変革期を迎えるワークフロー市場~ 自社開発と高機能ワークフロー

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変革期を迎えるワークフロー市場
∼ 自社開発と高機能ワークフロー製品の選択肢 ∼
株式会社アイ・ティ・アール
C15020073
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目 次
第1章
ワークフローの変遷と市場概況 ............................................................................... 1
ワークフロー製品の歴史 ....................................................................................... 1
堅調な伸びを続けるワークフロー市場.................................................................. 2
ワークフロー市場ベンダーシェア ......................................................................... 3
第2章
多様化するワークフロー機能の利用状況 ................................................................ 4
ワークフロー機能を有する IT ソリューションの分類とその特徴 ......................... 4
今なお高い自社開発意向とクラウドでの運用ニーズの高まり .............................. 5
第3章
自社開発と高機能ワークフロー製品 ....................................................................... 8
自社開発ワークフローにおけるプロセス連携と高機能ワークフロー ................... 8
高機能ワークフロー展開の選択肢 ......................................................................... 9
提言 ......................................................................................................................................... 11
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変革期を迎えるワークフロー市場
∼ 自社開発と高機能ワークフロー製品の選択肢 ∼
第1章
ワークフローの変遷と市場概況
紙ベースであった稟議申請書の承認フローが電子化され、ワークフロー製品が最初に発売されてから
30 年が経とうとしている。いまや、ワークフローツールは企業のなかにさまざまな目的・利用シーン
において浸透している。近年では、多様なシステムとの連携による業務の効率化や見える化、コンプ
ライアンスの強化、スマートデバイス活用、クラウド利用といったニーズが高まっており、ワークフ
ロー基盤に求められる役割も拡大している。
ワークフロー製品の歴史
ワークフロー製品は、流れ図などを使って一連の業務手続きを自動化したり、その
処理手順を規定したりするツールである。主な機能は、文書の回覧や申請/承認など
で、これらの業務の流れをビジュアル表示可能な画面で作成したり、作成されたフ
ローに沿って業務の進 状況を把握したりするものである。ワークフロー管理ツール
と呼ばれるものが最初に発売されたのは1985年であり、米FileNet社(2006年、IBM
社が買収)の「WorkFloTM」という製品の稟議承認システムであった。その後2000
年頃までは、いわゆる3大ワークフローと呼ばれる旅費精算、勤怠管理、稟議回覧が
製品導入事例の大半を占めていた。またこの頃のワークフロー製品は、グループウェ
アのアドオンとして開発されたものが多く見受けられた。
しかしその後、業務の効率化や見える化、ガバナンスの重要性が高まるなかで、ワー
クフロー専用パッケージ製品が登場し、バリエーションも多様化してきた。現在は、
①旅費精算、勤怠管理、稟議回覧といった定型化されたフローの管理を支援する用途
