祭りの後に見る色は - タテ書き小説ネット

祭りの後に見る色は
ポルンガ
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︻小説タイトル︼
祭りの後に見る色は
︻Nコード︼
N7830CK
︻作者名︼
ポルンガ
︻あらすじ︼
1年に12回、祭りがある。
そんな村﹃祭り村﹄に引っ越してきた少年、秋風隼人は都会とはま
た違った生活を、村で出会った仲間と楽しく過ごしていた。
しかし、祭りが終わるたびに起こる殺人事件。成績優秀、運動神経
抜群の隼人は仲間たちと共に事件の真相に迫っていく⋮。
そして、過去の事件がフラッシュバックして⋮⋮⋮。
事件の結末は⋮。それを知る者は⋮これを読んでいる読者のみ。
1
引っ越し
完璧な人間なんて存在しない。
それが15歳の俺、秋風隼人が考えた結果だ。
誰だって完璧ではない。俺もその一人だ。学年トップの成績、運動
神経抜群、モテるかモテないかといったらモテる方、性格も良い方
の俺でも完璧ではない。ダメな所だってある。それはまた別の話。
分かりにくいのなら、歴史の人物に例えればいい。例えば、織田信
長。天下統一をする豊富秀吉や幕府を開く徳川家康に慕われるほど
なのに、仲間だった明智光秀によって自害することになっている。
つまり、仲間に裏切られるということは、あの織田信長でさえも完
璧では無かった、ということなのだ。
俺は車の中にいた。今から行くところは俺たちの家族の新たな家が
ある。つまり、引っ越しだ。
新たな村が見えてきた。俺は窓から風景を見る。
一言で言えば、緑。緑に覆われた村。前の家があったところは都会
だった。ここまで緑に覆われた村を見たことがない。
﹁⋮すげぇな。﹂
俺はそう呟く。前の家があったところが覆われていたのは光と建物
だった。それって大都会じゃん。
﹁すごいだろう、隼人。ここがお前の新しい故郷だ。﹂
﹁いや、故郷は生まれ育った町じゃね?父さん。﹂
﹁そうでした。テヘペロ。﹂
2
父がそう言う。いや、いい歳こいてテヘペロは引くぞ。てかとっく
に引いてるけど。しかも大人が故郷を知らないとはどういうことな
のだ?ダメじゃんか。
少し経つと家に着いた。見ただけで田舎⋮とは違う。さすがタマホ
ーム。田舎には似合わない家だ。白い家。そしてデカイ。庭もそこ
そこ広い。俺の親ってこんなに金持ってたの?
荷物を置くと、学校に向かうことになった。俺が明日から通う学校。
てか引っ越し2日目で学校って忙しすぎるだろ。全く慣れてないの
に。
学校に向かう途中、俺は1枚のポスターを見つけた。そのポスター
には﹃4月祭り!!﹄と書いてある。
そういえば、この村は1年に12回祭りがある。つまり、1ヶ月に
一回、祭りがある⋮らしい。ここに来る前に調べた。正直、1ヶ月
に一回のペースで祭りの準備は大変ではと思っている。
俺も参加しよう。そう心に決めた隼人くんであった。
そう心に決めながらくぐった校門は、まさに田舎と呼べるものだっ
た。それは校舎も同じだ。寺子屋かって言えるほどである。⋮⋮い
や、そこまでじゃないけどね。しっかりした建物だけどね。
ちなみに、この村の名前は祭り村。学校の名前は祭事共同学校。ど
れにも祭りって文字が入ってんだけど。どんだけ祭りが好きなんだ
よ。
共同学校というのは、小、中、高一貫校らしい。だからデカイのか。
校舎も3つに分けられてるし。
﹁隼人、早くしなさい。﹂
﹁ん?ああ。分かった。﹂
父に呼ばれ、俺は学校の案内を受けた。
そして、俺はこの後に知ることになる。
3
祭りの後に見る色を
☆☆☆
1年が始まる
片方は楽しい1年を
1年が始まる
片方は辛い1年を
1年が始まる
あなたが味わう1年はどちらでしょうか
私には、分からない
それを知るには、自分が頑張るしかない
4
頼み
﹁行ってきます。﹂
そう言うと、俺は家を出る。今日は学校だ。この村に引っ越しても
う1週間。だんだんこの村にも慣れてきた。ちなみに、俺が通う祭
事共同学校は意外にも偏差値が高い学校だった。それは高等部だけ
だが。俺が都会で受けようとしていた70越えではないが、それで
も65から70はある。しかもクラス分けあり。この偏差値でクラ
ス分けありとか地獄かと思ったがそうでもなかった。意外と楽しい。
⋮意外しかねーじゃん。
ちなみに俺のクラスはトップクラスだった。70越えの学校を狙っ
てたのだから当然だと思ったが、結果は1位タイだった。つまり、
俺と同じ点数がもう一人いたのだ。まあ、その人はもう少しで会え
るだろう。
なぜそう思うのかというと、待ち合わせしているのだ。家が近いと
いうのもあった。最初に話しかけてもらった。最初に仲良くなった。
それだけ。⋮⋮めっちゃ世話になっとるやん!⋮おっと、つい関西
弁が。本場の人が聞いたらなってないって言って怒りそうだ。
そんなことを言っていると待ち合わせ場所に着いた。そこにはすで
に待っている人が2人。その内の1人が俺の方へやってくる。
﹁アキー!!おはよー!﹂
俺の事をアキと呼んだ彼女は冬風雫。俺と同点だった奴だ。つまり、
こいつが俺のライバル。ちなみにクラス委員長。そして超が付くほ
ど明るい。なんて奴だ。
髪が背中まで付くほど長い。しかし、髪は縛っていない。そして水
色っぽい髪の色。初めて見たときは染めたのかよと思っていた。身
5
長は165くらい。俺より5センチ小さいくらいだ。しかし、なに
よりも可愛い。頭のいい奴がこんなにも可愛いとは思わなかった。
惚れてまうやろ!いや、惚れてないけど。
しかし、せっかく呼んでくれたのだ。俺は挨拶を返す。
﹁おう。おはよう、雫。﹂
俺が挨拶を返すと、雫は嬉しそうにスキップする。嬉しいの?嬉し
くなる要素はどこにあったのでしょうか?
すると、少し遅れてもう1人やってきた。
﹁おはよう、隼人くん。﹂
彼女は春風桜。大人しい女の子。茶髪だが、光が当たると少しオレ
ンジに見える。ショートカット。身長は165くらい。雫と同じく
らいだ。そして可愛い。
﹁おう、おはよう。﹂
すると桜も嬉しそうに近づいてくる。だから嬉しくなる要素はどこ
にありますの?全然分からんのだが。
ちなみに、こんなにも大人しいのに、運動がめっちゃ出来る。運動
なら俺と張り合うほど。雫と桜の長所は逆なべきなのではと思うの
だが、それは口にしない方が身のためだろう。
俺はこの2人と登校している。といっても、家が近いからなのだが。
クラスの人には羨ましそうに見られたり、ニヤニヤされたり、リア
充爆発しろみたいな顔で見られている。そう言うなら彼女作れや。
⋮と言ったら殺されるので言わないでおく。てか俺彼女いないんだ
けど。
そんなことを考えていると、急に雫に話しかけられる。
6
﹁アキー。放課後ひま?﹂
そう言われる。言い方が普通だったので、なんだこいつという感じ
で雫の顔を見ると、意外と真剣な顔だった。こいつの真剣さは顔で
しか見分けられないのかよ。それは辛いぞ?
﹁まあ、ヒマだけど。﹂
﹁やったー!じゃあ放課後に私の家ね。﹂
﹁おお。⋮てか雫の家知らないんだけど。﹂
すると桜が戸惑っていた。なぜだ?
﹁それって⋮デートなのかな?﹂
顔を赤くしながら聞いてくる。どうやら誤解していたようだ。桜は
雫の真剣な顔を見ていないのだ。それはしゃーない。会話だけでは
分からないよな。雫の真剣さは伝わらないよな。うん。
それを聞いた雫はもっと顔を赤くしていた。いや、お前も誤解する
なよ。俺の反応が困るだろ。
﹁いやいやいや、そそそそんなわけではなくてね!あの⋮聞きたい
ことがあるだのなんだの⋮。﹂
頭良いのに勿体ないぞお前。どうしちゃったの?なんで動揺してん
の?⋮俺には分からない。分からないことなんて⋮無いはずだった
のに。
とりあえず俺が返しておく。
7
﹁何か聞きたいことがあんだと。⋮どうせ勉強の話だろうけど。そ
れかお願い事。﹂
﹁私を何だと思ってんのよ。﹂
﹁人間?﹂
﹁はあ⋮。もういいわ。早くしないと遅刻だよ。﹂
﹁おい。﹂
途中で区切られると分からなくなる。⋮まあいいけど。てか何だと
思ってんのって聞かれたら人間って答えたくなるのが高校生っても
んじゃね?いや、違うかもしれないけど。
学校に着いた。読者の皆さんは急に話が変わってビックリしただろ
う。それが俺のナレーションなのだよ。俺がナレーションしたのは
これだけだけどね。
俺のクラスはトップのA組。ちなみにD組まである。頭良いかバカ
かがすぐに分かってしまうな。俺の他に、雫と桜も同じだ。桜はめ
ちゃくちゃバカって訳ではないらしい。
俺がクラスに入ると、俺の席に座っている人がいた。そして俺はそ
の人を知っている。なぜなら、同じクラスだから。当たり前か。
その人は俺が来たことを知ると、すぐに俺にタックルしてきた。痛
いんだけど。
﹁久しぶりね、隼人。﹂
この人は夏風風香。風という文字が2つ入っているのが特徴。そし
て金髪美女⋮というのは自称。実際はお嬢様的存在。金持ちだから
8
だ。金持ちはお嬢様になるという法則が出来ているのだろうか?
風香は背が低い。155センチだ。女としては高いかもしれないが、
雫と桜が165センチなのを考えると小さいのだろうか?俺には分
からない。⋮あいつらがデカすぎるのかも?
﹁ああ。昨日会ったけどな。﹂
﹁細かいことは気にしないの。﹂
風香はお嬢様だが、意外にもオールラウンダー。勉強、運動共に学
年3位。1位には俺、2位には雫か桜がいる。だから3位。まあ、
雫は俺と1位タイだけどね。俺が転校してくる前までは2位だった
のにと、謎のライバル関係にある。俺はそう思ってないけど。しか
し、偏りがあるよりはオールラウンダーの方がいいと思うけどな。
☆☆☆
そして放課後。俺は桜には悪いが、雫と帰っていた。朝の約束があ
るからだ。雫の家に向かっている。
﹁ところで、何の用なんだ?﹂
﹁知りたい?﹂
﹁もちのろんです。﹂
﹁何なの?そのくだらないネタ。私にはウケないよ?﹂
9
﹁うーん⋮。じゃあ何ならウケるんだ?﹂
てかなんで頭の良い2人がこんなくだらない話をしているのかが分
からない。しかし、俺たちが歩いていると、通りすがる同級生がニ
ヤニヤしてるんだが。そしていつも通り、雫は顔を真っ赤にしてい
る。なんでや!!
そんなことをしていたら雫の家に着いた。そんなことってどんなこ
とだよ。
てか、そんなことより⋮
﹁家⋮デカくね?﹂
俺の家もデカイ方だと思っていたのだが、もっとデカイとは⋮。恐
るべし雪風氏。金持ちやん。でも風香はもっとデカイのでは?あい
つ、お札を扇子にしてるし。
﹁そうでもないよー。アキの家も大きいじゃーん。﹂
﹁いや、これよりは小さいよ。てか雫って俺の家見たことあんの?
来たことないよね?﹂
そう言うと、雫はドアを開けながら答える。
﹁見たことあるよー。前に桜と風香と一緒に行った。﹂
なんで来てんだよ。てか風香は家反対側じゃね?いつ来たんだ?
﹁まあ、私はあの家好きだなー。﹂
﹁そうなの?ありがとう。﹂
10
﹁いえいえー。﹂
俺は廊下を歩く。そして、雫の部屋らしき所に着いた。ドアに﹃雫
の部屋﹄と書いてある。こういうのってアニメでしか見たことない
んだけど。リアルでは初めて見た。
部屋に入ると、そこは何というか⋮
﹁可愛らしい部屋だな。女の子らしい。﹂
﹁いやー、可愛いのが好きなもので。でも桜の部屋はもっとヤバい
けどね。﹂
ぬいぐるみに囲まれてるのかな?俺は嫌だな。埃っぽさそうだ。俺
はハウスダストだから大変なことになる。
俺は2つある椅子のうちの1つに座る。準備万端だな。
﹁んじゃ、本題に入ろうかな?﹂
﹁おう、早く入っとくれ。﹂
そう言うと、雫は勉強机らしきものの引き出しから何かを取り出し
た。
﹁これ、見てくれないかな?﹂
そう言われて見てみると、そこには去年の祭りの日にちが書いてあ
った。その日付は全て14日。そしてそれが1ヶ月ごとに分けられ
ている。
11
﹁祭りか⋮。でもそれが真剣な顔してた理由なのか?﹂
﹁まだあるの。﹂
そう言うと、また引き出しから何かを取り出す。俺はそれを受け取
る。それは12枚の紙。そこには⋮
﹁さ⋮殺人事件?﹂
﹁うん。それも去年で合計12回。正確に言うと、4月から3月ま
でで12回。﹂
﹁でも、それが祭りと何の関係が⋮⋮⋮あっ!!!﹂
関係はあった。それは犯行の日付。1ヶ月ごとで14日。つまり、
祭りの日と被っているのだ。
しかし、雫はまだ紙を渡してきた。俺が今持っている分も合わせる
と計60枚。その全てが殺人事件の内容だ。
﹁どういうことなんだ⋮?﹂
﹁この5年間、祭りの日には殺人事件が起こっているの。﹂
﹁え!?﹂
俺は驚く。ここに来る前に調べた時、そんな記事は見つけなかった。
この村で秘密にしていたのだろうか。
しかし、1回とか2回とかでは偶然とも言える。しかし、5年間。
12×5で60回。ここまで重なると偶然とは言えない。これは⋮
12
﹁誰かが意図的に犯行を⋮?﹂
﹁そう。きっとそう。だけど⋮。その犯人、まだ捕まってないの。﹂
﹁捕まってない?﹂
﹁うん。﹂
捕まっていない。この60回の事件全てが迷宮入りした⋮というこ
とだろう。
﹁⋮完全犯罪か。﹂
﹁そう。誰も真相が分からない。だから⋮。﹂
そう言うと、雫は少しの間を置いて話す。
﹁アキに今年からの真相を解いてもらいたいの。﹂
﹁俺にか?﹂
﹁うん。﹂
急なお願いに戸惑う。俺はいいが、誰も解けなかった事件を高校生
になったばかりの俺が解けるとは思えなかった。だが、俺は思うこ
とはある。
﹁今年も起こるっていう保証は?﹂
﹁ある。5年間も続いていて、今年はやらないとは思えない。それ
13
に、やらなかったらそれでいい。てかそっちの方がいい。﹂
﹁それもそうか。﹂
なら、俺の答えは1つだ。俺は言われたことは守る。⋮ていうか俺
がやりたいのだ。
﹁じゃあ、もし今回事件が起こったら、俺が真相を解いてやろう!﹂
﹁なんで上から!?⋮まあいいや。よろしくね、アキ。私も捜査に
は加わるからね!﹂
﹁おう!雫がいてくれたら超楽だよ!﹂
﹁そ⋮そう?⋮ありがと。﹂
なぜか雫は顔を赤くする。なんか前も見たな、この展開。なぜなの
だい?教えておくれよ。
そんな事は置いといて、俺は見ていた資料を持ちながら問う。
﹁この資料、持って行ってもいいか?﹂
﹁え?⋮うん。いいけど⋮﹂
その答えを聞くと、俺は立ち上がる。
﹁この資料から犯人の人数を特定してくるよ。﹂
﹁え!?特定出来るの!?﹂
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雫はやや驚いた表情を見せた。それを見た俺はニヤリと笑う。
﹁ああ。60回も違う人がやってるとは思えないからな。きっと犯
人は少数だろうな。多くて20人。いや、それも多いかもな。もう
少し少なめだろう。﹂
﹁なんで⋮。誰も解けなかった事件なのに⋮。﹂
そう言われると、俺は少し間を置いて話す。
﹁完璧な人間は存在しない。﹂
﹁え?どういうこと?﹂
雫はキョトンとした顔で見つめてくる。その顔は止めとくれ。可愛
すぎるだろ。待ち受けにしたい。いや、それはダメだな。キモがら
れる。
﹁雫は見たことあるか?完璧な人間。﹂
﹁いや⋮ないけど⋮。﹂
﹁だろ?完璧な人間がいないということは、完全犯罪は作れないん
だよ。﹂
﹁あ⋮そうか。﹂
納得してくれたようだ。それでいい。完璧な人間が作るのが完全犯
罪。何かが欠けている人が作るのが完全犯罪とは言えない。必ずど
こかにヒントはある。
15
﹁完全犯罪じゃない事件なんて、俺が簡単に解いてやるよ。﹂
☆☆☆
夜道を歩く。雫は送っていくって言ってくれたけど、女の子がこん
な夜に一人で歩くのは危ない。なので俺は断った。今度何か奢って
やるって言ったらOKしてくれた。あいつチョロっ!
しかし、俺は本当に事件を解けるのだろうか。雫の家ではあんなこ
と言ったけど⋮。今更気付く。俺は解けるのか?いや、やってやる。
絶対に解いてやる。やるかやらないかだ。誰のセリフだよ。
﹁ただいま。﹂
俺は家に入る。しかし、父は返事しない。父は寝ていた。返事しな
いのも仕方ない。俺は部屋に入る。そこには一枚の写真がある。そ
こそこ広い部屋の壁に飾ってある。
そこには、俺と父。そして⋮
﹁修也⋮﹂
今はなき、一人の人間。俺は今も悔やんでいる。あの時⋮なぜああ
することが出来なかったのか⋮。
今はまだ、悔やむ時期ではない。
16
そう思った俺は雫から貸してもらった資料を読んでいく。
17
4月祭り
前日
もし、人生がやり直せるのならば、あなたはやり直すのだろうか。
今は授業中。作文を書いている。テーマは“人生がやり直せるのな
ら”だ。なんてひどい授業だ。これが高校で最初に書く作文だとは
⋮。都会の友達が聞いたらビックリするだろうな。
そんなことを思いながら俺は作文を書く。ちなみに俺はやり直さな
い派。だって、やり直せる選択肢が元々ない人だっているじゃん。
てか普通はやり直せない。当たり前じゃん。やり直せたら普通の人
になりたいわ。そんなこと言ったらみんなになんて言われるかな。
それに、今はやり直せない。雫から頼まれた仕事がある。それが終
わるまではやり直せない。
その雫は寝ていた。作文はと思い、覗いてみる。席は隣なのですぐ
覗ける。
⋮⋮終わってるし。
枚数は2枚まで。しかし、雫は2枚目の最後の行の最後のマスまで
書いてある。⋮なんて奴だ。この俺を出し抜くとは⋮。
俺は対抗心を燃やしながら作文を書き続ける。
人生は一度きりである⋮と。
☆☆☆
﹁アキー!!昼一緒に食べよー!!﹂
18
雫が声をかけてくる。俺は一緒に食べる気は無かったのだが、誘わ
れては仕方ない。俺は弁当を持つ。すると、俺の腕に誰かが絡みつ
いてくる。
﹁おお!?誰だよ!﹂
﹁久しぶりね、隼人。﹂
﹁それ、口癖なのか?風香さん?﹂
そこにいたのは風香。いや、俺がさっき言ったから説明はいらない
のだが、分からない人がいると思ってね。風香はあんまし登場して
ないし。誰に言ってんだ俺。
﹁つれないわねー。一緒にご飯食べよ?﹂
﹁別にいい⋮と言いたいのだが、雫に誘われたばっかりなのだが⋮。
﹂
俺はとりあえず謝っておく。なんで謝ったのかは分からない。まあ
そういうノリは必要だろう。てかこれにノリなんてないけど。
すると雫が顔を真っ赤にしながら近づいてくる。いやいや、真っ赤
にしたいのはこっちだから。
﹁ななななにやってんのよあんた!!!!﹂
﹁あーら雫さん?悔しいのかしらー??﹂
﹁え!?いやいや⋮それは⋮その⋮﹂
19
モジモジしてる雫は結構可愛かったりする。近くの男子はみんな可
愛いとかいって指をくわえながら見ている。その後に羨ましいとい
う顔をしながら俺を見てくる。俺は被害者なんですけどー。
そんなことをしていると、誰かが俺の絡みついてない方の腕を引っ
張る。するとあら不思議。風香から抜け出せました。すごーい!て
か誰がやったんだよ。
見てみると、そこにいたのは桜だった。桜はニッコリと笑顔を向け
ながら言う。
﹁隼人くん。一緒に食べよ。雫ちゃんと一緒に。﹂
風香にトドメを刺したようだ。風香は魂が抜けたかの様に床に倒れ
る。
﹁私が⋮私がいないなんて⋮。﹂
しかし、桜は全く分かっていなかった。キョトンとした顔で聞いて
くる。
﹁どうしたの?﹂
﹁俺が聞きたいよ。﹂
﹁そうなの?⋮まあいいや。雫ちゃんと一緒に食べよ。﹂
満面の笑みで言ってくる。そんな顔をされては断れない。断れたら
男の中の男として認めてもいい。可愛すぎる。
そんな俺を見てさらに嫌な視線が⋮。お前らは勘違いをしている。
俺は好きでこんなことやってるわけではないのですよ?あっちが勝
手に揉めるのよ?俺は平和に暮らしたいんだよね。
20
﹁桜ー!私を仲間に入れてくれてありがとー!!!﹂
雫は桜を抱きしめる。女子ってすぐ抱きつくよなー。暑苦しくない
のかなー。
なんて思う今日この頃である。
結局、風香は1人で寂しくご飯を食べたとさ☆
⋮可哀想に。
☆☆☆
明日は祭りだ。祭りは楽しみである。しかし、俺は祭りの後は楽し
くない。俺は祭りの後の事件捜査がある。正直めんどくさい。だが、
ここでやらねばならない。村の人たちの好感度を上げるチャンス!
!⋮すみません。嘘です。
てか明日が祭りなのに昼にあんなことやってたのかと思うと呆れる。
この村の人たちにとって祭りは月の決まりとしか思ってないのだろ
う。しかし、聞いた話によると8月と12月と1月は結構本格的ら
しい。今が4月だから一番近い8月まで結構時間あるけど。
今は帰りのホームルーム。略してHR。この時間は正直いらないと
思う。授業終わったら帰らせろと思う。
俺は資料を読み漁る。もちろん、クラスのみんなにバレないよう、
コッソリとだが。だが、隣の席の雫にはバレてもいい。こいつに頼
まれた仕事だし。
だが、ここまで読んだだけでも、ある程度犯人の人数は絞れる。あ
くまでも人数なので、人間を特定は出来ない。
とりあえず、人数は最低2人。多くて13人。60回起きた事件だ
21
が、殺人の仕方が月によって同じ。1月なら1月の殺し方が、2月
なら2月⋮といった感じだ。殺されるのに使われた物も全ての月が
同じだ。例えば、今の4月に使われる物は今までの法則?なら金属
バットだ。過去5年間、4月は全て何者かによって顔面を何度も叩
かれた形跡が残っている。他の部位には何も無かったらしい。その
場に入れなかったのが残念だ。
なぜ金属バットだと分かったか。それは写真で分かる。顔面のアザ
の形を金属バットと組み合わせるとピッタシだ。面白いくらいに当
てはまる。過去5年間の被害者の顔の大きさが俺と同じくらいだと
いうのから推測するのは簡単だった。顔の大きさ書いてあったし。
殺人現場はどれも違うからこれは特定できない。去年の4月は自宅
だが、一昨年の4月は森の中。こればかりは分からない。
しかし、俺は2人から13人が犯人の人数だと予測した。60もの
事件を1人で出来るとは思えない。しかし、多すぎた場合、1人で
も捕まってないとおかしいくらい上手くいきすぎてる。
始めは20人くらいかと思ってたが、13人だと思う。1ヶ月毎に
1人から2人ならこの人数でも充分犯行を行えるはずだ。俺なら出
来る。
1人から2人を1ヶ月毎に交代でやれば充分。したがって13人。
12ヶ月を24人では流石に多すぎると判断した結果だった。だか
ら俺は1人の月があるのではと判断する。
しかし、これではよほど頭が良くなければここまでの完全犯罪は出
来ないよな⋮。
すると急に肩を叩かれた。見てみると雫が立っていた。いつの間に
かHRが終わってたらしい。
﹁アキー。帰ろう。門の前で桜が待ってるよ。﹂
22
﹁ん?おお。待たせちゃ悪いもんな。﹂
そう言うと、俺はカバンをつかむ。席を立ち、廊下を歩く。
﹁アキ。さっき読んでたのって私が頼んだやつ?﹂
﹁ん?ああ。まあな。﹂
﹁頑張ろうね。私も協力するから。﹂
﹁もちのろんだ。﹂
俺は下駄箱から靴を取ろうとした。しかし⋮
﹁ん?﹂
﹁アキ?どした?﹂
そこには、俺の靴の上に手紙が入っていた。しっかり名前付き。そ
の名前は⋮
﹁風香かよ⋮。﹂
﹁その通りよ、隼人。用があったから残ってたのよ。﹂
廊下から風香が出てきた。待ってたのかよ⋮。
﹁んだよ?﹂
すると風香はふふふんと笑いながら言う。
23
﹁明日の4月祭り!一緒に回りましょ?﹂
上目遣いで言ってくる。おい止めろ。その上目遣い止めろ。断りづ
らいじゃないか。
﹁ん⋮あー⋮﹂
﹁アキー!待たせてるからー!行こーよー!﹂
雫に呼ばれてしまった。俺は行かねばならぬ。呼ばれたからには駆
けつける!それこそがヒーロー。
ヒーローは愛と勇気だけが友達だもんな。愛も勇気も人間じゃない
から孤独ってことだよな。孤独=最強!!!!
