眼形成疾患 - 東京医科歯科大学 眼科学教室

眼形成疾患
東京医科歯科大学
眼形成外来
林 憲吾
眼科
眼形成疾患
片側性の先天眼瞼下垂
重度の退行性眼瞼下垂
右 顔面神経麻痺による眉毛下垂、
下眼瞼外反、兎眼
右
眼窩腫瘍(悪性リンパ腫)
眼形成の手術


眼瞼(挙筋短縮術、前頭筋吊り上げ術、
内眥形成術、眼瞼悪性腫瘍切除など)
眼窩(眼窩骨折整復術、眼窩腫瘍摘出術)
上眼瞼の挙上に関係する組織
眼窩隔膜
上眼瞼挙筋
挙筋
眼窩脂肪
挙筋腱膜
瞼板
眼窩隔膜
眼窩脂肪
瞼結膜
眼輪筋
挙筋腱膜
ミュラー筋
瞼板
瞼結膜
眼輪筋
ミュラー筋
上眼瞼の挙上に関係する組織
頭側
挙筋
眼窩隔膜
眼窩脂肪
瞼結膜
眼輪筋
挙筋腱膜
ミュラー筋
瞼板
尾側
退行性(老人性)眼瞼下垂とは
上眼瞼挙筋
挙筋の収縮が瞼板に伝わらないことが原因
挙筋腱膜
瞼板
ミュラー筋
加齢による上眼瞼挙筋群の菲薄化、瞼板付着部からの離開
⇒これらを短縮して瞼板に固定する手術が必要
眼瞼下垂症の手術
ターゲットとする部位別に分けると

挙筋腱膜タッキング
挙筋腱膜前転法
② ミュラー筋

ミュラー筋タッキング
③ 挙筋腱膜 + ミュラー筋

挙筋短縮術
④ 挙筋群の機能不良

前頭筋吊り上げ術
① 挙筋腱膜

挙筋腱膜をターゲットとした手術法①
• 挙筋腱膜タッキング
(Levator aponeurosis tuck )
頭側
腱膜をタッキング
挙筋腱膜
尾側
挙筋腱膜タッキング例
軽度~中等度の下垂には適応あり
挙筋腱膜タッキングのデメリット

重度の下垂(MRD<0)に対応できない場合がある
大幅なタッキング(>12mm)を施行すると瞼板が浮く

重度の下垂に低矯正のタッキング⇒軽度の下垂が残ってしまう
挙筋腱膜をターゲットとした手術法②
挙筋腱膜前転法
(Levator aponeurosis advancement )

頭側
腱膜のみ前転
挙筋腱膜
尾側
ミュラー筋をターゲットとした手術法

ミュラー筋タッキング
頭側
ミュラー筋のみタッキング
ミュラー筋
尾側
海外での総説では
挙筋機能
(mm)
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
ミュラー筋短縮術
挙筋腱膜前転法
挙筋短縮術
前頭筋吊り上げ術
軽度
中等度
重度
開瞼状態(MRD)から下垂程度
Cetinkaya A, et al. Current Opinion in Ophthalmology. 2008
挙筋腱膜とミュラー筋の両方を短縮する
 眼瞼挙筋短縮術
(Levator resection )
頭側
腱膜とミュラー筋の
両方を同時に前転
挙筋腱膜
ミュラー筋
尾側
挙筋短縮術の例
重度の退行性眼瞼下垂に対する挙筋短縮術
挙筋機能不良な先天眼瞼下垂
片側
 挙筋短縮術の適応なし
 前頭筋吊り上げ術が必要
両側
前頭筋吊り上げ術に使用する材料
海外では?
• アメリカ眼形学会(ASOPRS)会員
• 208名からのアンケート(重複回答)
シリコンロッド
 自家大腿筋膜
 保存大腿筋膜
 非吸収糸
 ゴアテックスⓇ

