資産運用のプロフェッショナリズムについて(エッセイ)

2013年5月22日
エッセイ
資産運用のプロフェッショナリズムについて
山本 誠一郎
代表取締役社長
いままで、「自分年金」作りのための王道について述べ
てきた。第一に、自分の人的資本の特性を理解するこ
と。第二に、自分の人生における価値観を知ること。第三
に、金融リテラシーを向上させること。そして、本稿では
資産運用会社を活用することの意義について触れた
い。
そもそも資産運用で成功を収めるための秘訣とは何
か。実は、おとぎ話のように古典的かつ普遍的な話なの
である。つまり、慢心は禁物で、「うさぎとかめの寓話」の
ように、目の前のこと(うさぎ)を気にせず、ゴール(自分の
目標)を見据え、謙虚な姿勢でこつこつ地道に続けるこ
とこそが王道である。しかしながら、投資の世界は「言う
は易し、行うは難し」である。そこでプロフェッショナルを
活用するメリットが数多くある。
では資産運用のプロフェッショナルとは何か。プロフェッ
ショナルの定義をめぐって、米国では最高裁まで争わ
れた例があるくらい明確に定められている。つまり、「プロ
フェッショナルとは、ある学問体系に裏付けられた高度
な技能を、倫理観をもって、依頼主のために活用し、問
題解決を図ることで報酬を得る人」という定義になって
いる。ここで、重要なポイントは「顧客のため」、「倫理観を
もつ」ことこそがプロフェッショナルの条件なのである。こ
の点において、ただ専門性を持っているだけのスペシャ
リストとは決定的に異なる。換言すれば、プロフェッショ
ナルとはフィデューシャリーの体現者ということがいえよ
う。
プロフェッショナルとは、もっと抽象度をあげて平たく言
えば、「努力を続けることが生活の一部になっている職
業」ともいえるだろう。脳科学者によれば、人間は好きな
ことをしているときに一番アドレナリンが放出されるとい
う。脳が興奮するもの、幸福感で満たされるものをいかに
見つけるかで、その人の人生が豊かになるかどうかが決
まるといわれている。ベストセラーの『国家の品格』の著
者で知られる藤原正彦教授は、週末に椅子にゆったり
すわり、コーヒーを飲みながら、難しい数学の問題を一
日中考えることが、「至福のひと時」だという。問題の難易
度が高ければ高いほど、わくわくするという。それこそよ
だれがたれるほど楽しくて、楽しくて仕方がないという。イ
チロー選手は「バットの先端まで体の神経が通ってい
る」という。道具が体の一部になるまでに、どれだけの鍛
錬を積んでいるのか。何千回、何万回バットを振ればそ
ういう域に達するのか。バイオリニストの千住真理子さん
は、バイオリンを寝床にも置くし、トイレに入る際にも持参
するという。まさにプロにとって道具は生活の一部、体の
一部、心の一部なのである。
一流のプロになるまでには最低でも1万時間の鍛錬の
時間が必要といわれている。いわゆる「1万時間の法則」
である。分野にかかわらず、修行を始めてから、ティッピ
ング・ポイント(閾値)に達し、その道のプロといわれるま
でには最低1万時間、つまり、計算上は、1日3時間の練
習を休みなく毎日行って丸10年の年月を要することに
なる。寸暇を惜しんで一つのことに集中し、10年かかっ
てようやく一人前である。あの天才といわれたビートルズ
でも、早熟といわれたモーツァルトでさえも実は売れな
い時代、下積み時代が長く、一流と認められるのにやは
り10年かかったといわれている。最近では、卓球の福原
愛選手がロンドン五輪で銀メダルを獲得した際、「卓球
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を始めて20年でようやくメダルをとれました。」と笑顔で
語っていたことが記憶に新しい。
『敗者のゲーム』の著者で知られるチャールズ・エリス氏
の言葉を借りれば、「プロのファンド・マネジャーはオリン
ピックに出場するくらいの日々猛烈な鍛錬をしている
人」なのである。資産運用会社のプロの運用担当者
(ポートフォリオ・マネジャーとアナリスト)は、それこそ知
的好奇心の塊である。アスリートがオリンピックでメダル
をとるのに費やす年月と努力を、知的に肉体的に精神
的に鍛錬していると想像してもよいだろう。まず、例外な
く、分析すること、物事を論理立てて考えること、数字を
読むことが大好きである。さらに、極めて強靭な精神力
が要求されるので、日常から心身を鍛えている。しかも、
個人ではなく、チームで議論しながら「顧客のために」成
果を追求している。
我田引水で恐縮ながら、アライアンス・バーンスタインの
運用担当者とアナリストの例をご紹介しよう。
ある日、ニューヨークから運用担当者が出張で来日し
た。彼は、常日頃「価格を正当化できるか否か」という視
点で物事を考えることが習慣になっている。日本のホテ
ルにチェックインするやいなや、必ず行うことがある。そ
れは、飲料水を購入することである。ホテルの部屋の飲
み物を決して口にすることはない。ただし、貴重な時間と
労力までかけて水の買出しのため遠方までいくこともな
い。ホテル内のミニショップ、あるいは近くのコンビニ、あ
るいは会議の合間のついでに自動販売機で調達する。
これは彼にとって、歯磨きをすることと同様の日常的な
行動なのである。その価格が価値との比較で正当化で
きないものには、生活日常品でも決して「投資しない」の
である。
アナリストのエピソードもご紹介しよう。ある時、アナリスト
たちと食事をしていたら、いきなり議論になった。「日本
人は1人当たり1日小麦をどれだけ消費するのだろう
か?」。普通、酒席でいきなりこのような話題になったら、
場がしらけるだろう。ところが、アナリストたちにとってはこ
のような話題は「至福のひと時」でむしろお酒が美味しく
すすむのである。「まず仮説を立てる必要があるね」「小
麦の定義も明確にしなくては」「食パンはわかりやすい
が、菓子パンの中に含まれている他の素材をどうやって
考慮するのだろう?」「それはいい視点だね」などと延々
と続く。そして「いいヒントももらった」といって、オフィスに
戻ってリサーチを行う。アナリストとは、こういったことを毎
日24時間、365日考えることが楽しくて、楽しくて仕方が
ない人達と考えてよいであろう。
資産運用会社はこのようなプロの人達で構成されてい
る組織であると考える。資産運用会社を活用することと
は、このようなプロフェッショナリズムを活用することと同
義である。謙虚に申し上げれば、そのようなプロ集団で
も常時、いかなる相場環境でもベンチマークに勝つの
は難しいといわれている。ましてや、資産運用の素人が
プロと同じ土俵で勝負することがいかに困難であるかを
説明するのに多くの言葉を要しないであろう。
アライアンス・バーンスタイン株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
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http://www.alliancebernstein.com
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