特化型の製品、②各社固有のニーズに対応することを重視し柔軟な開発基盤を持つ製
品、③IBM社のLotus Notes/DominoやMicrosoft社のSharePointなどの特定のグ
ループウェア/ECM(エンタープライズ・コンテンツ管理)との連携を重視した製
品、などが存在する。また、近年は、内部統制や法規制への対応を支援するために基
幹業務システムとの連携やログによる監査証跡の保全をサポートする製品や、高度な
業務分析やフローの組み替えに対応し、BPM(Business Process Management)製
品の一部の機能を備えた高機能なワークフロー製品も登場してきている。
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堅調な伸びを続けるワークフロー市場
ワークフロー市場は、2011年度から2013年度にかけて、大企業において機能強化
のための新バージョンへのアップグレードや、基幹システムの刷新に伴う移行、およ
び安価で導入障壁の低いクラウド版の台頭による中小企業での採用増加によって、二
桁増の好調を維持している。こうした傾向はしばらく続くと見られ、同市場は2014
年度も前年度比19.9%の増加、
また2013∼2018年度のCAGRは11.7%を予測している
(図1)。
図1
ワークフロー市場規模推移および予測(2012∼2018年度・売上金額)
(単位:億円)
90
80
70
60
50
40
74
67
30
85
80
58
49
20
37
10
0
2012年度
2013年度
2012年度
2014年度
2015年度
2016年度
2017年度
2018年度
2014年度
2015年度
2016年度
2017年度
4,870
5,840
6,660
7,390
7,980
8,450
131.6%
119.9%
114.0%
111.0%
108.0%
105.9%
2013年度
2018年度
CAGR
(2013~2018)
市場規模 (単位:百万円)
ワークフロー
前年度比
3,700
―
11.7%
出典:ITR「ITR Market View:コンテンツ管理市場2014」
ワークフロー市場における企業側のニーズとしては、大企業においては、グローバ
ル化に伴う多言語化、スマートフォンなどへのマルチデバイス対応、および詳細は後
述するが、ERPをはじめとした基幹系システムとの連携によるワークフロー型BPM
のような製品へのアップグレードなどが拡大している。
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ワークフロー市場ベンダーシェア
ワークフロー市場において、シェア上位のベンダーに目を向けると、ここ数年大き
なシェアの変動は見られず、上位3ベンダーで約5割、上位4ベンダーで約6割の売上金
額シェアを占めている(図2)。
図2
ワークフロー市場:ベンダー別売上金額シェア(2014年度予測)
富士電機
20.5%
その他
34.5%
A社
16.1%
D社
4.5% C社
9.0%
B社
15.4%
出典:ITR「ITR Market View:コンテンツ管理市場2014」
売上金額ベースのシェアで、ここ数年1位を堅持してきた富士電機のExchangeUSE
ワークフローは、2013年度と2014年度(予測)においても1位を維持している。
ExchangeUSEは、SIを伴う大型案件の導入実績を武器にフルスクラッチで構築した
ワークフローを有する大企業からのリプレースも推進しており、2014年度も同20.0%
増と、大幅な伸びを予測している。
シェア上位の製品は、ERPなどの他システムとの連携対応を強化するなど、より
BPM(Business Process Management)製品に近い性格の製品へと変わってきてお
り、大企業での採用が拡大している。さらに、多言語対応、スマートフォン対応といっ
た、特に大企業において需要が高い機能を追加・強化していることが功を奏して、堅
調な成長を維持していると見られる。
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第2章
多様化するワークフロー機能の利用状況
ワークフロー機能は、用途特化型の専門ツールに限らずグループウェアや ECM、ERP など、さまざ
まな IT ソリューションでも実装され使われてきた。さらに、これまでパッケージ製品の利用や自社開
