2013 年度 卒業論文 PET 用シンチレータの Lu 崩壊による Background

2013 年度
卒業論文
PET 用シンチレータの Lu 崩壊による Background 測定
信州大学理学部物理科学科
高エネルギー研究室
102029b 村上正鷹
2014 年 3 月
1
目次
1
序説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1 PET・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.1 背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.2 原理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.3 特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.2 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2 γ線および X 線・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.1 γ線、X 線の吸収・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
3
光検出器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
3.1 光検出器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
3.1.1 アバランシェフォトダイオード(APD)・・・・・・・・・・・・・・・・・8
3.2 MPPC・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
3.2.1 MPPC 動作原理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
4
シンチレータ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
4.1 シンチレータ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
4.2 シンチレータの種類と特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
4.3 シンチレータに求められる特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
4.3.1 X 線、γ線用シンチレータ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
4.4 シンチレータの発光機構・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
4.5 無機シンチレータ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
4.5.1 LFS・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
4.5.2 LYSO・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
5
MPPC の基本性能の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
5.1 Gain・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
5.1.1 Gain 測定のセットアップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
5.1.2 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
5.2 Noise Rate・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
5.3 Cross Talk ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
5.4 d 値の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
2
6
LYSO・LFS シンチレータの各種測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
6.1 LYSO・LFS シンチレータの光量測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
6.2 LYSO・LFS シンチレータのバックグラウンド測定並びに検出効率の測定 ・・・29
7 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
8 付録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
8.1 光電効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
8.2 コンプトン効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
8.3 電子対創生・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
3
1
序説 [1]
1.1 PET
PET とは、positron emission tomography (陽電子放出断層撮影)の略で、放射能を含
む薬剤を用いる核医学検査の一種である。X 線 CT が、放射線源を人体の外部に置いて放射
線の透過量を測定するのに対して、核医学検査法では、放射性薬剤の投与により人体内部
の特定の臓器に分布した放射性同位体の位置を体外に放出される放射線によって測定する。
PET は、放射性同位体(陽電子放出核種)で標識した薬剤を放射線源とする。陽電子は近
くの電子と結合して消滅し、その場所から透過力の強いガンマ線 2 本が互いに反対方向へ
飛び去る。この一対の放射線を人体周囲に並べた検出器で同時に計数し、そのデータから X
線 CT と類似の計算方法を用いて、放射線源の体内集積度を 3 次元的に再構成する。標識薬
剤としては、水やブドウ糖、アミノ酸などが用いられる。これらを体内に極微量投与して
PET 装置で放射能測定を行い、体内の局所放射能が変化する様子を観察することによって
脳や心臓など臓器の機能を評価でき、がんを早期に発見できるなどの特徴がある。
1.1.1 背景
陽電子を放出する放射性薬剤を人体に投与して、その体内分布を測定する試みは 1950
年代に始まり、断層像として再構成するための技術開発が 1960 年代からなされてきた。し
かし、核医学検査に伴う複雑さのために画像再構成法の進歩は手間取り、X 線診断の方が先
