UNI−LCJ金融部会シンガポール金融部門調査報告

2009 年度 第 37 号
2009 年 7 月 27 日(月)発行
UNI−LCJ金融部会シンガポール金融部門調査報告
全 国 労 済 労 働 組 合 連 合 会 / 発 責
書 記 局
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UNI−LCJ金融部会シンガポール金融部門調査報告
2009 年 6 月 8 日(月)∼10 日(水)の日程で、UNI−LCJ金融部会で調査チームを組織し、アジアの
金融のハブ機能を担うシンガポールの金融労働組合、金融機関、金融監督当局などを訪問し、世界的な金融
危機の影響や国際的な金融規制のあり方、ならびに金融機関における人材育成の実態調査を行いました。調
査団として、UNI−LCJから伊藤事務局長、損保労連から石川中央執行委員長(UNI−Apro金融
部会議長)と山崎事務局長、全労金から河野書記長、全国信託銀行従業員組合連合会(全信連)から佐藤議
長、労済労連から照沼書記長が参加しました。
以下、概要を報告します。
なお、調査内容は、2009 年 7 月 26 日(日)∼27 日(月)の日程でジャカルタ(インドネシア)で開催さ
れることになっていた第 3 回UNI−Apro金融部会大会で代議員の滝沢副中央執行委員長がUNI−L
CJ金融部会を代表して発表する予定でしたが、爆弾テロの影響で延期となりました。
<初日:2009 年 6 月 8 日(月)>
1. UNI−Apro地域書記長とのミーティング
(1) 出席:クリストファー ウン地域書記長、ジャヤスリ プリヤラル金融担当部長 他
(2) 場所:UNI−Apro地域事務所
(3) 時間:10 時 40 分∼
(4) 概要:
石川中央執行委員長より今回の訪問先や目的・意義等を含
めて挨拶した後、意見交換を行いました。
【クリストファー ウン地域書記長】
○ 石川中央執行委員長をはじめUNI−LCJ金融部会のイニ
シアチブに感謝したい。金融危機は全世界に影響をおよぼ
している。銀行のみならずすべてのセクターで影響が出ており、多くの国々がマイナス成長に陥っている。現
時点では解決策を模索中だが、なぜ起こったのかという根本的な議論が欠けている。ただ、NPOを含めた
様々な議論では、中産階級の減少に焦点があたっており、そういう中で将来の社会システムをどのようにつく
っていくかが課題である。その点で言うと、労働組合の課題としては中産階級をどう取り戻すかである。タイミ
ング良いことに政府がその方向にむかっている。そのことに労働組合としてどう関われるのか。金融産業労働
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組合だけでなく、すべての労働組合が関与して新しい戦略を立てて政府の政策に関与していくことが重要で
ある。
○ ご承知のように、UNIは国際的な労働組合として進化する努力を行っている。特にG20 の中では働きを強め
ているが、残念なのは他のGUFの連携のあり方である。国家レベル、地域、そして国際レベルでも、キャンペ
ーンに参画して決定的影響力を与えないといけない。同時に、IMF等の国際金融機関への影響力も拡大し
ていかなければならない。特にADB(アジア開発銀行)へのアプローチは重要であると考え、最終的にアジ
ア・太平洋地域に加盟するGUFが共同して影響力を拡大するために意思統一し、PSI(国際公務労連)が前
面的に役割を果たしながら取り組めることとなった。具体的
に 2009 年 2 月の理事会では、ADB・GUF・ITUC−APの
対話の会議を持つことができた。ADBはこちらからの「定期
的な対話の機会を持ちたい」との要請にも好意的であった。
また、対話の結果、ADBの教育プログラムにGUFから講師
派遣することができ、かつADBに労働組合デスクを置くこと
ができそうで、それらを通じてコーディネートする動きも出て
きた。なお、この件に対し、ADBの株主国はほとんど賛成し
ているが、最大株主である日本がどう判断するかで方向性も
変わってくる。PSIは日本政府の支援を得るように動き、一定の成果も引き出している。UNI−LCJも同調し
て政府への影響力を行使していただきたい。いずれにしても、ADBはアジア太平洋地域で大変重要な役割
を担っている。連携しながらより人々に近い銀行組織にしていきたい。
○ 金融危機からの脱却にむけて、日本をはじめ各国では景気刺激策が実施されているが、シンガポールも同
様である。その点で、シンガポール通貨庁(MAS)と意見交換を行うことは大変意義がある。なお、シンガポ
ールでは職を維持し、創り出すための一つのユニークな政策が実行されている。それには労働組合が全面
的に参画しており、効果的な策をもって政府と協力している。重要なのはイノベーティブであることであり、最
高のものにトライすることである。この点では、まだ多くの労働組合が失敗している。GUFもITUCももっとイノ
ベーティブにならないといけない。そのためにも、UNI−Aproがリーダーシップを発揮すること、アジア太平
洋地域の労働組合が団結して関わっていくことが大事である。
○ なお、アジア太平洋地域と他の地域とでは戦略にギャップがある。関心点の違いの反映と言えるが、ヨーロッ
パ・アメリカとの地域間分裂は顕著になってきた。しかし、G20 でもギャップはあるものの、やはりアジア太平洋
地域の影響力は大きい。驚いたのは、ADBの理事会に出て、GUFが重要な役割を果たしていた点である。
ヨーロッパとアメリカのギャップはありながらも、今後のアジア太平洋地域の発展は間違いない。そういう意味
で、UNI−Aproは自信をもって将来に立ちむかっていくことができる。その点で、2009 年 7 月の 4 部会大会
は大変重要な位置づけを持っている。より具体的なサジェスチョンを行わなければならない。UNI−LCJとし
て効果的な役割を果たしていただきたい。
【石川中央執行委員長】
○ UNI−AproのADBに対する戦略に敬意を表したい。アメリカとのデカップリングなどアジア太平洋地域の自
立性が高まっており、ヨーロッパ地域との関係においても、世界経済の成長セクターであるアジアの役割が大
きくなっていくことは認識している。そこで、UNI−LCJ金融部会としてどう貢献できるかを真剣に考えて今回
の訪問を決めた。今回の調査で学んだこと、判明したことは 2009 年 7 月のジャカルタ 4 部会大会で発表して、
アジア太平洋地域メンバーと共有したいと考える。今回の訪問のコンセプトは、①労働組合以外の金融規制
当局などを含めた様々な組織へのアクセス力強化、②金融機関が誠実で正しい事業運営を行うための社会
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性のある人材育成の調査である。この点では、アクサがシンガポールにアジア太平洋キャンパスを開設したと
いう情報を入手している。また、③労働組合としての影響力拡大のために組織化を行い、地域内のUNIメン
バーを増やすことである。もちろん、長崎大会を成功させるためのステップでもある。ちなみに我々は長崎世
界大会では、行事チームであるため、長崎世界大会の各種イベントを通じて従来とは異なるイノベーティブな
