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文責:TIPS & TRAPS
編集部
寡分割全乳房照射の実際
乳房温存手術後の放射線療法の意義が明らか
おり 1)、その実施が強く勧められている。照射法
となり、全乳房照射が標準治療として行われてい
としては、全乳房に対して総線量 45∼ 50Gy、
1回
る。照射法に関しては、以前より1回線量を1.8 ∼
線量 1.8∼2.0 Gy を4.5∼ 5.5 週行う方法が経験
2Gyとし、約 5 週間かけて行う方法が施行されて
的に行われており、事実上の標準となっている。
きたが、患者の時間的負担軽減のため、最近で
しかし、この照射法はその治療期間の長さのた
は1回線量を増量し、総治療期間の短縮を図る
め、患者にとって負担が大きいものであった。
寡分割全乳房照射に注目が集まっている。本稿で
こうしたなか、カナダや英国では患者の時間的
は、寡分割全乳房照射のエビデンスを紹介すると
負担を軽減し、利便性の向上を図ることを目的
ともに、国内外の乳癌放射線療法における寡分割
に、治療回数と総線量を減らして1 回線量を増や
全乳房照射の位置づけ、わが国の日常臨床に適
す寡分割全乳房照射が試みられるようになった。
応するうえでの課題等について考察する。
●寡分割全乳房照射のエビデンス
●寡分割全乳房照射という概念が
登場した背景
数の臨床試験が実施され、その効果が従来の標
早期乳癌に対する乳 房温存手術後の放射線
準照射に劣らないことが確認されている。
寡分割全乳房照射の有用性を検証するため複
療法は、温存乳房内再発を減少させるほか、最
カナダでは、寡分割全乳房照射(42.5Gy/16 回/
近では生存率向上に寄与しうることも示唆されて
22日)
と標準照射(50Gy/25 回 /35日)
の無作為化
図 1 寡分割全乳房照射群の10 年局所再発率と10年生存率(海外データ)
A:局所再発率
(%)
10
標準照射群
9
寡分割全乳房照射群
8
6.7%
7
局
所
再
発
率
6
6.2%
5
4
3
2
1
0
0
1
2
3
4
612
622
597
609
578
592
562
569
550
548
症例数
標準照射群
寡分割全乳房照射群
B:生存率
5
6
7
8
ランダム化からの期間
553
524
499
500
485
472
470
447
9
10
11
12 (年)
449
430
410
406
317
330
218
214
9
10
11
12 (年)
487
482
453
455
355
369
242
241
(%)
100
90
生 80
存 70
率
60
標準照射群
寡分割全乳房照射群
50
0
0
1
2
3
4
612
622
606
617
594
605
583
592
573
576
症例数
標準照射群
寡分割全乳房照射群
5
6
7
8
ランダム化からの期間
559
562
535
539
519
517
505
495
(文献 2 より引用)
6
乳癌診療
TIPS & TRAPS
比較試験が行われ、10 年局所再発率は標準照
図 2 JCOG 0906 の試験概要および照射方法
射 群が 6.7%、寡分割全乳 房照射群では 6.2%
(図 1A)
、10 年生存率はそれぞれ 84.4%、84.6%
*1
(図 1B)
、10 年時点で整容性 が良好であった割
合はそれぞれ 71.3%、69.8%といずれも差を認め
なかった 2)
。また、英国で行われた無作為化比較試
乳房温存術後
臨床腫瘍径3cm以下・浸潤癌・
切除断端に癌細胞の露出がない・
腋窩リンパ節転移個数が3個以下
験 START-A 3)では、50Gy/25 回/5週、41.6Gy/13
化学療法
回 /5 週、39Gy/13 回 /5 週の 3 群間で 5 年局所再
発率に差を認めず、晩期有害事象は 50Gy/25 回 /
登録
5 週に比べ 39Gy/13 回 /5 週で低頻度であった。
4)
短期全乳房照射
START-B では、5 年局所再発率に差を認めなかっ
たものの短期照射群のほうが良好であり、晩期
有害事象、整容性はともに差を認めなかった。
ホルモン療法/
トラスツズマブ療法
ブースト照射(10.64Gy/4分割/4日間)
※病理組織診断による切除断端近接例
(切除断端距離5mm以下)に対しては
腫瘍床へブースト照射を行う。
【線源】
残存乳房接線照射:6MV 以下のX線。
●海外における寡分割全乳房照射の位置づけ
カナダや英国で示された寡分割全乳房照射のエ
【分割照射方法】
残存乳房照射(42.56Gy/16分割/22日間)
50Gy/25 回 /5 週と40Gy/15 回 /3 週を比 較した
経過観察/遅発性有害反応の評価
ブースト照射:6MeV以上 13MeV以下の電子
線、あるいは6MV以下のX線。
