海外法務ニューズレター(中国) Vol.5

海外法務ニューズレター(中国)
Vol.5
2013 年 8 月
い内容の真実性に責任を負い、法の規定に反して、外
中国における法令の最新動向
~出入国管理法と出入国管理条例
国人に招へい状等を交付する行為は罰則の対象となる
点に注意が必要です(関連する条文の和訳は、後記をご
日中間の政治関係等が、企業の投資判断に与える影響
もありますが、現在も、中国内に拠点を有して活動を行う日
系企業は依然として多く、毎年、駐在・出張・企業派遣留
参照ください)。
② 出国不許可事由の追加(法 28 条)
学等の形で、中国に滞在される日本人は少なくありません。
今回は、中国で就労する場面に焦点を当てて、入国管理
日本の入国管理法とは異なり、中国では出国を不許
可とする事由が定められている点に注意が必要です。具
法及び入国管理条例について、近時の改正点や留意点を
解説いたします。
体的には、
ⅰ)刑事事件の被疑者・被告に該当するとき
ⅱ)未解決の民事事件があり、人民法院が出国不許
可の決定をしたとき
1 改正の趣旨
中華人民共和国出入国管理法(以下、「法」といいま
ⅲ)労働者に対する労働報酬の支払いを遅延し、関
す。)は、昨年 6 月 30 日に改正され、本年 7 月 1 日より
施行されました。改正の目的としては、三非(不法入国・不
係当局が出国を許可しない旨の決定をしたとき
等が定められました。今回の改正では、外国企業による
法居留・不法就労)を犯す外国人に対する管理及び罰則
の強化等が挙げられます。
支払遅延や不払いの問題等を受け、ⅲ)が追加されて
います。
また、新法を受け、本年 7 月 22 日には国務院より、中
華人民共和国外国人出入国管理条例(以下、「条例」とい
います。)が公布され、外国人の入国、居留及び就労に対
する管理につき、より詳細な規定が定められました。条例は、
本年 9 月 1 日から施行されることになっています。
③ 再入国の禁止(法 81 条)
外国人が法の規定に違反し、事案が重大であるときは、
国外追放処分の対象となり、最長で10年の再入国が禁
止されることが明文化されました(従来は、明文の規定が
ありませんでした)。また、国外退去された者に対する再
入国の禁止については、後記(3)④でご説明します。
2 主な改正点
(1) 出入国に関して
① 査証の種類の増加(法 19 条・70 条、条例 6 条)
これまで 8 種類に分類された査証が、12 種類に細分
(2) 滞在及び居留に関して
① 生体識別情報の提供義務(法 30 条 2 項)
化されました。注目されるのは、現在、Fビザに含まれる
商業貿易活動が、新設されたMビザに区分されること、
外国人が、居留証書の手続を申請する際、関連資料
の提出に併せて、指紋等の生体識別情報の提供を義務
新たにRビザ(国家が必要とする外国高級人材及び緊急
付ける規定が追加されました。居留証書の取得が必要と
に必要とされる専門人材)が設けられたことです。
近年、中国で商業活動に従事する外国人が益々増
なるのは、基本的に、中国で就労するか、180 日を超え
て特定の活動に従事する外国人に限られています(条
加していることを背景に、査証の細分化を通じて、査証の
内容に即したサービスの提供を可能にすると共に、管理
例 15 条・16 条・36 条)。
外国人の居留に対する管理を強化するための措置で
の利便性を高めると説明されています。
また、招へい状を発行する事業者又は個人は、招へ
すが、心理的に抵抗を感じられる方は少なくないかと思
われます。なお、日本においても、外国人の上陸申請の
【監修者】パートナー
弁護士
業務受託者(中国法務)
高松
馬
直樹
峻
〘大
〘東
【執筆者】
弁護士
安藤 勝利
(北京市大地律師事務所にて実務研修中)
京〙弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
〒100-0005 東京都千代田区丸の内 1-7-12 サピアタワー14F
TEL 03-5219-5151(代)/FAX 03-5219-5155
〘福
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いては当該案件の個別の状況に応じ、弁護士の助言を求めて頂く必要が
あります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、
当事務所又は当事務所のクライアントの見解ではありません。本ニューズレ
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際、同様の措置が採られています。
が不法就労に該当します。
ⅱ)については、就労許可を取得していても、許可を
② 居留期間の延長申請の長期化(法 32 条)
中国国内に在留する外国人が、居留期間の延長を申
得ず職場を変更して稼働した場合には、不法就労となり
ます。そして、外国人を雇用する使用者は、当該外国人
