鑑賞教育方法としての美術感想文の可能性(2)

鑑賞教育方法としての美術感想文の可能性(2)
―質問法による解釈の事例―
新井
義史
北海道教育大学釧路校
美術教育講座
Possibility of the Fine Arts Book Report
as the Appreciation Educational Method (2)
― The example of the interpretation using the question method―
ARAI
Yoshifumi
Department of Art Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education
概要
「読書感想文」は,かねてから学校教育の一環として盛んに行われてきた.しかし,美術作品をもとに感
想を記述する活動は,これまでほとんど行われてはこなかった.筆者は,美術作品を見て記述した感想文を
「美術感想文」と呼び,その方法を演習や課題に組み込んで実践してきた.
前稿では「自由記述」による感想文を分析した.本稿では,シャガール「誕生日」および,クレー「パル
ナ ッ ソ ス 山 へ 」 の 2 種 類 の 絵 画 を 鑑 賞 対 象 と し ,「 質 問 法 」 を 取 り 入 れ た 感 想 文 の 分 析 結 果 を 報 告 し た .
結果に関しては,2作品に対する学生の記述内容を分類・要約して一覧表にまとめる形で整理した.シャ
ガール作品については,疑問とその解明内容および記述スタイル等について検討した.クレー作品では,絵
画情報のみによる解釈と,文献資料を参考にした場合の解釈の相違等について論じた.まとめでは,美術感
想文における質問法の扱い方と,感想文を教育活動に活用することの効用に関する意見を述べた.
1,はじめに
た ( 註 1 ).
今回は,
「 質 問 法 」を 取 り 入 れ た 感 想 文 の 分 析 結
前稿では,ミロおよびワイエスの2作家の代表
果 を 報 告 し た い .「 質 問 法 」 を 用 い た 課 題 は ,「 自
作 に つ い て ,「 自 由 記 述 法 」 に よ っ て 記 述 さ れ た ,
由記述法」による2種類の感想文課題に続くプロ
学 生 の 感 想 文 の 内 容 に つ い て 検 討 し た .そ こ で は ,
グラムとして筆者が実施しているものである(註
感想文の内容を「文」の単位に分解し,感想内容
2 ).
のタイプ別,および文章表現の傾向を分類整理し
教育活動の面から言えば,前回の2課題では,
作品を「じっくり観る」姿勢を持たせる点にウエ
直な連想によって解釈可能な作品であり,幅広い
イトを置くものであった.今回の課題では,それ
年齢や鑑賞レベルの異なる者であっても相応の解
を一歩進めて次の4点にポイントを置いた.
釈が可能だろう.
「疑問の発見」
「主観的解釈」
「客観的解釈」
B:クレー「パルナッソス山へ」
パウル・クレーは,ピカソやマティス,ミロと
「資料による理解」
並ぶモダニズム絵画の創始者の一人である.自由
いずれもが鑑賞教育における重要な観点であり,
で素朴な子供の表現活動をベースに置いた実験絵
これらに関連する質問を行った.
本稿は,この質問に対する学生たちの多様な発
言や解釈を整理して報告するものである.
画に取り組んだことで知られている.
「パルナッソス山へ」の作品は,一見すると自
然の情景を半具象的に描いたものと見えながら,
実のところは,音楽に造詣が深いクレーが,音楽
2,調査方法
文法を絵画表現に転用した実験的な作品である.
純粋な抽象作品を正しく解釈しうるにはある程
(1)課 題 の 内 容
度の予備知識が必要である.しかしクレーのよう
指定した2枚の絵画のカラー図版を与え,次のよ
な具象形体のイメージを残しているスタイルの半
うな課題を課した.
具象作品は,抽象作品理解の入門期のレッスンに
A : シ ャ ガ ー ル 「 誕 生 日 」( 図 1)
①
自由な感想を記述する
②
疑問点をいくつか挙げ自分なり
に解明してみる.
B : ク レ ー 「 パ ル ナ ッ ソ ス 山 へ 」( 図 2 )
適した作品といえよう.
(4)文 章 の 記 述 方 法
今回の2種類の課題では,幾つかの質問に文章
で答えさせるスタイルをとった.したがってそれ
①
何を描いたものだろう.
は,
「 感 想 文 」と 言 う よ り も「 質 問 へ の 回 答 文 」と
②
なぜこのような描き方をしたのだ
呼ぶ方が正しいのだろう.
ろう
③
クレーはどのような人だろう.
(2)調 査 日 時 お よ び 対 象 者 な ど
前稿を参照されたい.
一般的に感想文といえば,各個人が自由な立場
で記述したものを指すだろう.それに対して,質
問に答えさせることは,意識を意図的に誘導する
ことになる.したがって,その場合には,感想文
(3)感 想 文 の 素 材
とは異なるものではあるが,便宜上それらも「美
A:シャガール「誕生日」
術感想文」と呼ぶことにしたい.
シャガールの作品は我が国において最も人気が
今回提示した2作品は,もともと疑問点を生じ
高いもののひとつである.描かれている内容は,
させやすい内容を持つ絵画を選定したつもりであ
夢幻的なイメージを持ち情緒に訴えかけるもので
る.
