曲目解説 - 兵庫芸術文化センター管弦楽団

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下野竜也 シューマン&ブラームス プロジェクト②/3分ですぐわかる今回の聴きどころ
下野竜也 シューマン&ブラームス プロジェクト②
ブラームス:ピアノ協奏曲
第2番
定期演奏会
PROGRAM
変ロ長調 op.83 ★ (約46分)
第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ Allegro non troppo
第2楽章 アレグロ・アパッショナート Allegro appassionato
第3楽章 アンダンテ Andante
第4楽章 アレグレット・グラツィオーソ Allegretto grazioso
ー
第3番
ブラームスは素晴らしいピアノの腕を持っていたのだが、
ピアノ・ソナタも初
期の3曲だけ、
ピアノ協奏曲も2曲しか残していない。それだけにひとつひと
つの作品には深い想いが込められている。
ピアノ協奏曲第2番は48歳の時の
作品で、第1番が26歳の時の作品だから、22年ぶりのピアノ協奏曲というこ
休 憩(20分)ー Intermission
シューマン:交響曲
生涯に2曲しかピアノ協奏曲を残さなかったブラームス
下野竜也プロジェクト
Johannes Brahms : Piano Concerto No. 2 in B flat major, op. 83
とになる。この第2番の協奏曲にはブラームスのピアノ演奏のテクニック、そ
「ライン」(約32分)
変ホ長調 op.97
Robert Schumann : Symphony No. 3 in E flat major, op. 97, "Rheinische"
第1楽章 生き生きと Lebhaft
第2楽章 スケルツォ:きわめて穏やかに Scherzo : Sehr mäβig
第3楽章 速くなく Nicht schnell
第4楽章 荘重に Feierlich
第5楽章 生き生きと Lebhaft
の最も難しい部分が詰め込まれている。その上、全4楽章という構成はおそら
く交響曲を意識したのだろう。
ピアニストにとっては一瞬も息が抜けない、
しか
し、それだけにやりがいのある作品と言えるだろう。いま上り坂の河村尚子の
演奏を堪能出来るだろう。
人生の転機に見たライン川流域の風景を描いた
ドイツ東部のドレスデンから、オランダ、ベルギーなどに近いライン川流域の
デュッセルドルフに転居したシューマン夫妻。その流域の風景は、親友メンデル
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指
揮:下野
竜也
Tatsuya Shimono, Conductor
尚子
Hisako Kawamura, Piano(★演奏曲)
ピ
ア
ノ:河村
管
弦
楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団 Hyogo Performing Arts Center Orchestra
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2014
4/5(土) 3:00PM開演
スゾーンの死による衝撃をやわらげてくれたと言う。そしてそのライン川の流域
の風景などを脳裏に浮かべながら書いた交響曲がこの第3番である。全部で5
つの楽章から構成されるが、特に第4楽章はケルンの大聖堂、そこで見たケル
ン大司教の枢機卿就任式の荘厳さが表現されている。
シューマンの交響曲の中
でも、
この第3番は自然や風景との関わりの深い作品として親しまれて来た。
も
し、
ライン川流域に旅したことがある方がいたら、その風景を思い出しながら、聴
いてみてほしい。
片桐 卓也(音楽ライター)
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主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
※演奏時間は目安となります。前後する可能性がありますので予めご了承ください。
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ここだけは絶対チェックしておきたい!ライターおすすめ『必聴ポイント』
check
ブラームスの協奏曲の第3楽章の冒頭にはチェロのソロが登場して、美しく歌う。ピアノ
協奏曲とはいえ、まるでチェロ協奏曲のよう。その後のピアノの展開も激しく、美しい。
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下野竜也 シューマン&ブラームス プロジェクト② PROGRAM NOTE
下野竜也 シューマン&ブラームス プロジェクト②
定期演奏会
曲目解説ー演奏をより深く楽しむために 片桐 卓也(音楽ライター)
第2番 変ロ長調 op.83
(1833-1897) 初演:1881年 ブタペスト
ピアノとオーケストラが一体となった交響曲のような協奏曲
第1楽章
アレグロ・ノン・トロッポ
冒頭にホルン・ソロによる主題が登場。ピアノがそれを追いかけるように低音部から高音部まで
和声的な流れを作っていく。その後オーケストラによって主題が演奏される。スケールの大きな
楽章。
第2楽章
アレグロ・アパッショナート
(ニ短調)
ヨハネス・ブラームスの創作意欲が最も充実していたのは、1876年に交響曲第1
激しく、特にピアノが難しいとされるスケルツォ的楽章。中間部はニ長調となり、オーケストラによ
番を初演した後の時期、1877年に交響曲第2番、1878年に唯一のヴァイオリン協
る音型がダイナミックに動く。
奏曲、1879年にヴァイオリン・ソナタ第1番を発表したあたりから、
このピアノ協奏曲
第3楽章
アンダンテ