ビデンスを受け、米国放射線腫瘍学会(American
Society for Radiation Oncology : ASTRO)
のガイ
(Japan Clinical Oncology Group(日本臨床腫瘍研究グループ)放射線治療グループ.乳房温存療法の術後照射にお
ける短期全乳房照射法の安全性に関する多施設共同試験実施計画書 ver1.2 http://www.jcog.jpより引用 , 一部作図)
ドライン5)では、寡分割全乳房照射において従来
の照射と同等の有用性が得られるクライテリアとし
て「50 歳以上」
、
「温存手術後の pT1-2N0」
、
「全身
可能性もあり、それに伴う有害事象の増強の有無
*1
化学療法を行っていない」
、
「中心軸平面での線量
については日本人を対象とした独自の検証が必要
整容性
均一性が± 7%以内」などを明示した。同ガイドラ
と考えられる。
インでは、上記以外の症例でも寡分割全乳房照
このような背景から、現在わが国では『乳房温
射が禁忌として取り扱われるべきではないとして
存療法の術後照射における短期全乳房照射法の
いる。
安全性に関する多施設共同試験」
(JCOG 0906)
』
(研究代表者:加賀美芳和 昭和大学病院放射線
●わが国における寡分割全乳房照射の位置づけ
治療科)
が進行中である。浸潤性乳癌の乳房温存
一方、わが国において寡分割全乳房照射はど
手術後で切除断端に癌細胞の露出がない患者を
手術後の乳房の形態をいか
に手術前と同じように保てる
かということ。乳房温存療法
では、根治性とともに整容性
の確保が重要視され、適応
の慎重な評価が求められる。
のような位置づけにあるのだろうか。2013 年 6月
対象とし、全乳房照射42.56 Gy/16 分割 /22日間
に改訂された『科学的根拠に基づく乳癌診療ガ
(断端近接例では腫瘍床へのブースト照射 10.64
イドライン①治療 編 2013 年版』では、これまで
Gy/4 分割 /4日間)
の安全性を確認する
(図 2)
。プ
*2
コクラン・レビュー
の知見に基づき、患者選択や心臓などへの線量
ライマリーエンドポイントは、3 年遅発性有害反応
に注意したうえで、寡分割全乳房照射も推奨もし
発生割合(グレード2 以上)
、セカンダリーエンドポイ
くは許容しうる方法であるとの見解を示している。
ントは全生存期間、無病生存期間、患側乳房内
具 体 的 には 「50 歳 以 上、乳 房 温 存 手 術 後 の
無再発生存期間などである。症例登録は 2012 年
pT1-2N0、全身化学療法を行っていない、線量
8月に 312 例となり登録を終了した。今後、日本人
均一性が保てる患者」に対し、推奨グレード B で
における寡分割全乳房照射の安全性が確認され、
勧められているほか、「上記以外の患者には、心
日常臨床に広く適応されるようになれば、患者の
臓等への線量に留意し、細心の注意のもと行う
精神的、時間的負担の軽減とともに、施設や医
ことを考慮してもよい」としている。
EBM の実践を目的として、
エビデンスの整理・管理を
組織的に行っているプロジェ
クト コクラン共同計画
に よるシステマティック・
レビュー。方法論が厳密に
定義・確立されているため
質の高さに定評がある。
療スタッフの負担も軽減し医療資源をさらに有効
に活用できるという利点も期待される。
●今後の課題―安全性の検討
寡分割全乳房照射の安全性は、今後の検討課
題の1つである。カナダや英国で実施された試験
*2
を対象にしたコクラン・レビュー では、選択され
た症例に対する寡分割全乳房照射は局所再発に
参考文献
影響せず急性期有害事象を低減しうるが、最終
1)Early Breast Cancer Trialists Collaborative Group(EBCTCG)
.
Lancet 378(9804): 1707-16, 2011
2)Whelan TJ et al. N Engl J Med 362(6): 513-20, 2010
3)START Trialists Group. Lancet Oncol 9(4): 331-41, 2008
4)START Trialists Group. Lancet 371(9618): 1098-107, 2008
5)Smith BD et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys 81(1): 59-68, 2011
6)James ML et al. Cochrane Database Syst Rev 2010 (
; 11): CD003860
的な評価にはより長期の経過観察が必要と結論
している 6)。また、寡分割全乳房照射を日本人に
適応する場合には、乳房の形や大きさが西洋人と
異なるため、皮膚・皮下組織の線量が大きくなる
7