﹁ごめんな、待たせてるから。後でメールする。﹂
すると風香はポッと顔を紅く染める。恥ずかしそうにしている。
﹁そんな⋮メールだなんて⋮。嬉しすぎる⋮?﹂
﹁んじゃなー。﹂
こういう面倒事はほっといた方がいい。都会で学んだ事だ。こうい
う事が前にもあって、一日中離れなかった奴がいた。正直、うっと
おしかった。
﹁アーキー﹂
﹁分かったよー!﹂
24
そう言うと、俺は走る。走れ隼人!
﹁隼人くーん!﹂
手を振っている子がいた。桜だった。可愛いなおい。胸の下で手振
ってるのってなんか可愛く見えんだよなー。雫には出来ないな。う
ん。
﹁アキ。今なんか失礼な事考えてなかった?﹂
﹁いや、今日のご飯はなんだろなーって考えてた。﹂
適当に誤魔化せた。ポーカーフェイスは俺の17の特技の一つだ。
他には﹃手先が器用で折り紙の達人と呼ばれてた﹄とかある。なん
とかダンスの主人公みたいだな。あの主人公は絵もうまかったはず
⋮。フィギュアも作れたよな⋮。今思うと地味な特技を持った主人
公だなー。
﹁そういえば!隼人くんさえ良ければ⋮。明日のお祭り⋮。3人で
回ろうよ。﹂
﹁俺、さっき風香に誘われたんだよね。どうすればいいの?﹂
﹁一緒に回れば良いんじゃないのー?﹂
なんかムスっとした感じで雫が言う。どうしたんすか?
﹁お⋮おお。桜はどうだ?﹂
25
﹁別にいいよー。﹂
雫とは正反対。なんて爽やかなんだ⋮。眩しすぎる!!
こうして、俺は女子3人と祭りを回ることになったとさ。⋮どうし
てこうなった?
俺は明日の祭りに備えて、早めに寝ることにした。
そう。明日は⋮祭りなのだから⋮。
☆☆☆
どうか私を許して
私は誤ったのよ
どうか私を許して
私はなにもしていない
なのに、なぜ殴るの?
どうか私を⋮信じてください
26
4月祭り
祭り。
当日
それは子供たちにとってはとても楽しみな行事だろう。大人たちに
とっては疲れる行事だろう。
女子にとっては浴衣を着て、男子にとっては普通の私服。それが祭
りという簡単な説明だろう。
俺、秋風隼人は待ち合わせ場所だった階段下にいた。
俺は女子3人と一緒に祭りを回る事になっていた。てか知らないう
ちにそうなってた。
俺は祭りには参加する予定だった。しかし、俺は誰かと回る予定は
なかった。それに俺は仕事がある。
その仕事は、5年連続で起こっている殺人事件。正確には60回。
俺はその迷宮入りされている事件シリーズの6年目を全て解決し、
犯人を全員捕まえるという使命がある。
今回は4月祭り。俺にとっては初めての事件。いや、正確には違う。
⋮⋮⋮思い出すのは止めるか。
思い出したら泣きそうになる。このことはまた別の機会に話そう。
今はまだ早い。
簡単に説明すると⋮。俺は都会で無くしたものがある。それがあの
時の事件。それがきっかけで引っ越しすることになったのだ⋮。
⋮⋮余計な事を思い出したな。
俺は思い出すのを止めた。
止めるために俺はホチキスで留めてある資料を読む。少しでも今回
の事件に関することを頭に入れておきたかった。
27
まあ、俺の仕事は事件を解決することだから、推理していく事が大
事なのだが。
すると、俺の右側から足音が聞こえた。誰かが来たのだろうか?
しかし、俺が見た人物は違った。俺の知らない人物だった。
20代くらいの男だ。
白のTシャツ。その上に赤のワイシャツ。そしてジーパン。どこで
も買えそうなコーディネートだった。
﹁やあ、君が秋風隼人くんだね?﹂
急に話しかけられて戸惑う。それもそのはず。俺はこの人を知らな
いのだから。
﹁えっと⋮。すみませんが⋮。﹂
﹁おっと、すまなかった。私は高木英虎。警察だよ。﹂
﹁警察!?﹂
正直、そうは見えなかった。この村の警察はこんな格好なの?そう
なの?ヤバくね?まじヤバス。
でも、俺の事を知っているということは、雫の知り合いだろうか。
﹁冬風さんから話は聞いているよ。事件後はよろしく頼むよ。﹂
﹁え?ああ。はい。﹂
﹁それじゃあね。﹂
そう言うと、すぐに高木は階段を上る。
28
すると、それと入れ替わりみたいな感じで右側から女子の声が聞こ
えてきた。
俺が振り向くとそこには女子が3人。そしてみんな浴衣。そして全
員見慣れた顔。その3人は祭事共同学校のトップ4の連中だ。︵1
位は俺︶
なぜか3人とも同じ色の浴衣なのだが⋮。何かあったのか?
﹁あ、隼人くーん!﹂
声をかけてきた赤い浴衣を着た女子は春風桜。見た目大人しいのだ
が、運動のエキスパート。⋮⋮何で運動なんだろうなぁ。勉強だっ
たら想像通りなのに。
とりあえず俺は声をかける。
﹁おう。おはよう。﹂
﹁アキー!おっはよー!﹂
俺の事をアキと呼んだ赤い浴衣を着た女子は冬風雫。元気っ子だが
勉強のエキスパート。いやほんっと、何で桜と雫を逆にしなかった
んだろうな。
すると雫の少し後ろから俺に向かってもの凄い勢いで走ってくる赤
い浴衣を着た女子が1人。
﹁隼人ー!おはよー!﹂
そう言って抱きついてくる。
こいつは夏風風香。勉強と運動両方出来るバランス型お嬢様だが、
その両方が桜と雫に負けて3位止まり。ちなみに1位は俺。いやー、
俺ってばマジ強し。
29
﹁おう。みんな揃ったなら行くか。﹂
﹁﹁﹁うん!!﹂﹂﹂
3人揃って返事する。こう見ると美少女3人を引き連れたクソリア
充な俺だが、俺が望んだ訳ではない。望んで誘ってやってたら殺さ
れるわ。リア充爆発しろとか言われるまである。いや、今も言われ
そう。
俺たちは階段を上る。そのまま屋台へ向かう。
﹁どこ回るー?﹂
﹁やっぱり始めはりんご飴?﹂
﹁何でりんご飴なの?﹂
雫、風香、俺という感じの流れで言った。
てか何でりんご飴なの?俺はそれしか頭にないよ。祭りといえばり
んご飴なの?都会はそうじゃなかったけどなぁ。確かわたあめだっ
たはず⋮。いや、それもおかしいのか?分からんな。
﹁おおー!ジャンケン大会だってー!﹂
そう言ったのは雫。てか祭りになぜジャンケン?1/3で勝てる大
会に出て何が面白いんだ?
﹁これって勝ち残りだってよー!隼人やってきたら?﹂
﹁何でだよ。﹂
30
風香にそう言われても出る気はありませんよ?
﹁おーっとぉ!何かにつまずいたー!!!﹂
﹁おいっ!!﹂
雫のおっちょこちょいによって俺はジャンケン大会の会場まで来て
しまった。
﹁君が次の相手かな?﹂
5連勝中の男の人がそう聞く。出たくないんだけどなぁ。
女子3人の方を見ると、キラキラした目で俺を見てた。そんな可愛
い目で見られたら断れないやんか。
﹁⋮⋮そうっすね。﹂
すると周りからオオー!という歓声が聞こえてくる。いつの間にこ
んなギャラリーいたの?
﹁では、ルールは簡単。ジャンケンは3回勝負。先に2勝した方が
勝ち。いいですね?﹂
審判みたいな女の人がそう言う。2勝⋮⋮か。まあ⋮これなら⋮
﹁余裕だな⋮。﹂
すると相手の男の人は何ですとみたいな感じで睨みつけてくる。い
や、怖いんだけど。
31
﹁じゃあ俺に勝てるのか?﹂
﹁ん⋮まあ。﹂
ついそう返した。すると当然の如く相手の男の人は怒った。そりゃ
そうだわな。
﹁えっと⋮。その⋮。﹂
審判は困惑中。当然だな。
﹁それじゃあ⋮始めます!構えて!!﹂
お、気合の入った声。さすが審判。でもジャンケンに構えとかあっ
たのか。あ、グーを前に突き出すって奴か?
俺はこの状況を楽しもうと一つ面白い事を思い付いた。ニヤリ。
﹁えっとぉ⋮。俺、パーを出そうと思ってんだけどなぁ∼。﹂
そう。ジャンケンは1/3で勝てる。だが、少し考えればその確率
は100%になる。それを教えてやる。
﹁な⋮!そんな手には引っかからないぞ!!﹂
﹁本当にパーを出そうとしてんだけどなぁ⋮。﹂
これを聞き、相手はこう考えるはずだ。
パーに勝てるのはチョキ。だが、それを読んで俺がグーを出す。し
かし、それを読んだ彼はパーを出す。そう考えるはず。
32
その通りなのか、相手は笑いながら俺を見る。なので俺は笑い返し
てやる。それでいいのかなぁ∼?という感じの笑いで。
そして、それを彼は見抜いた。顔で分かる。そういう表情を見せた。
それで十分だ。
彼は俺がそこまで読んでいる事を知り、更に深く読もうとする。
彼がパーを出すから俺がチョキを出す。そう読んでいる。だから彼
はグーを出す。
つまり⋮。
﹁ポン!!﹂
相手の手はグー。だが、俺の手はパーだ。つまり、俺の勝ち。
﹁なっ⋮!!﹂
﹁あれれー?俺は予言したはずだけどなぁ?﹂
とりあえず煽っておく。
分かっただろうか。1/3で勝てるジャンケンも少し考えれば勝て
る。100%に出来るのだ。
彼は深く読めた。しかし、まだ詰めが甘い。
普通の人ならこれで勝てるだろう。しかし、俺クラスの頭の回転の
速さを持つ者と読み合いをする場合、更に上を読むべきだったのだ。
これが彼の敗因。これが俺の読み。
残りの1回も勝利した俺は勝ち抜きを辞退し、女子達の元へ戻ろう
とした。
すると、さっきの相手が俺の元へ歩いてくる。
﹁いやー、負けたよ。強いね。﹂
33
ここまで素直だとは思わなかった。
﹁まあ、読みが当たっただけですよ。﹂
﹁そんなことはないだろ。あの顔は狙ってた顔だった。﹂
﹁⋮⋮⋮。﹂
この男⋮。相手の心を読むことに長けてるのか?⋮⋮まあいい。
﹁まあいいけどね。自己紹介がまだだったね。俺は富岡誠司だ。﹂
そう言って富岡は握手を求めてきた。俺は富岡の手を握って自己紹
介をする。
﹁俺は秋風隼人です。﹂
﹁え!?君が秋風くん!?﹂
なぜか驚いていた。なぜ?
俺が遅いからか、女子達が俺の元へやってくる。
すると、富岡は雫の顔を見ると、何か納得した顔を見せた。何に納
得したのかしら?
﹁そうか。雫ちゃんがいるってことは、君が高木さんの言ってた⋮。
﹂
﹁た⋮高木さん?⋮てことはあなたは⋮。警察??﹂
﹁うん。そうだよ。そっかー。君が秋風隼人くんかー。よろしくね
34
ー。﹂
えぇー似合わなー。富岡さんが警察とか合わなすぎだろ。ギガヤバ
ス。いや、テラヤバスかも。
少し話すと、富岡は仕事があると言って帰っていく。
俺たちはまだ遊び足りないのか、腹が減ったのか知らんが、金を使
いまくった。︵俺はそこまで使わなかった。なぜなら、風香が奢っ
てくれたから☆︶
今回の出来事で、風香が本当にお嬢様だという事が分かった。これ
だけで作文書けるんでね?
大体回った。しかし、最後の一つが残っていた。その屋台は⋮。
﹁何で祭りにギャンブルがあるんだよ。﹂
俺はそう問う。すると、雫から答えが返ってきた。
﹁ポーカーだよ。アキもやる?アキがやるなら私もやるけどぉ?﹂
やけに気合が入った声で言う。
そして笑っている。雫は俺に勝つ気なのか?
﹁じゃあ一回だけな。﹂
すると雫はキャッキャとはしゃぎながら台に向かう。何で嬉しそう
なの?
後ろを向くと、桜と風香が羨ましそうにこちらを見ている。仲間に
入れて欲しいのか?いや、この2人は俺を見ていない。視線が違う。
その視線の先には雫がいた。何で雫に視線が?
﹁ルールは分かる?﹂
35
﹁おう。﹂
﹁じゃあ一回勝負ねー。﹂
﹁おう。﹂
雫はそう言うと山札を切る。
そしてカードを5枚ずつ配っていく。
そして、俺の5枚は見事に違う数字。1つもペアがない状態だった。
それは雫も同じなのか、悔しそうな顔をしていた。
しかし、俺は勝負となれば負けられない。俺はある奇跡を信じてカ
ードを3枚変える。
雫もカードを4枚変え、準備は整った。
﹁もういいのか?﹂
﹁うん!じゃあいっくよー!せーのっ!!﹂
そう言い、雫は5枚のカードを見せる。
雫の5枚はフルハウスだった。
﹁どう?私の勝ち??﹂
しかし、俺の5枚のカードを見た瞬間、雫の顔は喜びから驚き、そ
して悲しみに変わった。
﹁ろ⋮ろ⋮ロイヤルストレートフラッシュ!?﹂
そう。俺のカードはスペードの10、J、Q、K、そしてジョーカ
36
ー。俺の完全勝利だった。
﹁そんな⋮。ロイヤルストレートフラッシュが出る確率って確か⋮。
﹂
すると雫の後ろにいた風香が答える。
﹁65万分の1だったはずね。﹂
﹁はぁ!!﹂
雫が珍しく大きな声をあげた。うるせぇよ。少し静かにしておくれ
よ。
﹁そそそそんな確率が今出るの!?ありえない!!﹂
﹁たまたま今日だっただけじゃね?気にすんな。﹂
実際、今回のはまぐれだった。これは本当。だって最初は1枚も揃
ってなかったんだから。
だが、俺は奇跡を信じて3枚変えた。その3枚はマークが違う3枚
だった。俺はマークだけでロイヤルストレートフラッシュを狙った
のだ。
﹁まあ、今回はまぐれだけど、勝てないゲームは存在しないんだよ。
﹂
﹁それって⋮どういう事?﹂
桜が聞いてくる。俺の言葉に返してくれるだけでありがたい。他の
37
2人はキョトンとしてるだけだからな。
﹁完璧な人間は存在しない。つまり、絶対に勝てないゲームも存在
しない。だって、何かが欠けてる人間が作ったルールだから。﹂
﹁なるほど⋮。﹂
桜が納得したような雰囲気を出す。しかし、他の2人はそうではな
かった。なので、俺はもう少し説明を加える。
﹁完璧じゃない人間が作るルールには必ず穴がある。そこが分かれ
ば勝てるのがそのゲームだってこと。つまり⋮。﹂
そのまま俺は今思っていることを口にしていいのか迷った。しかし、
今聞いているのは桜、雫、風香の3人のみ。大丈夫だろう。
俺は続ける。
﹁完璧な人間⋮神様が作るものじゃなければ、解けない問題はない。
﹂
すると、納得したのか、3人はおおー!と拍手しながら言う。⋮⋮
なんだこれ。
﹁解けない問題がないのなら⋮⋮⋮。必ず今までの60回の事件は
解けたはずだった。﹂
俺がそう言うと3人とも黙り込む。
それもそのはず。俺がそう言っているのだが、実際は60回全てが
迷宮入りした事件なのだから。
しかし、ここで伝えなければならない。
38
これが今の俺の意思表示。
﹁だから、必ず俺が解いてやる。俺に⋮⋮秋風隼人に⋮⋮。﹂
そのまま俺は続ける。この意思表示を。
﹁諦める、敗北の言葉はない。﹂
☆☆☆
高木と富岡は車に乗っていた。目的地は一軒家。
なぜ向かっているのか。
それは仕事だからだ。
高木と富岡の仕事は警察。ましてや今日は祭りの日の夜。何があっ
たのかはすぐに分かる。
想像していた事だ。しかし、見た瞬間に想像から確信に変わった。
その家の中。1本のロープがぶら下がっていた。そして、そのロー
プには輪っかがあった。
それだけで分かる人は分かる。
その輪っかは、人間の首を締め付けていたのだ。
﹁やっぱり今年もあるんですね。﹂
﹁やっぱりじゃないだろ。予想していた事だ。﹂
そう言うと、高木は携帯を取り出す。そして、ある番号に掛ける。
今は深夜の2時。起きているかどうか⋮⋮。
39
﹃もしもし、冬風です。﹄
掛かった!!
﹁どうも、警察の高木です。例の件ですが⋮⋮。﹂
﹃⋮⋮⋮⋮そう。分かった。雫経由で秋風さんの息子さんに行けば
いいのですね?﹄
﹁はい。よろしくお願いします。﹂
そう言うと高木は電話を切った。
高木は携帯電話をポケットにしまうと、キラキラに輝く空を見つめ
ていた。
40
初捜査
今は6時ピッタンコカンカン。祭りの次の日である。
この祭り村において祭りの次の日というのは、事件の匂いがしてし
まうのだ。本当に嫌だな。そんな村。
俺、秋風隼人はこんな時間に学校もサボってどこに行くのか。
それはすぐに分かることだ。
俺は現在、とある一軒家に向かっている。そこで雫と待ち合わせを
している。
その一軒家は意外と近い所にあるため、あまり時間はかからない。
楽なので良い感じ。
﹁アキ!こっちだよ!﹂
俺に気づいた雫は手を振りながらそう言う。声は元気だが、顔はそ
うではない。ついさっきの電話の声なんかは疲れたような声だった
からな。そりゃしゃーない。
﹁おっす。おはよう、雫。﹂
﹁うん、おっす!﹂
無理をしているのだろう。顔も良くしようとしているのが見て分か
る。
﹁⋮⋮無理はするなよ?﹂
﹁え?⋮⋮ああ、うん。ありがとね。﹂
41
それだけで伝わったのだろう。雫は素直にお礼を言ってくれた。
一軒家のドアの近くには、昨日会った高木と富岡がいた。一応挨拶
はしておいた方がいいのだろう。
﹁おはようございます。高木さん、富岡さん。﹂
俺に気づいた2人はすぐに手を上げて返事をしてくれた。
﹁おはよう、隼人くん。今日はよろしく。﹂
﹁おはようございます、隼人くん。﹂
先に挨拶をしたのは高木。その後が富岡。
今日の2人の格好は意外にもラフな格好だった。昨日と似たような
格好だ。
高木は黒のTシャツ。そのTシャツには﹃解決﹄という文字が入っ
ている。やる気満々なのがそのTシャツから伝わってくる。それに
ジーパン。デザインから昨日とは違うジーパンなのが分かる。ちな
みに、今日はワイシャツを着ていないようだ。
富岡はパーカーだった。灰色で、﹃解決第一﹄という文字が入った
パーカーだ。どこに売っているのだろうか。下はジャージだった。
とてもラフだ。
俺の格好は制服だ。雫も制服。現場はしっかりした格好がいいので
はと思っていたのだが、これは予想外だった。
そんな事を考えていると、高木が俺たちに手招きする。
﹁行くぞ。﹂
俺たちはそれについて行く。今日はこの4人。外にはすでに状況が
分かっている警察が聴き込みに行っていた。準備が速くて何よりだ。
42
今回の被害者は明智友美。20歳の会社員。昨日の祭りにも出てい
たとの事だ。
死因は首吊りだとの事。しかし、俺はそこに疑問を感じた。
⋮⋮⋮金属バットで殴られてない!?
そう。今までの死因は金属バットによって殴られ、死亡。それが今
までだった。
しかし、今回は違う。首吊りなのだ。今までの傾向が崩れたという
事だ。
⋮⋮くそっ!いきなり崩れた!
俺の予定が崩れた。しかし、今回はラッキーだった。なぜなら、首
吊りは、自殺とも言えるのだ。ただし、何も証拠がなければだ。
俺が考えていると、高木が小さな袋を持ってきた。
﹁これが現場に落ちていた。⋮⋮被害者である明智のものではない
“髪の毛”だ。﹂
本人のものでない髪の毛!?
これは良い証拠だ。しかし、これだと自殺だとは言えなくなった。
考えなければならない。現場を見ろ。現場にヒントがあるかもしれ
ない。
現場は明智の部屋。明智の家は一階建て。明智の部屋は入ってすぐ
右にある。そこまでにかかる時間は靴を脱ぐ時間を入れても15秒
もいらないかもしれない。
そこから先も調べたが、そこに証拠はなかった。つまり、明智の部
屋に落ちていた髪の毛しかヒントは無い。⋮⋮今の所は。
43
首吊りに使われたロープはどこでも売ってるような茶色いロープ。
しかし、そこにも一つ疑問はあった。
そのロープに指紋が無かった。
手袋を使ったのかもしれないが、これは異常だ。用意する為に購入
する。その時には必ず一回は触れているはず。つまり、必ず指紋は
着くはず。この村でロープの購入があったのは、聴き込みによれば
2日前。つまり、祭りの前の日だ。
手袋の購入は無かったらしい。しかし、手袋は冬に使うので、買わ
なくても持っていて不思議ではない。夏だが長袖の服を持っている
のと同じ事だ。
捜査をしていると、高木の部下であろう男性︵おそらく警察︶がや
って来た。
﹁容疑者候補である3人を連れてきました。﹂
3人⋮。よくここまで絞れたものだ。俺は感心しながら聞く。警察
の言葉には警察である高木が答えた。
﹁分かった。リビングに案内しておけ。すぐに行く。﹂
﹁はっ!﹂
☆☆☆
容疑者候補になっていたのは3人の男性。
1人目は石塚泰介。21歳独身。候補になった理由は、会社が同じ
で、髪の毛の色が同じ。更に祭りも一緒にいたとの事だ。
2人目は大賀悟史。20歳独身。候補の理由は祭りの後、明智を車
44
で送っていったとの事だ。そして髪の毛の色が同じ。
3人目は有澤翔。21歳独身。翔と書いて﹁かける﹂と読むのが特
徴。候補の理由は祭りを一緒にいた。つまり、石塚と3人でいた事
になる。そして会社が同じ。髪の毛も同じ色。てかみんな同じ色じ
ゃんか。
これでみんな揃った。すでにアリバイは聞いた。
全員、祭りには参加していた。石塚と有澤は明智と共に行動してい
た。そして帰り、明智は大賀と帰った。大賀はそれまでの間、屋台
の手伝いをしていたらしい。これらはすでに本当だということは分
かっている。村のみんなから聞いた話で本当だと分かっている。
しかし、俺は分かった。今回の犯人が。しかし、それを証明出来る
ものが無い。俺はそれを探さなければならない。
俺の隣にいた雫はうーんと頭を抱えながら考えている。
﹁誰だか分かったか?﹂
俺がそう問うと、すぐに答えは返ってきた。
﹁ううん、分からない。一番疑いがかかるのは大賀さんだけど、送
っていったのは近くのスーパーまでだって言ってたし⋮。それは聴
き込みで本当だって事も分かってるし⋮。﹂
﹁そうか⋮。そうだよな⋮。﹂
そう。大賀はスーパーまでしか送っていない。近くのスーパーから
この家までは2分ほどかかる。それは村のみんなが見ていたとの事
だ。つまり、これも本当だという事。
石塚と有澤は祭りが終わってからは明智と会っていない。これも聴
き込みから本当だと分かった。会っていないのならば殺害は出来な
い。
45
俺の推理を正しいとするには、確実に分かる証拠が必要だ。だが、
それが無い。証拠がなければ意味がない。それでは俺にとっての負
けだ。
俺は勝つのだ。この、迷宮入りとも呼ばれる事件に。今回は違うパ
ターンの死因だが、これでも勝たなければならない。それが俺のプ
ライドだ。
⋮⋮⋮なるほどな。今まで証拠が見つからなかったのか⋮。
俺でもあっさり分かってしまった犯人。だが、その証拠が無い。証
拠がなければ意味がない。だから今までの事件は迷宮入りしてしま
った。それが今までの真実だ。
すると、富岡が誰かを連れてきた。
連れてきたのは男性。その男性は医者の格好をしている。
﹁紹介します。医者の及川伊吹さんです。﹂
﹁どうも、及川クリニックの所長の及川伊吹です。﹂
及川は挨拶をしながら軽くお辞儀をする。それにつられて俺と雫も
お辞儀をする。
しかし、医者が来たというのは何か遺体に異常があったのだろうか。
﹁早速ですが⋮。遺体である明智さんの体内から薬物の反応が出ま
した。おそらくは睡眠薬です。﹂
﹁⋮⋮睡眠薬ですか⋮。なるほど。﹂
睡眠薬を使えば、眠らせたまま首吊りも可能だ。それなら明智も抵
抗は出来ない。
46
﹁しかし、その睡眠薬は午後の12時ごろに効果があったと考えら
れます。﹂
午後の12時頃!?
