海上無線通信の動向 ∼WRC議題の審議状況など∼ - ITU-AJ

スポットライト
海上無線通信の動向
∼WRC議題の審議状況など∼
みやでら
日本無線株式会社 海上機器事業部 企画推進部
よし お
宮寺 好男
1.はじめに
2015年世界無線通信会議(WRC-15)は2015年11月2日
∼27日にジュネーブにて開催予定ですが、それに先立ち第2
回会議準備会合(CPM15-2)が2015年3月23日∼4月2日に
(1)操船、荷役その他の船舶の運航上必要な作業のため
の通信で当該船舶内において行われるもの
(2)救助又は救助訓練のための通信で船舶とその生存艇
又は救命浮機との間において行われるもの
開催されます。CPM15-2会合ではCPMレポートが作成され
(3)操船援助のための通信で引き船と引かれる船舶又は
ます。CPMレポートはWRCにおける議論のたたき台になる
押し船と押される船舶との間において行われるもの
とともに、作業部会の会合に参加していない開発途上国等
(4)船舶を接岸させ又は係留させるための通信で船舶相
がWRCへ向けた審議状況を学ぶために用いられます。
互間又は船舶とさん橋若しくは埠頭との間において行わ
CPM15-2会合へ入力するCPMテキストの締切が本年8月15
れるもの
日となっているため、各作業部会ではCPMテキスト案の取
と定義されています。船上通信は主に当該船舶内での通信
りまとめが行われています。
に用いられており、UHF帯船上通信では主に表1の6波が用
海上無線通信に関するWRC-15の議題は、議題1.8(船上
地球局(ESV)に関連する規定の見直しの検討)
、議題1.9.2
(7375-7750MHz帯及び8025-8400MHz帯における海上移動
いられていますが、我が国においては実質的に457MHz台の
3波のみが使用されています。
表1.現在主に使用されている25kHz間隔チャネル
衛星業務への周波数分配の検討)
、議題1.15(UHF帯にお
船上通信用チャネル(MHz)
ける船上通信局の周波数要求の検討)
、議題1.16(船舶自動
457.525、457.550、457.575
467.525、467.550、467.575
識別装置(AIS)技術の高度利用及び海上無線通信の向上
のための規制条項及び周波数分配の検討)及び議題9.1課題
議題1.15は海上移動業務に既に分配されているUHF帯に
9.1.1(移動衛星業務(406-406.1MHz帯)の保護に関する
おいて、船上通信局の追加周波数を検討する議題で、決議
検討)などがありますが、ここでは議題1.15及び議題1.16に
第358(WRC-12)に記載されています。これまでの議論では
おける最新の審議状況などを紹介させていただきます。
新たに船上通信用としての追加周波数は要求せずに、RR脚
注5.287で追加分配されているチャネル間隔12.5kHzの周波
数全4波(通常はチャネル間隔25kHzの6波のみ船上通信で
2.議題1.15 UHF帯における船上通信の周波数の追加
使用)を積極的に使用できる環境を整えるとともに、
船上通信とは、無線通信規則(RR)第1条 第Ⅳ節 第1.79
6.25kHz及び12.5kHz間隔のデジタル変調方式を導入する方
号において、on-board communication station: A low-pow-
向で、ITU-R勧告M.1174-2の改訂が検討されています。RR
ered mobile station in the maritime mobile service intended
脚注の修正はWRCにおいて審議されますが、ITU-R勧告の改
for use for internal communications on board a ship, or
訂は第5研究委員会(ITU-R SG5)において審議されます。
between a ship and its lifeboats and life-rafts during
2014年5月に開催されたITU-R SG5 WP5B会合において
lifeboat drills or operations, or for communication within a
CPMテキスト案に記載するMethod(議題を満足するための
group of vessels being towed or pushed, as well as for line
手法)が作成され、議題1.15では上記検討を踏まえた唯一
handling and mooring instructions.と定義されています。
のMethodとして、RR脚注5.287の修正案と決議第358
日本では、電波法施行規則第二条第一項第四十号の三によ
(WRC-12)の削除が記載されています。
り、
「船上通信設備」とは、次の(1)
、
(2)
、
(3)又は(4)
RR脚注5.287は次のような修正案となっています。
に掲げる通信のみを行うための単一通信路の無線設備であつ
5.287 Use of the bands 457.5125 - 457.5875 MHz and
て、第十三条の三の三に規定する電波の型式、周波数及び
467.5125 - 467.5875 MHz by In the maritime mobile serv-
空中線電力の電波を使用するものをいう。
ice, is limited to the frequencies 457.525 MHz, 457.550
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ITUジャーナル Vol. 44 No. 7(2014, 7)
表2.ITU-R勧告M.1174-2改訂案で検討中のUHF帯船上通信チャネル
Lower channel
Upper channel
25kHz channel 12.5kHz channel 6.25kHz channel
25kHz channel 12.5kHz channel 6.25kHz channel
Ch.