請する際、居留証書の有効期間満了の 30 日前までに、
管轄の出入国管理機関に申請を行うよう義務付けられ
が離職、又は就労地域を変更した場合等、出入国管理
機構に対し、速やかに報告することが義務付けられてい
ています(従前は、有効期間の満了までに申請を行えば
ます(条例第 26 条)。
足りました)
今回の改正を受け、北京・上海・広州等の大都市にお
また、外国人が不法に就労した場合は、就労した本人
に対する罰則だけではなく、不法就労を仲介した者、不
いては、手続完了に要する期間が 15 業務日に延長さ
れています。手続期間中はパスポートを提出することに
法就労者を雇用した者に対する罰則も定められています。
罰則の内容は、過料や違法所得の没収が中心となりま
なるため、飛行機等の利用が難しく、中国国内であって
すが、外国人本人については、情状が重い場合は拘留
も、行動範囲が制限されてしまいます。そのため、出張の
予定等についても、事前の調整が必要となります。
の処分が行われます。
③ 調査(法 59 条・60 条)
出入国管理に違反した疑いのある者に対して、その
③ 宿泊登記の義務(法39条)
外国人が中国で滞在する際は、臨時宿泊登記を行わ
ねばなりません。従来もこの規定はありましたが、これに違
場で尋問することができ、当該尋問を経た後、外国人
に不法居留、不法就労の疑いがある等の場合、継続し
反した場合、罰金の上限が、従来の500元から2000元
て尋問をすることができる旨、規定されました。また、尋
に引き上げられています。
ホテル等の宿泊施設に泊まる場合は、宿泊施設側が
問を継続した後も、なお調査を行う必要がある場合、原
則として 30 日を超えない範囲で、拘束審査の対象と
宿泊登記の義務を負いますので、通常、宿泊者自身が
手続を行う必要はありません。他方、友人宅等に泊まる
なることが定められています。外国人に対する管理を行
う上で、活動の実態を実効的に調査する権限が与えら
場合には、管轄の派出所にて宿泊登記を宿泊する本人、
れています。
又は、宿泊させる人のいずれかが行う必要があるため、
注意が必要です。
④ 国外退去(法 62 条)
不法在留や不法就労を行った外国人は、国外退去の
対象となり、国外退去させられた者については、国外退
(3) 就労に関して
① 無犯罪履歴証明の提出
新法の施行と関連し、就労許可の申請の際、地方によ
去させられた日から 1 年ないし 5 年以内は入国を許可
しない旨、定められました。不法就労等に対する管理を
っては、無犯罪履歴証明の提出が求められている点に
強化する措置の一つといえます。
注意が必要です。例えば、北京では本年 7 月 1 日より、
外国人が就労許可を申請する際、北京労働局から無犯
3 最後に
罪履歴証明の提出が必要となっています。この証明は
日本の警察庁が発行するものですが、中国で提出を行う
入国管理の場面においても、当局に与えられた裁量は
小さくなく、地方ごとに各場面での対応が異なることが予想
ためには、日本国内で駐日中国大使館の認証を経てい
されますが、今後、中国との関わりを持たれる可能性のあ
なければならず、準備には一定の時間が必要となります。
る皆様において、今般の改正点をご理解いただく上での一
助となれば幸いです。
② 不法就労の定義及び罰則の強化(法 43 条・80 条)
「不法就労」について、明確な規定が定められました。
すなわち、
ⅰ)就労許可及び就労類居留証書を取得せずに中国
国内で就労する場合
ⅱ)就労許可の定める範囲をこえて中国国内で就労
する場合
ⅲ)外国人留学生がアルバイト管理の規定に違反し、
所定の業務範囲又は時間を超え中国国内で就労
する場合
-2-
【法令訳(抜粋)】
条例 6 条(査証の種類)
宿主が、居住又は宿泊地の公安機関に登記手続をしなけ
ればならない。
普通査証は、以下の種類に分け、かつ査証に相応する
中国語ピンイン(発音標記)を明記する。
法 43 条(不法就労)
(7)M 査証は、入国して、商業貿易活動を行う人員に発給
する。
外国人が次に掲げる行為の 1 つを行った場合は、不法
就労とする。
(9)R 査証は、国が必要とする外国の高級人材と緊急に必
(1)規定どおりに就労許可及び就労系在留証書を取得せ
要とされ、不足している専門人材に発給する。
ずに中国国内において就労する行為。
(2)就労許可の限定する範囲を超えて中国国内にて就労
法 19 条(招へい状の提出)
外国人が査証手続を申請する際に中国国内の事業者
する行為。
(3)外国人留学生がアルバイト管理の規定に違反し、所定
又は個人の発行した招へい状を提供する必要がある場合、
の職位範囲又は時間制限を超え中国国内にて就労す
申請人は、在外査証機関の要求に従い、提供しなければ
ならない。招へい状を発行する事業者又は個人は、招へい
る行為。
内容の真実性に責任を負わなければならない。
法第 45 条(使用者の報告義務)
外国人を雇用して就労させるか、外国人留学生を募集
法 28 条 (出国不許可事由)
外国人が次に掲げる事由のいずれかに該当する場合は、
