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医薬化学
第13回目講義
SBO 21 立体異性体と生物活性の関係について具体例を
あげて立体化学的観点から説明できる。
光学異性体間で生物活性が異なる例は多い
O
H2N
H
H
(-)-limonene
レモンの香り
O
H2N
OH
O
NH2
O
(S)-asparagine
苦い
(+)-limonene
オレンジの香り
O
H
NH2
(R)-asparagine
甘い
O
H
H
N
O
N
O
NH
O
OH
H
O
NH
O
O
(S)-thalidomide
(R)-thalidomide
催奇形性の副作用
有りと言われていた
催眠・鎮静作用有り
と言われていた
生体分子との相互作用に及ぼす立体異性体の影響
薬物と生体子との作用点が複数存在する場合、それら全てが作
用できる空間配置が高活性や高親和性発現には要求される!
三点受容体説
「薬と受容体との結合には少なくとも3点以上の結合基がないといけない」。
物質の位置を固定するためには、必ず三点を特定する必要がある。ということを
考慮すれば、なぜ光学異性体で「片方だけ効果が表れ、もう片方は効果が表れな
い」という現象が起こるのかを理解できる。
上の左図は、二つの光学異性体による受容体への結合概念図である。左側は3点
の結合基がぴったり合うため、受容体と結合することができる。しかし、右側は
3点で結合することができない。そのため光学異性体をもつ場合、片方は効果を
表わさない(効果が弱い)のである。
いろいろな光学異性体(不斉)
中心不斉:その4つの単結合の置換基が全て異なる炭素原子を不斉
炭素と呼び、不斉炭素を有する分子はキラルになることが
多い。 炭素原子以外でも4 本の単結合で正四面体の頂
点にほぼ位置する原子と結合する原子なら同様なことが
成り立つ。ケイ素・ゲルマニウム・鉛はキラル中心になりう
る。またアンモニウムもキラル中心になりうる。
軸不斉:対称軸となる原子結合鎖に異なる置換基が結合すること
でキラルとなった場合に、この軸を不斉軸という。これらの
分子には不斉中心はないがキラルである。
いろいろな光学異性体(不斉)
面不斉:1つのベンゼン環の2個の炭素を原子鎖で結合したシクロファンの誘導体では
不斉中心がないのにキラルなものがある。これらはベンゼン環平面への置換に
よりキラルとなったとして、ベンゼン環平面を不斉面と定義する。
らせん軸不斉:ヘリセンには不斉中心も不斉軸も不斉面もないがキラルであり、ヘリシティ
が右ねじと左ねじのエナンチオマーを持つ。
Eutomerとdistomer そして医薬品開発
光学活性体に関して、活性の強い方の異性体をeutomer(ユートマー),
弱い方の異性体をdistomer (ディストマー)命名(E. J. Ariens,
1986)。またeutomer と distomer の活性比を eudismic ratio
(ER),さらに活性比の対数を eudismic index(EI)) と定義する。
薬品の承認
薬物作用の立体選択性という観点から、政府は光学活性医薬品とラセミ医薬品
に対する承認のための許可要件を改正した。この改正は分析手法から非臨床
試験、臨床試験に至るまで承認申請のすべてに関係している。一般的傾向とし
て(承認に必要な試験が増え)ラセミ体医薬品の開発は非常にコストがかかるよ
うになった。主な理由は、ラセミ体と光学活性体の薬効や毒性を別々に確認する
必要があるためである。一方、光学活性な医薬品の申請に対しては、エナンチ
オマーとしての化学的安定性(体内での相互変換がおこらない)を示すことが要
求される。このように不斉中心を有する医薬品開発のための負担がますます大
きくなっている。解決策としては活性を低下させることなしに不斉中心をなくすこ
とにより、医薬品開発にかかるコストを下げることは可能である。
立体異性体間で何が異なるのか?
