SURE: Shizuoka University REpository

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新たな磁気光学特性を有する窒化鉄薄膜の創製
髙橋, 正志
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2004-03-24
http://hdl.handle.net/10297/3715
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理工学研究科:高
0004502951 R
静岡大学博士論文
新たな磁気光学特性を有する
窒化鉄薄膜の創製
平成15年12月
大学院理工学研究科
物質科学専攻
高橋 正志
静岡大学博士論文
新たな磁気光学特性を有する
窒化鉄薄膜の創製
平成15年12月
大学院理工学研究科
物質科学専攻
高橋 正志
目次
2
3
4
′
L
U
7
0
0
0
1
0 0 0 0 3 4 ‘ U ′ 0 ′ 0
1 1 2 2 2 2 2
第3章 大気圧ハライドCVD法における窒化鉄薄膜成長プロセス
1
第2章 大気圧ハライドCVD法による窒化鉄薄膜の作製方法
2.1 装置の構成
2.2 装置概要
2.3 原料ガス供給分圧の計算方法
2.4 実験操作手順
2.4.1 基板洗浄
2.4.2 薄膜作製
1.1 はじめに
1.2 さまざまな金属窒化物
1.3 窒化鉄化合物
1.4 薄膜成長法
1.4.1 CVD法
1.4.2 PVD法
1.5 自動車産業における薄膜の応用
1.6 本論文の目的と構成
1
第1章 序論
31
ーFe3N薄膜の作製を通して一
3 3 3 3 3 3 3 つ J 3 4
l 1 2 3 3 4 7 7 00 2
3.1 序
3.2 鉄原料の選定
3.3 基板位置の選定
3.4 Fe3N薄膜の作製
3.4.1 成長速度の評価
3.4.2 Ⅹ線回折による評価
3.5 窒化鉄薄膜の成長プロセス
3.5.1 キャリアガスの効果
3・5.2 FeC13−NH3−N2系への水素ガスの導入
3.6 まとめ
4
4
第4章 大気圧ハライドCVD法による窒化鉄単結晶薄膜の作製 44
−熱力学解析手法によるアプローチと
Fe4N薄膜のエピタキシャル成長一
4.1
序
4
L
U
4
7
0
4
0
5
0
5
1
5
2
4
5
′
5
0
5
7
7
5
0
5
ノ
1
4.3.3 計算結果
4.3.4 成長温度による影響
4.3.5 原料ガス供給分圧による影響
4.3.6 原料ガス供給比による影響
4.3.7 熱力学解析のまとめ
4.4 Fe4N単結晶薄膜の作製
4.4.1 原料供給比の影響
4.4.2 成長温度の影響
4
4.3.2 反応系におけるパラメータの設定
′
3.1 Fe4N成長反応モデルの設定
4.
4.3
窒化鉄単結晶薄膜の選定
熱力学解析からのアプローチ
4
4.2
′
h
4.5 まとめ
U
第6章 Fe4N薄膜の磁気的性質と光学的性質
′ 0 ′ 0 ′ h U ′ 0 ′ 0 ‘ U 7
5.6 まとめ
3 3 3 7 00 9 2
第5章 大気圧ハライドCVD法により作製したFe4N薄膜の結晶性
5.1 序
5.2 Ⅹ線回折による評価
5.3 電子線回折による評価
5.4 薄膜の表面状態
5.5 薄膜の元素分析
75
ーオプトアジレント機能(新しい磁気光学特性)をもつFe4N−
6.1 序
6.2 磁気的性質
6.2.1 温度依存性
6.2.2 印加磁場方向依存性
6.3 光学的性質 −Fe4Nの磁気光学効果−
6.3.1 評価方法
6.3.2 外部磁場の印加に対する応答性
6.3.3 入射光の入射角度に対する影響
11
75
76
77
78
82
82
83
85
6.4 まとめ
O
l
1
3
3
7
0
ノ
0
ノ
0
l
0
l
0
第8章 総括
謝辞
本論文に関係する発表
iii
O ノ
7.5 まとめ
4 ′ 人 U
0 ノ 0 ノ ∩ フ 0 ノ 9 ∩ 7 0 ノ 0 ノ l
第7章 Fe4N薄膜の磁気光学特性の発現メカニズム
ー磁気カー効果、スピン構造、表面構造の観点から−
7.1 序
7.2 Fe4N薄膜の磁気カー効果(カー回転角・楕円率の測定)
7.2.1 磁気カー効果
7.2.2 磁気カー効果の測定方法
7.2.3 Fe4N薄膜のカー回転角・楕円率スペクトル
7.2.4 Fe4N薄膜の磁気光学特性と磁気カー効果
7.3 Fe4N薄膜の強磁性共鳴
7.3.1 Fe4N薄膜の強磁性共鳴スペクトル
7.3.2 結晶性による影響
7.4 磁区構造
‘U OO
OO 00
6.3.4 外部磁場の印加方向に対する影響
第1章
序論
1.1 はじめに
金属と窒素からなる物質に金属窒化物と呼ばれる仲間がある.この仲間は,
非常に硬いということが最大の特徴であり,その特徴を利用して幅広い分野で
実用化されている.筆者が携わっている自動車産業においても例外ではなく,
特にその機械的に優れた特性を利用して,耐久性,耐摩耗性などが要求される
ギヤ,シャフトなど構造部品を窒化処理することにより表面に窒化層を形成し
たり,さらには部品を切削するための工具や金型などの表面へのハードコーテ
ィングとしても応用されたりしている.その他にも装飾品の表面処理など,我々
の生活の中において身近にみることのできる材料である.
さらに,最近の研究によって,磁気特性や光学特性などの機能的な性質も有
していることがわかってきた.しかしながら,これらの性質はほんの一部であ
り,金属窒化物には未だ知られていない性質が隠されていると考えられている.
そして,それらの中には,21世紀の我々の生活をさらに豊かにしてくれる可能
性が秘められているであろう.
さて,この未知の可能性を秘めた金属窒化物は,どのように作られるのであ
ろうか・金属窒化物は,天然に存在することが非常に少なく,ほとんどが人工
的に作られている.そして,その製造方法には特殊な技術を必要とし,例えば
通常は酸素が存在しない高真空の状態を作り,その条件下で作製されてきた.
よって,高価な真空系装置や高価な原料が使用されるため,比較的コストの高
い材料となっていた.
本論文は,このような背景をふまえて,金属窒化物を簡単な方法で作製でき
る薄膜作製方法を開発すること,そして金属窒化物が持つ新しい性質を探索す
ることを目的として行った研究成果をまとめたものである.磁石としての性質
(磁性)を持つといわれながら,再現性良く作製することが特に困難な窒化鉄
を研究の対象材料とし,新しい窒化鉄薄膜の作製方法と,本研究で初めて明ら
かとなった窒化鉄薄膜の興味深い物性について研究した内容について述べる.
1.2 さまざまな金属窒化物
金属窒化物は,その物質,作製方法,作製条件などによって,物性が様々に
変化する興味深い材料である.例えば,電気物性の点においては,超伝導性を
示すNbN,金属性を示すTiN,半導体であるGaN,絶縁体であるSi3N4等,超伝
導から絶縁体まで幅広くその性質が変化する.一方,機械的強度である硬度の
点においては,比較的低硬度のZn3N2からダイヤモンドに次ぐ硬さのC−BN,更
にはコンピューターシュミュレーションによりダイヤモンドより硬い物質であ
る可能性が示されたβ−C3N4まで,やはり幅広く存在している.また,化学的な
点では,Si3N4の様な安定な物質からAg3Nの様に極めて爆発しやすい窒化物,
Li3Nの様に融点付近ではガラスや磁器,金属を腐食する反応性の高い窒化物ま
で存在する.最近では,電圧印加の有無により透過波長の変化するエレクトロ
クミック材料として注目されているSnNxなども研究されている[1,2].以上の多
様な物性から,窒化物は工業用器具の研磨剤や耐久性向上を目的としたコーテ
ィング材,半導体デバイス,発光ダイオード等の工業製品から,眼鏡のフレー
ムやスプーンの装飾材まで幅広く使用されており,現代の社会には欠くことの
出来ないものとなっている.
しかしながら,200種類存在すると予測されている窒化物のうち,合成され
たのは約20種類であり,さらに実用化されている窒化物はそのうち10種類程
度である.このように,未だ物性が明らかにされていない窒化物も多数存在し
ており,窒化物は様々な可能性を秘めていると言える.そして,それらは作製
2
プロセスの進歩と共に,今後明らかにされていくであろう.
1.3 窒化鉄化合物
窒化鉄が,自動車産業において,ギヤなどの表面硬化層として応用されている
ことは既に述べた.この窒化鉄は,実は非常に多くの化合物形態をとることが知ら
れており,代表的な組成としてFe2N,C−Fe3N−Fe2N,6−Fe3N,Fe4N,Fe16N2などが
挙げられる.Table1.1に代表的な窒化鉄の結晶系及び格子定数及び飽和磁化を示す
[3−10].更にFeNo.脚,Fe2No.78,FeN6,FeN9,Fe2N16などの組成も報告されているが,
その作製方法や物性については明らかにされていない.FeとNの組み合わせのみ
で,Fe2+,Fe3+の価数からかけ離れた組成が見受けられることは興味深い.
1もble1.1Crystal struCture,1attice constant and saturation
magnetizationofFeNxcompounds.
Saturation
Latticeconstant
FeNx CrystalstruCture
magnetization
(Å)
(em山g)
a=5.523
Fe2N
0rthorhombic
b=4.830
C=4.425
a=2.695
C−Fe3N
Hexagonal 123.3[3]
C=4.362
a=2.700
6−Fe3N−Fe2N Hexagonal
C=4.370
Fe4N
Cubic
a=3.795[4−7] 183.5[8]
Fe16N2 bct
a=5・72[9] 232[10]
C=6.29
3
窒化鉄は,古くから耐摩耗性[11]や耐食性[12−15]などに優れた材料として知
られてきた.なかでも,窒化鉄が研究対象として注目されてきたのは,磁性材
料としての期待が大きいことによる.窒化鉄薄膜の飽和磁化は純鉄の値2.15T
(tesla)を大きく上回ることが知られ,その磁気特性は窒化度に従って様々に変
化する特徴があることから,多くの研究がなされてきた[16−43].特に窒化鉄の
中でも最大の飽和磁化を有するFe16N2については,精力的に研究が進められて
きた[16−22].1972年KimとTbkahashiは,低真空N2雰囲気中でガラス基板上に
Feを蒸着し,室温における膜の飽和磁束密度が2.58Tであることを報告した[16].
この膜は,α−Fe(bcc)相とα”−martenSite(bct)相の二つの相から成る多結晶であり,
膜中の体積率からこの材料の飽和磁束密度を求めると 2.58Tになることを示し
た.室温で最も高い飽和磁束密度を持つ材料としてはFe−Co合金が知られてい
るがFe16N2の値はこれを大きく上回っている.近年では,KomuroらがMolecular
BeamEpitaxy(MBE)法を用い,Ino.2Gao.8As(100)上にFeのバッファ層を堆積さ
せることによりFe16N2単結晶膜の作製に成功し,2.8−3.OTの飽和磁化を報告した
[17,18】.
以上述べたように,窒化鉄は,その磁気的特性については研究が重ねられて
きた.しかしながら,その他の物性についてほとんど研究は行われておらず,
他の特性についても興味が持たれる.
1.4 薄膜成長法
結晶成長法は液相により行われるものと気相により行われるものに大別出
来る.ウエハ作製における引き上げ法などは前者にあたる.後者は薄膜状の高
品質結晶が必要とされる場合に適用される.気相成長法には,蒸気・凝集を利
用した物理的な方法と,化学反応を用いて製膜する化学的な方法がある[44−481.
前者をPhysicalVaporDeposition(PVD)法,後者をChemicalⅥlPOrDeposition
(CVD)法と呼ぶ.CVD法で蒸気を外部からのガスによって移動させる場合を
CVD一関管法,蒸気を密封容器内に閉じこめる場合を閉管法,あるいは気相移
4
動(ⅥporTransport;VT)法とも言う・また,成長基板の特定結晶面上に,その結
晶方位を受け継いだ結晶薄膜が成長する場合はⅦporPhaseEpitaxy(VPE)法と
呼ばれる.以下,代表的な6種の気相成長法にっいて簡単に述べる.また,気
相成長法の代表的な種類をFig.1.1に示す.
V apor D eposition
C hem icalV a
(
CVD)
ThermalCVD
HvdrideCVD
ClorideCVD
etc.
MOCVD
PlasmaCVD
etc.
PhysI●
CalV ap OrDeposition
VacuumEvaporation
ElectronBeam
MBE
Fig・1・l ClassincationoftheVaporDeposition・
5
1.4.1 CVD法
1.4.1.1 ハイドライドCVD法
ハイドライドCVD法では,V族の原料ガスとしてAsH3,PH3などの水素
化物が用いられる.Ⅲ族原料ガスは,Ⅲ族元素をHClなどのハロゲンガスと反
応させてハロゲン化合物の形で移動される.高純度な原料が容易に入手でき,
また,Ⅲ族金属が塩化物となる過程で純化の作用があるとされる.これら二点
による相乗効果により比較的容易に高純度な結晶が得られる.しかし,Al化合
物の形成を行った場合,Alが加熱された石英反応管に接触すると,石英は還元
され破損する.従って,Al化合物の形成は困難である.また,原料ガスが基板
に到達する前に析出することを防止するために反応管全体を加熱する必要があ
り,電力の消費が大きい.
1.4.1.2 クロライドCVD法
クロライドCVD法では,V族の原料ガスとしてAsC13,PC13などの塩化物が
用いられる.Ⅲ族原料ガスは,Ⅲ族元素をHClなどのハロゲンガスと反応させ
てハロゲン化合物の形で移動される.特徴はハイドライドCVD法と同様であ
る.
1.4.1.3 MO(MetalOrganic)CVD法
MOCVDは,Ⅲ族元素のアルキル化物(Al,Ga,Inのメチル化物,またはエ
チル化物等の金属有機物)と,V族元素の水素化物(NH3,AsH3,SbH3など)
を原料として用いる.Ⅲ族元素のアルキル化物はいずれも室温付近で比較的高
い蒸気圧を持つ液体であるので,キャリアガスを用いたバブリングにより容易
に気化される.また有機金属は200∼500℃の比較的低温度で熱分解するため,
基板のみを加熱することもある.また,原料ガスの混合により多元系材料の形
成が容易である.カーボン汚染などの問題も有してはいるが,非常に高品質な
成長膜が得られ,エピタキシャル成長の分野においては広く用いられている.
6
1.4.1.4 プラズマCVD法
プラズマCVD法は,原料気体をプラズマ状態にして,化学的に非常に活性
である励起分子・原子,イオン,ラジカルなどを作り出すことにより化学反応
を促進させ,基板上に薄膜を作製する方法である.この方法の大きな特徴は,
プラズマ状態のもとで化学的に活性なイオン,ラジカルを利用するため,低温
化が可能となり,熱的損傷の減少,基板物質との反応の抑制,非耐熱基板への
薄膜作製が可能となる.また,プラズマ励起状態が関与するため熱力学的には
通常困難だと考えられる反応や,反応が可能であっても成長速度が著しく遅い
反応における反応の促進が可能である.
1.4.2 PVD法
1.4.2.1 スパッタリング法
スパッタリング(Sputtering)法は,高エネルギーの粒子をターゲット(target)に
照射したときに,ターゲット構成原子が,ターゲット表面から放出される現象
を利用している.一般に,ターゲットと同じ材料を得る場合のスバッタでは,
放電用のガスとしてArなどの不活性ガスが用いられる.これに対して成膜室に
不活性ガスと酸素などの活性ガスを導入し,ターゲット物質とスバッタガス成
分との化合物薄膜を作製する,反応性スバッタ法もある.窒化鉄の作製におい
ては,N2ガスが用いられる.また,合金ターゲットをスバッタする場合には,
ターゲットの温度上昇による合金組成の拡散,基板での合金成分の再蒸発など
が無視できる範囲においては,ターゲットとほぼ同一の化学組成の成長膜が得
られる.
1・4・2・2 MBE(MolecularBeamEpitaxy)法
MBE法は,構成する各原子あるいは分子の蒸発ビームを作り,それを超高真
空中(10−101も汀以上)で基板上に集合させることにより,単結晶を製膜する方法で
ある・この方法では材料の供給源(セル)と成長が行われる基板が分離してい
るため,両者の間にシャッターやマスクをいれることや成長層に光や電子線を
7
照射することができる.このため,分子線の供給を瞬時にオンオフでき,また
成長速度をきわめて遅くすることができるので,組成やドーピングのプロファ
イルが原子オーダーで行え,急峻な結晶を作製できる.また,電子線の回折や
反射及び光反射などを用いて基板表面の状態を知る,その場観察(f〃−∫血)が可
能である.しかし,高真空装置を必要とするので装置の運転,保守には多大な
経験と浪費を要する.
1.5 自動車産業における薄膜の応用
自動車産業において,薄膜はどのようなところに応用されているのであろうか.
まず,耐摩耗性や耐久性などが要求される構造材料としての用途について述べ
る.自動車の製造段階においては,例えばFig.1.2に示すように,プレス,鋳造な
どの金型や切削工具などの表面に薄膜を形成し,耐久性を向上させている応用例が
ある.その薄膜材料としては,1.2節でも述べた金属窒化物が最もポピュラーであ
り,TiN,CtN,AIN,TiAINなどが挙げられる.これにより,多いものでは工具の寿
命が10倍以上も延び,生産性向上に繋がっていることから,現在では金型・工具
に広く適用されている.