これは大きな証拠だ。石塚と有澤は祭りが終わってからは明智と会
っていない。証拠人もいる。
なら、犯人は大賀悟史?
いや、祭りが終わったのは午後の10時。薬が効き始めたのは12
時。つまり、この空白の2時間は何をしていた?
そこが分からなければダメだ。それでは事件解決とは言えない。
﹁⋮⋮⋮⋮。﹂
分からない。空白の2時間が分からない。そこを証明出来れば⋮⋮。
すると、高木がリビングからやって来た。
﹁⋮⋮アリバイは本当だと3人とも言っているよ。証拠が出るまで
好きにするがいいって。﹂
﹁⋮⋮は⋮はぁ。﹂
そうは言われても分からないものは分か⋮⋮⋮ん?
﹁高木さん。好きにするがいいって事は好きに調べろって事ですか
?﹂
高木はキョトンとした顔で俺を見る。
﹁あ⋮ああ。多分そうだ。﹂
47
それを聞いた瞬間、俺はある事を思いつく。
﹁じゃあ、高木さん。今から俺が言うところって調べられますかね
?﹂
そう言って、俺はその場所を指定する。その場所はまだこの場では
伏せておこう。
﹁⋮⋮⋮なるほどな。聴き込みではそう言っているから⋮⋮。分か
った。調べられるはずだ。やってみよう。﹂
﹁ありがとうございます。それと雫。﹂
﹁なに?﹂
﹁今から言うこと全てを聞いてきてくれ。﹂
﹁聴き込みしてこいってこと?いいけど⋮。﹂
﹁ありがとな。﹂
そう言って、今日の捜査は終わった。
☆☆☆
高木に頼んでおいた事はすぐに実行してくれた。その結果を知れた
のは捜査開始の翌日。
48
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮。以上が結果だ。君の予想通りだな。これで⋮⋮。﹂
﹁ええ。これでいけます。﹂
確信は掴めた。証拠を掴めた。これでいける。
隣で雫がキャッキャとはしゃいでいた。普段ならうるさいとか言う
かもだが、今回は多めに見よう。正直、俺もはしゃぎたいくらいだ。
﹁雫。﹂
﹁んー?﹂
雫が笑いながら返事する。こいつ超浮かれてんな。⋮まあいいか。
﹁聴き込みありがとな。おかげで解けたよ。﹂
﹁え?それって⋮⋮役に立ったって事?﹂
﹁ああ。もちろんだよ。﹂
それを聞いた雫は顔を紅くしながら俯く。⋮⋮どうしちゃったの?
大丈夫なの?風邪でも引いたか?
﹁じゃあ隼人くん。準備はいいかな?﹂
富岡が聞いてくる。
ここは明智の家の前。ここで俺は容疑者候補だった3人の中から犯
人を暴く。
結果は見えている。やはり思った通りだった。
49
この世界に、完璧は無い。故に、迷宮入りするような完全犯罪なん
てものも無いのだ。
それを今、証明しに行くのだ。
容疑者候補の3人は明智の家の中にいる。今はリビングだ。おそら
くバレるかバレないか怯えながら座っているのだろう。もしかする
も、なんで関係のない俺が⋮。そう考えているかもしれない。
しかし、それも全て俺が解いてやる。
﹁じゃあ、行こっか。アキ!﹂
雫が俺に手を差し伸べてくる。俺はその手を掴む。そして、俺は今
から始まる戦いの前に⋮⋮。こう言ってやった。
﹁さあ⋮⋮⋮⋮推理の時間だ。﹂
50
4月の答え。そして⋮⋮
⋮⋮⋮⋮何この空気。
俺は1番にそう考えた。それもそのはず。今から4月祭りの事件の
真相を⋮⋮なんて思ってたのに静かすぎですよね。こんなところで
喋りたくねぇ。それが俺の本心です。
﹁アキ。頑張って!﹂
雫が後ろから応援してくれてるのはありがたいんだけどねぇ⋮。
とにかく、今はそんな事を考えるでない。さっきあんなカッケェ事
言っちゃったんだし。やるしかねぇ。
﹁えーゴホンゴホン。それでは始めましょうか。﹂
わざとらしく咳き込んでさぁ準備オッケー。いっくよー!て﹃ビバ
⃝ピ﹄じゃねーんだから。おっといかん。これでは俺がボカロ知っ
とる的な噂が立ってしまう。それだけは避けないと⋮⋮。
いつの間に用意したのかも分からないホワイトボード。それを使う
のは俺だしな。⋮⋮ありがたく使わせてもらおうか。
﹁高木さん。こういう場合って、犯人はあなただーって言ってから
ですか?それとも⋮。﹂
﹁証拠を出してからな。﹂
怒られた。なんかそんな感じのトーンだったし⋮⋮。ショボン。
﹁えーっと⋮。秋風さん?早くしてくれないかな?﹂
51
なんと意外!!今回の容疑者候補である大賀氏がそんな事を言うな
んて⋮。俺、更にショボン⋮。
﹁分かりました。それでは始めましょう。﹂
そう言うと俺はホワイトボードに色々書き込んでいく。
そこに書く主な内容は、数直線。そこに時間と出来事を書いていく。
もちろん、容疑者候補のアリバイもそこに書き込む。
全て書き終わったところで俺は説明を加える。
﹁まず、今回の被害者である明智友美さんは午後の12時頃に殺害
されました。警察が来たのが午前の2時ですが、医者の調べではそ
ういう事になっています。間違いないでしょう。﹂
俺のその言葉にみんなが頷く。おお、これがドラマでしか見たこと
のないシーンか⋮。ありがたやぁ。
しかし、これはみんなが知っていること。ここからは俺たちチーム
“ポリス”の捜査結果の発表だ。ネーミングセンスなさすぎだな、
このチーム名。
﹁まず、石塚さんと有澤さん。あなたたちは朝、明智さんの家まで
行き、祭りの場所まで送っていった。﹂
﹁はい。そうです。﹂
そう答えたのは石塚だ。有澤は頷いている。
﹁石塚さんの車で乗せていった。それも間違いないでしょう。住民
という最大の証拠人がいますので。﹂
52
それに2人は頷く。いやー、素直でいい人ですな。
﹁そして、明智さんは午後の10時まで祭りにいた。そして帰りは
大賀さんの車で帰った。﹂
﹁はい。﹂
大賀も素直だな。素直な人しかいないじゃん。いい子いい子してあ
げる!
﹁しかし、大賀さんが乗せていったのは明智さんの家から2分ほど
かかるであろうスーパーまでしか送っていない。そしてその後、大
賀さん本人、そして車が明智さんの家に入ったという目撃は無い。﹂
その言葉にホッとしたのか、大賀は深呼吸をしていた。吸ってー。
吐いてー。
﹁しかし、石塚さんと有澤さんも明智さんの家に入ったという目撃
も無い。﹂
その言葉にみんなが静まり返る。この雰囲気は嫌なんだよねー。本
当に嫌だわー。
しかし、そんな事を言ってられない。俺は攻めていく。
﹁明智さんは首吊りで死亡した。これだけなら自殺とも言える。し
かし、明智さんは睡眠薬を飲まされたという検査結果が出ている。﹂
そう言うと、俺は睡眠薬の効き目があった時刻、つまり午後の12
時のところに印を付ける。
53
﹁祭りが終わったのが10時。しかし、薬が効き、死亡したのが1
2時。つまり、この空白の2時間に犯人は殺害の準備をした、と考
えるのが普通でしょう。﹂
確かにとか、そりゃそうだなとか呟く容疑者候補の3人。
だけど、お前たちの内1人は痛い目にあうんだけどな∼。
さあ、ここからが勝負どころだ。
俺は手招きし、高木と富岡、そして雫を呼ぶ。3人はともに何かを
持っている。おそらくは写真。もしくは資料。そのどちらかだろう。
﹁さあ、ここからが証明です。⋮⋮⋮雫。最初の照明を。﹂
そう言うと、雫は資料を読んでいく。
﹁祭りの日の午後11時です。とある家の人の証言ですが、その人
の隣の家の車のエンジンが急に付いた。そしてどこかに出かけたら
しい。そういう証言があります。﹂
その言葉にザワザワする。と言ってもこの場に大勢はいないけどな。
しかし、雫は続ける。
﹁隣の家の人は午後の10時には毎日帰ってきて、その後にエンジ
ンの音が聞こえたことは一度も無いと言っていました。﹂
そこで俺は雫にグッドサインを送る。ジャンケンのグーだけど、親
指は立ててあるアレだ。
54
﹁あれれ∼?おっかしいなぁ?何でいつもしない事を祭りの日の夜
にやるんでしょうか?﹂
わざとらしく言ってみる。しかし、これだけでは本当の証拠とは言
えない。
俺は次に富岡の事を手招きする。人差し指でやるアレだ。
富岡は写真をホワイトボードに貼り付けた。何の写真かというと⋮
⋮。
﹁それ、俺の車の中!!!﹂
そう言ったのは石塚。富岡は更に2枚の写真を貼る。その写真はも
ちろん、大賀と有澤の車の中の写真。
﹁いつの間に!﹂
大賀がそう言う。しかし、もう遅い。
﹁いやいや、あなたたちが言ったんですよ?﹃証拠が出るまで好き
にしろ﹄って。それをどこかの警察はどこを調べてもいいと解釈し
ました。﹂
それを聞いて唖然とする3人。そうだ、驚け。車の中を調べるのに
わざわざ車会社の人まで呼んだんだから。
﹁しっかし、なんでそんなに驚くんですか?もしかして⋮⋮⋮見ら
れてはいけないものでもあったんですかね?﹂
俺はそう言う。そして俺は3人の表情を伺う。
車の中に見られてはいけないものがないならそこまで動揺はしない。
55
大人が見る本とか、そういう類を求めてはいない。俺が求めている
のは⋮
犯人が使用した道具だ。
どこにも証拠を残さない。そんな事が出来るはずがない。俺でも出
来ないのだ。必ずどこかに穴がある。今回の事件の穴は車の中だと
俺は考えた。そして、その考えは見事に当たった。
思ってなかっただろうな。自分の発言が、そのまま俺たちを助けた
のだから。
思ってなかっただろうな。調べられないと思っていた車の中を調べ
られたのだから。
もう⋮⋮⋮終わりだ。犯人さん。
﹁最後を締めくくるのは高木さんですね。﹂
俺がそう言うと、高木は3人にも見えるほどの大きさの資料をホワ
イトボードに貼る。
﹁⋮⋮⋮DNA検査結果??﹂
そう言ったのは有澤。
そうだとも。これは検査結果だ。よく考えてみろ。これが犯人を捕
まえる1番の手段だ。
それが3枚分ある。それはつまり⋮
﹁いつの間に俺のDNAを!?﹂
それは他の3人もそうだったようで、嘘でしょ?みたいな雰囲気に
なっていた。
56
﹁寝ている時に医者である及川さんにやって貰いました。睡眠には
影響が無いようにしましたので、ご安心を。それにDNAだけじゃ
ない。指紋もとってありますよ。﹂
出来るか!!と言いたそうな3人だ。これは面白い顔だ。予想外。
写メ撮りたい。
﹁本当は車だけで良いと思ったんですが、高木さんがどうしてもっ
て言うから仕方なくやったんですが、見事に成功ですね。﹂
そう。犯人の車の中には1本のロープ。そして手袋が入っていた。
そして、その手袋からも犯人の指紋と一致。ロープに付いていた僅
かな血。これも明智のDNAと一致。そしてそのロープに付いてい
た指紋も一致した。
そう書いてあるのがこの資料だ。
もう言い逃れは出来ない。
﹁最後と言いましたけど、俺の聞き込み結果でも報告しますか。﹂
そう言うと俺は1枚の資料を読み上げる。
﹁明智さんは午後の11時に家を出ていたという監視カメラでの目
撃があります。その行き先は、明智さんが勤めていた会社です。⋮
⋮もうお分かりですね?﹂
そう。一致したのだ。指紋も。車の中にあったのも。そして、明智
さんと同じ会社に勤めていたのも。
その会社に入れるのはそこに勤めている人物のみだ。
57
﹁もう終わりですよ。⋮⋮⋮石塚さん。あなたが犯人ですね?﹂
石塚は全て終わったというような表情を見せていた。
それもそのはずだ。今まで続いていた完全犯罪記録。それを破られ
たのだから。そして、それを破ったのは俺だ。俺sugeeee!
!!!
富岡は手錠を付ける。石塚はクソっと小さな声で呟いていた。
俺は連行される前に石塚に聞きたいことがあった。
﹁石塚さん。あなたは本来、4月の担当ではないですね?⋮⋮どう
してですか?﹂
それを聞いた全員が驚いていた。
そう。俺は疑問に思っていたのだ。
本来、4月の担当は金属バットで殴り殺すのが普通だった。しかし、
今回は首吊りに見せつけた絞め殺し。
12ヶ月の中に絞め殺しでの殺人は一つだけあった。それも⋮⋮今
回とほぼ同じやり方で。
﹁石塚さんは本来、5月の担当ですよね?﹂
石塚は頷く。そして、石塚は掠れた声で言う。
﹁命令された。誰かも分からない奴に、今年は4月と5月は変更だ
⋮って。﹂
誰かも分からない奴。つまりその人間がこの事件を作り上げた人物。
そして、俺が戦うべき人物。
﹁頑張ってみろよ。4月はまだまだ序の口。本当に迷宮入りなのは
58
これからだよ。⋮⋮俺は捕まるけど、秋風さん。あんたなら解ける
んじゃないか?﹂
応援されたのか?
それは分からない。しかし、俺はそんな事言われなくても分かって
るつもりだった。
﹁俺はこの真相を解いてやる。⋮⋮石塚さん。今回は俺の勝ちだ。﹂
﹁⋮⋮そうだな。﹂
そう言うと、石塚は警察に連行された。
これで1/12は終わったのだ。一気に疲れがのしかかってくるよ
うだった。
捜査は1日。報告で1日。⋮⋮2日しか刑事ごっこしてないのに、
こんなに疲れるのかよ。
俺はイスに座り、ぐでーとしていると、雫と高木、そして富岡が俺
のところにやってきた。
最初に口を開いたのは高木だった。高木は俺に手を差し伸べながら
ニッコリ笑った。
﹁ありがとう。おかげで助かったよ。﹂
俺は手を握って答えた。
﹁いえ、皆さんのおかげですよ。﹂
﹁いやいや、秋風くんのおかげだよ!﹂
そう言ったのは富岡。俺はそれに苦笑いで返しとく。
59
俺が笑っていると、富岡の後ろで雫が少し涙目で俺を見ていた。え
?なんで涙目?
そう思っていると、雫は俺の手を握ってきた。え?え?何で急に!?
﹁すごいね、アキは。﹂
﹁急にどうした?﹂
﹁だって⋮⋮今まで誰にも解けなかった事件なんだよ!私だって今
回の犯人分からなかったもん!!それに、アキは調べる前に石塚さ
んが犯人かもって言ってて、それが本当だったし⋮⋮。﹂
俺の事を語ってくれるのは嬉しいのだが、自分の方がすげーはずっ
て言ってるように聞こえるのは気のせい?俺はそう信じてるよ?⋮
⋮信じてるからね??
そんな考えを無くし、俺は雫が言った言葉を頭の中で整理しながら
答えを探す。
﹁当たり前だろ?だって俺だもん。﹂
少しドヤ顔混じりで言ってみた。
﹁うわー!その顔ムカつく!!﹂
ムカつくとか言われてしまった。俺、寂しいよ。うん。
とにかく、これで4月は終わったのだ。しかし、これで浮かれては
いけない。石塚は序の口だと言っていた。つまり⋮⋮⋮
ここからが本当の勝負か⋮。
60
これから更に難易度の高い事件が俺を待っているのだろう。てか普
通は事件なんて起こってほしくないはず。だが、俺はそんな風には
思わない。まだ犯人を全員捕まえてないのだ。それが終わるまでは
俺の中では解決じゃない。
俺たちは明智の家を出る。俺と雫は今回の報酬だと言われ、高木か
らお金を貰った。つまりは給料みたいなものだ。こっそり見てみた
けど、結構な金額だった。福澤さんが10枚はいた気がする。気の
せいかもしれないけど。
俺たちは高木たち、つまりは警察と別れた後、雫と一緒に帰り道を
歩いていた。まあ、家の方向が一緒だしな。
﹁今回のアキ、超カッコよかったよ。﹂
急に紅くした顔で言われても戸惑うだけだ。何こいつ。可愛すぎな
んだけど。
﹁まあ、そうだな。もっと褒めるがいい!﹂
﹁何それ。まあ、アキらしいね。﹂
雫が笑いながら言う。そして、そのまま更に話す。
﹁都会でも人気者だったんでしょー?﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁え?どうしたの?﹂
61
俺が何も答えないでいると、雫が不思議そうに聞いてくる。
﹁ん?ああ。どうだったかな?﹂
﹁またまたぁ。そんな事言ってぇ。﹂
雫がふざけながら言ってくる。
今は知られたくない。俺の過去はとてもつまらない。悲しく、心が
痛くなる。今でも家族写真を見るだけで泣きそうになる。
悟られないように俺もふざけ合う。
今はまだ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
☆☆☆
﹁なぁなぁ、秋風ってどこの高校に行ったんだっけ?﹂
突然そう問われ、私は動揺した。秋風くんは引っ越してしまった。
秋風くんが引っ越してからもう1ヶ月たつ。急にこんな話が来ると
は思わなかったのだ。
﹁えっと⋮⋮。祭事共同学校っていう所かな?﹂
﹁聞かねぇ学校だな。あいつの成績に合うの?﹂
﹁小、中、高一貫校だけど、高等部だけは中等部の時に試験やって、
合格した人しか入れない、謎のエスカレーター学校らしいよ?﹂
﹁そうじゃねぇよ。⋮⋮⋮聞き方変えるわ。その高等部の偏差値は
62
?﹂
私は偏差値を思い出す。
ええと⋮⋮⋮確か⋮⋮⋮。
﹁65から70だったはずだよ。﹂
﹁はぁ!?意外と高ぇのな。﹂
彼はとても驚いていた。
だよねだよね!私も驚いた!
なんて事を口にしたいのを我慢する。
今の私にそれを口にする権利なんて無いのだから。
あの時犯した過ちを私はまだ⋮⋮引きずっている。
その時、彼は近くの男子1人と女子1人を呼んできた。なんだろう?
﹁祭り村ってとこだよな?今度行こーぜ!﹂
え?
﹁おお!それ良いな!俺も秋風に会いたいし!!﹂
え?え?え?
﹁私も良いよー。でもさ。秋風、多分過去の事知られたらまた転校
するんじゃない?﹂
﹁まあ、俺たちが黙ってりゃいんだよ。俺たちもそこまでバカじゃ
ねーし。バカだったらこんな偏差値70の学校には入れねーよ。﹂
63
﹁だよな!﹂
私たちはゴールデンウィークに秋風くんに会いに行く事になった。
本当は、秋風くんのためを思って、行かない方が良いと思うけど、
仕方ない。そんな事口に出来ない。
私は⋮⋮⋮⋮⋮。
どんな顔して秋風くんに会えばいいのだろうか。
64
再開
4月祭りから約2週間経ち、いつの間にか5月になっていた。そし
て、俺が4月の事件を解いた事も一気に有名になっていた。
4月の事件は首吊りに見せかけた締め付け殺人だった。
殺害された人物と同じ会社に勤めていた犯人が無人の会社で殺害し、
そのまま殺害された人物の家まで死体を運び、首をロープにかけ、
首吊りに見せかけた事件だった。ざっくり説明するとこんな感じ。
その事件を解いた俺は、迷宮入りの事件を解いたという事で凄い有
名人になった。
とは言っても、もうすぐ5月祭り。また俺は事件を解かなければな
らない。⋮⋮また事件が起きればだけど。
﹁5月祭りまで後少しだねー。﹂
俺の隣の席である雫がそう言ってきた。⋮⋮俺に言ったのね。
﹁ああ。そうだなー。﹂
俺はとりあえずそう答えておく。何か答えておかないと色々と怖い
からな。⋮⋮⋮面倒くさいことになるし。
今は帰りのホームルーム、略してHRが終わった所だ。俺の周りに
は雫がいて、とてとてと俺の方に歩いてきてる女子2人は桜と風香
だ。どうやら俺の用意を待っているようだ。
⋮⋮⋮なんか申し訳ないな。
﹁帰ってていいぞ?﹂
﹁待ってる。﹂
65
﹁私も。﹂
﹁方向違うけど待っててあげる。﹂
最後の1人、すなわち風香は余計だと思うのだが、仕方ないだろう。
それに明日からはゴールデンウィーク、略してGW。他の地域の学
校は今日から休みらしいのだが、俺たちが通う祭事共同学校は明日
から休みなのだ。
他の学校と1日遅い代わりに、他の学校より1日遅くまで休みだ。
つまりはパラダイス!!⋮⋮そうでもないな。
とりあえず、帰る用意は出来た。
﹁んじゃ、帰るか。﹂
そう言うと、みんな頷いてゾロゾロと廊下を歩く。
高等部の1年の教室は一階だ。つまり、昇降口がすぐ近い。帰るの
が早くなるのだ。良いことだな。
俺たちは帰るために校門まで行こうとする⋮⋮⋮が、しかし。隣の
クラスの生徒たち、もしくは小中学生が大勢いて、帰れなくなって
いた。
俺はとりあえず隣のクラスの男子に声をかけてみる。
﹁何かあったのか?﹂
とりあえずそう聞く。すると答えはすぐに返ってきた。
﹁ここら辺の制服じゃない奴が4人いるんだよ。校門の外で。﹂
ここら辺じゃない?どういう事だ?
66
﹁ここら辺の人じゃないのか⋮⋮。誰だろうな?﹂
﹁さぁ?﹂
誰も分からないようだ。しかし、人が多すぎてその制服も見えない。
⋮⋮髪の毛は見えるけど、髪だけじゃ分からんわ。
﹁とりあえず帰りたいんだ。通してくれないか?﹂
﹁ん?ああ。すまねぇな。﹂
そう言うと道を開けてくれた。え?みんなは帰らないの?何で?先
生に怒られるよ?
みんなが開けてくれたので、その4人の顔が見えてきた。そして、
その内の1人が声をかけてきた。
﹁おお!!きたきた!久しぶりだなぁ!!秋風!!﹂
﹁え⋮⋮⋮⋮⋮?﹂
俺はつい持っていたカバンを落としてしまった。それほど動揺する
事だったのだ。なぜなら⋮⋮
﹁え?え?知り合いなの?﹂
雫がそう聞いてくるが、それを無視した。代わりに、話しかけてき
た奴に俺は返事をする。
﹁何でここにいるんだよ?⋮⋮秋良。﹂
67
彼の名前は柳秋良。“やなぎあきら”と読む。大きめの身長とツン
ツンに立った髪の毛が特徴。明るい性格で、ムードメーカーになれ
る存在。なぜそこまで知っているのかというと、俺が都会にいた時
の友達⋮いや、仲間と呼べる人間だったからだ。
そして、他の3人も俺の仲間だった人達だ。
﹁久しぶりだな、秋風。﹂
﹁ああ。そうだな、悠木。﹂
彼は椎名悠木。俺と同じくらいの身長に、少し茶髪っぽいのが特徴
だ。秋良程では無いにしても、明るめの性格。
﹁秋風ー。おひさー。﹂
﹁だな。久しぶり、彩乃。﹂
彼女は白石彩乃。女子にしては大きめの身長。そして金髪のロング
ヘア。少しパーマがかかっているのが特徴だ。明るめの性格。てか
みんな明るめだなおい。
そして⋮⋮あと1人。俺が一番会いたく無かった人物がそこにいた。
その人物はまだ言葉を出さない。なんかオロオロしている。
その人物⋮⋮女子は俺がこの中で一番良く知る人物だ。
俺が都会にいた頃、1番一緒にいた。俺はあいつと幼馴染だった。
友達だった。親友だった。⋮⋮仲間だった。
だけど、俺はあの日。全てが狂って⋮⋮彼女を傷付けた。俺の弟⋮
⋮⋮⋮修也と一緒に。
会いたくなかった。俺のせいであんな風になってしまったのだ。ま
だ、祭事共同学校の生徒は知らない事だが、俺はもう⋮⋮あんな過
68
ちを繰り返したくない。
だが、彼女を見てしまうと⋮⋮⋮。
﹁秋風くん⋮⋮⋮⋮⋮久しぶり。﹂
俺は言葉をどうにかして返した。
﹁ああ。⋮⋮久しぶり、雪那。﹂
彼女は桐生雪那。小さめな身長。茶髪がかったショートヘア。そし
て⋮⋮⋮。
俺の好きだった女の子だ。
そして、俺が裏切った女の子だ。
そうだ⋮。今も覚えてる。あの時に⋮。
始まりを告げた5月。しかし、この再開は俺にとっては良いものな
のだろうか。
俺には⋮⋮⋮分からない。
☆☆☆
あなたは悪くない
なぜあなたは自分を責めるの?
