当院における周術期肺塞栓症の検討

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神奈川医学会雑誌 第34巻・第1号(平成19年1月1日)
症例は56歳,女性。20歳時他院にてRAと診断され保
12.当院における周術期肺塞栓症の検討一8例の経験か
存的に加療されていた。32歳時に左人工股間節置換術
ら一
(以下THA)施行され,34歳時に右THA,36歳時に両
横須賀共済病院整形外科
側人工膝関節置換術(以下TKA),左肘関節形成術,55
○加藤 慎也 江畑 功 島田 信弘
歳時に右人工肘関節置換術(以下TEA)施行された。
安原 義昌 須賀 雄一 藤原 豊
5年前より左股間節痛,右膝関節痛が出現し,X−P上
清野 光理 田辺 博宣 杉浦 崇夫
両側股間節に100sening,また右膝関節にsinkingを認め
近年,肺塞栓症の発症が頻回に報告されるようになっ
56歳時(平成17年5月)に左THA,右TKAの再置換術
てきたが,当院においても過去5年間に8例の周術期肺
を施行し,現在は歩行可能である。
栓塞栓症を経験したので報告する。
人工関節再置換術の施行時期について身体症状(関節
性別は男性1例,女性7例,年齢は平均65.4歳,BMI
痛など)と画像所見が相関せず,再置換術の施行時期の
は平均24,8であった。外傷手術7例(大腿骨頸部内側骨
判断に苦慮することがしばしばある。今回の症例では
折2例,外側骨折2例,骨幹部骨折1例,膝関節1例,
X−P上の両股間節にIooseningを認めたが,症状のある
足関節1例)人工膝関節1例であった。左右差では左側
左側のみ手術をおこない,右側は症状がない為外来で経
4例,右側4例であった。いずれも早期の治療により救
過観察中である。今回再置換術の施行時期について考察
命しえた。当院での外傷の手術に伴う肺塞栓の発生頻度
を加える。
は骨盤下肢が0.6%。股関節骨折が1.0%であった。人
工膝関節は1、1%であった。外傷の手術は,肺塞栓のリ
11.手術を施行した梨状筋症候群の2例
スクレベルがさまざまな負荷因子により,人工関節手術
聖マリアンナ医科大学東横病院整形外科
より,さらに上がると考えられるが,その予防法の施行
O川口 直之 磯見 卓 大沼 弘幸
も困難なため,肺塞栓症の発症を完全に予防することは
富田隆太郎 蒲地 真里 岡田 洋和
不可能と考えられ,受傷直後より患者および家族への十
清水 弘之
分な説明と啓蒙が最も重要と考えられる。
【目的】
梨状筋症候群は比較的稀であり,坐骨神経痛を主訴と
《一般演題 皿》
する他の腰痛疾患との鑑別に難渋することが多い。今
回,手術を要した梨状筋症候群の2例を経験したので文
13.第8頚神経根嚢腫の1例
献的考察を加えて報告する。
磯子中央・脳神経外科病院整形外科
【症例】1.42歳男性,左下肢痛,痺れが出現腰椎椎
○小島 利協 武村 憲治
問板ヘルニアを疑いMRIおこなうが,明らかな異常所
神経根嚢腫は仙骨部に好発し,仙骨嚢腫(perineuraI
見は認められなかった。坐骨神経の圧痛と股関節内旋位
sacral cyst)として報告例が散見される。偶発的に発見
での症状増強等の所見から梨状筋症候群と診断した。6
され無症状のものが多いが,嚢腫の弁機構が働くと内圧
カ月間坐骨神経ブロックをおこなったが効果は一時的で
が脳脊髄液より高くなり,骨侵食や周囲神経圧迫をきた
改善が得られなかったため手術(梨状筋切離,神経剥離)
し症状発現にいたり手術治療が必要となる場合もある。
を行った。術後疹痛は軽快した。
今回我々は第8頸神経根に発生した神経根嚢腫の手術例
2.51歳女性,右轡部から大腿外側に痛み出現し,椎間
を経験したので報告する。
板ヘルニアの診断で仙骨裂孔ブロック,硬膜外ブロック
症例70歳,女性。2004年12月より左肩のしびれ・痛み
を行うも効果なかった。梨状筋症候群を疑い梨状筋ブ
が出現し近医で通院治療を行っていたが,2005年4月末
ロックを行ったところ疹痛の軽減が認められた。4カ月
より左肩・前胸部痛が増強し激痛となり5月6日当科を
の保存療法にて症状の改善が得られなかったため,手術
紹介受診した。MRIにて左C8椎間孔内にTI low,T2
をおこない疹痛は消失した。
highのcysticlesionを認めた。
【考察】坐骨神経痛の症状を呈する症例は腰痛疾患のみ
単純X線像で左C8椎間孔のscaUopingを認めた。嚢
にとらわれず,梨状筋症候群を念頭に置くことが重要で
腫を伴った神経鞘腫または神経根嚢腫の診断で5月!7日
ある。
手術をおこなった。後方より左C7/Th!椎間関節を切除
し嚢腫を観察,C8神経根は尾側に圧迫されThl椎弓根に
接していた。嚢腫はC8神経根から発生しており,内容
は粘稠ではなく髄液そのものという感じであった。嚢腫