糖尿病患者のdrop out - 長崎県医師会

糖尿 病センターの役割(4)
- 糖尿病患者の d ro p
out
表1
通院中 断例 の定義… 3 ヶ月 を超えても受診
しな い例。
医療法人 光晴会病院
三宅清兵衛
糖尿病センター
世羅 廉徳
二△
赤澤
村田 芙美
糖尿病センター
成末まさみ
岩本 英子
村瀬 由佳
大坪 俊夫
1 ) 死亡
2 ) 転区 (診療情報提供書あり)
3 ) 3 ケ月以上の予約
現長崎大学病院内分泌代謝内科
現長崎大学病院内分泌代謝内科
薬剤料
薬剤科
4 ) 不規則な受診
5 ) d ro p ou t (診療情報提供書なし)
糖尿病センター
(2) d ro p o u t した糖尿病患者の特徴
腎 セ ンタ ー
表 2 に通院を中止した患者の治療と中断の理由
を一 括 して示 した。 治療別 で は 食事 単独 (85 例
糖 尿病 の 診療 において、 しば いま d rop ou t (去
る、 離れる、 脱落する、 退会 する コ ンサ イ ス 英
和辞典
三 省 堂 ) が 問 題 と な る。 d ro p ou t した患
者の中から合併症が多発することも明らかにされ
45 ,0 % )、 経 口 血 糖 降 下 薬 (75 例 30 7 % )、
イ ンスリ ン (22 例 11 .6 % )、 経口血糖 降下薬 +
イ ンス リ ン (5 例
2 .6 % ) の 順 で あ っ た。 中 断
注目され、 昨年度の日本糖尿病学会九州地方会で
した理由が死亡 2 2 例、 転 医、 すなわち 逆紹介 62
例、 不 規則 受診 3 6 例、 長期 処 方 2 例、 そ れに所
は テ ー マ の ひ と つ に 取 り 上 げ ら れ て い た。 県 内 の
謂 d rop ou t は 6 5 例 で あ っ た。
糖尿病患者は予備群も含めて 21 25 万人に達す
最も外来で診療の機会が多い糖尿病のタイプは
ると推定されている。 うち約半数が、 たとえ健診
で早期 に発見 されても自覚症状 がないのでそのま
ま放置さ れている。 今回糖尿病センター発足 4 年
2 型 (肥満) 糖尿病である。 過 ・美食と運動不足
により招来された肥満が原因となった代表的な生
活習慣病である。 当然、 治療は食事と運動療法が
を 経 過 した の で 当 セ ン タ ー に お け る d ro p o u t の 実
中心である。
状を調査 し、 検討を加 え てみた。 さらに癌 と d rop
o u t に つ い て も 触 れ て み る。
特徴は肥満、 仮に現在肥満がなくても既往に有
し、 ほ と ん ど 症 状 は な い。 生 涯 治 ら な い、 お い し
いものは食べられないそう です ね、 と否定的。 歩
(1) 糖尿病セ ンターの患 者動態
平成 l8 年 4 月 セ ンター が発足、 その 時点 で糖
表2
通院中断例の中断理由
尿病 と して診療 していた患者、 さらにそれ以降、
総数
総
数
平成 22 年 3 月 迄 に登録を した患 者 424 例 につ い
て 調 査 した。 そ の 結 果 235 例 が継 続 通 院。 残 る
死亡
18 9 例 が 通 院 を 中 断 し て い た。 な お、 d ro p o u t と
転区
は表 員と示す 通院中断例を 5 区分 したその ひとつ
(診療情報
提供書あり)
で あ る。
経
食事 血口
糖
糊暴
療法
降
インスリン
イン
ス
療
法
リン
療
法
ンイ
ン
ス
ン
リ
裂
き
十軽口自聽降下薬
療
法
下薬
22
9
8
2
3
62
8
42
12
0
2
1
1
0
0
36
30
3
3
0
(診療情報
提供害ない
65
37
21
5
2
計
187
85
75
22
5
3ケ月以上
の予約
不規則な
受診
d ro p o u t
42