ある.また,華麗な色彩を持ち,平面化されたモ
ダンな手法を用いている.
今回,題材に採りあげた作品は「誕生日」と名
いずれの感想文も,授業時間外の各自の自由時
間 を 使 い 記 述 さ せ た . 記 述 す る 分 量 は 800 ~
1200 字 程 度 と し た .
付けられた,シャガールの代表作とも呼びうるも
のである.この作品の内容には,スラブ人として
(5)質 問 内 容 に つ い て
の民族的要因は含まれているものの,謎めいた象
1)シャガール作品
徴はほとんど描かれてはいない.したがって,素
シャガール作品では,
「疑問点をいくつか挙げ自
分なりに解明してみる」という課題を設定した.
「④それ以外の内容に関する疑問」
自分が感じた「疑問点」を幾つか採りあげて,自
ら が 答 え る と い う 内 容 で あ る .そ れ は ,
「自問自答」
①男性に関する疑問
を さ ら に 一 歩 進 め た ,解 明 の た め の 活 動 と い え る .
a.な ぜ 宙 に 浮 い て い る の か
2)クレー作品
b.な ぜ 腕 が 無 い の か
クレー「パルナッソス山へ」の場合には,明確
c.な ぜ 首 と 体 が 違 う 方 向 を 向 い て い る の か
な課題(疑問)を3点設定した.
d.な ぜ 体 が 曲 が っ て い る の か
「①何を描いたものだろう」は,作品のテーマは
e.な ぜ こ ん な に 首 が 長 い の か
何かを問うものである.
「②なぜこのような描き方をしたのだろう」は,
クレーが特殊な表現手法を選択した理由を聞
いている.
「③クレーはどのような人だろう」は,作者クレ
ーの人柄を尋ねたつもりである.
f.な ぜ 顔 色 が 悪 い の か
g.目 が 無 い よ う に 見 え る
②女性に関する疑問
h.な ぜ 驚 い た 表 情 を し て い る の か
i.目 を 見 開 い て い る の は な ぜ か
j.足 が 浮 か び あ が り そ う
k.前 方 に 転 び そ う
3,結果
l.片 腕 が な い
(1) シ ャ ガ ー ル 「 誕 生 日 」
m.服 が 背 景 に と け 込 ん で い る
44 名 か ら の 回 答 が あ っ た .疑 問 お よ び そ の 解 明
③室内表現に関する疑問
を 抜 き 出 し て 「 表 1」 に て 示 し た ,
n.部 屋 が ゆ が ん で い る
(2) ク レ ー 「 パ ル ナ ッ ソ ス 山 へ 」
o.二 人 の 陰 が な い
46 名 か ら の 回 答 が あ っ た .3 つ の 質 問 へ の 回 答
p.部 屋 が 平 面 的 だ ・ 遠 近 感 が な い
を個人別に要約して「表2」にて示した,
q.テ ー ブ ル が 傾 い て い る
表の左列の数字は,課題提出者の各個人を示す.
r.椅 子 が 不 自 然
また,グレーの網掛け部分は,学生たちが何らか
s.テ ー ブ ル 上 の コ ッ プ と 皿 の 見 え 方 が 変 だ
の「文献資料」を調べた上で記載した内容である
t.床 と 壁 の 境 界 が 適 当
ことを示している.
④それ以外の内容に関する疑問
u.ど ち ら の 誕 生 日 な の か ?
4,結果の分析
v.な ぜ タ イ ト ル が 誕 生 日 な の か ?
w.壁 の 布 は な ぜ こ ん な に 細 か く 描 き 込 ん で あ
(1) シ ャ ガ ー ル 「 誕 生 日 」
1)疑問の種類
表 1 に は ,「 誕 生 日 」 の 作 品 か ら 生 じ た 「 疑 問 」
とその「解明」を一覧で示した.或る一枚の作品
るのか
x.口 か ら 人 が 出 て い る
y.二 人 の 関 係 は ?
z.昼 か 夜 か ?
に関して生じる疑問というものは,限りなくある
わけではない.今回の「疑問」内容は,以下の4
種類に大別することが可能であった.
2)解明内容
a) 男 の 姿 の 解 明
シャガール作品の鑑賞では,多くの者が常識的
「①男性に関する疑問」
な思考を超越した表現に対する驚きを表明し,さ
「②女性に関する疑問」
らに子供が描いたような素朴で平面的な描画手法
「③室内表現に関する疑問」
への疑念を記述した.
とによって感情を鑑賞者に解らせている
今 回 の 課 題 内 容 で は ,初 め に「 感 想 」を 記 述 し ,
と思います.
その後「疑問とその解明」を記述させた.したが
って学生は初めに10行程度の「感想」を記述し
ⅳ) 男性の喜びに浮き浮きした感情表現である
ているのであるが,そこではほぼ全員が作品から
このふわふわ浮遊した状態はまさしく日
受けた印象を,
「奇妙」
「不思議」
「不可解」
「変な」
本 で 言 う 嬉 し く て「 天 に も 昇 る 気 持 ち 」
「地
「 不 気 味 」「 非 現 実 的 」「 気 味 悪 い 」「 驚 い た 」「 幻
に 足 が 着 か な い 」気 持 ち を 表 し て い る の で
想的」のように表現している.