労働組合のイメージを発信したいと考えている。この 3 つのコンセプトをもって調査を行い、4 部会大会で発表
したい。
【照沼】
○ UNI−Aproの取り組みには感銘したが、やはり具体的にどうアプローチしていけば良いかが課題である。
【クリストファー ウン地域書記長】
○ シンガポールの場合は歴史的に労働組合と政党との関係が強い。オーストラリアやイギリスにも似たような例
はあるが、シンガポールの場合は三者構成というしくみができている。その点で、ナショナルセンターであるN
TUC(シンガポール全国労働組合会議)と政党との関係は、双方の信頼から成り立つ。日本の労働運動もか
つては統率がとれていた。しかし、今は欠けてしまっている。政労使の関係も緊密ではあるが、どんなに良い
システムをつくっても信頼関係がなければ意味がない。その意味で、各方面へのアクセス力を高めるために
は、やはり信頼関係が必要である。なお、日本では石川中央執行委員長が労働政策審議会(分科会)のメン
バーも務めているが、そうした機会を活用して働く者の立場から発信をし、労働組合の重要性を高めることも
大切である。
【佐藤議長】
○ 日本の場合は政労使の枠組みが弱いと感じる。企業内労働組合としての役割をきちんと機能させないと、市
場原理の中で退場させられてしまう。日本も経済成長が鈍化、金融危機の影響で設備投資や輸出が減少し
ており、失業率も悪化している。このような中、日本の労働組合もできることには取り組んでいる。シンガポー
ルも 20%近いマイナス成長に陥っているが、原因は何なのか。また、このことが政労使の関係にどのような影
響を与えているのか。
【クリストファー ウン地域書記長】
○ シンガポールも日本と同じ輸出経済である。ただ、アメリカや
ヨーロッパとのデカップリングのチャンスはある。具体的には、
インドだけでも相当な成長が期待できる。そうしたデカップリ
ングとなる時期は近づいているのではないか。そういう意味
で、アメリカ・ヨーロッパとの関係はより柔軟な戦略をもって展
開できるであろう。インドや中国の成長に期待することは悪
いことではない。
【ウィリー タン書記長(SIEU:シンガポール保険労働組合)
】
○ 政労使の具体的な施策について補足する。昨年 9 月頃からの金融危機を受けて、NWC(国家賃金審議会)
で決まったのが実質的な賃下げである。ちょうど先週、賃金凍結の方向性が示された。ただ、確実により利益
をあげられる企業は賃上げして良いとされている。そのうえで、政府によって 205 億シンガポール$を上限に、
シンガポール人とシンガポールに永住権を持つ人の雇用を支援するパッケージ等が用意されている。
以上のミーティング終了後、UNI−Apro主催の昼食会が開かれました。
2. アクサ・シンガポール支社で経営側とのミーティング
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(1) 出席:ヘンリ グアス経営最高責任者 他
(2) 場所:アクサ・シンガポール支社
(3) 時間:15 時 00 分∼
(4) 概要:
石川中央執行委員長より「アクサの戦略は、参考になる部
分がある。今日的にAIGの状況をふまえると、保険会社
としてのサシティナビリティがあらためて重要になってき
ている。2009 年 2 月にアクサ本社を訪問した際も、
『持続的
な成長』をコンセプトに意見交換を行った。特にアクサで
は、持続的な成長のための世界的戦略として人材育成を強化していることが印象に残っている。今般、
シンガポールにアジア地域の戦略的な人材育成センターを開設したと伺った。本日のミーティングでは、
①世界的な金融危機の中でのアクサのアジア地域の状況、②人材育成のためのカリキュラム、③労使で
持続的に発展させるための労使対話・協議のしくみ、等に関して聞きたい」と挨拶した後、意見交換を
行いました。
【ヘンリ グアス経営最高責任者】
○ ①に関して、アクサはシンガポールでは自動車保険は 3 位(40%)、全体では 6∼7 位の順位となっている。
アクサ損保とアクサ生命がある。ただ、日本の市場に比べれば小さい。なお、インドネシア、マレーシア、タイ、
ベトナムを含めたすべての地域で金融危機の影響がある。しかし、発展段階によって違いはある。例えば、シ
ンガポールはGDPの落ち込みが建設業と海運業にインパクトを与えているが、自動車保険は 2008 年に落ち
込んだものの今は回復している。経済危機に関わらずマーケットは成長している。さらに、ソルベンシーマー
ジン比率は投資で低下しているが、この間、エクイティエクスポージャーを削減してきたため、そういう意味で
マーケットの下降に対して免疫がある。一方、マレーシアは料率表のみのマーケットであるため、そういう中で
勝ち抜くにはセグメントが必要である。ちなみにマレーシアはシンガポールほど金融危機の影響を受けてい
ない。インドネシアも同様である。なぜなら輸出型経済ではないからである。そのインドネシアではブローカー
を使っている。シンガポールやマレーシアは代理店志向である。タイは多くの保険会社が存在している中で
金融危機の影響を受けている。政治的不安定もあり、注視している。ベトナムも様々な困難がある中で、利益
をあげるためによりリーズナブルな料率設定が求められている。このように、戦略は各国の事情に合わせてい
る。なお、日本企業とのパートナーシップも紹介したい。例えば、シンガポールではホンダ、ベトナムではバオ
ミンが日本企業との協定を有している。
○ ②に関しては、3 つの利益という考え方がある。顧客・株主・労働者の 3 つである。その中で、アクサでは社員
むけの「スコープ」というアンケートを実施しており、集約して人事政策に活かしている。また、1 年に 2 回、全
職員とのインタビューも行っている。具体的には、半期のチェックと終期の振り返りを行うとともに、次期の目標
を決定している。もちろん、トレーニングに関するヒアリングも行っている。その他、内外部の研修にも参加さ
せている。賃金の上昇は、一般的上昇はフィックスしており、そのうえに個々の業績に応じた昇給がある。もち
ろん、良い業績をあげた社員にはそれなりの成果がもたらされる。管理職と上級責任者による全体モニターも
実施している。ところで、キャンパスは 2009 年 4 月 8 日(水)に開設したが、現在のところ完璧に機能している。
アジア全域から参加者を集めたハイレベルのトレーニングカリキュラムもある。また、基本的な課目も含めてす
べて用意している。新しいアイデアということで、政府、具体的にはMASの保険局からの支援もあった。シン
ガポールはハブなので参加者が集まりやすい。もう一点、内部研修ということで、新商品発売時のトレーニン
グも実施している。
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○ ③に関しては、シンガポールでは 2 つの方法がある。1 つは労働組合と協議する方法、2 つは社員との直接
の関係づくりである。具体的には 3 週間に 1 回食事をする。毎回 20 名程度集めている。このシステムは 2009
年 4 月から実施している。また、CEOを集めた商品に関する 2 時間程度の説明会も開催している。なお、他
国について、マレーシアにも労働組合があるが、ベトナムは共産主義国家なので少し異なっている。しかし、