に断層撮像法を開発し、1972 年には X 線 CT 装置として臨床に利用された。X 線 CT の技
術から生み出された画像再構成法を取り入れて、1975 年に PET 装置が初めて開発され、
核医学検査に使用されるようになった。しかし、単に X 線 CT の技術を転用するだけでは
PET のもつ潜在能力を十分に引き出すことはできなかった。1980 年代後半からは画質をよ
り向上するために、PET がもつ本来の特徴を活用する独自の画像再構成法及び装置の研究
開発が進められた。
1.1.2 原理
体内に陽電子放出核を注入すると、そのままでは体全体に分布してしまう。PET 装置の標
的はがん細胞なので、がん細胞の代謝機構をうまく使ってがん細胞に陽電子放出核を蓄積
させる。体の生理現象を応用するため、機能診断と呼ばれる。それには、糖に似た構造を
持つ FDG (図 1.1)の水酸基の一つを陽電子放出核に置き換えて体内に注射する。すると、糖
の代謝が多い、つまり糖をため込む性質があるがん細胞に FDG は集積する。そこで、陽電
子が放出されるが、我々の体はその 60%が H2O(水)でできているため体内にはたくさんの
電子が存在する。すると、放出された陽電子はすぐにそれらの電子と対消滅を起こし、そ
れとともに 511keV の二つの対消滅γ線となる。このγ線を対向させた検出器で測定する。
(図 1.2)また、この対消滅γ線はソースから様々な方向に放出される。すると、対消滅γ
4
線の検出位置によりいくつもの直線を描くことができる。これらの直線を重ね合わせて交
わった点を陽電子の放出点と定義する。つまり、がん細胞の位置を特定することができる
のである。
図 1.1 18F-FDG
図 1.2 PET 模式図
検出器に用いられるのは、シンチレータと光検出器である。それらで構成された検出器を
一つの平面内に 360°円形に配置して、完全な PET 装置が製作される。これにより、360°
どの方向に放出された対消滅γ線でも同時に観測することができるようになる。
1.1.3 特徴
光子エネルギー以外に X 線診断と PET 検査が本質的に異なる第 1 の点は、求める未知
量の数が多いことである。X 線 CT は、透過した X 線量の割合から体内吸収係数の分布を
描出するもので未知量は 1 種類である。一方 PET では、体内放射能濃度分布と吸収係数分
布の 2 種類となる。
異なる第 2 の点は、放射線照射の方向が制御可能か否かである。X 線診断では線源を生
体の外部より照射し、対向する位置に検出器を配置するが、PET 検査では放射性薬剤を生
5
体に投与するため放射線源が生体内にあり、放射線が放出される方向を制御することはで
きない。異なる第 3 の点は、電流計測かパルス計測かの違いである。PET では同時計数を
行う必要から消滅放射線をパルス計測する。一対の検出器から出る 2 つのパルス信号があ
る時間幅内に到達したことで同時計数は行われるが、独立した陽電子消滅事象による信号
が偶然その時間幅に飛来する可能性がある。これは偶発同時計数と呼ばれ、真の同時計数
にノイズとして加わる。偶発同時計数を低減するために検出器に高い時間分解能をもつこ
とが要求される。時間分解能及び検出効率の高い検出器を実現するために、PET 用検出器
は特有の発展を遂げてきた。
PET がパルス計測を基にしていることに起因して、計測データ自体に確率的要素が内在
しており、その統計ノイズに PET 画像が左右される点も PET の大きな特徴である。近年
は、X 線 CT とは異なる放射線測定の条件を考慮した PET 特有の画像再構成法が開発され
たため、生成画像の質が向上してきた。
[1]
核医学検査で広く利用される放射性同位体 99mTc などは、単一γ線を放出するので、その
方向を知るためにγ線検出器の前にコリメータを置く。これを人体に沿って走査し、放射
性同位体の体内分布を再構成するのが、SPECT(Single Photon Emission Computed
Tomography、単一光子放射断層撮像法)である。SPECT では、感度と解像度を同時に向
上させることが困難である。たとえば、コリメータの穴を小さくすれば解像度は向上する
が感度は低下する。一方、PET では同時計数法という電気的な”コリメータ”の採用により、
幾何学的なコリメータを使用する SPECT に比べて解像度が高く、大幅に感度を高めること
ができる。感度と解像度をともに向上できることは、PET のもつ優れた点の一つである。
1.2 研究目的
PET では、どのような特性あるいは仕様のシンチレータを採用するかが装置全体の性能
を向上させる上で最も重要な要因の一つとなる。近年では、PET 等の開発に伴い、高密度
のシンチレータが注目されている。そこで、今回は PET での実用が始まっている高密度な
LYSO シンチレータとまだ PET での実用がされていない LFS シンチレータの比較実験を行
うことで、LFS シンチレータが PET 用シンチレータとして機能するか検証していく。
また、
両シンチレータは結晶内部に 176Lu という放射性同位体を含んでいるため、 176Lu が及ぼす
バックグラウンドについて検証する。
6
2
γ線および X 線
γ線と X 線はその発生機構に差があるが、共に光子(電磁波)で、エネルギーは次式で
与えられる。
E  h  h
c

(2.1)
(h:プランク定数 ν:振動数 λ:波長 c:光速)
γ線は原子核の励起のエネルギーが光子として放出されたもので核の励起状態によって異
なるが、そのエネルギー領域は数 keV から数 MeV にわたっている。また、高速電子の輻射
過程として生成される。これに対し X 線は電子と原子の非弾性衝突や内部転換現象などに
よって原子が励起されたりあるいは電子が弾き出された場合、安定な状態に返る際に生成
される。軽い原子では数 eV から重い原子では 0.1MeV 付近にまでわたっている。
γ線、X 線と物質との相互作用は主として3つの過程である。すなわち、光電効果、コン
プトン効果および電子対創生である。(付録 8.1,8.2,8.3 参照)
2.1 γ線、X 線の吸収
γ線、X 線の吸収の度合は物質中の厚さを変化させ、それによる数の減少によってはから
れる。いま I 0 個のγ線あるいは X 線が吸収層の厚さ dx を通過した場合、その中での数の
減少は dx および入射数 I 0 に比例する。したがって、指数関数的に減少することになり、一
般に x だけ通った後の数 I は次式で与えられる。
I  I 0 e  ・x
(2.2)
このμは線形吸収係数と呼ばれ、さらにその吸収の原因によって次のように分けられる。
   photo   comp   pair
(2.3)
ここで  photo,  comp ,  pair は光電効果、コンプトン効果、電子対創生による吸収係数をあら
わす。γ線、X 線の吸収は荷電粒子の場合と異なって、一定の飛程以上透過しないというこ
とを定義することはできない。すなわち、ある長さ以上透過しない確率はいくらかと言う
ことが定義できるだけである。γ線、X 線が 1 に減少するまでの、厚さを平均飛程といえ
e
る。この量は式(2.2)から明らかなように、 1
 となる。