し ょ う .自 分 の 誕 生 日 に 花 束 を 持 っ て 彼 女
が来てくれて嬉しくて舞い上がってキス
中でも,男性の体勢が尋常なものでないことに
してしまったという場面です.
関しては,ほとんど全員が指摘していた.この男
性は実は作者であるシャガール自身が描かれたも
の で あ る が ,次 の よ う な 異 様 な 姿 で 描 か れ て い る .
ⅰ)~ⅳ)までの4種類の解釈のうち,ⅰ)に
「青白い顔色の青年は,腕もなく軟体動物のよ
類する記述をした者が最も多かった.いずれの解
うな体つきで浮かび上がり,長い首を大きく曲げ
釈もそれなりの合理性を備えており間違いとは言
て女性にキスしている」
えない.しかし,絵の中に描かれている女性「ベ
しかし,なぜシャガールが男性をこのように描
ラ」本人の説明を参照すると,2 人は喜びにより
いたのかという理由に関しては,学生たちからは
浮遊し,窓から外に出ようとする場面であるとさ
異なる解釈がなされていた.以下,解釈の例をあ
れる.したがって,4 つの解釈の中では「ⅳ」の
げてみる.
解 釈 が 最 も 近 い も の で あ る ( 註 3 ).
ⅰ) 「幽霊説」男性は死人であり霊としてそこに
b) 室 内 表 現 の 解 明
現れた場面
シ ャ ガ ー ル の 描 き 方 は ,パ リ に お い て 接 触 し た
こ の 男 性 は「 幽 霊 」だ ろ う .後 ろ 向 き に ジ
ピ カ ソ や マ テ ィ ス な ど ,当 時 の モ ダ ニ ズ ム 絵 画 の
ャ ン プ し て 首 を ぐ る り と ひ ね っ て い る .幽
影 響 を 受 け て い る こ と は 良 く 知 ら れ て い る .た だ
霊ならばどんな格好だろうと不思議はな
し,そうした美術史的知識が無い者にとっては,
い .女 性 と 比 べ る と 顔 色 が 悪 く 血 の 気 が な
シ ャ ガ ー ル の 室 内 表 現 は 異 様 に 感 じ ら れ ,疑 問 を
い .女 性 は 突 然 幽 霊 に キ ス さ れ た か ら 驚 い
生じさせることになるだろう.
ているのだろう.
ⅱ) 男性が亡くなっていることを絵の鑑賞者に知
らせるため
「 部 屋 が ゆ が ん で い る 」,
「 部 屋 が 平 面 的 だ・遠
近 感 が な い 」そ の 他 ,椅 子 や テ ー ブ ル ,コ ッ プ や
皿の表現がおかしいとの指摘が多く挙げられた.
この二人は恋人同士であり今日はこの男
な お ,本 課 題 の 実 施 直 前 の 授 業 で は ,セ ザ ン ヌ
性 の 誕 生 日 で す .し か し 誕 生 日 を 迎 え る 直
を 例 に 取 り ,モ ダ ニ ズ ム の 思 考・手 法 を 授 業 に て
前にこの男性は亡くなってしまったので
説 明 し た .シ ャ ガ ー ル 作 品 の 平 面 的 で 省 略 化 さ れ
す .そ の た め に 男 性 は 宙 に 浮 き 腕 が な く 顔
た 表 現 方 法 を ,セ ザ ン ヌ 解 説 と 関 連 さ せ た 解 釈 を
色 が 悪 い の で す .し か し 女 性 は 男 性 の 死 を
行 っ た 者 も い た ( 表 1 に 太 字 部 分 で 示 し た ).
知らずにいるのでなにも気づいておらず
とても幸せそうなのです.
ⅲ) 彼女の心の中のイメージとして描かれている
ⅰ) 感情を強く表すために省略や強調をおこなっ
た
この彼は実際にこの場にはおらず遠くの
シャガールは見えるものをそのまま写実
地から彼女に誕生日の花束を贈ったので
的に描くことよりも現実にあるものを省
は な い で し ょ う か .彼 を 非 現 実 的 に 描 く こ
略したり強調することの方が人の心の底
にある思いや感情を表すことができると
考 え た の に 違 い な い .そ の こ と に よ り 幻 想
c) そ れ 以 外 の 疑 問 の 解 明
男性女性どちらの「誕生日」なのかは,多くの
的で不思議なシャガール独自の世界が作
者が疑問に感じたようであった.
り上げられたのだろう.
ⅰ) 「女性の誕生日」
ⅱ) 主役を引き立たせるため
描かれている部屋の飾りや色合いが明る
壁と床の境目がグジャグジャでどこが本
く 華 や か だ か ら ,こ れ は 女 性 の 部 屋 だ と 思
当 の 境 目 な の か は っ き り し な い .し か も 机
う .ま た 花 束 は 誕 生 日 を 祝 い に 来 た 男 性 に
は壁にべったり張り付いてしまい立体感
もらったものだと考えられるから女性の
が 無 い .女 性 の 顔 や 花 束 ,壁 に 貼 ら れ た 布
誕生日であると考える.