一方,自動車や二輪車の部品としては,ピストンリング,シム,シフトフォー
ク,フロントフォークなど高い摺動特性が要求される機械部晶の一部に応用例があ
る.例えば,エンジンの動弁系部品であるシムの表面にTiN薄膜を形成したことで,
カムとの摩擦特性を改善し燃費が数%向上したという実用例があった.しかしなが
ら,これは一部の高性能車に限られたものであった.その理由としては,1.4節で
も説明したように,従来の薄膜形成はほとんどが真空系で行われているため,装
置・工程の複雑化,サイクルタイムが長いなど,高コストであることが第一に挙げ
られる.よって,薄膜は,付加される機能に対してのコストが高いという意識が依
然として強く,自動車部晶に広く適用されるには至っていない.近年,燃費に対す
る意識が急速に高まる中で,前述したような摺動部品への適用を再び検討しようと
する動きが見え始めてきた.このような動きは,金属窒化物などの従来材よりも摩
8
Manufacture
モー・’’− ̄、−t・占.;㌢
・Mold
・CuttlngtOOl
etc.
TaiheiTechnoServiceCo.,s
homepage
Mechanicalparts
ShiRfbrk
Pistonrlng
Frontfork
etc.
Electronicparts
KyowaMetalWorksCo.Ltd.’s
homepage
¶
.
.
.
.
・
・
闘
.
h
=
い
専
■春
蚕
Sensor
Displaydevice 一幸
(Semiconductordevice)姿圭雪
etc.
1『観象
11■み
Hamamatsu腫nicsK.K.,S
「、−㍉・・
Catalogue
Fig・1・2 Applicationofthinnlmsforautomobilesandmotorcycles・
擦特性の改善に有効と評されているDLC(DiamOnd−likeCafbon)薄膜などの登場に
より,さらに加速されている.しかし,機械部品としての用途が実車に広く適用さ
れるまでには,もう少し時間を要するであろう.
構造材料以外では,やはり機能性材料としての用途が多岐にわたっている.代
表的なものとしては,センサなどの半導体デバイスに薄膜技術が広く応用され,自
動車の電子部品として搭載されている[49−56].そして,その数は増加の一途をたど
っている・21世紀の自動車には,安全性,利便性・快適性,省資源・環境保全性
9
が要求されるといわれている.その実現のため,電子技術の面からは,車両のイン
テリジェント制御化,高度情報化が急速に展開されている.さらに,燃料電池車な
ど新動力源車両の登場により,今まさに次世代自動車が生まれつつある[57,58].そ
うした中で,各部品性能の発展を担う機能性材料への期待が高まっており,高性能
で,多機能な材料の開発が進んでいる.もちろん,車両に多くのデバイスを搭載す
るためには,各々の低コスト化は必須である.また,新しい技術を盛り込むため,
新しい機能を有する新規材料の登場も待ち望まれており,盛んに研究が進められて
いる.
1.6 本論文の目的と構成
エレクトロニクス部品など,機能性材料としての応用が盛んな分野において
は,薄膜作製技術が広く普及してきていることを述べてきた.今後,さらなる
自動車の高性能化のためには,1.5節で紹介したDLC薄膜が期待されるような
機械部品などにおいても,薄膜技術が採用される場面が増えてくるであろう.
そのためには,高性能と低コストを両立した薄膜作製技術の開発が望まれてい
る.本研究では,このような背景をふまえて,高品質な処理が可能な薄膜技術
が,より広い分野で実用化されることを望み,工業化しやすい薄膜作製技術の
研究を行う.
薄膜作製技術としては,工業化する際に大きなメリットになると考えられる
以下の4つの条件を挙げ,これらを満たす大気圧気相成長法について検討した.
(1) 大気圧下での薄膜作製
(2) 簡易な装置・工程
(3) 成長速度が速い(サイクルタイムが短い)
(4) 安価な原料
さて,窒化鉄材料は,その優れた機械特性からギヤなどへのハードコーティ
ングとして,自動車部晶を含めて幅広い分野に応用されていることは1.1節で既
10
に述べた.窒化鉄材料が優れている点はそれだけではなく,巨大な飽和磁化を
有するなど,機能性材料としてもポテンシャルが高い.よって,薄膜化するこ
とより次世代磁気デバイスへとしての応用が期待されており,窒化鉄薄膜の研
究が盛んに行われている.ここで,デバイスの高性能化のためには,結晶性の
高い薄膜を作製する必要があるが,窒化鉄の単結晶薄膜を作製することは非常
に困難である.従来,窒化鉄の薄膜化に関する研究は,主にスパッタリング法
[59−65],MBE法[66,67],プラズマCVDl68−71]法など,真空系での薄膜作製が
一般に行われてきた.これは,空気中に存在する酸素との反応を避けようとす
ることによるものであり,装置技術の進歩とともに,より高真空の状態で作製
されるようになってきていた.1もble1.2に,それぞれの成長方法の特徴を示す.
1もblel・2 TheconventionalgrowthmethodsappliedfortheFeNxnlms.
Growthrate
Method Atmosphere Sourcematerials
(いtll/h)
Sputterlng Highvacuum HighpureFe 0.15−1.3[59]
MBE
CVD
Ultrahighvacuum
HighpureFe
O.02[66]
Highvacuum Fe(C2H5)2
0.1−1[68]
従来の方法は真空系で処理されることから,大がかりな真空装置を必要とす
るばかりでなく,高価な原料や成長速度が遅いなど,比較的コストの高い製法
であった.こうした点が,工業化する上で問題となっていた.
本研究は,このように作製が困難である窒化鉄薄膜を,前述した大気圧気相
成長法により作製することを第1の目的とする.具体的には,鉄原料,窒素原
料として,それぞれ安価な塩化鉄,アンモニアを用い,両者をガス状態で反応
させることにより,窒化鉄薄膜を作製する.もちろん,作製するときの環境は,
11
真空状態ではなく,大気圧下でおこなう.これが実現できれば,実用化する上
でのメリットが大きく,コスト的にも有利である.また,1.2節でも述べたよう
に,窒化鉄は様々な化合物形態をとることから,各々の物性については未知の
部分が多い.このことも,実用化に向けての課題として挙げられる.よって,
この未知の要素を秘めた窒化鉄において,その特性を明らかにすることで,新
しい磁性薄膜材料としての可能性を見出すことを第2の目的とする.
本論文は,8章から構成されており,以下に各章の内容を簡単に示す.
第2章は,本研究の実験方法について述べており,大気圧下での薄膜気相成
長法として,本研究で採用した大気圧ハライドCVD法の装置構成および操作手
順を中心に説明する.本研究で使用した成膜装置は,市販されているものでは
なく,独自に開発した装置である.
第3章は,本研究の第1の目的である金属窒化物薄膜を簡単な方法で作製す
るということ目指し,大気圧ハライドCVD法により,大気圧下における窒化鉄
薄膜の作製について述べる.Fe3N薄膜の作製を通して,原料や基板位置などに
ついて検討し,大気圧ハライドCVD法における薄膜の成長プロセスについて,
キャリアガスの効果などを含めて詳細に検討する.
第4章は,本研究の第2の目的である窒化鉄の新しい性質の発見に向け,機
能性を追求し,大気圧ハライドCVD法による窒化鉄の単結晶薄膜の作製につい
て述べる.熱力学解析手法を取り入れた作製条件の予測を行い,単結晶薄膜作
製としては,単結晶基板上へのFe4N薄膜のエピタキシャル成長について検討す
る.
第5章は,第4章において大気圧ハライドCVD法により作製したFe4N薄膜
の結晶性について,詳細に評価した内容を述べる.Fe4N薄膜に対して,Ⅹ線回
折などによる結晶構造,元素分析,薄膜の表面性状について評価し,大気圧ハ
ライドCVD法により高品質な薄膜を作製することの実現性について検討する.
12
第6章は,大気圧ハライドCVD法により作製したFe4N単結晶薄膜の磁気的
性質,光学的性質について詳細に評価した内容を述べる.特に,光学的性質に
ついては,薄膜を反射した光の応答性が磁場によって変化するという,磁気光
学特性を新たに発見した.Fe4N薄膜が有する磁気光学特性について,詳細に検
討する.
第7章は,本研究で発見したFe4N薄膜の磁気光学効果について,その発現
メカニズムについて検討した内容を述べる.Fe4N薄膜の磁気カー効果,あるい
は磁場に対する磁気モーメントの挙動,薄膜の表面状態の変化と磁気光学効果
の挙動との関連について考察し,磁気光学効果の発現メカニズムについて検討
する.
第8章は,総括として,本研究で得られた成果についてまとめている.
13
参考文献
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17
第2章
大気圧ハライドCVD法による
窒化鉄薄膜の作製方法
2.1 装置の構成
薄膜作製は水平型石英反応管を用いて行った【1,2】.Fig.2.1に反応管概略図
を示す.反応管は,反応管本体,基板台ロッド,原料ボート,バッフルにより
構成されている.Fig.2.2に装置の系統概略図を示す.装置は,反応管の膜成長
部を加熱するための電気炉,原料部を加熱するためのリボンヒーター,ガス流
量を制御するための流量計,膜成長部及び原料部の加熱温度を制御するための
温度制御系,キャリアガス及び希釈ガス供給部により構成されている.基板台
ロッドは,通常は反応管後部に収納されている.膜成長時には基板台ロッド後
部に封入されている鉄心を磁石により磁化させ,基板台ロッドを電気炉内部ま
で移動させることにより基板の搬入を行う.また基板台ロッド収納部と排気部
には,原料ガスを吹き返しその侵入を防止する為のカウンターガスが設定され
ている.なお,排気部は管が二重構造となっており,堆積物が析出しても内部
の管のみ取り外すことにより簡単に堆積物の除去が出来る設計となっている.
ボンベと装置の接続には全てスウェージロックを用いた.フランジ接合部には
ゴムが挟み込んであり,接合部からのリークを防止している.Tbble2.1及びTbble
2.2に実験に用いた薬品及び装置組立に用いた部品の一覧を示す.
18
Tbble2・1Avarietyofmaterialsusedinthisstudy.
Materials Manufacturer Purityorsize
FeC13 WakoPureChemicalInd.,Ltd. 95%
Source
material
NH3gaS AirLiquidJapanLtd.
N2
ShizuokaIGSLtd.
99.9995%
Highpurlty
Carriergas
H2
AirLiquidJapanLtd・ Highpurlty
Comlng
ComlngCo.
10×10mm
7059
Substrate
10×10mm
MgO(100) EarthChemicalCo.,Ltd.
Polished
19
Tbble2・2 AvarietyofcomponentstobuildtheCVDset−uPuSedinthisstudy・
Components
Mnufacturer
Type
Thermocontroller
TbhoElectronicsInc.
TTM−100
S.S.R.
OmronCo.
G3NA−210B
KqiimaInstrumentSInc.
RK1200
Flowmeter
(Konok)
Thermocouple
MasudaCo.
K316
Ribbonheater
MasudaCo.
FHU
Heater
Asahi−rikaCo.
ARf−50K,700W
Slideresister
TbkyoRikosyaLtd.
RSA−10
N2:GS1−2506−M
N2,H2:%takaEnglneerlngCo.
H2:FR−IIS−OP
Regulator
NH3:Tbkachiho−ShqjiCo.
NH3:US316L
SS−200−1−4−RT
Swagelok
SwagelokCo.
SS−200−1−2−RT
SS−8M0−7−2
PFAtube
SwagelokCo.
20
PFA−T2−030
・LpnlSStqlu=)aSnJOl〇tZaJaqlJOtut2J富里p〇!11,ua甲S t・Z・君!d
叩Oq〇〇JnOS aⅢnq
Fig・2・2 Schematicdiagramoftheset−uPuSedinthisstudy・
2.2 装置概要
Fig.2.3にハライドCVD法における薄膜成長概念図を示す.原料ボートに入
れられた塩化物原料を条件下の蒸気圧に到達するまでリボンヒーターにより加
熱し,気化した原料をキャリアガスにより基板上に供給する.原料ガス吹き出
し口は円錐形に絞っており,基板上に集中的に塩化物原料を供給できる設計と
なっている.塩化物原料を供給すると同時に,NH3ガスを基板に吹き付けるよ
うにして供給する.以上の操作により塩化物原料とNH3ガスが反応し,基板上
に窒化鉄薄膜が成長する.なお,装置内のガス全流量は希釈ガスにより任意に
制御可能である.
FeC13
NH3/N2
glassrod substrate
Fig・2・3 Schematicdiagramofthereactorusedinthisstudy・
23
2.3 原料ガス供給分圧の計算方法
窒化鉄薄膜作製において,原料ガス供給分圧の制御は非常に重要である.
そこで,供給分圧の計算方法について記述する.原料ガスの供給分圧は,原料
の飽和蒸気圧,全流量(全キャリアガス流量+全希釈ガス流量),原料のキャリ
アガスの流量により,以下の式により計算される.
顆:原料ガス供給分圧
P∫:原料ガスの飽和蒸気圧
托:原料キャリアガスの流量
乃:全流量
ft
顆=P∫×−
乃
(2.1)
また,塩化鉄原料であるFeC12及びFeC13の飽和蒸気圧は,それぞれ以下の式
で表される【1].
−10901
log葦。。12= r+273.15 −2.8310g(r+273.15)+17.819−10g(1.10325) (2.2)
−8141
log葦。。1、=
r+273.15
ー3.8010g(r+273.15)+21.45トlog(1.10325) (2.3)
PFeC12,PFeCl,:(atm), T:(OC)
(2.2)および(2.3)式をもとに導き出されたFeC12およびFeC13の飽和蒸気
圧曲線をそれぞれFig.2.4およびFig.2.5に示す.
24
・
5
6
︵∈一三巴コSS巴dJOdd>
7
8
/
9
1
11
250 300 350 400 450
Temperature PC)
Fig・2・4 AplotoftheFeC12Saturatedvaporpressureasafunctionofthe
temPeratuTか
■ ■
0 0
5 /hU
︵∈︼ヱ巴コSS巴dJOd蒋>
150 200 250 300 350
Temperature(Oc)
Fig・2・5 AplotoftheFeCl3Saturatedvaporpressureasafunctionofthe
temperature・
25
2.4 実験操作手順
本研究において,大気圧ハライドCVD法により,薄膜作製を行った手順を
以下に示す.
2.4.1 基板洗浄
(1)基板をビーカーに移した.
(2)ビーカーに蒸留水と適量の洗剤を投入し,約10分間超音波洗浄を行った.
(3)アセトンを注ぎ10分間超音波洗浄を行った.
(4)蒸留水を廃棄し,ビーカー内が泡立たなくなるまで蒸留水を用いて洗浄
した.
(5)アセトンを廃棄し,エタノールにより10分間超音波洗浄を行った.
(6)基板をビーカーより取り出し,エアブローにより乾燥させた.
2.4.2 薄膜作製
2.4.2.1 装置立ち上げ
(l)ドラフトをONにした.
(2)装置排気部のパスに締め付けてあったコックを取り外し,パスを開放し
た.
(3)N2ボンベの2次圧を1.0kgfycm2とした.
(4)リークチェックを行うため,全流量計の流量を各々の流量計の最低値に
設定した.バブリング用三角フラスコに所定量の水を注ぎ,リークチェ
ックを行った.
(5)三角フラスコの水がバブリングしていることを確認した.
(6)基板台ロッドを引き出し,基板を基板台に載せた.
(7)ロッドを収納し,フランジ部を按合した.
26
2.4.2.2 温度設定
(1)電気炉を閉じ,熱電対を装着した.
(2)リボンヒーター,熱電対のコンセントをそれぞれ電源に接続した.
(3)電気炉の温度を設定し,電気炉の温度が300℃に達した時点でリボンヒ
一夕の昇温を開始した.
2.4.2.3 流量設定
(1)基板が電気炉内の所定の位置になるよう,基板ロッドを挿入した.
(2)バブリングの確認を行った.
(3)流量調整直後は流量が不安定であるため,電気炉及びリボンヒーターの
温度が設定値となる約10分前から実験流量に調整し始めた.
2.4.2.4 成長開始
2次圧 1次圧
(1)バルブ③を閉じ,バルブ①,②及びNH3
流量計のダイヤルを開放し,NH3パス
内のN2を全て排出した.
(2)NH3の流量計のダイヤル,バルブ①,
②,を全閉にし,ヘッドを開放する.
(3)2次圧が0.2kg批m2となるようにバルブ
②を開放した.
(4)バルブ①を解放し,NH3の流量計を実験条件の流量に設定した.
2.4.2.5 成長終了
(1)薄膜の成長終了と同時に,ロッドを電気炉外に引き出した.
(2)NH3ボンベのヘッドを全閉とした.
(3)電気炉,及びリボンヒーターの温度を0℃に設定した.常に電気炉より
もリボンヒーターの方が低温となるように注意した.
27
2.4.2.6 パージ
NH3は液化状態でボンベ内に封入されているため,実験により液化状態の
NH3がレギュレーター内部に残ると,レギュレーターを腐食させるおそれがあ
る.その防止策として,実験後はレギュレーターのパス部分を加熱することに
よりNH3を気化させ,完全に除去した.
(1)NH3ボンベのヘッドを全閉にした.
(2)NH3ボンベの1次圧,2次圧,NH3の流量計の値が共に0になったことを
確認した.
(3)バルブ①を全閉にした.
(4)NH3ボンベのバルブ③を開放し,2次圧を1.0kgf/cm2とした.バルブ③
を全閉し,バルブ①を開放した.2次圧とNH3の流量計の目盛りが共に
0 となるまで,ヘッドとバルブ②の間のパスをドライヤーで加熱した.