あなたは悪くない
少なくとも私はそう思う
69
なら、質問してもいい?
なぜあなたは自分が悪いと思ったの?
70
響く声
俺はファミレスに来ていた。
今は祭り村にはいない。その隣の町“泉州町”にいる。泉州町は俺
が昔住んでいた町。そして、村の隣にあるのに都会というなんとも
意外な町だ。
祭り村からは30分ほどで着く。なので交通手段には苦労しない。
歩きで30分だし。自転車だと人によるけど大体10分から15分
で着く。
なぜ俺がこんなところにいるのか。なぜファミレスにいるのか。そ
れはここにいる4人のせいだ。
俺を入れると5人。全員が座る。
﹁で?何の用だ?﹂
俺は4人の内の1人である秋良に問う。
俺はついさっき、校門で待ち伏せされていたのだ。その4人は秋良、
悠木、彩乃、雪那。俺が都会にいた時、いつも一緒にいた4人だ。
その内のリーダー格になりつつある秋良にこう言われた。
﹁お嬢さん方、ちょっとこいつ借ります。﹂
俺は拒否したのだが、雫、桜、風香がなぜかOKしてしまい、俺は
こうして連れてこられたのだ。あぁーめんどくせーなー。
そんな事があり、俺はファミレスにいるのであった。
﹁あぁー、何だ?元気してっかなー、みたいな?﹂
秋良は笑いながら言う。
71
﹁俺は何の用だって言ったんですが?﹂
﹁いいじゃねーか、俺たちはお前に会いに来たの。オーケー?﹂
﹁ったく⋮⋮⋮。分かったよ。会っただろ?帰っていいか?﹂
﹁あ、ハンバーグステーキ5つで。﹂
﹁おいっ!!﹂
勝手に注文された。こいつ考えたな?注文してしまえば食べずに帰
るのは至難の技。なんかそういう法則が出来ている。これが都会の
ルール。⋮⋮⋮だった気がする。
﹁はっはっは!まあ、ゆっくり喋ろうぜ?﹂
﹁分かったよ⋮⋮⋮。﹂
俺は諦めるしかなかった。
俺たちは中学時代、全員が学年5位までを独占していた。もちろん、
1位は俺だが、2位から5位は秋良たちが必ず取っていたので、他
の奴らは6位が最高だと思われていた。
俺たちの点数差は1点ずつ。俺が500点だったときは秋良が49
9点。その下だった悠木が498点だった。こんな感じだ。それが
毎回続いていたのだ。ちなみに4位は彩乃、5位は雪那だった。
﹁秋風ー。あんた、あの学校で何番なわけ?﹂
彩乃が俺に話しかけてくる。何番というのは簡単に言うと成績だ。
72
彩乃はチャラい部類に入る。頭悪そうに見えて意外と頭は良い。だ
が、それでも爽やか系の悠木には勝てない。紙一重の差だ。
﹁1位タイだった。﹂
それを聞いた4人は目を丸くして驚いた。そんなに驚くことか?
﹁お前と同等の奴がいるのか!?﹂
おいおい秋良くん?俺に一度も勝てなかったからってライバル視す
るんじゃありませんよ?
﹁いるよ。まだ定期テストはやってないけど、入試で同点だったん
だよ。﹂
4人はホゲーとか言ってる。みんなのイメージがガタ崩れである。
﹁いや、意外だったからさ。秋風、やらかした?﹂
やらかした?とまで言われてしまうとはな。俺はどこまで出来る奴
だと思われてんだ?
だが、俺はやらかしてない。入試の5教科の合計点数は500点。
つまり、全てが満点だったのだ。俺はやらかしてない。それはつま
り、俺と同じ1位である雫もあのテストで500点だったのだ。
﹁やらかしてない。全教科満点だったからな。﹂
﹁マジで!?﹂
﹁うん。﹂
73
俺の言葉に彩乃が驚く。なんで驚くの?俺は本当のことを言ったま
でなんですけど?
﹁驚いたな。バケモノはどこでもいるんだな。田舎だからってなめ
ちゃあかんな?んで、本題なんだが、いいか?﹂
秋良、本題が遅いよ?心の中でそう言う俺は優しいなぁ。口には出
さないんだからな。
﹁いいぞ?﹂
﹁んじゃ、本題だけど、秋風さぁー。﹂
秋良は笑いながら次の言葉を言う。
﹁俺たちの町に戻ってこいよ?﹂
俺はすぐには答えられなかった。町に戻る。それは過ちを犯したあ
の町に戻れという事にしか聞こえない。秋良はそんな事思っていな
いのだろう。だが、俺にはそうとしか聞こえなかった。
﹁戻らない。それが俺の答えだ。﹂
﹁そうか。残念だ。ライバルがいねーと張り合いないんだよね。﹂
秋良は呑気に言うが、顔は本気だった。本当にそう考えていたのだ
ろうな。
するといまだ一度も話していなかった2人の内の1人である悠木が
口を開いた。
74
﹁そろそろいいんじゃないか?日も暮れてきたし。食べ終わっただ
ろ?﹂
悠木、お前は優しいな。俺も帰りたいと思ってたんだよね。ありが
とう心の友よ!!
﹁俺も帰りたいよ。あいつらほっといてるし。﹂
俺は一応そういう言い訳をしておく。すると秋良は意外とすんなり
受け入れてくれた。
﹁まあGWも始まったばかりだし、近いし。また来るよ。その時は
あの時のように遊ぼうぜ。﹂
﹁ああ。﹂
﹁んじゃ雪那。送ってけ。﹂
﹁え!?﹂
突然送ってけと言われた雪那は戸惑っていた。まあ、雪那はまだ一
回も喋ってなかったしな。動揺するのもムリはない。
﹁ななななんで私!?﹂
﹁お前が一番秋風の家に近いからだ。﹂
﹁そんな理由!?﹂
75
﹁ったく⋮⋮⋮。ちょっとこっちこい。﹂
そう言うと秋良はチョイチョイと人差し指で雪那を招く。お前は人
差し指の招き猫か。
なんかコソコソ話しているが、俺は帰りたいんだよなー。なんか気
まずいし。
コソコソ話が終わると、なんか雪那はぐったりしていた。何なの?
どんな話したらこんなになっちゃうの?逆に知りたいわ。
﹁じゃあ、帰ろうか?﹂
﹁お⋮⋮おう。﹂
つい動揺してしまった。てか当たり前じゃね?なんだかんだいって
こいつ可愛いし。それに、俺の初恋の相手だし。
俺たちは全員ワリカンで金を払うと、そこで別れた。俺と雪那、秋
良と悠木、彩乃という感じで別れる。家の方向が違うからな。こう
いう分け方も仕方ないけどな。なーんか、気まずいんだよな。
﹁じゃあ、帰ろっか。﹂
﹁お⋮⋮⋮おう。﹂
俺たちは並んで歩く。そして、当然の如く、無言が続く。ほらー!
やっぱりだよー!こんな空気嫌だよー!!!
すると雪那は俺の袖を掴んできた。
﹁お⋮おい!﹂
﹁秋風くん。背、伸びたね。﹂
76
﹁え?おお⋮⋮⋮そうかもな。﹂
﹁ふふ⋮⋮。すっかり差がついちゃったね。﹂
﹁そうかもな。﹂
なんで身長の話が出たんだ?意味が分からない。ま⋮⋮まさか!!
秋良がそういう話をしろと!?いや、でも頭の良いあいつがこんな
くだらない話をするとは⋮⋮⋮⋮。
ふと、俺は雪那に聞きたい事を思い付いた。そうは言っても、俺は
その事を思い出したくないのだが。
何となく⋮⋮聞かなくちゃいけない気がしたのだ。そう、俺の直感
が言っている。俺の直感は当たる。テストの記号問題で、分からな
いところを直感で書いて外したことは一度もない。それってすごく
ね?今気づいたわー。
俺は勇気を出し、聞くことにする。
﹁なあ、あの時の事⋮⋮⋮ごめんな。﹂
﹁え?いいよ。気にしてないし。こっちこそごめんね。辛い思いし
たんだよね?﹂
ああ。優しいな、雪那は。悠木とかの優しさとはまた違った優しさ。
雪那は相手の心情を理解している。だから雪那はこんな事が言える
のだ。俺とは違う⋮⋮雪那の長所だ。
﹁いや、辛い思いはしたけど、今は大丈夫だ。気にすんな。﹂
﹁そっか⋮⋮⋮。良かった。﹂
77
雪那はそう言うと、それからは黙ってしまう。俺も何となく黙った。
俺が聞きたい事は聞いた。それで充分だ。
しばらくして、俺の家に着いた。
﹁ここが秋風くんの家なんだね。なんか⋮⋮前よりも豪邸になって
ない?﹂
﹁気にすんな。⋮⋮⋮上がってくか?﹂
﹁いいの?でも、親とかいるんじゃ⋮⋮⋮。﹂
????
︶仕事
それもそうだと思ってた時、俺の携帯が鳴った。それはメールだっ
た。
差出人は俺の父親だった。
﹃件名:父ちゃんだよー!
本文:父ちゃん、帰れなくなっちったよー!︵
がどうのこうのでな。飯は作れるだろ?材料はあるから適当に作っ
てくれや。てことはよろしくね︵∩^o^︶⊃┃☆°.*・。﹄
⋮⋮⋮顔文字がムカつく。
﹁どうしたの?⋮⋮⋮あ、そのメールって⋮⋮⋮。﹂
﹁帰ってこないとさ。﹂
﹁そっか⋮⋮。じゃあ、上がろうかな?﹂
俺はドアを開ける。そして、そのまま俺の部屋に案内した。
78
﹁なんか⋮⋮⋮昔とほぼ変わらないね。﹂
﹁そういえば⋮。﹂
フフフと可愛らしく笑う。こいつ、本当に可愛いな。まあ、中学校
では3本の指に入るほどの可愛さだったしな。
俺は紅茶を持ってくると言って一度部屋を出た。
帰ってくると、雪那は一枚の写真を見つめていた。その写真は⋮⋮
俺の家族写真だった。
﹁秋風くん⋮⋮⋮忘れられないんだね⋮⋮。﹂
﹁まあ⋮⋮⋮そうだな。﹂
その写真には俺と、父さん、そして⋮⋮⋮今は亡き弟である修也が
写っていた。
﹁あの頃は⋮⋮⋮楽しかったね。﹂
﹁ああ。あの頃が一番充実してた気がするよ。﹂
あの頃⋮⋮正確には1ヶ月ほど前。俺が引っ越す少し前。あの時ま
ではとても充実していたのを覚えている。
あの時に⋮⋮⋮戻りたいな。
俺たちは紅茶を飲み終わると、雪那を帰そうとした。だが、雪那は
帰ろうとしない。
79
﹁どうした?帰らないのか?もう夜だぞ?親も⋮⋮⋮﹂
﹁今日、親は二人とも海外旅行だし⋮⋮。私は一人暮らしだし⋮⋮。
まだいても平気だよ?﹂
﹁え?一人暮らしなの?﹂
﹁うん。﹂
えぇーうっそーん!雪那って料理は⋮⋮⋮出来たな。前にあいつの
作ったオムレツ食べたことあるしな。美味かったなーあれ。
でも、いくら親が帰ってこないからと言っても同い年の女の子がい
るのはどうしても⋮⋮⋮なんかあれだな。リア充を超えてるよ。超
リア充だよ。
﹁今日⋮⋮⋮泊まっていっても⋮⋮いい?﹂
上目遣いでそう言われる。か⋮⋮⋮可愛い。俺が惚れたことのある
女の子だから、可愛いのは知ってたけど⋮⋮⋮⋮。こいつも成長し
たなぁ。
こんな可愛い顔をされてしまえば、断る事は出来なかった。
﹁ど⋮⋮⋮⋮どうぞ?﹂
つい、そう返してしまった。どうしよう!!やっぱりダメとか言え
ないじゃん!!うそー!嬉しいけど⋮⋮ダメだろ!!
﹁じゃあ⋮⋮お邪魔します。﹂
ここから、“ドキッ!!俺の部屋で好きな子が一泊イベント”が始
80
まってしまった。⋮⋮⋮何のゲームだよこれ!
☆☆☆
なんとかご飯、風呂と何事もムフフな事は無いままこれた。正直疲
れた。
だが、俺の部屋にはベッドは一つしかない。父親が使っているのは
布団だが⋮⋮⋮察してください。普通はあかんだろ。
とりあえず俺は雪那をベッドで寝かせることにした。
﹁じゃあ俺のベッドを使ってくれ。﹂
﹁え?秋風くんは?﹂
﹁俺は床で寝る。﹂
それは当然だった。いや、父親のベッドで寝ようとしたんだが、酒
臭いんだよね。あんなところで寝たくない。それに、体痛くしても、
明日からは休みだし、問題無い。
しかし、優しさのカタマリである雪那はそれを許さない。
﹁ダメだよ。床で寝ちゃカラダ痛めちゃうよ?﹂
﹁だって、他に寝るとこないし。﹂
﹁じゃあ⋮⋮⋮﹂
雪那は顔を紅くしながら言う。
81
﹁一緒に寝よう?﹂
﹁っ⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!!﹂
恥ずかしい。だが、ここで登場上目遣い!俺を倒すことの出来る方
法を知っているのか雪那は!!
﹁⋮⋮⋮⋮分かったよ。﹂
そう言うと俺は電気を消し、雪那と一緒にベッドに入る。そこで俺
は更に攻撃される。
シャンプーの匂いが⋮⋮匂いがぁ!!!
なんで女の子のシャンプーの匂いってこんなにも強烈なんだ!!い
や、今回が初めてだけどな。
﹁ねぇ、秋風くん。﹂
﹁な⋮⋮⋮何だ?﹂
動揺してるのがバレないように言う。
﹁私⋮⋮⋮⋮秋風くんが好きだよ。﹂
﹁⋮⋮⋮⋮え?﹂
突然言われた告白。何度も告白された。だが、こんなにも心に響い
た告白は初めてだった。
﹁一緒にいて楽しかった⋮。嬉しかった⋮。ドキドキした⋮。こん
82
な感情、生まれて初めてで⋮。今日、柳くんに言われて⋮⋮⋮告白
しようって⋮⋮⋮。﹂
なるほどな。あの時のコソコソと話してたのはそういう事だったの
か。
じゃあ、泊まっていくって言ったのも⋮⋮⋮一緒に寝ようって言っ
たのも⋮⋮⋮⋮。納得だ。
雪那は積極的な方ではない。だから、今回の行動は不思議の連続だ
った。だけど、これで納得だ。
﹁⋮⋮⋮⋮いつから好きだったんだ?﹂
つい、そう聞いてしまう。
﹁⋮⋮⋮⋮ずっとだよ。初めて会った時から⋮⋮⋮ずっと。﹂
俺と同じだ。でも、受け入れていいのか迷ってしまう。
確かに好きだった。だが、それと同時に俺は雪那を傷付けてしまっ
た。
でも⋮⋮⋮それでも⋮⋮⋮⋮いいんじゃないかって思ってしまう。
雪那はあの時の事を気にしてないと言った。確かにそう言った。そ
れが本当なら⋮⋮⋮それでもいいんじゃないかって⋮⋮⋮⋮そう思
う。付き合えば分かるのではって⋮⋮⋮そう思った。
﹁だから⋮⋮⋮付き合って下さい。﹂
ベッドで⋮⋮⋮何でこんな変なところで告白されたのか分からない。
でも、俺はこんなに響いた告白は初めてで⋮⋮⋮⋮。
俺は答えた。
83
﹁ああ。付き合おう。﹂
あの時の罪滅ぼしをしていない。それでも、俺は断れない。好きだ
ったのだから。
こうして、俺と雪那は恋人になった。
☆☆☆
﹁秋風くん!!﹂
そう呼ぶ声がした。俺はその声がした方を振り向く。そこには⋮⋮
⋮俺が好きな⋮⋮雪那。
﹁おはよう、雪那。﹂
俺たちは幼馴染。そして、俺の隣には⋮⋮俺の弟がいた。
﹁修也くんも!おはよう!﹂
雪那の言葉に⋮⋮⋮⋮弟である修也は答えた。
﹁うん、おはよう。雪那ちゃん。﹂
これは⋮⋮⋮まだ俺の生活が充実していた時の話。
隼人15歳春、3月。
俺のリアルが崩れた⋮⋮⋮あの時の話をしよう。
84
兄と弟⋮⋮⋮1
準備は出来た?
受け入れる覚悟が
準備は出来た?
あの時の悲しき物語を
なら、進みましょう
受け入れて、前に進むために
☆☆☆
修也は俺より出来た。
俺よりも成績が良く、運動も出来る。顔も良く、みんなを引っ張っ
ていけるリーダーシップの持ち主。
これが兄弟の理想だとか、そんな事を言われたりする。俺は、自分
よりも出来る弟を持つことが出来て良かったと思っている。
修也は俺の自慢の弟だった。
俺よりも一つ年下である修也だが、俺が習っている問題も解けてし
まう。天才と呼べる存在だった。
そんな弟を持つ俺だが、受験も終わり、結果を待つだけだった。
﹁あぁ∼!!心配だぁ∼。﹂
85
そう言うのは秋良。一緒にいた悠木や彩乃、雪那も揃って同じ事を
言う。それもそのはずだ。俺たちが受けた高校の偏差値は70を超
えている。そんな難関校でも、倍率は意外と高い。今年は1.75
くらいだったはずだ。でも、去年の倍率が2だった事を考えれば、
今年はまだマシなのだろう。
正直、俺も心配だ。いくら中学校で学年1位でも世界は広い。俺よ
りも上の成績の人がいてもおかしくない。今ここにいる全員が紙一
重の差の成績。少しでも油断すれば負ける。そんな仲間たちだった。
俺たちが校門まで向かうと、そこにはすでに修也が待っていた。
修也は俺たちと既に馴染んでいる。まるで、同い年の様に。
﹁先輩方!お疲れ様です!﹂
礼儀正しくそう言う。流石は俺の弟だ。とてもいい奴だな。俺の育
て方が良かったのかな?
﹁秋風とは大違いだね、修也君は。﹂
﹁余計なお世話だ、悠木。﹂
そんなくだらない事で騒いでいれる。俺たちはとても充実した生活
を送っていた⋮⋮⋮と思う。少なくとも俺は。
だが、事件は急に起きるものなのだ。
☆☆☆
最近、この泉州町で犯罪が多くなった。合格発表は明後日だ。少な
86
くとも、明後日までは何事も無いといいのだが⋮⋮⋮。
犯罪というのは、簡単に言えば強盗、殺人と言った類だ。よくある
犯罪。警察はそれについて詳しく捜査しているとの事だった。
聞いた話によると、隣の村でも殺人が起こっているらしい。それも
最近だと聞いている。本当かは分からない。だが、それが本当なら
大変だ。
今日は金曜日。合格発表は日曜日だ。そして今日が中学校の卒業式
だった。
﹁兄ちゃん、頑張って!!﹂
﹁何を頑張んだよ。⋮⋮⋮まあ、行ってきます。﹂
﹁いってらっしゃい。また後でね!﹂
﹁おう。﹂
そう返事をすると、俺は家を出る。
登校の時は4人と待ち合わせをしている。学校から1番近いのが悠
木の家になる。したがって、悠木の家の近くに集合になっている。
俺が1人でテクテク歩いていると、俺の知っている顔も歩いていた。
⋮⋮⋮彩乃だ。
彩乃は俺に気付いたようだった。手を振りながら近づいてくる。
﹁おはよー、秋風。﹂
﹁おう、おはよう、彩乃。﹂
合流し、一緒に登校する。
87
俺たちは卒業生との事もあり、卒業式の話だけで充分盛り上がれた。
﹁やっぱさー、秋風はメアドとかめっちゃ教えてるわけ?﹂
とか聞かれたりもするので
﹁まあ、教えるけど自分からメールする人は少ないかな?﹂
﹁だよね。﹂
俺の返事に満足したのか、ニコニコしながら彩乃は歩く。
チャラ女である彩乃だが、実際は可愛い。雪那の次くらいに可愛い。
学校ツートップは誰?と聞かれたらすぐに彩乃と答えるレベルだ。
それって結構レベル高くね?
俺の言葉でニコニコしてくれるなら、それはそれでいい。彩乃は恋
をしている。その相手は俺ではなく、秋良でも無く、実は悠木。俺
も秋良も気付くのに何故か悠木だけはそのアプローチに全く気付か
ない。その感情がいつの間にか無くならない事を祈るよ。⋮⋮⋮諦
めるなよ、彩乃。
しばらくして、待ち合わせ場所に着いた。そこには既に着いていた
奴もいた。
雪那と秋良だった。⋮⋮ていうか悠木だけ来ていない。まあ、家か
ら近いしな。いつもそうだしな。今日は早いだろうと期待した俺が
アホだった。
﹁おはよー、柳、桐生。﹂
彩乃はそう挨拶をする。俺は苗字で呼ばないから柳とか桐生とかだ
と一瞬誰?ってなるからな。今もそうなったし。
88
﹁おっはー、お二人さん。﹂
﹁おはよう、彩乃ちゃん、秋風くん。﹂
﹁おう、おはよう。﹂
そう挨拶していると、すぐに悠木が来て、5人で登校する。5人に
なってもやはり話題は変わらない。卒業式の話だ。
もしかすると、この日常も今日が最後かもな⋮。
などと考えてしまい、それは無いなと目立たないように頭を横に振
る。
だが、実際はそうだ。受験に落ちるかもしれない。そうなると、誰
かが欠けてしまえば、それだけで今の日常は壊れる。だが、このメ
ンバーに落ちるというのは考えられなかった。
☆☆☆
卒業式も無事に終わり、今は放課後。俺たちは帰る準備をしていた
ところだ。
3年生と1、2年生では帰る時間が違う。1、2年生は卒業式の片
付けがあるからだ。3年生は卒業生だから、その片付けは無い。
俺は一応、帰る前に体育館に向かう。目的はもちろん、修也だ。
そして修也はすぐに見つかった。
修也もすぐに俺に気付き、近づいてくる。
﹁今日はどうするんだ?﹂
89
﹁先に帰ってていいよ?﹂
﹁そうか。気を付けて帰れよ。﹂
﹁うん。﹂
修也はクラスの人に呼ばれたのか、またねと言って奥に行った。
⋮⋮⋮んじゃ、ちょっくら遊んできますか。
行き先はお好み焼き店。クラスでの打ち上げとの事でお好み焼きに
なった。俺、お好み焼きそんなに好きじゃないんだけどな⋮。まあ
いっかぁ。
とりあえず楽しむ。多分、合格発表前に楽しめるのは今日までだ。
楽しんでおくのもいいだろう。
と、2時間ほど楽しんでいると、店のテレビが急にニュースに変わ
った。
﹁あれ?さっきまでお笑い番組じゃなかった?﹂
クラスメイトの誰かがそう言う。それにみんなが相づちを打つ。
そのニュースに誰もが見向きもしなかった。もちろん、俺もそのつ
もりだった。だが、一瞬だが見えてしまった。そのニュースの内容
が。
それはデパートを占拠したーみたいな感じの内容だった。近くのデ
パートだったので、少し心配だと思ったがそれだけだ。
だが、聞こえてしまった。そのニュースの現状が。
﹃現在、数名が人質になっており、人質全員にお金を要求していま
す。その金額は1億円です。﹄
90
1億円かよ⋮⋮⋮。中学生の発想だな⋮⋮。俺もまだ中学生だけど。
などとふざけた事を考えていた。
﹁秋風ー、焼いてくんない?﹂
﹁いや、焼けないなら頼むな⋮⋮⋮よ⋮。﹂
呼ばれて振り向き、そこで見たものは良かったのか悪かったのか。
俺の事を呼んだクラスメイトの先にはテレビがある。そして、その
テレビに映っていたのは⋮⋮⋮
﹁修也⋮⋮⋮?﹂
俺はすぐに焼く。そこは守る。焼き終わると時間だからと言って打
ち上げを抜けさせて貰った。
俺は修也の携帯にかける。だが、繋がらない。
﹁くそっ!!﹂
テレビに映っていたのが本当に修也なのかは分からない。だが、本
当なら危険だ。あいつが1億円なんて持ってるわけない。いや、持
ってても危険だ。殺される可能性は高い。
それに、一瞬だったが、犯人と思われる人間は銃を持ってた。それ
だけで危険だ。
﹁待ってろ⋮⋮⋮!﹂
俺は走った。ここからあのデパートまで走って10分掛からなかっ
たはずだ。
91
﹁ちょっと待て。﹂
後ろから声をかけられた。俺は走りながら答えた。
﹁何だ?俺は急いでる。﹂
その声の主は振り向かなくても分かる。秋良だ。そしてそれは当た
った。
﹁ニュースを見た。悠木とかも知ってる。もうすぐあいつらも追い
つく。﹂
﹁分かった。﹂
くそっ⋮⋮!!!10分がこんなにも遠いと感じるなんて⋮⋮⋮。
感覚狂ったな⋮⋮。
俺は走る。全速力だ。運動は出来る方だが、持久走だけは得意じゃ
ない。体力が無いのだ。いや、ビリになるほどではないがな。それ
でも10番以内には入れないほどだ。いや、それでも凄いんだろう
けどな。うん。
俺は知らなかった。俺という人間の弱点を。
誰も知らなかった。俺の弱点に。
俺という人間はここまで慌てたことはなかった。
俺は初めて慌てた。それはどういう事を意味するのか。それは簡単
だ。
俺は⋮⋮⋮秋風隼人は⋮⋮⋮。慌てると思考力が格段に低下するの
だ。
92
思考力が低下すると、俺という人間がどこまで意味のない人間にな
るのか⋮⋮⋮。
それを、思い知る事になる⋮。
93
兄と弟⋮⋮⋮2
ただいまデパートの中に突入⋮⋮⋮しないで、現在悠木、彩乃、雪
那を待っている。それまでに作戦を立てなくてはならない。
修也が人質にされていたところはおそらく2階だ。ニュースの時に
映っていた背後から予測した。俺が良く行く店があったしな。すぐ
分かりましたよ。
俺は必死に策を練る。だが、思いつかない。頭がパニックになる。
くそっ!!非常事態にパニックなんてアホか俺は!!