やベッドなどは比較的はっきりと描かれ
ⅱ) 「女性の誕生日」
ているがその他のものは適当に省略して
女性が真ん中に描いてあることから女性
あ る .こ れ は「 主 役 」と な る も の を 引 き 立
の 誕 生 日 で ,男 性 が 祝 っ て く れ て い る よ う
てるためではないのか.
に見える.
ⅲ) 自分の感覚的真実を「記憶」により描こうと
したから
ⅲ) 「男性の誕生日」
女の人が持っているのはこれから男の人
部 屋 が ゆ が ん で い る よ う に 見 え る .こ れ は
に あ げ よ う と し て い る 花 だ ろ う .だ か ら 男
実際にシャガールが感じた真実をそのま
性の誕生日だ.
ま 描 い た の だ と 思 う .人 物 の バ ッ ク に 写 実
ⅳ) 「男性の誕生日」
的な空間が描かれていたとしたらきっと
彼の誕生日にこの女性が祝っているのだ
人 物 だ け が 浮 い て し ま う こ と だ ろ う .シ ャ
ろ う .そ の 証 拠 に 彼 女 は 花 束 を 持 っ て い る .
ガ ー ル が か つ て 見 た「 記 憶 を 描 い た 」か ら
そうした愛とか喜びとかが彼を浮かせて
このようになったのではないだろうか.
いるのだろう.
ⅳ) 技術が未熟だと考えたがその後調べてみると
モダニズムの画家たちの影響だということが
解った
タイトルが「誕生日」であることを情報として
知らせておくことは,この作品鑑賞に際しては極
私の考えではシャガールはデッサンなど
めて重要なことである.もしも題名が誕生日であ
の勉強をしないで独学で描いていたと思
ることを知らなければ,女性が手に持っている花
っ て い た の で す が ,調 べ た 結 果 彼 は 独 自 の
束の意味や,テーブルの上の赤いブツブツがある
レアリスムを確立するにあたってフォー
白い円がケーキであるだろうことも推測が難しい
ビスムのマティスほかゴッホやゴーギャ
かもしれない.
ン と い っ た 画 家 ,さ ら に は キ ュ ビ ス ム か ら
この疑問に関しても,作者本人による記述によれ
複数の視点で描くことを学んだことが影
ば,ⅳの解釈が正当であることが分かる.
響してシャガール独特の描き方が生まれ
たのだということがわかりました.
3)解明の記述スタイル
記述文は大別すると次の3タイプに区別できた.
これら 4 種類のいずれもが論理的な解釈である
1)未解明スタイル(疑問の多くが未解明)
ことには間違いない.しかし,表現様式の由来に
2 )主 観 的 解 明 ス タ イ ル( 自 分 な り の 解 釈 を 示 す )
まで言及している点では,ⅳの説明が最も説得力
3)客観的解明スタイル(他文献などを調べる)
あることは納得できるだろう.
1)は,疑問を提示することはできているもの
の,その多くが未解明のままの場合である.2)
喜びを表しているのではないかと思う.
は,主観的ながらも幾種類かの解釈を示すことが
出来るようになっている.さらに,3)では文献
どっちの誕生日なのかはっきりとは分か
を調べることで客観的な解釈を求めた場合と言え
ら な い け れ ど ,そ の 時 の 自 分 の 気 持 ち を 体
るだろう.以下に,この 3 種類のスタイルの代表
全体で表現しているのではないか?宙に
例を示した.
舞い上がるほどうれしかったのだろう.
ⅰ)未解明スタイル(疑問の多くが未解明)
ほとんどの学生はできるだけ客観的な解釈を求
この絵で疑問といえばやはり男性だろう.
めながらも主観的な一つの解釈に満足しているこ
女性も異質な感じがするが男性は明らか
とが多い.しかしこの例に見られるようにひとつ
に お か し い .宙 に 浮 い て い る し 顔 も 青 白 い
の疑問に対して複数の解釈の可能性を示す場合も
しやはり 幽霊なのだろうかと考えてしま
ある.
う .よ く よ く 見 る と 腕 が な い ば か り か 目 も
な い よ う に 見 え る .女 性 の 見 開 か れ た 目 が
ⅲ)客観的解明スタイル(文献等による分析)
男性を捉えていないように見えるのも不
疑 問 点 1:な ぜ 宙 に 浮 き さ ら に 首 が 曲 が っ
自 然 だ .さ ら に 床 と 壁 の 境 界 線 な ど が 曖 昧
ているのか?
