第5回 公的年金比較~沿革、対象、給付

2008年
(平成20年)
7月25日
〈金曜日〉
読んでナットク!
日本と中国の
The Daily NNA【中国総合版】
第3014号[11]
年金比較
年金コンサルティング部 位田周平
E-mail:[email protected]
<筆者プロフィール>
第5回 公的年金比較∼沿革、対象、給付∼
2.基本養老保険(中国)
1.厚生年金保険(日本)
厚生年金保険の前身は、男子労働者のために1942
年に導入された労働者年金保険で、1944年に女子労
働者にも適用されると同時に現在の名称に改称され
ました。
その後、船員と農林漁業者の公的年金が統合され現
在に至っています。さらに、公務員と私立学校教職員
の公的年金と厚生年金保険との一元化法案
(被用者年金
の一元化)
が現在、国会に提出されています。
制度面での最も大きな改正は、1986年に実施された
基礎年金の導入です。自営業者に適用されていた国民
年金を、被用者
(民間労働者、公務員、教職員)
も含め
すべての国民に基礎年金として適用し、厚生年金保険
は、報酬比例の年金
(老齢厚生年金)
を基礎年金の上乗
せとして支給する制度になりました。
被用者の妻が専業主婦の場合も基礎年金の対象者
(第
3号被保険者)
とされ、専業主婦の国民年金保険料は夫
の厚生年金保険料に含めて徴収される仕組みになりま
した。
皆様の奥様が専業主婦の場合の公的年金は、皆様
(夫)
の老齢厚生年金と夫婦2人分の基礎年金となり、
夫婦共働きの場合は夫婦それぞれの老齢厚生年金と基
礎年金の合計となります。
1986年以前は、専業主婦の国民年金は任意加入とい
う取扱いでしたので、妻の国民年金保険料を納付して
いなければ未納扱いとなり、その期間の妻の基礎年金
額は減額されることになります。
年金数理人、日本アクチュアリー会副理事長、
海外職業訓練協会(OVTA)国際アドバイザー
中国の公的年金のルーツは、国有企業、都市部集
団企業の労働者向けに1951年に制定された
「労働保険
条例」
に基づく社会保険制度です。この制度は、企業
内福利制度という性格のもので、保険料は賃金の3
%を事業主が負担し、引退時の給与の80%の給付を
行っていました。しかし、1978年に始まった改革開
放政策に伴う国有企業のリストラにより、企業内制
度の財政は急速に悪化していきました。
このような状況を打開するため、ILOや世界銀
行の助言を受け、年金制度改革が着手されました。
改革の主なポイントは次のとおりです。
①企業負担軽減のための国および従業員負担の導入
(注)
国の負担は、社会保険管理基金の管理費用お
よび赤字基金の財政救済に充てられます。
②適用対象を国有企業、集団企業以外の企業へ拡大
③賦課方式に加え一部積立方式
(個人口座)
の導入
④全国統一制度の確立
この改革に基づき、1997年に国務院が新たな条例を
公布し、現在の基本養老保険が誕生しました。
それまで企業単位で異なっていた給付率を統一す
ると同時に、保険料負担を軽減するため、給付水準
は退職前所得の約80%から約60%程度に引き下げら
れました。
制度の運営管理は、財政運営も含めて、市・県レ
ベルの社会保険管理基金が行います。しかし、高齢
化が進んでいる地域ほど年金財政は逼迫し、この赤
字補填のために政府
(中央・地方)
は、毎年多額の財政
支出を行っています。
(図表)日中の民間労働者の公的年金比較
厚生年金保険
実施主体
対象者
基本養老保険
・主務官庁:厚生労働省
・主務官庁:人力資源社会保障部(旧労働社会保障部)
・制度運営:社会保険庁
・制度運営:市、県単位の社会保険管理基金
・法人の事業所又は常時5人 以上 の従 業員 を使 ・国有企業、都市部集団企業、都市部私営企業の従業 員、
用する事業所に使用される70歳未満の者
外商投資企業の中国人従業員
・老齢厚生年金:本人の老齢により支給
給付の種類 ・遺族厚生年金:本人死亡後、妻や子に支給
・障害厚生年金:障害が生じた時に支給
・本人の生存を条件に支給
(注)基本養老保険は個人単位の制度となっており、遺族
年金はない。
(当シリーズは毎月第2・4金曜日に掲載します。)
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