通話品質設計ガイドライン IP広帯域電話端末(ハンズフリー) CES-0010-1.0版 一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会 通信品質委員会 2011年 4月27日制定 目次 まえがき ................................................................................................................................. 1 1. 適用範囲 ...................................................................................................................... 2 1.1. 適用機種とハンズフリー通話品質端末分類 ..................................................... 2 1.2. インタフェース................................................................................................. 2 1.3. ガイドラインの考え方...................................................................................... 2 2. 引用規格 ...................................................................................................................... 3 3. 送話特性 ...................................................................................................................... 4 3.1. 送話ラウドネス定格(ガイドライン値) ..................................................... 4 3.2. 送話感度周波数特性(ガイドライン値) ........................................................ 4 3.3. 送話無通話時雑音(ガイドライン値) ............................................................ 5 3.4. 送話歪(検討中) ............................................................................................. 5 4. 受話特性 ...................................................................................................................... 6 4.1. 受話ラウドネス定格(ガイドライン値) ..................................................... 6 4.2. 受話感度周波数特性(ガイドライン値) ........................................................ 6 4.3. 受話無通話時雑音(ガイドライン値) ............................................................ 7 4.4. 受話歪(検討中) ............................................................................................. 7 4.5. 受話音量調整機能(検討中)........................................................................... 7 5. 受話から送話への回り込み ......................................................................................... 8 5.1. 荷重端末結合損失とTELR(ガイドライン値) .......................................... 8 5.2. エコーキャンセラーと非線形処理(検討中) ................................................. 8 6. ダブルトーク ガテゴライズ...................................................................................... 9 6.1. ダブルトーク時の送話挿入損失と受話挿入損失(ガイドライン参考値) ..... 9 6.2. ダブルトーク時のTELR(検討中) ............................................................ 9 6.3. その他のダブルトーク カテゴライズ(検討中) .......................................... 9 7. 