図 2.1、図 2.2 にγ線のエネルギーが 0.01MeV~10MeV の場合の鉛、アルミニウムの線形
吸収係数を示した。
7
図 2.1 鉛中のγ線の吸収
3
図 2.2 アルミニウム中のγ線の吸収
[ 2]
[ 2]
光検出器
3.1 光検出器
光検出器とは、光信号を電気信号に変換するものであり、シンチレータと併用すること
で粒子のエネルギー測定を可能にする。
3.1.1 アバランシェフォトダイオード(APD)
半導体を用いたデバイスの中でも、光を電気に変えるものを受光デバイスという。光検
出器として用いられる半導体デバイスはすべて受光デバイスである。
p型半導体とn型半導体を接合させたダイオードを光検出器として用いたデバイスをフォ
トダイオードを呼ぶ。接合部は互いにキャリアが打ち消しあい、キャリアが少ない領域が
存在しており、これを空乏層という。ここに、半導体の禁制帯の幅 E g よりも大きなエネル
ギーの光が入ると内部光電効果により、電子が励起され、電子と正孔が対生成される。
h  E g
(3.1)
ここで、 h はプランク定数、 は入射光の振動数である。
通常、 pn 接合半導体は逆バイアスを掛けてもほとんど電流が流れない。しかし逆バイア
ス電圧がある一定以上になると、突然電流が流れるようになる。これをブレイクダウンと
呼び、この閾値となる電圧のことをブレイクダウン電圧と呼ぶ。ブレイクダウンが起こる
原因にはツェナー降伏と電子雪崩降伏の二つがある。ツェナー降伏と電子雪崩降伏の概念
図を示す。(図3.1)
8
図 3.1 電子雪崩降伏(左図)とツェナー降伏(右図)
[ 3]
逆バイアス電圧が大きくなるとp 型の価電子帯の電子がトンネル効果により禁制帯を通
り抜けてn 型の半導体に移ることがある。このようにして移った電子により電流が流れる
現象をツェナー降伏という。
また、逆バイアス電圧が大きくなると空乏層の中において高電場がかかるようになる。
この状態で空乏層に電子が入ると電場によって電子が加速され、そのエネルギーによって
結晶格子の結合を切り、電子・正孔対を生成する。ここで生成された電子は電場によって
加速され、再び電子・正孔対を生成する。このように次々と電子・正孔対が生成されて電
子数が雪崩的に増幅する現象をアバランシェ増幅と呼び、これにより大電流が流れるよう
になる現象を電子雪崩降伏という。
フォトダイオードにブレイクダウン電圧以上の電圧をかけたときに光子が入射すると、
生成された電子は電場により加速され、他の原子と衝突して電子を弾き出す。弾き出され
た電子も電場で加速され、アバランシェ増幅が起こる。このようにしてアバランシェ増幅
を利用して信号を増幅させたフォトダイオードをアバランシェフォトダイオード(APD)
と呼ぶ。
APDをブレイクダウン電圧以上の逆バイアスで動作させると、同時に入射する光子数に
関係なく一定の信号を出す。このモードをガイガーモードと呼ぶ。
9
3.2 MPPC
MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)は、複数のガイガーモード APD のピクセルから
なる光検出器のことである。浜松ホトニクスの製品である。
今回使用した MPPC は受光面が 1  1mm 、ピクセルサイズが 50  50m 、ピクセル数
2
2
が 400 のものを使用した。下に使用したものと同種の MPPC と受光面の図を記載する。
(図
3.2)
図 3.2 今回使用したものと同種の MPPC(左図)と受光面拡大図(右図)
[ 4]
3.2.1 MPPC 動作原理
図3.3 に示すように、MPPC はクエンチング抵抗とガイガーモードAPD を直列につな
げたピクセルを並列につなげた構造をしている。クエンチング抵抗とつながれたガイガー
モードAPD は図3.4 のように動作する。ガイガーモードでは、APD にフォトンが入射す
ると、その数に関係なく、常に一定の大きさの信号を出す。それにより、クエンチング抵
抗に電流が流れ、逆バイアス電圧はブレイクダウン電圧まで電圧降下する。その後、4ns の
再充電によって元の逆バイアス電圧に戻り、再びガイガーモードとして動作するようにな
る。MPPC は全てのピクセルの読み出しが1 つのチャンネルにつながっているので、複数
のピクセルに同時にフォトンが入射した場合、ピクセルから出る信号は重なり合って1 つ
の大きな信号として観測される。この信号の電荷量などを測定することにより、どのくら
いの数のフォトンが入射したのか知ることができる。
10
図 3.3 MPPC 等価回路
[6]
図 3.4 ガイガーモード APD の動作
4
[6]
シンチレータ [5][ 8]
4.1 シンチレータ
シンチレータとは効率の良い蛍光体で、蛍光の減衰時間が比較的短くて、放射線計測で
シンチレーションカウンター(scintillation counter)として使用されるものをいう。
シンチレーション検出器は PET や X 線 CT に代表される核医学や空港の手荷物検査機な
どに代表されるセキュリティ機器、電子部品の非破壊検査装置、高エネルギー物理学用の
検出器、石油や鉱物資源探査装置など、医療・工業・高エネルギー物理学など広範な分野
に応用されている。
シンチレータは、10
5~ 6
eV のエネルギーの放射線を数 eV のエネルギーの光子に変換する。
このとき、放射線のエネルギーに対応した光量を得ることができる。
11
4.2 シンチレータの種類と特性
シンチレータは、化学組成によっては無機シンチレータと有機シンチレータに大別する
ことができる。無機シンチレータは Nal(Tl)によって代表される金属のハロゲン化学結晶
が主であるが、Xe などの気体も使われている。有機シンチレータは、さらに結晶、気体、
液体、プラスチックに区別され、アントラセン結晶、トルエン+ターフェニール、ポリス
チレン+ターフェニールがそれぞれの代表である。
シンチレータの特性をあらわすとき、密度、組成、屈折率、融点、化学性質が大変重要
である。γ線のエネルギーを測定しようと思えば密度が大きくて原子番号の大きいものか
ら出来ていることが望ましい。また、吸湿性のものや融点の低いものは取扱いに注意を要
するし、蒸気圧の高いものは真空中では使えない。また、透明でつくりやすいこと、酸化
しにくいことも大切な条件になる。工作が容易であれば用途も広くなる。
ここからは、細かくなるため項目を分けて説明する。
(a)蛍光効率
蛍光体の感度をあらわすときは、厳密にいえば、放射線が一定のエネルギーを損失した
ときに出る光量子の量で表わすべきである。しかし、β線は大体どのシンチレータでも放
射線のエネルギー損失と蛍光量は比例している。また、便宜上β線の一定のエネルギー損
失あたりに出る光電子量をとって感度をあらわす。アントラセンを標準にして(これを 100
とする)
、これに対する比を蛍光効率εという。
(b)エネルギー損失と蛍光量
β線に対しては、どのようなエネルギーでもエネルギー損失と蛍光量は大体どのシンチ
レータでも比例するが、α線や、陽子線のエネルギーの低いものでは、上記の比例関係が
崩れる。
特に有機シンチレータではいちじるしく、同一エネルギー損失でもα線はβ線の 程度に
なる。もっと厳密にいえば蛍光量が dN dX (単位長さあたりのエネルギー損失)に比例し