確実に言えるのは、保険業に携わっているということが良い労使関係につながっている。なぜならば、我々は
成長産業なので、多くの人材を引きつけ、さらに良い労使関係を築いていくことが可能である。
【石川中央執行委員長】
○ 今期の決算は、日本の損保会社も厳しく、コンバインドレシオが 100%を超えている会社もある。また、会計基
準をヨーロッパ型へ変更する検討もある。運用は、金融危機の影響によりすべての会社で前年に比べてマイ
ナスとなっている。そういう中で、新たなビジネス機会として、メンタルヘルスケア等が注目されている。
【ヘンリ グアス経営最高責任者】
○ 日本の損保会社ではM&Aは盛んに行われているのか。
【石川中央執行委員長】
○ 来年の 4 月にむけた合従連衡の動きがある。
【ウィリー タン書記長(SIEU)
】
○ 日本の保険会社は財政的にはどうなのか。
【石川中央執行委員長】
○ 保険会社の財務状況は良好である。ただし、アクサや欧州
のプレイヤーと比較すると規模が小さいという課題がある。
規模を拡大することによって事業が安定し、新事業に着手できる面がある。もちろん、規模だけではなく業務
の品質の向上が重要だが。
○ 3 年前になるが、日本では保険金の支払い漏れという問題が発生し、金融庁から指導を受けた経過がある。
現在は、業務品質向上のためのガバナンスの強化や人材育成、募集人の質的向上が求められている。
【ヘンリ グアス経営最高責任者】
○ むしろ品質が良いのは日本と言われているが。なお、アクサではアクサウェイというミックスシグマのメソッドを
活用した形で普及させている。トレーニングを行うにしても全世界で同じ方法で実施し、結果を分析するという
方法がある。また、業務品質の向上においてはITを積極的に活用し、ミスを少なくしている。この課程に代理
店も参加してもらい、機能強化することができればアクサ全体としてもうまくいくという構図である。
【石川中央執行委員長】
○ 日本では、どのように募集人の資質向上をはかるかという課題がある。
【ヘンリ グアス経営最高責任者】
○ アクサでは代理店むけの優良ライセンスがあり、取得した後にさらに 16 時間のレクチャーを実施している。
【山崎事務局長】
○ アクサでは世界標準的なリーダーシップ研修が行われているとのことだが、日本の場合は現場で支える社員
の実務研修が中心である。アクサではどのように組み立てられているのか。
【ヘンリ グアス経営最高責任者】
○ 様々なコースを用意している。例えば、トラブルが発生した時のための緊急避難的なカリキュラムもある。もち
ろん、優秀なリーダーだけいても十分ではない。良いスタッフがいなければならない。そういう意味で、全社員
がレギュラーベースでトレーニングを行っている。例えば、商品・技術のトレーニングがある。また、MASの指
示により一般職員も研修に参加しなければならない。
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【石川中央執行委員長】
○ 会社のオペレーションに対して、MASからも具体的な指導がなされるのか。日本の場合は募集ルールなど
具体的な言及がある。
【ヘンリ グアス経営最高責任者】
○ MASの活動は活発で、様々な指摘をしてくる。レギュラーベースで監査が行われる。そういう意味で、少しや
り過ぎ感はあるが、ただ、大変プラグマティックである。実際に良い規制であると受け止めている。
【ウィリー タン書記長(SIEU)
】
○ 例えば、新入社員研修中には賃金の 80%を支払わなければならない。これもMASの指導である。
最後に、ジャヤスリ プリヤラル金融担当部長より「大変意義のあるミーティングとなった。UNI本
部金融部会のオリバー・レティク担当局長に伝えたい」との挨拶がなされ、終了しました。
なお、ヘンリ グアス経営最高責任者のはからいで、翌日 9 時 00 分よりアクサ・アジア太平洋キャンパ
スの見学ができることになりました。
3. SIEU(シンガポール保険労働組合)とのミーティング
(1) 出席:テリー リー委員長、ロナルド フー第一副委員長、ウィリー タン書記長、リューク ヒー書記長
代行 他
(2) 場所:SIEU事務所
(3) 時間:17 時 00 分∼
(4) 概要:
冒頭、テリー リー委員長より自身を含めてメンバーの紹介がなされた後、石川中央執行委員長より「金
融危機がSIEUにとってどういう影響があったのか、本業と労使関係上の両面で聞きたい」旨の質問
を投げかけ、意見交換を行いました。
【テリー リー委員長】
○ 57 年間生きてきたが、今回のようなことはなかった。すべて
はアメリカのサブプライムローンから始まった。AIGはシンガ
ポールではAIGとAIAの 2 社で事業展開しているが、もとは
同じ会社である。CDSの影響は今なおわからない。すべて
の人々が議論している最中である。例えば、1929 年の世界
大恐慌を思い起こそうとしても、その時のことを覚えているの
は誰もいない。また、テクノロジーやコンピューターによって
情報伝達速度が早い中の危機ということが今回の特徴ではないかと考えている。
○ 1998 年のアジア通貨危機より状況は悪い。その時はASEANだけだったが、今回は全世界である。そうした
中で、NTUCは 3 つの戦略を実行している。1 つは解雇される人数を減らすこと、2 つは失業率を 4.5%以下
にすること、3 つは職を救うためにコストカットを行うことである。
○ シンガポールは日本と比べて小さい。日本やアメリカなど大きな機関車が止まれば自ずとシンガポールも止
まる。政府とNTUCはその状況を深刻に考えている。どう労働者と会社を守るのか。政府は助け合おうと呼び
かけ、消費の拡大を訴えている。輸出依存型の国だが、他国を救うことが自国を救うことになるというのも理が
ある。そうした中で、政府は 2 つのプログラムを実行している。1 つは「Jobs Credit」と言い、2 つは「spur」と
言う。シンガポールの歴史上初めて政府が金庫を開けて財政的な支援を行っている。「Jobs Credit」はシン
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ガポールの会社に雇用の義務を守らせるためのもので、4 月に第 1 回目が実施され、7 月に第 2 回目が予定
されている。また、「spur」は職業訓練のためのものである。サービス産業はそこまでひどくない状況だが、製
造業は大きな影響を受けている。機関車が止まれば致し方ない。そこで、「Cut costs to save jobs」を合
言葉に取り組んでいる。なお、具体的に「spur」はトレーニング期間中の補助で、90%を政府が所得保障する
というものである。
○ これらがうまく機能すれば良いが、それでも政府は経済成長率を−6∼9%と見ている。2009 年度の第一四半
期には 12,600 人が職を失った。また、現在、失業者は 88,700 人とも言われており、特に専門職・管理職が被
害を受けている。そうした中、国会議員に会うセッションが開かれたが、多くの人々が押し寄せた。このように、
アメリカの経済が息を吹き返さないと明るい未来を描けないのが実態である。
【石川中央執行委員長】
○ 保険産業への特徴的な影響は何か?