Distomerが不活性な場合
両異性体が異なる活性を有する場合
両異性体が異なる薬物動態を示す場合
両異性体が反対の活性を有する場合
生体内でもう一方の光学異性体に変換される場合
Distomerが不活性な場合
distomerがeutomerの有する目的の活性がなく、副作用も無い
場合がある。
Exa. プロプラノロール(抗項血圧薬;β遮断薬)は(S)体がeutomerである。その
ERは130と極めて大きい。製造コストの点等から現在ラセミ体として販売されている。
HO
H
N
HO
O
(S)-プロプラノロール
(eutomer)
H
N
O
ER = 130
(R)-プロプラノロール
(eutomer)
β遮断薬には、β1選択的と非選択的遮断薬がある。β1選択的は例えば塩酸アセブトロー
ルやアテノロールであり、非選択的は塩酸プロプラノロール、ピンドロールである。
構造中には共通官能基として、アリルオキシプロパノールアミン構造を有する
両異性体が異なる活性を有する場合
両異性体がいずれも治療上価値のある、異なったタイプの作用を示す
場合もある。
H3C
Exa. DARVONとNOVRAD
R
S
H3C
R
N CH3
N CH3
H3C
H3C
O
D
A
C
D
HO
N
Me
O
HO
HO
モルヒネ
NOVRAD
(鎮咳薬)
N
Me
Me
N
Me
Me
B
A
HB
CH3
DARVON
(鎮痛薬)
HO
O
O
CH3
DARVONは麻薬性鎮痛薬であり、
痛みの軽減あるいか消失に用いる。
モルヒネの構造を基にした研究から
創製された。
S
C
O
両異性体が異なる薬物動態を示す場合
両異性体が異なる薬物動態を示し、その結果薬効に差異が生じる場
合もある。
O CH
HC
O CH
HC
Exa. エスオメプラゾール
3
3
CH3
O
CH3
N
S
O
..
CH3
O
3
3
CH3
N
N
S
N
O
H
(S)-omeprazole
N
N
H
omeprazole
エスオメプラゾールはラセミ体オメプラゾールの(S)体である。In vitroでは(R)体と阻害活性
(H+,K+-ATPアーゼ阻害)に差はないが、薬物動態に差があり、ラセミ体よりも速く薬効を示す。
R2
R2
R1
O
O
R4
N
N
H
R3
S
O
R1
HCl
N
R3
N
N N
Cl -
N
HS
Cl -
HO
(B)
N
R2
N
N
S
(C)
Enzyme-SH
O
R1
N
Cl -
R2
N
N
HS
R3
R4
Enzyme
R2
N
R4
(A)
R1
Cl -
+
N S
H O
PPI
-H2O
R1
S
O
R3
R4
(D) PPI-Enzyme 結合体
O
R3
R4
両異性体が反対の活性を有する場合
両異性体が競合的アンタゴニストとして作用する場合もある。
Exa. イソプロピルノルアドレナリン、 Bay K 8644
OH
H
N
O2N
COOCH3
HO
OH
イソプロピルノルアドレナリン
Me
N
H
Me
Bay K 8644
イソプロピルノルアドレナリンはα1受容体に対して(-)体はアゴニストとして作用するが、
(+)体は同等の親和性を有する競合的アンタゴニスト活性を示す。カルシウム拮抗薬である
Bay K 8644では、(S )体がアゴニストであり、(R )体は弱い競合的アンタゴニストである。
生体内でもう一方の光学異性体に変換される場合(ラセミ化)
両異性体が生体内で、化学的または酵素的にもう一方の光学
異性体に相互変換される場合もある。
Exa. サリドマイド、 アリセプト等
O
O
H
MeO
N
O
O
O
N
H
N
MeO
H
それぞれの光学活性体は赤で示した、酸性度の高い水素が容易に引き抜かれる。
血漿中では半減期1時間程度で容易にラセミ化が進行する
サリドマイドに関して正しく認識しよう!
睡眠薬として1955年頃発売されたサリドマイドは、妊娠初期女性が服用する
ことにより胎児奇形を起こし、社会問題となり1960年代初頭に発売停止にな
った。
その後サリドマイドのエナンチオマーのうちの(S)体が催奇性があり、(R)体
は副作用がない、つまり(R)を販売すれば“サリドマイドの悲劇”は起きなかっ
た、という説が出た。
だからエナンチオマーの片方だけを作ることは重要なのだ、と昔からよく言わ
れており、2001年ノーベル化学賞受賞者の野依良治教授が受賞講演で、不
斉合成の重要性を説明するのにこの話を引用していた。だが、この話、正確
に言うと誤りである。
実際には・・・・
サリドマイドに関して正しく認識しよう!