ないで dE dX が大きくなると比例係数が小さくなることである。これは蛍光量から粒子の
エネルギーを求める時に重要である。
(c)温度による蛍光率の変化
εは一般に温度が高い時は低下する。したがって、温度係数の小さいものが良いシンチ
レータである。長時間の測定、厳密な測定をするときは温度の影響を考慮しなければなら
ない。温度係数は物質によって異なるが、0.05%~数% / ℃である。
(d)減衰時間
シンチレータを放射線で励起すると、その直後から蛍光が出るがその時間変化は
N
・exp(  t  ) で表わされる。τを減衰時間といい、光量が 1/e になるまでの時間である。

N は総光量である。τは 1μsec~1msec で有機シンチレータの方が短い。τの短いものほ
ど速い計測が可能で、良いシンチレータといえる。1つの物質についていうと、τは必ず
12
しも一種ではなくて、一般に
N 
i
exp( t /  i ) のようにあらわされる。
i
PET においては放射線(PET の場合はγ線)の数え落としを減らし、患者の絶対被ばく
量を低減させたいといったことから、近年のシンチレータの要求として、特に高速応答が
ある。そのためにはシンチレータの減数時間が短くなる必要があるが、発光波長と減衰時
間の間には式(4.1)で示される関係が知られており[1]、同じ発光中心を用いる場合、減衰
時間を短くすればするほど発光波長は、短波長化する。

(  :遷移確率
1


n  n2  2 


3em  3  f
n:屈折率 λem:発光波長
f μi
2
(4.1)
f:終状態 i:始状態 μ:双極子演算子)
4.3 シンチレータに求められる特性
4.3.1 X 線、γ線用シンチレータ
X 線・γ線用シンチレータでは、パルスモードでフォトンカウンティングする評価が一般
的である。この場合、測定回路の時定数は典型的なリン光や遅発発光の減衰時間よりもは
るかに小さくとるので、発光量測定に寄与する光子は即発蛍光に限られる。これと異なり、
電流モードで作動するシンチレーション検出器の場合は、光の全収量に比例した信号電流
を得る。ここで長寿命の成分が無視できない場合、信号の記憶すなわち afterglow 効果が現
れてしまう。
X 線・γ線用シンチレータにおいて重要視されるパラメータは以下のとおりである。
①X 線、γ線の阻止能
②減衰時間
③発光量
④発光波長
⑤化学的安定性
⑥放射線耐性
⑦エネルギー分解能
⑧異なるエネルギーに対する発光量の線形性
4.4 シンチレータの発光機構
各種シンチレータの蛍光特性を調べて、発光機構を明らかにすれば、これらの物質の物
性論に寄与するところは大きい。発光機構の理論は様々であるので、概念を書いておく。
γ線はコンプトン効果、光電効果、電子対創生で電子をつくる。また、中性子は原子核
衝突によってα線、γ線、陽子をつくる。そして、最後には荷電粒子が物質中の電子を励
起する。
13
無機シンチレータ内
で電子のとり得るエ
ネルギー状態は、構成
原子に強く束縛され
た価電子帯と、自由に
動き回れる伝導帯に
分かれている。
(図4.1)
γ 線がシンチレータ
に入射すると、価電子
帯にある電子と光電
吸収やコンプトン散
図4.1 電子のエネルギー帯
[9]
乱を起こす。すると電子が励起されてエネルギーの高い伝導帯に上げられる。この励起さ
れた電子は、結晶中を動き回り、クーロン散乱により他の電子を励起させる。これらの電
子が再び価電子帯に落ち込むときにエネルギーが光子の形で放出される。これが無機シン
チレータの基本的な発光原理である。一般には価電子帯と伝導帯のエネルギー差は大き過
ぎるので、少量の不純物(活性化物質)が加えられていて、電子が励起されやすく、かつ
可視光を放出するように工夫されている。NaI(Tl)では、Tlが有効な発光中心になっている。
4.5 無機シンチレータ
PET の装置には有機シンチレータではなく、無機シンチレータが使用されることが多い。
というのは、PET に用いられるシンチレータには条件があるからだ。
その条件の1つとして、高密度で実効原子番号の大きいものであることが挙げられる。高
密度で実効原子番号の大きいシンチレータは、γ線の阻止能が高く、放射線を効率よく検
出できるのである。また、発光量が大きいことも条件の1つである。発光量が大きいとノ
イズは相対的に小さくなる。エネルギー分解能は高く、エネルギー弁別による散乱同時計
数(体内で消滅放射線の一方または双方が散乱されてから同時に計数される)も除去しや
すくなる。他にも、蛍光減衰時間が短いこと、自己放射性がないことなどが挙げられる。
このように、PET に用いられるシンチレータにはいくつか条件があり、それらを満たすも
のとして無機シンチレータは非常に有効的なのである。表4.1はPET に用いられる無機シン
チレータの特性である。
14
NaI(Tl)
BGO
GSO(Ce)
LSO(Ce)
LuAG(Pr)
LYSO
LFS
Density( g / cm )
3.6
7.1
6.7
7.4
6.73
7.4
7.4
Radiation
2.6
1.1
1.4
1.1
1.5
1.2
1.1
Decay time(ns)
230
300
30~60
40
20
40~44
36
Emission
415
480
440
420
310
428
416
100
7~10
20~25
75
30~33
75
80
3
length(cm)
wavelength(nm)
Quantity of
light(Na(TI)=100)
表4.1 無機シンチレータ(色塗り:今回使用するもの)
[6]
※LFSシンチレータはまだPETに実用化されていない。
4.5.1 LFS
LFS(図4.2)はLSOと同等の性能を持つ新型の無機シンチレータである。かつ非常に安価
であることから現在のPET装置のコストを下げるのに有効であると考えられる。また、減衰
時間が35nsと短いので、高時間分解能が必要なTOF-PETにも使用できる可能性がある。し
かし、その構造が不明。放射性Luが含まれているのも欠点である。
信州大学工学部の伊藤稔教授の調べによれば、LFSは Ce x Lu2 2 y  x Si1 y O5 y の構造を持ち、
近似的に不純物としてCeが用いられたLSO(Lutetium Ortho Silicate ; Lu2 SiO5 :Ce)と考
えることができると示された。密度は7.4g/cm3と高く、LSOとほとんど同じである。また、
発光波長は412nmであり、青色の光を発する。これは、本研究で用いる光検出器MPPCと
の適応性がよい。また、NaI:Tlの80%を超える光量を稼ぐことができるので、PET装置の
検出効率を上げることが可能であると考えられる。既にPETに広く使用されているBGOと
の比較においては、室温で約20倍の光量が稼げるとの伊藤教授からの報告がある。
図4.2 LFS
15
4.5.2 LYSO
LYSO シンチレータ(図 4.3)は、 Y2 SiO5 (YSO)と Lu2 SiO5 (LSO)の混晶組成の
単結晶である。 Lu2 xYx SiO5 の構造を持つ。また Lu 元素を含むことから、LFS と同様の放
射性を示す問題がある。しかし、密度、減衰時間、光量ともに優れており、PET の検出効