発がほとんどであった構築・運用形態にも、昨今の拡大するクラウド化のニーズが影響し始めている。
本章では、多様化するワークフロー機能の利用動向について述べる。
ワークフロー機能を有する IT ソリューションの分類とその特徴
冒頭で述べたように、ワークフロー機能は、これまでもグループウェアやECM、
ワークフロー専用パッケージなどで提供されてきた。また、主要なERPパッケージの
ベンダーではESS(従業員セルフサービス:Employee Self-Service)やMSS(管理
者セルフサービス:Manager Self-Service)といった機能を提供してきている。そし
て、一部の専門型ワークフロー製品は、ワークフローおよびビジネスプロセスに組み
込むニーズが高い多様な業務アプリケーション/基幹システムとも連携可能な、
BPM製品の一部の機能を備える製品(以下、高機能ワークフロー)に変化してきて
いる。高機能ワークフロー製品を含め、ワークフロー機能を有するITソリューション
の分類、およびその特徴をまとめたものが図3である。
図3
ワークフロー機能の提供形態とその特徴
グループウェア/ECM
専門型
簡易ワークフロー
高機能ワークフロー
BPM
ERP
• テンプレートが多く、他 • 従来の紙ベースの申請 • ワークフロー機能が充 • 業務拡張、全社対応、シ • 基幹系システムの拡張
機能として提供される
ステム間連携に強い
機能とあわせ割安感が 系業務のテンプレート
実している
高い
が基本で安価
• 業務拡張、全社対応、シ • システム間のフロー機 • 基幹システム側のデー
能は充実しているが、複 タとのリアルタイム連携
• ワークフロー製品と比 • 承認フローなど高機能
ステム間連携に対応し
雑な承認や組織変更へ が可能
較し短期間で導入でき
型ワークフローと比べ単 ており、BPMに近い機
の対応などヒューマン • 規制や法対応などに強
る
純な傾向が強いが、そ
能を有する
• 複雑なフローへの対応 の反面、フロー設計も • 複雑な承認フローの業 系フローの柔軟性は低 い
GUIベースで簡単
やシステム間連携は製
務や組織変更への対応 い
• 実績管理に優れる
• 実績管理の対象にでき
品により差がある
• SaaS版もあり短期間で など、柔軟性が高い
• 承認フローは単純なも
導入しやすい
• SaaS版やクラウド対応
• 実績管理の対象にでき る情報量が多く、またビ のに限定される
ジネスプロセス改善な
など提供形態が広範に
る情報量が多い
どPDCAサイクルも担う
わたる
• 構築・運用コストが多大
出典:ITR
国内においてはECMやBPMの導入はなかなか弾みがつかない状況にある。しかし、
近年BPMの機能を部分的に備える高機能ワークフロー製品は注目が高まっており、
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将来的に導入が大きく進む可能性がある。BPMのように、さまざまな業務システム
と連携するワークフローは、大手企業ではスクラッチで自社開発しているケースが少
なくない。しかし、自社開発コストやパッケージ製品のカスタマイズ・コストに対す
る削減ニーズの高まりだけでなく、多言語対応やスマートデバイス対応などのニーズ
を受けて、既存パッケージ製品のアップグレードに伴うサポート終了や、自社開発環
境の機能改善・追加を機に、高機能ワークフロー製品への需要が拡大している。前述
のワークフロー製品の売上金額シェア1位の富士電機のExchangeUSEをはじめ、エイ
トレッドのAgileWorksやNTTデータイントラマートのintra-martなどが高機能ワー
クフロー製品に該当する。なお、エイトレッドは、AgileWorksの他に、専門型簡易
ワークフローといえるX-pointも提供している。この専門型簡易ワークフローに該当
する製品は、コスト的にも導入工数的にも利用障壁が低く、これまでワークフロー製
品が導入されていなかった中小企業をターゲットに導入企業が増加しており、また
SaaS版として提供されるものが増えてきている。
今なお高い自社開発意向とクラウドでの運用ニーズの高まり
ITRでは、2013年6月に国内企業に勤務する情報系システム担当者を対象にコンテ
ンツ管理に関する調査「ITR User View:コンテンツ管理2013」(有効回答:292件)
を実施した。同調査で、現在主に利用しているワークフローベンダーを尋ねた結果、
IBM社(Notes/Domino)、Microsoft社 (SharePoint)、NEC(StarOffice21)な