実際には・・・・
G. Blaschkerらは、ラセミサリドマイドを光学分割し、各エナンチオマーをラット
に注射し、S体のみが催奇性と発表した。これが、「ラセミ体での販売による悲劇」
のきっかけである。しかしこの実験再現性がない。 その後G. Blaschkerは
1994年になり、サリドマイドのラセミ化がヒト血漿存在下加速されることを報告し
ている。また同年、Y. Hashimotoらは、37℃、pH7.4における半減期(半分がラ
セミ化する時間)が566分と発表している。つまり、たとえ催奇性のないエナンチ
オマーを服用しても体内で催奇性のあるエナンチオマーが生成することを意味
する。
薬害としてはセンセーショナルな
ものであったので今でも伝説のよ
うに言われている「片方のエナン
チオマーだけに副作用」というの
はあやしい・・・のである。
サリドマイドの復権 (I)
サリドマイドはアメリカとフランスで再認可されている。サリドマイドに
は免疫抑制作用もありハンセン病治療薬として使えることが判明した
。アメリカではハンセン病治療薬として1996年認可されている(現在
認可されているのは、アメリカとフランスだけ)。さらにリュウマチ、各
種の痒疹や皮疹、ベーチェット病などの難病に対しても有効であるこ
とが報告され、サリドマイドは再浮上してきている。
最近では、サリドマイドの化学構造的活性検索が大いに進んだ結
果、あの忌まわしい催奇性は取り除き、サリドマイドの多岐にわたる
薬効だけを持った“新サリドマイド”の開発研究も行われている。
サリドマイドの復権 (II)
国内では藤本製薬が2005年サリドマイドを多発性骨髄腫治療薬として治験を
開始した。同社は2006年8月厚生労働省に製造販売の「承認申請」を行った。
厚生労働省は、「サリドマイド被害の再発防止のための安全管理に関する検
討会」及び医薬品等安全対策部会において検討を行い2008年9月に以下の
条件下でサリドマイドの製造販売を再承認する方針を明らかにした。
①藤本製薬が、患者・医師・薬剤師を登録し、処方量や服用量を管理する。
②妊娠の可能性のある患者には処方の前に妊娠の有無を検査する。
③飲み残さず、不要になったら返却する――など。
2008年10月、厚生労働省は多発性骨髄腫の治療薬としてサリドマイドの製造
販売を承認した。藤本製薬は商品名“サレド(Thaled)として2009年2月より販
売を開始した。
サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS)
Thalidomide Education and Risk Management System
TERMSはサレドの胎児暴露を防止することを目的とし、“情報提供及び教育”、
“登録”、“中央一元管理”、“評価” を重要構成要素とする安全管理システム。
サレドの購入、処方、調剤できるのはTERMSに登録された医師が所属する医
療機関に限定される。 登録可能な医療機関は原則、日本血液学会研修施
設であり、処方は院内処方に限定されている。
SBO 21 立体異性体と生物活性の関係について具
体例をあげて立体化学的観点から説明できる。
光学活性体の生物活性は一方のみが高活性である場合が多い。
従ってこの化合物に関する不斉点の立体はSとかRとかが重要と
議論してきた。
これは常に正解なのだろうか?
これまでのフェニルプロピオン酸スキャッホールドを
用いたPPARサブタイプ選択的リガンドの創製展開
O
F
F
O
N
H
MeO
F
NH
S
O
KRP-297 PPAR γ/α dual
ANDAND
Enantiomer
Enantiomer
OO
FF
FF
O
O
O H OH
NN
HH
本一般式構造に適切な
置換基を導入することに
より各種選択的PPARリ
ガンドが創製できるので
は?
MeO
MeO
FF
KCL PPARα selective
X
O
L
Y
O
OH
Z
フェニルプロピオン酸型PPARα/δ/γパンアゴニストの立体選択性
OO
OO
OOHH
NN
HH
O
O
N
H
OO
OH
O
TIPP-703
EC50 (nM)
stereo
PPARα
PPARδ
PPARγ
S
61
120
43
R
500
870
83
S体がR体よりPPARαでは10倍、PPARδでは7倍、PPARγでは
2倍と何れのサブタイプに関してもS体がより高活性
PPARγ選択的アゴニスト活性を有するフェニル
プロピオン酸誘導体の合成とその活性の立体選択性
創生医薬化学研究分野修士2年大橋雅生君の研究成果
これまでのPPARリガンド研究総括
O
X
L
O
OH
Z
Y O
F
F
フェニルプロピオン酸構造
O
N
H
OH
O
F
Toward PPAR
α/δ dual
KCL
α
F
Toward PPAR
pan
F
F
?