第2番を完成する1881年あたりまでではないだろうか? 素晴らしく充実した作品
チェロのソロによって開始される美しい緩徐楽章。そのチェロのソロが終わると、ピアノはその流れ
が並んでいる。そしてこの時期、
ブラームスは何度かイタリアを訪問している。最初の
を引き取って、叙情的に歌って行く。
しかし、その後にはピアノが情熱的なメロディを奏で、そこに合
イタリア旅行は1878年。一ヶ月ほど、
フィレンツェ以南、
ローマ、ナポリあたりまでを
旅行している。その時にイタリアの風物に大きな感動を覚えたブラームスは、その後
何度もイタリアを訪問することになる。その最初の旅行の時に感じたイタリアの美し
さへの憧れが、
このピアノ協奏曲第2番の発想に繋がったと言われている。イタリア旅
行から帰ると、
ブラームスはこの大作の最初のスケッチを始めている。
この第2番のピアノ協奏曲は、第1番に較べてもさらに規模が大きい大作である。
全4楽章あるのも、一種の交響曲のようであり、それまでのピアノ協奏曲にはあまり無
い形だった。特に第2楽章にアレグロ・アパッショナートのスケルツォ的な楽章を入れ
た事が特徴的である。
また、いわゆるカデンツァ部がなく、その代わりに、
ピアノは時に
下野竜也プロジェクト
ブラームス:ピアノ協奏曲
わせるようにオーケストラも高揚する。ブラームスらしい情熱的な一面を表現する部分だ。再びチェ
ロのソロも登場し、穏やかになって終わる。
第4楽章
アレグレット・グラツィオーソ
様々な種類の主題が登場し、それをピアノとオーケストラがそれぞれ発展させて行くというユ
ニークな形を取るフィナーレだ。ピアノによって出される愛らしい主題、オーケストラによる少し
陰のある主題など、それらが縦横に展開されて行く。
楽器編成
独奏ピアノ、
フルート2
(ピッコロ持替)、オーボエ2、
クラリネット2、バスーン2、ホルン4、
トラン
ペット2、ティンパニ、弦楽5部
はオーケストラに対抗して、時にはオーケストラの一部として、演奏し続けなければな
らない。1881年までかけてこの作品を完成し、その年の11月9日にブダペストで、
ブ
ラームス自身のピアノ、アレクサンダー・エルケルの指揮で初演された。その後ドイツ
圏の20もの都市で次々とこの曲が演奏された。
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下野竜也 シューマン&ブラームス プロジェクト② PROGRAM NOTE
定期演奏会
第3番
「ライン」
変ホ長調 op.97
(1810-1856) 初演:1851年 デュッセルドルフ
第1楽章
生き生きと : 変ホ長調 4分の3拍子
弾むような付点音符による第1主題から始まる。第2主題は木管楽器による、少し憂いを感じさ
せるメロディ。展開部の最後で、ホルンが第1主題を朗々と吹きならし、そこから再現部へと入っ
て行く。
ライン川流域の風景からインスピレーションを得た交響曲
第2楽章
スケルツォ
(中庸に): ハ長調 4分の3拍子
ロベルト・シューマン
(1810∼1856)
が長く活動していたのはドイツ東部の街ライ
主部の間に、
2つの違った中間部を持つ楽章。
スケルツォだが、いわゆる軽快で面白みのある感じ
プツィヒやドレスデンだった。
ドレスデンでは1849年に革命へ向けた動きが強まり、
ではなく、
むしろ穏やかさを感じさせるような楽章。
市内は混乱した。そのこともあり、1850年にシューマンはライン川流域の都市であ
第3楽章
速くなく : 変イ長調 4分の4拍子
るデュッセルドルフからの依頼を受けて、市の音楽監督に就任する
(ちなみに、
このド
木管楽器による柔らかい響きによる主題、弦楽器による上昇する音型などによって彩られる、静
レスデン革命の時にワーグナーは市民側にたって行動したために指名手配されるこ
かな楽章。
とになり、長い期間ドイツに戻る事が出来なくなった)。それまでの土地とは違い、河畔
に位置するデュッセルドルフの美しい風景、そしてライン川流域の豊かな自然などを
知ったシューマンは、創作意欲を取り戻す。そしてその時期に書かれたのが、
この交
響曲第3番「ライン」
であり、
チェロ協奏曲(1854年に楽譜出版)
であった。
さて、1850年9月にデュッセルドルフに移住したシューマンは、その9月のうちに、
ケルンまで足をのばしている。そしてケルン大聖堂の偉容に大きな感銘を受けた。
さ
第4楽章
下野竜也プロジェクト
シューマン:交響曲
荘厳に : 変ホ短調 4分の4拍子
前の楽章ではほぼ沈黙していた金管楽器が、
コラール風の長い主題を演奏する。
これを弦楽器も
引き取って演奏し、
さらに低弦部に別の主題が登場する。荘厳な儀式を思わせる音楽。
第5楽章
フィナーレ 生き生きと : 変ホ長調 2分の2拍子
弦楽器の明るい主題に金管楽器のファンファーレ風の楽想も加わって始まる。随所に金管楽器が
活躍する活発なフィナーレ。
らに11月にはケルン大司教の枢機卿への任命式を見学し、その時に第4楽章「荘厳
に」の音楽につながる霊感を得たと言われる。そして順調に作曲は進み、12月9日に
はスコアを完成させた。初演は1851年2月6日にデュッセルドルフで。
「ライン」のサ
ブタイトルはシューマン自身が付けたものではないが、その創作動機からもこの交響
楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、バスーン2、ホルン4、
トランペット2、
トロンボーン2、
バス・トロンボーン、ティンパニ、弦楽5部
曲がライン川流域の風景と深く関係しているのは確かだ。その後、
シューマンの精神
は次第に病んでいき、音楽監督としての仕事にも支障を来すようになって行く。そん
なシューマンとブラームスが出会うのは、1853年の9月のことである。
※初演情報 参考文献:クラシック音楽作品名辞典〈第3版〉井上和男[編] 三省堂
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