雪の諸量の自動計測システム ―特に積雪循環曲線について

雪の諸量の自動計測システム
―特に積雪循環曲線についてー
小林 俊一 1) ・石丸民之永 2)・加藤務 2)・丸山敏介 2) ・佐藤 篤司 3)
1. はじめに
雪氷観測測器の中、「積雪深」の自動測定は比較的数多
く開発されて市販されている。しかし、「積雪重量計」に
ついては、現在、メタルウエファ式のものが市販されて主
に研究用に利用されているに過ぎない。特に、積雪観測の
自動計測の中では、重量と深さを同時測定して表す「積雪
循環曲線」をモニターリングすることが重要である。そし
て、「積雪循環曲線」を細密化して種々の雪氷現象を解明
するために、一般の気象測器の他、「雨・雪判別計」、「降
雪強度計」、「融雪量計(ライシメーター)」、「Web カ
メラ」などを加えて総合雪氷観測を行い電話回線によって
データを転送すれば、中山間地における豪雪地帯の雪氷計
測が自動化されて将来の雪資源の動向を見積もることがで
きる。本報告では、構築したシステムと最近の豪雪地での
測定例を紹介する。
図1 長岡市田代(←地点)の位置図
2.観測場所と装置の設置状況
観測は新潟県の長岡市や魚沼市などの中山間地の数点で
図3には積雪重量計が地面に設置されている状況の
行われた。その場所の位置を図1の●に示した。その中で
写真を示した。平成 17 年 12 月から平成 18 年 2 月にかけ
栃尾市田代(標高 423m)の測定例を紹介する。
て日本海側を中心に記録的な大雪は、気象庁は「平成 18
用いた測器が 2 本の支柱に設置された状況を図2に示す。
年豪雪」と呼んだ。過去大雪に名前がついたのは、1963
この地域は通常4m近くの積雪が記録され、民家も存在す
年の「昭和三十八年一月豪雪」だけで、43年ぶりのこと
る豪雪地帯である。従って、高い支柱は 10mの高さがあり、
であった。雪害による死者は全国で 151 人(戦後第 3 位)
地上3m以上からトランスや収納盤が取り付けられ、その
となり、そのうち高齢者が全体の2/3であった。原因は雪
上から各種の測器を取り付けてある。最上部には定額契約
処理中が3/4を占めた。ここ田代も中山間地の高齢者地域
の電力線(100V)が来ており、その下に ADSL 契約の電
といえる地帯である。平成 16 年 10 月に襲った中越地震と
話線が配線されている。また WEB カメラを取り付けてあ
それに続く大雪のためにこの地域でも長岡市や栃尾市の市
るので、照明用の投光器も設置されている。支柱には風速・
街地へ避難して越冬する家族も多かったと聞いている。こ
風向計、温湿度計、アルべードメーター、雨雪量計、降雪
のような地域での無人で自動記録される積雪状況が刻々と
センサー、積雪深計が取り付けてあり、地面には積雪重量
送られてきてデータが住民に公開されることは、いろいろ
計や融雪量計(ライシメーター)が設置されている。支柱
な面で大切なことである。
には、雷被害を避けるために第三種接地もなされている。
WEB カメラを備えてあることにより、現地の天気状態
が把握でき、
現地に頻繁に保守点検に出かける必要もなく、
信頼できるデータが得られる。
__________________________
1)新潟大学名誉教授
2)新潟電機株式会社
3)防災科学技術研究所・雪氷防災研究センター長
3 ,000
側面図
電力線AC100V (定額契約 )
インターネット
観測点
(柱間より主柱を見る)
AC100V
電話線引込 (ADSL契約 )
投光器
防雨WEBカメラケース
アルベドメーター
風向計
固定Webカ メラ
風速計
外灯
投光器
防雨WEBカ メラケース
FTP転送
Webカメラ
閲覧
監視局
温湿度計
積雪深計
積雪深計
雨雪量計
携帯電話
降雪センサー
1 0 ,0 0 0
機器収納箱
収納盤
収納盤
耐雷 トランス
足場用目皿
梯子(4m)
パソコン
インターネットサービスプロパイダー
ホームページサーバー
耐雷 トランス
図4 データ・画像の転送システム
3 ,0 0 0
梯子 (4m)
次に、田代における平成 18 年豪雪の積雪深と積雪重量
のデータを図5に示す。
第三種接地
2005~2006 長岡市田代 積雪深・積雪重量
根枷
積雪深
積雪重量
500
2500
400
2000
300
1500
200
1000
100
500
雪面模様・出現
5 / 20
5 / 10
4 / 30
4 / 20
4 / 10
3 / 31
3 / 21
3/ 1
3 / 11
2/ 9
2 / 19
1 / 30
1 / 20
1 / 10
1 2 /3 1
1 2 /2 1
1 2 /1
0
1 2 /1 1
0
図5 平成 18 年豪雪の田代における積雪深・重量
図3 積雪重量計の設地写真
図の中の2つの曲線で上が積雪深で下が積雪重量である。
また、
融雪期の末期に雪面模様が出現と表現されているが、
3.田代における積雪深と積雪重量の測定例
このことについては後のほうで写真などを示して記述する。
田代における 10 分間隔(変更可能)の測定データは、
積雪深と積雪重量は概ね変化は対応しているが、細かいと
図4で示されたように常設接続回線を用いてインター
ころで対応していない点もある。即ち積雪深が減少してい
ネットに接続しており、観測点のパソコンに保存する。保
ても積雪重量が減らないなどである。このような時には、
存したデータ・画像を観測点のパソコンからも一定時間毎