冷静になれ。入り口は閉じられている。だが、裏口なら入れる。あ
そこは鍵がかけられない。ボロいからな。そこからなら突入出来る。
だが、そこからどうする?入るまではいい。そこからどうするかが
重要だ。くそっ!!頭が回らねぇ!!!
﹁秋風!!﹂
来た。悠木達だ。
﹁じゃあ、入るか。﹂
秋良がそう言い、みんなそれについて行く。
裏口から階段まではすぐだ。エレベーターやエスカレーターは使わ
ない。使えば俺たちまで人質にされてしまう。階段を使うしかない
のだ。
階段を使うときも、なるべく足音を立てずにしなければならない。
耳が良い奴ならそれだけで気付かれる可能性もある。そこまで頭に
入れておかなければならない。
94
俺たちは物音を立てずに上る。そして2階に着いた。幸い、階段の
近くに見張りはいなかった。
﹁どうする?﹂
秋良が俺にしか聞こえない程度の声で俺に問う。
﹁とりあえず状況を把握しよう。まずはそこからだ。﹂
﹁了解。﹂
簡単に答えを返し、それに秋良も簡単に返す。
周りは衣類の店だ。ショッピングに来ていた人も多いだろう。他に
は奥に時計店や書店などがある。
周りを見終わり、次に犯人と人質だ。
犯人は黒のシャツにズボンだった。そして黒の帽子を被り、白のマ
スクをしていた。おい、そこは黒じゃねーのかよ。統一しろよ。
犯人は同じ格好が合計2人。それに対して人質は合計10人。その
内の半分がうちの生徒だ。その生徒の中には修也もいる。
人質は手を縄跳びで縛ってある。確か縄跳びは1階に売っていたは
ずだ。おそらく現地調達というやつだろう。そして手に縄が食い込
んでいる。相当キツく縛られているのが分かる。
犯人は金を要求していたはずだ。だが、手を縛られては金を渡せな
い。こいつらは初めから金は求めていなかったのだ。
なら、目的は何だ?金ではない。では、人質をとるほど大きな何か
があるはずだ。
俺は考える。そして、目に映った一つの黒い箱状の何かを見つけた。
その黒い何かはたくさんのコードによって繋がれていた。
⋮⋮⋮⋮爆弾!?
95
そう思い、犯人の方を見ると、スイッチらしきものを持っているの
を確認できた。
俺は秋良にこっそり伝える。
﹁⋮⋮⋮なるほどな。事態は分かった。だけど、コードを勝手に切
っちゃうと⋮⋮﹂
﹁爆発しちゃうな。どうすれば⋮⋮⋮。﹂
俺は爆発させないで助ける方法を考える。しかし、何も思いつかな
い。
それはみんなも同じだったようだ。来たはいいけど分からない。そ
れでは意味が無いのだ。修也を助ける為に来たが、人質全員を助け
る方向に変えた。ここは危ない。修也だけを助けるのでは他のみん
なは爆発に巻き込まれるだろう。それだけは阻止しなければならな
い。
なら、どうする?考えろ。考えなければ答えは出ない。
そして、結論は出る。
﹁よく聞け。⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。﹂
それを聞くと、全員は頷く。そして、代表して秋良が答えた。
﹁よし、それで行こうか。んじゃ、行こうぜ。﹂
☆☆☆
96
俺たちがやる事。それは犯人に気付かれずに爆弾を処理する事。も
し気付かれたらスイッチを押されるし、もし処理できたとしても犯
人は銃を持っている。俺たちは何も武器を持っていない。不利なの
は明らかだ。
爆弾の設置場所は衣服店。たくさんある服の下。犯人はその店を見
ていない為、バレずに処理出来る可能性はある。
俺は場所を移動する。俺の役目は爆弾処理だ。足音を消し、ゆっく
り移動する。
⋮⋮⋮あと少し⋮。よし、取れた!!!
爆弾を掴めた。それをゆっくり持ち上げる。
あとはこれを外に埋める。助けるのはそこからだ!
俺は爆弾を持ちながらゆっくりと移動する。なんとか階段まで来れ
た。その爆弾を階段にいた悠木に渡す。
﹁よろしく。﹂
﹁分かった。そっちも問題起こすなよ?﹂
﹁おう。﹂
しばらくしたら戻ってくるだろう。彩乃と雪那が外で穴を掘ってい
る。あの大きさの爆弾なら広いところに穴を掘り、そこに入れても
大した被害は起きない。近くに広い公園があって良かったよ。
悠木、彩乃、雪那の役目はこれ。俺は爆弾を運ぶ。なら、残ったチ
ャラ男である秋良は何をやるのか。
秋良はと言うと⋮⋮⋮⋮
97
﹁やっほー!!こーんにーちはー!!!﹂
犯人に会っていた。
﹁すみませーん、トイレってどこですかねぇ?﹂
秋良はそう言う。だが、それを見逃すような犯人ではない。
﹁バカ言うな!!撃つぞ!!それとも⋮⋮⋮爆発が良いか?﹂
﹁えぇー?どっちも嫌だなぁ。﹂
銃を突きつけられても動揺しない秋良がスゴイと思うんだよな⋮。
俺は悠木達のメールを待つ。通知音は切ってあるので携帯は付けた
ままだ。そして、秋良が撃たれる前にメールは来た。
差出人は悠木ではなく彩乃だった。
﹃件名:終わった
本文:爆弾処理終わったよー。正直めんどくさかったけど椎名と一
緒に入れたからいいやー。まあ、桐生もいたんだけどねww﹄
⋮⋮⋮何だこのメールは。嬉しいのがすぐ分かるわ。照れ屋め。ま
ぁ、こういうところが彩乃の可愛いところなんだけどな。
俺は次に秋良にメールを送る。秋良は通知音は切ってあるが、メー
ルが来た時に携帯が震えるようにしてある。ポケットに入れてある
ので、震えるとすぐに分かる。そして、今回は俺たち以外は全て迷
惑メール扱いにして来ないようにしてある。俺がメールを送った時
にした秋良の携帯は震えないのだ。
秋良は携帯が震えたのを確認すると、近くにあった買い物カゴを犯
98
人の方に投げる。
﹁うぉぉ!!何すんだ!爆破するぞ!!﹂
そう言って犯人の1人はスイッチを押す。だが、変化は無い。犯人
は動揺していた。
﹁お⋮⋮おい。どういう事だ!確かに爆弾は設置したはず⋮⋮⋮無
い!無いぞ!!!﹂
犯人達は設置してあった場所を見て混乱していた。
よし、いいぞ!
﹁ねぇねぇ、トイレってどこだよぉー。﹂
秋良はまだそんな事を言っている。お前、呑気すぎるだろ。ヤバス。
そんな時、階段から悠木達が上ってきた。
﹁来たな。んじゃ、行くぞ。﹂
﹁おう。﹂
俺は悠木達を連れて人質のところまで行く。犯人は秋良が相手をし
ている。今がチャンスだ。だが、犯人は2人。ここは俺が参戦する
べきだろう。
俺は犯人のところに行く。
﹁何だよ秋風ー。トイレの場所教えてくんねーんだよこの人ら。﹂
﹁トイレくらい自分で探せよ。﹂
99
俺は呆れ半分で答える。
だが、そんな事は言ってられない。相手は銃持ち。そんなバカな事
を言ってたら殺されてしまう可能性は高い。だが、ここでやらねば
ならないのだ。
﹁トイレは後回しだ。足止めだ。﹂
﹁ったく⋮⋮⋮。しゃーねーな。﹂
☆☆☆
﹁大丈夫?少し待ってて。﹂
そう言うと雪那はロープを切る。それは悠木も彩乃も同じ事をして
いる。そして切った人から避難させる。雪那達が来る前にあらかじ
めコンビニでハサミを5本買っておいたのだ。縄跳びの縄なので切
るのに時間はかかるが、持っておいて正解だったと思う。まあ、こ
れも隼人が言った事なのだが。
隼人の判断は正しかったと思う。初めは解いた方が速いのではとも
考えた。そしてそれを実際やってみた。結果は切った方が良い。相
当キツく縛られていたのだ。
隼人は縄跳びの結び方や手に食い込んでいる様子を見て、解けない
と判断したのだろう。そして、それは正解だったのだ。
雪那も悠木も彩乃も3人ずつ避難させていた。合計は9人。残りは
1人。その人物は修也だ。近い順から切っていた為、一番遠くにい
た修也が最後になってしまったのだ。
雪那はロープを切り始める。
100
﹁雪那ちゃん。﹂
﹁何?﹂
急に呼ばれ、雪那は言葉を返す。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。﹂
﹁え?⋮⋮分かった。約束する。﹂
修也に言われた約束。それは何だったのか⋮⋮⋮⋮。遠くにいた隼
人は聞き取れなかった。隼人といた秋良はもちろん、悠木と彩乃も
聞こえなかった。その約束を知る者は雪那しかいなかった⋮⋮。
☆☆☆
疲れた。
それだけしかなかった。ただでさえ体力には自信が無い俺が大人と
格闘しているのだ。疲れるったらありゃしない。秋良もそれは同じ
なようだ。
俺はこっそり横を見る。横には人質と雪那達がいる。残りは1人の
ようだ。
⋮⋮⋮よし。後少しだ!!
だが、その油断が俺の反応を鈍らせた。犯人のパンチが思いっきり
当たる。当たったパンチは俺の顔面にめり込み、飛ばされる。
101
﹁痛ぇな⋮⋮⋮くそ。﹂
くそと言った。その理由は?そんなの簡単だ。俺の額に銃が突きつ
けられているのだ。
犯人はニヤリと笑いながら言う。
﹁あいつらはお前の仲間か?﹂
答えていいものなのか。それは分からない。だが、余計な事を言っ
て怒らせては殺される。まずはこの状況を解かなければ。
﹁⋮⋮そうだけど?﹂
﹁やけにあの人質を見ているようだが、知り合いなのか?﹂
鋭い目で俺を見てくる。まあ、見られていたのなら仕方ない。
﹁そうだよ。兄弟を助けるのに理由がいるか。﹂
そこで俺はしまったと思った。そうだよとだけ言えば良かったのだ。
なのに、なぜ俺は“兄弟”と言ってしまったのか。なぜ“助ける”
と言ってしまったのか。これでは犯人に弱点を与えたようなものだ。
そして、その予想は当たってしまった。
﹁そうかぁ⋮⋮⋮。なら、話は速いっ!!!﹂
俺を思いっきり蹴った犯人は銃を俺の額から離し、代わりに修也の
方に向けた。
修也の縄跳びはまだ切れていない。修也は避けられないのだ。
102
﹁修也!!!!﹂
叫んでも変わらない。秋良はそれに気付き、犯人を動けなくさせよ
うとしていた。だが、犯人はそうはいかない。
﹁くっ⋮⋮⋮⋮!﹂
秋良は悔やんだ。見て分かる。それもそうだ。俺も悔やんだ。なぜ
俺はこっちに来た。なぜ俺は余計な事を話した。
⋮⋮⋮俺の選択は間違ったのだ。
頭がパニックになっていた。どうすればいいのか。どうすれば修也
が助かるのか。もう⋮⋮⋮何も分からない。ただ、叫ぶ事しか出来
なかった。
﹁雪那!!悠木!!彩乃!!修也を⋮⋮⋮⋮﹂
助けを求めようとした。それしか出来なかったから。それしか回転
の遅くなった俺の頭では思いつかなかったのだ。
だが、それは無意味で終わった。俺の言葉が終わらないうちに犯人
が引き金を引いたのだ。
パァァァァン!!!!
もう⋮⋮⋮何も出来ない。俺は弾が外れる事を祈るしか無かった。
そして⋮⋮⋮⋮その弾は修也の額を貫通し、赤い液体が周りに飛び
散った。
その液体は近くにいた雪那や彩乃、悠木にも付いた。そして、床に
103
も付く。
その液体は⋮⋮⋮⋮美しいほど綺麗な赤だった。
俺はそれを見て⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮泣いた。
104
兄と弟⋮⋮⋮3
⋮⋮⋮⋮俺はどのくらいここにいたのだろうか。
俺はベッドで寝ていた。忘れたくて⋮⋮⋮⋮でも、忘れられなくて。
修也が死んだ。修也が撃たれてからしばらくして警察が来て、俺た
ちを保護した。犯人達は当然捕まった。
その後、俺たちは事情を説明された。一通り説明すると、帰しても
らえた。あの警察の名前は⋮⋮⋮⋮ええと、何だっけ?たか⋮⋮⋮
高なんとかさんだったはず。
あれから3日が経つ。合格発表には行かなかった。行く気がなかっ
た。それでも、雪那がメールで結果を教えてくれた。合格したよう
だ。
合格はもうどうでも良かった。俺はあの悲しみ⋮⋮苦しみ⋮⋮⋮そ
して、悔しさ。俺の言葉一つで人を殺してしまったのだ。
俺は何をしていたのだ。この作戦で助けられると思ったのは勘違い
だったのだ。作戦は全て思い通りにいって初めて成功するのだ。
そして⋮⋮⋮俺が破った。余計な事をしなければ良かったのだ。
今頃になって反省点が出てくる。もう遅いのだ。何も⋮⋮⋮やり直
せない。そう⋮⋮⋮死んだ人間は⋮⋮⋮⋮⋮生き返らない。
☆☆☆
葬式には出た。久しぶりに家を出たせいもあり、外の光に慣れない。
眩しすぎる。
葬式が終わると、俺はすぐに帰ろうとした。俺の視界には秋良達の
姿が見えた。みんな話しかけづらそうな雰囲気を出していた。
だけど、それが嬉しい。今は誰とも話したくなかったのだ。今は彼
105
らの優しさに感謝するべきだろう。
だが⋮⋮彼らの中に雪那はいなかった。
そして家に戻ってしばらくし、一通のメールが届いた。雪那からだ
った。
﹃件名:無し
本文:今から家行ってもいい?私1人だけど⋮⋮⋮。ダメか
な?﹄
来て欲しくないのが本音だ。だが、雪那だけならいいだろう。大勢
とは話したくなかったし。
俺はただ一言。分かったとだけ返しておいた。
☆☆☆
10分ほどで雪那が来た。今は父親がいない。俺が玄関まで行く必
要がある。廊下を歩き、玄関まで向かう。
どうしてだろうか。俺の家の廊下はこんなにも長かったっけ。錯覚
だと思っても、どうしても長く感じてしまう。
おそらく⋮⋮⋮今から雪那に会うからだろう。緊張とか、そういう
のではなく⋮⋮⋮。ただただ、会いたくないという感情があるから
だろう。
俺は玄関の鍵を開け、ドアを開く。そこには雪那がいる。確かに1
人だ。雪那は約束を守ってくれたのだ。そして、雪那は紙袋を手に
持っていた。
それが何なのか。それは聞かなかった。とりあえず、家にあげた。
そして、俺の部屋まで案内する。雪那と俺は幼馴染というのもあり、
俺の部屋は知っている。だから、俺が先に行く事もなかった。だが、
106
雪那は先を譲った。それは当然なのだろうが、雪那は遠慮がちだっ
た。
俺の部屋は妙に寒気がした。3月だからというのもあるかもしれな
い。もしかしたら、俺の感覚が狂ったかもしれない。
雪那は座ると、俺に紙袋を差し出してきた。
﹁これ⋮⋮⋮⋮。秋風くんに渡さなくちゃいけないものなの⋮⋮。﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮そうか。﹂
俺は雪那から紙袋を受け取り、中身を確認する。中には白く、小さ
めの箱が入っていた。俺はその箱を手に取ってみる。その箱は思っ
ていたよりも重かった。
俺はその箱を開けてみる。すると、そこには一通の手紙。そして⋮
⋮⋮
﹁時計?﹂
腕時計が入っていた。その時計にはヒビが入っていて、修也が死ん
だ時刻で止まっていた。
雪那は悲しそうに話す。
﹁修也くんが言ってたの。もし僕が死んだらこれを雪那ちゃんが渡
してって⋮⋮⋮。でも、死んですぐには渡さないでって言われた。
だから、少し経った今日にしようって⋮⋮⋮。﹂
﹁そうか⋮⋮⋮。﹂
おそらく、事件現場に持っていたということは、この時計はあのデ
107
パートで買ったのだろう。確か事件が起きた2階には時計店があっ
たはずだ。
俺はつい笑ってしまう。だが、面白くて笑うとか、そういうのでは
ない。悲しすぎて⋮⋮笑うのだ。
﹁⋮⋮⋮はは。ははははは。⋮⋮⋮くそっ⋮⋮⋮⋮。﹂
そして、俺は箱に入っていた手紙を開く。いかにも中学生の折り方
っていう感じだった。
俺はその文章を読んでいく。
﹃兄ちゃん。合格おめでとう!!⋮⋮て、合格前提でこの手紙を書
いているんだけどね。それよりも言うことがあるだろって話だね。
卒業おめでとう!!やっぱりこの言葉が最初だったよね。ペンで書
いてるから消せないんだ。ゴメンね。
この手紙は合格発表が終わってから渡そうと思う。でも、時計は卒
業祝いだから先に渡すけどね。
とにかく、兄ちゃん。高校生活、楽しんでね!!僕は来年が受験だ
けど。僕も兄ちゃんが受けた高校を受けるよ!兄ちゃんに負けてら
れないもんね!
これって長文かな?あまり手紙書かないから分からないや。
分からないけど、最後に。僕はこんなにも良い兄ちゃんを持てて良
かった。僕の目標であり、憧れの存在。他のみんなは持ってないも
の。それが一番の兄ちゃんだ。
大好きだよ、兄ちゃん。そして、ありがとう。﹄
まだ続きはある。だが、続きを読むのを躊躇われる。心の中では読
みたいと思う。だが、体が拒否するのだ。読みたくないと。泣きた
くないと。
だが、俺の目には涙が浮かんでいた。俺は涙を手で拭いながら読み
108
続ける。
秋風修也﹄
﹃兄ちゃんが⋮⋮⋮⋮幸せでありますように。それが、僕の願いで
す。
by
うぉぉぉぉぉぉ!!!!!何なんだよこれは!!!俺は罪な男だ!
こんなにも良い弟を持って⋮⋮その素晴らしさに⋮⋮⋮彼が死ぬま
で気付かなかった。
中学を卒業しただけで時計を買ってくれる弟がいるか!!ブランド
物だった!!見るからに高そうな時計!それを卒業しただけの⋮⋮
⋮合格したかも分からない俺に買ってくれたんだぞ!!!
今更俺の目には大量の涙が。さっきまでは少量の涙だった。それが
今では止まらない。
俺は⋮⋮⋮どうしてこんなにも良い弟を助けられなかったのだろう。
どうしてだろうか。どうして俺の頭はこんなにも悪いんだ。勉強が
出来たって、それを実践で使えなきゃ意味が無い。テストでは無か
った。勉強を使うような場面は無かった。それでも、勉強で培った
集中力。頭の回転の速さ。冷静さ。それらが発揮出来なかった。
リハーサルなら出来た。絶対に出来た。自信がある。でも、本番は
?本番に弱くて何が手本になれる兄だ?練習は出来て本番は出来な
い。そんなの誰だってそうだ。誰だって本番は緊張し、本領が発揮
出来なかったりする。だが、これはあんまりだ。発揮出来なさすぎ
た。
﹁あっ⋮⋮⋮⋮うっ⋮⋮⋮ううっ⋮⋮⋮。﹂
涙を堪えるので精一杯だった。
そこに、父親が帰ってきた。一緒にいた雪那に事情を聞くと、父親
は雪那に帰ってもらった。
109
俺は涙を止めた。無理やり止めた。俺が座っているところの正面に
父親が座る。
﹁⋮⋮隼人。辛いか?悔しいか?悲しいか?﹂
急にそんな分かりきった事を聞かれる。俺は当たり前のように⋮⋮
答えはすでに考えていたかのように答える。
﹁ああ。辛い。悔しい。悲しい。当たり前だ。﹂
その言葉を聞き、父親は床を力強く叩いた。
急な事でビックリした。
﹁なら、その気持ちを忘れるな。﹂
﹁⋮⋮⋮え?﹂
突然何を言い出すのか。忘れるわけないだろう。忘れる事が出来な
いのだ。ここまでショックになったのは初めてだったのだ。
父親は続ける。
﹁母さんとは離婚した。だから今のお前の親は私だけだ。だから言
わせてもらおう。﹂
そう言うと、俺の手を掴む。
﹁この気持ちを次に繋げろ。今回の反省点。絶対にあるはずだ。そ
れを次に活かすんだ。絶対に同じことが起きないように。﹂
俺は真剣に聞いていた。この父親は⋮⋮⋮こんなにもカッコいい人
110
物だったのだろうか。普段の俺だったらハイハイと言って聞き流す
だろう。だが、今の俺だから。ああいう事があった今だから。俺は
素直に聞くことが出来るのだろう。
﹁⋮⋮⋮⋮いいか、隼人。お前の受験した高校。入学を破棄しろ。﹂
﹁⋮⋮⋮⋮は!?﹂
急に何を言い出すのだろうか。俺はもう入学する気でいたのだ。そ
れなのに⋮⋮⋮なぜ急にそんなことを⋮⋮⋮⋮。
﹁ここの近くに“祭り村”ってのがあるのは知ってるな?﹂
﹁ん⋮⋮⋮まぁ。知ってるけど⋮⋮⋮。﹂
行ったことは無かったが、あるのは知ってる。村というだけあり、
かなりの田舎らしい。
しかし、なぜ祭り村の話が?
﹁そこに引っ越す事にした。﹂
﹁え!?﹂
突然の引っ越し宣言。それは俺の耳に響いた。
﹁そしてお前は“祭事共同学校”に入学してもらう。偏差値は65
から70の田舎にしては高めの学校だ。お前はそこに入学だ。﹂
祭事共同学校。その存在は知っていた。ここら辺では、トップ2の
高校だ。1位は俺が行く予定だった“泉州第一高校”だ。だが、そ
111
ことほぼ似たような成績の奴らが集まる田舎の学校。それが祭事共
同学校だ。
﹁お前は田舎に行くべきだ。お前は都会の空気を吸いすぎた。今の
お前では田舎ではトップを取れない。﹂
﹁何だと?﹂
俺がトップを取れない?どういう事だ?