【テリー リー委員長】
○ 生保はセールスが減少しており、投資に直結する商品が売れない中、トラディショナルな商品に回帰する傾
向がある。ちなみに金融危機を受けて、AIAの前には不安を抱えた人々で長蛇の列ができた。そこで、政府
とMASは規制がきちんとしているので心配しないようにと呼びかけた。その規制について、以前はやり過ぎと
の話もあったが、今は人々に言わせると「規制があって良かった。そのおかげで破綻が避けられた」という声
が聞こえてくる。ただ、AIAは数名の組合員を含む職員が人員削減となった。将来的には一定の業務をマレ
ーシアにアウトソーシングしようという動きもあり、人員削減は続くであろう。
○ 損保は海運の落ち込みが激しいし、投資のリターンも戻ってこない状態となっている。ただ、これだけ痛めつ
けられて収益性がないかと言えばそうでもない。良いところは奮闘している。なお、RSAは必ずしも経済危機
の影響とは言えないが、6 名のスタッフが人員削減となった。退職金を得て、その後、数名はマレーシアの会
社に再就職が決まった。損保業界全体としては悪い状況ではない。プロダクトラインも機能している。しかし、
自動車保険の損失は大きい。また、シンガポールでは業務上災害保険を外国人労働者にも適用しているの
だが、その被害が大きく、意図的なものが増えている。どうも怪しいということで不法就労者ではないか労働省
がチェックする事態に発展している。
【石川中央執行委員長】
○ 日本の金融機関の場合は雇用への影響はほとんどない。ただ
し、一時金は調整されている。いずれにしても、経済構造が似
ているので、引き続き連携させていただきたい。
【テリー リー委員長】
○ ちなみに三井住友海上は奮闘している。M&Aもすすんでい
るが、労働組合が懇親会を開催するなど日本の企業が労働者
を大切にしていることが良くわかる。なお、NTUCのポリシーは
先ほど申しあげたように、「Cut costs to save jobs」である。ただ、製造業では短期労働がすすんでおり、
つい最近、労働組合が 2,300 万シンガポール$の積立を決定した。それによって労働者は解雇時に 300 シ
ンガポール$を受けとれる。このように、労働組合も人員削減に対して何とかしようとがんばっている。
【山崎事務局長】
○ シンガポールは海外からの外国人労働者が多いと思うが、シンガポール人とシンガポールに永住権を持つ
人には手厚いセーフティネットがあるものの、以前、首相が外国人労働者は雇用の調整弁と言っていた。この
点をどう考えているか。
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【テリー リー委員長】
○ 重要な問題である。ただ、シンガポールは小さい。そういう意味でバランスが非常に難しい。経済が成功して
いるうちは良いが。例えば、日本では女性は専業主婦になることもできるが、シンガポールの場合は働きに出
なければ暮らしていけない。そこで、家で外国人労働者を雇うことになる。
○ ただ、NTUCはインクルーシブの考え方を示している。すなわち外国人労働者を受け入れようということであ
る。具体的には、メーデーのデモへの参加も呼びかけている。しかし、成長がストップした時に、例えばシンガ
ポール人に職がなく、逆に外国人労働者に職があるという状況もあり得る。したがって、「Jobs Credit」は外
国人労働者がいる企業には適用されない。ただ、両親・子供のいる労働者より外国人労働者の方がコストが
安いという中で、依存している実態はある。特に造船業は 95%が外国人労働者と言われている。そういう中で
は、やはりバランスをとっていくことが大事である。NTUCは造船所の視察により外国人労働者の重要性に関
する調査をすすめている。
【石川中央執行委員長】
○ 日本の損保産業はシンガポールの保険会社の動向に大変注目している。今後も双方の発展のために情報
交換させていただきたい。
以上で初日のミーティングは終了となりました。なお、夕刻からはUNI−SLC(シンガポール加盟
協)主催の夕食会が開かれました。
<二日目:2009 年 6 月 9 日(火)>
4. アクサ・アジア太平洋キャンパスの見学
(1) 出席:ローレント クリオー学長 他
(2) 場所:アクサ・アジア太平洋キャンパス
(3) 時間:9 時 00 分∼
(4) 概要:
前日のアクサ・シンガポール支社でのミーティングの結果、急遽、アクサ・アジア太平洋キャンパスの
訪問が可能となりました。ローレント クリオー学長により館内を案内いただいた後、講義室でキャンパ
スの設立経過やねらい等に関してスライドで説明を受け、意見交換を行いました。
【ローレント クリオー学長】
○ アクサ・アジア太平洋キャンパスの設立は 2007 年 10 月に決定、500 万ユーロをかけて建設した。アジア太平
洋地域の人材の能力開発・発展を目的としている。ちなみにアジア全体では 36,000 人の社員がいる。「2012
アンビシャス」として、好まれる会社をめざそうとしている。これだけ投資することで真剣に取り組んでいることを
アピールするねらいもある。2009 カリキュラムを紹介すると、ビジネステクニカルスキル、リーダーシップスキル、
アクサカルチャー、トランスバーサルスキル、カスタマイズドソリューションがある。
【石川中央執行委員長】
○ 何人ぐらいの社員が受講しているのか。
【ローレント クリオー学長】
○ 1 年に約 1,200 人である。
【佐藤議長】
○ 説明にあったビジネススポンサーとは何のことか。
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【ローレント クリオー学長】
○ 一つの企業がスポンサーというわけではなく、アクサがリーダーとなることで自ずとサポートいただける企業が
出てくるという意味である。
【石川中央執行委員長】
○ 日本の損保会社では定期的な人事異動があるが、アクサの場合は職種が専門的にわかれているのか。
【ローレント クリオー学長】
○ 異動はできる。様々な経験をすることで洞察力が高められる。
【佐藤議長】
○ それは意図的に人事異動させるのか。
【ローレント クリオー学長】
○ 以前は一時的なものとして実施していたが、今はキャリア開
発の観点で実施している。タレントレビュープロセスというも
のがあり、マネージャーが各人の能力をはかったうえで実施
している。
【石川中央執行委員長】
○ アクサのように全世界に進出しているとオペレーションがバラバラにならないか心配してしまう。そうした中で、
どのようにアクサの企業コンセプトや戦略を徹底しているのか。
【ローレント クリオー学長】
○ 経営トップが各国を歩くことで価値観を形成している。また、年に 1 回はトップが集まって共通意思を確認して
いる。なお、アクサカルチャーというプログラムが重要で、これはシニアミドルを中心とした入門プログラムであ
る。このように、予算の 90%はカルチャーをシェアするために使っている。 2012 とそれから を軸に、プログラ
ムに沿って学習をすすめている。
【照沼】
○ プログラム策定にあたっては労働組合の意見もふまえているのか。
【ローレント クリオー学長】
○ アジア太平洋ではそのようなしくみはない。ただ、欧州では
年に 1 回労使協議会を持っており、そうした場で意見は聞い
ている。
【佐藤議長】
○ 「5 リーダーシップチャレンジ」とは何か。
【ローレント クリオー学長】
○ 「お客様第一主義」、「アクサの価値の向上」などの取り組み
である。
説明を受けた後、館内のその他の施設を紹介いただき、キャンパスを後にしました。
5. シンガポール全国労働組合会議(NTUC)でのミーティング
(1) 出席:フローレンス ティー高級特別代表 他
(2) 場所:NTUC事務所
(3) 時間:11 時 00 分∼
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(4) 概要:
フローレンス ティー高級特別代表よりビデオにもとづいて歴史を含めてNTUCの紹介をいただいた
後、意見交換を行いました。
【フローレンス ティー高級特別代表】
○ NTCUには 60 の組合が加盟している。そのうち 11 の組合がUNIに加盟している。また、NTUCは 12 の社
会企業を有しているが、利益本位ではなく、社会への貢献が中核的ミッションである。さらに、3 つの関連団体
があり、労働紹介や訓練を担っている。最高機関会議は中央委員会で、会長はUNI−SLCの議長でもある
ジョン・デペイバ 氏が務めている。
○ NTUCは労働者の理解と経済的競争力のバランスを重視し
ている。昨年来の金融危機を受けて「Up turn」戦略を確認
した。今年の 3 月の失業率は 3.2%となっている。「Up tur
n」の 3 つの柱は「人員削減数がアジア通貨危機時の 29,000
人に達しないようにしよう」、「失業率が過去最悪だった
5.2%に届かないようにしよう」、「回復に努力しよう」ということ
である。ポリシーは「Cut costs to save jobs」で、すなわ
ち生産性を向上させて職を守ろうということである。政府のプ
ログラムの一つである「spur」には 6 億シンガポール$が確保されている。
○ 先週、NWC(国家賃金審議会)がガイドラインを発表した。基調は賃上げ凍結だが、業績をあげたところは賃
上げOKという内容となっている。なお、このガイドラインは 2003 年から政労使の三者構成で作成している。
○ その他、NTUCとしては女性が働きやすいように再雇用の取り組みを促進している。
【石川中央執行委員長】
○ 女性が働きやすい環境づくりに取り組まれているとのことだが、いつ頃から実施されているのか。また、その効
果はどのぐらい出ているのか。仕事に出ている間、子供の面倒は誰かが見なければならないという課題があ
るが、それに対して政府の支援はあるのか。
【フローレンス ティー高級特別代表】
○ 2 年前から実施している。これまでこのプログラムで 2,400 人が職に従事することができた。なお、パートタイム
を会社が受け入れない実態があるので、より会社を説得する仕掛けが必要となっている。また、5∼10 年間職
場を離れるとキャッチアップが大変で「やっぱりついていけない」となってしまうので、女性自身を説得する仕
掛けも必要である。
○ 誰が子供の面倒を見るかだが、1 つには親戚が見るという方法がある。また、2 つには託児施設に預けるとい
う方法もある。NTUCも「First Campus」という託児所を運営している。なお、現在は、保育園は国中に整備
されている。プライベートのものも政府系のものもある。
【佐藤議長】
○ 経済危機を受けた中での雇用維持策については理解できるが、そのうえで、シンガポール人労働者と外国
人労働者との衝突をどう克服しているのか。
【フローレンス ティー高級特別代表】
○ 外国人労働者は極端で、エキスパートか単純労働者にわかれる。そういう中で、もし帰国されてしまっては経
済が成り立たないという問題もあるので、やはりバランスが重要である。
【佐藤議長】
○ 賃金が下がれば消費が減るわけで、それに対して政府の生活支援が必要ではないか。
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【フローレンス ティー高級特別代表】
○ 例えば、昨日の夕食会で行ったレストランにはあまりお客はいなかった。そのように、毎日飲みに行っていた
人は回数を減らすしかない。さらにお客が減ればかなり落ち込みが激しいということになるが。どれぐらい耐え
られるかは危機の状況にもよる。政府はまだ楽観できないと言っているので、そのスタンスですすんでいる。
ただ、階層が低い人たちにとっては、これまでは普通の生活ができていたものの、今は相当厳しい。職業訓
練に行くお金もない。そこで、政府や労働組合が資金援助を行っている。例えば、交通機関のバウチャー券
や電気・水道・ガスのディスカウントである。それでも苦しい場合は失業手当が支給されるが、シンガポールの
場合は期間が区切られている。なお、例えば「新しい仕事が見つかりそうなのに給料が安いから働かない」と
いうのは許されない。
【河野書記長】
○ 連合は 20 周年を迎えるが、最大の問題として組織率が低く、その原因を分析するとともに、対策を検討してい
るところである。また、女性の労働運動への参画という課題も抱えている。そこで、連合とも付き合いがある中
で、率直に日本の労働運動をどのように見ているか印象を聞きたい。
【フローレンス ティー高級特別代表】
○ シンガポールも組織率は低い。交渉の結果、組合員でなくても賃金はあがるので、組合費を払わない ただ
乗り が多い。そこにどうアプローチするかである。福祉的にアプローチしているが、非常に難しい。そこで、今
NTCUとして 1 つ力を入れているのか、「nEbo」というTEENAGEの集まりを形成している。それを通じて労
働組合が何をやっているかを教えている。
○ また、女性をどうひきつけるかだが、労働者の半分が女性なのですすめやすい。女性は組合員人数の伸び
に貢献しており、参画率もあがっている。なお、NTUCは「Fair Price」というスーパーも経営している。そこ
では労働組合に入っていることによるメリットがある。また、女性に開かれた組織として、女性委員会や女性部
を設置している。企業の中で女性が発言できる場は、案外、
労働組合だけである。女性を受け入れてくれるのは会社で
はなく、労働組合なのである。
○ 連合は新しいことに取り組んでみてはどうか。日本の方が労
働運動の歴史は古い。その点では、高齢労働者への対策を
どうするのか。なお、シンガポールの場合は 2012 年にむけ
て外国人労働者へのアプローチ等を開始しているところで
ある。
【照沼】
○ 先週、NWCが発表したガイドラインの基調は賃上げ凍結ということで、一方で政府が訴えている消費の拡大
とは矛盾するのではないか。NTUCとしての見解を聞きたい。
【フローレンス ティー高級特別代表】
○ 業績が良い企業は賃上げして良いとなっている。政労使の三者構成で出されていることは重く受け止めなけ
ればならない。そのうえで、労働組合にはさらに交渉の余地がある。
【テリー リー委員長】
○ 三者構成のしくみは 1972 年からスタートし、その後、歴史とともに変化してきた。過去、NWCは%を勧告して
きた。しかし、業種によっては経済による影響が異なる、すなわち業種によって払えるところと払えないところ
があった。こうした状況で対応して勧告するとすれば成長率の良いところは賃上げOKということになる。根本
は生産性の伸びであり、現在のキーワードは持続可能性である。企業を痛めつける結果となってしまっては
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仕方がないので、政労使がWIN−WIN−WINの関係でなければならない。
○ 今回のガイドラインの策定にあたっては 4 回の会議を持った。最終的には、様々なセクターをカバーするため
にそれぞれの支払能力に任せた。最も重要な点は、労働組合との協議が前提条件にあることである。業績が
厳しい企業からはボーナス、さらにサラリーカットという提案が示されてくるので、労働組合の出番である。
○ なお、月例給の構成についてもガイドラインが出されており、70%が固定給、20%が賞与、10%が変動部分と
されている。ちなみに業績が良くても将来展望がない企業では一時金で支払われることになる。
なお、午後からのミーティングに先立ち、SBEU(シンガポール銀行労働組合)
、SBOA(シンガ
ポール銀行上級職員協会)主催の昼食会が開かれました。
6. SBEU事務所でのミーティング
(1) 出席:マイケル リム委員長、ボビー テイ書記長、スージー フー副書記長、マイケル チャン最高書記
(SBEU)
、ウィリアム ゴー委員長、フレディ タン副委員長、フア ティエン副書記長、S.