する事業者は、規定に基づいて所在地の公安機関に関連
情報を報告しなければならない。
出国を許可しない。
(1) 刑罰に処され、未だ執行が完了していないか、刑事事
件の被告人又は被疑者であるとき。ただし、中国と外国
法 58 条(調査の実施機関)
本章に定める現場での尋問、尋問の継続、拘束審査、
とが締結した関連協定に従い、刑を言い渡された者を相
手国に引き渡す場合を除く。
活動範囲の制限、国外退去措置は、県クラス以上の地方
人民政府の公安機関又は出入国国境警備検査機関が実
(2) 未解決の民事事件があり、裁判所が出国を許可しな
施する。
い旨の決定をしたとき。
(3) 労働者の労働報酬の支払いを遅延し、国務院の関係
法 59 条(尋問)
部門又は省、自治区もしくは直轄市の人民政府が出国
を許可しない旨の決定をしたとき。
出入国管理に違反する疑いのある者に対しては、その場
にて尋問することができる。その場における尋問を経て、次
(4) その他法律及び行政法規の規定により出国を許可し
ない事由
に掲げる事由の 1 つに該当する場合は、法に基づいて継
続して尋問することができる。
(1)不法に出入国した疑いがあるとき。
法 30 条 2 項(生体識別情報の提供義務)
外国人居留証書の手続を申請する場合には、本人の旅
(2)他人の不法な出入国に協力した疑いがあるとき。
(3)外国人に不法在留又は不法就労の疑いがあるとき。
券その他の国際旅行証書及び申請事由に関連する書類
を提出し、且つ指紋等の生体識別情報を提供しなければ
法 60 条(拘束審査)
ならない。
外国人に本法第 59 条第 1 項の定める事由の 1 つがあ
る場合において、その場における尋問又は尋問の継続を経
た後に、なお疑いを排除することができず、より一層の調査
法 32 条(在留許可の延長)
中国国内に在留する外国人が在留期間の延長を申請
する場合は、在留証書の有効期間満了の 30 日前までに、
在留地の県クラス以上の地方人民政府の公安局の出入
国管理機関に申請を提出し、要求に基づいて申請事由に
を行う必要があるときは、拘束審査をすることができる。
法 62 条(国外退去)
次に掲げる事由の 1 つに該当する外国人は、国外退去
関する関連資料を提出しなければならない。
させることができる。
(3)不法に在留したか、不法に就労したとき。
国外退去させられた者については、国外退去させられた
法 39 条(宿泊地等の届出義務)
外国人が宿泊施設以外のその他の施設に居住するか、
宿泊する場合には、宿泊開始後 24 時間以内に本人又は
日から 1 年ないし 5 年以内は入国を許可しない。
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法 74 条(招へい状の交付に対する罰則)
本法律の規定に違反し、外国人のため招聘状その他の申
請資料を発行した場合は、5,000 元以上 10,000 元以下の
罰金を科する。違法所得のあるときは、違法所得を没収し、
且つこの者に対し招聘した外国人の出国費用を負担するよう
命ずる。
事業者が前項の行為をした場合には、10,000 元以上
50,000 元以下の罰金を科する。
法 76 条(宿泊登記の不履行に対する罰則)
次に掲げる事由の 1 つに該当する場合は、警告をするもの
とし、2,000 元以下の罰金を併科することができる。
(6) 第 39 条第 2 項の規定どおりに登記手続をしないとき。
法第 80 条 (不法就労に対する罰則)
外国人が不法に就労した場合には、5,000 元以上
20,000 元以下の罰金を科する。事案が重大であるときは、
5 日以上 15 日以下の拘留に処し、5,000 元以上 20,000
元以下の罰金を併科する。
外国人を斡旋して不法に就労させた場合には、個人に
ついては不法就労の斡旋 1 名につき 5,000 元、総額で
50,000 元を超えない罰金を科し、事業者については不法
就労の斡旋 1 名につき 5,000 元の、総額が 100,000 元
を超えない罰金を科する。違法所得のあるときは、違法所
得を没収する。
外国人を不法に雇用した場合には、不法雇用 1 名につ
き 10,000 元、総額が 100,000 元を超えない罰金を科す
る。違法所得のあるときは、違法所得を没収する。
法 81 条(国外追放処分)
外国人が滞在・在留の事由と一致しない活動に従事したか、
中国の法律及び法規の規定に違反し、中国国内において継
続して滞在又は在留することに適さないその他の事由がある
場合には、期間を定めて出国させることができる。
外国人が本法律の規定に違反し、事案が重大である場合
において、犯罪を構成するに至らないとき、公安部は国外追
放に処することができる。公安部の処分決定は、これを最終
決定とする。
国外追放された外国人については、国外追放された日から
10 年以内は入国を許可しない。
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