周囲騒音特性 ............................................................................................................. 10 7.1. 周囲騒音中の送話挿入損失と受話挿入損失(検討中)................................. 10 7.2. その他の周囲騒音特性(検討中) ................................................................. 10 8. 端末遅延時間 ..............................................................................................................11 8.1. 網の負荷条件(ガイドライン参考値) ........................................................... 11 8.2. 端末遅延時間(ガイドライン参考値) ........................................................... 11 9. 通話品質特性 ............................................................................................................. 12 9.1. PESQ(参考値) ....................................................................................... 12 9.2. その他の通話品質指標(検討中) ................................................................. 12 あとがき ............................................................................................................................... 13 まえがき 〔ガイドライン制定の目的〕 情報通信ネットワーク産業協会通信品質委員会では、電話機通話品質標準規格として 20年ほど前にアナログ電話機を制定したのに始まり、その後コードレス電話機を制定し、 近年のIP化に先んじてIP電話端末を制定してきた。 これらはすべて音響インタフェースがハンドセットで規定されている。前年度、音響 インタフェースがマイク・スピーカである狭帯域ハンズフリーについてガイドラインを制 定したが、ハンズフリー端末は以前から開発販売されているが、音響信号処理技術の向上 によりハンズフリー性能のアップや通信形態や端末の多様化により、市場には多くの機種 が出始めている。 情報通信ネットワーク産業協会通信品質委員会では、通話品質設計ガイドラインとし てIP電話端末(ハンズフリー)を制定して、広帯域ハンズフリー端末通話品質の設計目 標を明確にして、市場の品質向上に貢献したい。 〔ガイドライン内容について〕 本ガイドラインは ITU-T勧告P.341を参考に作成している。音響インタフ ェースのマイク・スピーカのガイドラインはこれを流用した。従来のハンドセットと同様 に音響インタフェースと電気インタフェースにおけるガイドラインにした。 ガイドライン項目は、送話受話の特性と、IP電話における受話から送話への回りこ みと遅延時間、ハンズフリーのカテゴライズ(ダブルトークなど)、通話品質として音響測 定によるPESQをガイドラインとした。ダブルトークについては測定の難しさが伴う。 〔運用について〕 本ガイドラインは、設計や商品評価の一指針として使用していただきたい。 1 1. 適用範囲 1.1. 適用機種とハンズフリー通話品質端末分類 マイク・スピーカ(150~7000Hz帯域)で通話するIP電話端末に適用す る。マイク・スピーカは一体形でも分離型でもよい。通話機器は一体形端末でもPC ソフトホンでもゲートウエー形でもよい。通話形態は、端末をテーブル上に置き50 cm離れた位置で1人で通話する形を対象とする。大きなテーブルで端末から1m以 上離れて会議をする形態や、小形端末を手で持って数十cmで通話をする形態は含ま ない。多人数で会議をしたり、多地点をミキシングして会議をする形態は含まない。 1.2. インタフェース 音響インタフェースはマイク・スピーカとする。電気インタフェースはイーサーネ ットインタフェース(IEEE802.3)とし、標準コーデックでアナログに変換する。 音響 電気 インタフェース インタフェース マイク 送話 CODEC 信号 Ethernet 処理 インタフェース スピーカ ハンズフリー構成 1.3. ガイドラインの考え方 本ガイドライン値は製造のばらつきを含まない設計目標値である。 2 受話 2. 引用規格 本規格の元になった規格 ITU-T勧告P.341 ハンズフリー測定関連 ITU-T勧告P.340、P.501、P.502 通話品質関連 TTC標準JJ-201.01 エコー ITU-T勧告G.122、G.131 エコーキャンセラ ITU-T勧告G.165、P.167 ラウドネス定格 ITU-T勧告P.48、P.64、P79 ハンズフリー測定法 CIAJガイドラインCES-Q*** 2.1.IP パケット上のディジタル信号の過負荷および標準レベル 広帯域の音声符号化方式として、一般的に用いられている ITU-T 勧告 G.722 シリーズ では、過負荷点を+9dBm0、標準信号レベルをー15dBm0 とする。 