に 描 か れ て い る 部 分 が 多 い の も 疑 問 だ .な
こ れ は シ ャ ガ ー ル 独 自 の 表 現 方 法 だ .宙 に
ぜ こ の よ う な 描 き 方 を し た の だ ろ う .女 性
浮くといえばシャガールで それは一般的
の服の一部も境界がはっきりせずに壁に
に は 幻 想 的 だ と い わ れ る .宙 に 浮 く だ け な
と け 込 ん で し ま っ て い る と こ ろ が あ る .男
らまだしも首の曲がっているし腕もない
性の描き方でもそうだが曖昧ではっきり
足 の 組 み 方 も お か し い .明 ら か に お か し い
し な い 描 き 方 で 現 実 味 が 薄 い .夢 の よ う な
のだがしかしシャガール自身が感動した
雰囲気を出すためなのだろうか .
ことの感情の表明なのだろう.
疑 問 点 2 :女 性( ベ ラ )は な ぜ 驚 い た 表
こ の 文 章 に は「 疑 問 」と「 解 明( 下 線 部 分 )」の
情なのか?
両者とが含まれている.ただし,疑問点は見いだ
シャガールはベラの持ってきた花に大き
すものの解明作業はほとんど行われていない.多
く 感 動 し た .そ し て 今 す ぐ に で も そ の 感 謝
くの「疑問」に対し「解明」の部分はごくわずか
の 気 持 ち を 表 し た い と 思 っ た .そ れ が 一 瞬
しかない.
であったため突然のことにベラは驚いた
の だ ろ う . 「 1915 年 の 誕 生 日 に ベ ラ は 花
ⅱ )主 観 的 解 明 ス タ イ ル( 自 分 な り の 解 釈 を 示 す )
束 を 持 っ て や っ て き た .私 は 貧 し く 私 の そ
疑問1:どちらの誕生日なのか?
ば に 花 な ど は な か っ た .私 に と っ て 花 は 人
男の人が女性に花をプレゼントしたと
生 の 至 福 を 意 味 す る も の だ 」と い う シ ャ ガ
いうのであれば女の人の誕生日というこ
ー ル 自 身 の 言 葉 を 見 つ け た .私 た ち が 思 う
と に な る .私 は 初 め て こ の 絵 を 見 た 時 か ら
以 上 に ,き っ と シ ャ ガ ー ル は 花 に 価 値 を 持
そうなのだろうと思っていたがこんな考
っていたのだと思う
え 方 も で き る こ と に 気 づ い た .男 の 人 の 誕
生 日 に 女 性 が 花 を 持 っ て や っ て き た 所 .絵
生じた疑問点を何らかの文献を用いて解明しよ
を見ているうちにこちらが正しい気がし
うとした者が6名いた.彼らは疑問を解明するた
てきた.結局どっちなんでしょう?
め,あるいは検証のために「調べる」行為を行っ
疑問2:なぜ宙に浮いているのか?
ている.
「ⅲ)客観的解明スタイル」のような記述内容
は,もはや画集の解説文に見られる文章表現に近
づいている.
そ し て 「 太 陽 」 ま た は 「 月 」・「 雲 」 や 「 ド ア 」 な
どであった.
残 り の 15 名 は , 図 形 的 な ク レ ー の 表 現 を 解 釈
す る た め に ,「 文 献 資 料 」 に あ た っ て い る .
(2 )ク レ ー 「 パ ル ナ ッ ソ ス 山 へ 」
そ の 結 果 ,「 ギ リ シ ャ 神 話 」,「 神 殿 の 門 」 な ど ,
クレーが元にした具体的なテーマを発見すること
1)質問の意図
ができたのだった.もちろんこれらのテーマは,
「①何を描いたものだろう」
作品を目で見ただけでは決して想像しえない内容
「②なぜこのような描き方をしたのだろう」
である.
「③クレーはどのような人だろう」
この 3 種類の疑問には,2 種類の答え方が考え
「 A:何 を 描 い た の か 」の 質 問 へ の 回 答 と し て ,
られる.ひとつは個人的な推測レベルの「主観的
「視覚情報(絵画の表面的な見かけ)のみ」によ
な解釈」である.もうひとつには,文献資料など
る記述と,
「 文 献 資 料 」を 調 べ た 回 答 と を 比 較 し て
によって得られる「客観的な解釈」である.
みたい.
クレー作品の感想文は,学生に課した 4 種類の
感想文の最後である.この課題の時点では,一通
ⅰ)視覚情報のみによる記述(その1)
りの鑑賞方法論は講義の中で説明し終えている.
後ろに見える三角形のものは パルナッソ
学生の何割かは,すでに主観的な解釈には飽き足
ス 山 で あ ろ う .手 前 は 何 を 描 い た も の だ ろ
らずに,客観的な解釈を求める者も生じている.
う か .丸 く 入 り 口 み た い に な っ て い る も の
し た が っ て ,作 品 を 観 て ,そ こ で 感 じ た 疑 問 点 を ,
が あ る .月 な の か 太 陽 な の か わ か ら な い が
自主的に調べて記述する者がそろそろ出始めてい
右 上 に 出 て い る .山 の 下 に あ る 家 の 雰 囲 気
る.
でも描いたのであろうか.
