公立八鹿病院の ALS ケアチーム

チームリハビリ
リハビリテーション部会
ation
Rehabilit
公立八鹿病院の ALS ケアチーム
公立八鹿病院
1.はじめに
副院長兼神経内科部長
近藤
清彦
養指導、訪問歯科衛生指導、訪問
存機能を活用していくこと、3)
薬剤指導と訪問活動を拡大し、現
障害があっても生きがいをもち、
420床の自治体立(養父市と香美
在は、年間1万7千件の訪問看護、
QOL(生活の質)の向上をはかっ
町)の総合病院で、地域の中核病
7千件の訪問リハビリを行ってい
ていくことを目的としている。
院の役割として急性期医療に加え
る。一方、1992年に老人保健施設、
て、回復期リハビリテーション病
2001年に兵庫県下で最初の回復期
病とされる筋萎縮性側索硬化症
棟、緩和ケア病棟、療養病棟、障
リハビリテーション病棟、2005年
(ALS)患者へのチームでの取り
害者病棟をもち、老人保健施設、
に障害者病棟、緩和ケア病棟、療
訪問看護ステーション、居宅介護
養病棟が開設された。地域医療課
支援事業所を併設し、保健・医療・
におけるソーシャルワーカーの活
福祉にわたる包括医療を実践して
動、介護保険のケアプランセンタ
ALS は運動神経細胞の変性に
いる。
ー、2000年に導入した音楽療法を
より手足の麻痺、発語・嚥下不能、
含め、これらが当院の福祉活動を
呼吸筋麻痺をきたす進行性の神経
なしている。
難病で、一般には四肢麻痺になっ
当院は兵庫県北部に位置する
当院では、超音波検診車による
地域住民の健診や人間ドックを通
して保健活動を行う一方、1980年
リハビリテーションは、1)機
ここでは、最も対応が困難な難
組みを紹介する。
2.ALS における諸問題
ても意識・知能が保たれる。国内
代前半に訪問看護を開始し、
以後、
能回復だけでなく機能を維持して
には約9,000人の療養者があり、
訪問リハビリテーション、訪問栄
寝たきりを予防すること、2)残
その約3割が人工呼吸器を使用し
ている。人工呼吸器装着を選択す
(表1)ALS ケアチーム各職種の役割
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保っていくことも重要な課題であ
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(105)
全自病協雑誌第53巻第1号
保、在宅支援体制、介護負担が問
題になる。また、人工呼吸器を装
着した後の生活における QOL を
ALS 患者における問題は、従
来、身体的問題、社会的問題、精
神的問題に分けられてきた。精神
的問題として、病初期には進行す
る病気に対しての不安が生じ、進
行すると球麻痺や上肢麻痺により
105
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(図1)毎日昼食時に管理栄養士がその日の献立を見
せ、その後、ミキサーにかけたものを胃瘻から
注入している。
(図2)当院における ALS 患者の支援体制
自分の言うことや気持ちが伝わら
ソーシャルワーカー、音楽療法士、
キサーにかけて胃瘻から注入して
ないことへの不安が生じる。寝た
生活支援員、臨床心理士からなる
いる(図1)。
きりとなり、介護を受ける生活に
ALS ケアチームが形成されてい
カンファレンスの対象者は、病
なったときに、自分自身が存在し
った(表1)。ケアチームのメン
名告知をする時期の患者、移動が
ていることの意味や価値を見失う
バーによるカンファレンスを月に
困難になった患者、気管切開の時
こともある。
1回開催し情報交換を行ってい
期が近い患者、退院準備中の患者、
る。このカンファレンスでは、当
在宅人工呼吸療法中の患者、終末
院が主としてかかわっている通
期ケアの時期の患者など種々の段
当院では、1990年から ALS 患
院、入院、在宅療養中の ALS 患
階の患者があり、これらを検討す