長崎県医師会報 第785号 平成23年 6 月
くよう に と言うと暇がないと答える。 原則と して
(3) 癌の見逃し
3 ヶ月 に 1 回 受診、 血糖、 H bA 1 c を 測 定す
数 は 少 な い が d ro p ou t のなかに癌の見逃 しがあ
る。 受診 後 6 ヶ 月 位 は血糖、 H bA 1 c の 変動に主
治医とともに一喜一憂する が、 次第 に血糖、 H bA
る。 この 経験は思い出す だ けで辛い。 今回の集計
1
1 c の変動も高い レベル で固定 してくる。 更 に 期
日が経過すると医師、 患者の関係も苦痛になるこ
ともある。 この点 「完全に治りました」、 「もう受
と関係はないが記憶に残る症例をまず記す。 症例
中年、女性、糖尿病のため通院、血糖コ ントロー
ルは良好、 定期的に受診 してい た。 とこ ろ が何の
診 しなくても良いです」 と言っ てみたい、 と感 じ
連絡もなく通院しなくなった。 数日後、 突然先輩
の先生より 「彼女は癌の脳内転移がある」 との電
る よ う に な る と d ro p o u t が 頭 を よ ぎる。 経 験 的 に
は H b A 1 0 良 (5 .8 %
6 .5 % ) が 多 い 健 診 か ら の
話をいただいた。 驚 きな がら何故 C T 撮影 を した
のか 連絡を したが教えていただけなかっ た。 この
紹介、 働き盛り壮年、 アルコ ール多飲者等 が要注
例は先輩の先生よ り連絡 がなけれ ば d ro p ou t と 分
意 で あ る。
類 したであろう。
こ こ で 気 付 く こ と は d ro p o u t 例 の 内 容 で あ る。
強いて分類するとの理解 しがたい - 医師 ・ ,患者の
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン は 良 好 と 思 わ れ た が、 何 の 前
今回の集計では 2 2 例の死亡例 があ っ た がここ
に提示 する 2 例 も 同 様 で ある。 症 例 1、 76 才、
男性 2 型糖尿病のためイ ンスリン治療を受けて い
う な症例である。 (2)理由がわからない - 医師 ・ 患
た。 低 血糖のため近くの病院 に緊 急 入院。 ここ で
大腸 癌 を 発 見 さ れる。 症 例 2、 85 才、 女 性 2 型
者の関係が成立する前に受診しなくなる。 健診か
糖尿病のための経 口剤 を服 用。 急に食欲不振、 便
らの紹介な どに多い。 再度受診を期待することは
秘が出現。 腹部エコー にて悪性リ ンパ腫が疑われ、
なかなか難しい。
注 目す べきこ と は意外 に死 亡 例 が多いこ と で
その後診断された。 2 例とも定期的に受診。 最終
ぶ れもなく突然来院しなくなっ た。 表 3 に示すよ
あ っ た。 こ の 点 に つ い て は 次 に 述 べ る。
受診時、 何ら癌を示唆する症状はなかっ た。 両症
例とも連絡がなければ d rop ou t に 分 類 して い た と
思う。 糖尿病を診療する際、 常に癌を念頭に置く
表3
が、 なお見逃す。
糖尿病と癌の合併は古く から注目をされていた。
理解できない通院中断例
症例 : ○ . N 51 才
が先行。
男性 メタポリツク症候群
後者の場合成長因子と して のイ ンスリ ンの作用 が
49 才健診にて糖尿病。 今回再度健診にて
H bA 1 c 9 .8 % 、 体 重 88 .6 kg、 血 圧 160 /
90 1n i m H g 食事 .運動療法を指導。
2 ヶ月 間 受診 した が、 以後 受診 せ ず。 こ の
間、 新聞紙 上 で肥 満、 特 にメ タ ボの危 険を
説く。
症 例 : H . H 49 才
が先行。
膵癌のほか肥満糖尿病に癌の合併が多く見られ、
男性 メタポリ ック症候群