(2)(3)(4)の操作を約10回繰り返した.
(5)バルブ①,③を解放した.
(6)電気炉の温度が3000C以下かつリボンヒーターの温度が1000C以下とな
った時点で電気炉を開放した.
2.4.2.7 反応管1次清掃(堆積物除去)
(1)反応管が室温程度まで冷却されたことを確認した後,バブリングの水を
新しい水に交換した(排気NH3が溶解したため).
(2)アルコールなどにより,反応管内壁の堆積物をふき取った.この際,反
応管内壁を損傷しないよう注意した.
2.4.2.8 反応管2次清掃(気相エッチング)
石英管内に堆積した窒化鉄膜は,アルコールを用いた通常の除去作業では完
全に除去することは不可能であった.そこで,膜成長で用いたFeC13をH2雰囲
気中で加熱することによりHClを合成し,そのHClによる気相エッチングによ
り堆積物の除去を行った.
28
(1)水素ガスのヘッドを全開にし,2次圧を1.0kgf/cm2に調節した.
(2)全流量計の流量を各々の流量計の最低値に設定した.
(3)バブリングしていることを確認した後,系内を完全に水素に置換するた
めに約1時間放置した.
(4)2.4.2.2と同じ要領でリボンヒーター及び電気炉の昇温を開始した.
(5)電気炉の温度が8000Cに達した後,流量計の目盛りを気相エッチング用
の流量に設定した.
(6)気相エッチングを約1時間行った.
(7)その後冷却を行い,キャリアガスをN2に切り替え2.4.2.7と同じ要領で
堆積物を取り除いた.
2.4.2.9 終了操作
(1)全流量計の流量を流量計の最低値に設定した後20分間放置し,系内を
N2に置換した.
(2)レギュレーターのストップハンドル,圧力調製ハンドル,ボンベのヘッ
ドの順に全閉し,その後全流量計を全閉にした.
(3)装置排気部のパスをコックにより閉じた.
(4)レギュレーターのストップハンドル,原料部キャリアガスの流量計を開
放し,ストップハンドルと圧力調製ハンドル間に残存しているN2を装置
内に導入することにより,装置内部をN2雰囲気にした.
(5)ストップハンドル,流量計を全閉にした.
(6)バブリング用の水を廃棄し,ドラフトのスイッチをOFFにした.
以上が一連の操作手順である.
29
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30
第3章
窒化鉄薄膜の成長プロセス
−Fe3N薄膜の作製を通して−
3.1 序
本章では,本研究の目的の一つである金属窒化物薄膜を簡単な方法で作製す
るということ目指した,大気圧ハライドCVD法を用いることにより,大気圧下
における窒化鉄薄膜の作製について記述する.これまでにも,CVD法による窒
化鉄薄膜の作製に関する研究が報告されているが,大気圧下での作製はほとん
どみられない[1−6].前半では,塩化鉄とNH3を原料とした大気圧ハライドCVD
法により,原料や基板位置の選定を行いつつFe3N単相薄膜を作製,後半では,
大気圧ハライドCVD法における薄膜の成長プロセスについて,キャリアガスの
効果などについて述べる.
3.2 鉄原料の選定
本研究では,鉄原料として,安価で速い成長速度が期待できる塩化物原料を
用いて窒化鉄薄膜の作製を行った.塩化鉄はFeCl,FeC12,FeC13等が挙げられ
るが,通常安定な状態で入手可能な塩化鉄はFeC12及びFeC13である.よって,
鉄原料としてFeC12及びFeC13を使用した.窒素原料としてはNH3を用いた.
最初に,FeC12を用いて窒化鉄薄膜の作製を試みたところ,堆積物は認めら
れなかった.次に,FeC13を用いたところ,Tbble3.1に示す条件において窒化鉄
31
が堆積することが確認された.FeC13加熱温度は2500C とした.以下,
FeC13−NH3−N2系における窒化鉄薄膜の作製について検討する.
Tbble3.1AtypICalgrowthconditionofFeNxmm.
Substrate
Comlng7059
Growthtemperature(OC) 650
FeC13partialpressure(atm) 6.2×10 ̄6
NH3partialpressure(atm) 1.0×10 ̄l
V/Ⅷ 1.6×104
Tbtalnowrate(cm3・min−1) 840
Carriergas
N2
Growthtime(min) 60
3.3 基板位置の選定
FeC13ガスとNH3ガスが合流した後,基板表面に到達するまでに要する時間
は,ガス流速が一定の場合,NH3吹き出し口から基板位置までの距離によって
決定される.従って,原料ガスの混合・反応に与えられる時間は基板位置によ
り決まり,基板への堆積物の状態は基板位置により変化すると推測される.そ
こで,基板の最適位置について検討した.
基板台ロッドを,基板をセットせずに電気炉最奥部まで挿入し,ロッドに析
出する堆積物の状態を観察することにより基板位置の決定を行った.その結果,
堆積物はNH3吹き出し口の直下より20mm下流において,最も均一に析出する
ことがわかった.よって,本研究における基板標準位置はNH3吹き出し口の直
下より20mm下流とした.
32
3.4 Fe3N薄膜の作製
3.4.1 成長速度の評価
一般的に,気体の分圧とモル数は比例することから,CVDにおける原料供給
量は,原料供給分圧によって制御することが可能である.そこで,FeC13供給分
圧が成長速度に及ぼす影響について検討した[7].いずれの実験においても,
PH3]/lFeC13](NH3供給分圧と FeC13供給分圧の比:以後V/Ⅷ比と表す)は
1.6×104,成長温度は6500C,使用基板はガラス基板であるコーニング7059とし
た.詳細な条件をrhble3.2に示す.
1bble3.2 GrowthconditionsofFe3Nnlms.
Substrate
Comlng7059
Growthtemperature(OC) 650
FeC13Partialpressure(atm) 2.0×10.6−1.2×10.5
V/Ⅷ 1.6×104
Tbtalnowrate(cm3・min−1) 600
Carriergas
N2
Growthtime(min) 60
成長膜厚は,SEMによる薄膜の断面観察にから測定し,その結果を基に成長
速度を算出した.測定結果をFig.3.1に示す.最大成長速度は,FeC13供給分圧
1.2×10−5atmにおいて11.5pm仙となり,従来報告されてきたMOCVDやMBEの
成長速度(職blel.5.1参照)と比較し100倍以上速いことがわかった.膜成長速度
は,FeC13供給分圧2・0×10−6atmから1・2×10−5atmまでの変化に対し,1.5pm/hか
ら11.5pm仇まで増加しており,本研究においてNH3−FeC13−N2系では物質輸送律
速であることが明らかとなった.
33
︵エ\∈ユ︶UJ巴古きOJU
0
l
ー6
5 10
[×101
1nputpartialpressureofFeC13(atm)
Fig.3.1ThegrowthrateofFe3Nnlmsasafunctionoftheinputpartial
PreSSureOfFeC13.
3.4.2 Ⅹ線回折による評価
原料供給量が成長膜の組成に与える影響を調べるため,XRDによる成長膜の
同定を行った.なおX線回折装置は理学電機製RADII−B型を用い,30kV,20mA
で測定した.X線源はCuKα線を用いた.なお,Kαlの波長が1.5405Å,Kα2の
波長が1.5443Åである.
Fig.3.2に本実験で得られた典型的なXmパターンを示す.本実験では,
JCPDSl8]のみでの同定は困難であったた.よって,これまでに報告された窒化
鉄のXRD測定結果[9,10]も参考にした.その結果,観察された回折ピークは全
て6−Fe3Nに帰属されると推定した.また,測定回折角15∼850においては,ピー
ク位置,ピーク強度比共にJCPDSに報告されている6−Fe3Nの測定結果と一致し
34
︵sJでコ.qJ王宮suOーuI
20
40
60
80
20(degree)
Fig・3・2 TheXRDpattemOfarepresentativeE−Fe3Nnlmdepositedona
glasssubstrate.
た.以上のことから6−Fe3N単一相が成長しているとことがわかった.
また,原料供給量の変化に対するXmパターンの変化をFig.3.3に示す.図
中の数字は職ble3.1に示した成長条件における原料供給量を1と定義した場合
の相対的な原料供給量を表している.原料供給量と膜の組成に着目すると,1/3
から2においては6−Fe3N単一相が成長していることがわかる.Xm測定におけ
るピーク位置は,原料供給量が2から1/3に減少するのに伴い,6−Fe3N(002)のピ
ーク強度は減少し,6−Fe3N(101)のピーク強度は増加している.その結果,1/3で
は2と比較し,(002)と(101)のピーク強度比が逆転していることがわかる.1/4
から1/10にかけては6−Fe3Nだけでなく,Fe4N(200),α−Feの成長も確認できる.
35
Fe4N(200)の回折ピークは1/4において強度が最大となった.Fe4Nの生成が認め
られた事実は,使用基板などの変更により Fe4N単一相の成長,もしくはFe4N
のエピタキシャル成長実現の可能性を示唆している.これについては第4章に
て検討する.
●:6−Fe3N
△:Fe4N
田:α−Fe
l l l l l
●
2
●
3 /2
● ● ︵−竃n.q阜こ首uOーul
邑 テ
● 昏 こ ● こ !
1 /2 L
曹 ● !
告 こ ● ぎ
じ ●
−
′
■
■
ヽ 疇
くつ
岩
宮
●
●
曹
1
●
●
ユ ⊥
ぎ こ ● ! ● 曹 ●
● t ● ●
●
1 /3
●
● 1 ′4
1
●
● △
ロ D 1 /5 ● △ 曹
田 田
口 ロ
●
田 ●
△
l l l l l
30 40 50 60 70 80
20(de許ee)
Fig.3.3 XRDpattemSOftheFeNxmmsgrownatvariousamountofthe
[NH3]/lFeCl3]ratio. Numeralsin the ngure denote the
([NH,]/lFeCl,])/(1.6×104)ratio.
36
3.5 窒化鉄薄膜の成長プロセス
これまでに,様々な方法を用いた窒化鉄の作製が報告されているが,その評
価は物性や機能に関するものがほとんどであった.窒化物では,InN薄膜[11,12]
およびGaN薄膜[13]のVPE法による作製において,その物性だけではなくキャ
リアガスの効果という観点から成長プロセスについて報告された例がある.し
かしながら,窒化鉄薄膜の気相成長法において,その成長プロセスについて検
討された報告例はない.そこで本研究では,窒化鉄薄膜の成長プロセスを明ら
かにするため,出発原料とキャリアガスの組み合わせによる影響について検討
した.
3.5.1 キャリアガスの効果
通常,キャリアガスとしては不活性ガスであるN2を用い,FeC13−NH3−N2系に
おいて窒化鉄薄膜の作製が行われている.しかし本章では,キャリアガスの効
果について検討するため,新たにH2を用いた.鉄原料としてはFeC13及びFeC12
を用いた.そして,NH3,鉄原料,キャリアガスを組み合わせ,FeC13−NH3−N2
系,FeC13−NH3−H2系,FeC12−NH3−N2系,FeC12−NH3−H2系について膜の成長を行
い,膜成長の有無を確認した.その結果を「hble3.3に示す.
Tbble3・3 CombinationofthestartlngmaterialsfortheFeNxn1mgrowth・
FeNxmm
Ironsource Nitrogensource Carriergas
growth
FeC13
FeC13
FeC12
FeC12
37
FeC13−NH3−H2系,FeC12−NH3−N2系,FeC12−NH3−H2系において堆積物は全く認
められず,FeC13−NH3−N2系においてのみ非常に速い成長速度を有する6−Fe3N膜
の成長が確認された.FeC12−NH3−N2系,FeC12−NH3−H2系では堆積物が認められ
なかったことから,FeC12はFeC13と比較してNH3に対する反応性が非常に低く,
鉄原料としてはFeC13が,キャリアガスとしてはN2ガス(希ガス)が適してい
ることが示唆された.Fig.3.4に反応の概略を示す.
FeC13−NH3−H2系では,堆積物が認められなかった.このことから,FeC13が
H2によりFeC12に還元されNH3との反応性が低下したと思われる.FeC13とNH3
の反応では,FeC13からCl原子が脱離し,FeC12に還元された後にNH3と反応し
ている可能性は小さい.これは,前述のようにFeC12とNH3の反応性が低いこと
による.したがって,FeCl3とNH3の前駆体(FeC13・NH3)を経由して,窒化鉄
が成長していると推測される.なお,同様の報告がInN薄膜およびGaN薄膜の
作製においても報告されている[11−13].
3.5.2 FeC13−NH3−N2系への水素ガスの導入
3.5.1節において,キャリアガスにH2を用いることによりFeC13がFeC12に還
元され,NH3との反応性が著しく低下し膜成長が起こらないこと,また,FeC12
とNH3の反応性が極めて低いことから,膜成長時には前駆体(FeC13・NH3)を
経由していると推測されることを述べた.これらを検証する為に,FeC13−NH3−N2
系にH2を混入し,混入率による膜成長速度の変化について検討した.H2はFig3.5
に示すように,NH3及びN2キャリアガスと共に基板上に吹き付ける様にして供
給した.成長温度は6500C,PH3]/lFeC13]は1.6×104である.なお,
([H2]/(【H2]+P2]+PH3]))×100をH2導入率とする・
38
Fig・3・4 AproposedgrowthprocessmodelfortheFeNxnlmformationby
atmospheric−PreSSurehalideCVD.
39
FeCll
Fig.3.5111ustration ofthe set−uP uSedforthe experiments carried out
underN2/H2gaSflowlngatmOSPhere.
Fig3.6に成長速度とH2導入率の関係について示した.H2導入率100%では,
全キャリアガスをH2とした.H2導入率の増加に伴い成長速度が急激に減少して
いることがわかる.また,H2導入率0%から3%におけるグラフの傾きは大きく,
それ以上の導入率においては徐々に傾きは小さくなっていることがわかる.こ
れより,系内に存在する水素が僅かであっても成長速度に対して,非常に大き
な影響を与えることが明らかとなった.系内への水素の導入による成長速度の
低下は,Fig.3.4のFeC13−NH3−H2Systemにおいて示した様に,水素によってFeC13
がFeC12へ還元された結果であると考えられる.系内のH2の増加に伴い,NH3
との反応性が極めて低いFeC12が増加し,その結果,H2の増加と共に膜の成長速
度が低下したと考えられる.また,わずかなH2導入率においても成長速度の低
下が著しいことから,以下に示す(3.1)式の平衡定数は非常に大きいと考えら
れる.
2FeC13+H2 ∼ 2FeCl2+2HCI
FeC12+H2 ∼ FeCl+2HC1
2FeCl+H2∼ 2Fe+2HCl
40
(3.2)式に示すFeClの生成については,FeClは通常では存在し得ない物質
であることから,起こり得ないと考えられる.また,反応式(3.3)に示すFeの
生成については,FeC13がFeにまで還元されているならば,XRD測定によりFe
のピークが検出されるはずであるが,Feのピークは全く確認されていないこと
から,起こり得ないと考えられる.以上より,3.5.1.1節でも述べた様に,窒化
鉄成長時にはFeC13が還元された後にNH3と反応するのではなく,FeC13とNH3
の前駆体(FeC13・NH3)が形成され,それが窒化鉄薄膜の成長に寄与している
ものと考えられる.
′0
5
︵彗星︶0−巴上盲OJU
20
×100 (%)
lH2]+[N2]+[NH3]
Fig.3.6 Thegrowthrateofthes−Fe3NnlmsintheFeC13−NH3−N2
SyStem・
41
3.6 まとめ
塩化鉄とNH3を原料とした大気圧ハライドCVD法において,窒化鉄薄膜の
成長プロセスについて検討した結果,以下のような結論を得た.
(1)FeC13とNH3を原料とした大気圧ハライドCVD法により,大気圧下にお
いて6−Fe3N単相薄膜を作製することができた.
(2)大気圧ハライドCVD法におけるC−Fe3N単相薄膜の成長は,物質輸送律
速である.
(3)FeC13−NH3−N2系,FeC13−NH3−H2系,FeCl2−NH3−N2系,FeC12−NH3−H2系に
おいて膜成長を試みた結果,FeC13−NH3−N2系のみに膜の成長を確認した.
(4)キャリアガスの効果については,FeC13−NH3−N2系にH2を混入したところ,
その混入率の増加に伴い膜成長速度は減少した.
(5)FeC12とNH3の反応性は極めて低いことより,FeC13は自身の分解後にNH3
と反応するのではなく,前駆体(FeC13・NH3)を形成した後,窒化鉄とし
て成長すると考えられる.
(6)大気圧ハライドCVD法は,従来の薄膜作製法と比較して,成長速度が
10倍以上大きいことがわかった.また,原料としたFeCl3,NH3は,従
来の薄膜作製方法で使用する原料と比較して非常に安価である.よって,
本研究の目的の一つである窒化鉄薄膜を簡単な方法で作製するというこ
とを実現できたと考える.
42
参考文献
[1] H・Hunakubo,N・Ikeda,K・ShinozakiandN.Mizutani,J.Ceram.Soc.Jpn.,
7(1993)714.
[2] H・Hunakubo,N.Ikeda,N.Mizutani and M.Kato,J.Mater.Sci.Lett.,
7(1988)851.
[3] H・Hunakubo,N・Ikeda,K・ShinozakiandN.Mizutani,J.Ceram.Soc.Jpn.,
101(1993)733.
[4]I・NakataniaandT・Furubayashi,J.Magn.Magn.Mater.,85(1990)11.
[5]J・L・Li,T・J・0’KeeftandW・J.James,Mater.Sci.Eng.B SlidStateAdv.
Ttchnol.,B15(1992)203.