率の向上、測定時間の短縮化により患者の被ばく量の低下が見込まれる。
図 4.3 LYSO
5
MPPC の基本性能の測定
5.1 Gain
Gain とは、フォトンが入り電子をたたき出したときのアバランジェ増幅によって増幅さ
れた信号の増幅率のことである。増幅率を G、信号の電荷量を Q とすると、
Q  eG
(5.1)
と表すことができる。ここで、e は素電荷 1.6  10 19 C である。また、MPPC1 ピクセル当
たりの電気容量 C、逆バイアス電圧を Vbias 、ブレイクダウン電圧を V0 とすると、ガイガー
モードにおいて 1 ピクセルで増幅される電荷は、
Q  C (Vbias  V0 )
(5.2)
と表されるので、
(5.1)式より Gain は
G
C
(Vbias  V0 )
e
となる。
5.1.1 Gain 測定のセットアップ
図 5.1 に Gain 測定のセットアップを示す。
16
(5.3)
閾値:470mV
図 5.1 Gain 測定のセットアップ
図 5.1 の装置の各説明
・Clock Generator
任意の幅、周波数を持つ NIM パルスを出力するモジュール。今回はこれで発光タ
イミングを決めトリガーも発信させた。
・Gate Generator
トリガーパルスの入力に対して、任意の幅、ディレイをかけた NIM パルスを出力
する。
・ASD AMP
信号を増幅する増幅器である。倍率は 596.3 倍。
・ADC
アナログ信号に対して任意の幅の Gate Pulse を設定することで、アナログ信号を
積分電荷量に変換する。
・読み出し回路
MPPC から信号を読み出すための回路。
(図 5.2)
17
図 5.2 MPPC の読み出し回路(回路図)
5.1.2 結果
今実験で G(Gain)を求めるにあたり、CAMAC の ADC を用いて ADC 分布を作成し、
Pedestal(0photoelectron)を差し引いた 1photoelectron(以下 1p.e.と表す)のガウ
ス分布で Fitting したときの Mean の値を d として
G
d r
A e
(5.4)
r は ADC の分解能(0.25 pC / ADC Count)、A は AMP の増倍率である。
以下の ADC 分布(図 5.4)より、1p.e.相当の積分電荷量 d を決定し、式(5.4)より Gain
を求めることができる。
MPPC の逆バイアス電圧を 70.2V、70.4V、70.6V、70.8V の 4 点で作成した ADC 分布
が図 5.4 である。
図 5.3 ADC に入る Signal
18
図 5.3 は図 5.1 の ADC び入る Signal と Gate である。ASD AMP が図 5.3 の縦方向だけで
なく横方向にも増倍する。ASD AMP の影響でふた山の信号になる。
Counts
Counts
ADC Channel
Channel
ADC Channel
Counts
Channel
Counts
ADC Channel
Channel
ADC Channel
Channel
図 5.4 Gain 測定での ADC 分布(左上図:逆バイアス電圧=70.2V・右上図:逆バイアス
電圧=70.4V・左下図:逆バイアス電圧=70.6V・右下図:逆バイアス電圧=70.8V)
これにより、求めた Gain を縦軸、MPPC にかけた電圧を横軸としてプロットしたの
が図 5.5 である。これを
y  a( x  b)
(5.5)
という関数で Fitting すると、傾き a (=C/e)
、x 切片 b(  V0 )を求めることができる。
19
Gain
逆バイアス電圧(mV)
図 5.5 Gain の逆バイアス電圧依存性
図 5.5 から MPPC の電圧が大きくなるほど Gain も増加していくのが分かる。
今回使用する MPPC の静電気容量 C とブレイクダウン電圧 V0 を上記の方法で求め以
下に示した。
(図 5.5 中の C は式(5.3)の C / e のことである。)
C[fF]
V0 [V]
88.6±2.0
69.6±0.1
表 5.1 Gain 測定の結果
5.2 Noise Rate
MPPCは光子が入射しなくても主に半導体内の熱電子が原因で信号を出してしまう。これ
をダークノイズと呼び、Noise Rate とは1 秒間当たりのダークノイズの数のことである。
測定の方法としては、光が入射しない状態で、Discriminator のThresholdを変えていき、
各点でCount Rateを測定し図5.7のようにThreshold Curve を描く。Threshold 電圧が1
p.e.ピークに対応する所でCount Rateは急激に下がる。その値を参考にして、ガウス関数を
ある下限以上で積分した相補誤差関数でFitting を行うと1 p.e. threshold が決まる。そこ
から0.5 p.e. thresholdを求めると、そのときのCount RateがNoise Rate となる。
図5.6 Noise Rate測定セットアップ
20
Count/second
10 7
Count Rate
10 6
10 5
10 4
0
100
200
300
400
500
Threshpld
600
mV
図 5.7 MPPC の Threshold Curve
これはADC 分布の積分に対応しており、横軸のThresholdが各p.e.のピーク付近になると
カウント数が急激に減少する。
図5.7から
CountRate 0.5 p.e.threshold  (8.29  0.21)  10 5 Hz
CountRate 1.5 p.e.threshold  (1.70  0.04)  10 5 Hz
となった。
5.3 Cross talk
APDピクセルにおいて、アバランシェ増幅の過程で二次光子が出てしまうことがある。
この光子が隣接するピクセルに入射して、再びアバランシェ増幅を起こしてしまう可能
性がある。つまりCross Talkとは一つの光子の入射に対して、2p.e.以上の信号を出し
てしまう現象のことを差す。Cross Talk RatioをCross Talkが起こる確率という意味で用い
るCross Talk Ratio は図5.7 において1.5p.e.thresholdと0.5p.e.thresholdのCount Rateの
比を用いて
CrossTalkRatio 
CountRate 1.5 p.e.threshold
CountRate 0.5 p.e.threshold
となった。
21
 20.4  0.1%
5.4 d値の測定
d値とは1p.e.あたりのACDのChannel数のことである。今測定では、この後に行う光量を
測定するためにd値の測定を行う。
幅:470ns
○セットアップ
図5.8 d値測定のセットアップ
ここでは5.1節のように恒温槽24℃でMPPCを作動させる。これは、温度依存性の強い
MPPCのGainを変化させないようにするためである。以下の実験はすべて24℃で測定する。
また、ADCに入るSignal信号に対し適切なGateが開かれるようにした。(幅:470ns)
pedestal
d
1p.e.