重視 さ れ てい た。 3 年前の第 45 回 欧州糖尿病学
会 (200 9 . 9 .29
10 , 2 ) に て 一 部 の 特 効 型 イ ン
スリンの使用者に癌の発生 が多い と いう報告があ
り、 その腫瘍増殖作用 について熱心に討議さ れた。
腫瘍増殖作用は否定されたが糖尿病と癌の合併が
ク ロ ー ズ ア ッ プ さ れ た。
表 4 は 2006 年厚生労働省研究班による多目的
今回健診にて糖尿病を発見される。
コホー トの成績である。 糖尿病の人は糖尿病 のな
H b A 1 c 11 . 9 % 、体重 87 kg、遺 伝 歴 母親 ( + )
食 事 ・ 運 動 療 法 に て H bA 1 c は 6 ヶ 月 後
6 .6 % に改善。 しかし以後は漸増、 2 年後
い人に比 べ て 20
7 .3 %
台固定。 以後受診せず。
30 % 痛 になり易 いこと が示 さ
れている。 高齢にな ればこ の傾 向は更に顕著にな
る だろう。 高齢の糖尿病患者において癌の合併 に
は細心の注意が必要である。
両人はそれぞれ新聞社、 製薬会社に勤務し、 メタ
ボ治療 の必要性 は熟知 して いる 筈 で ある。
しか し突然 d ro p o u t した。
長崎県医師会報 第785号 平成23年 6月
表4
は容易 なことではない。 食 習慣の改善を目標 と し
糖尿病とその後のがん罹患
て食育基本法が判定されたが糖尿病の発症が減る
(厚生省研究班多目的二 1 ホート研究 20“)
気配はない。
糖尿病の治療に教育の重要性が書かれていたが、
大学病院でさえ、 担当の栄養士もおらず、 指導室
男 性 : 1 .27 倍
肝 が ん : 2 24 倍
腎 がん : 1 .92 倍
もなかっ た。 しか し患者は定期的 に受診 し、 d rop
膵 が ん : 1 ,85 倍
結 腸 がん : 1 .36 倍
ou t と いう言葉すらな か っ た。 こ の 時代糖尿 病患
者は少なく、 糖尿病に優 しい時代であ っ たと 言え
胃がん は .23 倍 (有意差なし)
る。 現在ではその何十倍にも患者は増えた が、 数
女性 : 1 .21 倍
肝 が ん ; 1 .94 倍
少ない専門医 (県内 40 名足らず) が医学的治療
に加えて俗悪な生活習慣を改善すべく最大の努力
胃 が ん : 1 .6 1 倍
を している。 チーム医療と言う が、 糖尿病を習得
卵巣がん : 2 .42 倍 (有意差なし)
した看護師、 薬剤師、 管理栄養士があまりにも少
糖尿病既往ありの人では、 糖尿病既往なしの人に
比べ、 20
な い。
外来には患者が押しかけ、 新患が一人増えると
30 % が んに なりやす い。
一 人 d ro p ou t す る
。 こ の よ う な 状 況 で は d ro p ou t
というより、 専門医不在の無医村に近い状況が頭
回 対策として
に浮かぶ。 糖尿病患者は年々増加 しているの で、
厚労省が重要項目とした 4 疾病 (糖尿病、 脳梗
塞、 心筋梗塞、 癌) のうち、 癌を除く 3 疾病は血
その対策として日本糖尿病学会、 日本糖尿病協会
日本医師会が糖尿病対策推進会議を立ち上げ活動
管の病気、 一 言で言 え ば全身の血管 がボロボロに
を開始 した。 糖尿病協会も変革 しつつある が、 こ
なる共通した点を持つ。 周知の網膜症 (失明)、
腎症 (透析)、 神経障害 (壊疽) は細小血管が、
脳卒中、 心筋梗塞は大きい血管の障害である。 前
れらは短的に言え ば d rop ou t を阻止 し、 未治療の
まま放置された患者を診療の場に呼び戻すためで
ある。 長崎県の取り組みを図 並と示 した。
者は緩徐に進行するのに反
し後者は突如発症する。 前
図1
者 に d ro p o ut は 少 な い が 後
病状f
こ庖じに