クレーの「パルナッソス山へ」は,主観的に解
ⅱ)視覚情報のみによる記述(その2)
釈することはもちろん可能である.しかし,イン
「 こ の 絵 は ,山 と 湖 が あ る 所 で ,ち ょ う ど
ターネットや文献を調べることにより,目で見た
朝日 が昇ったところを描いているのだと
だけでは分からない,作者クレーの制作意図を明
思 い ま す .私 は 最 初 こ の 絵 を 見 た と き ,山
確に確認することも可能な作品である.学生が,
が 直 線 で 描 か れ て い る の で 思 わ ず[ ピ ラ ミ
努力を惜しまずに資料を調べた場合に得られた
ッ ド ? ]と 思 っ て し ま い ま し た .よ く よ く
「明快な解答」への満足感が得られるはずの作品
見てみると 地面と湖 の境界線が描かれて
なのである.
い る か ら 違 う の か な と 思 い ま し た .き っ と
こ の 絵 は ,見 え る も の を そ の ま ま 描 い た の
2)描画内容の分析
「パルナッソス山へ」は,クレーの作品の中で
で は な く ,景 色 を 見 て 心 で 感 じ た こ と を そ
の ま ま 描 い て い る の だ と 思 い ま す .」
も記号性が相当強い作品である.通常の鑑賞者で
あれば,作品のタイトルから推測して,三角形を
ⅲ )「 文 献 資 料 」 を 調 べ た 回 答
パルナッソス山と考えるだろう.そして,円を太
第 一 印 象 は ,夕 暮 れ 時 の 家 の 風 景 か と 思 っ
陽と解釈し,それ以上の解釈を試みることは少な
た .し か し ,調 べ て み る と ク レ ー が こ の 絵
いと考えられる.
を 描 い た 意 図 が 分 か っ て き た .こ の 絵 に は
46 名 の う ち 31 名 は 主 観 的 な 解 釈 を し て い た .
元 に な る 題 材 が あ る こ と が 分 か っ た .ギ リ
そこでのイメージは,
「山」
・
「ピラミッド」
・
「 家 」,
シ ャ 神 話 が 題 材 だ っ た の だ .パ ル ナ ッ ソ ス
は ア ポ ロ 神 が 祭 ら れ た 場 所 で ,音 楽 と 詩 の
聖 地 だ っ た ら し い .こ の 神 話 を も と に ク レ
ⅰ)視覚情報による技法的観点
ー は 三 角 形 を 山 に ,右 上 は 太 陽 に ,下 の 部
a.視 覚 的 な リ ズ ム を 生 み 出 す か ら
分は 神殿の門 を描いたのだと分かった.
b.一 つ 一 つ の 色 を 強 調 す る た め
c.点 と 線 の み で 描 く こ と
授業にて課題を提示した際には,隠されたテー
d.パ ッ チ ワ ー ク の よ う に し た か っ た の で は
マがあることや,そのための文献があることには
e.微 妙 な 色 合 い を 描 く た め
一 切 触 れ て は い な い .15 名 の 学 生 た ち は ,誰 に 言
f.離 れ る と 違 っ た 色 に 見 え る 方 法 を 実 験 …
われたのでもなく,自主的に文献を探しだしたの
であった.
お そ ら く , そ れ ま で の 10 回 の 講 義 の 中 で 触 れ
ⅱ)論理的ではないあいまいな解釈
g.作 品 が 高 く 売 れ る た め
た,アレゴリーやイコノグラフィやイコノロジー
h.単 純 に 描 い た ら 興 味 が わ か な い か ら
といったイメージ解釈の方法に関する説明を受け
i.普 通 の 描 き 方 に 飽 き た か ら
たことが,自らの関心によって,画像の不明な意
j.暖 か な 雰 囲 気 を 伝 え ら れ る か ら
味を探ってみるという行動をとらせたのであろう
k.印 象 に 残 る よ う に す る た め
( 註 4 ).
l.目 に 見 え な い も の を 感 じ て ほ し い か ら
3)なぜこんな描き方を?
クレーは,バウハウスで教鞭をとり,絵画理論
以外に音楽理論にも精通していた.作風は独自の
変遷をたどり,記号的な抽象形態に接近したが,
音楽を連想させる詩情に満ちたものであった.
1915 年 ご ろ ,ク レ ー は こ の 作 品 に 見 ら れ る よ う な
小さなドットを集積させた画面を数枚描いており,
ⅲ )「 文 献 資 料 」 を 調 べ た 回 答
m. 芸 術 を 極 め る 長 い 道 の り を モ ザ イ ク 的 に
表現
n.ポ リ フ ォ ニ ー と 対 位 法 の 音 楽 の ア イ デ ィ ア
を…
o.音 符 の よ う に リ ズ ム と メ ロ デ ィ を 点 で 描 い
た
その内の一枚のタイトルは「ポリフォニー」とさ
p.音 楽 も 含 め た 総 合 芸 術 化 か ら
れている.
q.音 楽 の ポ リ フ ォ ニ ー の 手 法 の 絵 画 へ の 活 用
ポリフォニーは,複数の旋律の絡み合いのこと
を指す音楽用語である.