2p.e.
図5.9 d値ADC分布
22
図5.9よりpedestalのピークと1p.e.のピークのADC channel差を用いてd値は77.7±0.3
ADC channel/p.e.となった。これをもとに光量を算出していく。
6
LYSO・LFSシンチレータの各種測定
6.1 LYSO・LFS シンチレータの光量測定
(a)LYSO 光量測定
図 6.1 を用いて LYSO の光量測定を行う。その際、線源には  線源である 22 Na を用い

る。 22 Na は、  崩壊によって陽電子を放出する。これは PET と同じで、γ線のエネルギ

ーは 511KeV である。また、線源の 22 Na 、LYSO および光検出器の MPPC は鉛で遮蔽を
行い、外からの影響を極力少なくしている。さらに、それらは恒温槽(24℃)に入れてお
り、温度に影響されやすい MPPC の Gain が変化しないようにしている。これは、d 値の
測定でも同様で、AMP やその他の環境も同じにしてある。よって、5.4 節
d 値の測定で
の値を今回の光量測定に用いる。
各シンチレータと MPPC、線源は図 6.1 のように置かれており、MPPC とシンチレータを
反射シートで覆っている。
図 6.1 線源、シンチレータ、MPPC の固定
反射シートを巻くと、線源との間に厚みができる。その厚みが図 6.1 の示すように約 2mm
である。
23
○セットアップ
閾値:250mV
幅:470ns
図 6.2 LYSO 光量測定セットアップ
閾値は 50 mV~380 mV まで 25 mV 刻みで測定し、ノイズが少なく線源のピークが良く見
えるところで設定した。(閾値:250mV)
このとき図 6.2 の ADC 分布が以下のようになる。
511keV ピーク
図 6.3 LYSO の ADC 分布(Na あり)
図 6.3 から 511 keV の光量を算出する。
24
光量は図 5.8 の d 値(=77.7±0.3 ADC channel / p.e.)、pedestal の mean 値(=137.7±
0.1 ADC channel)、511 keV ピークの mean 値(=2205±13.6 ADC channel)を用いて以
下のようになる。
光量 
511keVピークのmean値  pedestal のmean値
=26.6±0.2 p.e.
d
(6.1)
これによって計算すると、LYSO の 511keV ピークの光量は、26.6±0.2p.e.となる。
また次式からエネルギー分解能を算出すると
エネルギー分解能 

=0.148±0.023
x
(6.2)
14.8±2.3%となる。
ここでσは正規分布 Fit から得られた標準偏差で、x は平均と Pedestal ピークの差である。
エネルギー分解能とは、エネルギーを測定する際の精度を表す指標として用いられる。
あるエネルギーを持つ放射線が測定器中に全エネルギーを落としたとき原理的には線スペ
クトルになるのだが、実際は測定器の性質等によりある幅を持ったスペクトルになってし
まう。この幅が小さい程より多くのスペクトルを見分けることが可能になる。幅が大きい
と(分解能が悪いと) それぞれのピークが他の山に隠れてしまい見分けがつかなくなる。通
常、幅 にはガウス分布でフィットした際のσが使われる。
次に図 6.2 の Na 線源を取り除き同様に ADC 分布を作成すると次のようになる。
図 6.4 LYSO の ADC 分布(Na なし)
図 6.4 にもピークが見えている。これは、図 6.3 の 511 keV の Channel 数から計算する
25
と約 500 keV となる。これは LYSO に含まれている 176Lu のバックグラウンドによるもの
と考えられる。 176Lu の出すγ線には以下のようなものがある。(図 6.5)
図 6.5 176Lu のγ線放出
[7]
これによると、176Lu は 88 keV、201 keV、306 keV、400 keV のγ線を放出する。176Lu は
201 keV と 306 keV が同時入射した際に sumpeak とよばれる 500 keV 相当のピークを出
す。
(図 6.6)
sumpeak
図 6.6
176
Lu のスペクトル(sumpeak) [ 7 ]
今回、線源なしの測定で出たピークはこれだと考える。
26
また、図 6.3 と図 6.4 を比べると同じ頻度で、Na のγ線と Lu のバックグラウンドが起こ
っているように見えるが、それぞれ測定時間が異なり、同じ 10000 イベント測定するのに
図 6.4 は図 6.3 の 161 倍の時間がかかっている。このことから、Na に比べ Lu のバックグ
ラウンドの頻度は非常に小さいと言える。
図 6.3 と図 6.4 で分布が違うのは、線源がある場合だと線源の頻度が大きいため見えない
ようなノイズが、線源がない場合、Lu の崩壊の頻度よりもノイズの頻度が大きいので見え
てしまっているからである。
(b)LFS の光量測定
LYSO と同様に LFS で光量測定を行う。測定環境は LYSO と同じである。
○セットアップ
閾値:250mV
幅:470ns
図 6.7 LFS の光量測定セットアップ
LYSO と同様に図 6.7 のセットアップで Na 線源ありとなしで ADC 分布を作成した。
(図
6.8、図 6.9)
27
511keV ピーク
図 6.8 LFS の ADC 分布(Na あり)
図 6.8 の Fitting mean 値と式(6.1)から、LFS の 511keV ピークの光量は 27.5±0.5p.e.