[6] T・Tbnaka,E・Fqjita,M.Tbkahashi,T.Ⅵねkiyama,W.OhtaandM.Kinoshita,
IEEETrans.J.Magn.Jpn.,7(1992)135.
[7] N・Tbkahashi,YTbda,A・IshibashiandT.Nakamura,Mater.Chem.Phys.,65,
113(2000).
[8]JCPDSFileNo.1−1236(1990).
[9] R・N・PandaandN.S.G亘ibhiye:IEEETRANSACTIONSONMAGNETICS,
34,2(1998)542.
[10]R・N・PandaandN.S.G亘ibhiye:J.Appl.Phys.81(1997)335.
[11]N・Tbkahashi,J・OgasawaraandA.Koukitu:J.CrystalGrowth,172(1997)298.
[12]N・Tbkahashi,R・Matumoto,A・Koukitu and H.Seki:J.Crystal Growth,
189(1998)37.
[13]N・Tbkahashi,R・Matumoto,A・Koukituand H.Seki:Jpn.J.Appl.Phys.
36(1997)601.
43
第4章
大気圧ハライドCVD法による
窒化鉄単結晶薄膜の作製
一熱力学解析手法によるアプローチと
Fe4N薄膜のエピタキシャル成長−
4.1 序
第3章で,大気圧ハライドCVD法を用いることにより,大気圧下において
窒化鉄(6−Fe3N)薄膜の作製を実現するとともに,その成長プロセスを明らかに
した.その結果,本研究の第1の目的である窒化鉄薄膜を簡単な方法で作製す
るということが達成できた.本章以降では,第2の目的である金属窒化物の新
しい性質の発見に向けて機能性を追求し,窒化鉄の単結晶薄膜の作製を試みる.
4.2 窒化鉄単結晶薄膜の選定
単結晶薄膜を作製するための典型的な手法として,エピタキシャル成長が用
いられる.6−Fe3Nのエピタキシャル成長を目標とした場合,C−Fe3Nは六方晶系
に属し同様の結晶系に属す基板としてはα−A1203,α−SiC,ZnO等が挙げられるが,
格子不整合度は各々43.37,12.55,17.07%といずれも大きく,6−Fe3Nをエピタキ
シャル成長させることは困難であろうと予想される.
44
一方,他の窒化鉄化合物のうち,Fe4NはFig.4.1に示すように立方晶系に属
し,同様の結晶系に属す基板としてはMgO,GaAs,Si等が挙げられる.Fe4N
と各基板との格子不整合度は,それぞれ9.9,32.9,30.1%である.それらの基板
の中でMgO基板は格子不整合度が9.9%と比較的小さいことから,Fig.4.1に示
すようにFe4N薄膜のエピタキシャル成長が期待できる.
また,第3章でのガラス基板上への窒化鉄薄膜作製において,6−Fe3Nのほか
にFe4Nの成長も一部確認されていることから,大気圧ハライドCVD法により
Fe4Nを生成できることも確認できている.
以上のことから,大気圧ハライドCVD法によりMgO単結晶基板上にFe4N
単結晶薄膜の作製を試みる.
MgO
Fe4N
〇 〇
〇 〇 〇
O−▼一一一一−一一0
0
〇二一一二〇十一→○
−¶一一一十.→0
㌔
0
。9二王空____QO。Mg
⋮
0Fe O
⋮
○′
・
O N
︷
︶
0
〇 〇 〇
O
(100)
(100)
\▲、′、′′
『%
Fig・4・l CrystalstructuresofFe4NandMgO・
45
○
00
4.3 熱力学解析からのアプローチ
1960年代に,Ⅲ−Ⅴ族化合物半導体が,発光材料として注目を集める中,熱
力学解析手法を用いたアプローチが盛んに行われた[1−12].そして,多くの反応
系において実験の予測を行った結果,シミュレーションからのアプローチが研
究の効率化に有効であることが明らかとなった.
ハライドCVD法は,最終目的とする結晶に対して,その構成原料となる物
質を気相状態で基板に供給し,基板上に薄膜を成長させる方法である.結晶成
長の過程には,表面反応および気相・固相平衡反応が存在する.ハライドCVD
法において,高品質な結晶を得るためには,物質輸送律速が成立するような条
件が用いられる.このような条件下では,表面反応過程が速く,動力学的な影
響を無視することができる.従って,気相・固相平衡反応の熱力学解析を適用
できる.
ハライドCVD法では,ガス流中での気相反応を伴うため,基板付近の境界層を
考慮する必要がある.原料は,バルク流から境界層を通して基板表面へ供給さ
れる.ここで,原料成分の分圧をPB,基板表面との界面の分圧をPsとすると,
成長速度Gは物質移動係数屯を用いて(4.1)式で表される・また,Fig・4・2に,
Fe4N薄膜を作製する場合の分圧と基板からの距離との関係を示す.
G=片gx(帯一考)
(4.1)
=片gx△P
ここで,気相・固相平衡反応前後における輸送物質の分圧差を成長の駆動力
△タ とする.物質輸送律速が成立する条件下では,成長の駆動力APは薄膜成長
の尺度となる.実際の熱力学計算では,目的とする化学種の平衡分圧を数値計
算法によって算出した.本研究では,数値計算にMathematicaを使用した【13,14].
4.3節では,熱力学解析の手法を用いることにより,大気圧ハライドCVD法に
よるFe4N薄膜の作製において,反応過程と作製条件の予測を行うこととする.
46
B
p⊥
巴nSS巴d−悪罵d
Pゝ
Ⅹ
Y
Distance
Fig・4・2 Therelationshipbetweenthepartialpressureofchemicalvapors
andthedistancefromsubstrate.
4.3.1 Fe4N成長反応モデルの設定
大気圧ハライドCVD法におけるFe4N成長の反応モデルをFig.4.3に示す.
この反応モデルにおいて,Fe4N成長部における気相・固相平衡反応式は,次の
(4.2),(4.3)式で表される.
47
QuartzReactor
■−一声・一一−…−…
,
←
l −
l ;
一
』 Fe4N
→
3
J ∠
l
被
坊
仰朋隼
拐
場
穿
彰
訝
刻
l
l
l ■
l
l
l
l
l
l
EXhaust
Source
Substrate
Rod
Fig・4・3Illustrationbetweenironchlorideandammoniaassumedforthe
thermodynamicanalysIS.
4FeC13(g)+4NH3(g)=Fe4N(S)+12HCl(g)+1・5N2(g)
(4.2)
4FeC12(g)+3NH3(g)=Fe4N(S)+8HCl(g)+N2(g)+0・5H2(g)
(4.3)
従って,これらの式より,反応系において考えられる気相分子種はFeC13,
FeC12,NH3,HCl,H2であり,また不活性ガスはN2と設定できる.
4.3.2 反応系におけるパラメータの設定
反応モデルで設定した(4.2),(4.3)の反応式に対して質量作用の法則が成
り立つことから,平衡定数gl,屯は(4.4),(4.5)式で表される.
48
P12HClXP15N,
(4.4)
片l=
P4FeCl,+P4NH,
片2=
P8HClXPN2
(4.5)
P4FeCll+P3NH一
また,本研究の大気圧CVDは,開放系であることから全圧は常時latmであ
る.従って,反応部での各化学種の平衡分圧には次の関係が成り立っ.
∑1i=考。ClJF=eC.十㌦了Fl+f。(N2)=1
(4.6)
ここで,Piは平衡分圧を示す.また,供給分圧をPOjとすると,束縛条件から化
学量論関係を示す(4.7)式が得られる.
(4.7)
POFeCl、一年ecll=PONH、−qH,
さらに,次のパラメータ」,Fを導入した.
」=
;転十年。。12用。1)
(4.8)
Fl,・;1LHl・iFIC・・FG(N2,
ダ=
;転2・3㌦、用。.)
(4.9)
射幸H圭且。1叫。(N2)
ここで,Aは反応系における水素と不活性ガス原子数に対する塩素原子数の
比,Fは不活性ガスに対する水素のモル分率である.反応の前後において,水素,
塩素および不活性ガスは,いずれも固相に析出しないことから,これらのパラ
49
メータは与えられた成長条件のもとで,系を通じて一定に保たれる.
NH3の分解平衡について考えると,熱力学的には3000C以上の温度でほとん
どN2とH2に分解する.しかし,通常の成長条件のもとでは,NH3の分解は触媒
のない状態では遅く,分解の度合いは成長条件と装置の形状に強く依存する.
ここで,NH3の分解率は以下の反応式で表される.
NH3(g)→(1−小目g)+号N2(g)・空町g)
2
(4.10)
平衡分圧の計算において,αの変化は成長系中のH2,N2およびNH3の分圧変
化を引き起こす.同様な変化はFを変えることでも起こる.したがって,以下
の計算では,αをBanの9500Cにおける実験に従って0.03と一定にした.
以上,前節で述べた熱力学計算プログラムに対して,(4.2)式から(4.10)
式を適用することで各化学種の平衡分圧を求めた.
4.3.3 計算結果
本熱力学解析は,職ble4.1の初期条件をベースとして行い,各計算において
変動パラメータ以外は初期条件の値を使用した.
rhble4.1InitialconditionforthethermodynamicanalysIS.
Growthtemperature(OC)
650
FeC13Partialpressure(atm)
5.0×10−5
NH3Partialpressure(atm)
1.5×10−2
Ⅴ/Ⅷ
9.0×103
F
0.001
α
0.03
50
4.3.4 成長温度による影響
成長温度の影響について検討した.Fig.4.4に,各化学種の平衡分圧に対する
成長温度の影響について計算した結果を示す.FeC13において,5000C以上で平
衡分圧の減少がみられた.
ここで,Fe原料となるFeC13の平衡分圧の減少は,Fe4N生成の駆動力APが
増加していることを示唆するものである.これは,FeがFe4Nとして生成すると
きに,気相から固相へと変化したことに起因するものである.また,8300C以上
においては,FeC12の分圧が増加することから,反応系内においてFeが再び気
相状態となることがわかった.
よって,Fe4Nの生成温度としては,500∼8000Cの範囲内にあると考えられ
る.
︵∈︶ヱ巴コSS巴d−書芸£
1000
Temperature(OC)
Fig・4・4 Changeinthepartialpressureoftherespectivechemicalvaporsasa
functionofthegrowthtemperature・
51
l
︵∈︶ヱ巴コSS巴d一書tdd
10−14
lxl0−5 5xl0−5 1xl0−4
5xl0−4
1nputpartialpressureofFeC13(atm)
Fig.4.5 Changeinthepartialpressureoftherespectivechemicalvapors
asafunctionoftheinputpartialpressureofFeC13.
4.3.5 原料ガス供給分圧による影響
Fe4Nの生成に対するFeC13の供給分圧の影響を検討した.Fig.4.5に,FeC13
の供給分圧を変化させて計算した結果を示す.FeC13の供給分圧の増加に伴い,
反応系内におけるFeC13の分圧が増加することがわかった.これは,FeC13(S)の
供給増加に伴い,気相中のFeC13(g)が増加していることを示唆するものである.
ここで,大気圧ハライドCVD法によるFe4N薄膜の作製において,FeC13の
供給分圧と薄膜の成長速度との関係を評価した結果をFig.4.6に示す.FeC13の
52
供給分圧の増加に伴い,成長速度の増加がみられた.なお,FeC13の供給分圧を
変化させた場合におけるFe4N生成の駆動力の変化について,熱力学計算の結果
を同図に示すと,計算結果と実験結果がほぼ一致することがわかった.
また,FeC13の供給分圧の増加に伴いFe4N薄膜の成長速度が増加しているこ
とから,大気圧ハライドCVD法におけるFe4N薄膜の作製は,物質輸送律速で
あることがわかった.
︵彗星︶0︸已‘盲OJU
2.Oxl0−6 4.0Ⅹ10−6 6.0Ⅹ10−6 8.0Ⅹ10−6 1.0Ⅹ10−5 1.2xl0−5
InputpartialpressureofFeC13(atm)
Fig.4.6 ThegrowthrateoftheFe4Nmmsasafunctionoftheinputpartial
PreSSureOfFeC13.
53
l
︵∈︶ヱ巴nSS巴d−dでdd
0■
5
1
l
10−2 10−1 1 101 102 103 104
Ⅴ/VIII
Fig・4・7 Changeinthepartialpressureoftherespectivechemicalvapors
asafunctionoftheV/VIIIratio.
4.3.6 原料ガス供給比による影響
Fe4Nの生成に対するV/Ⅷ比の影響を検討した.Fig.4.7に,Ⅴ/Ⅷ比を変化さ
せて計算した結果を示す.Ⅴ/Ⅷ比の増加に伴い,FeC13の平衡分圧の減少がみら
れた.よって,Ⅴ/Ⅷ比の増加に伴いFe4Nが生成しやすいと考えられる.
また,Ⅴ/Ⅷ比の影響について,さらに詳細に評価を行った.各成長温度にお
いて,FeC13の供給分圧とV/Ⅷ比を変化させた場合のFe4N成長領域を解析した
54
結果をFig.4.8に示す.Fe4Nの成長領域に違いがみられた.6000Cにおいては,
グラフ中の条件範囲のすべてがFe4Nの成長領域であった.6500Cにおいては,
ほとんどが成長領域となっているが,わずかにFeメタルなどの析出領域がみら
れた.そして,7000Cにおいては,析出領域の拡大に加えて,H2ガスなどによ
り薄膜がェッチングされる領域もみられ,Fe4N成長領域が縮小された.8000C
においては,さらにこの状況が進む傾向が見られた.
Droplet
○焉JmlUUL\ゴZ︸コdu−
○焉ュUOL\ゴZJコdu−
1xl0−7 1xl0−6 lxl0−5
1xl0−7 1xl0−6 1xl0−5
tnputPOFeC13
InputPOFeC13
○焉JJUUL\ゴN︸コdu−
○焉J︹︻UO≒ゴNpコdu−
lxl0−7 lxl0−6 1xl0−5
Etching
1nputPOFeCI3
Fig.4.8 The growth area of the Fe4N nlms expected by the
●
themOdynamicanalysIS.
55
4.3.7 熱力学解析のまとめ
大気圧ハライドCVD法によるFe4N薄膜の作製ついて,熱力学解析から検討
した結果,以下のような結論を得た.
(1)最適な原料ガス供給分圧は,
FeC13:1×10−7−1×10−5atm
NH3:1×10−3−1×10−1atm
最適な成長温度は,
600∼6500C
である.
(2)熱力学解析と実験結果が一致することから,反応系は物質輸送律速であ
る.
56
4.4 Fe4N単結晶薄膜の作製
本研究において,3.4.2節でXRD測定によりガラス基板上に6−Fe3N,α−Feと
共にFe4N(200)のピークが観察されたことを述べた.そこで,基板をMgO(100)
の単結晶基板とし,同様の成長温度,原料供給分圧下においてFe4N薄膜のエピ
タキシャル成長を試みた.MgO基板には,0.25いmのダイヤモンドペーストで片
面を鏡面研磨後,10500Cで150min熱処理されたものを使用しており,研磨面の
表面粗さは,Rms<4Å(測定範囲:30×3叫m)である.
4.4.1 原料供給比の影響
原料供給比による影響を検討するため,窒素原料であるNH3と鉄原料である
FeC13の供給分圧比(以下Ⅴ/Ⅷ比とする)を変化させてFe4N薄膜を作製した.
「hble4.2に,薄膜の作製条件を示す.
Thble4.2 GrowthconditionoftheFeNxmms.
Substrate
MgO(100)
Growthtemperature(OC)
650
FeC13Partialpressure(atm)
1.5×10−6
NH3Partialpressure(atm)
3.4×10−2−8.5×10−3
Ⅴ/Ⅷ
5.6×103_2.3×104
Tbtalflowrate(cm3・min−1)
590
Carriergas
N2
Growthtime(min)
30
Fig.4.9に,各条件で作製した薄膜のXRDパターンを示す.なお評価装置は,
理学電機製RINT2000を用い,30kV,20mAで測定した.X線源はCuKα線であ
る.Xm測定の結果より,Ⅴ/Ⅷ比が1.9×104−2.3×104の場合,多結晶の6−Fe3N
57
が成長していることがわかる.また,Ⅴ/Ⅷ比が1.1×104−1.4×104の場合,6−Fe3N
は減少し,Fe4N(200)のみが成長していることがわかる[15].さらに,Ⅴ/Ⅷ比が
5.6×103−1.1×104の場合,Fe4N(200)のほかにα−Feのピークも観察された.
︵slでn.qJ王宮su曇ul
′
e−ヽ
e
N
ヽ
■′
O
b♪
言
5.
6 × 10 3
1 .l X
( ▲ ◆ =F e 4N
e
宍 ヽ
■′
′
◆ ▲ :α−F e
● ‥6 −F e 3N
▲
lO 4
1.
4 × 10 4
1.
9 × 10 4 2.
3 × 10 4
l ●
l
● ● ● ●
▲
40 60 80
20(degree)
Fig.4.9 XRDpattemSOftheFeNxmmsobtainedatvariousV/VIIIratios.
Numeralsinthenguredenotethe[NH3]/lFeC13]ratio.
58
4.4.2 成長温度の影響
成長温度による影響を検討するため,Ⅴ/Ⅷ比を1.1×104に固定し,成長温度
を変化させてFe4N薄膜を作製した.Tbble4.3に,薄膜の作製条件を示す.
Tbble4.3 GrowthconditionsofFeNxnlms.