ど、グループウェア上にワークフロー機能を構築している企業が多いことが明らかと
なった。また、これに次いで、ワークフロー専用製品の選択率を上回り、自社開発と
回答した企業が11.6%に上る点が注目される。また、今後の利用選択においても自社
開発は14.0%とさらに拡大している。
次に、構築・運用形態の視点からワークフロー機能の利用動向を見てみよう。同調
査において、将来(3年後程度)、すなわち2016年頃におけるワークフローツールの
望ましい利用形態についても尋ねた。昨今のSaaS、PaaS、IaaSといったクラウドの
台頭もあり、これらのパブリッククラウドやプライベートクラウドでの利用形態が理
想であるとした企業が、全体の約3分の2を占めている(図4)。クラウド利用の中で
は、ベンダー製のワークフローツールをパブリッククラウド上のサービスとして利用
するSaaSの利用を望む企業が16.4%と最多であるが、
そのほとんどは専門型簡易ワー
クフローおよびグループウェア/ECM系ワークフローの利用となるだろう。仮想化
された自社のデータセンター内のサーバ群から利用するプライベートクラウドでの
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利用は、パッケージ製品を載せて利用したい企業が20.2%、自社開発のワークフロー
ツールを載せたい企業が11.6%と、合わせて3割強という結果となった。
図4
将来(3年後程度)における望ましいワークフローツール利用形態
アプライアンス
1.7%
単体サーバ
/自社開発
8.2%
パブリック・クラウド
/SaaS
16.4%
プライベート・クラウド/
自社開発
11.6%
パブリック・クラウド
/IaaS
10.6%
単体サーバ/パッ
ケージ
23.6%
プライベート・クラウド/
パッケージ
20.2%
パブリック・クラウド
/PaaS
7.5%
出典:ITR「ITR User View:コンテンツ管理2013」を基に作成
残るパブリッククラウド形態であるPaaSとIaaSについては、自社開発とパッケー
ジのどちらを利用したいのかの判断に注意が必要であろう。図4では、青系の形態が
自社開発、赤系の形態がパッケージおよびパッケージを基にしたSaaSに色分けして
いる。まずPaaSであるが、2007年にsalesforce.com社が提唱した概念であり、
Platform as a Serviceの略語であることからも読み取れるように、プラットフォーム
自体をサービスとしてネットワーク経由で提供する形態である。プラットフォームと
は、アプリケーションを構築して稼動させるフレームワークを指しており、サーバOS
やデータベース、およびUI構築のためのライブラリなど開発・実行環境が含まれる。
すなわち、SaaSからアプリケーションを除き、ユーザーが独自のアプリケーション
を構築・運用するためのクラウド基盤といえる。よって、本来であればワークフロー
をPaaSで利用するということは、自社開発のワークフロー・アプリケーションを構
築・運用することを意味する。しかし、図2のベンダーシェアの動向で述べたNTTデー
タイントラマートのintra-mart Accel Platformには、開発・実行環境にワークフロー
/BPM関連機能やWebシステムの開発に求められる各種機能もコンポーネント群と
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してプラットフォームに含まれている。さらに、同社もAWS(Amazon Web Services)
などクラウド上で運用するケースにおいて同製品をPaaSと位置付けていることから、
Accel PlatformをパッケージまたはPaaSのいずれと認識しているかは不明である。一
方、IaaSは、基本的にはハードウェアおよび回線などのインフラが提供され、OSや
データベース、開発環境などはユーザー企業で用意するケースが多く、当然、ワーク
フロー機能もパッケージまたは自社開発したものをIaaSに載せて利用することにな
るが、本調査ではそのどちらを意図しているかは明確ではない。しかしながら、これ
らの自社開発かパッケージか不明確な利用形態を除いても、将来の望ましいワークフ
ローツールの利用形態は自社開発であると考えている企業が約20%存在し、このこと
は注目すべき点であろう。
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第3章