Ch.
1
2
3
MHz
457.525
457.550
457.575
Ch.
MHz
11
457.5250
12
457.5375
13
457.5500
14
457.5625
15
457.5750
Ch.
MHz
102
111
112
121
122
131
132
141
142
151
152
161
457.515625
457.521875
457.528125
457.534375
457.540625
457.546875
457.553125
457.559375
457.565625
457.571875
457.578125
457.584375
4
5
6
MHz
467.525
467.550
467.575
Ch.
MHz
21
467.5250
22
467.5375
23
467.5500
24
467.5625
25
467.5750
Ch.
MHz
202
211
212
221
222
231
232
241
242
251
252
261
467.515625
467.521875
467.528125
467.534375
467.540625
467.546875
467.553125
467.559375
467.565625
467.571875
467.578125
467.584375
MHz, 457.575 MHz, 467.525 MHz, 467.550 MHz and
ル通信への移行や、CTCSS及びDCSの設定が難しい場合が
467.575 MHz may be used by on-board communication
あるため、既存の25kHz間隔チャネルのアナログ通信が継続
stations. Where needed, equipment designed for 12.5 kHz
して使用ができるように働きかけるとともに、CTCSSやDCS
channel spacing using also the additional frequencies
の使用が必須とならないように対処しています。
457.5375 MHz, 457.5625 MHz, 467.5375 MHz and
467.5625 MHz may be introduced for on-board communications. The use of these frequencies in territorial waters
3.議題1.16 海上通信の高度化
may be subject to the national regulations of the adminis-
議題1.16はAIS技術の高度利用及び高度海上無線通信の
tration concerned. The characteristics of the equipment
ための規則条項及び周波数分配を検討するものであり、
and the channelling used arrangement shall be in con-
VHFデータ通信システム(VDES:VHF Data Exchange
formity with to those specified in Recommendation ITU-R
System)として、ASM(Application Specific Message:
M.1174-23. The use of these bands in territorial waters
AISのアプリケーション特定メッセージ)用チャネルの特定
may also be subject to the national regulations of the
や、VHFデータ通信(VDE)用のチャネル配置及び衛星利
administration concerned.. (WRC-0715)
用等を中心に検討が進められています。
ITU-R勧告M.1174-2の改訂案には、25kHz及び12.5kHz間
AIS用チャネル(AIS 1、AIS 2)のひっ迫状況が我が国な
隔のアナログ変調方式に加えて、12.5kHz及び6.25kHz間隔
どから報告されたことにより、AIS本来の目的である衝突防
のデジタル変調方式(4値FSK方式)が提案されています。
止や航行に直接関連するメッセージは従来のチャネルを引き
また、CTCSS(トーンスケルチ)やDCS(デジタルコードス
続き使用し、ASMを含むバイナリーメッセージの交換用に追
ケルチ)の使用が推奨されるとともに、デジタル方式ではア
加のチャネルを設ける必要性が認められ、そのチャネル候補
ナログ方式への混信を避けるためにLBT(Listen Before
がCPMテキスト案にMethodとして記載されています。また、
Talk)を使用する方向です。
VHF帯におけるデータ通信用周波数はWRC-12で特定されま
世界的には、UHF帯船上通信は当該船舶内のみの通信に
したが、それらのチャネルの衛星による利用や、広帯域変調
用いられ、他船や陸側との通信には国際VHFチャネルが用い
を用いる場合のチャネルプランもCPMテキスト案に記載され
られることが多いようですが、我が国においては当該船舶内
ており、それらはWRC-15で審議されます。
だけでなく操船援助のための船舶間通信や陸側との通信に用
いられる例もあるようです。そのため、船舶単位でのデジタ
2014年5月に開催されたITU-R SG5 WP5B会合において
CPMテキスト案には主に次のMethodが記載されました。
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スポットライト
VDESから電波天文業務を保護するためRR脚注5.208Bを
・Method A1