狭帯域の標準的音声符号化である ITU-T 勧告 G.711 の拡張版 G.711.1 で、G.711 と同 じ過負荷点をとる方式では、過負荷点を+3.17dBm0、標準信号レベルをー15 dBm0 とする 3 3. 送話特性 3.1. 送話ラウドネス定格(ガイドライン値) 送話ラウドネス定格(SLR)は 9±4dB であること。測定方法はITU- T勧告P.341およびCIAJガイドラインCES-Q***による。送話音量設 定機能がある場合は推奨設定で測定する。 3.2. 送話感度周波数特性(ガイドライン値) 送話感度周波数特性は、表1および図1による。送話音量設定機能がある場合は推 奨設定で測定する。測定方法はITU-T勧告P.341およびCIAJガイドライ ンCES-Q***による。 表1および図1はマスクパターンを定義したものである。測定周波数ポイントは ISO1/3オクターブ帯域中心周波数とし、これらのポイントがマスクパターンに入っ てなければならない。マスクパターンはITU-Tを基本にしている。 表1 送話感度周波数特性 周波数(Hz) 上限(dB) 下限(dB) 100 4 125 4 7 200 4 4 1000 4 4 5000 - 4 6300 9 7 8000 9 4 送話感度周波数特性 15 10 5 感度(dB) 0 -5 -10 -15 100 1000 周波数(Hz) 10000 図1 送話感度周波数特性 3.3. 送話無通話時雑音(ガイドライン値) 送話無通話時雑音は、-68dBm0p以下であること。送話音量設定機能がある 場合は推奨設定で測定する。測定方法はITU-T勧告P.341およびCIAJガ イドラインCES-Q***による。ノイズキャンセラ、エコーキャンセラー、AG C等のノイズ低減機能はONにする。 3.4. 送話歪(検討中) 今後の検討事項とする。 5 4. 受話特性 4.1. 受話ラウドネス定格(ガイドライン値) 受話ラウドネス定格(RLR)は :2±4dB であること。受話音量設定機能のある場合は推奨設定にし、受話音量調整機能(受話 ボリウムコントロール)がある場合は公称位置にする。測定方法はITU-T勧告P. 341およびCIAJガイドラインCES-Q****による。 4.2. 受話感度周波数特性(ガイドライン値) 受話感度周波数特性は表2および図2による。受話音量設定機能のある場合は推奨 設定にし、受話音量調整機能がある場合は公称位置にする。測定方法はITU-T勧 告P.341およびCIAJガイドラインCES-Q****による。 表2および図2はマスクパターンを定義したものである。測定周波数ポイントは ISO1/3オクターブ帯域中心周波数とし、これらのポイントがマスクパターンに入っ てなければならない。マスクパターンはITU-Tを基本にしている。 表2 受話感度周波数特性 周波数(Hz) 上限(dB) 下限(dB) 100 6 160 6 –7 200 6 –4 250 6 –4 400 4 -4 1000 4 -4 5000 4 –4 6300 4 –7 8000 4 – 6 受話感度周波数特性 15 10 5 感度(dB) 0 -5 -10 -15 100 1000 周波数(Hz) 10000 図2 受話感度周波数特性 4.3. 受話無通話時雑音(ガイドライン値) 受話無通話時雑音は-49dBPa(A)以下であること。受話音量設定機能のあ る場合は推奨設定にし、受話音量調整機能がある場合は公称位置にする。測定方法は ITU-T勧告P.341およびCIAJガイドラインCES-Q***による。 ノイズキャンセラ、エコーキャンセラー、AGC等のノイズ低減機能はONにする。 4.4. 受話歪(検討中) 今後の検討事項とする。 4.5. 受話音量調整機能(検討中) 今後の検討事項とする。 7 5. 受話から送話への回り込み 送話者エコーを生ずる回り込みを送話者反響ラウドネス定格(TELR)で規定す る。 5.1. 荷重端末結合損失とTELR(ガイドライン値) ハンズフリー端末のエコーはスピーカからマイクへの音響結合で生ずる。この音響 結合量は、荷重端末結合損失(TCLw)で表される。送話および受話音量設定機能 のある場合は推奨設定にする。TCLwの測定法はITU-T勧告P.341および CIAJガイドラインCES-Q***による。 TELRはTCLwとSLR、RLRの総和である。 TELR=TCLw+SLR+RLR TELRは、受話音量調整機能の公称位置において :63dB 以上 であること。 SLRとRLRが標準の場合TCLwは 52dB以上必要である。 受話音量調整機能を最大にした場合に 46dB 以上であること。SLRとRLRが 標準の場合TCLwは35dB以上必要である。 5.2. エコーキャンセラーと非線形処理(検討中) ハンズフリー端末のエコーを生じないようにボイススイッチやエコーキャンセラー に非線形処理を使用している。シングルトークの場合は十分なエコー抑圧が動作する が、ダブルトークや周囲騒音の場合は十分なエコー抑圧が動作しない場合がある。ダ ブルトーク時のTELRの規定については 6.項 でも述べている。騒音中での送 話挿入損失と受話挿入損失の規定については 7.項 でも述べている。 これらの規定は今後の検討事項とする。 8 6. ダブルトーク ガテゴライズ 送話と受話を同時に行う(ダブルトーク)場合のダブルトーク性能として各種評価 指標を挙げてダブルトークカテゴライズを規定する。 6.1. ダブルトーク時の送話挿入損失と受話挿入損失(ガイドライン参考値) 送話挿入損失と受話挿入損失の値により、ダブルトークの性能を規定する。ITU -T勧告P.340では、送話挿入損失と受話挿入損失のダブルトークカテゴライズ として表3のように分けている。 