γ
N
H
OH
O
F
TIPP- 401
Toward PPAR δ
specific
O
O
フェニルプロピオン酸型
PPARγ選択的アゴニスト
の創製は?
O
O
N
H
OH
O
TIPP-703
F
δ
F
F
O
O
N
H
OH
O
F
TIPP - 204
パンアゴニストからγ選択的アゴニストへ
O
O
N
H
PPARγ活性保持
に重要!!
OH
O
カルボキシ基α位の変換
によりPPARγ選択性が
得られるのではないか?
TIPP-703 : PPARパンアゴニスト
固定!!
O
O
N
H
OH
O
ベンジル基の導入により
PPARγ選択性を示した!!
1 (ラセミ体) : PPARγ選択的フルアゴニスト
どちらが高活性か?
O
O
N
H
O
OH
O
(R)-1
O
N
H
OH
O
(S)-1
PPARs 転写活性化試験
O
O
O
N
H
OH
O
N
H
(R)-1
N
H
OH
O
O
O
O
O
OH
O
O
N
H
(S)-1
(R)-TIPP-703
OH
O
(S)-TIPP-703
EC50 (nM)
Compd.
stereo
PPARα
PPARδ
PPARγ
(R)-1
(S)-1
R
S
R
S
ia
ia
ia
ia
3.60±1.10
500±50.0
870±70.0
83.0±10.0
54.0±8.00
130 ±40.0
41.0±9.00
ia
ia
43.0±3.00
TIPP-703
Rosiglitazone
22.0±4.00
‘ia’means inactive at 10µM
従来, PPAR各サブタイプに対して フェニルプロピオン酸型
PPARアゴニストはS体の方が遥かに高活性であったが,
今回の化合物はR体の方が高活性 !!
脂肪細胞分化誘導試験結果
(S)体よりも(R)体の方が脂肪細胞分化誘導能が強い
何故,R 体の方がS 体よりも
高活性を示したのか?
(R)-1, (S)-1:PPARγ LBDとの複合体X線結晶構造
(S)-1- PPARγ
(R)-1- PPARγ
(R)-1及び(S)-1の結合配座
実際は
ベンジル基ベンゼン環は同じ空間
に位置しその配向はやや異なる!!
推測
ベンゼン環周辺アミノ酸との
相互作用に違いが!
逆立体配置のベンジル基ベンゼン環
は異なる空間と相互作用すると推測
R体とS体の活性逆転に関与 !
(R )-1と(S )-1で相互作用に違いが認められるアミノ酸
(R)-1-PPARγ
(S)-1-PPARγ
(Tripos力場 ε=6)
2.5
2.4
H449
1.8
S289
1.4
S289 1.9
1.9
L469
2.0
H449
1.5
2.6
L453
1.9
L469
L453
立体障害 !!
(S)-1ではベンゼン環水素とS289,L469との間でやや立体
障害が生じているため(S)-1-PPARγ複合体は不安定 !!
総括
フェニルプロピオン酸型PPARγ 選択的アゴニストの創製
O
O
N
H
O
OH
O
PPARγ活性
(R)-1 > (S)-1
(R)-1
O
N
H
OH
O
(S)-1
何故, ベンジル基の導入で PPARγ 選択性を示したか !
カルボキシ基のα位置換基収容ポケットの入口,容積共にサブタ
イプ間で最も大きいγ のみが嵩高いベンジル基を収容できる!!
何故, R体の方 がS体よりも高活性を示したのか !
(S)-1- PPARγ 複合体では受容体とリガンドの水素原子間で
やや立体障害が生じているため,(R)-1 - PPARγ 複合体の方が
(S)-1- PPARγ複合体よりも安定な構造をとる !!
本研究の意義
光学活性体の基本構造が同一
一般的に
今回の結果
一連の誘導体の生物活性
は常に一方のエナンチオマー
のみが高活性と考えがち!!
必ずしも一方のエナンチオマー
のみ高活性とは限らない!!