自社開発と高機能ワークフロー製品
大企業におけるワークフローは、国内企業特有の組織体系や複雑な承認フローに対応しつつ、さらに
システム連携や他システムへの機能の組み込みなど機能要件が複雑かつ拡大している。本章では、こ
の変革期を迎えるワークフローの基盤構築における現実解について考察する。
自社開発ワークフローにおけるプロセス連携と高機能ワークフロー
依然として自社開発がワークフロー構築の最適解と考えている企業が20%存在す
る理由として、これらの企業では、複数のシステム間の連携が必要となる業務プロセ
スが多く存在するため、専門型簡易ワークフローパッケージでは対応が困難であった
ことがあげられる。しかし、先に述べたとおり、近年では人による申請・承認プロセ
スが必要なワークフローだけでなく、その間のシステム間のプロセスも組み込み可能
な高機能ワークフロー製品も登場している。この高機能ワークフロー製品では、図5
に示したようなヒューマン系(申請・承認)ワークフローと各システムのタスクとが
連携するBPMが担うような業務プロセスとを横断したワークフローが実現できるよ
うになっている。
図5
高機能ワークフローにおけるワークフローとシステム連携例
ワークフロー
申請・承認 申
BPM
システム連携
承
見積
プロセス
顧客管理
システム
申
受発注
プロセス
承
増産プロセス
・・・
出荷プロセス
販売管理
システム
生産管理
システム
出典:ITR
高機能ワークフロー製品あるいはBPMを導入していない企業では、図5に示したよ
うなワークフローの各プロセスにおける業務システムとの連携は、個別に連携されて
いるケースが多く見受けられる。こうした企業において、散在する業務システムと
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ワークフローの連携・統合を実現するにあたり、BPMを検討するケースが見受けら
れるが、ライセンス費用が高額となるだけでなく、ほぼスクラッチでの開発を余儀な
くされることから、費用負担が重くなりすぎ、性能担保も難しくなるケースも少なく
ない。こうした中、BPMよりもラインセンス費用が安価なことに加えて、軽量なシ
ステム構成であることから、大規模な利用でも性能の担保が比較的容易であるなどの
特徴を持つ高機能ワークフロー製品のニーズが高まっている。
また、散在するワークフローを高機能ワークフロー製品により連携・統合していく
場合、段階的に高機能ワークフロー基盤上で稼働するフローを増やしていくケースも
少なくない。最初に高機能ワークフロー基盤に移行させるフローは、複数のシステム
と連携するプロセスであることが多い。次に前述のグループウェアや専門型簡易ワー
クフロー製品が担っている勤怠管理や経費精算などの申請系ワークフローを高機能
ワークフローと連携させ、最終的に高機能ワークフローの基盤に統合するなど、段階
的に適用範囲を拡張していくケースが多く見受けられる。
高機能ワークフロー展開の選択肢
現在、ワークフローの自社開発が最適解と捉えている企業において、ワークフロー
システムを刷新する場合、主に図6に示した3パターンが想定される。
オールスクラッチでの開発では、全てのワークフロー/BPM機能の要件を自由に
構築できるものの、開発コストが高額になるだけでなく、外部システムとの連携では
インフラのアップデート/バージョンアップや移行などで運用保守コストも大きな
負担になるであろう。一方、パッケージ製品および製品実装機能カスタマイズにおい
ては、コストは低くなるが、カスタマイズ・コストを抑えるために完全に高度な機能
要件を満たすことはできない。パッケージが有する機能とのフィット&ギャップから、
機能の実装レベルを下げたり、標準機能に合せたワークフローに業務プロセスの方を
変更したりするなど、機能実装範囲と実装レベルが制限されるケースも少なくない。
この2パターンの中間に位置するのが、ワークフローパッケージのワークフローエ
ンジンを核とした標準機能と、カスタマイズ、スクラッチ開発を組み合わせたコンビ
ネーションである。高機能化したワークフローパッケージの活用できるコアな機能は
そのまま、自社要件に満たない/妥協できない機能をスクラッチ開発するケースであ
る。パッケージをコアとしているため、スクラッチ開発の機能を追加できる知識やス
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キルを持ったSIベンダーは限られるが、機能、開発期間、コストのメリット/デメリッ
