関節リウマチ診療ガイドライン 2014

関節リウマチ診療ガイドライン
2014
山 中 寿
はじめに
﹃関節リウマチ︵RA︶診療ガイ
このたび、
ドライン2014﹄が、一般社団法人日本リウ
マチ学会から出版された。本ガイドライン作成
の責任者として、このガイドライン作成の概要
について解説する。
RA診療の進展と
わが国におけるガイドライン
RAの診療は過去 年間で劇的に変化した。
生物学的製剤をはじめとする分子標的薬が多数
開発されて、疾患活動性は良好にコントロール
できるようになり、患者予後も改善した。しか
し、これらの新しいクラスの薬物を、適切な患
者に適切に投与するためには、薬物投与をサポ
ートするインフラ整備も必要である。
RA診療においても、早期診断を可能にした
新しい分類基準や、治療目標を明確にした新し
い寛解基準などが策定されて、早期から疾患活
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関しては全世界的に共通のものであってよい。
種に等しく生じる慢性疾患であり、治療原則に
常診療でも活用されている。RAはすべての人
らいくつも報告されていて、すでにわが国の日
の診療に関するリコメンデーションは、欧米か
は、入り口と出口をつなぐ方法論である。RA
動性をコントロールする根拠が示された。あと
な変革があり、新しいガイドラインの作成が待
リウマチ薬が登場するなど、治療方針にも大き
TX︶の最大用量の追加承認や新しい従来型抗
が、改訂後に生物学的製剤︵ bDMARD
︶が 相
次いで承認されたほか、メトトレキサート︵M
標榜が認められたことを機に作成されたものだ
04年改訂︶がある。これはリウマチ科の自由
たれていた。
しかしながら、日本は欧米各国とは医療体制、
医療保険システム、薬剤のレパートリーなども
本ガイドラインは、平成 年度厚生労働科学
研究費補助金 免疫アレルギー疾患等予防・治
異なる。わが国だけで投与されている薬剤も複
らのことを勘案すると、日本におけるRA診療
に一定の人種差が存在すると考えられる。これ
数あり、また同じ薬剤でも治療反応性や安全性
表者 宮坂信之教授︶の一環として、関節リウ
マチ治療の標準化に関する多層的研究︵研究代
療研究事業指定研究 我が国における関節リウ
年 月に日本リウマチ学会から発刊された。
山中 寿教授︶が組織され、作成が開始された。
そして、3年の年月をかけて完成し、2014
マチ診療ガイドライン作成分科会︵分科会長
これまでRAの診療ガイドラインとしては、
日本リウマチ財団が1997年に発行した﹃関
に特化したガイドラインが必要である。
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節リウマチの診療マニュアル 診断のマニュア
ルとEBMに基づく治療ガイドライン﹄
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本ガイドラインの特徴
本ガイドラインの特徴を列挙する。
GRADE法を用いて作成し、
患者の意見を反映したこと
ン作成法と比較すると、作業量は格段に増える
が、多くの情報を取り入れる分だけ日常臨床の
現場に近い指針を示すことができると期待され
ている。
とエビデンスレベルのギャップは大きな課題で
性が認識されている診療行為は多く、日常診療
の現場では、エビデンスレベルが低くても有効
治療法は推奨されないことも多かったが、臨床
ンスレベル=推奨度であり、エビデンスのない
された。従来のガイドライン作成では、エビデ
ライン作成法であるGRADE法を用いて作成
働省に提出した市販後臨床試験の成績を抜粋し
ンスに関しては製薬会社の協力を得て、厚生労
適宜追加し解析した。次に、益と不利益のバラ
能なかぎり流用し、それに新しいエビデンスを
るので、既存のシステマティックレビューを可
システマティックレビューも多数出版されてい
にはすでに多くのエビデンスが蓄積されており、
まず、エビデンスの評価に関しては、RA診療
今回、GRADE法をRA診療ガイドライン
本ガイドラインは、京都大学の中山健夫教授 で用いるにあたって、いくつかの工夫を行った。
の提案により、現時点では最も進化したガイド
あった。
盛り込んで、エビデンスレベルとは独立した推
不利益のバランスや患者の意見・価値観なども
GRADE法は、単にエビデンスを吟味して
エビデンスレベルを決定するだけでなく、益と
カスグループによる意見の聴取などを行ったう
だいてアンケート調査を実施し、さらにフォー
は、日本リウマチ友の会の多大なご協力をいた
い方法を採用した。また、患者の意見の集約に
てまとめ、推奨度の決定に利用するという新し
奨度を決定する方法である。従来のガイドライ
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えで、患者会の代表者にパネル会議に参加して
日本リウマチ学会から
成し、推奨度を決定した。
﹁関節リウマチ診療ガイドライン
JCR2014﹂として出版したこと
取り入れた。わが国のRA診療は内科医のみな
る推奨も取り入れたほかに、整形外科的治療も
日本のRA診療では、いろいろな点で欧米と
は診療環境が異なる。わが国独自の薬剤に関す
欧米のガイドラインでは
収載されていない手術療法や
リハビリに関しても収載したこと
味で、このガイドラインは非専門医の先生方の
滑な病診連携のためのツールでもある。この意
専門医にも有益な情報が盛り込まれており、円
のであるが、日常診療でRA患者に遭遇する非
が必要であった。したがって、本ガイドライン
ガイドライン発刊にあたって
はRA診療を専門的に行う医師を対象としたも
必要性があり、日本リウマチ学会における作業
ントを求めたり、利益相反マネジメントを行う
らず、多くの整形外科医が日常診療に関与して
お役にも立てるものと考えている。
建するための手術が必要な患者は多い。今回は、
前に関節破壊が進行してしまい、関節機能を再
いる。また治療が進歩したと言っても、それ以
本ガイドラインは、厚生労働省研究班の事業
として作成したが、専門医からパブリックコメ
いただき、推奨度の決定において他の委員と対
等の立場で投票していただいた。この意味で、
患者の意見が推奨度に反映されたガイドライン
であることの意義はとても大きいと考える。
わが国独自の薬剤の使い方や
3)
ガイドラインは現在の医療レベルを反映した
整形外科的療法やリハビリについてもクリニカ
推奨の集大成であるが、あくまで日常診療にお
ルクエスチョンを設けて、ステートメントを作
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ける臨床的判断を支援するものであり、医師の
判断を拘束したり、規制したりするものではな
い。日常診療は多くの不確定要素を含んでおり、
ガイドラインを逸脱しても正当化されるべき診
療もあるし、ガイドラインどおりに行うことが
すべてを正当化するものではない。このことを
特に強調するとともに、ご理解を願いたい。
最後に、本ガイドライン作成に多大な労力を
ご提供いただいた先生方ならびに関係者に深甚
の感謝を申し上げるとともに、
﹁関節リウマチ
診療ガイドラインJ CR2014﹂が十分にご
活用いただけることを願ってやまない。
︵東京女子医科大学附属
膠原病リウマチ痛風センター
所長︶
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