Substrate
MgO(100)
Growthtemperature(OC)
550−700
FeC13Partialpressure(atm)
1.5×10●6
NH3Partialpressure(atm)
1.7×10−2
Ⅴ/ⅦI
1.1×104
590
Tbtalnowrate(cm3・min ̄1)
Carriergas
N2
Growthtime(min)
30
Fig.4.10に,各条件で作製した薄膜のXRDパターンを示す.成長温度が6000C
以下の場合,基板上には薄膜の成長はなく,ほぼ無色の針状析出物の堆積みら
れた.この針状析出物は,鉄原料で気化されたFeC13が再結晶化したものである.
成長温度が600−6500Cの場合,基板上に膜状の成長がみられ,Xm測定の結果,
Fe4N(200)のみのピークが観察された.この結果から,MgO(100)基板上にFe4N
薄膜がエピタキシャル成長していることが確認できた.
一方,成長温度が6750C以上の場合,Fe4N(200)のほかにα−Feのピークも観
察された.ここで,Fe4Nは7000Cにおいて,以下の過程を経て分解することが
報告されている.
2Fe4N(S)=8Fe(S)+N2(g)
59
従って,6750C以上の成長温度においてα−Feのピークが観察されたのは,成
長したFe4Nが一部分解し,α−Feが生成されたことによると考える.
︵sJでコ.q﹂王宮suOJul
20(degree)
Fig.4.10 XRD pattemS Ofthe FeNx nlms obtained at various growth
temperatures・
60
4.5 まとめ
大気圧ハライドCVD法により,窒化鉄単結晶薄膜の作製について検討した
結果,以下のような結論を得た.
(1)X線回折の結果から,FeC13とNH3を原料とした大気圧ハライドCVD法
により,MgO(100)単結晶基板上にFe4N薄膜のエピタキシャル成長を
実現することができた.その結晶性については,第5章において詳細に
評価する.
(2)原料供給比と成長温度の影響による検討結果から,大気圧ハライドCVD
法において,Fe4N薄膜をエピタキシャル成長させるためには,Ⅴ/Ⅷ比
1.lxlO4−1.4×104,成長温度600−650。Cが適していることがわかった.
(3)(2)の条件は,熱力学解析で予測した結果の範囲内であった.すなわち,
金属窒化物薄膜を作製する場合,熱力学解析により反応条件の絞り込
み・予測が可能であることを実証することができた.このことは,実用
化に向けた装置設計において,熱力学解析が有効な手段であることを示
唆するものである.
61
参考文献
[1] G.B.Stringfellow,J.Cryst.Growth,62(1983)225.
[2] G.B.Stringfbllow,J.Cryst.Growth,27(1974)21.
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[12] A.Koukitu,N.1もkahashiandH.Seki,J.Cryst.Growth,170(1997)306.
[13]Mathematicaによる数値計算,共立出版,第4版.
[14]Mathematicaプログラミング,近代科学社.
[15]JCPDSFileNo.6−0627(1948).
62
第5章
大気圧ハライドCVD法で作製した
Fe4N薄膜の結晶性
5.1 序
第4章で,本研究の大気圧ハライドCVD法により,Fe4N薄膜のエピタキシ
ャル成長を実現したことを述べた.これまでに,Fe4N薄膜に関する研究は数多
く行われてきているが,単結晶薄膜の作製を実現したのはわずか数例にすぎず
[11,121,Fe4N単結晶薄膜の結晶構造,組成,表面状態などについて,ほとんど
明らかにされていない【1−12].Fryらにより報告されたFeNxの平衡状態図をFig.
5.1に示す[13−16].この図において,Fe4Nの生成する範囲が非常に狭いことがわ
かる.このことから,Fe4Nの中でもさらに単結晶薄膜を作製することが非常に
困難であるということが推測できる.
本章では,第4章においてMgO(100)基板上へのエピタキシャル成長を実現
した典型的な条件(1もble5.1参照)で作製したFe4N薄膜について,結晶性を詳
細に評価した結果を述べる.
5.2 Ⅹ線回折による評価
Ⅹ線回折は,4.4.1節と同装置,同条件で測定した.Fig.5.2に,大気圧ハラ
イドCVD法により,MgO(100)基板上に作製した薄膜の典型的なXRDパターン
63
Tbble5.1AtypICalgrowthconditionoftheFe4NepltaXiallayers
Substrate
MgO(100)
Growthtemperature(OC)
600
FeC13Partialpressure(atm)
1.5×10−6
NH3Partialpressure(atm)
1.7×10−2
Ⅴ/ⅦI
1.1×104
Tbtalnowrate(cm3・min.1)
590
Carriergas
N2
Growthtime(min)
30
\
\γ\
︵UO︶巴コ︶巴aEU↑
l
J
α
l
g
/
V
\
l
〆 :F e 4N
Fe 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
N(%)
Fig.5.l PhasediagramofFeNxcompounds.
64
を示す.23.40付近にみられるピークはFe4N(100)面,47.80にみられるピークは
Fe4N(200)面の回折ピークである.ここで,42.80付近に見られるピークは,基板
に用いたMgOの(200)面の回折ピークである.
また,X線二結晶法を用いて,Fe4N薄膜の半値幅(FWHM)を測定した.測
定装置は,理学電機製RADII−Bであり,30kV,15mAで測定した.なお,X線
源はCuKα線とし,Niフィルターを使用した.薄膜のXRDパターンにおいて,
最も支配的であったFe4N(200)の回折ピークで測定した結果,半値幅は3minで
あった.この値は,紫外発光材料として注目されているGaN単結晶薄膜の値と
同程度であった.また,Fe4N(200)の回折ピークより算出した格子定数は3.78Å
であり,JCPDSカードに示されているFe4N粉末の格子定数3.795Åとほぼ同じ
であった.
︵S−竃コ.qJ王宮suOーul
40
60
80
20(degree)
Fig・5・2 XRDpattemoftheas−grOWnFe4NnlmdepositedonaMgO
(100)subatrate.
65
さらに,薄膜のⅩ線ポールフイギアから,MgO(100)基板に対するFe4Nの配
向状態を評価した.測定装置は,理学電機製のArX−Gであり,50kV,300mA
で測定した.なお,Ⅹ線源はCoKα線とした.Fe4Nは立方晶構造であることか
ら,MgO(100)基板上の膜がa軸に沿った成長であれば,C4回転対称軸の存在が
確認できるはずである.Fig.5.3に,Fe4N(111)面の20の反射に対するX線ポー
ルフイギアを示す.Borsaらの報告した結果[11]と同様に,900間隔で対称的な4
つのスポットパターンのみが観察され,C4回転対称軸の存在が確認できた.こ
のことは,Fe4N薄膜のa軸が基板面に対して垂直方向に向いていることを示唆
している.
Fig.5.3 X−rayO−¢polescanwitha20nxedatthe(111)reflectionofthe
Fe4Nmm.
66
5.3 電子線回折による評価
Fig.5.4に薄膜の電子線回折パターンを示す.典型的なスポット状のパターン
から,得られた膜が結晶性の良い立方晶Fe4Nであることがわかった.また,ス
ポット間の距離から格子定数を算出した結果,a=3.795Åであった.この値は,
JCPDSカードの立方晶Fe4Nの格子定数と一致していた[17−21].以上,X線回折
および電子線回折の結果から,MgO(100)基板上に,Fe4N単結晶薄膜がェピタキ
シャル成長していることを確認できた.
Fig.5.4 甘ansmissionelectrondi緻actionpattemoftheFe4Nnlm.
67
ここで,Fig.4.1に示したように,Fe4N(100)面(格子定数a=3.795Å)と
MgO(100)面(格子定数a=4.2212Å)との格子不整合度は約10%である.それ
にもかかわらず,本技術によりMgO(100)基板上に単結晶のFe4N薄膜を作製
することができた.
注目すべきことは,従来のスパッタリング法,CVD法,MBE法などにより,
Fe16N2の単結晶薄膜を作製したという報告例はあるが,Fe4N単結晶薄膜が得ら
れたという例はほとんどない.本研究で開発した大気圧ハライドCVD法におい
て,特に単結晶の窒化鉄薄膜が得られるのは,以下の影響によるものと考えら
れる.
・大気圧下での成膜のため,窒素の脱離などによる欠陥が生じにくい.
・FeC13とNH3の反応から一旦前駆体を形成するため,目的とする化合物が
安定して生成されやすい.
5.4 薄膜の表面状態
MgO(100)基板上に作製されたFe4N薄膜の表面は,肉眼による外観観察から,
非常に平滑であり,鏡面状態となっていた.そこで,AFMにより表面状態につ
いて詳細に評価を行った【22].評価装置は,島津製作所製SPM−9500である.
Fig.5.5に作製したFe4N薄膜のAFM像を示す.AFM像からも,膜表面が非
常に平滑であることが観察される.また,5×5Pmの範囲で表面平均二乗粗さ
RouglmessmeanSquare(Rms)を測定した結果,5Åよりも小さい値であった.よ
って,半導体基板のSiウエハなどと同程度の平滑性を有しているといえよう.
一般的に,膜の成長速度が速くなると3次元的な成長が進みやすく,膜の表
面状態は粗くなる傾向にある.しかしながら,大気圧ハライドCVD法による窒
化鉄薄膜の作製においては,成長速度が速いにもかかわらず,表面平滑性の高
い薄膜を作製できることがわかった.これは,窒化鉄薄膜が,その成長過程に
おいて2次元的に成長したことによるものと推察される.これらのことから,
68
ロ.ロロ
5.00賞5.00hm】乙M訂:10.00【nm】
Fig.5.5 AFMimageoftheFe4Nmmsurface.
大気圧ハライドCVD法により作製した窒化鉄薄膜が,デバイス材料や基板材料
への応用に対して非常に有効であると考えられる.
5.5 薄膜の元素分析
作製したFe4N薄膜の組成比を明らかにするため,ⅩPSによる元素分析を行った.
評価装置は,島津製作所製XRTOS−XSAM800である.なお,測定時にはカーボ
69
ン補正を行った.薄膜のXPSスペクトルをFig.5.6に示す.薄膜の組成比を決定
するため,まずFe3N粉末,Fe4N粉末,Fe+Fe4N粉末を標準サンプルとして検量
線を作成した.検量線は,標準サンプルのXPSスペクトルにおいて,712eV付
近に見られるFe2p3/2軌道のピークと403eV付近に見られるNIs軌道のピークとの
強度比を縦軸に,標準サンプルのN成分比率を横軸にプロットして作成した.
作成した検量線をFig.5.7に示す.
︵sJでコむ已︶3J王宮suOJu−
730 720 710 700
Bindingenergy(eV)
︵S︸竃コむ已︸3J王宮suU−uI
410 400
Bindingenergy/eV
Fig.5.6 XPSspectraoftheFe4Nmm.
70
OStandardpowdersofFeN、 ●Film
N\言0ヒS−NO卓l00で空合suUpul
0
0
Ncontent(%)
Fig・5・7 Intensity ratio of the NIs仔e2p3/2 0bserved for the XPS
measurementsasafunctionofNatomconcentration.
ここで,薄膜のXPSスペクトルにおいては,Fe2pl/2,Fe2p3/2およびNIsに帰属
されるピークのみ検出された・NIsおよびFe2p3/2のピークの強度比より算出した
N成分比率は,Fe4N粉末とほぼ一致して約20%であり,すなわちFeとNの組
成比は4:1であった.
また,血+ェッチング後において,塩素(C12。),酸素(OIs)のピークはほと
んどみられなかった.このことから,塩化物(FeC13)を原料としているにもか
かわらず,作製した薄膜にはClが含まれていないことが判明した.
71
よって,XPSの結果からも,作製した窒化鉄薄膜はFeとNのみから構成さ
れたFe4N単結晶薄膜であることが支持された.
5.6 まとめ
大気圧ハライドCVD法によりMgO(100)基板上に作製したFe.N薄膜の結晶
性について評価した結果,以下のような結論を得た.
(1)MgO(100)基板上にエピタキシャル成長したFe4N薄膜は,回転ドメイン
をもたず,a軸が基板面に対して垂直方向に成長した,立方晶のFe4N単
結晶薄膜であった・Fe4N単結晶薄膜を作製したという報告例は,これま
でにわずか数例しかなく,大気圧ハライドCVD法においても実現可能で
あることを示すことができた.
(2)Fe4N薄膜の格子定数は,a=3.795Åであった.
(3)Fe4N薄膜の表面状態は,Rms<5Åであり,非常に平滑な鏡面であった.
(4)大気圧ハライドCVD法により作製したFe.N薄膜は,FeとNのみから構
成されており,膜の成長過程において欠陥や不純物などが取り込まれに
くいことがわかった.この理由として,以下のことが考えられる.
・大気圧下での成膜のため,窒素の脱離などによる欠陥が生じにくい.
・FeC13とNH3の反応から一旦前駆体を形成するため,目的とする化合
物が安定して生成されやすい.
(5)大気圧ハライドCVD法は,結晶性が高く,均質かつ平滑な窒化鉄薄膜を
高速で成長させることが可能であることから,デバイス材料や基板材料
などの作製に非常に有効であると考えられる.
72
参考文献
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[22]N・Tbmura,N・Tbkahashi,T・NakamuraandT.Tbkahashi,J.Mater.Sci.Lett.,21,
321(2002).
74
第6章
Fe4N薄膜の磁気的性質と光学的性質
−オプトアジレント機能(新しい
磁気光学特性)をもつFe4N−
6.1 序
第1章でも述べたが,窒化鉄は,飽和磁束密度が高いなどその磁気特性が注
目され,広く研究されてきた.本章においても,大気圧ハライドCVD法により
作製したFe4N単結晶薄膜において,磁気的性質を評価した内容を述べる[1−3】.
また,本研究では,Fe4N単結晶薄膜の光学的性質について検討を試みた.古
くから光と磁気には密接な関係があることが知られてきた.磁気が物質の光学
的性質に何らかの効果を及ぼす作用と,光が物質の磁気的性質に効果を及ぼす
作用がそれである.前者を「磁気光学効果」といい,後者を「光磁気効果」と
いう[4,5].これらの現象は,光磁気ディスク,光通信用アイソレータなどのデ
バイスに実用化され,今後もその可能性が有望視されていることから,最近磁
気光学への関心が高まってきている.しかしながら,窒化鉄においては,光学
的性質に対する報告例がなかった.そこで本章では,新しい機能性の探索とし
て,Fe4N薄膜の磁場中における光応答性について評価した内容についても述べ
る.
75
6.2 磁気的性質
まず,VibrationSampleMagnetometer(VSM)により,Fe4N薄膜の磁化率を
評価した.評価には,東英工業製VSM−2を使用し,薄膜に対して20kOeまで磁
場を印加,室温にて測定した.Fe4N薄膜の典型的な磁化曲線をFig.6.1に示す.
飽和磁化は182emu・g.1,保磁力は300eであった.この値は,Fe.N粉末の飽和磁
化(183.5emu・g ̄l)よりわずかに小さいものであった[6].しかしながら,外部磁
場の変化に対して,優れた応答性を示した.
︵T拙さ∈U︶uO焉N葛u浮∑
MagneticField(kOe)
Fig.6.1MagnetizationcurveOftheFe4Nnlm.
76
6.2.1 温度依存性
Fe4N膜の磁気特性についてさらに詳細に評価するため,超伝導量子干渉計
(SuperconductingQuantumInterftrenceDevice:SQUID)により,外部環境の変
化に対する磁気挙動の変化について測定した.
まず始めに,温度に対する磁気挙動を評価した.その結果をFig.6.2に示す.
この時,測定温度を2−300Kの範囲で変化させ,外部磁場を膜面に対して垂直方
5
︵n白む︶ 盲む百〇百0−葛急d言
0
5
ー15
×10 ̄
ー30 −20 −10 0 10 20 30
Magneticfield(kOe)
Fig.6.2 Magnetization curveS Of the Fe4N nlm at the temperatures
between2and300KmeasuredbyaSQUIDmagnetometer.
77
向に印加した.Fe4N薄膜の磁化曲線は,測定温度の低温化に伴い,飽和磁化が
徐々に増加するといった典型的な強磁性体の挙動を示した.これは,低温にな
ったことにより,熱運動による磁気モーメントの乱れが少なくなることに起因
しており[7],300Kに対して2Kでは飽和磁化が約20%増加した.この現象は,
Fe4N薄膜に対して垂直方向に磁場を印加した場合だけでなく,ほぼ水平方向か
ら磁場を印加した場合においても同様であった.
また,膜の体積から単位質量あたりに換算すると,300Kで約182emu・g,
2Kでは221emu・g−1という結果が得られた.このうち,測定温度300Kにおける
値は,室温下においてVSMで測定した飽和磁化の値とほぼ一致する結果であっ
た.
6.2.2 印加磁場方向依存性
次に,外部磁場の印加方向に対する磁気挙動を検討した[3,8].各測定温度に
おいて,薄膜に対して垂直方向から磁場を印加した場合と,平行方向から磁場
を印加した場合の磁化曲線をFig.6.3に示す.
いずれの測定温度においても,印加する磁場の方向によって磁化挙動に違い
がみられ,垂直方向から磁場を印加した方が飽和するまでにより強い外部磁場
を必要とすることがわかった.この原因を明らかにするために,印加磁場方向
の角度依存性について,さらに詳細に検討した.Fig.6.4に,測定温度2Kにお
ける磁化曲線の角度依存性を示す.Fig.6.3と同様,印加する磁場の角度変化に
より,飽和磁化に達する印加磁場の値に差がみられた.膜面に対して平行(磁
場印加角α=00)に外部磁場を印加した場合に最も飽和磁化に達し易く,磁場印
加角αの増加に伴い飽和磁化に達する印加磁場の値が増加した.そして,垂直
(α=900)に印加した場合において,飽和磁化に達するまでに最も強い外部磁場
を必要とすることがわかった.