となることが分かった。
エネルギー分解能は、式(6.2)と図 6.8 の Fitting の mean 値とσから 14.4±1.4%とな
った。
図 6.9 LFS の ADC 分布(Na なし)
図 6.9 では、LYSO と同じくピークが見えているが、これも図 6.5、図 6.6 で説明したよ
28
うに LFS に含まれる Lu 由来のバックグラウンドの sumpeak である。
図 6.9 の測定時間は図 6.8 の測定時間の 127 倍であるので Lu によるバックグラウンドの
頻度は Na に比べ小さい。
6.2 LYSO・LFS シンチレータのバックグラウンド並びに検出効率の測定
光量測定のセットアップを用いて、Na 線源、LYSO もしくは LFS シンチレータ(バッ
クグラウンド)、光検出器 MPPC の寄与が測定にどのくらいあるのか検証する。
○セットアップ
閾値:250mV
幅:470ns
図 6.10 各トリガー生成数の測定セットアップ
図 6.10 のように Scaler を用いてトリガーが生成された数を計測する。
以下の計測を行う。
測定は、LYSO、LFS の両方で行う。
①鉛内の Na +
LYSO もしくは LFS +
MPPC がある状態での 10 秒間での計測を 15
回
②鉛内の LYSO もしくは LFS +
MPPC がある状態(Na なし)での 10 秒間での計測を
15 回
③鉛内の MPPC のみの状態(Na、LYSO もしくは LFS なし)での 10 秒間での計測を 15
回
①、②、③の各 15 回の測定を 1 秒あたりのカウントで平均したものを結果として用いる。
①-②が Na による寄与・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)
②-③が LYSO or LFS(バックグラウンド)の寄与・・・・・・・・・・・
(2)
29
③が MPPC の寄与・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)
以下が結果である。※結果の表内の(1)
、
(2)、
(3)は上記の(1)
、
(2)、
(3)に対応する。
Trigger Rate[Hz]
Trigger Rate
Ratio[%]
(1)
(2)
(3)
Na
LYSO(background)
MPPC(Dark Noise)
5662.2±7.6
35.8±0.7
4.3±0.2
99.302±0.133
0.630±0.012
0.083±0.004
表 6.1
Trigger Rate[Hz]
Trigger Rate
Ratio[%]
LYSO の測定結果
(1)
(2)
(3)
Na
LFS(background)
MPPC(Dark Noise)
7252.3±6.7
57.5±0.2
4.3±0.2
99.160±0.092
0.792±0.003
0.061±0.003
表 6.2
LFS の測定結果
表 6.1、表 6.2 の Trigger Rate は図 6.9 の scaler で測定した 1 秒あたりのカウント数で、
単位は Hz である。Trigger Rate Ratio は測定に占める各割合である。
表 6.1、表 6.2 の Na の Trigger Rate を比べると LFS の方が良く検出できている。検出
効率にすると LFS が LYSO より 28.1%検出効率が良い。
次に、LYSO と LFS のバックグラウンドを Na の Trigger Rate に対する LYSO と LFS
の Trigger Rate の比で比較する。これは、PET でγ線を検出する際どの程度バックグラウ
ンドが影響するか調べるためである。
LYSOTriggerRate
NaTriggerRate
 0.63  0.03%
LFS TriggerRate
NaTriggerRate
 0.79  0.01%
のようになった。LFS の方がバックグラウンドの影響が少し大きい。
30
7
まとめ
PET 用シンチレータとして期待が高まっている LFS の各種測定を行った。この LFS は
放射性同位体である 176Lu を含むことから、その 176Lu の崩壊によるバックグラウンドが
PET の測定には欠点である。現段階で PET 用シンチレータとして使用されている LYSO
も 176Lu を含むことから、LYSO と LFS を比較検証することで、LFS が PET に使用可能な
のかを検討した。今回比較した点は主に以下の 4 点である。
①獲得光量
②エネルギー分解能
③検出効率
④Lu バックグラウンド
○比較
①獲得光量 LYSO : 26.6±0.2 p.e.
LFS : 27.5±0.5 p.e.
獲得光量は LFS の方が大きいことが分かった。PET では多数のシンチレータのどこにγ線
が入射したかを、複数個のフォトマルの出力比から同定するため、位置同定精度向上のた
めに光量は大きい方が望ましい。
②エネルギー分解能 LYSO : 14.8±2.3 % LFS : 14.4±1.4%
エネルギー分解能は誤差を考慮するとどちらも変わらない。これに優れるとコンプトン散
乱によるエラーを減らすことができる。
③検出効率 6.2 節 LYSO・LFS シンチレータのバックグラウンド並びに検出効率の測定で
行った測定の Na の Trigger
Rate を対象とする。
LYSO : 5662.2±7.6 Hz LFS : 7252.3±6.7 Hz
検出効率は LFS が 28.1%良い。これは、PET の測定時間の短縮につながり、結果的に患者
の被ばく量を低減できる。
④Lu バックグラウンド
6.2 節 LYSO・LFS シンチレータのバックグラウンド並びに検出
効率の測定で行った測定の Na の Trigger
Rate に対する LYSO と LFS の Trigger
Rate の比を対象とする。
LYSOTriggerRate
NaTriggerRate
 0.63%  0.03%
LFS TriggerRate
NaTriggerRate
 0.79%  0.01%
LFS の方が Lu バックグラウンドが多い。PET 検出器の測定対象である 511keV の消滅放
射線に対するバックグランドになることから少ないもしくはないことが望ましい。また、
バックグラウンドが多いと PET 画像に悪影響があると思われるが、実験での検証は行えな
かった。
22
今回 Na 線源とシンチレータは非常に近くに置かれており、立体角が大きくなっているた
31
めに、 176Lu の 201 keV と 306 keV のγ線が sumpeak を作る可能性が高くなっているが、
実際の PET では線源と検出器はもっと離れており、sumpeak となる可能性は小さくなる。
sumpeak でなければ、511 keV との分離が可能となるので、バックグラウンドはさらに小
さくなる。
今回比較した多くの点で LYSO より LFS が優れており、PET 用シンチレータとして将来