﹁考えてみろ。田舎には職が少ない。当然、都会に来る連中も多い。
その為に必死に勉強してくる。将来まで考えている連中に勝てるの
か?⋮⋮⋮ムリだろうな。今のお前では⋮⋮な。﹂
俺はもう決めた。そこまで言われては我慢出来ない。絶対にそこで
トップを取ってやる。
﹁分かった。どうせここにいても修也の事しか頭に無いだろう。こ
こで一度外に出るのも悪くは無いな。﹂
こうして、俺は祭り村に行くことになる。
☆☆☆
一冊の本がある。
その本は以前読んだ。だが、途中で止めてしまったはずだ。あれは
⋮⋮⋮悲しい物語で、結末を読むのを躊躇ったんだ。
でも⋮⋮今なら読める。さあ、手に取ろう。読み込んではいないが、
112
少し本棚の奥の方に放置し過ぎていたようだ。埃かぶっている。
埃を落とす。そして、その本を開く。
さあ、読もうじゃないか。
あの時読めなかった続きを。
今、確かめる為に。
もう、あの時の過ちは繰り返さぬように。
成長していくのだ。どんな人間も。
113
GWでのお出かけ︵前書き︶
5月祭り編始まりますね。
114
GWでのお出かけ
資料をパラパラとめくる音しか聞こえない。
今はGW。それが開けたらもう5月祭りだ。俺にとっては2度目の
推理の時間が訪れようとしている。
俺にとって、この村での生活は楽しいものだ。引っ越してくる前も、
色々充実した時間だったと思う。それでも、今も充実した時間だ。
俺が悲しんでいる時。悔しんでいる時。辛い時。父親が引っ越そう
と言わなかったら、俺はどうしていたのだろうか。きっと、俺は毎
日が不安で、怖くて、前に進む事を躊躇っただろう。
でも、今は違う。あの時の過ちはもう繰り返さない。いや、繰り返
してはならない。4月祭りでの事件は解決こそした。だが、被害者
は出たし、その被害者は死んだ。それだけはいけない事。次は殺さ
せない。
この5月祭りの事件。4月祭りの犯人だった石塚泰介は捕まる直前
に言ったはずだ。
﹃4月と5月は変更だ﹄
そう言っていたはず。つまり、今回の事件は金属バットがカギとな
ってくる。以前、俺がそう推理した。あの時は意味のない推理だっ
たけど、今回は役に立つ。あの時調べたことが丸々使える可能性が
あるのだ。
俺は資料を閉じる。そして、その資料をクリアファイルに入れる。
俺は立ち上がってタンスを開ける。そこから今日着る服を取る。
今日は雪那と待ち合わせをしている。俺と雪那はつい2日前に恋人
になった。ていうか、あれからまだ2日しか経ってないのかよ。
GW1日目は雪那の事情で出かけられなかった。だから2日目にし
たのだ。
115
そういえば、俺の家に泊めたあの夜は、特に何も無かった。告白さ
れたらすぐ寝た。雪那が初めに寝てしまったし、起こすのもアレだ
ったし。
次の日になったら、雪那は顔を紅くしながら帰っていった。その時
に約束をしていたのだ。
いわゆるデートと呼ばれるやつなのだろう。おお怖い。知り合いに
出くわしたら大変な事になりそうだ。まあ、そこのところは雪那に
も言っておこう。あいつ、バカじゃないし。雫や桜みたいに偏りす
ぎタイプじゃないし。きっと理解してくれると信じてるよ。
とりあえず着替え終わった。紺色のコートにグレーのニット。そし
て白のシャツ。下はベージュのズボンだ。
この村は5月でも寒い日は寒い。今日がその寒い日だ。天気は良い
が、風が冷たい。つまり、暖かくなり始める6月まではコートは必
需品なのだ。あ、場合によってはマフラーとかもかな?
待ち合わせ時間まではまだ結構ある。だが、待たせるのもあれだし
向かうことにした。
さすがに漫画のような﹁1時間以上前から来てました﹂みたいな事
はないだろう。だが、雪那は時間はしっかり守る人間だ。少なくと
も﹁5分前行動は社会では当たり前なんだよ?﹂とか言って5分前
に来てそう。それより前に来るって事もあり得るけどな。
待ち合わせ場所に着いた。泉州町にある噴水の前って事になってい
る。泉州町に噴水はここしかない。一つしかなくて助かったよ。
﹁秋風くん!﹂
後ろからそう呼ばれ振り向く。そこには雪那が走っている光景があ
った。
雪那は黒のコートに白のシャツ。下は白のスカートだ。上はなんか
似ている気がするが、多分気のせいだろう。ニット着てるし、多分
116
ペアルックとかではない。下もズボンとスカートではえらい違いだ
し。
﹁じゃあ、行こっか。﹂
﹁お⋮⋮⋮おう。﹂
そう言って、目的地である遊園地に行く。ここからならバスで10
分ほど。意外と近くて助かる。
☆☆☆
そこからは意外と楽しかった。モテるかモテないかといったらモテ
る方な俺だが、恋人が出来たことは無かった。というか俺が断った
のだが。恋人がいなかったということは、デートにも行ったことが
ない。中学時代は雪那や彩乃と一緒に出かけたこともある。だが、
その時は常に秋良も悠木も一緒だった。だから俺はデートというも
のを知らなかった。
だが、行ってみると楽しいものなんだなと思う今日この頃である。
ジェットコースターに乗り、観覧車に乗りと、まあ色々と楽しみま
した。
そして時間は経つのが早いとも知った。楽しい事をしていると時間
は早く過ぎていくのだな。
﹁楽しかったね、秋風くん。﹂
﹁ああ。楽しかったな。﹂
﹁また行こうね。﹂
117
﹁おう。今度はGWが明けてからかな?﹂
﹁うんっ!﹂
そう言って笑う雪那は⋮⋮⋮今までに見たこともない笑顔だった。
俺はこの笑顔を見て⋮⋮⋮
なぜかモヤモヤしていた。
どうしてなのか分からない。その答えを見つけるのは⋮⋮⋮いつに
なるのだろうか。
☆☆☆
GW最終日。俺の元に一通のメールが届いた。差出人は雫だ。
﹃件名:GW
本文:桜と風香と4人で遊びに行こう!!レッツゴー!!9時半に
いつものところで!遅れたら指折るから!﹄
⋮⋮⋮怖い。怖いですよ雫さん!そして無駄にテンションの高いメ
ール。てか今って8時半じゃね?あと1時間しかないじゃん!!
俺は急いで着替えて家を出た。今日の気温は暑い。雪那と出かけた
時とは真逆の気温だ。
ちなみに、雪那たちの通う学校は今日から登校。だから俺たちが会
うことはないだろう。
俺はとてもラフな格好だ。白のTシャツ1枚に、下はジーンズ。い
118
やー、男の夏は簡単でいいねー。それに引き換え冬は⋮⋮⋮はぁ。
てか5月はまだ春だけどね。
急いでいたのだが、待ち合わせ場所まですぐだったので、15分早
めに着いた。まだ誰もいない。
と、そこに女子3人の笑い声が聞こえた。学校の方から来たのは風
香を迎えに行ってたからだろう。
雫は俺と同じようなラフな格好。Tシャツにジーンズ。Tシャツの
色は灰色なのでペアとかは言わせない!
桜は意外とオシャレだ。白のデニムに下はジーンズ。いや、ジーン
ズ流行ってるの?Tシャツとデニムしか違いがない。色が色で似て
いるから困る。
風香は日傘を持参していた。あなた、まだ5月だよ?
﹁日傘は早いんじゃないか?﹂
﹁こういうところでお二人さんに差をつけるのよ。﹂
﹁﹁何よそれ!!﹂﹂
おお、2人揃って同じことを言ったな。息ぴったりですね。⋮⋮⋮
なんの差をつけるんだ?
そんな事を言ってるが、風香もオシャレだ。白のワンピースを着て
いる。
そんな感じの3人だが、何を着ても似合うってのが凄いっすね3人
とも。
﹁んで⋮⋮⋮どこ行くんだ?行き先聞いてないんだが⋮⋮⋮﹂
そう。俺は行き先を知らない。メールが来たのは今日だし。そのメ
ールに書いてなかったし。じゃあどこ行くねん!
119
﹁あっはっは!!まあ、隣の泉州町にある水族館でGW限定ショー
をやってるんだって!今日までだからせっかくだし⋮⋮⋮。﹂
﹁分かったよ。行きたいんだろ?行こうぜ。ここからならバスで4
0分だよ。﹂
﹁おお!よく知ってるね!じゃあ行こう!!﹂
雫はニコニコスマイル笑顔を浮かべた。雫と一緒に桜も風香も笑う。
キャッキャ言ってて楽しそうだ。でも、何で俺を連れてこようと思
ったの?3人で行けば良くないですか?
それでも楽しみだ。水族館は都会にいた頃でもあまり行かなかった。
最後に行ったのは小2の頃。遠足で行った気がする。
そして水族館に着いた。ショーまでは時間があるな。あと1時間ほ
ど。長っ!!
﹁どうする?まだ時間が⋮⋮⋮﹂
﹁じゃあ、少し見ようよ。﹂
﹁おお!桜に賛成!!﹂
﹁私も賛成しますわ。﹂
桜の提案に元気っ子の雫と、お嬢様っぽい言葉になってた風香が答
える。
﹁んじゃ、まずは見て回るか。﹂
120
﹁うん!﹂
久しぶりに来たが、なかなか水族館もいいものですなぁ。心が和む。
ショーも良かった。イルカが泳ぎ、ジャンプし、一番前の席にいた
俺たちは揃って水を被る羽目になった。いやー、これはこれでいい
思い出だな。
﹁楽しかったねー!﹂
﹁うん。意外と良かったね。﹂
﹁水被らなければね。﹂
﹁それを言っちゃダメだよ、風香ちゃん。﹂
そんな会話をしながら俺たちは家に帰る。この方面からだと一番近
いのは俺の家だ。
そして、もう俺の家が見えてきた。
﹁悪いな。こういう時は男がみんなを送ってくんだろうけど。﹂
﹁いいよいいよ!付き合わせちゃったのはこっちだし。﹂
﹁うん!またね、隼人くん!﹂
﹁また学校でお会いしましょう。﹂
そう言った3人の笑顔。この笑顔は⋮⋮⋮雪那が見せた笑顔と変わ
らないと思う。でも、それでも、こっちの笑顔の方が俺の心を満た
121
していくような気がした。
その日の夜、雫から一通のメールが届く。ある程度は予想していた。
だが、それが今日だとはな。楽しい一日だったのに、これじゃあ台
無しだよ全く⋮⋮⋮。
﹃件名:祭り
本文:祭りの前に一回警察に行こう。そこで今回の事件についての
会議があるの。良ければ一緒に行こう?﹄
行かないわけないだろ!と心の中でツッコむ。
今回も事件は起こるのだろう。今回の会議はある程度の予習と言っ
たところかな?
俺は了解とだけ返信する。そして、ベッドに横になる。
GWが明け、事件はもうそこに迫っていた。
122
5月祭り
当日
さあさあ今月も始まりましたお祭り第2弾!!
と言うことで今は祭りを楽しむ予定の俺。雫たちは右からやってく
る⋮⋮⋮てどこの芸人だよ。
会議は昨日やった。一ヶ月前と同じことを言ってきた。同じことを
言うのってダルイね。思い出すのだけでもめんどいのに、それを口
に出して説明するのも面倒くさい。
とまあ、そんな事をやってきた俺である。そして今日の祭りに誘わ
れたのは昨日だ。会議が終わってから雫に誘われた。なんか﹁明日
って祭りだよねー。⋮⋮⋮そうだ!祭りに行こう!﹂とかパクリ感
丸出しのフレーズで誘われた。誘われるだけなら断れば良いのだが、
上目遣いでお目めぱちくりで言われて断れなかった。あいつ意外と
可愛いからな。まあ、彼女いるからそんな事言っちゃあかんだろう
けど。嫉妬されちゃうわ。
非リアにそんな事言ったら怒られそうなのでこれ以上は考えないこ
とにする。無心で生きていく隼人くんって⋮⋮⋮なんか虚しいなぁ。
そんな事を考えていると、前方から知っている顔がやってくる。昨
日見たからな。
そこにいるのは警察である高木英虎。名前の読み方が﹁えいとら﹂
というまたカッコいい名前だ。俺なんて隼人だからなぁ。まあいい
や。挨拶はしとくか。
﹁高木さん、おはようございます。﹂
高木は俺に気付いたのか、ニカッと笑いながら手を挙げる。
﹁おう、おはよう隼人くん。今日はよろしく。﹂
123
⋮⋮なんか一ヶ月前と同じようなセリフの気がする。まあいいけど。
そう言うと、高木は仕事があるといって先にどっかに行った。警察
って案外大変なんですねぇ。
そういえば最近富岡と話さないなぁ。昨日は来てたけど挨拶しかし
てないし。今日は来てるのかな?⋮⋮まあいそうだな。綿あめ食べ
てそうだな。なんてイメージだ。
そんな事を思いながら携帯をいじっていると右側から女子たちの声
が聞こえてくる。まさか!さっきのネタが現実に!?じゃあ俺は左
で受け流すのか!?
だが、そんな事を考えるのは止めた。桜は力が強い。多分俺と同じ
くらいの握力。なんだよそれ。男子と同じってあいつヤバくね?女
子とは思えない。⋮⋮⋮雫とその才能交換すればいいのに⋮⋮。は
ぁ。
﹁おおーい!アキ!!﹂
雫が俺に声をかけてきた。久しぶりみたいな感じの声のかけ方です
ね。昨日会ったけどね。それにGW終わったんだからほぼ毎日会っ
とるやん。
とりあえず返事はしておこう。それに、このままだとそれが3回続
きそうだ。まとめようじゃないか。
﹁おはよう3人のお嬢様。﹂
﹁何よそれ。私は確かにお嬢様だけど。﹂
﹁私は普通の人かな?﹂
﹁アキってたまに変な事言うよねー。﹂
124
そんなに責めなくてもいいじゃないか。悲しくなってくるよ俺。頑
張ったボケなのに⋮⋮⋮。
﹁しょんぼりしてないで早く行こー!﹂
君たちの権力高すぎではないですか?⋮⋮まあいいけどさ。分かっ
てたし。勉強とスポーツ出来てもこの中の権力は4番目だもんね。
知ってたよ⋮⋮。
そんな事は置いておいて楽しもうではないか!!!楽しまなければ
祭りとは言わない!!!よっしゃぁ!!
☆☆☆
⋮⋮⋮なんか、一ヶ月前と同じ屋台だな。じゃんけん大会はないけ
ど、ポーカーはやってるし。
そして雫が俺の肩を叩いてくる。何の用だい?痛いよ?そんなに強
く叩かないでおくれ。
﹁この前のリベンジ!!﹂
﹁あぁー。しゃーねーな。﹂
そういえばこいつはこんな性格だもんな。負けず嫌いに決まってる
よな。
﹁てかまたポーカーやるのか?﹂
﹁いいや、違うよぉ∼。やるのはー!!ジャカジャカ⋮⋮⋮ばんっ
125
!これだ!﹂
﹁いや、口でジャカジャカ言わなくても⋮⋮⋮。てか⋮⋮⋮⋮やる
のってオセロなの?﹂
なぜかポーカーの屋台に置いてあるオセロ。誰も使っていないのか
新品のようなピカピカ。使ってやれよ。この前は置いてなかったし
な。確かこの前ポツンと置いてあったのは将棋だな。知らん顔して
たけど。
﹁さあ!いざ!勝負!!﹂
雫がオセロの版を叩いた。やめなさい。壊れちゃうでしょ。
こうして、俺と雫の勝負は始まった。ちなみに桜と風香はポーカー
やらスピードやら大富豪だのやっていた。
☆☆☆
﹁どうして勝てないの!!!﹂
雫が体をクネクネさせながら言ってくる。いや、そんな事言われて
もなぁ。
﹁これで5連敗だぁ!!ポーカーの時より悔しい!!!﹂
﹁まあ、オセロはオセロの戦い方ってのがあるからなぁ⋮⋮⋮。﹂
﹁何それ!!私にも教えてよぉ!!﹂
126
そう言って俺の服を掴んで引っ張ってくる。俺の服がノービノビ。
だが、俺は正直者である⋮⋮⋮と思ったら大間違いである!
﹁ここで教えたらつまらん。自分で解決策を見つけるのだな!﹂
﹁うわ!ムカつく!!﹂
とか言いながら楽しそうですね雫さん。
ちなみに、桜と風香の勝負は意外と4対4で互角の勝負だったらし
い。最後はババ抜きをして、桜が勝ったらしい。実に楽しそうだ。
そして、楽しかった次の日は⋮⋮⋮辛いことが待っているのだ。
☆☆☆
祭りの後は何が起こる?
俺は知っている。なら、何が起きるのと聞かれる。
そして、俺は答える。ここの住民だからこそ言える言葉だ。
﹁祭りの後は⋮⋮⋮殺人事件が起きるんだよ?﹂
それを聞いたものはいない。もちろん、聞かれてないし。聞かれた
らこう答えるってだけだし。
それでも、俺はその事件の真相を解くべく、今回も挑むのである。
さぁ、祭りの後に見る色は、何色なのかな?
127
少ない
祭りの次の日は決まって事件は起こる。それがこの村“祭り村”の
決まりである。
ここ最近の5年間はそうだ。そして、今月も同じだ。
﹁⋮⋮⋮ひどいですね。﹂
俺は死体を見てそう言った。
資料でも見ていた死に方。だが、写真と現実とでは感じ方が違うよ
うだった。
被害者は青木真也21歳独身。工業系の仕事に就いていたようだ。
﹁⋮⋮⋮隼人くんが言った通りの死に方だな。﹂
そう言ったのは警察である高木だ。
俺は5月祭りの前日に会議に出席している。その会議で俺が言った
事。それが現実になっているのだ。
では、その内容とは何か。
殺害方法は金属バットで殴られて死亡。これが死に方の予想。
それは見れば分かる。この砕け方からして相当硬いものでないとこ
ういう砕け方はしない。
そして、ここで起こる疑問。硬いもので何度も殴れるようなものは
何か。その条件には、まずある程度軽いもの。そして棒であること。
その2つを考えると金属バットが出てくる。実際、今回の被害者の
顔に金属バットの横幅を当ててみるとスッポリ入る。これで当たり
だろう。
次に事件の起きた場所はどこなのか。こればかりは予想はしづらい。
毎年犯行現場は違うのだ。ただ、今回の事件は室内で起こる事が多
128
い。
今回は青木の家で。去年は会社だったと資料に書いてあった。その
前の年はコンビニのトイレだったらしい。
コンビニで金属バットを持って入ることは難しいのではという疑問
も起こるだろう。だが、その年の死亡推定時刻は昼間だったのだ。
つまり、祭り中である。祭り中ならいくら監視カメラがあったとし
ても店員は少ない。それに、監視カメラの視界を避けて通ることも
不可能とは言い切れない。出来る可能性もある。
更に、その年だけ殴られた跡の横幅が狭かったらしい。つまり、そ
の年は金属バットではない何かに硬い棒によって殴られて死亡、と
いう事だろう。
﹁聞き込み終わりました。ですが、得られた情報は少ないですね。﹂
﹁そうか⋮⋮⋮。ありがとう。﹂
高木に話しかけたのは同じ警察である富岡だ。富岡とはあんま会わ
ないからなぁ。すっかり忘れてたよ。
﹁あ、隼人くん。今月も頑張ろうね。﹂
﹁あ、どうも。﹂
急な不意打ちを受けてしまったようだ。話しかけられるとは思って
なかった。どうもとしか返せてないしな。
そんな時、高木が富岡に何か聞いていて、それをメモしていた。お
そらく聞き込みの結果だろう。
聞き終わった高木は1枚を切り取り、もう1枚に同じことを写して
いた。
なぜだろうかと思っていたらその1枚を俺に差し出してきた。
129
﹁隼人くんにも渡しておく。何か分かったら言ってくれ。今回は容
疑者候補がいないからな。情報が少ない。﹂
﹁分かりました。﹂
そう言うと、高木はパトカーの元へ行った。俺は近くにいた雫を手
招きする。チョイチョイ。
そして、それに雫は気付いたようだ。
﹁ん?どうしたの?﹂
雫がとてとて歩いてくる。なんかこういう感じで歩いてこれるのが
すごい気がする。雫は緊張感ってものを知らないんだろうなぁ。ま
あ、こんな性格だし、仕方ないだろうな。うんうん。
俺はとりあえず要件を伝える。それに雫はニッコリ笑って答える。
﹁うん。分かった!一緒に考えてって事だね?﹂
﹁まあ、簡単に言うとそうだな。﹂
⋮⋮⋮⋮なんか違う気もするけど、まあいいか。こいつの頭も使う
時が来るだろう。⋮⋮多分。
メモに書いてあったことを纏めるとこうだ。
﹃・犯人を見たものは少ない。見たものは後ろ姿のみ。しかも夜だ
ったから背丈などは分からない。
・影だけだが、何か棒らしきものを持っていた。
・見た場所は青木家の近く50メートル以内。
・その50メートル以内で金属のぶつかる音が聞こえた。﹄
130
⋮⋮⋮まあ、1日目ならこんなもんか。
俺はこのヒントで考えるのは難しいと判断した。もう少し欲しい。
出来れば、犯人に関すること。これだけが欠けている。逆に言えば、
これがあれば犯人逮捕に一歩近付く事が出来る。
殺害方法は確定だ。金属音に棒のようなもの。金属バットが一番だ
ろう。
なら、ここからどう犯人確定に繋げるか。それが一番の問題だ。
このヒントだけでは少なすぎる。答えが出てこない。しかも、前回
と違う点もある。容疑者候補がいない事だ。前回は3人の中から犯
人を暴き出すという感じだった。だからある程度ヒントが少なくて
も特定できた。だが、今回はどうだ?
犯人の特徴もない。男か女かも分からない。分かっているのは殺害
方法と使った物だけ。
﹁⋮⋮⋮⋮辛いな。﹂
﹁⋮⋮⋮⋮うん。ヒントが無さ過ぎるね。﹂
一緒に考えていた雫も同じ答えらしい。雫は腕を組みながら考えて
いた。そのうち足も組みそうで怖い。考える人になりそうだ。
さあ、ここからどうやって犯人確定まで繋げるか。富岡はこれから
も聞き込みに行ってくるそうだ。次の結果を待とう。次の結果にも
し犯人の特徴があれば⋮⋮⋮⋮。
まずはそれが必要なのだから。
こいつは面白くなってきた。さあ、考えよう。あの時の反省点はこ
こで活かす。あの時、修也を助けられなかった。あの過ちから学ん
だことを活かすために俺はこの村に来たんだ。そして、この村には
最高の舞台がある。
さぁ、舞台に上がろう。まずはそれからだ。主役が舞台に上がらな
くてどうする!!
131
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮さあ、考えよう。俺の頭をフル回転させよう。そし
て、犯人確定まで持っていくのだ。
⋮⋮⋮この問題を解くカギは⋮⋮⋮どこにあるのだろうか。
☆☆☆
﹁どうしたんだよ?﹂
秋良がそう言ってくる。今は授業中なので私、桐生雪那は声をなる
べく小さくして答えた。
﹁⋮⋮⋮⋮何でもないよ。﹂
﹁嘘つけ∼。どうせ秋風と何かあったんだろ?﹂
ギクリという効果音が正しいのだろう。私は見てしまったのだ。
隼人が⋮⋮⋮この前見た3人と一緒にいたのを。昨日は祭りだった
のだろう。しかし、なぜ私を誘ってくれなかったのだろう。隼人な
ら確実に誘ってくる。隼人はそういう人なのだ。
⋮⋮⋮何か隠しているの?
そうとしか思えなかった。あの村には何かあるのだろうか。
私は祭りの日、黒い服を着た謎の男に会っている。いかにも怪しそ
うな人だったし、何よりも金属バットを持っていた。
⋮⋮⋮絶対に、何かある。
132
﹁⋮⋮⋮柳くん。今日の放課後、時間ある?﹂
秋良は首を傾げたが、それは一瞬だ。
﹁何もないよ?悠木と彩乃も呼ぶ?﹂
﹁うん。よろしくね。﹂
私は謎の村“祭り村”に向かうことにした。
133
手助け
捜査2日目。俺は現在警察に向かっている。今回の事件解決の為だ。
そして今回、俺の知り合いが来る。いつも来ている雫だけではない。
昨日雪那からメールが届いたのだ。
﹃件名:無し
本文:何か昨日黒い服を着た人に会ったぁ。誰だか知ってる?﹄
というメール。俺はすぐさま状況を説明し、来てもらうことにした。
秋良達も来るらしい。あいつらの頭脳は役に立つはずだ。武器が一
つ増えたぜ!