表3 ダブルトークカテゴライズ ダブルトーク 説明 送話挿入損失 受話挿入損失 3dB以下 3dB以下 3~6dB 3~5dB 6~9dB 5~8dB 9~12dB 8~10dB 12dB以上 10dB以上 カテゴライズ 1 完全双方向 2a 2b 部分的に双方向 2c 3 双方向ではない 表3のカテゴライズ以外の設計値も考えられるので、送話挿入損失と受話挿入損失 を別々にダブルトークカテゴライズ1、2a、2b、2c、3のいずれかを採用する。 測定方法はITU-T勧告P.340、P.502およびCIAJガイドラインCE S-Q***M-1による。このガイドラインについては参考値とする。 6.2. ダブルトーク時のTELR(検討中) ITU-Tではダブルトークカテゴライズとしてダブルトーク時のTELRを挙げ ている。この項目については今後の検討事項とする。 6.3. その他のダブルトーク カテゴライズ(検討中) ダブルトーク性能を評価する指標にはその他に、反響特性やスイッチング特性など が挙げられるがこれらは今後の検討事項とする。 9 7. 周囲騒音特性 ハンズフリーの性能は周囲騒音によって劣化する。周囲騒音に対する各種評価指標 を挙げて周囲騒音特性を規定する。 7.1. 周囲騒音中の送話挿入損失と受話挿入損失(検討中) 周囲騒音によって送話挿入損失と受話挿入損失は劣化する。この規定については今 後の検討事項とする。 7.2. その他の周囲騒音特性(検討中) 周囲騒音特性を評価する指標はその他に、周囲騒音伝達特性やスイッチング特性な どが挙げられるが、これらの項目は今後の検討事項とする。 10 8. 端末遅延時間 会話を支障なく行える音声通話エンド-エンド遅延時間は150msecと言われ ている。VoIPではIPネットワークのジッタを吸収するために受話系にバッファ を持っており、端末の遅延時間は受話に多く配分される。 8.1. 網の負荷条件(ガイドライン参考値) 端末の遅延時間を規定する場合に、ネットワークの負荷条件を設定する必要がある。 表3に、ネットワークの負荷が無い場合と、次世代ネットワーク推進フォーラムで提 案された負荷条件を示す。 表3 ネットワーク負荷条件 IP網負荷条件 負荷要因 0 平均遅延時間 T(ms) 0 最小遅延時間 Ta(ms) 0 67.1 遅延時間ゆらぎΔT の最大値 Δtmax (ms) 0 20 遅延時間ゆらぎ平均値Δtave(ms) 0 2.9 パケット損失率 Ppl(%) 0 0.1 NGN 70 遅延時間揺らぎとは、網の瞬時的な遅延時間が Ta から Ta+ΔT まで変化することを いう。ΔT の生起確率は指数分布とする。ΔT がパケット送出周期より大きい場合はパ ケットの入れ替わりが発生する。遅延時間ゆらぎΔT の最大値Δtmax までの発生確率は 99.9%とする。 Ppl の生起確率は一様分布(ランダム損失)とする。バースト損失については、今後 の検討事項とする。 8.2. 端末遅延時間(ガイドライン参考値) 端末遅延時間とは、表3の IP 網負荷を与えた時の End-to-End 平均遅延時間から、 IP 網の平均遅延時間を差し引いた時間をいう。端末遅延時間にゆらぎ(変動)がある 場合は平均値を取る。 端末の送話遅延時間は 35msec以下とする。 端末の受話遅延時間は 65msec以下とする。 このガイドラインについては参考値とする。 11 9. 通話品質特性 通話品質を規定する指標として主観評価である会話MOSが基本であるが、ハンド セット通話ではR値やPESQが客観評価指標として用いられている。ハンズフリー 通話における通話品質を客観評価指標として規定する。 9.1. Wideband-PESQ(参考値) シングルトークにおけるエンド-エンド通話品質を、音響入出力測定において規定 する。網の負荷条件は 8.1.項 とした時のWideband-PESQ値は3. 5以上であること。このガイドラインは参考値とする。 9.2. その他の通話品質指標(検討中) ダブルトーク時や周囲騒音中における通話品質指標や、R値などの通話品質指標に ついては今後の検討事項とする。 追補 本ガイドラインは、市場調査等を実施していないため、ITU-T P.341 をベースに したが、TIA や ETSI にも広帯域ハンズフリーの規定は存在する。 TIA や ETSI は、日本が制定に参加していないこともあり、今回引用していない。 今後の課題とし、市場調査を含め、部品調達性やコストアップと海外輸出仕様等を考 慮して、実現性を考慮した規定値の検討を行っていく必要がある。 12 あとがき 本規格の作成に携わった通信品質委員会WGのメンバーは以下のとおりである。 委員長 関口 愼一 富士通(株) 規格検討 WG 主査 内藤 伸二 (株)ナカヨ通信機 委員 須田 一哉 岩崎通信機(株) 〃 関口 愼一 富士通(株) 〃 柴田 智久 (株)東芝 〃 加藤 和美 NTT アドバンステクノロジー(株) 〃 刑部 勝一 ヤマハ(株) 〃 山田 裕一 ヤマハ(株) 〃 酒井 利幸 (株)ネイクス 〃 友部 匡治 NEC インフロンティア(株) 〃 渡辺 克彦 (株)OKI ネットワークス 〃 木村 邦彦 サクサ(株) 〃 井原 康介 シャープ(株) 〃 上居 忍 シャープ(株) 〃 伊藤 清和 三菱電機(株) 〃 小野寺 正浩 (株)日立コミュニケーションテクノロジー 〃 鴨頭 義正 岩崎通信機(株) オブザーバー 安田 実 西日本電信電話(株) オブザーバー 横田 強 西日本電信電話(株) オブザーバー 岡本 学 日本電信電話(株)NTT サイバースペース研究所 事務局 一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会 樋口 忠宏 13
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