71%
34%
24%
13%
8%
Anakalu VK, et al. Ophthal Plast Reconstr Surg. 2011
前頭筋吊り上げ術
(シリコンロッド)
A
B
D
E
C
F
Tyers AG et al. Colour Atrlas of Ophthalmic Plastic Surgery . 2008
• 適応:0歳~3歳
• 国内には、医療用のシリコンロッドは販売していない
前頭筋吊り上げ術
(ナイロンなどの糸:一時的な効果)
• 適応:0歳~3歳
• Single loop
前頭筋吊り上げ術
(大腿筋膜)
• 4歳以降に施行することが多い
• 最も一般的な吊り上げ材料=Gold Standard
• 自家移植→拒否反応ない、感染少ない
大腿筋膜の瘢痕拘縮
• 筋膜の長さが術後6ヶ月で平均15%収縮
• 筋膜をできるかぎり長く弛緩した状態で固定
手術直後
6ヶ月後
手術直後
6ヶ月後
Matsuo K, et al. J Plast Reconstr Aesthetic Surg 2009
• 術後収縮が始まるまでほとんど開瞼不能
• 術後収縮量の予想が困難
大腿筋膜の長期合併症例
• 32歳 女性
• 12年前に形成外科で左先天眼瞼下垂に吊り上げ術
• 大腿筋膜の瘢痕拘縮
→眼瞼の後葉の過度の牽引、過矯正
→兎眼、上睫毛内反、角膜上皮障害、視力低下
林 憲吾、嘉鳥信忠.日本眼科学会雑誌 2013
前頭筋吊り上げ術
(ゴアテックスⓇシート)
•
•
•
•
非吸収性合成樹脂:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
人工硬膜、人工心膜、人工血管など
生体適合性に優れ、組織炎症反応が少ない
ゴアテックスⓇ人工硬膜から 50 mm * 5 mm 切り出し
前頭筋吊り上げ術
(ゴアテックスⓇシート)
• 適応:4歳~
• 2カ所で瞼板に固定、眉毛上部で前頭筋に固定
前頭筋吊り上げ術の例(片側)
2歳:ナイロン糸で吊り上げ施行
術後1年6か月で下垂が再発
ゴアテックスⓇシートで吊り上げ
術後6か月
5歳:再手術から1年6か月
前頭筋吊り上げ術
ナイロン糸とゴアテックスⓇシートの長期予後比較
100
PTFE sheet
(n=42)
Event-free survival (%)
80
Nylon suture
(n=37)
60
40
20
Log-rank, p<0.001
0
0
12
24
36
48
60
72
Time(months)
Hayashi K, Katori N, et al. Am J Ophthalmol. 2013
• ナイロン糸では、2年半で約50%の症例で眼瞼下垂が再発する
• ゴアテックスⓇシートでは、再発率が非常に少ない
前頭筋吊り上げ術
(シリコンバンド)
2.5 mm
厚さ 0.6 mm
60 mm
Tillett CW, et al. Am J Ophthalmol. 1966
• 網膜剥離のバックリングで使用するシリコンバンド
• 眼科で容易に入手可能
• シート状→瞼板と前頭筋へ固定、開瞼幅の微調節が可能
前頭筋吊り上げ術
(シリコンバンド例)
術前
術中
術後6ヶ月
難易度と適応範囲
前頭筋吊り上げ術
挙筋機能不良な重度
難易度
挙筋短縮術
軽度~重度
挙筋腱膜前転法
ミュラー筋タッキング
挙筋腱膜タッキング
軽度~中等度
林 憲吾.眼瞼下垂手術3つのパターン
臨床眼科学会 インストラクションコース 2013年
眼窩骨折
下壁骨折(主に上顎骨)
内壁骨折(主に篩骨)
手術方法
術中所見(左下壁 Surgeons view)
1
2
3
牽引試験で眼球制限を確認
睫毛下の皮膚を切開
眼輪筋下を眼窩縁まで展開
骨膜を切開、骨膜下を剝離
4
5
6
眼窩内組織を整復
シリコンプレートを挿入
骨折部に到達
症例①:20才男性 右下壁 開放型
開放型
受傷後3日目に整復
術後6か月
症例②:13才男性 左内壁 閉鎖型
閉鎖型 筋絞扼型
受傷翌日に整復
術後6か月
広範囲の骨折に対する硬性再建
吸収性プレート(Super FIXSORB®)
50×30×0.5mm
林 憲吾、嘉鳥信忠.JOHNS. 2012
顔面外傷
皮膚縫合
Inverting suture
内反 陥凹する
術後、陥凹が残存
Everting suture
外反 盛り上げる
術後、平坦化する
林 憲吾、 眼形成の基本
臨床眼科学会 インストラクション 2012年
皮膚縫合の運針の比較
Inverting suture
創へ向かって
浅く運針
Everting suture
創から離れる
向きで出す
結紮すると
内反,陥凹
カウンターを当てて,外反させて
創へ近づく向きで出す
創から遠くに向かって
深く運針
対側へ同じ深さを
確認して
結紮すると
外反,盛り上がる
実際のEverting suture
カウンターを当てて,外反させる
創から遠くに向かって
深く運針
対側へ同じ深さを
確認して
結紮すると
外反,盛り上がる
眼科で真皮縫合が必要な部位
テンション
(-)
テンション
(+)
眉毛の上下
上・下眼瞼
瞼縁
皮膚縫合
のみ
内・外眼角部
真皮縫合
+
皮膚縫合
真皮縫合
1次縫合→眼窩骨折整復
顔面裂創、異物、眼窩骨折(内・下壁)
眼形成の手術

眼瞼(挙筋短縮術、前頭筋吊り上げ術、
内眥形成術、眼瞼悪性腫瘍切除など)

眼窩(眼窩骨折整復術、眼窩腫瘍摘出術)

基本手技(固定、切開、止血、縫合)
ご静聴ありがとうございました。
東京医科歯科大学 眼科
眼形成・涙道外来
林 憲吾