☆☆☆
警察に着いた。いや、ちょっと待て。警察に着くって言葉おかしく
ないか?⋮⋮⋮⋮まあ分かればいいか。
そしてそこにはすでに知り合いが着いていた。あの水色ロングヘア
は間違いようがない。雫だ。
雫は俺に気付いたようだった。ニッコリ笑いながらトテトテと歩い
てくる。
﹁おはよう、アキ。﹂
﹁おう、おはよう。﹂
毎度お馴染みの挨拶を交わし、周りを見渡す。高木と富岡はすでに
134
いる。まあ、ここは警察だし、当たり前っちゃ当たり前だわな。
少し経つとまた知り合いがやって来た。雫たちには伝えてあるので
驚いてはいない。雪那、秋良、悠木、彩乃の4人だ。そして最初に
話しかけてきたのは秋良だ。
﹁おっす、お久!!﹂
﹁おう、久しぶりだな、秋良。﹂
本当に久しぶりだ。なんせ前に会ったのはGW休みの前の日だ。結
構経ってんだなぁ。
﹁おはよー、秋風。﹂
﹁おはよう、秋風。﹂
チャラ女の彩乃、爽やか系男子の悠木という順に挨拶をしてきた。
いやー、この呼び方いいな。中学時代もこう呼べば良かったな。
﹁おう、おはよう2人とも。﹂
2人同時に挨拶を返す。雪那は縮こまりながら俺の方へ来る。
﹁今日、私たちが来て本当に良かったの?他の市町村には極秘っぽ
いんでしょ?﹂
この4人には状況は伝えてある。だから他の市町村には秘密にして
あるのも言ってある。こいつらはバカじゃない。かなり頭の良い部
類だ。口をこぼすなんてバカな事はしないだろう。⋮⋮⋮⋮信じて
るからな。余計な事は言うなよ?
135
﹁ああ。大丈夫だ。﹂
﹁そっか。良かった⋮⋮⋮⋮。﹂
ちょっとちょっと!顔を紅くしないで下さいよ!こっちも照れるで
しょーが!どこに照れる要素あったの!?
と、なぜか俺の足が後ろから誰かに蹴られた。振り向いてみるとそ
こには頬を膨らませている雫がいた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮どうした?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮べっつにぃ。何でもないけどぉ?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮お、おお。そうか。﹂
⋮⋮⋮⋮拗ねてるのか?女心って分からんなぁ。俺は女は怖いって
イメージしか無いしな。いや、マジでそうだぞ?口ゲンカになった
ら負けるイメージしかしない。
☆☆☆
会議は始まった。⋮⋮⋮会議ではないか。今回も事件解決に向けて
だな。
今回は聞き取り調査の結果。事件現場から何か分かったことをホワ
イドボードに書き、推理していくってところだ。
しかし、現実は甘くない。警察だけでは限界がある。昨日とほとん
ど同じ結果だ。犯人については何も分からない。現場には何も残っ
136
ていない。これでどうやって犯人を暴くんだよ。
と、ここで新入りの登場だ。さあ、出番だ雪那!!
﹁じゃあ、失礼します。﹂
そう言って雪那はオドオドしながら立ち上がる。緊張してんだろう
なぁ。分かるよそれ。こんないかつい大人たちの前で意見を言うん
だもんな。嫌になっちゃうわ。
﹁えっと⋮⋮⋮。ここでお祭りがあった日の夜に私はこの村にいて、
帰る予定だったんです。そしたら、金属の音がして、そっと行って
みたら、黒い服を着た人がいました。﹂
その言葉で全体がざわついた。俺も驚きを隠せなかった。まさかこ
んなすごいヒントを持っていたなんて⋮⋮⋮⋮。
高木が手を挙げた。そして発言をする。
﹁その人物の特徴は覚えてるか?﹂
﹁はい。身長は170くらいで、体型はどちらかというと細めです。
そして、電話してる時に見たんですが、声的に男です。髪は短めで
した。顔全体はマスクをしていたので分からないですが⋮⋮⋮⋮。﹂
﹁いや、それで充分だ。ありがとう、雪那さん。﹂
そう言うと、高木はパソコンを開き、何やら調べ物をしているらし
い。それを他の人たちも行っている。
そして10分後、この村の中で犯人候補が絞れた。雪那の証言にあ
った男は4人だ。さあ、絞れだぞ。ここから1人に絞るのだ。
137
そしてここで手を挙げた人がいる。秋良だ。
﹁すんません。ちっといいですか?﹂
﹁ああ。いいだろう。﹂
秋良はペコリと頭を下げた。
﹁この4人だったら大体予想はつきますよ。今回は金属の棒、つま
りは金属バットが殺人に使われたんすよね?﹂
﹁ああ。そうだが?﹂
﹁なら分かりますよ。ただ、この証明をするには今から俺が言う事
を村人から聞き込みしないといけないっすけど。﹂
その言葉を聞き、みんなが一斉に黙る。そしてその沈黙を破ったの
は高木だ。
﹁いいだろう。言ってみろ。聞き込みは我々が行う。﹂
﹁はい。分かりました。んじゃ⋮⋮⋮⋮⋮⋮。﹂
そして、俺たちは警察と共に聞き込みに向かった。
☆☆☆
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮とまあ、こんな感じですね。これで大丈夫でしょう。
138
﹂
秋良の推理は完璧だった。やはりこいつを連れてきて正解だったな。
﹁んじゃ、説得は秋風、よろしく。俺は疲れたわ。﹂
﹁え!?何でだよ!!﹂
すると秋良は耳をほじっていた。聞いてませんってか⋮⋮⋮⋮。こ
の野郎⋮⋮⋮。
﹁まあ、分かったよ。手柄取るのはなんか癪だけど⋮⋮⋮⋮。まあ
いいや。﹂
﹁だろ?まあ⋮⋮⋮⋮。﹂
その続きは俺にしか聞こえない声で言った。
﹁秋風たちのヒントが無かったら解けなかったけどな。まあ、秋風
たちのおかげだな。﹂
俺たちのヒントって事は金属バットとか、そこら辺だろう。まあ、
役に立ったのならそれでいい。
﹁役に立ったのならオーケーだ。﹂
そして俺たちは立ち上がる。さあ、向かおう。犯人の元へ。
さあ、推理の時間だ。
139
⋮⋮⋮まあ、もう終わってるけど。
140
解決へ
犯人は金属バットを使う。身長170くらいで細めの体型で短めの
髪の男。
そのヒントを与えられ、俺たちが出した答え⋮⋮⋮⋮正確には俺で
はなく、秋良が出した答えだが⋮⋮⋮⋮。それは一体何なのか。
そこから絞られたのは4人だった。そこからどうやって1人に絞る
のか。そこから考えてみよう。
まず、金属バットを満足に使える体力と力が必要だ。まあ、金属バ
ットはぶっちゃけ子供でも使える。しかし、それが使えない世代が
いる。
それは高齢者だ。高齢者には力はあっても体力はない。殺人を犯す
ことはまず不可能。よって、この4人の中から1人減る。さあ、3
人になった。ここからどう絞るか。
次に必要なのはどうやって被害者である青木真也の家に入るのかだ。
青木の知らない人が急に金属バットを持って家に行く。そこまでは
出来るが、青木は家に上げるわけない。だから、ここから青木の人
間関係を探る必要がある。だが、これは幸い高木たち警察が人間関
係を調べてくれていた。よって、青木と人間関係の無い1人は減る。
なら、残った2人はどうするのか。どう考えれば犯人を出せるのか。
ここで、秋良の推理が答えとなる。
秋良が考えた推理は正解だった。
﹃この2人の内、どちらが犯人か。その答えは職にある。﹄
﹃職?﹄
﹃ああ。職を調べてもらいたい。﹄
141
秋良はそう言った。それはなぜか。どうして職がカギとなるのか。
その答えにいち早く辿り着いたのは、一緒にいた悠木だ。
﹃そうか⋮⋮⋮⋮。いくら金属バットがすぐ手に入るとしても、大
人が全員持ってるとは限らない。⋮⋮⋮⋮⋮そうだろ?﹄
﹃ああ。もし野球関係の職に就いているのなら金属バットを持って
いる。それが両方ともに違うなら子供がいるかを調べる。もし子供
がいて、その子供が野球をやっていたら家にあるはず。もちろん、
血がついた金属バットを家に置くわけない。子供がいるなら新しい
バットを買うはずだ。﹄
﹃なるほど。一理あるな⋮⋮⋮⋮⋮。行くぞ。聞き込みに向かう。
合ってるかはそこからだ。﹄
そして俺たちは聞き込みに向かう。そして、その答えは当たってい
たのだ。
☆☆☆
犯人候補となっていた2人の内、1人が当てはまっていた。
﹁やっぱりな⋮⋮⋮⋮。1人だけ当てはまったな。野球関係の仕事
で、子供がいる。その子供も野球少年団に入っている。﹂
俺はそう言う。これで決まりだろう。もう1人の方は野球とは無縁。
野球をやったことないし、子供もいない。そんな人が金属バットを
持っているとは思えなかった。
142
﹁なら⋮⋮⋮⋮⋮行こうか。﹂
こうして、5月祭りの犯人である白沼圭吾は逮捕された。白沼は最
初は容疑を否認していたが、1時間の末、犯人だと認めたのだ。
5月祭りの後の事件は⋮⋮⋮⋮幕を閉じた。
☆☆☆
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮秋風。お前、4月もこんな事してたのか?頭痛くな
るわ。﹂
﹁うるせぇよ。こういう村なんだよ。﹂
﹁でも、会議の時の秋風ってなんか⋮⋮⋮⋮似合ってたね。警察と
かなったら?﹂
﹁何を言ってんだよ悠木。俺に警察は似合わないよ。﹂
俺は帰り道、中学時代のメンツと帰っていた。⋮⋮⋮⋮⋮あれ?雫
は?
そんな事を考えていると後ろで彩乃と雪那と話していた。いわゆる
ガールズトーク。女は恐ろしや∼!
キャッキャ言っててちょっとうるさい。
﹁あ、アキ!どっちから帰るの?﹂
143
﹁ん⋮⋮⋮あ、分かれ道か。﹂
知らぬ間に分かれ道になっていた。俺はどちらでも帰れるが、秋良
たちは右、雫は左からしか帰れない。
⋮⋮⋮⋮まあ、女の子を1人で帰らせるのはあれだしな。
﹁左から帰るよ。ぶっちゃけ、左の方が近いし。﹂
﹁そう?じゃあ一緒に帰ろう!﹂
ニコニコ笑いながら俺の腕を掴んでくる。
﹁おい!ちょっ⋮⋮⋮!﹂
﹁ん?どうしたどうしたー?﹂
﹁雫さん?何をしてるんですか?﹂
やべえ!雪那が怒った⋮⋮⋮⋮のか?とにかく怖い!!
﹁どうしたの雪那?私たちはこっちだから⋮⋮⋮⋮⋮じゃあね!﹂
そう言って俺を引っ張っていく。
﹁俺を⋮⋮⋮引っ張るなぁ!!!﹂
祭りが終わっても、事件を解決しても、俺たちの生活は何も変わら
ないようだった。
144
☆☆☆
﹁いやー!久しぶりに帰ってきたなぁ祭り村!!さあて、妹に会い
に行きますかぁ!﹂
この村に1人の女がやって来る⋮⋮⋮⋮。
その女は水色ロングヘア。身長は165くらい。誰もがとある人物
を思い浮かべるだろう。そんな女だった。
﹁待っててね私の愛しき雫ちゃん!﹂
その女はスキップしながら夜道を進んでいく。
145
解決へ︵後書き︶
5月祭り編終わりですね。そして新たな人物が⋮⋮⋮
146
氷華︵前書き︶
6月祭り編始まります!
147
氷華
窓側の席はとても良い。最強の席である。
夏は窓を開ければ涼しい⋮⋮⋮かもしれないし、冬は日が当たって
暖かい。しかし、俺の席は窓側だが後ろではない。一番前だ。だが、
俺にとってはそのくらいがちょうどいいのだ。
ある程度後ろだと先生の目につく。だが、一番前だと後ろの方に目
が行き、前の方まではあまり向かない。それが人間というものだ。
前より後ろの法則があるんじゃないかと言えるほどである。
俺はぼーっとしながら外を見ていた。だが、そこまでいい景色では
ない。なぜか。それは雨だからだ。
明日から6月に入る。梅雨の季節だ。漢字で書くと水無月だったは
ずだ。しかし、漢字で書くのは水が無い月。だが、実際は梅雨の季
節。バリバリ水有月である。なんだそれ。10月の神無月みたいな
感じか?どっかだけは神がある月になるんだったよな。
今は自習の時間だ。もうすぐ定期テストがある。俺にとっては余裕
のテストだが、成績がギリギリの人は必死に勉強中だ。俺と入試が
同じ点数の雫も、3位の風香も必死に頑張っている。ただ1人だけ、
桜はそこまで本気にはなっていなかった。それもそうだよな。桜が
なぜこの学校でトップクラスを取れないのか分かった気がした。
以前、俺は桜に勉強を教えたことがある。正直な感想を言おう。飲
み込みがとても速かった。桜はただ勉強をサボっていたからそこま
で成績が上がらないだけなのだ。羨ましい!!俺でも受験はガチ勉
したぞ?時間は短く、かつ効率良くが俺のモットーだからな。
だから俺は勉強をしない。ただただ雨の降っている外を眺めていた。
☆☆☆
148
今日は父親に買い物を頼まれていた。だから俺は雫、風香、桜の3
人には先に帰ってもらった。本当に申し訳ない。後で何か奢ってあ
げると言ったら満面の笑みで分かってくれた。いくら払えばいいの
やら⋮⋮⋮⋮⋮。
頼まれたものは全て買い終わったところで、俺は家に向かう。平日
なので高齢者しかいない。さすが田舎だな。⋮⋮⋮⋮と、そこで知
り合いを見つけた。
その人物は学校でいつも見る顔だ。
何をやっているのだろうと思っているとそこはケーキ屋だ。水色の
長い髪がひらひらと舞っている。さすが雫さんですな。
近寄ってみると、雫は俺の方を見たが、すぐにケースの方に視線を
戻す。
⋮⋮⋮⋮あれ?気付いていないわけではないよな?あれ?
﹁あれ?アキ?どうしたのこんなところで。﹂
後ろから声をかけられた。だが、俺はビックリして尻餅をつきそう
になった。なぜなら、話しかけてきたのは雫だからだ。
さっき見た雫は?え?え?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮どうしたの?﹂
﹁え?いや⋮⋮⋮⋮⋮⋮見間違いかなぁ?﹂
﹁何が?﹂
雫に言っても分からないだろう。なんせさっきまで雫と全く同じ顔
をして全く同じ髪の毛の人物を見かけたからだ。いつもと違うのは
髪を縛っていてポニーテールみたいになってたところかな?
149
俺はケーキ屋を後にして家に帰ろうと思って、雫に声をかけようと
した。だって怖いもん。さっきのは幻影?んなバカな。ストレス溜
まってきたのかな、俺。嫌だなぁ。俺、まだ高校生だよぉ。
すると、ケーキ屋から人が出てきた。その人物は雫だった。え?後
ろにも雫?目の前にも雫?え?え?どういう事?俺の目がおかしく
なった?
﹁えぇ!?なんで姉さんがここに!?﹂
﹁姉さん!?﹂
雫が驚いた事よりも、俺の目がおかしくなかったという事よりも、
この人物が雫のお姉さんだという事に驚いた。雫、姉妹いたのね。
﹁あら、雫ちゃんじゃん?久しぶりね。そっちの人は友達?それと
も彼氏?﹂
﹁友達です!﹂
なんか言い張ってるけど、説明してもらいたいでごわすな。
☆☆☆
﹁似てるって言われるんだよねー私たち。﹂
﹁そうだね。区別がつくとしたら髪を縛ってるかどうかだしね。﹂
﹁うんうん!おっと申し訳ないね彼氏くん。私は雫ちゃんのお姉さ
150
んの冬風氷華だよ!よろしくね!﹂
﹁彼氏ではないですけどね。秋風隼人です。﹂
氷華は明るい人だった。やっぱりここは姉妹なのね。つーか、やっ
ぱり似てるよなこの2人。似すぎてて逆に怖い。この2人で幽体離
脱とか出来てしまうレベル。いや、マジで。
﹁かっこいい人だねぇ。後、私たちは双子だから歳は同じだよ。タ
メでオーケー。﹂
﹁あ、そうなのか。へぇー。双子ってこんなにそっくりになるもの
なのか。﹂
﹁私も知らなかった。しっかしかっこいいねぇ。好きになっちゃう
よ。キュンキュン。﹂
﹁ちょっと姉さん!アキにくっつかないでよ!﹂
俺の右腕を掴んでいるのが氷華だが、それを阻止しようという口調
だが左腕を掴んでいるのは雫だ。お前は何がしたいんだよ⋮⋮⋮。
それに、ちょっと困るんだけど⋮⋮。色々と当たるんですが?そこ
は気にしないんですか?
氷華はニヤニヤしながら雫の顔に近付く。
﹁あれあれぇ?何でそんなにムキになるのぉ?もしかして⋮⋮⋮雫
ちゃん?隼人の事がす⋮⋮⋮。﹂
言いかけたところで雫が氷華の腹にパンチを。うわー。痛そうだな
ぁ。で、さっき俺の話題が出てたけど何を言おうとしたのかしら?
151
そう聞こうとしたが、雫の表情を見ると聞こうと思わなくなる。止
めておこう。怒らせると大変だ。論破されそうだ。
﹁ここでそれを言わないで!!﹂
雫は顔を真っ赤にしながら言っていた。仲良いですねお二人さん。
俺たちの村に新たに知り合いが増えた。冬風氷華。話を聞くと6月
だけこの村に来るらしい。普段は都会で一人暮らしだという事だ。
なんでも6月は両親の誕生日らしく、自分から祝いに来るらしい。
なんて偉いのだ。
ちなみに、自分の誕生日の日は家族が都会に来てくれるとの事だ。
雫と同じ誕生日なので、そこでまとめて祝うそうだ。いい家族だな
ぁ。
まあ、一ヶ月だけでも友達が増えるのは良いことだな。うん。
さあ、もうすぐ6月だ!
また祭りがあるのかぁ。そしてまた事件を解くのかぁ。大変な日常
だよ。やっと息抜き出来たのになぁ。⋮⋮⋮⋮⋮はぁ。
俺は両脇に美女2人を抱え、二股とか思われるのは仕方ない格好で
村を歩くのだった。
☆☆☆
あなたは欲しいものってある?
物でも友達でも恋人でもいいよ。
私は欲しいものがあるよ。
152
それは、前はあったけど、今は無くなったんだよね。
だから、それを持っている人は羨ましい。
私にはもう⋮⋮⋮⋮愛する人はいなくなってしまったから。
153
梅雨だと思ったら晴天でしたね
6月。それは、梅雨の季節。そう思っていた時期が俺にもありまし
た。
実際はどうだったのでしょうか。あら不思議!6月に入ってから一
回も雨が降りません!!それどころが晴天!!マジヤバス。
﹁何でここは雨が降らないんだ?﹂
﹁アキ?何言ってんの?そんなの祭り村だからに決まってるじゃん。
﹂
﹁それは当たり前なの?常識なの?﹂
そんなくだらない会話を繰り広げる俺と雫。それを微笑みながら見
守っている桜。⋮⋮⋮⋮あれ?風香は?
﹁何で私の居場所は無いのですか?﹂
風香が泣きながら近づいてくる。やべぇ。面倒くさいパターンだわ
コレ。風香ってこういうのが無ければ良いのになぁ。
﹁シクシク泣きながら来るな。居場所が無いと判断したのはどこだ
よ。﹂
﹁だって⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮あれ?何でだっけ?﹂
﹁気付いてないのかよ⋮⋮⋮⋮。﹂
154
呆れたわ。心配⋮⋮⋮はしてないけど損したわ。それに、こいつい
つの間にか涙が消えてるし。さっきまで泣いてたよね君?⋮⋮⋮⋮
まぁ、泣き止んだのなら良いけどさ。面倒くさくなくなるし。
これがいつものメンバー。略していつメン。基本はこのメンバーで
いることが多くなった俺だが、中学時代はまた違ったメンツだった
事を思い出す。懐かしいなぁ。あの頃は勉強は出来るのにガリ勉じ
ゃないメンツだったからなぁ。みんなからはムカつく天才五人衆と
か呼ばれてた気がする。
それに比べてこのメンバーは。まあ、これはこれでいいけどな。
⋮⋮⋮ちょっと贅沢言っても良いのなら、男女比率おかしくない?
3対1って何だよ。俺三股じゃねーか。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮はぁ。
☆☆☆
雫は明るい。桜はおとなしい。風香はお嬢様。
みんなそれぞれ個性がある。あれ?風香のって個性?⋮⋮⋮まぁい
いや。
俺には個性があるのだろうか。一体どんな個性が?明るい⋮⋮⋮は、
違うかもな。じゃあ何だろうか。
意外と自分の個性は自分では気付かないものだ。それに、相手にど
う思われているか。どんな印象なのか。そんな事も分からない。だ
から、それは他の人に聞くしかない。
﹁さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!﹂
そんな事を言っているのは最近祭り村に戻ってきた氷華だ。まあ、
7月になったら戻るらしいけど。
155
何をやってるんだろうと覗こうとしたが、近くの手作り看板を見た
らやめる気になった。
女子限定!とか書いてあった。その下には男子が来たら罰ゲーム!
!とか書いてある。氷華の罰ゲームは怖そうだ。
俺は近寄らないようにしようと心に誓い、家に帰ることにした。
☆☆☆
﹁何やってるの?﹂
﹁ああ!雫ちゃん!ちょうど良かった!!寄ってらっしゃい!﹂
﹁嫌だ。﹂
﹁えぇー!良いじゃんよぉ!ちょっとでいいからぁ。あ!桜ちゃん
と風香ちゃんも!﹂
そう言って私、冬風氷華は女子3人を集めた。私は心の中でニヤニ
ヤと笑っている。表情には出さないようにしてあるから安心だ。
それに、彼女らは絶対に食いつく。私はそういうネタを持ってきた
のだから。
﹁ちょっとねぇ。隼人の事を調べたんだけどぉ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮知
りたい?﹂
その言葉に3人はコクコクと頷く。なんて分かりやすい奴らだ。笑
っちゃいそう。ぷぷぷ。
156
﹁実はねぇ⋮⋮⋮。ゴニョゴニョゴニョ⋮⋮⋮⋮⋮。﹂
﹁え!?嘘!?そうなの!?﹂
﹁本当本当ー!ふふふ⋮⋮⋮⋮。﹂
私の作り話にまんまと引っ掛かった。笑えるわぁ。あっはっは!
⋮⋮⋮⋮⋮⋮いいなぁ。私もこんな恋をしてみたい。いや、してた
んだっけ。過去形でね。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮思い返すと⋮⋮⋮胸が締め付けられるように痛い。私
は⋮⋮⋮私は⋮⋮⋮。
3人は私の異変に気付いていないようだ。それは良かった。表情に
出てたらどうしようかと思った。
ああ。一体、どうしてあんな目にあったんだろうな。私もこんな風
に恋をしたい。私も欲しい。私も⋮⋮⋮私も私も⋮⋮⋮⋮⋮。
今になって、雫たちが羨ましい。隼人はあんな性格だ。きっと、中
学時代もモテタンダロウナ。イイナイイナ!ワタシモアノコロニモ
ドリタイ!!グゲゲ⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁どうしたの?顔色悪いよ?﹂
桜がそう聞いてきて私は我に返った。表情に出ていたようだ。
﹁あはは。何でもないよ。心配かけたね。﹂
今の私は、彼女らをからかおう。
もうすぐ、6月祭りだしね。ぐげげげげ。
☆☆☆
157
﹃もしもし。久しぶりだな。﹄
﹃こちらこそ。それで、今年はどうすればいいの?﹄
﹃今年もいつも通りでよろしく。それと、今年は2回も問題を解か
れた。手強いぞ。﹄
﹃ふふふ。この私がしくじるとでも?﹄
﹃ふっ。俺がお前を心配する必要ないな。⋮⋮⋮よろしく。﹄
ツーツーツー。
電話は、そこで途切れている。
158
6月祭り
当日
さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ここに来てから3度目
の祭りだよー!!⋮⋮⋮⋮なんか、これが普通になってきたなおい。
今日は珍しく雫たちが先に来ていた。雫、桜、風香。そして氷華も
いる。まあ6月だけしか氷華はいないらしいしな。1年に1回の楽
しみなんだろうな。
俺はおはようと軽く挨拶をする。今日は高木と富岡は見かけない。
まあ、いつもより早めの時間だしな。そのうち会うだろう。会った
ら挨拶をしておこう。
すると、雫が俺の服を掴んできた。ちょっと止めなさいよ。服伸び
るでしょうが。
﹁さあ!今月も勝負だぁ!!﹂
﹁勝負?⋮⋮⋮⋮⋮あぁ、ポーカーとかオセロとかのあれか。﹂
そういえばあったなぁ。今月は何をやるのだろうか。ルール分かる
やつがいいけど。逆に分からなかったら負け確実だよな。
﹁今月は何が置いてあるかなぁ?﹂
﹁さあな。ボードゲームは将棋、オセロと続いたからなぁ。今月は
何だ?囲碁か?﹂
﹁渋っ!!﹂
﹁うるせえよ。﹂
159
とか言い合いながら目的地のところまで進む。桜と風香は前回と同
じようにトランプをやってるそうだ。そこに氷華も交ざるらしい。
﹁今月こそは桜に勝ちますわ!!﹂
﹁なんで風香ちゃんはお嬢様言葉なの?﹂
﹁うるさい!こんな口調になっちゃうのよ!﹂
ああ。それは可哀想に。口調がおかしくなるのか。それは怖いな。
関東に住んでたのに関西で仕事してたらいつの間にか関西弁使って
たってやつか。逆パターンもありそうだな。
﹁さあ行こう!あの謎の屋台へ!﹂
雫さん、謎って言っちゃうんだぁ。
まあ、それも分からなくはない。せっかく祭りに来てるっていうの
になぜ最初にやることがゲームなんだよ。そもそも祭りにゲームが
置いてあるのがおかしいだろ。
☆☆☆
今月の屋台は毎度お馴染みのトランプがポツンと置いてある。俺が
密かに楽しみにしていたボードゲームはチェスだった。そう来たか
ー。囲碁かと思ったんだけどなぁ。
雫はチェスを見た。その顔がキラキラ輝いている。あれ?なんで?