者の在宅人工呼吸療法に取り組ん
者(20∼30人)のそれぞれについ
ることでケアチームの新しいメン
。ALS 患者のケアにお
て、呼吸、栄養、コミュニケーシ
バーも ALS 患者の全経過を比較
いては、呼吸管理、栄養管理、コ
ョン、精神的ケア、介護負担の現
的短時間で理解することができる
ミュニケーション手段の確保に加
状と問題点を検討している。
ようになった。
3.当院の ALS ケア
できた
1-3)
え、本人の精神的ケア、介護者の
栄養管理を例にとると、手の麻
多専門職種からなる院内 ALS
痺で箸が持ちにくくなると作業療
ケアチームに加え、退院後の生活
在宅人工呼吸療法を行うために
法士が自助具を作成する。手を口
を支えるために、院外に健康福祉
必要な家族への指導項目は、人工
の高さまで挙げることが難しくな
事務所(保健所)を中心に、かか
呼吸器の使用方法、痰の吸引、胃
ると、上肢拳上が楽にできる機器
りつけ医、ヘルパー事業所、訪問
瘻からの栄養方法、リハビリ訓練
を導入する。嚥下が困難になると
看護ステーョン、デイサービスセ
の方法など多岐にわたる。これら
管理栄養士が食事形態を工夫し、
ンター、消防署救急隊、医療機器
への対応は、医師と看護師のみで
嚥下困難が進行し食事摂取量が減
業者など、地域の関係機関のネッ
は 困 難 で あ り、1990 年 に 院 内
少すると、消化器内科医に依頼し
トワークが組織され、2000年から
ALS ケアチームを組織した。必
胃瘻を造設する。胃瘻からの栄養
ケアマネジャーが加わった(図
要な職種に加わってもらった結
は既成の栄養食を使用することが
2)。1990年から退院前には、院
果、医 師、看 護 師(病 棟、外 来、
多いが、食の楽しみを味わっても
内 ALS ケアチームと院外関連機
訪問)
、理学療法士、作業療法士、
らうために、昼食のみ管理栄養士
関との合同カンファレンスを開催
言語聴覚士、管理栄養士、薬剤師、
がその日の献立を盆にのせた状態
している。この合同カンファレン
歯科衛生士、臨床工学技士、医療
で患者に見せて説明し、その後ミ
スでは、ALS の疾患説明、在宅人
ケアが重要である。
106
全自病協雑誌第53巻第1号
(106)
(図3)人工呼吸器を装着した ALS 患者のベッドサイ
ドでの音楽療法。音楽療法士によるキーボー
ド演奏と歌唱。
(図4)在宅人工呼吸療法中の ALS 患者宅での音楽療法の
様子。主治医もオートハープと歌で参加する。
工呼吸療法の説明、患者の病状と
要であると考えていたが、それら
は在宅でも音楽療法を実施した。
社会背景、
退院指導内容を説明し、
に加えて③心のケアが必要と考え
当院が中心となって在宅 ALS 患
在宅療養における問題点とその対
るようになり、2000年の音楽療法
者に対する訪問音楽療法プロジェ
策、在宅療養での役割分担、緊急
士採用を機に ALS 患者の音楽療
クトを関西と関東で立ち上げ、こ
時の対応などを検討した。介護保
法を開始した。音楽療法は、従来、
れまで延べ50名の ALS 患者に訪
険制度が始まってからは医療と介
発達障害児や精神科疾患、認知症、
問音楽療法を実施し、これらの経
護、福祉スタッフが一緒に集う会
ガン末期患者などを対象に行われ
験をもとに音楽療法士を対象とし
議が一般的になったが、1990年当
ており、神経疾患に対しては、パ
た「ALS 訪問音楽療法ガイドラ
時、
このような会議は新鮮だった。
ーキンソン病に対する運動機能改
イン」の冊子を作成した4)。
当院でこれまで呼吸不全に陥っ
善を目的に行われることがあった
た ALS 患者72名のうち63名が気
が、ALS 患者に対する音楽療法
管切開による人工呼吸器装着を行
は例がなかった。当院では、入院
護事業
い、うち、49名で在宅療養を含め
中の ALS 患者のベッドサイドに
人工呼吸器を装着した ALS 患
た療養生活を行うことができた。
電子ピアノを運んで音楽療法士が