ニアマラ書記長代理、チャールズ スロウ会計担当(SBOA) 他
(2) 場所:SBEU事務所
(3) 時間:15 時 00 分∼
(4) 概要:
冒頭、SBEUとSBOAを代表してマイケル リム委員長よりスライドにもとづいて組織紹介がなさ
れた後、意見交換を行いました。
【マイケル リム委員長】
○ シンガポールには、SBEU(シンガポール銀行労働組合)とSBOA(シンガポール銀行上級職員協会)という
2 つの労働組合がある。DBS以外はこうした形態をとっている。共通の目的は、①良好な労使関係の構築、
②労働条件の改善、③企業の発展、である。
【石川中央執行委員長】
○ 前回訪問した際には前向きな意見交換ができたが、今回は
状況が一変している。そうした中でのシンガポールの銀行の
状況を教えていただきたい。
【マイケル リム委員長】
○ 現在の状況はそこまでひどくはない。シティバンクはアメリカ
で大きな影響を受けているが、シンガポールでは人員削減
は 3%で、ボーナスも昨年の業績にもとづいて支払われてい
る。ただ、来年は今年の業績ベースで決まるので厳しいであろう。また、サービスインクルメントの交渉は 9 月
まで据え置きとなっている。経営側の意向として労働組合に助けてもらいたいということがあり、例えば休日に
働いても代休で処理している。なお、SBOAでは人員削減は多くない。ただ、ボーナスの算出のしくみはSB
EUと同じであり、サービスインクルメントの交渉も 9 月まで待とうということになっている。ちなみにSBOAはオ
フィサーの労働組合なので超過勤務がない。必要なタクシー代等は現金で支払われるが。
【石川中央執行委員長】
○ 金融危機により顧客との関係に影響が生じたか。
【マイケル リム委員長】
○ 具体的には把握していない。ただ、リーマンの破綻で人々の考え方は変わった。お客は投資の見返りをどう
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してくれるのかと言ってきており、当局(MAS)による規制の結果、銀行として投資性商品を扱えなくなった。
【河野書記長】
○ MASの指導に対する受け止め方を聞きたい。
【マイケル リム委員長】
○ おそらく明日皆さんが会うのは保険担当のメンバーである。ただ、例えば、投資商品に関して文句を言う人が
多いが、厳しいガイドラインはできていない。発出する前に公聴会を開いている段階である。
【河野書記長】
○ それに対して労働組合はどう関わっているのか。
【マイケル リム委員長】
○ MASと労働組合は直接やりとりしない。MASとやるのは保険協会や銀行協会である。もし労働組合がやると
すればNTUCである。
【ウィリアム ゴー委員長】
○ なお、商品の売り方まで法律で決められていて厳しい面がある。
【佐藤議長】
○ 日本の金融庁もかつては資産査定がメインだったが、最近はコンプラインスを重視する傾向がある。
【ウィリアム ゴー委員長】
○ シンガポールも同様であり、職員教育まで求められている。
7. DBSSU事務所でのミーティング
(1) 出席:ノラ カン委員長、アイリーン コー副委員長、オー スー ギョク書記長 他
(2) 場所:DBS事務所
(3) 時間:17 時 45 分∼
(4) 概要:
冒頭、石川中央執行委員長より訪問主旨を説明した後、意
見交換を行いました。
【アイリーン コー副委員長】
○ 金融危機による様々な影響が出ている。DBS銀行では昨年
人員削減が行われた。その人たちに新しい職に就いてもら
えるように、DBSSUはNTUCと一緒に「e2i」を通じて協力している。ミドルマネージャーだった人たちにも機
会を与えている。なお、DBS銀行では 373 人の人員削減が行われたが、そのうち 60%が別産業で再就職し
た。銀行業界にはそれほど仕事がない。具体的な再就職先としては、コールセンターや教員補助等である。
373 人のうち 117 人が労働組合のメンバーであったが、ほとんどが高い身分であった。ただ、スキルがあった
ので同等の道にすすむことができた。その点で言うとジェネラリストの再就職は難しい。そこで、どういう職業
訓練がなされているかと言うと、保育や警備、介護等の分野である。ちなみにカジノもオープンの予定で、カ
ジノへの就職もある。なお、NTUCで職業訓練を受けた人々の約 70%が再就職している。
○ シンガポールでは最初の四半期で約 10,000 人が人員削減にあった。そのうち約 1/3 が労働組合の組合員で
あった。ちなみにDBS銀行が一番多い。
【石川中央執行委員長】
○ なぜ一番多いのか。
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【ノラ カン委員長】
○ 2006∼2007 年頃は雇用過剰であった。そのうえで、2008 年に政府が実施するベイビーボーナス(子育て援
助)口座をOCBC銀行に持っていかれてしまった。その口座は対象の子供が大学まで据え置かれることにな
るので、かなりの影響が出た。
【石川中央執行委員長】
○ 自由競争に反する気がするが。
【ノラ カン委員長】
○ 競争入札で負けたのである。最初はDBS銀行が郵便貯金として指名されていたのだが。
【アイリーン コー副委員長】
○ 今は自由競争なのである意味仕方がない。
【佐藤議長】
○ そのインパクトは金額的に大きいのか。それとも受けた衝撃が大きいのか。
【ノラ カン委員長】
○ 関連取引もすべてOCBC銀行にうつってしまうことが大きい。
【佐藤議長】
○ ちなみにDBS銀行の資金量はいかほどか。
【ノラ カン委員長】
○ 貯蓄銀行部門ではまだ最大量を保有している。ただ、金融危機の影響であらゆるところで職員が減少してお
り、幾つかの部門の合併もすすんでいる。
【照沼】
○ 銀行側の戦略と、それに対する労働組合としての働き方はどうなっているのか。
【ジャヤスリ プリヤラル金融担当部長】
○ インドのある銀行は 2 回危機に陥った。その際、35%の職員を人員削減しなければならないということで、最
初は希望退職を実施した。ただ、銀行側にしてみれば優秀な職員は確保しておきたいので、まず希望退職
者に社債を渡した。そして、毎月特別利益を渡し、業績が回復したら彼らはヒーローとして扱われ、感謝の気
持ちとして社債にさらに特別な利益を上乗せした。その結果、銀行に優秀な職員に残ってもらうことができた。
ただ、事前に労働組合との協議はなかった。
【佐藤議長】
○ 現在のDBS銀行の経営環境はどうか。
【アイリーン コー副委員長】
○ セールスがダウンしている。MASの規制によって販売スタイ
ルも変わった。具体的には、サービスにフォーカスが集まっ
ている。
【ジャヤスリ プリヤラル金融担当部長】
○ 金融危機で資産を失った富裕層が訴えを起こすことが増え
ている。そういう意味でもサービスが求められている。ちなみに以前はコミッション至上主義でできたが、今は
できない。
【山崎事務局長】
○ ベイビーボーナスの金額的な影響はいかほどか。また、373 人が人員削減されたとのことだが、解雇ルール
はないのか。
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【アイリーン コー副委員長】
○ 21 万口座あるのでかなり大きい。また、解雇に関しては政労使の三者構成で示されたガイドラインがあるので、
それに照らして使用者側が決定すれば解雇できる実態となっている。
ミーティング終了後、DBSSU主催の夕食会が開かれました。DBSSUの他の執行部やDBS銀行