﹁さあ今月はチェスで勝負!!﹂
160
﹁⋮⋮⋮⋮⋮やっぱりそう来るのね。﹂
﹁当たり前!!駒並べよう!!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮はぁ。分かったよ。﹂
そう言って俺と雫は駒を並べる。
チェスのルールは分かる。簡単に言うと、交互に駒を動かしてって
キングを取った方の勝ち。そういうゲームだ。
並べるだけでも疲れた俺である。今回はタイマーは置かれていない
ので時間は無制限だ。
﹁さあさあ!盟約に誓って!アッシェンテ!!﹂
﹁おい!それアニメのパクリだよな!!﹂
チェスをやってて、アッシェンテですか。完全にパクリですね。ノ
ー⃝ーム・ノー⃝イフですね?あのアニメは面白かったなぁ⋮⋮⋮
⋮て、そうじゃなくてだな!⋮⋮⋮⋮⋮あぁもう!
﹁⋮⋮⋮⋮あっしぇんて。﹂
やる気ゼロの声でそう返すのだった。
ちなみに、桜たちはジジ抜きに決まったそうだ。キャッキャ騒いで
て楽しそう。俺もそっち行きたい。
結果は、俺の5勝0敗だった。雫弱すぎ。5回ともチェックメイト
ですよ。気持ちいいね、こういう勝ち方は。
前にしか進めない、ポーンで∼も∼!!!ってボカロ曲やないか!!
161
☆☆☆
ようやくまともな屋台に向かう俺たち。それは射的だ。食べ物より
遊ぼうって事だ。まだお腹空いてないしな。
射的の屋台に向かうと、そこには見たことのある人物が4人。
﹁⋮⋮お!!秋風じゃーん!俺だよ秋良だよー!!!﹂
﹁見れば分かるわ。何でここにいんだよ。﹂
﹁え?いちゃダメなの?﹂
秋良は首を傾げている。来ちゃダメとは言わないけどさぁ。急に見
ると結構ビビるんだよね。
﹁あ、秋風だー!久しぶりだねー!﹂
﹁あ、秋風じゃん!おひさー!﹂
悠木と彩乃が揃ってご挨拶。聞いた話によると、この2人は知らな
いうちにリア充化してしまったらしい。⋮⋮⋮ムカつくな。あ、俺
も一応リア充でしたね。テヘ☆
俺の彼女は射的に集中しているようだった。全て終わると俺がいる
方を向き、そこでようやく気付いたようだ。顔を紅くして止まって
いる。
﹁おはよう、雪那。﹂
162
ここは先に動かないとなんか変な感じ。だから俺から言おう。する
と雪那も緊張はとれたのか、ニッコリ笑顔で返してきた。
﹁うんっ!おはよう、秋風くん。﹂
あぁ。忘れない、この笑顔。
そこからは射的をたくさんやった。俺は一番大きいぬいぐるみをと
り、それの争奪戦になり、とても盛り上がった。勝負はババ抜きに
なり、氷華と雫の姉妹対決が実現した。結果は氷華の勝ち。氷華は
ニコニコ笑いながらぬいぐるみを抱えていた。喜んでもらえるなら
いいかな。
俺は思った。いつの間に雫たちは秋良たちと仲良くなってたの?雫
は仕事で会ってたけど、桜とかはいつ仲良くなったの?
そう思うようになっていた今日この頃である。
☆☆☆
﹁私と姉さんは今日、親類の挨拶に行かないといけないから、今日
は一緒に帰れないや。﹂
﹁そうか。分かったよ。また明日な。﹂
﹁うん!また明日ね!﹂
そう言って俺たちは別れた。今日はとても楽しかった。今までと違
って、氷華がいて、秋良たちがいたから楽しかったのだろう。やっ
163
ぱり大勢は楽しいなぁ。
人間は2種類いる。孤独を嫌う人間と、孤独を好む人間。俺は孤独
を嫌う人間だ。故に、いつも誰かと一緒に行動している。逆に、孤
独を好んで、自分の意思で1人で行動している人は少数だろう。
それでも、必ずいるのだ。自分の意思で孤独な人間が。
俺は孤独がいいとは思わない。孤独では、人とのコミュニケーショ
ンが取れない。人見知りでもコミュニケーションを取ることで変わ
っていくのだ。
俺は、そう考える。
☆☆☆
﹁かぁー!久しぶりにおじいちゃんに会ったなぁ。ね、雫ちゃん。﹂
﹁うるさいなぁ。⋮⋮⋮⋮⋮まあ、そうだけどね。﹂
雫の素っ気ない返事。これがいつもの日々。私はこの日常に満足し
ている。
今日は楽しかった。大勢の人とはしゃいで、遊んだのは久しぶりだ。
去年は雫に桜、風香の3人だった。それが今年は隼人に秋良、悠木、
雪那、彩乃。5人も友達が出来た。
雫が隼人の事が好きなのは見て分かる。しかし、隼人は雪那の事が
好きなようにも見えた。それに、桜や風香も隼人を狙っているよう
だ。大きなぬいぐるみ争奪戦の時に、その人たちだけ本気になって
いたからだ。⋮⋮⋮まあ、私が貰ったけどね。
私は、それが羨ましい。昔は私も好きな人がいた。だけど、その人
はもう⋮⋮⋮⋮いない。いなくなった。死んでしまった。殺されて
164
しまった。
この感情を思い出すのは、決まって6月。この村に来る度に思い出
す。
だけど、こんなに思ったのは初めてだ。いつもは少しだけなのに、
今年は大きな感情。それは、一体なぜ?
私は分からない。ただ、一つ思うのは、私にも、6月になると決ま
って、もう一つの自分が目を覚ます。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮?どうしたの?姉さん?﹂
雫がそんなことを聞いてきた。私は何でもないとだけ伝えた。雫は
私が疲れているのだろうと思ってくれたようだ。そっとしてくれた。
こんなに優しい妹。歳は一緒だけど、年下に思えてしまう。そんな
妹が⋮⋮⋮好きだ。
そんな好きな妹を私は、こうするしかない。今回の計画に雫は邪魔
だ。
私はポケットからスタンガンを取り出す。雫にバレないように取り
出し、その際に出力を最大にする。そして、そっと、雫の首元まで。
そして、スタンガンのスイッチを入れた。
バチッ!という音と共に、雫はコテンと倒れる。スタンガンは人を
殺す道具ではない。実際、雫は息をしている。死んではいない。
それで十分だ。私は雫を殺すつもりはない。私は雫を抱えて、家ま
で向かう。
私には⋮⋮⋮⋮6月になると、決まって⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮もう一人
の自分が⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ぐげげげげげ。
☆☆☆
165
﹃このノートを開いたのは1年ぶりだ。そう書いておこう。
今は6月。また始まる。私のもう一人の自分が目を覚ましたのだ。
それも、今までとは違う、強い思い。妹がじゃれあう姿を見て、羨
ましかったのかな。なんて情けない。でも、私はやるべき事がある。
今からその場所に行かないとね。
⋮⋮⋮⋮⋮鬼の人格が⋮⋮⋮⋮⋮目を覚ます。﹄
ノートには、そう書かれていた。
166
捜査。そして⋮⋮⋮
﹁これは⋮⋮⋮⋮酷いな。﹂
俺たちが最初に見た感想はそれだった。
6月にもやはり殺人は起きた。被害者は大賀悟史。4月の事件の時
に犯人候補に入っていた男だった。
知っている人間だからこそ、この状況は悲惨だと感じた。
顔面が完全に破壊されていたのだ。おそらく、金属か何かの硬いも
ので殴ったのだ。そこまでしなければここまで骨が砕けはしない。
しかし、それが何か分からない。金属バットの線もある。しかし、
それが本当に金属バットかは分からない。
前回は確信があった。聞き込みでもそう言っていたし、金属バット
の形と傷跡がそのまま一致したからだ。
しかし、今回はどうだ?傷跡はほぼ残っていない。今回は聞き込み
しか情報は得られない。
しかも、この場所が問題だ。
大賀の死体があったこの場所。ここは山の中だ。足跡が無いか探し
てはいるが、それでも足跡だ。同じ靴を履いている人なんていくら
でもいる。それだけでは犯人を特定出来ないのだ。
なら、残った情報。ここに残された手がかりは何なのか。
それだけが、俺にはまだ分からなかった。
﹁アキ。雪那たちも呼ぶ?﹂
﹁ん?ああ。呼んでみるか。﹂
雫の提案に賛成だ。今回は俺だけでは解けないだろう。そもそも、
5月の事件も俺一人ではなかった。
167
⋮⋮⋮⋮俺も、限界なんだな。
人には限界がある。その限界が今なのだ。そろそろ人を頼ることも
覚えた方が良いのだろう。
限界は存在する。誰しも、その限界を持っている。それはなぜか。
人は完璧では無いからだ。完璧なら、人は自分一人で判断し、行動
に移し、ミス一つ無く成功するだろう。
しかし、人は誰もがそれを出来ない。誰もが失敗を知っている。だ
から誰かを頼る。自分には無いもの。穴を埋める為に、誰かを頼る。
その考えが、俺には必要だと。そういう事なのだろうな。
これは連続殺人事件の主犯であり、リーダーである誰かによる宣戦
布告と考えた方が良いのだろうか。
あえて今回の犯人にこういう殺人方法をしろと命令したのかもしれ
ない。そう。あえてだ。
こういう殺人方法をする事で、俺に仲間を使えと。そうしなければ
今回は解けないと。そういう考えから生まれた殺人方法だと考えた
方が無難なのだろう。
逆に考えれば、俺は舐められているのだ。5月の事件を、仲間の手
を借りて解いた。それはいい。逮捕できたのだから。
しかし、主犯はそう思わない。
1人でも解けた事件を解けない。それは実力が無いとしか思えない
のだろう。
だが、それでいい。俺はこの事件を最後まで解くのだ。そのために
雫のこの依頼を受けたのだから。
﹁あと、桜たちも呼ぶか?﹂
﹁あ、それいいね。じゃあ、桜たちは私が呼ぶよ。﹂
168
﹁ああ。﹂
仲間が必要。そう言ってくるのならば呼ぶ。桜と風香も呼べば最強
の組み合わせ。全員で解けない事件は無い!!!!
⋮⋮⋮⋮一回言ってみたかったんだよねー!!言えて良かった!!
☆☆☆
桜と風香はここに来るのが初めてという事で、大体のあらすじ?を
説明しておく。桜と風香はすぐに分かってくれたようだ。良かった
良かった。
﹁つまり、今回の事件は私たちが必要だって事で良いのかしら?﹂
﹁ああ。簡単に言えばそんな感じだぞ、風香。あと、その語尾は何
とかならんのか?﹂
﹁ならないんですのよ!!﹂
なんてくだらない会話だ。風香の語尾はこれからもいじられ続ける
だろう。可哀想に。あ、いじってたのは俺だわ。
さあ、ここで警察の登場だ。毎度お馴染みの高木、そして富岡。後
は⋮⋮⋮そういえば名前分からないや。まあいいや。
とにかく、警察が今回の聞き込みをしてきたようだ。話を聞きまし
ょう。
﹁この山の近くで、165センチくらいの人間を確認したようだ。
169
そして、手には金属バットを持っていたようだ。﹂
﹁なるほど。頭が砕けていたのは金属バットですか⋮⋮。﹂
﹁そういう事になるな。しかし、情報はこれしかない。後は現場に
何かあるか探すしかない。﹂
身長と⋮⋮⋮⋮殺人に使用されたものだけ。情報が少なすぎる。し
かし、とにかく165センチの人を当たってみるのが一番だろう。
その事は警察はすでに考えていたようだ。
﹁とりあえず、20人ほど出てきた。ここから調査していくしかな
いな。﹂
20人。少ない情報に対して人の多さ。これは辛い。とても辛い。
俺は⋮⋮⋮⋮俺たちは解けるのだろうか。この事件をどうすれば解
けるのだろうか。
俺は考える。だが、考えれば考えるほど分からない。
いくら俺が頭が良くても、所詮は高校生だ。高校生並みの回転力し
か無い。虚しくなる。自分の頭の悪さに泣きそうになる。
しかし、その穴を埋める為に大勢の人がいるのだ。たくさんの意見
を集め、そこから答えを求めるのだ。
﹁その死体から得られる情報は無いんすか?﹂
秋良が高木に問う。
﹁今の所はまだ見つかっていないようだ。顔面が破壊されてるから、
顔面の情報は無いとしか言えない。他の部分から探すしかない。﹂
170
﹁なるほど。⋮⋮⋮⋮⋮⋮。﹂
秋良はそこから何か考えているようだ。
全員が黙って考える。だが、一向に意見は出てこない。それもそう
だ。情報が無ければ推理しようがない。
と、そこで調査していた警察が帰ってきた。名前は分からない。
﹁何か分かったか?﹂
高木の問いに警察は資料を渡した。
﹁これが全てです。明日も調査する予定です。今日はもう日も暮れ
てしまい、捜査が困難になるので⋮⋮⋮⋮⋮。﹂
高木はありがとうと伝え、その資料を読んでいく。そして、分かっ
た事を伝えていく。
﹁被害者の首元に電気の当てられた跡があったそうだ。おそらくは
スタンガン。﹂
﹁スタンガン⋮⋮⋮⋮。でも、そんなものをどこで⋮⋮⋮⋮。﹂
だが、高木の言葉はそれでは終わらない。
﹁あと、足跡が見つかったそうだ。26センチだそうだ。﹂
﹁じゃあ、その情報から絞れますね。﹂
﹁そういう事だ。早速絞ってみる。﹂
171
しばらくし、結果は出た。しかし、それでも10人。半分に減った
が、それでも多い。
この事件を解けるのだろうか。何か無いのか⋮⋮⋮?この事件を解
く鍵は⋮⋮⋮⋮⋮何か無いのか⋮⋮⋮⋮⋮?
ここで、俺は一つの疑問点を見つけた。いや、疑問どころじゃない!
﹁高木さん。ちょっと良いですか?﹂
﹁ん?何だ?﹂
﹁どうして、この候補には男性しかいないんですか?﹂
そう。これが疑問点。この候補には男性しかいないのだ。
﹁そう言われれば⋮⋮⋮⋮。﹂
高木も今それに気付いたようだ。ここにいる全員が今気付いたよう
な顔をしていた。
﹁どこで男性だと決めつけたんですか?身長?靴のサイズ?女性で
も165センチの身長に26センチの靴は珍しくもない。実際、こ
こにいる雫は165センチで靴は27センチ⋮⋮⋮だったよね?﹂
﹁え?ああ⋮⋮⋮うん。そうだよ。何で知ってるの?﹂
急に言われて驚いたようだ。しかし、ここでツッコまれても返す余
裕は無い。
﹁つまり、女性が犯人の可能性もあり得るんですよ!!﹂
172
全員が息を止めた。そして、高木は⋮⋮⋮。
﹁お前ら!女性も調べろ!!﹂
﹁はいっ!!﹂
そして、結果。当てはまった女性は1人。誰もが認めたくなかった。
もし、この人物が犯人ならば、昨日の楽しかった出来事は何だった
のか。
しかし、この線で行き、もし当たっていれば。
彼女ならば、金属バットを振り回すのも容易いのだろう。彼女なら
ば、実行出来るのは容易いだろう。
認めたくない。だが、認めざるを得ない。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮犯人は⋮⋮⋮⋮⋮⋮氷華なのか?﹂
冬風氷華。
彼女だけが⋮⋮⋮当てはまったのだ。
173
電話
俺は家に着くと同時に携帯を開き、電話をかける。
かける相手は⋮⋮⋮冬風氷華。
もし、氷華が本当に犯人ならば、俺は聞かなければならない事がた
くさんあるのだ。
プルルルル⋮⋮⋮⋮
しばらくその音だけが俺の耳に響いた。そして、4コールしてから
氷華の声が聞こえた。
﹃もしもし、氷華です。﹄
﹁⋮⋮⋮!!氷華か!俺だ!隼人だ!!﹂
﹃ああ。隼人か。何か用?﹄
ずいぶんと疲れきった声だった。
俺はやや心配になる。
﹁いや、用ってわけじゃない。ただ、祭りの日のアリバイが知りた
いんだ。﹂
ここで﹁氷華が犯人なのか?﹂みたいにストレートには聞かない。
俺もそこまでは分かっている。
そう言ったところで本当の事は答えない。それは分かる。俺だった
らそうするからだ。
だから、俺は回りくどく言うのだ。
174
﹃アリバイ?⋮⋮⋮⋮⋮何で?﹄
そう聞かれることも想定内だ。
﹁いや、祭りの日に事件があって、その候補に氷華が入ってるから
アリバイをと思ってな。﹂
﹃ああ。そういう事ね。でも、隼人は知ってるんじゃないの?私は
祭りにいた。一緒にいたし。﹄
﹁ああ。それは知ってるんだ。俺が知りたいのはその後。祭りが終
わってからのアリバイだ。﹂
俺はどうしてこんなに回りくどく言うんだろうと思った。
それもそうだ。これじゃあ犯人はあなた?って聞いているようなも
のだからだ。
しかし、今の俺にはそれしか思い付かない。仕方ないのだ。
雫に聞くわけにはいかない。雫に嫌な思いをさせたくない。
﹃⋮⋮⋮親戚の人たちといたよ。﹄
﹁そうか⋮⋮⋮⋮。﹂
じゃあな。
そんな事を言うと思ったか。
こんなんで終われるか!!
俺は決定的な証拠を持っているのだ!
﹁じゃあ、風香の家にも行ったのか?﹂
175
﹃え?⋮⋮⋮⋮⋮行ってないよ?それがどうかした?﹄
化け猫の尻尾⋮⋮⋮⋮⋮掴んだり!
﹁じゃあ、何で行かなかったんだ?毎年来てるのに、今年は行かな
いのか?それはおかしいよな?﹂
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。﹄
無言になった。て事は、図星か?
⋮⋮⋮いや、雫の妹がここまでバカとは思えない。こんなにあから
さまにするのか?
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮げげ⋮⋮⋮げげげ⋮⋮⋮⋮⋮。﹄
﹁⋮⋮⋮?どうしたんだ?﹂
⋮⋮⋮?様子がおかしい。どうしたんだ?
﹃げげ⋮⋮⋮⋮げげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげ
げげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげ
げげげ!!!!!﹄
ツーツーツー⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮?どういう⋮⋮⋮⋮⋮⋮事だ?﹂
電話は⋮⋮⋮⋮⋮そこで途切れてしまった。
微かな違和感を残しながら、俺は家を飛び出した。
176
⋮⋮⋮氷華⋮⋮⋮何があったんだ!!!
☆☆☆
氷華目線
私は携帯を放り投げた。すでに通話は途切れているだろう。だが、
私はそれでいい。
げげげ⋮⋮⋮⋮すごい⋮⋮⋮すごいや!!頭が良いって聞いてたけ
ど⋮⋮⋮⋮⋮ここまでとは思わなかった!!!
捜査1日目で候補ってところまで絞るなんて!!⋮⋮⋮いや、あの
言い方は回りくどかったな。きっと、私が犯人だって気付いていた
んだろうな。
やっぱり、雫ちゃんの言ってた通りだよ。隼人は頭の回転が速い。
それに、きっと良い仲間を持っている。
⋮⋮⋮⋮⋮正直、舐めてたや。ここまでやるとはね。
私はげげげと笑うと、近くにあった枕を思いっきり投げつける。こ
こは冬風家じゃない。近所迷惑にはならない場所だ。枕を投げても
問題はない。
﹁そうだ⋮⋮⋮⋮⋮そうだよ!!!!私だ!!!私ガ犯人ダ!!!
証拠ヲ上ゲレルナラ上ゲテミロ!!!げげげげ!!!楽シクナッテ
キタヨ!!!ココマデワクワクシタノハ久シブリダ!!!げげげげ
げ!!!!!!﹂
私は低く、大きな声でそう叫んだ。
177
さあ、私を見つけてみろ!!証拠を上げてみろ!!!
勝てるなら、勝ってみろ!!!!
この私に勝てるならば⋮⋮⋮⋮ここまで来い!!
げげげ!!隼人はどう来るかな?
隼人1人だったら⋮⋮⋮⋮⋮残念だけど死ぬ運命だね。ここで隼人
はジエンド。
警察付きなら⋮⋮⋮⋮⋮足掻いてやる!!!5年も続いたんだ!!
!今更覚悟なんて言ってられない!!足掻いて足掻いて足掻き続け
てやる!!!
さあさあ⋮⋮⋮⋮楽しくなってきたよ!!!!隼人はどう来る?私
はどう対処する?
ははは!!!どんどん案が浮かんでくるや!!私は出来損ないの雫
とは違うんだ!!
雫より頭の回転が速くて、運動も出来る!!私は完璧なんだ!!!
雫なんかよりも⋮⋮⋮⋮⋮ずっとずっと完璧だ!!!!
そういえば⋮⋮⋮⋮隼人も完璧だって言ってたっけか。勉強が出来
て、運動もって。ははは!!!今年の戦いに相応しいじゃんか!!!
完璧対完璧。勝つのはどっちだろうな⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁げげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげ
げげげげげげげげげげげげげげげ!!!﹂
私は叫ぶように笑い続けた。
☆☆☆
178
おかしい⋮⋮⋮おかしい!!
あの笑い。絶対におかしい!何があった⋮⋮⋮?
俺はそれしか考えない。だが、これで確定だ。犯人は氷華だ。しか
し、どうして?氷華に殺人を犯す理由があるのか?
⋮⋮⋮⋮⋮分からない。いや、ここに来てからは分からないことだ
らけだ。気にするな。分からないなら調べればいいんだ。
俺は携帯を開く。雫にはまだ知らせない方が良いだろう。ここは違
う人。⋮⋮⋮⋮⋮桜か?風香か?いや、間を取って秋良達か?
くそっ!考えれば考えるほど分からない⋮⋮⋮⋮。
いや、何を迷っている。ここは警察に知らせるのが最優先だろうが
!!バカか俺は!!
俺は高木に電話をする。高木は1コールで電話に出てくれた。
﹃もしもし、高木です。﹄
﹁秋風です。事件で分かった事があるので、少し良いですか?﹂
﹃本当か!!⋮⋮⋮分かった。メモの用意は出来てる。﹄
高木の声はやや大きめだ。そして驚いたようなトーン。
俺は先ほどの氷華とのやりとりを一通り説明する。すると、高木は
少し考えているような唸り声を上げた。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
その長い間の後に高木は低い声で言う。
179
﹃⋮⋮⋮⋮⋮冬風氷華がどこにいるのかは警察が調べよう。見つか
るまでにその後について考えよう。﹄
﹁はい。分かりました。﹂
﹃じゃあ、見つかったら連絡しよう。﹄
ツーツーツー⋮⋮⋮⋮⋮。
さあ、考える番だ!!どうする?
氷華のいる場所を見つけて⋮⋮⋮⋮そこからだ。どうする?
俺だけで乗り込むのは危ない。氷華は確定ではないが殺人犯。俺が
殺される可能性もゼロではない。
それに、今回の事件の死体にスタンガンが使用された跡があったは
ずだ。それが本当ならば氷華もスタンガンを持っているのだ。
⋮⋮⋮だからどうした?氷華はすでに友達だ!仲間だ!!
俺は氷華に教えてやるんだ。お前には俺たちっていう仲間がいるん
だって事を。
教えてやるんだ。殺人なんかしなくていいって!
しばらくして、高木から電話が来た。
場所は村の西側にあるとある屋敷だ。その屋敷は以前、風香の母親
が住んでいたらしい。今はただの空き家なのだとか。
﹁場所が分かったなら今すぐ行きましょう。﹂
そう言って、俺はその場所に向かって走る。
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そして、秋の完璧と冬の完璧が出会うことになる。
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PDF小説ネット発足にあたって
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祭りの後に見る色は
2015年3月13日01時35分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
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