78
−TZi perpendicular く}− Parallel
5 0
︵n己む︶ 召む己〇百曇呂評言
10 20 30 −30・20 −10 0 10 20 30
20 30 ・30 ・20 −10 0 10 20 30
ー5
−10
−15
×10■:j
ー30 −20 −10 0 10 20 30 −30 −20 −10 0 10 20 30
Magneticfield(kOe)
Fig.6.3 Magnetization curveS Ofthe Fe4N nlm under the extemal
magneticneldbeingappliedperpendicularandparalleltothe
nlmatthetemperaturesbetween2and300K.
79
Externalmagneticfield
5
0
5
︵n白む︶ 召む百〇百U叫ぶ急d言
−50
O
50
Magneticfield(kOe)
Fig・6・4 AngulardependenceofthemagnetizationcurveOftheFe4N
nlm onthe angle betweenthe Fe4N mm surface andthe
extemalmagnetic坑eldat2K.
これらの現象をFig.6.5にて考察する.Fe4N薄膜がもつ磁気モーメントは,
もともと薄膜の面内方向を向いており,膜面に対して平行に磁場を印加した場
合には,磁気モーメントが比較的容易に印加磁場方向に揃う.一方,膜面に対
80
して垂直に磁場を印加した場合には,磁気モーメントが容易に印加磁場方向に
揃わない,すなわち垂直方向に磁気モーメントが起きあがろうとするためには,
より大きなエネルギー(=印加磁場)が必要とされたと考えられる.よって,
本研究で作製したFe4N薄膜は,バブル磁区を有しておらず,通常の強磁性体薄
膜と同様に面内方向に磁化容易軸があることがわかった[91.
Magneticneld
uoff,
Directionofthemagneticmoment
Magnetic鎖eld
HonM
ischangedbyappliedneld.
Fig.6.5 ProposedmodelofthechangeinmagneticmomentoftheFe4N
mmsunderextemalmagnetic丘eld.
81
6.3 光学的性質 −Fe4Nの磁気光学効果−
6.3.1 評価方法
作製したFe4N薄膜について,磁場中での光応答性の評価を行った.Fig.6.6
に,Fe4N薄膜の光応答性を測定した装置概略図を示す.Fe4N薄膜に対して,波
長6328ÅのHe−Neレーザーを照射し,その反射光において外部磁場の印加の有
無による強度変化を測定した.このとき,反射光の強度変化は,光検出器に接
続されたオシロスコープにより,電圧の変化として検出した.また磁場は,永
久磁石を用いて1000eを薄膜に印加した.
/
Polarizationplate
He−Nelaser
入=6328A
Fig.6.6 Schematic diagram ofthe apparatus used to measure the
Photo−reSPOnSeOfFe4Nnlms.
82
6.3.2 外部磁場の印加に対する応答性
Fig.6.7に印加磁場の有無による,反射光強度の変化を示す.この時,外部磁
場は膜面に対して垂直方向に印加し,磁場のon−Ofrは10秒間隔で変化させた.
その結果,外部磁場をonにするとFe4N薄膜を反射した光の強度が減少し,0ff
にすると光の強度が回復するという非常に特異的な挙動を示した.反射光強度
は,最大で約50%減少し,磁場のon−0仔に対応して可逆的に変化した.このこ
とは,磁気がFe4Nの光学的性質に何らかの効果を及ぼした現象の現れであり,
すなわちFe4Nの磁気光学効果といえよう.しかしながら,Fe4N薄膜がこのよう
な特性を有するという報告はこれまでに例がなく,本研究で初めて明らかにさ
れた.この件については,第7章で詳細に検討する.
︵A旦−鳥コpUJU遥巴lO払貞OApndpnO
Magneticneld
0仔
10 20
30 40
Time(S)
Fig.6.7 DependenceoftherenectedlightintensltyfromtheFe4Nmm
inaseriesofon−0ffcyclesofmagneticneld.
83
応答性についてさらに確認するため,磁場のon−0仔サイクルを1秒間隔とし
て強度変化を測定した.その結果をFig.6.8に示す.磁場の変化の間隔を短くし
た場合においても,反射光の強度が俊敏に変化することがわかった・このとき,
磁場の変化に対する反射光強度の応答時間は,10 ̄3secォーダーであった・さら
には,この磁場に対する可逆的な光応答性は,10000サイクル経過後もほとんど
減衰することがなかった.よって,耐久性にも優れていることが確認できた・
このように,外部の状況変化に対応して,物質がもつ光学的性質が変化する
機能を,オプトアジレント(Opto−agilety)機能と呼ぶこととした・すなわち,
Fe4N薄膜は新しい磁気光学効果というオプトアジレント機能を有する材料とい
えよう.
Magnetic頁eld
0
︵A∈︶−鳥コpOも遥210乱雲OA−ndち○
_肌LJl_
05 10 15 20 25
Time(S)
Fig・6・8 DependenceofthereflectedlightintensltyfromtheFe4Nnlm
inaseriesofon−0ffcyclesofmagnetic坑eld・
84
6.3.3 入射光の入射角度に対する影響
6.3.2節において,Fe4N薄膜は,光を入射させた状態で磁場を印加すると,
反射光強度が変化する磁気光学効果を有するということが明らかとなった.こ
のFe4N薄膜の磁気光学効果について,さらに詳細に評価するため,薄膜に入射
させる光の入射角度がその機能に与える影響について検討した.
入射光の入射角度を変化させた場合の反射光強度の変化を測定した結果を
Fig.6.9に示す.膜面に対して入射光のなす角を入射角βとした.入射光の入射角
度に応じて,反射光の強度変化に違いがあることがわかった.ここで,反射光
強度の減少率とは,磁場を印加していないときの反射光強度100%に対して,
︵㌔︶ 00︻× ︵
合憲u3月占餌コ芸名︷Uu−
合憲已心召二鳥コp30昌む銘
▼・.・・■
20
40
60
80
)
β(degree)
Fig.6.9 Plotofthechangeinthelreflectedlightintensity]/lincidentlight
intensity]ratioasafunctionoftheangleofincidentlight・
85
磁場を印加したときの反射光強度の減少をパーセント表示したものである.す
なわち,反射光強度の減少率の値が大きいほど,光応答性の感度が高いことを
表す.Fe4N薄膜の磁気光学効果は,光の入射角度45−600付近において,最も光
応答性の感度が高いということがわかった.
この反射光強度の変化における光の入射角度依存性から,Fe4N薄膜の磁気光
学効果が膜表面の何らかの構造変化に起因する,もしくは磁区構造の変化に起
因することが推察される.
6.3.4 外部磁場の印加方向に対する影響
Fe4N薄膜の磁気光学効果が光の入射方向に影響を受けることがわかった・そ
こで,磁場の印加方向に対する影響についても検討した.Fig.6.10にFe4N薄膜
Arlaser
「 l
L
Fe4N丘lm
MgOsubstrate
二
二 二
 ̄【 ̄
 ̄
 ̄M
agnet
/
∫
\
、
.
J
l
1
王 i ‡
1
、
一
・
一
ミ
l
’
ノ
−−
−−
−
−了 S
0ヽ ノ180
Fig・6・10 AmangementoftheFe4Nfilmandthemagneticneldforthe
lightreflectionmeasurements・
86
と磁場の位置関係との概略を示す.入射光には,Arレーザ(4880Å)を使用し,
出力は5V とした.Fe4N薄膜に対して垂直に磁場を印加した場合を磁場方向
α=900,磁石を左右に回転させ膜面に対して平行に磁場を印加した場合を磁場方
向α=0,1800とする.印加磁場の方向は0.30毎に変更可能であり,磁場の強さは
Fe4Nの保磁力にほぼ等しい300eとした.
Fig.6.11に反射光強度の磁場方向に対する依存性の測定結果を示す.磁場方
向が00から1800に変化するのに伴い,反射光強度は連続的に変化することがわ
かった.また,反射光強度は磁場方向900,すなわち薄膜に対して垂直に磁場を
印加したときに最小となることがわかった.
注目すべき点は,0−900の範囲においては,磁場の印加角度と反射光強度の値
がそれぞれ1対1で固有の値となっていることである.このことは,例えばセ
ンサ材料としての応用を考えた場合において,光の強度から磁場の角度が容易
に特定できるため,非常に有効な特徴であるといえよう.
︵sJでコ.qJ且倉suOJu二鳥コpOJU還り出
α(degree)
Fig.6.11ThedependenceofreflectedlightintensltyaSafunctionof
theangleofmagneticneldwithrespecttotheFe4Nnlm.
87
6.4 まとめ
大気圧ハライドCVD法により作製したFe4N単結晶薄膜の特性について,磁
気的特性と光学的特性から検討した結果,以下のような結論を得た.
磁気的性質
(1)大気圧ハライドCVD法により作製したFe4N単結晶薄膜において,飽和
磁化は測定温度300Kで182emu・g−1,保磁力は300eであった.この値は,
Fe4N粉末の飽和磁化(183.5emu・g−1)とほぼ同程度の値であり,得られ
た膜が均質なFe4Nであることを示唆している.なお,測定温度の低下に
伴い飽和磁化は増加し,2Kでは221emu・g.1であった.
(2)Fe4N薄膜の外部磁場に対する磁化挙動は,磁場の印加方向に対して依存
性があり,膜面に対して垂直に印加した場合において,飽和磁化に達す
るまでに最も強い外部磁場を必要とすることがわかった.すなわち,Fe4N
薄膜は,磁気異方性を有しており,面内方向に磁化容易軸があることが
わかった.
光学的性質
(3)大気圧ハライドCVD法により作製したFe4N単結晶薄膜において,新た
な磁気光学特性を発見した.これは,薄膜を反射した光の強度が,外部
磁場の有無に対応して変化するという現象であり,これをオプトアジレ
ント(Opto−agilety)機能と呼ぶこととした.
(4)Fe4N薄膜の磁気光学特性である光応答性は,入射光の入射角度によって,
反射光強度の変化率が異なる特徴を有することがわかった.
(5)Fe4N薄膜の光応答性は,磁場の有無だけでなく,磁場の印加方向によっ
ても反射光強度が連続的に変化するという非常に興味深い特徴を有する
ことがわかった.
88
参考文献
[1] T.Tbkahashi,N.1もkahashi,N.1もmura,T.Nakamura,M.Ybshioka,W.Inami
andYKawata,J.Mater.Chem.,11,3154(2001).
[2] N.Tbmura,N.1もkahashi,T.NakamuraandT.「hkahashi,J.Mater.Sci.Lett.,21,
321(2002).
[3] TbdashiThkahashi,Naoyukilもkahashi,1もkatoNakamura,TbtsuhisaKato,Ko
Furukawa,GrahamM.Smith,PeterC.Riedi,SolidStateSciences,6(2004)97.
【4] 佐藤勝昭,光と磁気,朝倉書店,(2001)13.
[5] 中川康昭,磁気のおはなし,(2000)84.
[6] R.N.PandaandN.S.G亘ibhiye,IEEETrans.Magn.,2,34(1998).
【7] 中川康昭,磁気のおはなし,(2000)55.
[8] T.1もkahashi,N.Tbkahashi,T.Nakamura,T.Kato,K.Furukawa,G.SmithandP.
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[9] D.M.Borsa,S.Grachev,D.0.BoermaandJ.W.J.Kerssemakers,Appl.Phys.
Lett.,79(2001)994.
89
第7章
Fe4N薄膜の磁気光学特性の
発現メカニズム
一磁気カー効果,スピン,表面構造
の観点から−
7.1 序
第6章において,Fe4N単結晶薄膜が特異的な磁気光学効果を有することを新
たに発見したことを述べた.そして,窒化鉄薄膜に関して,このような現象の
報告は今までに例がない.では,この磁気光学効果は,どのようにして発現し
たのであろうか.
本章では,この磁気光学効果の発現メカニズムについて検討する.磁性体を
反射した光の磁気光学効果には,磁気カー効果と呼ばれる現象があることが良
く知られている.従って,Fe4N薄膜の磁気光学効果は,磁気カー効果,あるい
は磁場に対する磁気モーメントの挙動,薄膜の表面状態の変化と関連があるの
ではないかという仮説を立て,それぞれについて検討する.
Fe4Nの磁気カー効果については,磁気光学効果を見出した時と同じ条件にお
いて,磁気カー効果と磁気光学効果との関連を検討する.磁気モーメントの挙
動については,6.2節でのSqUIDの評価と新たに強磁性共鳴の評価から検討す
る.そして,表面状態の変化については,磁区構造の変化から検討する.
90
7.2 Fe4N薄膜の磁気カー効果(カー回転角・楕円率の測定)
7.2.1 磁気カー効果
磁場の中におかれた磁性体に対して直線偏光を入射すると,偏光面が回転し
楕円偏光となった光が反射してくる.これが磁気カー効果である[1−4].このと
き,入射光に対する反射光の偏光面回転角をカー回転角,楕円偏光の短軸と長
軸の比をカー楕円率という.「hble7.1に代表的な磁性体のカー回転角を示す
[5−13].
この磁気カー効果を応用した最も身近な例は,光磁気(MO)ディスクであ
り,その再生に磁気カー効果が利用されている.その原理を簡単に説明する.
記録については,磁気記録媒体の記録したい部分のみにレーザー光を照射・キ
ュリー温度以上に加熱したところで磁界を与えることにより,書き込みを行う.
再生については,書き込まれた磁気記録媒体に,直線偏光を照射し,反射され
た偏光が記録された磁区の磁化の向きに応じて回転することを利用し(磁気カ
ー効果),検出器で電気信号として読み込むのである.現在,光磁気記録の媒体
には,アモルファス希土類一遷移金属合金(Gd−Co,Gd−Fe,Tb−Fe,Gd−Tb−Feなど)
などがよく用いられている.
なお,磁気カー効果には以下に示す3種類のものがある[4].
①極カー効果(PolarKerrefftct)
反射面の法線方向に平行に磁化がある場合:この効果は光の波数ベクトルと
磁化ベクトルのスカラー積に比例するので,垂直入射の場合に最も大きな値を
示す.光磁気ディスクの再生には,この効果が用いられている.
②縦カー効果(longitudinalKerrefftct)
磁化が反射面内にあって,かつ,入射面に含まれる場合:この効果は入射角
に強く依存し,垂直入射では観測されない.超薄膜の表面磁化の「その場観察」
に用いられるSMOKE(surfacemagnet0−0PticalKerrefftct)は,縦カー効果を利
用している.
91
③横カー効果(transverseKerrefftct)
磁化が反射面内にあって,かつ,入射面に含まれる場合:磁気旋光・磁気円
二色性などの偏光の変化を伴わず,反射光強度が磁化の向きと大きさに応じて
変化する.検光子なしに磁気光学効果の測定ができるという特徴を持つ.
Tbble7.1RepresentativeKerrrotationsofftrromagnet.
Kerrrotation Measurement Measurement
Refbrences
Ferromagnet
angle(degree) 1ight(eV) temperature(K)
Fe
0.87
0.75
Roomtemperature
[5]
Co
0.85
0.62
Roomtemperature
[5]
Ni
0.19
3.1
Roomtemperature
[5]
Gd
0.16
4.3
Roomtemperature
[6]
Fe304
0.32
Roomtemperature
【7】
MnBi
0.7
1.9
Roomtemperature
【8]
CoS2
1.1
0.8
4.2
[9]
CrBr3
3.5
2.9
4.2
[10]
2.1
12
[11]
1.9
298
【12]
EuO
a−GdCo
0.3
PtMnSb
[13]
92
7.2.2 磁気カー効果の測定方法
磁気カー効果の測定には,トヨタマックス社製の超高密度短波長光磁気材料
評価装置TM2018を使用した.Fig.7.1に,装置の構成概略図を示す・
ここで,装置の構成および測定原理を簡単に説明する.光源には,キセノン
ランプと重水素ランプを使用している.これにより,1.4−6.8eV(1800−9000Å)
の非常に広範囲な波長の光に対して測定が可能である.光源から発せられた光
は,モノクロメーターにより分光され,測定に必要な単一波長の光にされる.
単一波長光は,偏光子により直線偏光となり,モジュレーター(PEM:光弾性
変調器)により変調された後(波の遅延および加速が行われる),試料に入射す
る.試料からの反射光は,検光子を通過し,光検出器で検出される.検出信号
は,直流成分とPEMの変調周波数成分で構成されており,演算処理によりカー
回転角,楕円率が導き出される.なお,本装置において,外部磁場は,電磁石
により試料に対して垂直に印加した.すなわち,7.2.1節で説明した3つのカー
効果のうち,極カー効果の状態で測定を行った.印加磁場の強さは,0−11.6kOe
の範囲とした.
7.2.3 Fe4N薄膜のカー回転角・楕円率スペクトル
Fig.7.2に,Fe.N膜のカー回転角および楕円率の入射光波長依存性(スペク
トル)を示す.この時,外部からの印加磁場を0,5.8および11.6kOeとして測
定した.
印加磁場OkOeでは,カー回転角および楕円率とも,すべての入射光におい
て00 であった.これは,磁場を印加していない状態では,Fe4Nを反射した光
の偏光面に変化が起こっていないことを示している.これに対し,印加磁場を
5.8および11.6kOeとした場合にはカー回転角および楕円率に変化がみられた.
すなわち,強磁性体であるFe4N膜に磁場を印加することにより磁気カー効果が
作用し,反射光の偏光面が回転したことを示している.また,印加磁場強さの
増加に伴い,カー回転角および楕円率が増加した.