の社員など多くの方々にお集まりいただきました。
<最終日:2009 年 6 月 10 日(水)>
8. NTUCクラブ事務所でのミーティング
(1) 出席:ラウ リアン ヒー上級マネージャー、リム エン リー総合ディレクター、イー ヒー シュアンデ
イレクター、スティーブン タンディレクター 他
(2) 場所:NTUCクラブ事務所
(3) 時間:10 時 45 分∼
(4) 概要:
冒頭、イー ヒー シュアンデイレクターより施設の概要説明を受けた後、意見交換を行いました。
【イー ヒー シュアンデイレクター】
○ NTUCクラブは 1986 年に設立された。NTUCの 12 ある社会
企業の一つで、NTUCのレジャーと娯楽を受け持っている。ミ
ッションは、安価でレクリエーションの機会を提供し、そのことで
労働運動の強化に寄与することである。
○ NTUCの各加盟組合に 1 名代理人がいて、連携をはかってい
る。なお、「U Live」という、55 歳以上であれば自動式に加入
するしくみがある。また、45 歳で退役して第二の人生を送る軍
人や、いずれ職場に戻ってくる主婦層をターゲットとしたしくみ、
さらには、ティーンエイジャーを労働組合に引き込むしくみも持っている。
○ なお、単に経済的な提供だけでなく、中低所得層むけのカーニバルというものも年 6 回開催している。入場料
は無料にするなど特典を設けている。
【石川中央執行委員長】
○ 規模の大きさに驚いている。一方で、大変生活に根づいていると感じている。なお、金融危機を受けて、日本
では労働者の所得が減少しており、そういう中でこうした組合員の福利厚生の拡充に関する取り組みができ
れば意義があると考えるが、シンガポールにおける状況を聞きたい。
【ラウ リアン ヒー上級マネージャー】
○ その点では予算は厳しく見積もっている。例えば、今ちょうど夏休みで、ホテルは通常であれば 100%の稼働
率だが、90%程度となっている。オフピークになった時にどういう状況になるか心配している。他の娯楽施設と
の競争も激しい。カジノができる予定だし、ユニバーサルスタジオもある。さらに、経済危機や新型インフルエ
ンザの影響も懸念される。
【石川中央執行委員長】
○ 他の一般施設にも労働組合があると思うが、そことの衝突はないのか。
【ラウ リアン ヒー上級マネージャー】
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○ シリアスな衝突はない。労働組合にとっては会議等の空間は必要であり、そのために使用いただいている。
【河野書記長】
○ 労働組合のメンバーにとってのメリットは何か。
【ラウ リアン ヒー上級マネージャー】
○ 例えば、宿泊料は低くおさえている。組合員に好ましいように差はつけている。ポイントカードもある。なお、利
用率は組合員の方が高い。ちなみに組合員は誕生日の使用料は無料である。
【河野書記長】
○ 運営費用はどのように賄っているのか。別の会費等を徴収しているのか。
【ラウ リアン ヒー上級マネージャー】
○ NTUCからの交付金はない。基本的に独立採算である。また、組合費以外の会費はない。なお、NTUCクラ
ブでは 700∼1000 人の従業員が働いている。
【河野書記長】
○ 日本では考えられない。秘訣は何か。
【ラウ リアン ヒー上級マネージャー】
○ 設立当時、土地は政府が安価で提供してくれた。それだけ昔も今もNTUCの国への貢献が大きいということ
である。また、労働組合は運営にはあまり関与しない。あくまでも運営はプロフェッショナルに任せられている。
ただ、一方で労働組合との緊密なパートナーシップは有している。
ミーティング終了後、NTUCクラブ内の各施設を案内いただき、同クラブ内のレストランで昼食会が
開かれました。
9. シンガポール通貨庁(MAS)でのミーティング
(1) 出席:ロウ クオック ムン最高ディレクター、ロー ポーイ リアンディレンター代理、ゴー エイク リ
ムアシスタントディレクター 他
(2) 場所:シンガポール通貨庁
(3) 時間:14 時 30 分∼
(4) 概要:
冒頭、石川中央執行委員長より御礼を述べるとともに、
「シンガポールにおける金融危機への対処策を学び、労働
組合活動で活かしたい」といった主旨説明を行った後、意
見交換を行いました。
【ロウ クオック ムン最高ディレクター】
○ 両国の緊密な関係があらゆる領域ですすむことが期待している。なお、先日、京都でジュネバアソシエーショ
ンの会議があり、日本の保険会社ともご一緒したところである。
【ゴー エイク リムアシスタントディレクター】
○ MASはシンガポールの規制当局と中央銀行の両方の機能を有している。1971 年 1 月 1 日にMAS法にもと
づいて設立された。
【石川中央執行委員長】
○ 監督基準が日本の金融庁と似ていると認識している。特に消費者に焦点をあてている点である。日本の損保
を取り巻く状況は基本的にシンガポールと同様で、少子化・高齢化がすすんでいる。自動車の販売が減少し
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ており、収益は悪化している。また、貨物保険も大きなウエィトを占めているが、鈍化している。さらに、国内の
設備投資も減少している。このように、損害保険業そのものでは利益を生み出すことが困難な状況にある。そ
のため、介護、メンタルヘルスを含めた医療などの新事業や、海外への事業展開をはかっている。
○ そのうえで、金融庁の監督指針を説明したいが、まず大きなトピックスとして、2005 年に保険金の支払い漏れ
を発生させた。各会社が利益拡大を追求し過ぎ、保険金支払い部門への経営資源分配が不十分であったこ
となどが理由として挙げられる。さらに、自由化によって商品が複雑となり、お客も売る側も内容を把握しにく
い商品であったこともある。そうした中で、保険法が約 100 年ぶりに改正され、同時に、消費者保護を重視し
た業務品質の向上が強く求められている。そこで、損保会社が取り組んでいるのは商品の簡素化と説明責任
の徹底である。日本の損保の場合は代理店が中心であり、募集人の資質を向上させなければならない。代理
店が正しい説明をできるように支援するしくみをつくるのが今の流れである。また、AIGの事態を受けて、財
務体質の健全性の強化も求められている。
○ ちなみに今回の金融危機によるシンガポールにおける損保
への影響をどう見ているのか。また、どう分析したうえで、どう
将来の指導に活かそうとしているのか。
【ロウ クオック ムン最高ディレクター】
○ シンガポールの経済は全体的に日本と似ている。例えば、
貿易の落ち込みが建設業の落ち込みに直結している。外国
人労働者への医療保険も課題である。また、自動車保険が
保険料高となり、クレームによるロスをカバーできるようにしな
ければならないという問題もある。さらに、高齢化がすすむ中で、当然、適切な医療保険が重要となってい
る。
○ ただ、幸いシンガポールではそれほど金融危機によるダメージはない。サブプライム関連商品をあまり積極
的に買っていなかったという事情がある。しかし、他の投資家は 津波 で多くの損を被った。そこで、MASと
してはコアビジネスにフォーカスするように言っている。すなわち、保険会社は保険業に特化しろということで
ある。なお、強力なマネジメントも必要となっている。例えば、トラブルが起こった時にシニアマネージャーが