有望であると言える。
しかし、LFS はその組成も発表されておらず、まだ未開発なシンチレータであると言える。
今後は、その組成のさることながら、シュミレーションによる確認や、実験による Lu バッ
クグラウンドが PET に与える影響調査が望まれる。
8
付録
8.1 光電効果
図8.1は光電効果の模式図である。入射した光子の全エネルギー h 0 が、原子内の束縛電
子をそのエネルギー準位から出すのに十分な大きさを持つとき、光子の全エネルギーは電
子に吸収され、電子は T  h 0  I n ( I n はそのときの電離エネルギー)で表される運動エ
ネルギーTを持って原子の外に飛び出す。このときはじき出された電子を光電子といい、こ
の現象を光電効果という。
図8.1 光電効果
[6]
光電効果では、エネルギー保存則と運動量保存則を同時に満たさなければならないので、
電子が強く束縛されていればいるほど光電吸収の確率が大きくなる。つまり、K殻の電子
を光電子として放出する可能性が非常に高いのである。光電効果の起こる確率は、原子番
号Z のほぼ5 乗に比例するので、Z の大きな物質は光子のシールド効果が非常に大きい。
ただし、光電効果がコンプトン効果や電子対創生に比べて優先するのは比較的エネルギー
の低い領域である。例えばAl では50 keV 以下、Pb では500 keV 以下の領域である。入
射光子のエネルギー h 0 を用いると、光電効果の線吸収係数  photo は
32
 photo  NZ (h 0 )
5
7
2
(8.1)
となる。ここで、N は単位体積あたりに含まれる原子数である。
8.2 コンプトン効果
コンプトン効果とは、入射光子と原子内の電子の衝突により、光子のエネルギーの一部
を電子に与え、はじき出すとともに、光子が入射方向から角度θ で散乱される現象のこと
である。
図8.2、図8.3 はそれぞれコンプトン効果の模式図とエネルギー移動についての図である。
図8.3において、 h 0 は入射光子のエネルギー、hν は散乱光子のエネルギー、T は反跳電
子の運動エネルギーをそれぞれ表している。また、θ は散乱光子の散乱角、δ は反跳電子
の散乱角である。
図8.2 コンプトン効果
[6]
図 8.3 コンプトン効果におけるエネルギー移動
[6]
これらのエネルギーの運動方向は、光子と自由電子の衝突としてエネルギー保存則と運
動量保存則から導くことができる。散乱光子のエネルギーhν は、入射光子のエネルギー
h 0 を用いると、
h 
h 0
1  1  cos   h 0 mc 2

33

(8.2)
と表される。
また、反跳電子の運動エネルギーT は
T  h 0  h 
h 0
1  mc 2 h 0 1  cos  
(8.3)
となる.
ここで、m は電子の質量、c は光速である。
コンプトン効果の起こる確率は、原子番号Z に比例しており、その効果の優先する領域は、
例えば、Al では0.05~15 MeV、Pb では0.5~5 MeV である。コンプトン効果の線吸収係
数  comp は、入射光子のエネルギー h 0 を用いて、近似的に、
 comp 
NZ  2h 0 1 
 
 In
h 0  mc 2 2 
(8.4)
となる。
8.3 電子対創生
図8.4は電子対創生の模式図である。入射光子のエネルギー h 0 が電子の静止エネルギー
mc 2 の2 倍以上、つまり h 0  2mc 2 = 1.02 MeV になると、物質中の電磁場(主に原子核
によるクーロン場) との相互作用によって、γ 線が突然消滅し、電子と陽電子の対を生成す
る。このような現象を電子対創生という。
図 8.4 電子対創生
[6]
電子対創生が起こるのは高エネルギーのγ線に限られており、γ 線のエネルギーが1.02
MeV よりも大きい場合には、超えた分のエネルギーが電子対の運動エネルギーとなる。ま
た、陽電子は物質中でその運動エネルギーを失い 10
34
10
~ 10 9 秒の後、物質中の電子と対消
滅して (h )'  mc 2 0.51 MeV のエネルギーを持つ2個の光子を出す。電子対創生の起こる
確率は、原子番号Z のほぼ2 乗に比例しており、その効果の優先する領域は、例えば、Al で
15 MeV 以上、Pb で5 MeV 以上である。電子対創生の線吸収係数  pair は、入射光子の
エネルギーhν0 を用いて、近似的に、
 pair
2
2

 NZ (h 0  2mc )
 2

 NZ Inh 0
(h 0  2mc 2 (~ 1MeV ))
(h 0  2mc 2 )
と表される。
35
(8.5)
謝辞
この研究を卒業論文としての形にすることが出来たのは、担当して頂いた竹下徹教授の
熱心なご指導や、長谷川庸司准教授、小寺克茂研究員にアドバイス頂いたおかげです。日
常の議論を通じて、多くの知識や示唆を頂いた高エネルギー物理学研究室の皆様にも深謝
いたします。協力して頂いた皆様へ心から感謝の気持ちと御礼を申し上げたく謝辞にさせ
て頂きます。
参考文献
[1]「PETの原理と応用」
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=08-02-01-04
[2]「原子核物理の基礎(6)放射線と物質の相互作用」
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=03-06-03-06
[3]小林秋人 「新型MPPCの性能評価」信州大学卒業論文
[4]浜松ホトニクス社
https://www.hamamatsu.com/jp/ja/index.html
[5]三浦功 管浩一 俣野恒夫 「放射線計測学」
[6]山田恵子 「PET 用シンチレータの光量測定」信州大学卒業論文
[7]「176Lu」
http://www.gammaspectacular.com/gamma_spectra/lu176-spectrum
[8]吉川彰 「放射線を可視化するシンチレーション検出器」
[9]大家敬志 坂下健郎 「無機シンチレータを用いたγ 線測定」
http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/gakubu/P6/2007/P6_2007_scinti_report.pdf
[10]都築拓也 「ILC の ECAL 用シンチレーターの光量の一様性」信州大学卒業論文
[11]井手康裕 「Jupiter を使ったカロリメータのシミュレーション」信州大学卒業論文
[12]山﨑真 「MPPCを用いた次世代PET装置の基礎研究」信州大学修士論文
[13]住谷圭二 「PET用シンチレータ」
http://www.nirs.go.jp/usr/medical-imaging/ja/study/nextgeneration-pet/4.ht
ml
[14]石橋浩之 清水成宜 「シンチレータから見たPET の世界」
http://www.nirs.go.jp/usr/medical-imaging/ja/study/jPET_D4_2007/p66_70.pdf
36