のメディアCMに良い印象を持っているとは思えない。
CMなのだから、商品内容の良い面だけを、一方的に強調するのは当たり前なのだが、先
程も述べたとおり、これまた、どこまでいっても、利用する消費者側の意識にかかっていると
思う。
例えば、「がん保険」に加入しようと思っても、補償期間、保証金額、免責事項についてなど
の点に配慮するのはもちろんだが、保険対象となる癌の種類や症例については、一般消費
者が自ら一人で購入するには、かなりの情報を知識として得ておかなければならないので
はないだろうか?
「自分は専門家のアドバイスがなくても大丈夫」などと言う様な人に限って、自動車事故の際、
社会人として、とても見苦しい対応を見せた人を、私は大勢知っているのだが・・・
予告として
さて、またしても突然で恐縮だが、今回もここまでとさせていただきたい。
次回で完結とさせていただくつもりだが、私の場合、どうしても書き加える事が途中から増え
てしまい、いつも長文となり、お読みいただく方には大変恐縮している。
もしよろしければ、次回は他業界についての続きも兼ね、保険代理業の未来について思うこ
とを、代協で執り行った様々なデータ分析と合わせて、述べさせていただきたいと思う。
今回もここまで私の駄文にお付き合いいただき、心より感謝している。