Design, Synthesis, and Structural Analysis of
Phenylpropanoic Acid-Type PPARγ-Selective
Agonists: Discovery of Reversed
Stereochemistry−Activity Relationship
M asao Ohashi‡, Takuji Oyam a§, I zum i Nakagom e, M ayum i
Satoh, Yoshino Nishio‡, Hirom i Nobusada‡, Shuichi Hirono,
K osuke M orikaw a§, Yuichi Hashim oto#, and Hiroyuki
M iyachi*‡
J. M ed. Chem ., 2011, 54 (1), pp 331–341
またおまけ!:サリドマイドの催奇形性副作用の発症原因が解明された?!
O
O
H
H
N
O
N
O
NH
NH
O
O
O
O
サリドマイドの催奇形性のメカニズムについては両手に余るほどの
メカニズムが提唱されては消えた。 長い間謎であった。
2010年,東工大の半田宏教授と東北大学の小椋利彦教授らにより、
サリドマイドがプロテアーゼの一つ、ユビキチンリガーゼを構成する
セレブロン(CRBN)という蛋白質と結合してその働きを阻害すること
が発見された(セレブロンはタンパク質分解に関わる酵素(ユビキ
チンリガーゼ)の構成因子であり,胎児の四肢の形成に重要な役割
を果たしている)。
その結果、手足の成長を促すタンパク質FGF8が阻害されて奇形を
引き起こすと彼らは提唱している。
33
またおまけ!:サリドマイドの催奇形性副作用の発症原因が解明された?!
高機能性磁性微粒子を用いてサリドマイド標的因子を単離・特定
グリシジルメタクリレートなど)で被覆された,直径約200ナノメートル(ナノは10億分の
1)のナノ粒子。この粒子に薬剤を化学反応によって固定化し,薬剤標的ライブラリー
の中から薬剤表的因子を選び出してくる。
34
またおまけ!:サリドマイドの催奇形性副作用の発症原因が解明された?!
35
またおまけ!:サリドマイドの催奇形性副作用の発症原因が解明された?!
36
またおまけ!:サリドマイドの催奇形性副作用の発症原因が解明された?!
ゼブラフィッシュの受精卵にサリ
ドマイドを投与したところ,胸びれ
や耳包の発達が未熟な稚魚が
育った。
サリドマイド児の典型的な特徴と
してアザラシ肢症(四肢の短縮)
や無肢症(四肢の欠失)のほか
に,小耳症や無耳症がある。
したがって,サリドマイドは人とゼ
ブラフィッシュに同じ発達異常を
引き起こしたといえる。
なお,魚の胸びれ,鳥の羽根(後
述),哺乳類の前肢は進化的な
起源が同じである。
37
またおまけ!:サリドマイドの催奇形性副作用の発症原因が解明された?!
魚類(ゼブラフィッシュ)
サリドマイド
なし
あり
サリドマイド非結合性のセレブロンの遺伝子導入によってサリドマイドの催奇性
は抑えられる。(左)通常のゼブラフィッシュ受精卵にサリドマイドを投与すると,
胸びれの発達が著しく阻害された稚魚が育つ。しかし,サリドマイド非結合型の
セレブロンを遺伝子導入した場合は,サリドマイドを投与しても胸びれが発達す
る。矢印は胸びれを指し示す。
38
またおまけ!:サリドマイドの催奇形性副作用の発症原因が解明された?!
鳥類(ニワトリ)
サリドマイド
なし
あり
通常の鶏卵にサリドマイドを注入すると,翼がほぼ欠落したニワトリが発育する。
しかし,サリドマイド非結合型のセレブロンを遺伝子導入した場合は,サリドマイ
ドを注入しても翼はかなりよく発達する。
39
またおまけ!:サリドマイドの催奇形性副作用の発症原因が解明された?!
Expression of a drug binding–deficient form of CRBN suppresses thalidomideinduced limb malformations in chicks. FH-CRBN and EGFP were electroporated as
indicated into the forelimb field of stage 14 embryos. Thalidomide (+) or vehicle (-)
was then directly applied onto one of the forelimb buds, and embryos were
analyzed at stage 36. (A) Skeletal cartilages stained with Victoria blue. A, anterior;
Pos, posterior; Pro, proximal; D, distal. Scale bar, 1 mm. (B) Expression of fgf8 and
fgf10 visualized by in situ hybridization. EGFP marks area of electroporation.
40
41