者を病棟に多数受け入れるには多
全国的には気管切開による人工呼
演奏したり、ALS 患者宅への訪
くの困難がある。人工呼吸器管理
吸器装着を選ぶ ALS 患者は2割
問診察時に音楽療法士が同行し、
に対する緊張感と、ALS 患者で
前後と言われているが、当院では
キーボード演奏や歌唱を行っ
しばしば生じる頻回なナースコー
3)
5.チーム医療としての療養介
ほぼ9割の患者が気管切開による
た 。時に主治医も歌唱で参加し
ルへの対応や痰の吸引、体位交換
人工呼吸器装着を選択している。
ている(図3、4)。音楽療法は、
などが病棟スタッフにとって大き
これには、気管切開後に長期入院
患者の癒しや「生きる力」になる
な負担になる。これを解決するに
と在宅療養の両方を支える ALS
とともに、介護者への癒しにもな
はスタッフを増員するしかないと
ケアチームの存在が大きいと思わ
っている。さらに、音楽療法の場
考え、2011年に障害者病棟38床の
れる。
を通じて、診療所の医師や保健所
うちの20床に療養介護事業を導入
保健師、ケアマネージャーなど、
して生活支援員10名を新たに配置
支援スタッフの心をつなぎ、支援
した。このことで、夜勤者を1名、
ALS 患者のケアにおいて、①
者のネットワーク強化にも役立っ
昼間の勤務者を4∼5名増員でき
知識とケア技術、②在宅ケアシス
た。これまで、当院の ALS 患者
た。これまでは、病棟でケア可能
テムの二つが車の両輪のように重
25名に音楽療法を実施、うち12名
な人工呼吸器装着者数は同時に10
4.ALS 患者の音楽療法
(107)
全自病協雑誌第53巻第1号
107
(図5)障害者病棟の療養介護事業における生活支援。
名が限度であったが、療養介護事
によるだけでなく各職種ができる
(ALS)患者の在宅ケア、公立
業の導入により20名に拡大でき
ことを考え、提供し、患者からの
八鹿病院誌、13:1-10,2004
た。スタッフがベッドサイドにい
反応を直接受け取ることができる
2)近 藤 清 彦:神 経 難 病 の ケ ア
る時間が増えたことでナースコー
ことを重視している。
ALS 患者を支えるネットワー
ク、脳 と 神 経、58:653-659、
ルの回数が減少した。生活支援員
精神的問題としてあげられてい
が季節の行事を計画したり、散歩
る、
「生きている意味」を見失うこ
に出る回数が増加するなど、療養
とは、現在ではスピリチュアルな
3)近藤清彦:筋萎縮性側索硬化
生活における生活面への対応も強
問題としてとらえられている。四
症と音楽療法−在宅医療の立場
化できた(図5)
。
肢麻痺になり人工呼吸器を装着し
から−、神経内科、67:243-251、
ながら療養している ALS 患者さ
2007
6.ALS ケアおいて大切なこ
2006
んのケアにおいて、それぞれが自
4)近藤清彦編:ALS 訪問音楽療
と
職種の役割を遂行するなかで、
「生
法ガイドライン、厚生労働科学
当院での ALS ケアの取り組み
きていること」、「生きがい」につ
研究費補助金難治性疾患克服研
は目の前の患者さんに必要なサー
いて意識し、肉体的な生命(ビオ
究事業「特定疾患患者における
ビスを提供していくことから始ま
ス)だけでなく、精神的ないのち
生活の質(Quality of life, QOL)
って、必要とする専門職種が次々
(ゾエ)を支えるという視点を全
の向上に関する研究班」、2011
と参加するようになり、結果的に
職種が共通にもつことが重要と考
チーム医療の実践になった。チー
5)
えている 。
ムが先にあるのでなく、患者の問
5)近藤清彦:
「いのち」を支える
医 療、ド ク タ ー ズ マ ガ ジ ン、
題が先にあった。ひとつひとつの
文献
問題に対してそれぞれの専門職種
1)近藤清彦:公立八鹿病院にお
が役割を有すること、医師の指示
ける筋萎縮性側索硬化症
108
年3月
2011年3月号:2、2011
全自病協雑誌第53巻第1号
(108)