93
Fig.7.l Schematicdiagramofthemagnet0−0Pticalmaterialevaluationsystem・
1 2 3
0 0 0
︵仙名︶uO焉︶Odヒむ叉
1 2 3 4 5 6 7
PhotonEnergy(eV)
2 3
0 0
をU一Jd≡山とむ叉
1 2 3 4 5 6 7
PhotonEnergy(eV)
Fig.7.2 KerrrotationandellipiticityspectraoftheFe4Nmm.
ここで,Fe4N薄膜の磁気カー効果に対する挙動について他の物質と比較する
ため,同じ強磁性体であるFeバルクのカー回転角および楕円率を測定した.印
加磁場11.6kOeにおいて測定した結果をFig.7.3に示す.一般に,旋光度は光の
95
波長に大きく依存し,物質が強い吸光度を示す波長領域で最も大きく変化する
ことが知られている【14].Feのカー回転角は,低エネルギー側で大きく,高エネ
ルギー側で小さい値を示すが,約4.5eV付近にピークを有するという入射光の波
0
O
O
1 1 2 つ J
O
︵∽OP︶uO叫︸80とJLO叉
1 2 3 4 5 6 7
PhotonEnergy(eV)
O
2 つJ
O
倉U亘≡山JLO叉
1 2 3 4 5 6 7
PhotonEnergy(eV)
Fig・7・3 Kerr rotation and ellipiticity spectra ofthe Fe4N mm and
metallicFe.
96
長依存性を示した.この結果は,宮崎らによって報告された計算結果やその他
実験結果の報告例とほぼ一致した[15−19].また楕円率は,2.2eVと5.5eV付近に
おいてピークを有することがわかった.
一方,Fe4N膜のカー回転角においては,入射光が最も低エネルギー(長波長)
である1.4eVの場合において,最も回転角が大きい値を示した.そして,入射光
のエネルギーが高く(短波長)なるのに伴い,回転角が単調に減少しており,
ある入射光の波長でピークがみられるといった特徴的な波長依存性はなかった.
また,カー楕円率においては,2.9eV付近にのみピークを有した.
7.2.4 Fe4N薄膜の磁気光学特性と磁気カー効果
Fe4N薄膜の磁気カー効果において,特定の入射光での印加磁場の強度変化に
対する挙動について検討した.入射光の波長を固定し,磁場の強度を変化させ
た場合に対するカー回転角および楕円率の変化を測定した.この時測定に使用
した入射光の波長は,Fig.7.3に矢印で示したように,Fe4N薄膜の磁気光学効果
を測定したときの入射光と同じ光となる1.96eV,楕円率が最大値となる2.9eV,
回転角がほぼ0度となる4.5eV,以上3つの波長とした.測定した結果をFig.7.4
に示す.いずれの光においても,回転角および楕円率は,印加磁場に対してほ
ぼ比例して単調に変化し,ヒステリシスを示さなかった.
ここで注目すべき点は,Fe4Nの磁気光学効果である反射光強度を測定した
1.96eV(6328Å)の波長に対して,反射光強度の測定時に印加した磁場と同じ
1000eでは,カー回転角は0.006degであった.この値は,例えばMOディスク
などの光磁気デバイスに応用されているアモルファス希土類一遷移金属合金の
カー回転角に対して,2桁ほど小さい値であった[12].すなわち,反射光が回転
しているとはいえない値であった.従って,Fe4Nの磁気光学効果において,反
射光強度の変化は磁気カー効果による光の回転に起因するものではないことが
わかった.このことは,Fe4Nの磁気光学効果が従来のものとは異なり,新しい
現象によるものであることを示唆している.
97
宮6
Aa;●ウpupA36●ZA396●l叩
uⅢNウadaqlJqf旬〇!1!d!llaputZuO叩10JエIaHJOSdoots!SaJalSAH ウ●L●宕!J
(301)pta!J里lau鮎川
;1− 0 il
7
し
0 0
﹁
0
1 7 し
0 0
ROgぎコ\E≡ptic百三eg︶
(301)pl3日叩au知肌
;1− 0 il
旬町ゆ11ヨ−
0 0
Z
r
O
1 7 し
0 0
ROtatぎコ\E≡pt訂ity︵deg︶
岸 竺
(
Y9エ
Zウ
:qβu J l aAで
凡)
0 0
rL
Ly
∧36 て
:
人吉
Jau ヨu OlOq d
(30司)plau叩∂感官川
;1− 0 ;l
0 0
Z
r
O
1 − ▼ ′ し
0 0
ROgi∋\E≡pticity︵deg︶
また,6328Åの入射光に対して,特徴的な挙動を示す兆候が見られなかった
ことから,Fe4Nの磁気光学効果は6328Åの入射光に特有のものではなく,他の
光においても同様の現象がみられると推測される.実際に,6.3.4節で述べたFe4N
薄膜の磁気光学効果における磁場の印加方向の影響を検討した際には,入射光
に4880Åのアルゴンレーザーを使用し,同様に反射光の変化をとらえることが
できている.しかし,実用化においては,感度などの点から最適な光源を検討
することが必要であると考えられる.
7.3 Fe4N薄膜の強磁性共鳴
7.3.1Fe4N薄膜の強磁性共鳴スペクトル
電子を対象とする電子スピン共鳴(ElectronSpinResonance:ESR)の中でも,
強磁性体を対象にする場合を特に強磁性共鳴(FerromagneticResonance:FMR)
という.FMR測定には,セントアンドリュース大学(イギリス)で設計・製作
した高周波強磁性共鳴(HighFieldFerromagneticResonance:HFFMR)装置を使
用した[20].測定は室温で行い,90GHzの高周波をかけて測定した・また,磁場
は膜面に対して平行方向と垂直方向からそれぞれ印加して測定した[21].
Fig.7.5に,作製したFe4N単結晶薄膜のHFFMRスペクトルを示す・膜面に
対して平行に磁場を印加した場合,24kOe付近の低磁場に共鳴(上れ)がみられ
た.一方,垂直に磁場を印加した場合は,平行の時よりも磁場の高い49kOe付
近に共鳴(仇)がみられた.この共鳴場の違いは,強磁性薄膜に典型的にみら
れる現象である.これは,磁化容易軸が薄膜の面内方向に存在することに起因
するものであり,6.2.2節のS(〕UID測定でも同様の結果が得られている.
ここで強磁性共鳴では,強磁性体に静磁場ガを加え,それと直角に角周波数
〟の磁場を加えると
の=クガど〝
99
Parallel
30
40 50
60
Magneticneld(kOe)
Fig・7・5 HFFMRspectraoftheFe4Nmmat90GHzatroomtemperature
With the extemal magnetic 鮎ld being applied parallel and
PerPendiculartothemm.
の条件で共鳴が生じる.また,Landau−Lifhitzの式より,強磁性体の薄板(薄膜)
に対しては,外部からの磁場印加方向の違いにより,次の2つの式が与えられ
る[22−25].まず,膜面に対して平行に磁場を印加した場合は,
100
(7.1)
〃〟(〃〟+4花材。〝)
が成り立ち,一方,膜面に対して垂直に磁場を印加した場合は,
(7.2)
竺=〃⊥−4畑。〝
γ
が成り立つ.この時
打 力l′
(力:ブランク定数,V:周波数,β:ボーア磁子)
γ gβ
である.
共鳴式から算出した結果,Fe4N薄膜のg値は2.13であり,Feのg値である
2・10よりわずかに大きな値であることがわかった[26].この結果から,g値がほ
ぼ2となるため,磁気モーメントは,電子の軌道運動によるものでなく,スピ
ンの角運動量が主要因であることを示している・また,同時に算出されたイ杓
は17.3kOeであった.
ここで,4鞠は以下の式で表される.
イ殉=4朝一払
(7.3)
仇は結晶異方場の大きさを表しており,この式から有効磁化4励毎は飽和磁化
4堀よりも小さい値となることがわかる・HFFMR測定から算出されたイ励毎
が,17.3kOeであったことは既に述べた.この値を換算すると,191emu・g−1であ
り,VSMやSQUID測定で得られた飽和磁化の値(182emu・g−1)よりもわずかに
大きな値となった・これは,弧>晦と矛盾する.SqUIDでは,薄膜の量を膜
の面積およびSEM観察による膜厚から算出した.そのため,若干の誤差が含ま
101
れており,飽和磁化の単位質量あたりの換算に影響したと考えられる.しかし
ながら,本研究で得られたFe4N薄膜の飽和磁化および有効磁化の値は,金属Fe
を窒化することにより得られた多結晶Fe4Nよりも大きな値であった[27】.
つぎに,作製したFe4N薄膜において,面内方向で印加磁場の方向を変化さ
せた場合のHFFMRスペクトルをFig.7.6に示す.印加磁場方向の違いにより,
Odeg.
135deg.
180deg.
225deg.
270deg.
315deg.
MagneticField(kOe)
Fig.7.6 HFFMRspectraoftheFe4Nmmat90GHzatroomtemperature
WiththeextemalmagneticBeldbeingappliedparalleltothenlm.
102
スペクトルのピークにわずかなシフトが観察された.よって,それぞれのスペ
クトルから導き出される共鳴場の値(上れ)と磁場の印加方向との関係を,Fig.7.7
に示す.900間隔で耳′の値に増減がみられた.これは,Fe4N単結晶薄膜の結晶
磁気異方性によるものであり,面内方向においても磁化容易軸の存在が明らか
となった.これは,Loloeeらの測定結果と一致した[28].このとき,磁化が容易
であった0,90,180,2700は立方晶Fe4Nの[100]方向に相当し磁化容易軸となって
おり,45,135,225,3150は[110]方向に相当すると考えられる.またこの結果は,
同じく強磁性体のFeと同様の挙動であった[29,30].
ここで,Fe4N薄膜の磁気光学特性である光応答性は,膜面に対して水平方向
に磁場を印加した状態では,発現が観察されておらず,面内方向で磁場の印加
方向を変化させた場合においても同様であった.これは,膜面内での磁気異方
性の違いが小さいことから,面内方向の磁場に対して,Fe4Nの磁気モーメント
の挙動が光応答性に与える影響が小さいためであると推察される.
24.2
0 90 180 270 360
In−Planerotationangle(degree)
Fig.7.7 Angular dependence ofthe resonance position H/.The angle
between thel100]direction ofthe Fe4N nlm and the extemal
magneticneldwasvariedintherangeof0−3150.
103
7.3.2 結晶性による影響
大気圧CVD法により作製した窒化鉄薄膜において,結晶性の異なる薄膜に
対して,それぞれHFFMR測定を行った.測定した薄膜は,α−FeとFe4Nの多結
晶薄膜,Fe4Nエピタキシャル薄膜のうちⅩ線回折でピーク強度の低い膜,ピー
ク強度が高くかつ薄い膜(叫m以下),ピーク強度が高くかつ厚い膜(約叫m)
の計4種類の膜であり,それぞれα,Fe+Fe4N,Fe4Npoorquality,Fe4Nthinmm,
Fe4Nthickmmと表すこととする.Fig.7.8に,それぞれの薄膜のHFFMRスペク
PerPendicular
Parallel
、・一、・・い・一一・√・一→トトi■■一一■■■■−■■一・一一・一一一
α−Fe+Fe4Nnlm
Fe4Nepitaxialnlm
(poorquality)
Fe4Nepitaxialnlm
(thicknlm)
Fe4Nepitaxial
(thinnlm)
10 20 30
40 30
40 50 60
Magneticneld(kOe)
Magneticneld(kOe)
Fig.7.8 HFFMRspectraofFeNxnlmsat90GHzatroomtemperature.
104
︵>∈︶倉suO︶u⋮uOで苫Uと
Fe4NepltaXialmm
(thinnlm)
Fe4NepltaXialnlm
(thicknlm)
0
0
5
Time(S)
Fig.7.9 ThereflectedlightresponseofFe4Nnlms,lnWhichthered
andbluelinedenotethoseforthethinmmandthickmm,
respectively.
トルを示す.Fe4Nエピタキシャル薄膜のスペクトルと比較して,α−Fe+Fe4Nで
は,膜面に対して水平に磁場を印加した場合に共鳴がみられなかった.また,
Fe4Npoorqualityにおいては,スペクトルがブロードであり,結晶性の違いによ
り,HFFMRスペクトルの形状に違いがみられることがわかった.
ここで,それぞれの薄膜において,光応答性について測定した結果と,HFFMR
の結果との関連について考察する.α−Feザe4Nでは,磁気光学特性による光応答
性が発現しなかった.また,Fe4Npoorqualityは,膜の表面が鏡面ではなかった
ため,反射光の光応答性を測定することはできなかった.よって,Ⅹ線回折で
結晶性の高かったェピタキシャル薄膜のFe4NthinmmとFe4Nthicknlmにおい
て,光応答性を測定した結果をFig.7.9に示す.Fe4Nthickmmに対して,Fe4Nthin
丘1mは光応答性の変化量が大きく,磁場に対する感度が非常に優れていることが
105
わかった.ここで,HFFMRのスペクトルを詳細に比較すると,Fe4Nthinnlmの
方がFe4Nthicknlmよりもシャープなどークであることから,Fe4Nthinnlmの方
がより結晶性に優れていると考えられる.すなわち,Fe4Nの光応答性は,結晶
性に影響されると考えられる.本実験において,Fe4N thin mmの方が光応答性
に優れていたのは,膜厚による影響ではなく結晶性によるものであり,HFFMR
スペクトルから結晶性や光応答性が推測できることがわかった.
7.4 磁区構造
外部磁場の変化に対するFe4N薄膜の磁区構造の変化について,磁気力顕微
鏡(MFM:MagneticForceMicroscope)により評価した・評価装置は,セイコー
インスツルメント製のSP1−3800である.なお,磁場は磁石により印加し,膜面
に対して平行に印加した場合と,垂直に印加した場合において測定した.
Fig.7.10に典型的なFe4N薄膜のMFM像を示す.膜面に対して平行に磁場を
印加した場合においては,磁区構造に大きな変化はみられなかった.また,同
じく平行に磁場を印加する中でその方向を変えた場合においても,磁区構造に
変化はみられなかった.一方,膜面に対して垂直に磁場を印加した場合におい
ては,一部の磁区構造において縞状の構造変化が起こっており,磁場の印加前
と比較して大幅な変化がみられた.
ここで,Fig.7.11に示したモデルを用いて,Fe4Nの磁気光学効果の発現メカ
ニズムを考察する.反射光強度の変化は,外部磁場の変化に対応して,磁気モ
ーメントの方向が変化,かつ膜表面の磁区構造が変化することに影響されるこ
とがわかった.ここで,Fe4N薄膜の反射光の強度変化測定時において,膜表面
で光の散乱が生じていないこと,および複数の波長の入射光に対して反射光の
強度変化が観察されたことを確認している.これらのことから総合的に判断す
ると,外部磁場に応じてFe4N薄膜のスピンが膜表面の外に方向を向けたとき,
侵入型窒化物であるFe4N結晶構造内のN原子の位置にわずかな変化が生じ,
106
⊥01
・uItUaqlOIJtZTn〇!PuadJadput!laTTtutZdpa!TddtZ
凱甲qpl叩叩au君でulでualⅩ9叩ql!爪叫UNtaJaqUOSa鮎叩川劇 Ot・⊥・宕!J
; ウ 〔〔叫z l 0
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Magneticneld
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Fe4Nnlm
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i
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i
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ensi
y:
t
decrease
Fig.7.11Proposedmechanismforthe magnet0−0PtlCalbehaviorofthe Fe4N
n11m.
108
結晶の対称性が失われることで双極子に影響を与えることにより,膜表面で光
が吸収されると推察される.そして,その結果として,反射光の強度変化が発
現すると考えられる.残念ながら,外部磁場に対するFe4N薄膜の結晶構造の変
化については,膜表面でのわずかな変化と考えられるため,Ⅹ線回折などによ
り確認することはできなかった.
7.5 まとめ
Fe4N単結晶薄膜の磁気光学効果について,磁気カー効果,磁場に対する磁気
モーメントの挙動および表面状態の変化から発現メカニズムを検討した結果,
以下のような結論を得た.
(1)Fe4Nの磁気光学効果において,反射光強度の変化は,磁気カー効果によ
る光の旋光に起因するものではない.
(2)HFFMRの結果から,Fe4Nのg値は2.13であり,Feとほぼ同程度の値で
あった.
(3)Fe4Nの磁気光学効果において,その光応答性はFe4Nの結晶性に影響を
受け,結晶性の高いほど反射光強度が大きく変化する.
(4)Fe4N薄膜の磁区構造は,外部磁場を膜面に対して垂直に印加した場合に
最も大きく変化する.
(5)Fe4N薄膜の磁気光学効果の発現メカニズムについては,Fe4Nの磁気モー
メントの挙動と密接に関係があるとかんがえられる.外部磁場の変化に
対応して,磁気モーメントの方向が変化,かつ膜表面の磁区構造が変化
することにより結晶構造に影響を与え,膜表面で光が吸収されることに
より反射光の強度が変化すると推察される.
109
参考文献
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[21] TbkatoNakamura,ThdashiTbkahashiandNaoyukiThkahasi,1もtsuhisaKato,Ko
Furakawa,Graham M.Smith,Colin J.Oates and Peter C.Riedi,
Electrochem.&SolidLetts,6(10)C146−C148(2003)
110
[22]能勢 宏,佐藤徹哉,磁気物性の基礎,裳華房,(2001)124.
[23]H.Lassri,H.Oualmane,H.EIFanity,M.Bouanani,F.Cherkaouiand A・
Berrada,ThinSolidFilms,38(2001)245.
[24] U.Gradmann,J.Magn.Magn.Mater.54(1986)733.