者には多い。 中壮年の恰幅
の良い男 性である。 彼等 が
医療連携体制
脳卒中や心筋梗塞のため入
ノ
院 し て 悔 い る こ と は d ro p
outしみもちであ 丸 池
餐薩 ぬ“ ,
覇
したことに異論 はないが生
部
険制度のなかで指導するの
44
費指導
t 特定保健指導 J
一 般 医
日
も 糖尿病を生活習慣病と
足 (マイ カー ) を現在 の保
特定健診
雲医鎌
糖尿病
惣解を
蕃
奨
翼
何と叡 窪いか努幾な 轤
“
活習慣、 生活習慣病を誰が
長崎県糖尿病医療連携体制
洲多
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‐新 増 者韶介
き 幾 の安定
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糖尿病連携医
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ゲ
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‐散 月毎 ; した
年f回の ( ・逆紹介
定期受診 ミ
(長崎掾福祉保隠部 医鏡政策課撻尿病検討委員会)
鰐 県バG
長崎県医師会報
第 776号 平成 22 年 9月 30 頁 (文献 5 より)
長崎県医師会報 第785号 平成23年 6月
おわりに
糖 尿 病 患 者 の d ro p ou t に つ い て 考 え て み た。
d ro p o u t、 d ro p o u t と い う が、 糖 尿 病 の 患 者 の 激 増
に対 し、 診療者側の整備、 とく に専 門医が少ない。
した患者に加え多数の未治療患
者が存在する、 憂慮すべき事態である。 数は少な
県 内 で は d ro p
out
い が d ro p o u t と思 っ て 分 類 して い た 症 例 が 他 の 病
馬場亮一、 杉本悠花、 岡田昌之、 杉浦まな み、
成来まさみ、 村田実美、 世羅康徳、
三宅清兵衛
第 48 回日本糖尿病学会九州地方会
H 22 . 9 . 13
別府
3 ) 1 年間の初診患者の通院中断と初診問診票に
よる患者背景調査
院 で 癌 で 死 亡 して い た こ と、 し か も 一 人 で は な い。
鵜久森芳美、 田中信代、 若林知子、
追跡調査 の 重要性を指摘 しておきたい。
伊藤ちよ子、 大工園育恵、 岩岡由佳、
山内幹朝、 山本律子、 前田 一、 平尾節子、
文 献
平尾紘 - 、 糖尿病 53 (supp l) 14 7
1 ) 当院糖尿病センターにおけ る患者動態一特に
4 ) N o e v id e n ce o f m d e a se d l1sk o f m a lig n al1cles m
治療中 断者について
p a tie n ts W ith d ia b etes tre a te d
世羅廉徳、 村田英美、 中村麻美、 三宅清兵衛
第 48 回日本糖尿病学会九州地方会
a m e t a a n a ly s is A .D e ig aard
H 22 . 9 . 13
別府
2010
き生きな・o g sg a ard
T h o m se n
W ith in su 1il1 d e te n道r:
H .L y l1g g a ard J R a s ta n 1
D ia b e to lo g ia 5 2 : 2 5 0 7‐
25 12 2 009
2 ) 糖尿病患者の服薬指導 - 特に経口血糖降下剤
を服薬中の患者 について
岩本英子、 永田梨紗、 陣 内咲絵、 水 町信一郎、
5 ) 長崎県糖尿病医療連携
長崎県医師会常任理事 赤司文廣
長崎県医師会報 776 号
長崎県医師会報 第785号 平成23年 6月
H 2 2 . 92 9‐32 P
45