「 な ぜ こ ん な 描 き 方 を 」の
4)人柄に関する分析
質問に対して,3 名の学生が「ポリフォニーの絵
19 世 紀 後 半 以 後 の 絵 画 表 現 で は , そ れ 以 前 の
画への応用」と答えている.また,それ以外にも
「時代様式」に代わり「個人様式」が優勢になっ
絵画技法と音楽とを関連させて答えた者が5名い
てきた.或る作家が固有の表現を自己主張するこ
た ( 註 5 ).
とも多くなってきた.
クレーの作品と音楽文法との関連は,文献にあ
クレーの作品は極めて抽象傾向が強いものであ
たらない場合には見出し難いだろう.この 8 名の
る.作者の人柄を問う疑問は,このような抽象的
者は,明らかに文献資料を調べた上で回答をして
な作品から,学生たちは作家の人柄をどの程度推
いるといえる.
測し得るものであるかとの関心により設定したも
視覚情報のみから解釈した学生の場合には,当
のであった.
然のことではあるが,点・線・面・色彩.タッチ
表2および下記に整理したように,多くの者が
など,造形要素の組み立てに関係した技術的側面
視覚情報のみから推測しているものの,ほぼ正当
からの解釈が多く記述されていた.
な判断が出来ていることが分かる.
「 繊 細 な・変 わ
り者・几帳面・やさしいおじさん・感受性豊か」
する方法である.このスタイルは,学校教育の通
など,表現は異なるもののいずれもが的確な表現
常の授業方法と同様である.
であろう.
しかし,授業時間の中で,美術作品に対する感
それに対して,文献資料を調べた上で回答して
想や考えを口頭で述べあう場合には,おそらく誰
いる者の場合は,主観的判断はほとんどなく,文
でも,周囲の意見によって自分の思考が影響を受
献で調べた事実のみを記載する例が多く見られた.
けたり中断されたりするだろう.
調べた略歴を延々と記述することに満足している
者も5名いた.
それに対して,自由な時間を用いて,自分の感
想や疑問を文章で記述する場合には,他人の考え
や時間の制約を受けずに,ゆっくり味わいながら
ⅰ)視覚情報のみによる記述
作品と対話することができるはずである.
a.繊 細 な 変 わ り 者
「 自 由 記 述 法 」に よ る 美 術 感 想 文 は ,
「作品をじ
b.几 帳 面 な 挑 戦 者
っ く り 見 る 」,「 作 品 を 味 わ う 」 と い う 観 点 を 重 視
c.や さ し い お じ さ ん , 繊 細
した方法であった.
d.几 帳 面 , 感 受 性 豊 か
それに対して,今回の「質問法」による文章記
e.無 垢 な 心 , 理 論 的 な 人
述は,
「 疑 問 の 発 見 」,
「 主 観 的 解 釈 」,
「 客 観 的 解 釈 」,
f.新 し い こ と に 挑 戦 す る 人
「資料による理解」などの観点にウエイトを置い
たものである.そのような観点からの質問に対し
ⅱ )「 文 献 資 料 」 を 調 べ た 回 答
て 思 考 す る こ と は ,「 観 察 内 容 を 分 析 」 し ,「 合 理
g.文 献 に よ る ク レ ー の 略 歴 の 記 述 の み
的な解釈」を導き出していく,思考トレーニング
h.音 楽 の 才 能 が あ っ た 人
になると考えている.
i.主 夫 を し た 人
j.色 彩 の 音 楽 家 と 呼 ば れ た 人
こ れ ら は ,一 時 期 に 獲 得 で き る ス キ ル で は な く ,
段階的に可能になっていくものであろう.学生た
ちが記述した感想文の内容を見ると,同じ大学生
生じた疑問を文献等で調べ,そこから得た内容
とはいえ,主観的な解釈に満足している段階の者
をさらに自分の解釈に反映させることが理想であ
もいれば,客観的な解釈を求める姿勢が生じ始め
る .し か し ,一 旦 調 べ る こ と に 関 心 を 持 っ た 者 は ,
た者もいる.生じた疑問を疑問のままにしておく
次第に主観を述べることを避ける傾向に陥るとい
者 も い れ ば ,自 主 的 に 調 べ る 姿 勢 を 持 つ 者 も い る .
われる.
まずは,何ら制約を受けない「自由記述」によ
客観的解釈を求める段階に至った者へは,調べ
って,美術感想文を記述することに慣れること.
上げた文献資料を記述するだけに終わらせず,資
その後,
「 質 問 法 に よ る 感 想 文 」の ト レ ー ニ ン グ を
料を参考にした上で,さらに妥当な解釈を引き出
行うことは,個人が自分の力で少しずつ鑑賞能力
す活動に向かうように指導することが必要であろ
をステップアップしうるための有効な手法である
う.
と考える.
5,まとめ
(2) 授 業 デ ー タ 蓄 積 へ の 活 用
(1)美 術 感 想 文 に お け る 質 問 法 の 扱 い 方
鑑賞教育方法として,これまで一般的なものは
「対話による方法」であった.これは,生徒と教
感想文を教育活動に組み込むことの効用として
は,授業データの蓄積という点を挙げることがで
きるだろう.