[25] G.T.Rado.Phys.Rev.B26(1982)295.
[26]能勢 宏,佐藤徹哉,磁気物性の基礎,裳華房,(2001)28.
[27] S.K.Chen,S.Jin,G.W.Kammlott,T.H.Tiefe1,D.W.JolmsonandE.M.
Gyorgy,J.Magn.Magn.Mater.,110(1992)65.
[28] R.Loloee,K.R.Nikolaevand W.R Pratt,Jr.,Appl.Phys.Lett.,82,
19(2003)3281.
[29]能勢 宏,佐藤徹哉,磁気物性の基礎,裳華房,(2001)84.
[30]中川康昭,磁気のおはなし,(2000)79.
lll
第8章
総 括
本研究では,高価な技術といわれてきた薄膜作製を簡易かつ安価に実現でき
る新しい薄膜作製技術を開発すること,そして新しい機能性を有する材料を探
求し提案することを目標に掲げてきた.
薄膜作製方法としては,大気圧下での気相成長法に着目し,大気圧ハライド
CVD法を実用化に結びつけるための基礎的な研究を行った.これは,従来の薄
膜作製方法が,ほとんど真空系で行われているため,大がかりな真空装置が必
要,工程が複雑などの理由により,高価な処理となっていたためである.そし
て,装置技術の発達とともに,高真空から超高真空へと,より特殊な環境下に
おいて薄膜の基礎研究が行われるようになったが,いざ実用化の際には,工業
生産においてそのような環境を再現することは非常に困難であり,工業化する
上での大きな課題になると判断したためである.また,高真空の環境下におい
て,必ずしも高品質の薄膜が作製できるとは限らなかった.そこで,大気圧ハ
ライドCVD法を選んだわけである.この方法によれば,(1)大気圧下での薄膜
作製,(2)簡易な装置・工程,(3)成長速度が速い(サイクルタイムが短い),
(4)安価な原料,という特長を有しており,工業化に対して非常に有利と考え
られる.また,真空にする必要がなければ,バッチ式の処理ではなく連続処理
も可能であると考えられ,工程のライン化により大量生産ができるなどの波及
効果も期待できる.
機能性材料としては,飽和磁束密度が大きいことから薄膜化により次世代磁
性材料としての期待が大きい窒化鉄に着目した.窒化鉄は,従来の真空系処理
112
でも結晶性に優れた薄膜の作製は困難であった.その要因としては,減圧下で
あるため窒素欠陥が生じやすいことなどが考えられる.そして,窒化鉄の特性
についても未だ明らかにされていないことが多く,実用化のためにはそれらの
解明が待たれていた.
こうした背景の中,本論文では,大気圧ハライドCVD法による窒化鉄薄膜
の創製を第1の目的,窒化鉄薄膜の特性の究明を第2の目的とした.
以下に,本論文の各章についてまとめる.
第2章では,本研究で採用した大気圧ハライドCVD法の装置構成および操
作手順を中心に説明した.装置は大きく分けて,ガス流量制御部,反応管,ヒ
ーター部から構成されており,薄膜作製装置としては非常に簡易な構成である.
本研究では,手作りの装置を使用したが,工業生産をふまえた設備においても
基本構成は同じであり,従来法の設備と比較して簡易で安価な製造設備とする
ことが可能である.
第3章では,金属窒化物薄膜を簡易な方法で作製するということ目指し,大
気圧ハライドCVD法により,窒化鉄薄膜の作製を試みた.その結果,FeC13と
NH3を原料とした大気圧ハライドCVD法により,ガラス基板上にS−Fe3N薄膜を
作製することができた.原料とキャリアガスについては,FeC13−NH3−N2の組み
合わせが窒化鉄薄膜の作製に適していることが明らかとなった.窒化鉄薄膜の
成長プロセスは,FeCl3は自身の分解後にNH3と反応するのではなく,前駆体
(FeC13・NH3)を形成した後,基板上に窒化鉄として成長することがわかった.
また実験結果より,大気圧ハライドCVD法は,従来の薄膜作製法と比較して成
長速度が10倍以上大きく,原料としたFeC13,NH3が非常に安価であることか
ら,本研究の目的の一つである窒化鉄薄膜を簡易な方法で作製することを示す
ことができた.
第4章では,より高品質な薄膜作製として,大気圧ハライドCVD法による
窒化鉄の単結晶薄膜の作製を試みた.ここでは,熱力学解析手法を取り入れた
作製条件の予測と,実際に単結晶基板上へのFe4N薄膜のエピタキシャル成長を
113
行った.その結果,FeC13とNH3を原料として,MgO(100)単結晶基板上にFe4N
薄膜をエピタキシャル成長させることに成功した・また,Fe4N単結晶薄膜を作
製するためには,原料供給比と成長温度の条件設定が重要であることがわかっ
た.実験で得られた最適条件は,熱力学解析で予測した結果の範囲内であり,
熱力学解析による条件の絞り込み・予測が可能であることが確認できた・この
ことは,実用化に向けて装置を大型化する際などに,有効な手段であるといえ
よう.
第5章では,第4章において大気圧ハライドCVD法により作製したFe4N薄
膜の結晶性について,結晶構造,薄膜の表面性状などの点から評価した・その
結果,MgO(100)基板上にエピタキシャル成長したFe4N薄膜は,立方晶構造の
Fe4N単結晶薄膜であることが明らかとなった・また,Fe4N薄膜の表面状態は,
Rms<5Åであり,非常に平滑な鏡面であった・Fe4N単結晶の作製は非常に困難
であり,これまでにFe4N単結晶薄膜の作製を実現したという報告例は,本研究
を含めてわずか数例しかない・このように,大気圧ハライドCVD法は,結晶性
が高く,均質かつ平滑な窒化鉄薄膜を高速で成長させることが可能であること
から,実用化に向けた窒化鉄薄膜の作製に非常に有効な薄膜作製方法であるこ
とを示すことができた.
第6章では,これまでほとんど明らかにされていなかったFe4N薄膜の特性,
特に磁気的性質,光学的性質について詳細に評価した・その結果,磁気的性質
については,本研究で得られたFe4N薄膜において,飽和磁化は182emu・g,保
磁力は300eであり,Fe4N粉末の飽和磁化とほぼ同程度の値であった・また,
Fe4N薄膜の外部磁場に対する磁化挙動は,膜の面内方向に磁化容易軸をもつ磁
気異方性を有しており,典型的な強磁性体薄膜の挙動を示した・一方,光学的
性質については,Fe4N薄膜が磁気光学特性を有することを本研究で初めて発見
した.それは,薄膜を反射した光の強度が,外部磁場の有無に対応して変化す
るという現象であり,これをオプトアジレント(Opto−agilety)機能と呼ぶこと
とした.さらに興味深いことに,磁場の有無だけでなく,磁場の印加方向によ
っても反射光の強度が連続的に変化する特徴を有することを明らかにした・
114
第7章では,本研究で初めて明らかとなったFe4N薄膜の磁気光学効果につ
いて,Fe4N薄膜の磁気カー効果,あるいは磁場に対する磁気モーメントの挙動,
薄膜の表面状態の変化と磁気光学効果の挙動との関連について考察し,磁気光
学効果の発現メカニズムについて検討した.その結果,Fe4Nの磁気光学効果で
ある反射光強度の変化は,従来の磁気カー効果による光の旋光性に起因するも
のではなく,新しいメカニズムによるものであることがわかった.また,Fe4N
の磁気光学効果において,その光応答性はFe4Nの結晶性に影響を受け,結晶性
が高いほど反射光強度が大きく変化することがわかった.Fe4N薄膜の磁気光学
効果の発現メカニズムについては,Fe4Nの磁気モーメントの挙動と密接に関係
があり,外部磁場の変化に対応して磁気モーメントの方向が変化,かつ膜表面
の磁区構造が変化することにより結晶構造に影響を与え,膜表面で光が吸収さ
れることにより発現すると考えられる.
以上,本論文についてまとめた.ここで,この研究結果がもたらす効果につ
いて考えてみる.まず,これまで困難とされてきた窒化鉄単結晶薄膜の作製が,
工業化に対して多くのメリットがある大気圧ハライドCVD法でも実現可能であ
ることを示した.また,本法は窒化鉄のみならず,これまでに,窒化インジウ
ム,窒化スズ,硫化鉄,酸化亜鉛など窒化物以外の材料においても結晶性の高
い薄膜が作製できることを確認している.これらのことから,大気圧ハライド
CVD法が,高性能と低コストを両立する可能性の高い薄膜製造技術であり,高
真空化が進む薄膜技術に新たな考えを提案することができたといえよう・また,
Fe4N単結晶薄膜が磁気光学特性を有することを見出し,その発現メカニズムに
ついては,これまで定説とされてきた磁気光学効果とは異質のものであること
がわかった.この興味深い特性に関する報告は,国内外ともに例がなく,新し
い機能性材料を提案することができたと考えられる.例えば,今後,「光」時代
を迎えるにあたって,光磁気記録や光スイッチング素子など,マグネトオプテ
ィクス分野の次世代デバイスへとしての応用開発が期待でき,自動車を含めた
産業界において新たな技術分野展開に貢献できるであろう.
115
本論文の結びをもって,基礎的な研究の一段落を迎える・しかしながら,本
研究で成し遂げたのは,あるlつの提案に過ぎない.本研究をここまで進めた
最大の目的は本技術を実用化するところにあり,そのためには,未だ多くの課
題が残されている.しかし,本文中でも述べたように,本技術は高い可能性を
秘めており,今後の課題解決に期待したい・
116
謝辞
本研究を遂行するにあたり,指導教官として終始ご指導を仰ぎました静岡大
学工学部 教授 中村高遠 先生,ならびに副指導教官として研究全般にわた
り懇切なご指導・ご助言を賜りました静岡大学工学部 助教授 高橋直行 先
生に深甚なる敬意を表します.
また,論文審査委員をお引き受け下さり,本論文完成に至るまで,多大なる
ご指導・ご助言を賜りました,静岡大学工学部 教授 上野晃史 先生,静岡
大学工学部 教授 小林健吉郎 先生に深く感謝申し上げます.
さらに,磁気光学測定において,ご協力を賜りました静岡大学工学部 助教
授 川田善正 先生,SqUID測定において,ご協力を賜りました岡崎分子研究
所 助教授 加藤立久 先生,同 古川 貢 博士,XPS測定において,ご協
力を賜りました静岡県工業技術センター 吉岡正行 氏,並びにHFFMR測定に
おいて,遥かイギリスからご協力を賜りましたセント・アンドリュース大学
GrahamM.Smith 先生,ColinJ.Oates 先生,PeterC.Riedi 先生に深く感謝申
し上げます.
研究全般において,ご協力を賜りました静岡大学工学部物質工学科 スマー
トマテリアルズ研究室の学生の皆様に心から感謝申し上げます.
著者が所属するスズキ株式会社開発グループ 平塚行太郎 グループ長,同
第一グループ 河合 眞 グループ長には,会社の業務を離れて大学で研究す
る機会を与えていただきました.環境企画グループ 蔦崎陽一 グループ長に
は,大学に留学する機会を与えていただきました.また,開発グループ第一グ
ループ 加藤英純 課長をはじめとする開発グループの皆様には研究に対する
助言や業務のフォローなどにおいて,多大なるご支援をいただきました.この
場を借りて,深く感謝申し上げます.
117
本論文に関係する発表
論文
1・TadashiTbkahashi,NaoyukiTbkahashi,TbkatoNakamura,TbtsuhisaKato,Ko
Furukawa,GrahamM・Smith,PeterC・Riedi:“MagneticcharacteristicsofFe4N
epltaXialnlmsgrownbyhalidevaporphasedepositionunderatmosphericpressure”,
SolidStateSci.,6,97(2004).
2・TbdashiTbkahashi,NaoyukiTbkahashi,andTbkatoNakamura:uPreparationof
freestandingFe4NcrystalbyvaporphaseepltaXyunderatmosphericpressure”,
Mater.Chem.&Phys.,83,7(2004)・
3.TbkatoNakamura,Tbdashi恥kahashi,NaoyukiThkahasi,T如SuhisaKato,Ko
Furakawa,GrahamM・Smith,ColinJ・OatesandPeterC・Riedi:uHighneldFMR
investigation
of
epitaxially
grown
Fe4N
mms
on
a
MgO(001)substrate”,
Electrochem.&SolidLett.,6(10)C146−C148(2003)・
4.N.職mura,N.Tbkahashi,T・NakamuraandT・Tbkahashi‥山GrowthofFe4NThin
FilmsbyAtmosphericPressureVaporPhaseEpitaxy”,J・Mater・Sci・Lett・,21,
321(2002).
5・T・Tbkahashi,N・rrbkahashi,N・rrbmura,T・Nakamura,M・Ybshioka,W・Inamiand
YKawata:“GrowthofFe4NepltaXiallayersdisplaylnganOmalouslightreflectlVlty
modulatedbyaneXtemalmagneticneldM,J・Mater・Chem・,12,3154(2001)・
1.壷塵重壷,高橋直行,中村高遠‥“磁気センサ機構およびこの磁気センサ機構
を用いた回転状態検出装置”,出願申請中・
2・恥dashiTbkahashi,Naoyukirrbkahashi,TbkatoNakamura:uIronnitridethinmm
andmethodsforproductionthereoP,,USlO/025,681・
118
3.高橋重量,高橋直行,中村高遠:“窒化鉄薄膜およびその製造方法”,特開
2002−193700.
その他
1.Naoyukilもkahashi,Arei Niwa,Tbdashi Tbkahashi,and Tbkato Nakamura:
”CrystallineorientationoftheInNnlmspreparedbyatmospheriCpressurehalide
Chemicalvapordeposition”,SolidStateScience,in−PreSS(2003).
2.Naoyukilもkahashi,Masahisalもkekawa Tbdashilhkahashi,Tbkato Nakamura,
Masayuki Ybshioka,ⅥねtaruInamiand Ybshimasa Kawata:”Optical recording
CharaCteristicsoftinnitridethinnlmspreparedbyanatmOSPheriCpressurehalide
Chemicalvapordeposition”,SolidStateScience,5(2003)587−589.
3.高橋直行,高橋正志,中村高遠,金光義彦,Graham.M.Smith,Peter.C.Riedi:“オ
プトアジレント機能を有する金属窒化物薄膜の作製一金属窒化物薄膜の不
思議な機能−”,表面,40(2002)141−151.
4.N.Tbkahashi,A.Niwa,T.Tbkahashi,T.Nakamura,M.YbshiokaandYMomose:
”Growth
ofInN
pillar
crystal
nlms
by
meanS
OfatmospheriC
pressure
halide
Chemicalvapordeposition”,J.Mater.Chem.,12(2002)1573−1576.
学会発表
1.高橋正志,高橋直行,中村高遠,H.ELMkami,G.M.Smith,RC.Riedi:”大気
圧CVD法により作製した窒化鉄薄膜の光反射と高磁場強磁性共鳴”,第42
回電子スピンサイエンス学会年会,(2003.10.31).広島大学(東広島市)
2.轟橋正春,高橋直行,中村高遠,加藤立久,古川貢,G.M.Smith,RC.Riedi,C.
J.Oates:”大気圧ハライドCVDにより作製したFe4Nエピタキシャル薄膜の磁
気光学特性’’,第64回応用物理学会学術講演会,(2003.9.1).福岡大学(福岡市)
3・T・Takahashi,N・Tbkahashi,T・Nakamura,T.Kato,K.Furukawa,G.M.Smith,C.J.
119
OatesandP.C.Riedi:HMulti−FrequencyFMRofEpitaxiallyGrownFe4NFilmson
aMgO(001)Substrate”,36thAmuallntemationalMeeting,(ManChester,UK),
(2003.4.7)
4.高橋正志,高橋直行,中村高遠,加藤立久,古川貢,G・M・Smith,P・C・Riedi,C・
J.Oates:“大気圧ハライドCVDにより作製したFe4Nエピタキシャル薄膜の磁
気特性”,第50回応用物理学関係連合講演会,(2003.3.27)・神奈川大学(横浜)
5・T・恥kahashi,N・Tbkahashi,T・Nakamura,T・Kato,K・Furukawa,G・SmithandP・
Riedi:uOpto一magneticPropertiesofFe4NEpitaxialFilmsbyAtmospheriCPressure
HalideVaporPhaseEpitaxy”,202ndMeetingofTheElectrochemicalSociety,(Salt
LakeCity,USA),(2002・10・21)
6.遍歴垂墨,竹山知陽,高橋直行,中村高遠,加藤立久,古川貢,G・M・Smith,R
c.Riedi,C.J.Oates:”Fe4Nエピタキシャル薄膜の磁性とFMRによる検討”,第
41回ESR討論会・第7回invivoESR研究会連合討論会,(2002・10・29)・日本化
学会館(千代田)
7.轟塵重畳高橋直行,中村高遠,加藤立久,古川貢,G・M・Smith,RC・Riedi:
“大気圧ハライドCVDによるFe4Nエピタキシャル薄膜の磁気特性”,2002年
電気化学秋季大会,(2002.9.12).東京工芸大学(厚木)
8.轟壌重畳高橋直行,中村高遠,加藤立久,G・M・Smith,RC・Riedi:“大気圧ハ
ライドCVDにより作製したFe.N薄膜の光磁気特性”,第49回応用物理学関
係連合講演会,(2002.3.27).東海大学(平塚)
9.壷塵重壷,高橋直行,中村高遠,居渡渉,川田善正,吉岡正行:“大気圧気相エ
ピタキシャル成長によるFe4N薄膜の作製”,第62回応用物理学会学術講演会,
(2001.9.12).愛知工業大学(豊田市)
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