降雨があった時である。また、短い時間で対応しないこと
にホームページへアップロードすることにより、これらの
もあるが、このような時は積雪中の融雪水の複雑な水平移
データは、いつでもどこからでもパソコンや携帯電話等で
動が考えられる(竹内他、2006)。このような融雪現象は、
手軽に閲覧することができる。更に、WEB カメラは登録
積雪深と積雪重量によって描かれる「積雪循環曲線」で調
者であれば、パソコン・携帯電話から方向・ズームなどの
べるとよく分かる。本報告ではそのような解析は行わない
操作ができる。
で、次に「積雪循環曲線」について述べる。
積 雪 重 量 (kg/ ㎡ )
積 雪 深 (c m )
図2 田代における測器の取り付け図
4.積雪循環曲線
5.融雪時の雪面に現れた模様
積雪循環曲線は、
1950 年に山形県新庄市で開催された日
図7と図8で紹介する雪面模様は 2006 年 4 月 28 日頃積
本雪氷学会で大沼匡之氏によって提案された。当時、予稿
雪表面に現れて 5 月 10 日に消えた。図5の融雪期末期に
集が発行されていなかったので文献はない(大沼氏談)。
出現したものである。積雪が消滅したのは 5 月 19 日であ
積雪循環曲線は、積雪深と積雪重量の値を積雪の初めか
る。一つの模様の直径は役10cm位である。
ら終わりまで一枚のグラフ上に描いたものである。自動計
測が発達していなかった頃は雪尺とスノーサンプラーの一
日一回、定時刻の読みで表した。現在では、自動計測によ
り、毎分一回の値でも表現できるが、毎時の値で表すのが
実用的と考える。図6には長岡市田代における平成 18 年
豪雪の1時間データ値を用いて積雪循環曲線を表した。
図7 2006 年 4 月 29 日の雪面模様
図6 田代における平成 18 年豪雪時の循環曲線図
図中の斜め線は積雪層の平均密度(単位:g/cm3)を表
図8 2006 年 5 月 2 日の雪面模様
している。積雪期と融雪期の変化は単純増加、単純減少を
図7の右上と図8の上の部分は地形が緩い斜面であった
表しているがその中間は降雪・融雪・降雨が加わり変化が
ので雪面模様も細長くできている。2005 年の 4 月 13 日の
激しい。この変化を拡大して雪崩や融雪災害と対応させて
Web カメラの画像にもこのような模様が確認され、15 日
調べることも行われている
(小林他、
2000;平島他、
2005)
。
に消滅した。この冬は、4 月 26 日にも現れ 29 日に消滅し
本報告では、自動記録装置で4mを超える豪雪地帯で記
た。更に、5 月 9 日に現れ、12 日に消滅し積雪は 18 日に
録が取れたことを紹介するのが目的であるので細かい解析
終わった。2006 年に比べて短い出現期間で 3 回現れたこ
は、別の機会に行いたい。このような記録は 2004∼2005
とが 2006 年の融雪期と異なっている。竹内他(2006)は、
年の大雪の時も観測に成功した(小林他、2005)。そこで
3 月 13 日と 19 日に、積雪重量変化と降水量のデータから
は、降雨による積雪層の中の水の動きを示す積雪循環曲線
積雪の中で水の水平移動が新潟県の十日町、大芋川、田代
の部分拡大図が事例報告されている。今回は Web カメラ
で大きかったことを報告しているので、田代で現れたこの
から顕著な融雪の雪面模様が撮られたので次に紹介したい。
ような雪面模様は竹内の報告した時期に積雪の中で作られ
その模様が何時生成されたのかはまだ確定されていない。
て、その後雪面に現れたと考えられる。今後、この冬にこ
というのは積雪の中で降雨時に生成され保存されたものが、
のような模様が現れたら、現地に行って積雪断面観測を行
融雪が進んで表面に現れたと見るからである。いわゆる積
うことを計画している。特に少し複雑地形の中山間地の豪
雪中の「水路(みずみち)」が表面に露出したものらしい。
雪地帯では、積雪の中の降雨や融雪水の、水の動きは複雑
であることが予想されたのでここに紹介した。
6.あとがき
本報告では、積雪深と積雪重量で表される「積雪循環曲
線」について紹介し、その他のデータは示さなかった。そ
れは特に、積雪重量の自動記録が現在では難しいことと、
今後、山間部において積雪重量のデータが重要になってく
ることを強調しておきたかったからである。現在、山間部
の積雪重量を含む自動計測(ロガーによる記録を含む)は
防災科学技術研究所で続けられているに過ぎない。わが国
の長期的水資源の行方を予測するためには、更に観測点を
増やしてデータを蓄積したいものである。ただしこのよう
な観測は困難が伴うものである。出来るだけ自動計測を主
体とした雪氷観測システムを中山間地に、温暖化の動向を
占うためにも普及させたい。
参考文献
平島寛行・山口悟・西村浩一・岩本勉之・中井専人・佐藤
篤司(2005):積雪循環曲線からみた中越地震後の
雪氷災害.2005 年度日本雪氷学会全国大会講演予稿集、
171.
小林俊一・和泉薫・河島克久・藤井俊茂・佐藤篤司・阿部
修・石丸民之永・加藤務・丸山敏介(2000):積雪循環
曲線の精密化とその融雪災害予測. 寒地技術論文・報告
集、16 巻、112−119.
小林俊一・石丸民之永・丸山敏介・佐藤篤司・山口悟
(2005):積雪循環曲線の自動記録とその意義.寒地技
術論文・報告集、21 巻、759−763.
竹内由香里・山口悟・丸山敏介・村上茂樹・庭野昭二
(2006)
:
積雪重量計のデータによる融雪水の水平移動に関する考
察.雪氷北信越、26号、60.