師とが作品を媒介させ,
「 話 し 合 い 」を 通 じ て 意 見
これまでの鑑賞教育で行われてきた方法は,口
を交換し,そこから何らかの解釈を導き出そうと
頭による意見交換のスタイルであり,発言内容を
<参考・引用文献>
残し難かった.
1 ,ヴ ァ ー ジ ニ ア・ハ ガ ー ド ,
「 シ ャ ガ ー ル と の 日 々( 語
それに対して,作文による記述では個人におけ
ら れ な か っ た 7 年 間 )」, 西 村 書 店 , 1997.
る作品観察や解釈の内容が文字として残されるこ
2 , ダ ニ エ ル ・ マ ル シ ェ ッ ソ ー ,「 シ ャ ガ ー ル ― 色 彩 の
とから,その内容を別人が参考にすることが可能
3 , ジ ル ホ ロ ン ス キ ー ,「 シ ャ ガ ー ル 」, ア ー ト ・ ラ
である.さらに,それら多数の回答を整理し鑑賞
の授業に活用することも可能になる.
これまで美術の鑑賞教育が不振であった理由の
ひとつには,鑑賞授業のデータ(記録)がほとん
ど残されて来なかったということが挙げられよう.
詩 人 」 創 元 者 , 1999.
イ ブ ラ リ ー , 西 村 書 店 ,2003
4 ,モ ニ カ・ボ ー ム =デ ュ シ ェ ン ,
「シャガール」
(岩波 世
界 の 美 術 ), 岩 波 書 店 , 2001
5 , 高 見 堅 志 郎 ,「 シ ャ ガ ー ル 」( ヴ ィ ヴ ァ ン 25 人 の
画 家 ), 講 談 社 , 1995 .
6 ,西 田 秀 穂『 パ ウ ル・ク レ ー の 芸 術
-その画材と技
法 と - 』 東 北 大 学 出 版 会 ,2005.
7 , 坂 崎 乙 郎 ,「 ク レ ー 」 , 美 術 出 版 社 , 1963
鑑賞の授業を実施しようにも,教育者自身が鑑賞
8,南原実
教育を受けた経験もなく,さらには参照すべき授
9 ,ピ エ ー ル・ブ ー レ ー ズ ,
「 ク レ ー の 絵 と 音 楽 」,
業実践データが少なければ,子供たちからどのよ
10,W.ハ フ ト マ ン ,
「 パ ウ ル・ク レ ー
うな発言があるのかも予測が出来ない.それがこ
れまでの鑑賞教育の状況であった.
美術鑑賞教育における「実践的データの蓄積」
は急務である.今回の2点の作品に関する学生た
ちの回答は,内容を一覧表にまとめ上げることが
可能であった.例えば対象者が中学生であったと
しても,今回のデータを参考にすれば,発言内容
が予測でき,それらを参考にして,教師が鑑賞の
授業を開発できるのではないかと考えられる.
<註>
( 註 1)「 鑑 賞 教 育 方 法 と し て の 美 術 感 想 文 の 可 能 性 (1)
―感想内容のタイプと美術感想文のスタイル分
類 ― 」,北 海 道 教 育 大 学 紀 要( 教 育 科 学 編 集 )第
56 巻
第 2 号 , 平 成 18 年 2 月 , pp161- 174
( 註 2)14 回 の 実 施 授 業 の う ち ,自 由 記 述 法 に よ る「 美
術感想文」の課題は第 3 回目・第4回目に実施
し,今回の「質問法」によるそれは第9回目・
第 10 回 目 に 実 施 し た . そ の 間 に は , 平 易 な テ
ー マ で ,入 手 し や す い 文 献 を 調 べ る レ ポ ー ト と ,
具体的で,答えやすい質問内容によるレポート
を 3 題挟んでいる.
( 註 3) ダ ニ エ ル ・ マ ル シ ェ ッ ソ ー 著 「 シ ャ ガ ー ル ―
色 彩 の 詩 人 」 (「 知 の 再 発 見 」 双 書 ) は , 入 門
書であるが資料篇にて、
「 誕 生 日 」制 作 時 の エ ピ
ソードをはじめ,シャガールの妻ベラの伝記的
著作からの抜粋が豊富に記載されている.
( 註 4)授 業 で は ,鑑 賞 活 動 の 方 法 と し て ,連 想・感 想 ・
分 析・解 明 な ど に つ い て 第 四 回 ~ 第 7 回 に か け ,
実例をあげてじっくりと紹介した.自主的に文
献資料を探す行為は,これらの授業の中から生
じていると思う.
( 註 5 )「 ポ リ フ ォ ニ ー 」 は , モ ノ フ ォ ニ ー に 対 応 す る
音楽用語である. 多旋律の同時的な絡み合いを
本 領 と し ,10~ 17 世 紀 の 西 洋 音 楽 の 主 要 な 形 態
で あ っ た と さ れ る 。多 声 音 楽 ,複 音 楽 と も 言 う .
訳 ,「 ク レ ー の 日 記 」 , 新 潮 社
1961
筑
摩 書 房 , 1994.
造 形 思 考 へ の 道 」,
美 術 出 版 社 , 1982.
(釧路校
教授)