そのことによる損失を理解しているのかどうかということがある。なぜならマネージャーは短期で交代するので、
リスクの責任をとらない傾向がある。
【石川中央執行委員長】
○ 国際的に連携しているという話があったが、グローバル化がすすむ中で、監督する立場から特に重視してい
る点は何か。
【ロウ クオック ムン最高ディレクター】
○ すべての領域に関心を持っている。縛るというより全般にわたって強化するといったところか。
【石川中央執行委員長】
○ 今後の日本の金融庁との連携はどのように考えているか。
【ロウ クオック ムン最高ディレクター】
○ 金融庁とは緊密に連携をとっている。以前も日本で保険シンポジウムに参加した。お互いに情報交換を行っ
ている。
○ なお、もう一点、今後はよりアジア全体を重視したい。国際的基準を策定する時に重要であると考えている。
【照沼】
○ 規制当局と中央銀行の両方の機能を有しているという話があったが、日本では日銀の政府からの独立性が
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保たれている。両方の機能をどのようにバランスをとっているのか。
【ロウ クオック ムン最高ディレクター】
○ 例えば政府が介入してくるにしても、想定されるのは金融大臣によるものである。我々も担当する大臣にしか
報告はしない。しかし、幸い政府は介入してこず、専門家に任せるというスタンスをとっている。また、もう一つ
の側面として、シンガポールの場合は財政赤字がないので、その点での圧力もかかってこない。
【石川中央執行委員長】
○ 説明にあった消費者教育に興味がある。具体的にどのような活動を行っているのか。
【ロウ クオック ムン最高ディレクター】
○ 新聞の紙面を活用したり、コミュニティーセンターに出向いたりしている。また、学校レベルから教育をスタート
している。これらは時間を要するので、短期では結果は出ない。なお、保険会社はセンターを立ち上げ、紛
争の調停にあたっている。MASとして特に強く言っているのは、もっとお客様の声を聞いて問題が起きない
ようにしなさいということである。
10.NTUCインカム労組とのミーティング(SIEU事務所)
(1) 出席:ローランド第二副委員長、ウン チャー フォン上級財政相談役 他
(2) 場所:SIEU事務所
(3) 時間:17 時 25 分∼
(4) 概要:
冒頭、ウン チャー フォン上級財政相談役よりNTUCインカムの戦略を含めて挨拶いただいた後、意
見交換を行いました。
【ウン チャー フォン上級財政相談役】
○ 特に変化が起きている良いタイミングであると受け止めてい
る。第一世代は利益もあげないし、労働者も大事にしないと
いう考え方、第二世代は利益をあげてメンバーに貢献すると
いう考え方、第三世代は社会的企業という考え方である。こ
のように、社会的な目的は変わっていないが、形態は変わっ
てきている。特にシンガポールでは、グローバルな保険会社
と戦わなければならない。例えば、コーヒーをスターバックス
で買う時代になった。そのように、買う内容を強調した戦略が求められるようになってきている。NTUCインカ
ムはシンガポールでは一位だが、世界でも一位にしたい。
○ なお、経営も変わっていくが、労働組合も変わっている。そういう意味で、良い時代を生きていると認識してい
る。現在、「文化革命」と呼んでいて、文化自体を変えようとしている。競争に打ち勝たなければならない。た
だ、基本は忘れない。具体的には、オンラインを活用したしくみ等により、若い人たちをターゲットにしている。
商品も高品質化をすすめている。そういう意味で、100%新しい企業に生まれ変わろうとしている。
【照沼】
○ NTUCインカムには、50 周年時に日本にお越しいただいて講演いただいたり、逆に昨年には全労済のメン
バーがウェブのしくみの視察で訪問させていただいたりと、大変良好な関係を築かせていただいている。経
営側だけでなく、是非、労働組合同士でも連携を深めさせていただきたい。
○ ところで、その 50 周年時の講演で話があったが、近年、協同組合としての税制面での優遇幅が小さくなって
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きているとのことであった。日本でもアメリカ等からの外圧により保険業とのイコールフッテングが求められてお
り、規制がどんどん厳しくなってきている。確かに契約者保護は大事な視点だが、一方では、保険と共済の違
いを繰り返し議論し、その意義を発信していかなければならないと考えている。その点で、NTUCインカム、
ならびに労働組合ではどのような議論がなされているのか聞きたい。
【ウン チャー フォン上級財政相談役】
○ 確かに税制面での優遇幅はなくなってきている。ただ、アドバンテージということではやはり労働組合とのつ
ながりが大きく、NTUCがバックにいて存在が保証されている。また、政労使という三者構成の枠組みがきっ
ちり機能しているので、結果的に政府の保証も得ていることになる。それは出資者にとっても良い話である。
【テリー リー委員長】
○ NTUCの 12 の社会企業は毎年レポートを発表しているが、メンバーが常に特権を受けられるようにしなけれ
ばならない。そこで、NTUCインカムの場合は、具体的に、「LUV」という組合員むけの掛金の安い商品を用
意している。労働運動には組織拡大が必要である。組合員であれば「LUV」に加入できる。そのように、NT
UCインカムの出資者は組合員に良い商品を提供していなければモノを言う。また、CSRの観点から、利益を
あげているならどうメンバーに還元するのかが問われる。
○ ちなみにNTUCインカムはシンガポールで二番目に設立さ
れた協同組合で、来年 40 周年を迎える。
【河野書記長】
○ 職員教育について聞きたい。協同組合の場合、金融のプロ
を育てると同時に、協同組合の原則も教え込まなければなら
ないが、その辺りはどのように実施しているのか。
【ウン チャー フォン上級財政相談役】
○ NTUCインカムの研修は商品知識、スキルを含めて大変充
実していると認識している。
【照沼】
○ 冒頭に第三世代としての社会的企業をめざすという話があった。現在、日本でもソーシャルビジネスという考
え方が大変注目されており、少しずつではあるが、それらを支援しようという動きも出てきている。メンバーだ
けでなく、運動・事業の成果を広く社会に還元するという考え方はまさにめざすべき方向性であり、そうしなけ
れば協同組合の存在価値はないと言っても過言ではない。是非、今回を機にさらに連携を深めさせていただ
くことをお願いしたい。
最終日の夜は滞在中にお世話になった多くの皆さんにお集まりいただく中で、
SIEU主催の夕食会が
開かれました。
※ なお、夕食会でのローランド第二副委員長とウン チャー フォン上級財政相談役の話によると、NTUCイン
カムはパブリック(一般加入者)、メンバー(職域加入者=労働組合の組合員)とも、個人からの出資金は徴
収していないことが判明しました。また、商品の掛金は基本的に両者で同一なのに、利益は徹底的にメンバ
ーのみに還元されていることがわかりました。パブリックは基本的に高所得者が多く、中低所得者が多いメ
ンバーのみに利益を還元することで、結果的にNTUCインカムが社会保障に代わる所得分配機能も有して
いることになります。お二人はその点での意義も強く強調されていました。
以 上
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