トのバランスから、このパターンが最適解となる企業は少なくないであろう。
図6
自社開発ワークフロー刷新の選択肢
ワークフローエンジンを活用した
スクラッチ開発
オールスクラッチ開発
ワークフロー
機能A
ワークフロー
機能B
ワークフロー
機能C
マルチデバイ
ス対応
フローA
プレゼンテーション/アプリケーション機能群
フローA
ルール
プレゼンテーション/アプリケーション機能群
マルチデバイス対応
マルチデバイス対応
フローB
フローC
ワークフローエンジン
フローB
ルール
エンジン
フローC
ワークフローパッケージを活用した
カスタマイズ開発
ワークフロー
設計
フローA
ワークフロー/
BPMエンジン
ルール
エンジン
システムC
システムA
システム連携
システムA
システムB
システムC
システムA
フローB
フローC
ワークフローエンジン
システムB
ワークフロー
設計
ワークフロー/
BPMエンジン
システム連携
システムB
システムC
リソースが許す限り自由
◎
リソースが許す限り自由
◎
アドオンで実装可能な範囲までが基本
△
要件に沿った実装
◎
標準、カスタマイズ、独自の組み合わせ
○
カスタマイズで実装可能なレベルまで
△
要件定義
ビジネスプロセスをゼロから定義
△
パッケージ機能とのフィット&ギャップ
○
パッケージ機能とのフィット&ギャップ
○
開発
個別にゼロから開発のため長期間
△
上記の取捨選択とスクラッチの中期
○
上記から取捨選択により短期間
○
導入
人的リソースなど開発コストは高い
△
パッケージと独自開発の中間的
○
主にライセンスとカスタマイズで低め
◎
運用
インフラアップデートなど個別対応
△
パッケージベンダー/SIベンダー対応
○
パッケージベンダー/SIベンダー対応
○
実装範囲
機能
実装レベル
構築期間
コスト
スクラッチ開発
パッケージ機能
カスタマイズ
実装レベル
出典:ITR
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提言
国内のワークフロー市場では、これまでワークフロー製品を未導入であった中小企
業における導入率の向上から、専門型簡易ワークフロー製品やこれらのクラウド版に
対する注目が高まっている。一方、すでにワークフロー製品による申請・承認系ワー
クフローや、業務システムと密に連携した自社開発ワークフローが散在している大企
業などにおいては、高度なプロセスルールを実装し、主要な業務システムとの連携機
能を備えた高機能ワークフロー製品への移行が進んでいる。実際、近年、富士電機の
ExchangeUSE 、 エ イ ト レ ッ ド の AgileWorks 、 NTT デ ー タ イ ン ト ラ マ ー ト の
Intra-mart Accel Platformといった高機能ワークフロー製品の売上げは拡大してお
り、国内ワークフロー市場をリードし続けている。
一方、自社開発でのワークフローを利用している企業は1割強存在し、さらに3年後
程度の近い将来の利用形態においても少なくとも約2割の企業が自社開発と考えてい
ることが、ユーザー調査結果から見て取れる。この背景として、これまでの簡易ワー
クフロー製品では、複雑かつ高度にさまざまな業務システムとの連携が求められる
ワークフローの構築が困難であると認識されていると考えられる。
BPMを未導入の大企業およびグローバル企業などで、複雑な申請・承認フロー、
かつ多様なシステムとの連携が必要なワークフローは、これまでのワークフロー基盤
を再度スクラッチで開発するか、ある程度の機能要件を妥協しても開発期間やコスト
を重視してプラットフォーム的な高機能ワークフロー製品に移行を検討するケース
が多いであろう。次期ワークフロー基盤の選択においては、自社開発とパッケージの
選択だけでなく、これらの中間に位置する、高機能ワークフロー製品のワークフロー
エンジンを核とした標準機能と自社要件に沿ったシステム連携および組み込みなど
のスクラッチ開発のコンビネーションという選択肢も加え、機能要件、開発期間、構
築・運用コストとのバランスを考慮し、自社に最適な構築・展開手法を検討・選定し
ていくことが望まれる。
分析: 三浦 竜樹
text by Tatsuki Miura
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2015年2月5日
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