RR付録第18号におけるデュプレクスチャネルCH27及び28
を四つのシンプレクスチャネルに(CH1027、1028、2027及
修正し、決議第739(WRC-07、改)を修正する。
・Method C2
び2028)に分割し、CH2027及び2028をASM用チャネルとし
既に移動衛星業務(地球から宇宙)へ分配されている
て特定する。CH2078、2079、2019及び2020の船舶局によ
148-150MHz帯をVDESのアップリンクで使用し、同様に移
る送信を禁止する。
動衛星業務(宇宙から地球)へ分配されている137-138MHz
・Method A2
帯をVDESのダウンリンクで使用する。VDESのために、移
CH87及び88をASM用チャネルとして特定する。CH2078、
2079、2019及び2020の船舶局による送信を送信出力1Wに
動衛星業務への新たな周波数分配やRRの修正は行わない。
・Method D1
VDE地域チャネルの効率的利用のためにチャネルプランを
制限する。
・Method B1
定める。
CH24、84、25及び85を地上系VDESで使用し、これらの
チャネルをマージして100kHz帯域での使用も可能とする。
CH80、21、81及び22は、独立した25kHzチャネルとして、
又は複数のチャネルを束ねて広帯域チャネルとして利用する。
CH82は25kHzチャネルとして利用する。
・Method B2
CH24、84、25、85、26及び86を世界的に調和の取れた
衛星系・地上系VDEの試験・実験用に使用する(移動衛星
CH23及び83は、独立した25kHzチャネルとして、又は複
数のチャネルを束ねて広帯域チャネルとして利用する。
業務への分配なし)
。
・Method C1
CH2027及び2028をASM用チャネルとして海上移動衛星
業務(地球から宇宙)に二次分配する。
4.次々回WRCの仮議題(GMDSSの近代化とe-Navigation)
次々回世界無線通信会議の仮議題として、決議第359
CH1024、1084、1025、1085、1026及び1086を衛星系
(WRC-12)及び決議第808(WRC-12)により「GMDSS近
VDESとして海上移動衛星業務(地球から宇宙)に二次分
代化及びe-Navigationを支援するための周波数分配を含む規
配し、CH2024、2084、2025、2085、2026及び2086を衛星
制条項の検討」が設定されています。
系VDESとして海上移動衛星業務(宇宙から地球)に二次
現在のGMDSS(Global Maritime Distress and Safety
System:全世界的な海上遭難・安全システム)は、それ以
分配する。
地上業務とVDESによる海上移動衛星業務(宇宙から地
前のモールス通信などを衛星通信技術やデジタル通信技術等
球)との共用のため、RR付録第5号を修正してPFDマスクを
を利用した通信に置き換えた遭難・安全通信システムであ
追加する。
り、国際海事機関(IMO)により1992年2月1日から導入が
図1.WRC-15で審議される無線通信規則付録第18号のVDES用チャネル
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ITUジャーナル Vol. 44 No. 7(2014, 7)
■ GMDSS近代化計画
次世代GMDSSに向けたITU/IMOの検討スケジュール
2012
ITU
2013
2014
2015
2016
2017
2018 or 2019
次々回WRC
11月
WRC-15
2月
WRC-12
2018∼
Detailed review
High-level review
IMO
機能要件等の
検討
Modernization plan
システム/機器
要件等の検討
近代化計画
国際条約/
性能基準の改正
導入
NCSR1
MSC92
MSC:海上安全委員会
MSC94
MSC95
MSC98
NCSR:航行安全・無線通信・捜索救助小委員会
2017年の完了を目標に、IMOではGMDSS近代化計画を検討している。
ITU 次々回WRC仮議題: GMDSS近代化及びe-Navigationを支援するための
周波数分配を含む規制条項の検討
図2.次世代GMDSS(全世界的な海上遭難・安全システム)の検討スケジュール
開始され、1999年2月1日に完全実施されました。このため、
段、陸上局の効率的な運用と船舶の運航支援を総括的に行
技術のベースは1980年代がベースで、25年以上昔のものとな
うものであり、現在e-Navigation戦略実施計画の策定作業
っています。IMOでは、船舶と港湾の安全確保や効率的な
が行われています。
運航のために、GMDSS近代化の検討やe-Navigationの開発
が進められています。
e-Navigationとは「海上における安全と保安及び海洋環境
本議題は当初WRC-15の議題として、日本と米国が共同
で起草しました。それぞれアジア・太平洋電気通信共同体
(APT)及び米州電気通信委員会(CITEL)を通じてWRC-
保護のため、全ての状況における航行とそれに関連する業務
12に提案しましたが、IMOの開発と歩調を合わせるために、
を向上させる電子的手段を用いた、船上及び陸上での海事
途中で次々回WRCの仮議題としての提案に変更したもので
情報の調和した収集、統合、交換、表示及び分析(サービ
す。
ス又は機能)である。
」と定義されています。具体的には船
(2014年3月25日 第329回ITU-R研究会より)
上設備の有機的な統合、船舶と海岸局との効率的な通信手
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